「マルチの話」・「私立了承学園」外伝
 
 
 
 
 
       「マルチの話」  in  了承学園
 
 
 
 
 
 
                         くのうなおき
 
 
 

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    第五話   「激闘!!316号教室 浩之対浩之!!」
 
 
 
 
 眼前にいる自分達によく似た三人の男女、おそらくはタイム
スリップかその他の理由でこの学園にやってきた未来の自分
達ではないだろうか・・・・・?
 
 先入観なしでいきなり彼等と会っていれば、「浩之」も先程の
誠のような考えに至ったのかもしれない。しかし、志保から自分
達によく似た不審人物の話を聞き、そして眼前にいる三人がそ
うだと言われた時、先のような考えは微塵もなかった。目の前
にいる者達は、自分達になんらかの危害を加えかねない「敵」
それだけでしかなかった。
 
 何を目的としているかははっきりとは分からない、だが、学園
の中に不法に侵入したのであれば、過去に幾人もいた同類の
者達と目的は大して変わりはしないであろう、それは「浩之」達
にとってははた迷惑ですまされない事であることは明白であろう。
 そう思いつつも、「浩之」は相手をにらみつけたまま、それ以上
の行動は起こそうとはしなかった。例え偽者いえど、自分達にあ
まりにも似ているが為に手をだしかねていた。できればこのまま
学園から出て行ってくれれば・・・・、「浩之」はそう思いながら相
をにらみつけていた。
 
 一方、敵意を向けられた浩之は、突然の相手の態度の急変に
とまどいながらも楽観的に考えていた。
 
 『秋子理事長からもらった通行証を見せれば、とりあえず不審
人物の疑いは晴れるだろうな・・・・。』そう思い浩之は通行証を
見せようと、上着のポケットに手を入れた。それはあまりに迂闊
な行動であった。
 
 
 「ヒロユキ気をつけて!!何か武器を出すつもりダヨ!!」
 
 レミイの叫びとほぼ同時に、「浩之」は浩之に飛び掛っていた。
 
 
 「くそっ!!こうなったらしょうがねえ!!」
 
 でlきれば穏便に済ませたかったが、相手がそれを望まない以上
実力行使にでるしかない。「浩之」の意識は、家族を守る為にも相
手をぶちのめす、それだけに向いていた。
 
 「浩之」の渾身の右のストレートが浩之に飛んできた。浩之は咄嗟
にガードするも、すぐさま左のフック、そして中段蹴りが飛んでくる。そ
れらの攻撃は矢継ぎばやに、浩之に攻撃の暇を与えずに襲ってきた。
 
 「ぐっ・・・・・・・!!」
 
 「浩之」の怒濤の攻撃を辛うじてガードしながらも、その強烈な攻
撃はガードをしている腕、足に確実にダメージを与えていた。反撃
しようにも、間断なく襲い掛かる重い一撃一撃を防ぐので手一杯
だった。それでも浩之は突然の出来事に茫然としているあかりと
マルチに叫んだ。
 
 「あかり、マルチ!!早く廊下に逃げろ!!」
 
 相手は浩之が思ってた以上に、浩之達を疑っていた。それに
気づかなかった自分の迂闊さを責めたくなったが、そんなことを
している余裕もないようであった。今は二人を早く危険な場所か
ら避難させなくてはいけなかった。
 
 はっと正気に返って、弾かれたように廊下へ逃げる二人。ちょうど
浩之達の周辺に机、椅子があって綾香や葵、セリオ達の介入を
防いでいたのが幸運であった。もしそうでなければ二人も無事では
済まなかったかもしれない。もっともそれは浩之とて同様で、もし
綾香達が一斉に襲い掛かっていたらひとたまりも無く叩きのめされ
ていただろう、しかしそうでなくとも状況は圧倒的に浩之に不利で
あった。間合いをあけて態勢を立て直そうにも、すぐさま「浩之」
は間合いをつめて攻撃を放ってくる。やがて、浅いながらも数発
はガードをくぐり、浩之の体にダメージを与えはじめていた。
 
 『く、くそお・・・・・こいつ・・・圧倒的じゃねーか・・・・・。』
 
 浩之とて、高校時代から綾香や葵のスパーリングパートナーを務
め、格闘技の腕前も相当なものだった。しかし眼前で自分に攻撃を
仕掛けてくるこのもう一人の自分はあまりに強かった。浩之の世界
の綾香、葵をはるかに凌いでる、といっても間違いではなかった。
 
 「でやああっ!!」
 
 気合いと共に放った「浩之」の突き上げるような右フックが浩之の
ガードしていた左腕をはじいた。
 
 「しまった!!」
 
 次の瞬間、がら空きになった浩之のわき腹に「浩之」の右の回し
蹴りが飛んできた。
 
 「ぐはあっ!!」
 
 完全に無防備の状態の所に放たれた蹴りは、浩之を黒板に叩きつ
けた。蹴りと、黒板に叩きつけられたショックでうずくまる浩之は痛み
にうめきながらも、とどめを刺さんとばかりに迫ってくる「浩之」をにら
みつけた。
 
 『負けてたまるか!!』
 
 力の差は歴然としている、しかしこのままむざむざとやられるわけに
はいかなかった。せめて少しでもダメージを与えて逃げる糸口をつかむ
、そうでなくても、せめてあかりとマルチが逃げれるくらいの時間稼ぎ
ぐらいは・・・・・・・、浩之は覚悟を決めた。
 
 『相討ちにもっていってやる・・・・・、ぶっ倒されてもかまわねえ、お前
に一撃決めてやる!!』
 
 浩之の覚悟を決めた眼に、その意図を感じたか「浩之」は警戒して
一瞬動きを止めた。その時!
 
 「浩之さん、伏せてくださ〜〜〜〜〜い!!」
 
 マルチの声に思わず体を伏せる浩之、同時に「ブシュ−−!!」と音
がしたかと思うと、辺りは白い粉にまみれていた。
 
 「ぶわあああああ!!??げほ!!げほ!!・・・・」
 
 「浩之」の仰天し、むせる声がした。
 
 「げほ!!げほ・・・!!浩之ちゃ・・・だいじょう・・・げほ・・・!!」
 
 「な、なに?これ一体どうしたの?」
 
 「検索してみます・・・・・・・・・」
 
 「んなのん気にかまえてないで・・・・・!!げほっ!!」
 
 教室内はたちまち混乱状態となった、突然の事態に茫然としていた
浩之であったが
 
 「早く!!こっちだよ、浩之ちゃん!!」
 
 間近にあかりの声を聞き、はっと我に帰ると声のした方に目を向けた。
そこには消火器を抱えた、あかりとマルチがいた。
 
 「二人がやったのか・・・・・・・」
 
 「うん、浩之ちゃんが危ないのに・・・・・」
 
 「二人だけで逃げるなんてできません・・・、だから・・・・」
 
 「いや、いいんだ・・・おかげで助かったよ・・・・・サンキュ・・な」
 
 「うんっ、それよりも早くここから逃げようよ!」
 
 「そ、そうだな・・・ぐっ・・・」
 
 「だ、大丈夫ですか・・・・・・・。」
 
 「な、なんとかな・・・・・・・・」
 
 痛むわき腹を押さえながら、浩之達は騒ぎが収まらない教室から逃げた。
 
 
 
 
 
 「一旦、理事長室に戻ったほうがいいな。」
 
 「わたしもそう思う。」
 
 「何か皆さんに誤解されているようです・・・・」
 
 今の状況で改めて通行証を見せて、怪しい者ではないと言った所で
相手は警戒を解いてくれそうな感じではない、浩之達にはそう思えた。
「浩之」達は自分達を危険な不法侵入者と見なしていることは、先程の
一件で明白だった。こうなった以上は事情を良く知っている秋子に仲介
に立ってもらう他はなかった。
 
 「それじゃあ、転送機を使って戻るか。」
 
 理事長室の番号を入力してスタートボタンを押した。しかし、機械は
一向に作動しない。何度も何度も繰り返しても、全くうんともすんとも
いわなかった。
 
 「さっき、浩之ちゃんが黒板にぶつかった時に壊れちゃったんじゃ・・・・・。」
 
 「そうかもしれねーな・・・、仕方ない、歩いていく・・・・・ぐううっ!!」
 
 わき腹に激痛が走り、浩之はその場にうずくまってしまった。
 
 「だ、だめだよ・・浩之ちゃん!!」
 
 「無理はなさらないで下さい〜・・・・。」
 
 「さ、最悪・・・・、あばらをやられてるかも・・・・・ぐっ・・・。」
 
 ふらふらと立ち上がる浩之を、あかりとマルチが両方から支えた。
 
 「とにかく、どこかで横になってないとダメだよ。」
 
 「空いている教室に行きましょう。」
 
 浩之は少し考える様子を見せると
 
 「いや、それよりは誰かがいる教室に行ったほうがいいな・・・・。」
 
 「え・・・・?そ、それは危ないよ!!」
 
 「また襲われてしまいますよ!」
 
 あかりとマルチは驚いて、浩之の考えに反対したが、浩之は首を横に
振った。
 
 「おそらく、オレ達を危険人物と見てるのは、あのクラスの『オレ達』だけだと
思う、さっき廊下であった少年はオレ達を『浩之』達と間違えたけど、なにも危険
視してたわけじゃない。多分『浩之』達にだけ、オレ達について捻じ曲がった情
報が入ったんだと思う。」
 
 「で、でも誰が・・・あっ!」
 
 「多分な・・・・志保あたりが変な情報を流したんじゃね−のか・・・・・、さっきの
口ぶりだとオレ達を校門の所で見ていたかもしれねー・・・・・。」
 
 「だけど、どうしたらわたし達が危険人物になっちゃうんだろう・・・・・・、わたし達
ガディムさんに案内されて校舎の中に入ったのに・・・・・・。」
 
 「おそらく、オレ達を見つけて、こりゃ一大事!とばかりに『志保ちゃんニュース』
を流したんじゃねーのか・・・・。後の事はよく確認をしないで・・・・・・・。」
 
 あかりは苦笑で、浩之の言葉を肯定した。浩之はやれやれと言う顔をして
 
 「まったく・・・、こっちの世界でも話をこんがらがせる奴だな、あいつは・・・・・。」
 
 「ふふっ、どの世界でも志保は志保だね。」
 
 「あ、浩之さん、あかりさん、この教室にどなたかいらっしゃるみたいですよ。」
 
 マルチが303号教室の扉を指さした。中からなにやら笑い声、歓声が聞こえた。
 
 「よし、この中の人達の厄介になるか・・・・・、多分他の人たちはオレ達のこと
は知らないはずだ。まあ危険人物扱いされるよりはずっとましだからな、騒ぎが
広まらないうちに仲介役を頼もう・・・・・ぐあっ・・・・。」
 
 「あわわ・・・ひ、浩之さん・・・・・!!」
 
 「だ、大丈夫だ・・・マルチ、もう少し我慢すれば何とかなるから・・・・。」
 
 「はやく教室に入って、横にならなくちゃ・・・・・。」
 
 「そ、そうだな・・・ぐっ・・・・」
 
 浩之達は303号教室の扉をノックすると、「失礼します」と言って開けた。
 
 「あはは〜〜〜、和樹〜〜〜こっちこっち〜〜〜♪」
 
 「にゅにゅ〜〜〜、どこだ〜〜〜みずきい〜〜〜〜〜?む?そこかあ〜〜」
 
 「ほらほら、千堂君、もっと右、あ!ちょい行きすぎ〜〜〜♪」
 
 「・・・・・・・・・(鬼さんこちら、手の鳴る方へ・・・です)」
 
 「むう〜〜〜ポチい〜〜!!なんで詠美ちゃん様を避けるのよ〜〜!!
したぼくのくせに、ちょ〜〜〜生意気〜〜〜!!」
 
 「や〜〜〜ん、南さ〜〜ん放して〜〜!!あたしも、あたしもお〜〜〜〜!!」
 
「だ、だめです、郁美ちゃんには、あの格好は早すぎます!!」
 
 
 
 
 
 
 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。(汗)」」」
 
 
 
 
 
 
 教室に入った三人を迎えたのは、いや、迎えたというのは語弊があるかも
しれない。教室に入った三人が見たものは色とりどりのバニースーツに身を
包んだ女性達と、目隠しをして彼女たちを追いかけている浩之と同じ位の
年齢の男が一人。どうやら目隠し鬼ごっこをやっているような感じなのだが、
黒板には「うさぎ狩り作戦」とでかでかと文字が書かれている。女の子達
は歓声をあげながら、男が捕まえてくるのを待っていた。そして男が抱きす
くめるように捕まえるとしばらくの間、いちゃいちゃしている。そんな光景を
浩之達は茫然と見つめていた。
 
 『こ、これは一体・・・・・・?』
 
 『じゅ、授業なのかなあ・・・・・・・?(^^;;』
 
 『うわあ〜〜〜、皆さん楽しそうですねえ〜〜』
 
 『ま、マルチちゃん、楽しそうとかそうじゃなくて・・・(^^;;』
 
 『これって授業のうちに入るんだろうか・・・・・?(−−;;』
 
 『う〜〜ん、どうなんだろ?でも・・・浩之ちゃんはこういうの嫌?(*^^*)』
 
 『う・・・・・・い、嫌じゃ・・・ねー・・・けどなあ・・・・・・(^^;;;;;』
 
 眼前の異様な光景に、ぼそぼそと言葉を交わしていた三人であったが、
さすがにこのままぼーっとしているわけにもいかず、「うさぎ狩りゴッコ」に
熱中している連中に声をかけることにした。
 
 「あのお〜〜〜・・・・・」
 
 「・・・・・・?え、え、あ、あなた達・・・・・・誰!?」
 
 突然声をかけられてうろたえるように、髪を横結びにした、活発そうな女性
が浩之達の方に振り向いた。そして浩之達をまじまじと見つめた。
 
 「あら?浩之君にあかりちゃん、マルチちゃん・・・・・・?」
 
 その時、教室内の校内放送用のスピーカーから、志保の声が聞こえた。
 
 
 
 
 「緊急志保ちゃん情報〜〜〜〜〜〜!!ただ今校内にヒロ、あかり、マルチ
によ〜〜〜〜く似た不法侵入者が潜入しました!!この三人は、藤田家クラス
において、消火器をばらまくなどの破壊活動を行い、現在もなお逃走中です!!
各クラスの女の子達は身に危険が及ばないよう充分気をつけてね〜〜〜!!
後、男達は女の子を守るよう、全力を尽くす事!!くりかえすわよ〜〜〜〜・・・」
 
 
 「「「・・・・・・・・・・・・・。」」」
 
 「・・・・・・・・・・・・・・・。」
 
 浩之達と目の前の女性の間に一陣の冷たい風が吹いたように、浩之には感じた。
次の瞬間、女性がテニスラケットを頭上に振り上げた。
 
 
 『いつの間・・・・・・・・』
 
 『に』が出る前に「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」と
女性の叫びと同時に浩之は側頭部に重い衝撃を感じたかと思うと、そのまま意識
が途切れてしまった・・・・・・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 粉まみれになった顔を拭きながら「浩之」は自分達の「偽者」について考え込んで
いた。つい先程までは自分達に危害を加えんとする不法侵入者とばかり思っていたが、
その考えが今になってぐらついていた。
 
 『あの目なんだよな・・・・・・・』
 
 あの時、とどめとばかりに「偽者」に迫った時、「偽者」が見せた「覚悟」の眼、あれを
見た「浩之」は、相討ちを恐れて動きを止めた。
 
 『それだけじゃねえ・・・・、分からなくなっちまったんだよな。あいつ等が危険人物か
どうか・・・・・。』
 
 おそらく、後の二人の仲間を逃がす為に決死の覚悟を決めたのだろうあの眼に、「浩之」
は本当に彼等が自分達に危害を加えにきたのか疑問、いや否定をしていた。だから三人
が逃げ出したにもかかわらず、追いかけることをしなかった。
 悪党とて、仲間を助ける為に自分を犠牲にすることは多々ある。しかし、あの「偽者」の
見せた眼は「仲間」を逃がすというよりも、「大切な人」を守る覚悟のように見えた。
 
 
 「浩之ちゃん、替えのタオルだよ。」
 
 「あかり」が新しいタオルを持って、浩之のそばに来た。すでに「浩之」が持っていたタオル
は粉まみれになっていた。
 
 「あ・・・・・、すまねえ・・・サンキュな。」
 
 
 タオルを受け取っても、「あかり」は「浩之」をじっと見つめていた。
 
 
 「ん?どうしたんだ?」
 
 「さっきの人達・・・・追いかけないの?」
 
 「・・・・・・・・・・・」
 
 
 「浩之」は、ふうと息を吐くと
 
 「分かんなくなっちまってな・・・・・、追いかける気が失せちまった・・・・。」
 
 と、苦笑まじりに言った。
 
 「どうも、悪い人達じゃねーんじゃねえのか、って思えてきてな・・・・・。」
 
 「あかり」は微笑みを浮かべて
 
 「わたしもそう思ったよ・・・・・・。浩之ちゃんに立ち向かっていく、あの男の
人の眼がね、いつか、悪い人がここにやって来た時にみせた浩之ちゃんの
眼にそっくりだったの。『みんなを守る』って言っていた浩之ちゃんの眼に・・・。
だから、きっとあの人達、悪い人じゃないと思うの。・・・・・・・・・・安直かな・・・?」
 
 「浩之」は「あかり」の頭をそっと撫でた。
 
 「安直かどうかは分かんねーけど、オレも考えは同じようなもんさ。」
 
 「うん・・・・・・・・・」
 
 
 「もお〜〜〜っ、二人の世界に浸ってないで、今後のことを考えてよね〜〜〜。」
 
 綾香が呆れた顔で二人の間に割って入ってきた。
 
 「そ、そうだな・・・・・・、あの三人が何者かも知りたいし・・・・・・。」
 
 「それに浩之さんそっくりな方が心配です〜、おそらく大怪我をなさっているの
ではないでしょうか・・・・?」
 
 「マルチ」心底、心配そうな顔で言った。
 
 「多分、浩之さんの蹴りがまともに入っていましたから、黒板に叩きつける程の
威力から考えますと、あばら骨が折れている可能性は九割と思われます。」
 
 「・・・・・・、そうなると、そう遠くへは行ってないはずだ。よし、皆で手分けして
捜そう・・・・・・・あれ志保はどこに行ったんだ?」
 
 
 すでに教室には志保の姿は見当たらなかった。その時、校内放送用のスピーカー
から、「緊急志保ちゃん情報」が流れ出した!
 
 
 「・・・・・・・・・・・・・、あ、あいつ〜〜〜〜〜何てことしやがるんだ!!」
 
 「こりゃ、他の人達に見つかってフクロにされる前にわたし達が見つけんとあかんで!!」
 
 「よし!あかりは保健室に行って骨折用の薬をもらってきてくれ!!後は二人一組に
なってあの三人をさがす。マルチはオレと、綾香はセリオ、委員長とレミイ、先輩と琴音
ちゃん、葵ちゃんと理緒ちゃんのペアで行くぞ!!」
 
 
 
 「「「「「「「「「「はい!!(はい)」」」」」」」」」」
 
 
 
 藤田家の面々が三人を捜しに出ようとした時、「きゃーーーーーーーーーーっ!!」と
女性の叫びが聞こえた。
 
 「あ、あれは・・・・・・瑞希さん!?」
 
 「ま、まさか・・・・・・・・!?」
 
 「浩之」達は瑞希の声がした所へ走り出した、嫌な予感が皆にの脳裏に浮かんでいた。
そしてその予感は的中していた。
 
 303号教室には千堂家の面々がバニースーツのいでたちで誰かをとリ囲むようにして
立っていた。その輪の真ん中には倒れている浩之の「偽者」に、あかり、マルチの「偽者」
が覆い被さるようにして、千堂家の面々をにらみつけていた。千堂毛の者達は一体どうした
ものかと困った表情で立ち尽くしていた。
 
 「か、和樹さん!!」
 
 「ん?浩之君か・・・・って、こら〜〜〜〜〜〜〜!!見るな、見るんじゃねえ〜〜〜〜〜〜〜!!」
 
 和樹の怒鳴り声に、慌てて「浩之」はバニースーツ姿の瑞希達から眼をそらした。
 
 「あかり!早く保健室に行って薬を!!」
 
 「う、うん!」
 
 「おい、浩之君一体この人達は・・・・・・・・・・、不法侵入者なのか・・・・?」
 
 事態の推移に戸惑っている和樹が聞いた。
 
 「それは、なんとも・・・・、でもオレ達が思うに、この人達は悪人ではないと思うんです・・・。」
 
 「浩之」は、涙ぐみながらも、自分達をにらみつけている二人に顔を向けた。
 
 「すいませんでした・・・・・・・、オレ達の早合点で、迷惑をかけてしまって・・・・。」
 
 深々と頭を下げる「浩之」に二人はようやくにらみつけるのを止めた。
 
 「今、薬を持ってきます。大丈夫ですよ、心配はいりませんから・・・・・。」
 
 その時
 
 「ど、どうしたんですか・・・・・・!!これは・・・・・・・・。」
 
 茫然とした面持ちの秋子が、「浩之」達の前に立ち尽くしていた。校内放送を
聞いてもしやと思い、ここにやって来たのだった・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「う〜〜〜っ・・・・」
 
 どれくらい意識を失っていたのだろうか、浩之はようやく自分が目覚めるのを
感じていた。しかし、頭の痛みもわき腹の痛みもない。
 
 「まさか・・・・オレ死んだのか!?」
 
 がばっと体を起き上がらせて、辺りをきょろきょろと見回す、目の前にはあかりとマルチ
が涙を浮かべながら微笑んでいた。
 
 「よかった・・・・目が覚めた・・・・・。」
 
 「浩之さん、無事でなによりです・・・・。」
 
 「あかり、マルチ・・・・、ってことはオレ生きてるのか・・・・?」
 
 「うんっ!!」
 
 「そうですよ!!」
 
 思わず浩之は二人を抱きしめた。二人は浩之に抱かれるままで、顔を浩之の胸に押し付けていた。
 
 「ここは・・・、さっきの教室か・・・・。」
 
 浩之の視界に「浩之」達、そして303号教室の面々、秋子が入った。それぞれ沈痛な面持ちで
浩之達を見つめていた。皆、すでに秋子から事情はすべて聞いているようだった。
 
 「浩之さん、あかりさん、マルチ・・・・・・、今回は本当に迷惑をかけてしまい・・・すいません!!」
 
 「浩之」と藤田家の面々が深々と頭を下げた。
 
 「私がついていれば、このような事態にならずにすんだのに・・・・、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
 
 「何も聞かずに、いきなり殴ってしまい・・・本当にごめんなさい!!」
 
 秋子と、横結びの女性とその仲間達も、浩之と同じように頭を下げた。
 
 「う・・・・・、ご、ごめんなさい・・・・」
 
 志保も、さすがに今回の騒動の原因であることを自覚していたのか、しおらしく頭を下げた。
 
 
 
 浩之を、あかりとマルチがじっと見つめる。「許してあげようね」二人とも目で語っていた、もちろん
浩之も異存はなかった。
 
 「皆さん、頭を上げてください・・・・・・。」
 
 浩之は、秋子達を見て
 
 「過ぎたことですから、もうオレ達もこだわりません。それより、秋子さんから事情は聞いてますよね?」
 
 皆は首を縦に振った。
 
 「これから短い間ですけど、お世話になります・・・・。」
 
 「こちらこそ!」
  
 皆の快活な返事に顔を見合わせて微笑みあう浩之達、ようやくこの学園の一員になれたような気分だった。
 
 「しかし、わき腹も頭もすっかり痛みがひいていたからな・・・、オレ死んじゃったのかと思ったぜ・・・。」
 
 「うん・・・、浩之ちゃん、大変な怪我だったんだよ。あばら骨は折れちゃったし・・・・・。」
 
 「でも、お薬ですぐに治ってしまったんですよ。」
 
 「薬・・・って、骨折って薬で治るもんなのか・・・・?」
 
 
 
 「ここは了承学園だからね、あんた達の常識だけじゃ計れない事が一杯あるのよ。」
 
 「・・・・・・・・!??」
 
 浩之の近くにあった女性の絵が突然しゃべりだした。浩之は鳩が豆鉄砲を食らった表情でその絵の女性
を見つめた。
 
 「あ、この方は保険の先生のメイフィアさんなの。」
 
 「・・・・・・・・・・・そ、そうか・・・・・・・。」
 
 
 「あらあら、こんな事ぐらいでそんな顔していたら、これから先が思いやられるねえ・・・・。」
 
 メイフィアはくすくすと笑った。
 
 「そんな事言っても仕方ないでしょう。オレ達とは住む世界が違うんですから・・・。面食らうのは当たり前
ですって・・・。」
 
 「それもそうよね。ま、早くこの学園に慣れることを望むわ♪」
 
 「前向きに善拠致します。」
 
 そう言って、浩之は「浩之」の方に向いて手を出した。
 
 「改めてよろしく、もう一人のオレ・・・・・・。」
 
 「浩之」は差し出された手をがっちりと握った。
 
 「こちらこそ、よろしくお願いします・・・・・。」
 
 
 
 
 がっちりと握手をする、二人の浩之を教室の面々は暖かい眼差しで見つめていた。この時、浩之達三人は
「了承学園」の生徒として完全に受け入れられたのだった。
 
 
 
 さて、了承学園の生徒として生活を送る浩之達三人を、果たしてこれから何が色々と待ち受けているのか?
・・・・・それは次回の講釈にて。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
       
               終
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   後書き
 
 ふい〜〜〜、やっと書き上げた〜〜〜〜。HDクラッシュのトラブルもあって
一時頓挫してもいましたが、ようやく第五話がアップいたしました。これで
ようやく「前振り」が終わったわけで、次回からはようやく「了承」の授業
に浩之達がどう「挑んで(笑)」いくのか・・・?という話ができます。あ、でも
まだ書かなきゃいけないことがあったんだ・・・・(汗)
 
 まあ、とにかく次回もよろしくお願いいたします(^^;;
 
 
 さて、「マルチ」の方も書かなきゃ・・・・・・。



 ☆ コメント ☆ セリオ:「あっちの世界の浩之さんとこっちの世界の浩之さん。      誤解が解けて良かったですね」(^^) 綾香 :「うんうん」(^^) セリオ:「一時はどうなるかと思いましたが」(^^) 綾香 :「これで一安心だわ」(^^) セリオ:「それにしましても……」 綾香 :「ん?」 セリオ:「志保さんは相変わらずですねぇ」(;^_^A 綾香 :「そ、そうね」(^ ^; セリオ:「突っ走っていると言いますか……先走っていると言いますか……      暴走していると言いますか」(;^_^A 綾香 :「あ、あはは、あはははは」(^ ^; セリオ:「悪気は無いのでしょうけどねぇ」(;^_^A 綾香 :「まあね。だからこそ始末に負えないとも言えるけど」(^ ^; セリオ:「そうですね」(;^_^A 綾香 :「まあ、今回の件で反省して、少しはおとなしくなるでしょ」(^ ^; セリオ:「『おとなしく』ですか? 本当にそう思ってます?」(;^_^A 綾香 :「……………………」(^ ^; セリオ:「……沈黙って、ある意味雄弁ですよねぇ」(;^_^A 綾香 :「……………………」(^ ^;;;;;



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