「マルチの話」・「私立了承学園」外伝           「マルチの話」  in  「了承学園」                            くのうなおき   --------------------------------------------------------------------------------       第3話    了承学園入学    「何かオレ達にできる仕事があるんですか?」  浩之達は、秋子の言葉を「用務員として働いて欲しい」という意味に受け取った。  それはそれでかまわなかった、いくら向こうの落ち度でこういう事態になったとは いえ、いたれり尽くせりのままでは、心苦しいものもあった。    だが秋子の答えは違っていた。  「いえ、そうではなくて・・・・、あなた方に『了承学園』の生徒として来て欲しいんです。」  「「「はあ・・・・?」」」  浩之達は思わず間の抜けた声をあげてしまった。  「あの、どうして生徒なんでしょうか?」  わけがわからない、という表情であかりが尋ねた。短期間しかいない者に何を勉強して 欲しいというのだろうか?それも、浩之達の世界とはおそらく教育体系も違うであろう 学校で。  「すいません、オレ達はこの学校が一体何を教えるところなのか、どんな授業をする所 なのか、さっぱりわからないんですよ、そこに生徒としていきなり入っても戸惑うだけだし 、 それにここにいる時間はそんなに長くはない、一体何を学んで欲しいんですか?」  秋子の意図が知りたかった、浩之達の疑問に思ったことぐらい、秋子だって分かって いるはずである。なのに、あえて浩之達に生徒で来て欲しいと言う事は、何か考えが あってのことであろう。  「いきなり何の説明も無しに話を切り出してしまって申し訳ありません。あなた方には 、ここで何かを勉強して欲しいというわけではないんです。この『了承学園』の生徒として 他の生徒、教師の皆さんと交流を深めて欲しい、ただそれだけでいいんです。」  「皆さんとお友達になってほしい、ということですね?」  マルチが嬉しそうに聞いた。未知の世界であろうが、新しい友人ができるということ は、マルチにとって、とても喜ばしいことであった。  「はい、簡単に言うとそうなんです。浩之さん、あかりさん、マルチちゃん、この『了承学園』 はですね、『夫婦』の為の学校なんですよ。」  「夫婦の為?」  「どちらかというと、これから夫婦になる方たちの方が多いんですけどね。・・・・・・・私達 の世界では、一年半前に『多夫多妻』が法律で認められたんです。」  「「「多夫多妻!!!!??」」」  今日何回目なのだろうか、浩之達はまたもや仰天の声をあげた。  「あの・・・・秋子さん、『多夫多妻』といいますと、一人の男の方にたくさんの女の方が お嫁さんになったりすることでしょうか?」  マルチがおずおずと聞いた。  「そうですよ、少子化対策と言う事を前提に認められたことなんですが・・・・、現状はというと、中々 うまくはいっていないんです、複数の方々を愛するということの重大さをろくに考えもせず、ただ 安直に結婚してしまい、失敗してしまうという家族が多くて、世間でも評判がいいわけではない んです。」  「確かに、安直にどうこうできるものではないですよね・・・・・。」    衝撃から立ち直った浩之が呟いた。如何に法律で認められようとも、最終的には本人の問題 なのである、そこに誠実な想いがなければうまくいくわけではないのだ。  浩之の呟きに呼応するかのように、秋子が身を乗り出しかねない勢いで、浩之の顔を覗き込む ように見て言った。  「だけど、皆が皆安直な考えで、あさましい欲望だけで、複数の人達と結婚しようとしているわけではない んです。愛し抜いているからこそ、皆を幸せにしたい、例え現実が厳しくともその想いを貫きとおしたい、そうい う方々も大勢いるのです!!私達はそういう方々のためにこの『了承学園』を設立したんです、夫婦の絆を 深めてもらう為に、家族の大切さを学んでもらうために!!」  途中から俄然熱を帯びた秋子の様子に目を丸くしながらも浩之達は、「多夫多妻」、「了承学園」に対する 秋子の意気込みが並々ならぬものであると言う事を感じた。  「勝手なお願いです、だけどあなた達にこの学校の皆さんと出会い、語り合って欲しいんです。そうすることに よって、お互いが何かをきっと得ることができる、そう思うの・・・・・。」  そして秋子はこぼれんばかりの笑みを浮かべた。  「せっかくの偶然の出会いを無駄にしたくはないんです。」  浩之達は顔を見合わせた、あかりもマルチも異存はなかった。偶然がもたらしたとはいえ、これは何かの縁 である、それをむざむざと捨て去ることはあまりにももったいないことであった。  同じ世界に同じ人間が二人いる事がどんな波乱を引き起こすかはわからない、だがそれ以上にその出会い によって得るものは大きい・・・・、浩之達はそう思った。  「オレ達3人、了承学園に入学させて頂きます。」  「短い間ですけど、よろしくお願いします。」    「お世話になります〜」  「了承」  間髪いれずの秋子の一言に浩之達はあっけにとられた。秋子はあわてて手を振った。  「あららら、すいません、つ、つい口癖で・・・・・。」  そんな秋子の様子に  『ひょっとして、ここの校名って大した意味も考えずにつけたんじゃあ・・・・』  と思う浩之だった。  「・・・・こほん・・・、浩之さん、あかりさん、マルチちゃん・・・・・、本当にありがとうございます。 短い間ですけど色々な人と出会い仲良くなってくださいね・・・・・・。  それで皆さんには明日からでも登校して欲しいと思うんですがよろしいでしょうか?」  「オレはそれでもいいんですが、あかり、マルチ、お前達はどうだ?」  「うん、わたしも、今からでもいいくらいだよ」  「わたしも、早く皆さんに会いたいですから良いです。」  浩之は苦笑して  「と、いうことですからオレ達はいつからでもかまいませんよ。」  「そうですか、良かったわ・・・・。あ、そうだ、あなた方の宿舎の準備ができるまで時間が 少しかかるから、その間校内を見て回ってみませんか?」  「え?いいんですか?」  「はい、大いに結構ですよ。そうね・・・・・・、あ、次の藤田家の授業は316号教室だから 会いに行ってみるといいわ。」  と言うと、秋子は「了承」と書かれた三枚のカード、校内案内図、先程ガディムが使って いたのと同じ物体転送機を浩之に渡した。  「このカードは通行証です、これがあれば生徒でなくても校内を自由にまわることができます、 そしてこれが転送機、ここのボタンで行きたい所を指定して、この赤いスイッチを入れれば、そこに 行く事ができますから、行きたい場所はこの案内図で検索してくださいね。」  「は、はい」  「本当ならわたしも同行したいんですけど、まだ用事が残っているので・・・・・、もし何か 困ったことがあったら、ここに戻ってきてくださいね。」  「分かりました。」  この時、秋子が無理してでも浩之達と同行していれば、何事も起こる事は無かったのだが ・・・・、この時点で秋子も、浩之達が突然藤田家クラスに現れたとしても、藤田家の面々なら 驚きつつも歓迎してくれるであろうと楽観視していた、確かにその「考え」は間違ってはいなかった。 だが、思わぬ突発的な出来事が一騒動巻き起こすこととなる。  しかし、この時点で秋子も、浩之達もそれを知る由は無かった。  「それじゃあ、行ってきます。」  「回り終わったら、またここに戻ってきてくださいね。」  「「「わかりました〜」」」    浩之達が理事長室を出て行くと、それまで黙っていたガディムが  「あ、あのう・・・・・」  と遠慮がちに声をかけた。  「今回の正門消失の件で、ラルヴァ達が逃げ出したことについてですが、やむを得ない事情 と言う事で、穏便にできませんでしょうか・・・?」  「ええ、その事につきましては、一切を不問にします。職務を放棄したわけではないし、緊急時 における退避を責めてはいけませんから・・・・・・・、それよりも・・・・」  秋子の顔は笑顔のままだったが、ガディムには、その笑顔に慄然とした!  『ま、まさか・・・・・?』  「な、なんでしょうか・・・?」    「お客様にお尻を見せて喜ぶというのは、いけませんね?」  『やっぱり、知ってましたか〜〜〜〜〜〜〜!!』  悄然とうなだれるガディムの前に、秋子はジャムの詰まった瓶を持ってきた。    「おいたはいけませんよ」  にっこりと笑顔のままの秋子に何も言えず、ガディムはジャムをスプーンですくった。  『ううっ・・・・・、あいかわらずの味・・・・・、いつも食べるたびに思うんだけど、一体何を 材料にしているんだ・・・・?』  「それは秘密です」  「わたしの考えを読まないでくださいよ〜〜〜・・・・・・・・」  情けない声をあげながらジャムを食べるガディムに、かつての破壊神の面影などかけらも 存在していなかった・・・・・・・。  そんなガディムを見ながら、秋子はこれから始まる「出会い」に思いをはせた。  『もう一つの藤田家の人達・・・・、皆はあの人達と出会って、何を学び、得るのかしら・・・・、楽しみ だわ・・・・。それにしても、あのやんちゃな浩之さんが、別の世界では立派な大人になっているなんて ・・・ふふっ、こちらの浩之さんも負けちゃいけませんね・・・・。』  「うわ〜〜〜〜、広いですね〜〜〜〜」  マルチがびっくりして、廊下を見ていた。  「お掃除をするのも大変なんでしょうね・・・・・。」  「だけど、床はすげーきれいだぞ、まるでマルチが掃除したみたいだな。」  「ふふ、きっとマルチちゃんみたいなロボットさんがいっぱいいて掃除をしているんだろうね。」  「かもしれねーな」  「そうだと、とっても嬉しいです〜」  「うん、きっとそうだよ」  浩之達は、316号教室に向かっていた、転送機をつかってすぐに行くというのも、何かもったいないような 気がして、散策がてらに歩いて行くことにした。  しかし、だだっ広い校舎であった、こんなものがまだまだたくさんあるという事を思うと、浩之達は気が遠く なりそうだった。この点だけでも、まだ浩之達にとって「了承学園」は「非日常」空間であると言えよう。  「あれ?おーい浩之ーーー!」  後から呼ぶ声が聞こえた、おそらく「ここの」浩之と思ったのであろう、声の主は高校生と思われる少年だった。  「なんだよ、あかりさんとマルチの3人で私服なんか着て・・・・・・、ひょっとして繁華街でも行くのか? 他の人達が見えないようだけど・・・・・・・」  少年はあたりをきょろきょろと見まわした、浩之は「いや、実は・・・・」と言おうとしたが、  「だめだぜ〜、あかりさんとマルチだけで行こうとしちゃあ、後でお仕置きされても知らないからな〜」  「君、実はオレ達・・・・・・」  すると少年はぎょっとした顔で浩之を見ると  「すすす、すいません!!人違いでした!!」  と勢いよく頭を下げた。  「知っている人によく似ていたんで、つい・・・・・、ご無礼お許しください!」  「い、いや人違いじゃ・・・・・・・・」  その時、遠くから少年を呼んでいるような、少女の声が聞こえた  「まーくん〜!もうすぐ授業が始まっちゃうよ〜〜〜〜〜〜!!」  「わ、わかったって・・・・!!ったく知らない人の前で『まーくん』は勘弁してくれよ・・・・・・・、と、と にかく申し訳ありませんでした!!」  また頭を下げると少年は、声をかけた少女の方に走り去っていった、結局、自分達が別世界の 浩之である事は言えずじまいだった。  「なんか、元気がありあまっている子だったな・・・・・ははっ、でも『まーくん』か・・・・本人嬉し恥ずかし 半ばな呼ばれ方だな」  「ねえ、あの子高校時代の浩之ちゃんに似ていたと思わない?」  「あ、わたしもそう思いました」  「マルチちゃんもそう思うよね?あ、でも目つきはあの子のほうがやさしげだったかな?」  「・・・・・どーせオレは目つきが悪かったですよ・・・・・・」  「もう〜、すぐ拗ねちゃうんだから・・・・・わたしのことどうこう言えないじゃない・・・・」  と言うとあかりは浩之の腕を抱いた。  「わたし達は目つきの悪い浩之ちゃんが大好きなんだよ・・・・・・」  「そうですよ〜」    と、マルチももう片方の腕を抱いた。  「お、おい・・・・・」  「えへへ〜、照れ隠しはいけませんよ〜」  「夫婦のための学校なんだから、これくらいは良いよね?」  「へいへい・・・・」  「こら、もっと正直になりなさい。」  あかりが浩之の腕を、きゅっとつねった  「いだだだ!わ、わかった・・、正直になります!」  「うん、よろしい♪」  「それじゃあ、このままで、別の浩之さん達のところへ行きましょう」  「さんせ〜い」  3人はくっついたまま歩き出した。  『ふう・・・・、別世界にきてもあいかわらずなんだからな・・・・、でも、まあいいか・・・・』  苦笑しながらも、やはり嬉しそうな浩之だった。    「もーっ、まーくんたら知らない人に何やってるんですか・・?」  あかねがぷーっと頬をふくらませて言った。  「わ、悪い・・・・、てっきり浩之達だと思って・・・・・・」  「でも、あの女の人、あかりさんにしては髪が長かったよ。」  さくらが、なんで間違えるの?という顔をして言った。  「・・・・なんだろうな・・・・、雰囲気が浩之達にそっくりだったんだよ、それにマルチも一緒に いたし・・・・。」  「ひょっとして、タイムスリップか何かでここにきてしまったんじゃ・・・・」  あかねの言葉に誠は「よしっ!」と叫んで、先程あの3人がいた場所をふりかえった。 この了承学園なら、タイムスリップが起きても不思議ではない、もう一度あの3人に 会って確かめてみよう。  しかし、そう思って振りかえった時には既に3人はいなかった。  『遅かったか・・・・だけどあの人、浩之にしては目つきが穏やかだったな・・・・・・。やっぱり別人か? だけど、マルチが一緒にいたし・・・、髪は長くてもあかりさんに似ていたし…・・・・、う〜っ 一体何何だあの人達は・・・・・・!?』      第3話  終        やっと、浩之達が了承学園に入学しました・・・・・・・。  さて、次回はいよいよ、了承浩之達とのご対面です、さて 一体どうなることやら・・・・・。
 ☆ コメント ☆ セリオ:「へぇ〜。あちらの世界の浩之さんは、目が穏やかなんですか」(^^) 綾香 :「みたいね」(^^) セリオ:「同じ『浩之さん』でも、けっこう違うものなんですねぇ」(^^) 綾香 :「そうね」(^^) セリオ:「こちらの浩之さんは、目つきが悪いのに」(;^_^A 綾香 :「うんうん」(^ ^; セリオ:「……って……あれ?」(−−; 綾香 :「どうしたの?」 セリオ:「ということは……こちらの世界の浩之さんは偽物なんですか!?」Σ( ̄□ ̄ 綾香 :「……なんで、そうなるのよ?」(−−; セリオ:「だって……目つきが悪いのは、偽物のお約束じゃないですか!!」(@◇@;; 綾香 :「ウル○ラマンじゃないっつーの」(−−; セリオ:「もしかしたら、線も一本多いかも」(@◇@;; 綾香 :「……線って何よ?」(−−; セリオ:「それともそれとも……。      あちらの浩之さんが『修羅』で、こちらの浩之さんが『羅刹』なのかも」(@◇@;; 綾香 :「…………わ、わけわからん」(−−;;;



戻る