私立了承学園 第418話

 『少女たちの会話』(作:Hiro)



 Piaキャロット。

 そこは、たさい部・一般部問わず了承学園に通う学生・教師達にとって重要な場所である。
 昼は空腹も満たしてくれる学食として。
 そして、放課後には、学業の疲れを癒してくれる憩いの場として。
 もっとも、放課後の場合は半ば甘味処と化す為、利用者は殆ど女性ばかりとなり、男性諸子には非常に近寄りがたい場所となるのだが。

「ハンバーグステーキとシーフードカレーとラザニアとコーンポタージュのおかわりをお願いしまーす!」

「まーくん、食べ過ぎだよ〜」

「そうです。わたしたちの作る晩御飯が食べられなくなってしまいますよ」

「大丈夫大丈夫。おまえらの作るメシは別腹だから♪」

「…………(汗)」

「…………(汗)」

 ……まあ、何事にも例外はある。

 閑話休題。

 ともかく、女の園と化しているPiaキャロット。
 そんな黄色い声が飛び交う中で、一際目立つグループがあった。

 テーブルに着いているのは4人。

 藤田家の来栖川綾香,千堂家の高瀬瑞希,藤井家の緒方理奈,柏木家の柏木梓。

 別段騒いでいるわけではないのだが、この4人はとにかく人の目を引いた。
 だが、それも無理からぬことであろう。
 人気アイドルの理奈に、エクストリームの女王と呼ばれる綾香。
 この2人が揃っているだけでも人目を引くには十分なのだが、同席している瑞希と梓も類い希なる美貌の持ち主である。目立たないわけがない。
 “超”の字がいくつも付くような美少女が揃っている図は、同性の者の視線すらも引きつけ、思わず見とれさせてしまう程の威力を誇っているのだから。

「理奈さんってやっぱり美人よねぇ」

「はぁ。綾香さん……素敵」

「ねぇねぇ。あの人たちって、全員たさい部だよね」

「たさい部ってどうして綺麗な人ばっかりなんだろう」

 周囲から感嘆の声が起こる。

 しかし、理奈たちは、それらの声に一切の反応を示さなかった。
 別に無視をしているわけではない。ただ、彼女たちにしてみれば、周囲の声よりも目の前に置かれているデザートの方が、意識の中で大きなウエイトを占めていたに過ぎない。
 早い話が、食べ物に気を取られているのである。ある意味、子供じみていると言えるだろう。
 もっとも、その様な姿が、かえって周りの女生徒たちに親近感を抱かせ、理奈たちへの好感度を更に上げる要因ともなっていた。

 周囲の想いを一言で代弁するのなら、

『美人なのに、愛嬌があって可愛らしい』

 ――と、いったところだろうか。

 確かに、ケーキやパフェなどを相手に、満面の笑みを浮かべて奮闘する姿は愛嬌があると言えるし、可愛らしいとも言える。

 ……理奈や綾香に対して“クールで格好いい女性”といったイメージを抱く一部男子生徒たちにとっては幻滅するような光景かもしれないが。





○   ○   ○






「はむはむ。んー、美味しい〜♪」

 チョコレートケーキを口に運び、綾香が心底幸せそうな顔になる。

「ホントねぇ。……むぐむぐ。『生きてるって素晴らしい』と実感する瞬間だわ♪」

 いささか大袈裟とも言える表現で理奈も同意する。

「うんうん。甘い物って、人の心を幸福で満たしてくれるわよねぇ」

「まったくだ。天にも昇る心地になるよ」

 瑞希と梓も全くの同感らしい。……スケールの大きさも含めて。

「やっぱり、デザートはお店で食べるのが一番ね。自分で作っても、どうしてもこの味は出せないのよ」

 ため息混じりに、瑞希がポツリと呟いた。

「そうなんだよなぁ」

 梓もそれに賛同してうなずく。

「え? そういうもんなの?」

「瑞希と梓って料理上手いのに?」

 綾香と理奈が不思議そうに尋ねる。
 瑞希と梓の料理の腕前を知っている人間にしてみたら、当然感じる疑問であるだろう。

「まあね。あたし、ご飯は作るけど、お菓子ってあんまり作ったりしないし」

「あたしも。お汁粉とかなら作るんだけどね。ケーキとかは……」

 二人の問いに、多少苦笑いを浮かべながら答える瑞希と梓。

「ふーん。そうなんだ」

「ちょっと意外ね」

「まあ、勉強すれば、それなりに上手く作れるようにはなると思うけど」

「外で食べる方が手軽だからね。無理に覚えようって気にはならないかな」

 家族の健康面などから、朝昼晩の食事には非常に強いこだわりを持つ二人だが、お菓子に関してはそれ程の思い入れはないのかもしれない。

「なーんだ、残念。今度、作ってもらおうかと思ったのに」

 冗談めかして綾香が言う。

「あのねぇ。自分で作りなさいよ、自分で」

「もしくは、セリオにでも頼めばいいだろ」

 瑞希と梓が呆れたような顔をして言葉を返した。

「まあ、そうなんだけどね」

 笑いながら言って、ケーキを一口。

「ところでさ。藤田家の食事ってあかりちゃんとセリオちゃん、葵ちゃん、琴音ちゃんの4人が作ってるのよね。あとの5人はどうなの? みんな料理出来ないの?」

「5人? 残りは6人でしょ」

 理奈の問いに瑞希がツッコミを入れる。

「5人でいいのよ。だって、綾香が料理出来ないのは確定事項だからね。初めっから数に入れてないわ」

「「なるほど」」

 笑顔で言う理奈のセリフに、瑞希と梓が深くうなずいた。

「……あ、あんたらねぇ。どうして、あたしが料理出来ないのが確定事項なのよ。失礼ね〜」

 綾香が唇を尖らせて抗議する。心なしか、頬がピクピクと痙攣したりしている。

「ホントのことでしょ。……で? どうなのよ。理緒ちゃんとかは料理出来るんじゃない? 家庭的だし」

 しかし、理奈はあっさりと受け流した。

「…………雛山さんは出来なくはないわ」

 ちょっぴり拗ねた顔をしながらも、綾香が素直に答える。

「ただ……あの娘って料理を作れば作っただけ、同じように食器も壊すのよねぇ」

「……あ……そ、そうなんだ」

 軽くため息を吐きながら言う綾香に、梓が苦笑する。

「まあ何にせよ、神岸さんたち以外の娘は台所に立たない方が無難ね。保科さんは意外と不器用だし、姉さんの場合は何を入れるか分かったもんじゃないし、マルチはドジっぷりを見事なまでに発揮してくれるし、レミィは味覚に致命的な欠陥があるし……」

「綾香は料理の才能ゼロだし、ね」

 指折りながらの綾香の言葉に、理奈が笑いながら付け加えた。

「う、うっさいわねぇ。あたしの事はほっといて」

 綾香がプイッと顔を背けてふてくされる。

「まあまあ。自分で料理が出来ないって認めてるだけ綾香は立派だよ。世の中には、自分の料理が毒物だということを理解せずに、無闇に台所に立ちたがる人もいるんだからさ」

 梓が幾分遠い目をして綾香をなだめる。

 それを聞いた瞬間、全員の脳裏に一人の黒髪で貧乳の女性の姿が浮かんだが、その人物の名を口にする度胸のある者はいなかった。

「え、えっと……あの……そ、そうそう。瑞希の所はどうなの? 瑞希以外の人って料理できるの?」

 凍り付きかけた空気を払うように、理奈が瑞希に話を振った。

「え? あ、あたしのとこ? そ、そうね。結構出来る娘いるわよ」

 多少引きつり気味ではあったが、それでも笑顔を浮かべて瑞希が答える。

「南さんは上手だし、彩ちゃんと千紗ちゃんも出来るわ。最近は郁美ちゃんも上達してきたし。あさひちゃんと玲子さんもやろうと思えば出来るみたいだしね」

「早い話が、詠美と由宇以外はみんな出来るわけか」

 納得したように梓が『うんうん』とうなずく。

「どうだろ? もしかしたら、猪名川さんはやれば出来るのかもしれないわ。ただ、その気がないだけで。残るは詠美ちゃんだけど……あの娘は……あ、あはは……」

 思いっ切り言葉を濁す瑞希。その表情には、諦めの色すら浮かんでいた。

「まあ……詠美はねぇ」

「最初から期待する方が間違ってるよな」

「同感」

 容赦なく切り捨てる綾香、梓、理奈。

 現在、彼女たちの頭の中では、

『なによなによ! クイーンは料理なんかしなくていいのよ! そんなの、下々の人間のすることなんだから〜! ふみゅ〜〜〜ん』

 件の少女が暴れまくっていた。

「ふぅ。やれやれだわ。まったく困ったものね」

 呆れきったように理奈がつぶやく。

「そう言う理奈さんは料理出来るのかい?」

 そんな理奈に、梓が多少意地悪っぽい口調で尋ねた。

「え?」

「そういえばさ、藤井家の食事って誰が作ってるの? まあ、間違っても理奈さんじゃないだろうけど」

 こちらも意地悪な響きを含んで尋ねる綾香。
 理奈に『料理が出来ないのは確定事項』と言われたのを、まだ根に持っていたらしい。

「うち? うちはねぇ」

「「「うちは?」」」

「美咲さんに美咲さんに美咲さんに……」

「「「ちょっと待った!」」」

 わざわざ、指折り数えながら答える理奈に、3人が一斉に突っ込んだ。

「ん? なに?」

「『なに?』じゃないよ。美咲さん一人に任せっぱなしかよ!?」

「あらら〜。美咲さん、大変ねぇ」

「ううっ。美咲さんってば苦労してるのね。ちょっと可哀想かも」

 美咲の不憫を思い同情する梓たち。目元にはうっすらと涙まで浮かんでいたりする。

「ちょ……ちょっとちょっと! 信じないでよ、こんなの。冗談に決まってるでしょ!」

 その様子を見て、理奈が慌てて弁明する。

「……ふ〜ん、冗談ねぇ。なんか、妙に真実味があったんだけど……」

「ごめん。あたしもそう思った」

「あたしも。……ねぇ、理奈さん。本当に冗談なの?」

「なに疑ってるのよ、あなたたち! 当たり前でしょ!」

 綾香たちの態度にカチンと来たのか、理奈が声を荒げて言い返す。

「いくら何でも美咲さん一人に押し付けるわけないじゃない。あたしや由綺だって手伝ってるわよ!」

「げっ! 理奈さんが手伝ってるの!? マジで!?」

「…………なによ綾香、その『げっ!』って言うのは。言っとくけど、あたしだって料理ぐらい出来るんだからね!」

「ま、まあまあ。落ち着いて落ち着いて」

 苦笑を浮かべながら瑞希がなだめ役に回る。

「えっと……つまりは、藤井家の台所は美咲さんと由綺さん、そして理奈さんの3人が制しているわけなのね」

「はずれ。台所を制しているのは4人よ」

 瑞希の言葉を、理奈が即座に否定した。

「え? そうなの? それじゃ、後の一人って……うーん……弥生さん?」

「ブー! 瑞希ハズレ。弥生さんは台所になんて立たないわ。自分のイメージに合わなそうな事は極力避けようとする人だから」

「だったら、はるかさん?」

「ブッブー! 綾香もハズレー。彼女も台所とは無縁よ。もっとも、はるかの場合は、何かを作れって言われたら、あっさりと凄い物を作り上げちゃう可能性はあるけど」

「ということは、マナちゃん?」

「ブッブッブー! 梓もハッズレー! マナちゃんは今のところ食べる専門よ。ま、これからに期待ってとこね」

「じゃあ、誰だって言うのよ!? 他にはいないじゃない!」

 焦れたように綾香が問う。

「いるでしょ。約一名肝心な人が」

「「「へ? 誰?」」」

「冬弥くんよ」

「「「冬弥さん!?」」」

 理奈からの解答に、綾香たちが驚愕の表情を浮かべる。

「そ。冬弥くん。彼の作るご飯って意外と美味しいのよ。最近では、エプロン姿も妙に似合ってきたし♪」

「ま、まあ、冬弥さんだったらエプロン似合いそうだよね」

 嬉しそうに言う理奈に、多少引きつった顔で綾香が返す。

「冬弥くんの作るご飯って、あたしの舌にジャストフィットなのよ。本当に美味しくて、ついつい沢山食べちゃうの♪」

 ニコニコ笑いながら理奈が言う。その口調には、自分の彼氏を自慢したい気持ちがありありと現れていた。

「はいはい。それは良かったね。――にしても、そんなに喰っていいのか? ぶくぶくに肥え太っちまうぜ」

 理奈の惚気に辟易したように、梓が冷めた口調で言い放つ。

「心配無用よ。全く問題ないわ。カロリー計算は完璧だし、レッスンでしっかりと体を動かしてるからね。余計な脂肪を付けるようなミスは犯さないわ。……それよりも、太る心配はあたしよりも綾香にした方がいいんじゃないの? はっきり言って、食べる量はあたしとは比較にならないわよ」

 理奈は梓の言葉を軽く受け流すと、視線を綾香の方に向けた。
 その視線の先では、綾香が3つ目となるケーキを美味しそうに頬張っていた。

「確かに。……なぁ、綾香。そんなに喰っていいのか? 太っても知らないぞ」

「平気平気。あたしって、食べても太らない体質なのよ。それに、浩之としっかり汗を流してるし」

「え? 浩之くんと?」

 幾分頬を色付かせて瑞希が尋ねる。

「ええ、毎晩激しくね」

「ま、毎晩激しく!?」

 梓も顔を赤くして問い返す。

「うん。だから、終わったあとはクタクタ。もう、足腰がガクガクになっちゃうの」

「あ、足腰がガクガク!?」

 理奈も耳まで朱に染めて言葉を返す。

「そうよー。ほんっとに大変なんだから、エクストリームの練習って。そんなのを毎日やってるんだから、とてもじゃないけど太ってなんかいられないわ。逆にダイエットになっちゃうくらいだし。……って、あれ? どうしたの、みんな?」

 不思議そうな声を出す綾香の目の前では、理奈たちが全員テーブルに突っ伏していた。
 ついでに、何故か、周りのテーブルに座っていた女子生徒たちと、たまたま(?)近くにいたウエイトレスのつかさと留美もずっこけていたりした。

「…………な、なんだ。エクストリームの練習か」

 暫くして再起動を果たした瑞希が、脱力したような声でつぶやいた。

「ん? なに? 何だと思ってたの?」

 綾香がキョトンとした顔で尋ねる。

「なにって……その……」

「浩之と毎晩……なんて言うから……てっきり……」

 頬を染めて言葉を濁す瑞希と梓。

「つ・ま・り、綾香と浩之くんが毎晩“ナニ”をしてると思ったのよ」

 そんな2人を横目に、理奈がストレートに答えた。

「っっっ!? な、な、な、なに変な誤解してるのよーーーっ!」

 声を上擦らせながら抗議する綾香。その顔は見事なまでに真っ赤になっていた。

「だって……さぁ」

「普通はそう思うわよねぇ」

 梓と理奈が顔を見合わせてうなずき合う。

「やっぱり、綾香ちゃんと浩之くんが毎晩一緒にする事っていったら、どうしても“アレ”の事だって思っちゃうわよ」

 申し訳なさそうに瑞希が言う。自分の言葉に照れているのか、頬には赤みが差していた。

「バカな事言わないでよ。“アレ”を浩之と毎晩なんて……あたし、死んじゃうわ」

 至極真面目な顔で綾香が反論する。

「それに、そもそも毎晩“アレ”に励んでいるのは瑞希さんの方なんじゃないの? いつも、和樹さんとあーんな事やこーんな事をしてるんでしょう?」

「あ、あ、あ、あ、綾香ちゃん! いきなり何を言うのよ!」

 綾香からの思わぬ攻撃に、思いっ切り狼狽する瑞希。

「そ、そりゃあ、和樹が望むのならあたしは毎日でもオッケーだし何でもしてあげるけど……………………じゃなくて!」

 わたわたと手を振って、ポロッと零してしまった失言を必死に打ち消そうとする。

「瑞希さんのエッチ〜」

 その様を見て、ニンマリと笑いながら綾香が突っ込んだ。

「な、なによ! あ、綾香ちゃんだって、浩之くんにだったら何でもしてあげるんじゃないの? 何でも受け入れちゃうんじゃないの?」

 暗に、自分がそうだと暴露している瑞希。だが、動揺しまくっている瑞希は全く気付かなかった。

「え? あ? う?」

 もっとも、それは反撃を喰らった綾香も同様だったが。

「そ、それは……あうあう」

 首筋まで真っ赤に染めて綾香が沈黙した。

「ほーら。綾香ちゃんこそエッチじゃない」

 瑞希が勝ち誇ったように言う。

「なんつーか、どっちもどっちだよな。つまり、二人ともえっちっちーだってことだよ」

 五十歩百歩の綾香と瑞希を見て、梓がため息混じりにつぶやいた。

「な、なんなのよ、その“対岸の火事”みたいな態度は!? 梓も人の事言えないんじゃないの!?」

「そうよそうよ! 梓ちゃんだって好きな人に抱かれるの嫌いじゃないでしょ!? 好きな人にだったら、何をされても許しちゃうとか思うでしょ!?」

「……う゛っ。……そ、それは……まぁ……」

 綾香と瑞希の猛烈な勢いに押され、ついつい認めてしまう梓。

「……なんだかなぁ」

 そんな梓に、そして先程から墓穴掘りまくりの発言を繰り返す綾香と瑞希に、理奈は思わず苦笑を浮かべてしまう。

「結局のところ、三人共『普段は強気で憎まれ口を叩くけど、ベッドに入ると従順になってしまう』タイプなのね」

「「「……うぐっ」」」

 ポツリと零された理奈の言葉に、三人が言葉を詰まらせる。

「さらに付け加えるならば『いぢめられて喜びを感じる』タイプってとこね。きっと、好きな人に求められたら、例えば“屋外でのエッチ”みたいなアブノーマルなプレイだって受け入れてしまうんでしょうねぇ」

「…………っっっ!!」

 理奈の指摘に全身を朱色にして硬直する綾香たち。中でも、瑞希は一際赤く染まっていた。

「ば、ば、ば、バカなこと言わないでよ。そ、そ、そ、そんな事、す、するわけないじゃない」

 何とか反論を試みるも、どもりまくりな為、まるっきり説得力が無かった。

「な、なんだよ。り、理奈さんだって、冬弥さんに求められたら何だってしてしまうだろ?」

「まあ、ノーマルな要求だったらね」

 梓の問いを、理奈はサラッと受け流す。

 ……ここだけの話だが、理奈の初体験の場はテレビ局のスタジオだった。これは十二分にアブノーマルな行為だと言える。……きっと、理奈の心には棚が何段もあるのだろう。

「そ、そんな事言ってぇ〜。ホントは理奈さんもいぢめられたりするの好きだったりするんじゃないのぉ?」

 軽く流す理奈に、綾香が言い縋る。
 本人は気付いていないのかもしれないが、理奈さん“も”と言っているあたりで、ドツボに陥りまくっていたが。

(やれやれ。普段はしっかり者の三人なのに、この手の話題になると、見事なまでのへっぽこ振りを発揮してくれるんだから。まあ、それが可愛いとこでもあるんだけどね)

 そんな事を思いながら、理奈が綾香に答える。

「そうねぇ。確かに以前はそういう嗜好もあったかもしれない。でも、今は違うわ」

「「「ホントにぃ?」」」

「ホントよ。だって……」

「「「だって?」」」

「今は、冬弥くんにいぢめられるよりも、冬弥くんをいぢめる方が楽しいからね♪」

「「「……………………」」」

 サラッととんでもない爆弾を投下した理奈に、他の三人は完全に沈黙。

 ついでに、聞き耳を立てていたのであろう周りの生徒たち、さらには、何故か未だに近くにいた留美とつかさも沈黙。思考を停止させてしまった。

「「「……………………」」」

 何とも言い難い、異様な静けさが店内に広がる。

 そんな中で、

「いぢめられてる時の冬弥くんの顔って、とっても可愛いのよ。それでねそれでね……」

 心底楽しそうな理奈の声だけが、いつまでも響き渡っていた。

 どうやら彼女も、ノーマルとは言えない趣味の持ち主であるらしかった。

 綾香たちとは別の意味で……。





 放課後は女の園と化すPiaキャロット。



 そこで話される事は、見た目の華やかさとは裏腹に……



 非常に生々しかった。











< おわり >








 < おまけ >

 理奈たちがお喋りに興じている裏で……

「あたしも、耕治にだったら何をされてもオッケーかも。うん。耕治にだったら、あーんな事やこーんな事でも…………えへへ…………って…………あ、あたしってば何を考えてるのよ! あーんもう! あたしのバカ!」

「わたしはやっぱり普通に愛されるのがいいですね。でも、耕治さんが望むのでしたら…………わたし、恥ずかしいですけど我慢します」

 あずさと早苗が身悶えていたり、

「男の人のいぢめられている顔って本当に可愛いのかしら? 今度、耕治さんで試してみましょうね♪」

「はいです。美奈、とっても楽しみですぅ〜♪」

 涼子と美奈が不穏な会話を繰り広げていたりした。





 『たさい部』の人間の思考は、実はかなり似通っているのかもしれない。





< おまけおわり >







 ☆ あとがき ☆

 白状します。このSSは、ただ好きなキャラを勢揃いさせたかっただけです(;^_^A

 本当は香里や沙織も出したかったんですけどね。でも、あんまり欲張るとドツボにはまるので泣く泣くカットしました(^ ^;



 ところで……

 この作品はウソが溢れています。

 瑞希は、おそらくケーキの類を作るのも好きでしょう。梓も然り。

 そして、もしかしたら、詠美は料理の腕前が抜群かもしれません。

 とにかく、あら探しをしようと思えばいくらでも見付かるSSですから、深く考えずに、スラッと読み飛ばして下さいね。いやマジで。お願いですから( ̄▽ ̄;



 さーて、次はあかり・名雪・由綺をメインした『Honey Bee編』かな(多分、大ウソ)







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