私立了承学園
a class in cleaning:「ベッドの下に・・・」

 

「・・・・ふう。」

 

背の高い本棚の上を拭き終えて、私は一息つくことにしました。

脚立代わりのイスから降りて、乾拭き用の黄色い化学雑巾を裏返してたたみ、綺麗な面をだします。

「あ、瑞穂お疲れ。それっ。」

「あ・・・・っとと・・・ありがとう。」

反対側の本棚を拭いていた香奈子ちゃんが、キャラメルを投げてきてくれました。

私は危なっかしくそれを受け取り、イスに腰掛けて室内を見渡します。

 

 

「今回の授業では、私が微力ながら家庭内の清掃法について、実践もあわせて説明させていただきます。

どうぞよろしく。」

 

担当のフランソワーズ先生がそう仰ったので、私達はみんないったん寮に戻り、効率的なお掃除、

無駄のない整理整頓の仕方や豆知識などをたくさん教わりながら、寮内の各部屋を掃除しています。

何しろフランソワーズさんはもう数百年間もデュラル家に使えてお掃除をこなしてきた大ベテランですから、

そのお掃除はプロ中のプロと言っていいでしょう。そこらの主婦やおばあちゃんたちよりも、はるかに年季が

入っているのです。

おかげで、台所からお風呂場、玄関からトイレに至るまで、いろんなお掃除のテクニックを私達に教えながらも、

この時間だけで寮の中のいたるところが驚くほど綺麗になりました。

 

「結構マメに掃除してたつもりだったけど、フランソワーズさんにかかると床とか輝きが違うわよね〜」

「うん。後は、この部屋に掃除機をかけて終わりだよね。」

 

今、私と香奈子ちゃんは祐介さんの部屋を掃除しています。

祐介さんの部屋は「書斎」と呼ぶのがふさわしい部屋です。8畳のお部屋の壁中全部が本棚で埋まっていて、

それでも本棚に収まりきらない本がプラスチックの収納ケースに入れられて床に積んであります。入り口から

3分の2がその書庫のようなスペースになっていて、奥にベッドと机が置いてあります。日当たりがよく、祐介さんは

よくここで読書をしたり、何か考え事をしていたりするんです。

以前、秋子さんは祐介さんの部屋を見て、別に書庫を用意すると言ってくれたのですが、祐介さんは

「あんまり広いと掃除が大変だし、落ち着かないから」と言って断ってしまいました。

・・・・なんというか、とても祐介さんらしい気がします。

 

「さて、最後にもうひと踏ん張り、掃除機かけちゃおうか!」

ポン、と膝をたたいて香奈子ちゃんは立ち上がると、掃除機からコードを引き出してコンセントに挿しました。

わたしはお洗濯をするためにベッドのシーツと枕にかぶせてある大きめのタオルを取り去り、新しい物に換えて

ベッドメーキングをしていきます。そんなに汚れてはいませんけど、まあいい機会ですからね。この寮にはシーツを

洗えるおっきな洗濯機もありますし。

取り去ったシーツとタオルを適当にたたんで・・・あ、なんかいい香り。祐介さんの香りが・・・・・

 

ぺしっ

 

「あいた。な、何するの、香奈子ちゃん?」

「お掃除の途中に長瀬君のシーツの匂い嗅いでポーッとしてるんじゃないの!他所様にそんな姿見られたら

おかしい娘だと思われるわよ?」

「う、うん・・・」

 

い、いけない、恥ずかしいところ見られちゃった・・・。香奈子ちゃんは私からひょいとシーツとタオルを奪い取ると、

部屋の入り口近くに持っていきました。でも、私に見えないようにこっそり頬擦りしたりしています。

 

「人の事言えないくせに・・・・」

「ん?なんか言った?」

「ううん、なんも。」

 

私はわざと気になる言い方をして、ベッドの下に掃除機をかけ始めました。

これで、今日のお掃除はおしまい・・・あれ?

だいたい掃除機をかけ終わったとき、ベッドの下の隅っこに、段ボール箱が置いてあるのに気付きました。

とりあえず箱をベッドの下から取り出して掃除機をかけ終えた後、私は香奈子ちゃんと顔を見合わせます。

 

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

私の脳裏に、以前他のクラスの皆さんがしていたお話が思い起こされました。

 

 

「それでお掃除をしていたら、和樹さんのベッドの下からHな本が出てきた事があったんですよ。」

「にはは、私も見たーー。なーんか顔真っ赤にして、『デッサン用の資料なんだ!!』とか

苦しい言い訳してたよー。」

「そういえば浩之さんも・・・・」

 

そのときは、皆さんにあわせて笑いながらも、「祐介さんはそんな事しない」なんて、心の中でささやかな

優越感に浸っていたのですけど・・・

まさか・・・でも、この箱はやっぱり・・・でも、祐介さんはお風呂上りにバスタオルを巻いた私の姿を見ちゃった

だけで真っ赤になるぐらいなのに、まさかそんな本なんて・・・でもでも、祐介さんも男性ですし、赤の他人だったら

感じ方が違うのかも・・・

 

 

つ・・・と顔を上げると、香奈子ちゃんもどうやら同じようなことを考えていたようです。

と、とにかく中身を確認しなくてはいけません。それでもし、中身が想像通りだったら・・・やっぱりここは、

千堂家の皆さんに倣ってお仕置きを・・・・

 

すっ。

 

「え・・・・香奈子ちゃん?」

「ダメよ、瑞穂。これは長瀬君のプライバシー。家族でも、その辺の礼儀はちゃんと守らなくちゃ。」

 

箱を開けようとした私の手を止めて、香奈子ちゃんはそういいました。

そ、そうですよね。祐介さんにも見られたくないものぐらいありますよね。

それに、そのぐらいの事なら高校生の男の子なら当然だって聞きますし、むしろ祐介さんにはもうちょっと

そういう刺激に強くなってもらった方がこちらとしても・・・・

 

「瑞穂ちゃん、香奈子ちゃん、こっち終わった?」

 

「「きゃあっ!!」」

 

突然うしろから声をかけられて、私も香奈子ちゃんも跳び上がってしまいました。

 

「ゆ、祐介さん!!お願いだから気配消して近づくの止めて下さい!!」

「?いや、消してるつもりもないんだけど。これはうちの家系だから慣れてくれないと。」

 

・・・・どんな家系なんですか長瀬家って。

 

「それより、僕たちのほうももう終わったから、そろそろ教室に戻ろうって・・・・」

まだどきどきしている私達をよそにそう言った祐介さんでしたが、私達が前にしている箱を見て

黙ってしまいました。顔をちょっと赤くして、目をあわせずに話し出します。

 

「あ、ああ、そっか、これか・・・。えっとその、なんていうか、前にも何度も捨てようと思ったんだけど、

正直やっぱりちょっともったいなくて・・・いまだにこんなの持ってるなんてやっぱりちょっと恥ずかしい

から、こっそりしまってたんだけど・・・その、もちろんもうそろそろ卒業しようと思ってたんだけど、

ついつい処分するの忘れてて・・・・」

 

「ううん。言い訳しないで長瀬君。男の子なら、みんなこういうの買うっていうのは知ってるから。

私達、別に気にしたりしないよ?ね、瑞穂?」

「う、うん。」

 

さ、さすがは香奈子ちゃん、冷静な大人の対応です。こういう配慮が行き届く所は、やっぱり

大人っぽいですよね。私も見習わなくちゃ。

祐介さんはちょっと安心したような顔をしてから、すっとその段ボール箱を持ち上げると、

にっこり笑って言いました。

「さ、じゃあ教室に戻ろうか!」

「え?ええ。あの、その箱、どうされるんですか?」

「うん、やっぱり捨てるよ。」

「え・・・べ、別にそんな・・・・」

「ありがとう、二人とも。気を使ってくれて。でもやっぱり、いつまでも二人に甘えて子供でいるわけにもいかないしね。

けじめはつけるよ。」

 

な、なんだかこうなると逆に申し訳ないような・・・で、でもやっぱり本音を言うとそんな本は見て欲しくないし、

そんな本より私達を見ていて欲しいし・・・・

 

「さ、いこう。沙織ちゃん達も待ってるし・・・・あっと!!」

「あっ!!」

なんとも複雑な表情でたたずんでいた私達二人を祐介さんが急かした時、ガムテープが弱くなっていたのでしょう、

箱のそこが抜けて、中身が私達の足元に散らばりました・・・・・・・・・って・・・あれ?

 

「あーあ。急いで片付けなきゃ・・・。確か引き出しにガムテープが・・・・」

 

祐介さんは慌てて箱を補修して、がちゃがちゃと散らばったものを片付けていましたが・・・・

 

 

申し訳ないことに、私も香奈子ちゃんも固まってしまって、全然手伝えませんでした。

足元に散らばった、祐介さん秘蔵の・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

びっぐぼるほっく?

こんばとらあぶい??

げきがんがあすりい???

とらいだあじいせぶん????

 

・・・・・・・・・・・祐介さん(涙)

超合金合体ロボを、そんな意味ありげに隠さないで下さい・・・・・・・・・

全然捨てる必要なんてないですから・・・・・


珍しい試みと思われる、瑞穂ちゃん一人称です。

超合金やガンダムのプラモデルなんかは自分もいまだに「かっこいいなあ」と思って、

玩具コーナーで物色したりしますけど、やっぱり少し気恥ずかしい感じはありますね。

いつまでたっても子供と言うか、飽きないというか・・・でもそんな自分がちょっと好き。


 ☆ コメント ☆ 綾香 :「フランが誠のとこ以外の授業を担当するなんて珍しいわね」 セリオ:「ですね。でもまあいいじゃないですか。      フランさんがいろいろなクラスで授業をして下さるのでしたら      それは非常に喜ばしいことです。      なんと言いましても、彼女は了承学園に残された数少ない良識派なのですから」(;^_^A 綾香 :「た、確かに」(^ ^; セリオ:「ところで……話は変わりますが、      男の人が物を隠す時って、どうして決まってベッドの下なんでしょう?」(・・? 綾香 :「さ、さあ?」(^ ^; セリオ:「不思議ですよねぇ」(・・? 綾香 :「そうね。ある意味、見付けて下さいと言わんばかりの場所だもんねぇ」(^ ^; セリオ:「謎です」(−o−) 綾香 :「ま、まあ……お約束ってやつなんでしょ。      それにしても……祐介ってば、超合金なんかわざわざ隠さなくてもいいのに」(^ ^; セリオ:「まったくです。隠す必要なんかないですよねぇ」 綾香 :「うんうん。セリオなんか堂々と部屋に飾ってるし」(^ ^; セリオ:「もちろんです。      おもちゃは飾ったり実際に手にとって遊んだりしてこそ意味があるんですから」(^0^) 綾香 :「うん。あたしもそう思うわ」(^^) セリオ:「でしょでしょ。      てなわけですから、綾香さん。今度一緒に遊びましょうね。超合金で一晩中」(^0^) 綾香 :「……それは勘弁して」(−−;



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