「マルチの話」・「了承学園」   外伝      「マルチの話」   in    「了承学園」                               くのうなおき
           第1話   門を抜けたらそこは・・・・・・・    「やっぱり、平日だと遊園地も空いているよね?」  大学生という立場は、平日に休みをとっても差し障りの無い都合がよいものである。  平日を利用して、遊園地でたくさん遊んだ帰り道、あかりは満足感も一杯に、浩之に笑いかけた。  「ああ、乗り物に乗る時も並ばずに、何度も乗れるんだけどな・・・・・。」  「・・・・?どうかしたんですか、浩之さん?」  少しトーンの下がった浩之の口ぶりにマルチが怪訝な顔をして聞いた。  「メリーゴーランドの白馬に6回も乗せられて、しかもあかりとマルチが 変わりばんこにしがみつかれるのは、さすがに・・・・・・・、恥ずかしいぞ。」  少しげんなりした表情で浩之が答えた。  「ええ〜?でも、わたし達が『一緒に乗ろうよ〜』って言ったとき、浩之ちゃん 嬉しそうな顔をして『いいぜ』って言ってくれたんだよ〜。」  「そうです、そうです〜浩之さんとっても嬉しそうに言ってました。」  マルチも、あかりに同意するように言った。  「・・・・・そりゃ、一回ずつなら一緒に乗るのも楽しいけどよー、6回、それも ぎゅうってしがみつかれるのは・・・・、人目について恥ずかしいぞ・・・・。」  二人の抗議に、浩之はたじたじになりながら、懸命に弁解した。    そんな、浩之にあかりはちょっと拗ねた顔をして言った。    「ふ〜んだ、そんな事言うんだったら、もう浩之ちゃんと一緒に何も乗らない からね。」  「ちょ・・・、ちょっと待て!何もお前やマルチと一緒に、乗り物に乗りたくない わけじゃないんだ!!た・・・・、ただなあ・・・・・。」  あかりは拗ねた顔から一転、満面の笑みを浮かべて浩之の腕を抱いた。  「うふふっ、冗談だよ。でも、今度からは一回だけで我慢してあげるね。 ねっ、マルチちゃん?」  「はい!我慢します!」  と言ってマルチも浩之の腕にしがみついた。  「はあ〜・・・・・」  愛されている嬉しさ、人目につく恥ずかしさ、相半ばする気持ちを浩之はため息で吐き出した。  そんな浩之を、二人は優しい目でみつめながら、体を密着させ、帰り道を 歩いて行った。幾度となくくりかえされ、そのたびに幸せを実感する「日常」的なやりとり であった。  特別変わった事もなく、穏やかに過ぎて行く浩之達の「日常」、確かに、その日その日には色々な 人達と織り成すドラマがあるが、それは決して浩之達の「常識」を逸脱することのない、「日常」の 一コマである。決して「非日常」とはならない。その人の常識の中で進む日々、それが日常。  しかし、もし彼等の前に突然「非日常」なものがあらわれたとしたら?  その「非日常」な空間を「日常」とする者達と出会ったとしたら?    ・・・・・・・その「非日常」は既に、浩之達を待ち構えていた・・・・・・・・・。  「何だコリャ・・・・・・・・?」  浩之達は、家の前に建っている白い壁のような物を茫然としながら見ていた。  その物体は二つあり、まるで門のように浩之の家の前に建っていた。片側に 「私立了承学園」と銘打ってある、どうやら校門のようなのだが、何故ここになければ ならないのか、3人には全く理解できなかった。  更におかしなことに、門を成しているそれぞれの壁の端はぼやけていた。  「朝、出かける時はこんなものなかったのにね・・・・・。」  「『了承学園』さんの落し物・・・・・じゃないですよね・・・・・・。」    あかりもマルチもそんな事ぐらいしか言う事ができなかった。    「・・・・・、とにかく後で役所に連絡して対処してもらうしかないよな・・・・・。」  「そうだね・・・・・。」  「う〜ん、それしか思いつきませ〜ん」    とりあえず一旦結論付けて、浩之達は門を抜けて、玄関に向かおうとした。その時!!  眼前にあった浩之達の家がぐにゃりとゆがんだと思うと、その次の瞬間そこには八階建て 位と思われる、白いビル・・・・・いや校舎がそびえたっていた。校舎は一つだけでなく、視界 に入るだけでも10はあろうか、そして、校庭と思われる、芝草と木々の織り成す風景は無限 と思われるくらい、果てまで広がっていた。  「何なんだよ、ここは・・・・・・・・・。」  「夢・・・・じゃないよね・・・・・・?」  「うわあ〜〜〜、とっても広いです〜〜〜〜」  茫然と、その光景を見つめている3人の頭上にばさばさと羽ばたく音がした。  浩之達が見上げたその先には、黒く大きな羽を羽ばたかせた「魔物」としか 表現できない、生物が5匹いた。  「・・・・・・・」  そしてそいつらは何故か、警備服を着ていた。「魔物」のようなその姿にガードマン のような服装、浩之達はただ、その異様な姿に逃げることすら忘れ、茫然と見つめていた。  その「魔物」、ラルヴァ達は急に消失した了承学園正門の現場確認に向かっていた。  検問所にいた青ラルヴァの話によると、突然、正門の通り口部分がぐにゃりと歪んだと 思うと、そこだけ消えてしまったということだった。運良く検問所内にいた2匹の青ラルヴァ は、すぐに警備センターに駆け込んだ。  「突然、正門ガ消エタンダ、ビックリシタゼエ!」  「今、中央設備管理所デ原因ヲサグッテイルヨウダ、サテライトシステムモ、一時使用不能 ニナッタラシイ、シカシ、検問所マデ被害ガオヨバナクテ良カッタナ。」  「チョウド、室内座哨ノ時間ダッタカラ助カッタワ、下手シタラ巻キコマレテイタカモシンネエ。」  「シカシ、現場カラ退避シタコトヲ秋子様ハ許シテクレルダロウカ?」  「警備員ハ無理ナ行動ハセズ、危険ガセマッタラ逃ゲルコトト言レテイルデハナイカ?無理ヲ サセテ人的被害ガ発生スレバ雇主ノ責任問題ニナルノダゾ?」  「デモソレッテ、人間ノ警備会社ノ規則ジャナイノカ?ココハ了承学園ダゾ。」  「・・・・・・・・・(汗)、侵入者ガイナイコトヲ祈ロウゼ、ソウスレバゴマカシガキク。」  「アッ・・・・・!!正門ガ元ニモドッテルゾ!!」  「オオ、本当ダ・・・・、・・・・・・!?オイ!侵入者ガイルゾ!」  「チッ!ドサクサニマギレヤガッテ、コノ『カーペンター陣十郎』サマノ名ニカケテ断固トシテ 排除シテクレル!」  「何ダヨ、ソノ変ナ名前ハ?」  「チッチッチッ・・・・、芹香サンガツケテクレタ、ラッキーネームヲ馬鹿ニシタライカンゼ」  「モウチョット良イ名前ニシテモラエヨ・・・・・・」  「ソンナコトヨリ目標ヲ包囲シロ!絶対ニ先ニススマセルナ!」    「ひ、浩之ちゃん・・・・・こっちに向かってくるよ!」  「わたし達を捕まえるんでしょうか・・・・・?」    あかりとマルチが浩之の両腕に震えながらしがみついた、正直浩之も近づいてくる 生物の異様さとそいつらの発する気の前に足が震える寸前だった。  人間相手ならまだしも、あの不可解な生き物と戦って勝てる自信はなかった、せめて なにか武器でもあれば・・・・・、浩之は迫り来る恐怖を前に何も手建ての無いこの状況 を呪いたくなった。  『とにかく、この二人だけは何としても逃がさないと・・・・・・。』  「魔物」は浩之達を取り囲むように舞い降りてきた。  「いいか・・・・・、俺がいいって言うまで絶対に離れるんじゃないぞ」  「うん、分かった」  「わかりました、絶対はなれません。」  『お前達だけは絶対に守るから・・・・・・・。』  そう、覚悟をきめた浩之の腕をあかりとマルチは両方からくいくいっと引張った。  「ん?どうしたんだ?」  「浩之ちゃん・・・・・、逃げるときは3人一緒だよ・・・・・。」  「一人だけで無茶をなさらないでください・・・・・。」  「あかり・・・・、マルチ・・・・・・。」  その時、浩之達のやりとりを邪魔するように、「魔物」が叫んだ。  「ソコノ3人ノ人間ニ告グ!ココハ関係者以外立入リ禁止ニナッテイル!用ナクバ スグニ立去レ!!」  「コラ、陣十郎!イキナリ恫喝スルヨウニイウナ!最初ハ丁寧ナ言葉ヅカイデイケト ガディム様モ言ッテイルダロウガ!」  「『カーペンター陣十郎』トフルネームヨバネーカ!・・・・コホン、エ〜、ココハ関係者 以外立入リ禁止トナッテオリマス。御用ガアル場合ハ用件ト、ソノ相手ノ御名前ヲ オッシャッテクダサイ、ッテ・・・・・・アレ?浩之サントアカリサントマルチチャンジャナイカ!?」  「「「はあ!?」」」  日本語で話しだした「魔物」に驚いていた浩之達だったが、その「魔物」が自分 達を知っていることに更に仰天してしまった。  「・・…お前らを俺達は知らねーぞ・・・・・・・・」  「そうだよ、全然知らないよ。」  「初めてお目にかかります〜。」    「ナ、ナニヲ言ッテルンデスカ、3人トモ、今朝ミナサント会ッテ『オハヨーゴザイマース』 ッテ挨拶シテクレタジャナイデスカ?ソレトモコンナラルヴァ風情ナド覚エテオク価値モナイ トデモイウンデスカ・・・・・・オヨヨヨ・・・・・・・・。」  「うわ・・・・、これって泣いてるのか・・・・?」  「どうもそう見えるよね・・・・・。」  「なにか可哀想に見えます〜。」  先ほどまでの、命がかかった緊迫感などすっかり消えうせ、唖然として『カーペンター陣十郎』 なる「魔物」を見つめている浩之達だった。  「アレ!ヨク見ルトナンカ違ウゾ、コノ3人!」  別の「魔物」が叫んだ。  「ナンダト!?」  「確カニ浩之サン、アカリサン、ニハ似テイルガ、コノ二人ハ違ウ、浩之サンニシテハ背ガ 一回リ高イシ、顔ガオトナビテイル、アカリサンモ顔ガオトナッポイシ、髪モ長イ、ソレニ胸モ・・・。」  「ヤメロー!!ソレハアカリサンニ対シテ失礼ダゾー!!」  「オマエ、浩之サンニ殺サレタイノカ!?」  「ウ・・・ソレハイヤダ!・・・トニカクコノ二人ハ浩之サン、アカリサンジャナイ。マルチチャンハ ・・・・本物ミタイダガ・・・・・。」  「あのなー、俺は正真正銘藤田浩之だ!何が違うだと?」  「わたしも・・・・・・・・藤田あかりだよ・・・・・きゃっ、まだこの名前照れちゃうよぉ〜〜〜・・・・・や〜ん」  「あのなあ・・・・・・・・」  突然「いやんいやんモード」に入るあかりに呆れてしまう浩之だった。  「エ・・・・?藤田アカリ・・・・デスカ?ジャア、ヤッパリ違イマス。本物ノアカリサンハマダ 神岸アカリサンデスカラ・・・・浩之サンノ年齢ノ都合上マダ入籍ハシテイナイハズ・・・・。」  「あの〜、さっきから本物とかおっしゃっていますけど、ここに他の浩之さんやあかりさんが おられるんでしょうか?」  マルチの質問に皆が動きを止めた。  「・・・・・・・そうだな、俺達はここにくるのは初めてだし、なのにこいつらは俺やあかりを知っている、それが 俺達じゃないとすれば・・・・、別の俺達がいるということだ。」  「浩之ちゃん・・・・、それってもしかして・・・・・」  「どうやら、異世界に迷い込んじまったとしか言いようがねえ・・・・、平行世界かな・・・? 認めたくねーけど、どうやらこれは現実らしい・・・・・・。」  「もう一つのわたし達の世界・・・・・?」  「この学校みたいな所にいるんでしょうか?」    「あの・・・・御三方、よろしいでしょうか・・・・・・?」  「アッ!ガ、ガディム教頭!!」  急にびしっと直立不動になる「魔物」達に訝しく思いながらも、声のした方向に 顔を向けた浩之だったが、そこにあったのは・・・・。   「「「−−−−−−−−−−!!」」」  「あ、あの〜私の格好そんなに可笑しいですか・・・・・・?」  目を見開いて絶句する浩之達に了承学園教頭ガディムは少し悲しそうな表情を浮かべた。 しかし、これは浩之達をせめるのは酷というものだろう、食人鬼みたいな顔をしたごつい 体つきの、およそ人間とはかけはなれた風貌の化け物がきちっと背広を着て立っている 姿は、初めて見るものには絶句しか与えないものだ。  「い、いや・・・、おかしいというか、こういうの初めて見るからな・・・・・。」  「つい、驚いちゃった・・・・。」  「でも、決して馬鹿にはしてませんよ。」  慌てて釈明する浩之達だった。そのまま何もいわないでおくとこのガディム といわれる化け物は泣きだしてしまいそうだったからだった。  暴れると思わず、泣き出すと思うあたり、浩之達も少しこのような者達の 相手に慣れたようだった。    「い、いえ・・・、別にあなた達を責めているわけではないので・・・・、それよりも 今回はあなた方に多大なご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありません。」  「・・・・・・?あの「魔物」達に囲まれた事ですか?でも、彼等に悪意は無かったようですし、 俺達はかまいませんよ。」  「あ、彼等は『ラルヴァ』といいまして、この学園の警備を行っているものです。」  「やっぱりここは学校か・・・・・・。」  「浩之さん、あかりさんの通ってる大学よりずっと大きいです〜」  「ふふっ、そうだね。」  「あなた方にかけたご迷惑とは、私達の不注意であなた方をここに連れてきてしまった ことなんです、詳しい話は後程いたしますから。  あっ、私はこの了承学園の教頭を勤めていますガディムといいます、よろしくお願いします。」  その風体に似合わないうやうやしさでガディムは頭を下げた。  「オレは藤田浩之といいます、また別のオレがいるみたいですけどよろしくお願いします。」  「わたしは妻の・・・・・きゃん♪藤田・・・・・いやん♪・・・・あかりです、よろしくお願いします。」  「う゛〜〜〜あかりぃ〜〜〜〜・・・・」  「わたしは藤田マルチです〜、浩之さん、あかりさんのお世話になっています、よろしくお願いします。」    「さて、挨拶が終ったところで、理事長室へ参りましょう。秋子理事長があなた方をお待ちです。それじゃあ ラルヴァ達は所定の場所に戻るんだ。」  「ア、アノ〜〜〜ガディム教頭・・・・・・」  「秋子理事長には、大目にみてくれるよう頼むから。」  「ワカリマシタ〜〜〜〜〜」  去ってゆくラルヴァ達を見送って、浩之は聞いた。    「この学校は、人間が理事長なんですか?」  「そうですよ、われわれ魔物はそんなに多くありませんから、基本は人間の学校、もっとも少数ながら いろんな者がいますがね。」  「いろんな者?」  「おいおい分かりますよ。それじゃあ参りましょうか?」  と言って、校舎に正面を向けたガディムの背後で3人がずてん!とこけた音がした。  『生きてて良かった〜〜〜〜〜〜〜!!』  と心の中で涙を流し、歓喜にむせるガディムだった、そしてこけたままの浩之達に  「いやあ・・・、すっかり落ちぶれまして・・・・・・。」    と丸裸の体の後半分を見せながら、笑いかけた。    ・・・・・・そんなことで、生きている感動に震えるなよ・・・・・魔神がよ・・・・・・・               第一話      終             後書き  突発的、思いつき企画〜〜〜〜〜〜!!  「マルチの話」の3人を「了承学園」に入れて 他のキャラと絡ませてみたらどうなるかな〜? という、誠に個人的な理由でこのSSを書きました。  はっきりいって、私の勝手でかいたものです、 これをどう受け止めるかは読んでくれた方々 の自由、こんなの「了承」にいれられるか〜! 、と思うならばそれで良し、無視しちゃって結構です こんなのもいいな・・・と思ってくれた方、次回も ご期待ください(汗)  さて、次回、一体何が浩之達を待っているのでしょうか!?
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「うわ。なんか凄い展開になってるし」(^ ^; セリオ:「む、無茶しますねぇ」(;^_^A 綾香 :「これで、『了承学園』には、ふたりの浩之がいる事になったのね」(^ ^; セリオ:「そ、そうですね。まあ、あくまでも外伝という事らしいですけど……」(;^_^A 綾香 :「それにしても……思いっ切り騒動が起こりそうなシチュエーションね」 セリオ:「まったくです。      ただでさえ、騒動が起こりまくっている学園なのに」(;^_^A 綾香 :「これからどうなるか。今後に期待大ね!」(^^) セリオ:「わたしは、不安の方が大きいですけど」(;^_^A 綾香 :「まあまあ」(^ ^; セリオ:「ところで。わたしはどの世界のセリオなのでしょうか?      『了承』? 『たさい』? 『マルチの話』?」 綾香 :「そ・れ・は・ね」(^^) セリオ:「それは?」 綾香 :「『コメント』の世界のセリオよ」(^0^) セリオ:「は?」(−−; 綾香 :「だから、ここのセリオやあたしがどんなに設定等を知っていても、      本編には一切影響が無いのよ♪」(^0^) セリオ:「え? そうなんですか?」 綾香 :「そうよ。      ……そうじゃない時もあるけど(ぼそっ)」(−o−) セリオ:「いま……何か……言いました?」(−−) 綾香 :「ううん。なーんにも」(−−) セリオ:「……むー」(−−)



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