「マルチの話」・「私立了承学園」  外伝
 
 
  
 
       「マルチの話」   in    「了承学園」
 
 
 
 
                            くのうなおき
 
 
 
 

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     第4話    私と私   (併映 「キングコング対ゴジラ」・・・・な、わけがない)
 
 
 
 実態を確認する前に、もしくは確認することなく、伝聞による情報だけで、それを信じて
しまうということはよくある。実態がわからない以上、どんなに馬鹿馬鹿しい事でも、ほん
のわずかでも信憑性が見受けられれば、半ば疑問には思いつつも、半ば信じてしまうと
いうわけである。
 
 ことに了承学園においては、いくら馬鹿馬鹿しいと思われる情報でも、信憑性が高い
ことから、8.9割の情報は真実とみなされる。
 
 曰く、柏木耕一と千鶴が、空を飛び、校舎を破壊しながら痴話喧嘩を繰り広げていた。
 
 曰く、上月澪が、103匹のピグミーマーモーセットとゴーゴーダンスを踊っていた。
 
 曰く、九品仏大志が緒方英二と組んで、即効毛生え薬を開発中。成功のあかつきには
全国展開で販売を計画、世界征服の資金源にと目論んでいるらしい。
 
 1.2割の信じられることが絶対にありえないのが、各家族の不倫、もしくは別れ話である
ことは言うまでもない。
 
 
 浩之達の世界においては、馬鹿馬鹿しいの一言で終ってしまいそうな話でも、了承学園
においては、その光景をみなくても、信用できる、いや当たり前の話とみなされてしまう。
 そうなると、いくら断片的でも、推測の域をでない、もしくは推測以前の問題の情報でも、
とにかく出してしまえば、ある程度信用され、受け入れられてしまうということだ。これは、別
名、「2本足の謀略放送」、「了承ローズ」と呼ばれる彼女にとって、まさに好都合であるとい
えよう。
 
 
 
 
 「だーーーーーーれが、『了承ローズ』なのよっ!?」
 
 
 
 「志保、おめーに決まってるだろうが!!」
 
 不快さもあらわに、藤田家家長にして、10人の妻を持つ男、別名「性欲魔人」藤田浩之は
悪友、もしくは11人目の妻候補、長岡志保の目ん玉ひんむくような形相の抗議に答えた。
 まあ、無理もない、次の授業までの休み時間のひととき、妻達の代わる代わるの膝枕アンド
耳掃除で良い気分にひたっていた所を、「志保ちゃんニュースよ〜〜〜!!」の叫びと共に
ぶち壊されては、「うるせえっ!!この謀略放送女!!了承ローズ!!」と、罵倒の言葉を浴
びせてもやむを得ないことであろう。
 しかし、身勝手ながらも、せっかく浩之に最優先に、自分の手にした情報を伝えようとしてあ
げようとしたところに、そのような罵声を浴びせられたのだから、志保も黙ってはいない、という
わけでいつもの言い争いが始まった。
 
 
 「あんたねえ、人がせっかく仕入れてきてきた情報を最優先であんたに聞かせてあげようって
んのよ!少しはこのあたしの好意に感謝の気持ちを示しなさいよ!!」
 
 「そういうのを好意の押し売りってんだよ!TPOを外しまくった好意なんてはた迷惑にしか
なりゃしねえ!!」
 
 「むっきい〜・・・・、そこまで言うか!このデリカシー欠損症!!あかりぃー!あんた、こんな
奴と一緒にいて幸せなわけぇ〜〜〜〜!?」
 
 
 あかりは、すまなさそうな顔をして
 
 「うん・・・、幸せだよ・・・・。」
 
 と言った、いくら親友いえども、自分の心を偽ってまで助け舟は出せない、それに、自分が膝枕
をしている時に志保が入ってきた事も、あかりが助け舟を出さなかった一因となっていた。だが、
がっくりしている志保をさすがに可哀想かな?と思って、浩之に「志保の話を聞いてあげて」と目で
言った。浩之も、怒りが治まって、
 
 「まあ、話だけは聞いてやるから、言ってみろ。」
 と話をふった。
 
 途端に落ち込んでいた志保の顔がぱっと明るくなり、口ににんまりとした笑みを浮かべた。
 
 「最初っから素直に聞きたいって言えば良いのに〜、いつまでたっても正直になれないのね〜」
 
 ・・・・・・・、まあ、これは志保の強がりであろう・・・・・。
 
 
 「はいはい、とにかく聞かせてくれ。」
 
 浩之は手を振って志保に促した。
 
 
 「10分くらい前にねえ、またこの学校に進入者が現れたのよ!」
 
 「よくある話じゃねーか」
 
 「何言ってんのよ!その進入者って奴が、ヒロ、あかり、マルチによく似た奴らなのよ!特にマルチ
なんかコピーじゃないかってぐらいそっくりなのよ!」
 
 「オレに、あかりに、マルチだと!?」
 
 「あたし、この目でしっかり見たのよ!ちょうどあたしが課外授業で第一校舎近くのベンチで哲学
的思考にふけっていたら・・・・・・。」
 
 
 「そりゃ、おめー、授業さぼってたんだろーが、大体なんだよその哲学的思考って奴は!?」
 
 
 「秋の日差しを浴びて、太陽が眩しくてアラブ人を殺す人間のことを考えていたのよ、ってあんた
なに話の腰を折ってんのよ!」
 
 志保はじたんだを踏んだ、あかりも
 
 「浩之ちゃん駄目だよ、ちゃんと志保の話を聞いてあげなきゃ。」
 とたしなめた。
 
 「そ、そうだな・・・、悪い、話を続けてくれ。」
 
 
 「まったく・・・・、で、何気に正門の方に目をむけたら、いつのまにか男女3人いたのよ、誰だろうと
思ってよく、見てみたら、ヒロ、あかり、マルチにそっくりな奴らだったのよ。んで、マルチがそっくり
どころか、そのものに見えたというわけ。」
 
 
 「でも・・・、わたし、先程はずっと藤田家の皆様と一緒にいましたけど・・・・?」
 
 「だからそっくりさんだった、って言ってるのよ。ヒロにしてはなーんか目つきが優しげだったし、
あかりにしても、髪は長かったし、それに胸も・・・・・・・、あっ!今の無し!!」
 
 「別にかまわないよ・・・・、胸のことぐらい・・・・・・。」
 
 と、引きつった笑みを浮かべるあかり、志保は冷や汗をかきながら話を続けた。
 
 「まあ・・・・、似てるには似てるんだけど、肝心な点を外してるって感じよね〜、直後にラルヴァ
達に取り囲まれちゃったから、変装した不法侵入者間違いなしよ。」
 
 
 「それで、そいつらどうなったんだ?」
 
 「さあ・・・、囲まれた時点で、こりゃ捕まったなって思ったから、最後まで見てないわ。とにかくあんた達
に早くその事伝えようと思ったから、さっさと引き上げちゃった。」
 
 
 
 この時、志保が一部始終を見ていれば、若しくはその場にい合わせなかったら、事態はややこしくならず
に済んだのかも知れない。
 
 まあ、志保にしてみれば、真っ先に浩之に伝えたいという想いがあったわけで、不器用ながらも、相手の
気を惹こうという想いを責めるのも酷ではあるが・・・・。
 
 「そいつら、やっぱり地下室送りなんやろか?・・・・それにしても、まあ懲りずにあの手この手で学校内
に入りこもうとするで・・・・。」
 
 智子が呆れたように呟いた。
 
 「それだけ、是非とも手に入れたいものが、ここにはあるんですよ。科学技術、魔術、超能力、・・・・・ジャム
・・・・・・。」
 
 「そして、魅惑の美少女達ね。」
 
 葵の跡を引き継ぐように、綾香が言った。
 
 
 
 
 「・・・・・・・?、どしたの?」
 
 
 一瞬の沈黙に綾香が「?」という表情で聞いた。
 
 
 「・・・・・、いや、言うのはかまへんけどなぁ・・・・、自分を指差して『魅惑の美少女』って良く言えるわって
感心したんや・・・・。」
 
 「だって綾香さんですから。」
 
 間髪入れずのセリオの言葉に綾香はいきり立った。
 
 「なによ!その嫌味たっぷりな、意味ありげな言い方は!」
 
 「いえ・・・、わたしは嫌味など言っておりません、自らを『美少女』と自負なされるあたり、さすが自信家
の綾香さんだと思っているだけです。」
 
 「むむむむ、むきいいいいい・・・・・・」
 
 至極当然というセリオの言葉に、何も言い返せず唸る綾香に
 「まあまあ、怒るな怒るな、綾香が魅力的な美少女だってことは間違いないんだからな。」
 と浩之はフォローの言葉を言った。
 
 「本当にそう思う?」
 
 「ああ、もちろんだぜ。」
 
 「やっぱりあたしの、愛する旦那様よね〜〜〜!!」
 
 喜色満面で浩之に抱きつき、ごろごろと頬をすりよせる綾香に
 「おいおい・・・・、しょうがねーなー・・・・」
 といいつつにやけ顔の浩之を優しい瞳で見つめるあかり達、そんな光景に、志保は
 
 「あ〜あ、まったく飽きもせずによくやるわよね〜〜〜」
 
 と言って呆れたポーズでやれやれと首を振りながらも、少しうらやましいな・・・・と思っていた。
 
 まあ、志保が好意を全面にだして、甘えていけば、浩之だって受け入れてくれるのだが・・・・、まだ
まだ時間がかかりそうである。
 
 こうして、浩之達の偽者についての話題は打ち切られてしまったが、知らず知らずの内に藤田家の面々
には、偽者=不法侵入者という図式ができあがってしまった。
 
 綾香にまとわりつかれて、顔をだらしなくにやけさせている浩之だったが、内心は
 
 
 『他の事までは、手が回らないが、オレの家族だけは何としても守り抜く!!』
 と決意を固めていた。
 
 「別世界」の浩之、あかり、マルチが藤田家の教室に入って来る10分くらい前の出来事である。 
 
 
 
 
 
 
 浩之達は316号教室の前に立っていた。中には人の気配がする、おそらく「ここの世界」の
浩之達であろう。
 
 『この扉一枚の先に、もう一人のオレ達がいるのか・・・・・・。』
 
 
 「はわわ〜〜〜、すごくドキドキします〜〜」
 
 
 「わたしもだよ、もう一人のわたし達ってどんなんだろうって思うとちょっと怖いかな・・・・?」
 
 
 浩之は、あかりの頭をわしゃわしゃっとかきまわした。
 
 「心配することはねーよ、さっきの少年も、ラルヴァ達も言ってただろ?オレ達がそっくりだって。」
 
 「うん・・・・、そうだよね!」
 
 にっこりと微笑むあかりに笑い返して、浩之は扉に手をかけた。
 
 「それじゃあ、入るぞ」
 
 「うん!」
 
 「はいです!」
 
 浩之は扉をがらがらっと開けた。
 
 
 
 
 
 「失礼します!!」
 
 
 
 
 教室の中に入った3人は、中にいる者たちを見た瞬間、懐かしさがあふれだしていた。
 
 そこには、過ぎし日の思い出があった。別世界いえども3人の目に映る自分、愛する人、そして
友人達はまぎれもなく高校時代の姿でそこにいた。
 
 浩之は『オレってこんな目つき悪かったっけな・・・・・?』と内心苦笑しつつも、懐かしさから
くる親近感を既にもう一人の自分に持っていた、それはあかりにしても、マルチにしても同様
だった。
 
 
 浩之は「やあ、始めまして」と、目の前にいる者達に面食らっている、もう一人の自分に
笑いかけて、一歩近づいた。
 
 その時
 
 
 「ああーーーーーーっ!!さっきの偽者!!」
 
 
 という志保の叫びが浩之達、3人の足を止め、藤田家の間にさっと緊張感をみなぎらせた。
 
 さっきまで面食らっていた表情は「ここの世界の」浩之には既に無く、顔つきは一変していた、
それは、敵意をむきだしにした顔だった。
 
 
 
 
 
 
 
     第4話        終
 
 
 
 
 
 
 
 とうとう、両藤田家が対面しました、しかし、話はまだ端緒についたばかり!
予想以上に苦労するわ・・・・、これからも・・・・(汗)



 ☆ コメント ☆ 綾香 :「あらら。雲行きが怪しくなってきたわね」(^ ^; セリオ:「こ、この展開から察するに……次回は……(わくわく)」o(^◇^)o 綾香 :「こらこら。何を期待してるのよ」(^ ^; セリオ:「バトル」o(^◇^)o 綾香 :「即答かい」(^ ^; セリオ:「あれ? 綾香さんは期待してないんですか?」 綾香 :「うーん。見てみたい気はするけどね。      でも、それ以上に、浩之同士で争ってほしくはないかな」 セリオ:「そ、そうですね。……反省」(−−ゞ 綾香 :「だけど……ちょっとただでは済まない感じよね。      やっぱり、バトルになっちゃうのかしら」 セリオ:「バトルになってしまったら、『マルチ』側は不利ですね」 綾香 :「そうね。人数差があるし」 セリオ:「何と言っても、『了承』側には人間兵器がいますし」(−−) 綾香 :「……それ……誰のことよ?」(−−) セリオ:「さて? 誰のことでしょう?」(−−) 綾香 :「……………………セリオ、後でお仕置きね」(−o−) セリオ:「分かってるなら訊かないで下さいよぉ」(;;) 綾香 :「……そう。やっぱり、あたしのことだったのね!」凸(ーーメ セリオ:「あうっ。誘導尋問」(;;) 綾香 :「セリオ……。後で最大級のお仕置き」(−o−) セリオ:「うう〜〜〜。しくしく」(;;)



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