私立了承学園第436話

「R−18」(こみっくパーティサイド)

 

作:阿黒

 

※この作品はあくまでエンターテイメントとして書かれたものであり、くれぐれも登場人物の発言が作者の意見であると誤解しないようにお願いします。

※一部不穏当な発言もありますが、シャレと思って軽く流してくだされば幸いです。

※健全な青少年は読まない方が身のためです。


「グッドモーニングまいブラザー、あーんどまいシスターズ!」

相変わらずの物言いで、しかし教室の扉を開けて普通に入ってくるという、大志にしては随分おとなしい登場方法に千堂家一同はほんの一瞬、怪訝な視線を交差しあった。

「ふむ。今朝も我輩の心のようにさわやかに澄み切った気持ちのよい朝であることだな…くくくくく」

「アンタ、その最後のくくくくで爽やかぶち壊し」

「何より今朝が爽やかなのは認めるが、おまえとの関連性はキッパリとないわい」

 瑞希と和樹が半眼の視線を向けるが、まあ、大志がこの程度の事では全く痛痒を感じないのはいつものことである。

「ふっ…あまりの爽やかさに、今日は我輩の事はお兄様と呼んでも差し支えはないぞ、まいシスターズ。何ならより上級形のおにいたまも可」

「じゃあ、おはようございますです、変なおにいたま☆」

「うっわ、腹立つくらい素直やな〜」

何の抵抗もなく言ってのけた千沙に、少し肩をコケさせながら由宇がうめいた

「それでは私も…今日は一体、どんな授業なのですか大志お兄様?」

「ふっ…自分よりはるかに年上の南女史にお兄様と呼ばれるのは少々抵抗を感じないでもないですが、まあいいでしょう」

「いいの―――――――――!?」

「ってか恥を知れや牧や〜〜〜ん!!」

 などと、頭を抱える千堂家(一部)には目もくれず、大志は気取った仕草で眼鏡の角度を直すと、高らかに宣言した。

「同志和樹よ!我が魂のまい双子よ!……今日の課題は、我らが野望達成のために絶対に押さえておかねばならん、必須課目…それが今日の授業だ。

 まいすてでぃよ。…正直、我輩としては今までお前にはこの課目はまだ力不足なのではと危惧していたのだが…だがここ最近のお前の実力を分析した結果、まだ若干の不安材料はあるもののついに今日、伝授を行うことに決めた。

 …同志よ。我輩はついに、お前がここまで上ってきたことを誇りに思う。だがしかし!それでもまだ、ここは通過点にすぎんのだ…我らが野望への道は、これより更に厳しく、激しさを増す。

修羅となれまい兄弟!修羅に入り、修羅とならねば頂点を極めることなど夢のまた夢。これより先は引き返すことの出来ぬ、本当の漫画の修羅道!!

それを理解した上で覚悟を決めろ。……千堂和樹!!」

正気かどうかは疑わしいが、本気であることは間違い無い。常にも増して熱く、そして真剣な大志に圧倒され、和樹は咄嗟に助けを求めるように周囲を見回した。

「そうか…ついに和樹も…。和樹、これがあんたという男の真価を問われるトコロやで。気合入れや」

「和樹さん…確かにこの試練は辛く苦しいものかもしれませんが…でも、私は和樹さんならきっと乗り越えられると信じています」

 ただ二人、大志の言葉を理解しているようである由宇と南が、そろって拳を握り締めてくる。その、とてつもなく真剣で、緊張に震え、そして何気になんか異様な熱気の篭った瞳に、和樹は我知らず2、3歩後退いていた。

(お…俺は、怯えているのか!?まだ具体的な話さえ聞いていないっていうのに…俺の漫画家としての魂が、大志や由宇達から既に感じ取っているというのか?本能的に相手の巨大さと、その恐ろしさを!!?)

 相手の姿も見ないうちから慄いているだなんて。

「無様な…!」

 小さく呟くと、和樹は唇を噛みしめた。昂然として胸を張り、一歩前へ、踏み出す。

「御託はいらない。…話を聞こうか」

「……よかろう。同志よ」

ほんの微かに笑みを浮かべ、しかしそれをすぐに収めると、一転して厳しい…というより厳かな表情で、大志はゆっくりと語り始めた。

「人間を突き動かす最も根源的、かつ巨大な衝動、感情…それは何だと思う?

 愛?友情?正義?良識?仁義?

 理想?野望?願望?夢?

 ……そう…人間は、望むものだ。

 快楽を望み、享楽を求める。悲しみや苦しみを拒否し、快さと喜びを貪る。正しからんと自ら規律を作りながら、同時に怠惰を好む。

 望む。求める。希求する。

 即ち欲望。

 己の欲を満たすことが人間の、いや命あるもの全てが持つ、生きることの意義であると言えようか?そう!生きるということは己の欲を満たすということなのだよ!」

「何を思いっきり自堕落なこと言ってんのよあんたはっ!!」

 何だかもう色々なものを振り払った感じでうきゃーっ!と牙を剥いて、瑞希が喚いた。

「ああもう!何だかちょっとマジメっぽいかなって思ってたけど所詮は大志なのねっ!そんな、ただ己の欲を満たすためー、だなんてそんなのドーブツよっ!ケダモノじゃない!」

怒りか、羞恥か、あるいはその両方かで顔を赤くしている瑞希に、大志はアッサリ頷いた。

「その通りだよまいシスター。ただ本能に従って快楽を貪るのみというのは獣の所業だ。人間と動物の違いはそこにある。人間とは理知的なものだよ。己を省み、理性を以って己を律することができる。ただ欲望に流されるままにならず、己の所業に恥じ入る心をもっている。

 だがその一方で、欲望というものが人間の全ての行動原理に連なるものである、ということもまた事実だ。

 欲を持たぬ人間などいない。いるとしたら、それはもはや人間以外の異種生命体だ。欲望は良かれ悪しかれ、人間が本来自然に持っているものなのだからな。

 恥ずべきは欲望を持っていることではない。その欲望に流され、己自身をすら満足に制御できぬ惰弱かつ愚かな輩よ。例えるなら目前の締め切りを守らず遊び呆けて周囲の人間に迷惑をかけまくった挙句に鉛筆入稿、下書きの同人誌を出しておきながら己の愚行に気づくこともなく逆に「こんなゴミをありがたがって買う奴はバカだ」等と嘯く大家気取りの自己中野郎であるな」

 腕組みをし、虚空に視線を向けていた大志はそれを目の前に戻して。

「どうしたのだ同志和樹・詠美・玲子?教室の床は冷たくて固くてあまり清潔ではないから、それほど寝心地がいいとは思えんのだが」

「い、いや…なんかちょっとだけ、色々と心に刺さるものがあって…ちょっとだけ…ちょっとだけだぞ?無論、そこまでひどくはないが…そんな、締め切りを破るなんて、滅多には…」

「ふ、ふ、ふ、ふみゅみゅ〜〜、え、鉛筆書きの本だって、こ、このちょおてんさい美少女マンガ家のあたしの本なら、そ、そのへんのばんぴーのクズ本よりおもしろいんだもん!」

「あ、愛はあるわよ…キャラに対する愛は…た、ただあたしの場合技術が伴わないだけで…そ、それにあたしは万年島暮らしの弱小サークルだし…」

 どことなく自己弁護じみた口ぶりでそんなことを呟きながら、それでも三人は椅子に座りなおしてくる。それを待ってから、大志は教卓に手をつき、身を乗り出してきた。

「そこでだ、同志。…これまでお前は様々なジャンルに挑戦し、読者の心を掴む漫画を描いてきたわけだが…人間の持つ最も基本的、原初の欲望を扱ったジャンルにだけは、今まで手を出してこなかった。

 それは確かに描けばある程度の成果は確実に見込めるが、しかし道を踏み外せば深き奈落に転落してしまう危険なものだ…」

「大志…」

 朗々と語る大志を口を塞ぐように、静かに和樹は手を挙げた。

「大志。…思わせぶりなことを言うのは、もう止めてくれ。お前がそこまで遠まわしな言い方をするジャンル…俺だってもう素人じゃない。薄々、わかってるよ。俺も今まで興味が無かったといったら、嘘になる。けれど、今まで、どうしても手を出せなかった…禁断の領域。アレ、なんだろ?」

「あれ…?」

瑞希が、首を傾げながら呟いた。詠美とあさひが顔を見合わせ、千沙と郁美は全く解らない顔で、ただ座っている。玲子は僅かな期待を瞳に宿らせ、そして彩は、何を考えているのか外見からは全くわからない、いつも通りの静かな雰囲気をたたえて、佇んでいる。

大志は、左手でメガネを押さえると、右手の人差し指を力強く和樹に向けた。

「そうか…ならば言おう!

同志和樹!!お前は…エロマンガを描くのだ!!!

 

どど―――――――――――――ん!!

 

「人間のリビドーを露骨に扱ったこのジャンル!エロ様!!

人間の、いや命あるもの全てが持つ最も基本的かつ根源的な種族維持の本能!

ビデオデッキやパソコン、ゲーム、マンガが現在身近なものとして隆盛を極めているが、それらが社会に浸透するのに多大な貢献を果たしたのは、アダルト向けというジャンルを内包していたからだ!

エッチなゲームをしたい!アダルトビデオを見たい!18禁アニメを見たい!……まあ、いささかエレガントではないが、その魂の奥底からのリビドーが、商品化当初はまだまだ値段も高かったビデオデッキやパソコンを購入させ、結果として一般的な家電として世界中に普及し、それに伴って高性能化・低コスト化を実現させるため各社が競って技術革新に努め経済を促進させたわけだ。

まさしくエロ様があればこそ現在の経済大国としての日本があり、そしておたく文化の開花があったわけだ!

わかるかな諸君!?」

「全然わかんないわよ――――――――――!!」

 歌舞伎のように横ポニーテールにした髪を振り回し、涙すら滲んだ声を瑞希は上げた。

「ちょっと和樹!あんた、まさかと思うけどこのバカの口車にのってエロ本なんか描くつもりになってないでしょうね!?」

「え、いや、その…」

 襟首を掴んで凄む瑞希の視線から目を逸らし、モゴモゴと和樹は口を蠢かした。そんな和樹の態度に、瑞希の眉が更に急角度で跳ね上がる。

「まあ、あたしもオタクに対して少しは理解できるようにはなったけど!そんな、エロ本作ってる連中は別よ!

 どう考えたって変よ!異常だわ!絶対、ぜーったい、変態よっ!

 そんな、生身の女性に興味が持てなくて、絵に描かれたマンガのキャラにしか欲情できないなんて不健全すぎるわ!いつもいつもそんな変な、いやらしいことばっかり考えてるなんてどこをどう考えても危ないわよ!理解できるほうがどうかしてるわっ!!

 いいえっ!もうそんな人はオタク以下の犯罪者よっ!!

しかもカードマスターピーチの18禁同人誌なんて、モモちゃんはまだ小学生なのよ!?ロリコンよっ!アブノーマルだわっ!しかも変身シーンでHばかりしている本ばかり集めてるし!和樹、やっぱりそういうのがいいわけっ!?」

「待て――――――――!!?み、み、み、見たのか瑞希俺の秘密のコレクションをっ!!?」

「なーんか、途中から私憤が混じっとるなぁ…」

「和樹さん…そういうの…好きなんですか…?」

「ふみゅみゅみゅみゅー、ふけつよふけつよポチき――!!」

「はっはっはっ。それでこそ選ばれたオタク戦士!見事に一般人の道を踏み外しているぞ同志和樹よ!」

「あうううううううううううううううううううううう…」

かなりこっぱずかしい秘密を暴露され、机に突っ伏して泣いている和樹はとりあえずおいといて、由宇は瑞希に体ごと向き直った。

「けど、まあアレやな瑞希っちゃんも大分この世界に馴染んだようで、まだまだわかっとらんなー。

 ほななにか?エロマンガ描いたり買ったりする奴は、みーんな異常性犯罪者か?犯罪者予備軍か?社会不適応者かいな?ま、確かにエロマンガつーと、あんまし人聞きよくはないわな。

…でもな、それは偏見ちゅうもんやで?短絡もええとこや。物事の上っ面だけ見てアホな事言わんといて欲しいわ。

エロマンガが異常性犯罪を誘発する?

エエ加減なこと言うな!んな十代にエロ雑誌のお世話になっとらん青少年が何処におるかい!人間なら誰でも通り過ぎる青春の1ページやで!?むしろ、そんなもんに触れもせんほうがよっぽと不健全や!本来旺盛にある異性への興味を、無理矢理抑圧するわけやからな。そら、ストレス溜まって暴発しないかヒヤヒヤやわ。

人間、センズリこいてスッキリしてれば犯罪なんか起す気にはならん!!!」

「えーと…あの…その出張はわからなくもないんだけど…」

「由宇…お前、それ女の台詞じゃねーぞ…」

 瑞希と、どうにか復活してきた和樹が、やや顔を赤らめながら遠慮がちに言ってくる。

「ふむ。まあ、このジャンルは確かにあまりみっともいいものではないからな。同志瑞希がそのような懸念を持つのは仕方がないかもしれん。

 確かに、たかがエロマンガかもしれん。

 だが、されどエロマンガ!そう…やはりマンガであることに変わりはない。そして、マンガである以上、読者に支持されない作家と作品は淘汰され、消え行くしかないという定めは普通の漫画と何ら変わりはない!

 たとえどのようなジャンルであろうとも、読者は貪欲なものなのだ。常により上質の、より良い作品を求めるものだ。それに応じられなければただ見捨てられるのみ!!!」

「…日本のマンガは残虐シーンや性表現が露骨過ぎるという非難を受けています。実際、流行作品でそのような要素を含んでいない作品は数少ないものです」

 控え目な口調で、南が大志の後を引き取るように口を開いてきた。右手を頬に添え、少し困ったような口調で続ける。

「ですけど、そういったシーンさえ描いていれば売れるわけではありません。週刊少年誌ではその大半がバトルシーンを売りにした作品が多いですが、どんなに高い画力で残虐な暴力シーンを描くことができても、只それだけで連載が続くことはありません。読者の支持が受けられなければ、つまりつまらないと判断されればすぐに紙面から消えてしまいます。

 …子供は確かにまだ未熟かもしれませんが、それだけに作品に対する評価はある意味、シビアです。おもしろいか、おもしろくないか、評価の基準はただ、それだけ。おもしろくない、と思う作品には目もくれません。そして、意外に確かな審議眼を持っているものです。実際、子供達に人気のある作品は、まず大人の鑑賞にも堪え得るレベルを持っているものですから…」

「ま、マンガは身近で誰もが生活の中で触れるものである以上、青少年育成に何らかの影響を与えていることは間違いない。こみパのオタクどもの中には一般常識をわきまえんバカがようさんおるのも事実やし」

絶対に、自分はそのバカには含まれていないことを確信している口調で、由宇は堂々と言い切った。和樹や瑞希はちょっと半眼になっていたが。

「人間が100人いれば、100人とも善人やなんてことは絶対ない。悲しいけどな。100人もいれば、その中にはホンマ、ムナクソ悪いアホも何人かはおるやろ。それが人間ちゅうもんや。マンガに誘発されて、考え無しに犯罪おかすクズかておるやろ。

 でもな、一日来場数20万というこみパのオタクどもは、バンピーよりもディープな精神構造しとるが、それでも大多数の人間は危険人物なんてもんとはほど遠いで。そら、コマい所ではアラもいっぱい持っとるけど、本気で深刻な犯罪をしでかす奴なんて、まずおらん。少なくとも、年間検挙される犯罪者の中で、オタクが占める割合なんて、ちみっこいもんやろ?

ただ、たまたまそーいう目立つ犯罪が起こった時に、犯人がオタクやったりすると、その特殊性を犯行の動機付けにしやすいからバカなマスコミや自称知識人なんぞと称する輩がロクな分析もせんと安易にマンガやアニメが悪いて決め付けてしまうんや!

そんな、安直な理由だけで人間の犯罪心理を説明づけられるわけないやろ!!?

いっとくけどな!異常犯罪起す奴なんてある意味みんなオタクやが、オタク=漫画オタクと違う!そこんとこの区別もつかんアホが知ったかぶりの間違った知識と認識ひけらかして、ますます世間一般に間違った偏見が広まるんやで!ホンマ、大多数の善良なオタクはえらい迷惑や!!」

「う…うーん…まあ、それは確かに一理あるかもしれないけど…」

大志ばかりか南と由宇にまでそう言われて、多少ひっかかるものを感じながらも瑞希は声のトーンを落とした。そんな三人を満足そうに見つめると、大志は。

「うむ!というわけでなんかチャチャっと同志瑞希も小器用に納得してくれたようなのでノープログレム!何ら後顧の憂い無し!

 ま、そういうわけだからここはサクッとエロマンガを描いてみようかまいエターナルパートナー!!」

「なああなあなあ和樹ー、うちあんたのエロい絵って見たことないんやもん。ポリッと一発描いてみん?うちの希望はとりあえず猫ミミぷに萌えメイドは外せんとして…」

「なんか絶対だまされてるよ和樹――――――――――!!!」

「ま、ま、ま、落ち着いて瑞希ちゃーん。悪いようにはしないからー」

「玲子さん…」

 瑞希の肩を押さえると、玲子は、ずいっと和樹の前に進み出た。

「千堂くーん」

「…言っておくけど同じ18禁でも女性向邪系同性間恋愛モノは、創作も二次創作もやらないからね」

「そんな言下に断らなくてもいいじゃない…しくしく」

 半眼でキッパリと拒絶する和樹の前から引き下がった玲子に、由宇と大志、それに南がそれぞれそっと耳打ちをしてくる。

(…あかん、今はまだ早いて。段階を踏んで、徐々にやな)

(とりあえず、今は男性向けから慣らして羞恥心を磨耗させて、それからですよ)

(ふっ…我輩とまいだーりんとの愛の交歓はまだフラグが立っていないからもう少し待ちたまへ)

「キミタチ…なんか、思いっきり、不純で不穏当なことを企んでないか?」

「ふみゅみゅー。なんかパンダのあの目は絶対何か変なことたくらんでる時の目だわー」

「うっさい。とりあえずお子ちゃまの詠美ちゃん様は引っ込んどり。

 …ほな、早速レッスンに入ろかー?」

「あのね、猪名川さん!」

 露骨に話を誤魔化して強引に邪な方向に進めていこうという意図が見え見えの由宇たちに、和樹をかばうように瑞希は前に出た。

「和樹は健全な漫画家として正道をいくの!お願いだからこのバカに余計な知恵をつけないでちょうだい!あたしの目の黒いうちは、和樹にそんなエッチな漫画なんか描かせないんだから!!!」

「……当て身」

 

 とすっ!

 

「はうっ!?」

 いきなり手刀を延髄に叩き込まれ、瑞希はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。その背後に立っていた彩が、気絶した瑞希を郁美と共に成れた手つきで縛り上げると、そのまま二人で瑞希を教室の隅に引き摺っていく。

「…どうぞ…お話を続けてください…」

「…お兄ちゃん…郁美は今日、一つ大人への階段を上ります…天国から見守っていてください…」

「いや、死んどらんやろ雄蔵はん」

 ちょっぴり冷汗を浮べながら軽くツッコミを入れると、由宇は流石に事の成り行きに唖然としている和樹に向き直った。

「まあ…なんか色々あったけど、それはさておいて」

「さておくなよ」

「さておいて!とりあえず技術的な講釈…というか留意点やな。アンタは既に画力そのものは問題無いやろし」

 ぷるぷる震える目の前の由宇の拳に沈黙した和樹を見据えると、由宇は指導モードに入った。

「エッチ漫画ゆーもんはぶっちゃけた話、ズリネタやさかい」

「なんかいきなりやる気を削がれるぞおい!」

「かっこつけてもしゃーないやん。はよアンタも悟りの境地に至ってや」

「…単に羞恥心が磨耗して開き直ってるだけのような気がしこたまするんだが…」

「ゴチャゴチャうっさいわい!

 …エッチ漫画では普通の漫画よりも絵が重要になってくる。ま、絵柄の好みは人それぞれやけど、やっぱこの世界、萌え萌えなキャラを描ける人間が多いわな。普通の漫画と違うて中身がカスでもとりあえずやらしい絵を上手く描けるだけでそこそこはいけるし。ま、ウチとしてはそういうのはとっととエロゲーの原画家専門にでもなった方がええんちゃうか思うけど」

「お前…それはちょっとイラストレーターや原画家に失礼じゃないか?」

「適材適所や。そんな、エッチイラストだけでコケるのはセンズリ覚えたての中坊くらいやん。ヘタな台詞やたわけた話なんか読まされてみい、却って萎えるで。…なんや詠美、真っ赤な顔して?」

「あっ、あっ、あっ、あのねえパンダ!あんた、よくもまあそんな、はずかしいこと…」

「あんたかて18禁同人誌に興味ないわけやないやろ?自分じゃ買う度胸が無くて、和樹に買わせてたみたいやけど」

「ふみゅ!」

「ま、売れ線狙いのあんたがこのジャンルに手を出していないのは、意外そうで実は全然意外やないけどな。なんせ詠美ちゃんは純真でウブなお子様やさかい、描きたくても描けなかったんやもんねぇ」

「ふみゅみゅみゅ!!」

「でもま、エエ機会や。和樹共々、ミッチリ仕込んだるで〜」

「ふみゅみゅみゅみゅ〜〜〜〜…」

口惜しそうに、しかしおとなしく和樹の隣に座り込んでしまう詠美である。

「詠美ちゃん…こうやって少女は大人の女に変っていくんですよ…今日というこの日は青春のメモリアルとして…」

「しみじみ呟いてないで、若人が道を踏み外そうとしてるんですから止めて下さいよ、南さん…」

「まあまあ良いじゃないですか和樹さん。詠美ちゃんだって興味あるのは事実なんですし。

 さて。由宇ちゃんも言ってましたけど、18禁物では絵は大事ですが、それは単に萌え絵という事に限らないんです」

 南は即売会スタッフであり自身では同人誌を描いているわけではない。高校時代に本を作っていた経験はあるが、レベル的には素人に毛が生えた程度で、自分でも早々に才能には見切りをつけている。が、それでも漫画を描く上で必要な事、注意するべき点を身を持ってわかっているし、何より長年の経験により、マンガに関しては相当の見達者である。

18禁物は、当然ですけど…まあ、そういったシーンが主になるわけです。それを描くためには、様々な体位と、複数の人間の絡みを描ききれる確かなデッサン力と、連続するコマの中で読者を魅了する画面構成力が必要になってきます。

 単に一枚のイラストを仕上げるのと、小さなコマに様々なポーズと視点で描くのは全く次元が異なります。

 しかもそれは、人の性的興奮を盛り上げるものでなくてはなりません。普通のマンガと同じように、キャラの髪の撥ね、指の曲げ具合、目線、表情、体液の描き方と配置、ある意味普通のマンガよりもそういった小さな配慮と要素、そして演出が必要になってきます」

「南女史の云うとおり。エッチなイラストで血圧を上昇させるのはビギナーの小中学生くらいなものだ。多少なりとも目の肥えてきた読者は、ただ裸になっているだけの“絵”で興奮なんぞせん。

気分を盛り上げるための状況、猫耳メイド等の萌え要素、読者を飽きさせない画面構成、そしていやらしくも読ませるストーリー。これが揃ってこその18禁物だよまいエターナルパートナー」

そう言いながら大志は一冊の成年コミックを取り出した。同人誌ではなく、商業誌の単行本である。

「成年コミックはプロデビューへの近道という話もあるが…実際には、単行本一冊出せずに消えていく者も多い。よしんば出したとしても、一冊限りの作家もな。

 雑誌掲載時はともかく、己の作品だけをまとめた単行本になってみれば、途端に馬脚を表すことになってしまうこともある」

 大志の講釈を右から左に聞き流しながら、和樹はやや顔を赤らめ、パラパラとコミックのページをめくった。横からチラチラと詠美も遠慮がちに覗き込んでくる。

「……なんだか…似たような構図ばっかりだな。全部短編なのに、キャラの顔があんまり見分けがつかない。もう少しメリハリをつけないと、全然区別がつかないぞ」

「状況設定も同じじゃない。多少の違いはあるけど。キャラの名前も違うだけで、……これじゃ同じ作品を何回も使いまわしてるのと変わんないわよ」

「詠美に言われるようじゃおしまいやなぁ〜」

「どーゆー意味よパンダ!!」

「ほらほら、由宇ちゃんも詠美ちゃんもケンカしないの。

 …18禁物は、必ずこういったシーンを入れなければいけないわけですけど、その上で“おもしろさ”を両立させるのは、困難なことです。勿論、18禁物で“良い”というのはまずその…え、えっちが一番重要ではあるんですが」

「だから安易にスケベ描いてりゃエエ、なんて思っとったらそら大間違いってもんやで?女の子が裸でガバーッと股開いてああんスゴイ〜きてきて〜あたしの●×△に□◎◆突っ込んでえ〜ん、あーんもうイッちゃう〜〜〜〜とか、そんな頭悪そうなキャラが尻振っとるマンガじゃ、とてもウチは萌えんな」

「由宇…たまにさ、俺はお前が本当に女かって、疑いたくなるよ…」

 由宇の台詞に顔を真っ赤にしてふみゅふみゅ言っている詠美の頭を撫でながら、かなり疲労の混じった声で和樹は呻いた。

「しかし、大志や由宇はともかく、南さんがその手のジャンルに詳しいのは、ちょっと意外というか…まあ、南さんはベテランですから全く知らないというのも不自然ですが」

「…わ、わたしだって、別に自分でそういう本を、買ってるわけじゃ…ないんですよ?ただ、その…」

「牧やんは作家には顔見知りが多いからなぁ。だからようけ本もらうし、中にはその辺のツワモノからも…」

流石に顔を赤くして焦っている南を苦笑しながら見やり、和樹は納得した。別にそんな本に詳しくても、南はその道の達者だったわけではない。むしろ、年上のお姉さんでありながら、実際には初心な詠美や千沙と同程度だった。尤もかなりの耳年間ではあったが…。そして、その点では実は、由宇も同じである。結局のところ、千堂家の妻達は1人の例外も無く、和樹と出会うまではその“清さ”を保っていたのだから。

「で、でもですね和樹さん?…そういった漫画家さんって、それだけに結構おもしろい作品を描く人もいるんですよ」

やや自己弁護じみた口ぶりの南の言葉に、大志と由宇が頷いた。

「メジャーマイナーというかマニア受けというか…この分野はなかなか個性的な作家がいるのは事実だ。時にズバ抜けた人材を輩出することも少なくない。決して大々的に広い支持は受けないが、一部に熱烈な支持者を抱える事もある」

「まあ、一言で言うたらマニア受けやけどな。何をおもしろい、ちゅうのはなかなか定義づけなんかでけへんけど、飛びぬけた支持を受けるモノ、ちゅうのは評価が大きく分かれるもんや。

 …新人漫画賞で大賞とった人間がその後は鳴かず飛ばずで、逆に佳作程度の中から後に大作家が出る事の方が多い、ちゅうのは和樹も聞いたことあるやろ?」

 軽く和樹は頷いた。だが、考えてみるとそれは奇妙な話である。漫画賞の審査員は目の肥えた大作家や編集者といった人種が務めることが多い。そういった連中から選ばれた作品は当然、高水準のレベルにある筈である。にも関わらず、後に雑誌に掲載されたものを読んでみると、さして当り障りの無い、無難にまとまった小品である事がある。その後、受賞作家の連載が始っても、何時の間にか人知れず消えてしまった、ということも珍しくは無い。

「審査員とて人の子だ。当然、それぞれの好みというものがある。その好み次第では同じ作品でも評価は真っ二つに分かれてしまう。そういった審議の結果、手堅くまとまっていて誰からもマイナスをつけられなかっただけ、という作品が大賞として選ばれてしまうということも、ままあるのだよ。結果として一部の審査員には高い評価を受けながらも、好き嫌いが分かれて最終的には大賞より低いポイントしか得られなかった作品が佳作として位置付けられて終わることも、な。だが、それは個性的な作品である場合が多い。

無論、確かに高いレベルにある作品が大賞として選ばれることもある。だが、考えてみればそれは、新人の段階で既に完成されてしまっているということでもある。つまり、その作家は既に己の限界に到達してしまっていて、それ以上は伸びない、というケースもあるわけなのだな」

一旦言葉を切り、大志は大きく息をついた。

「個性的な作品、というのはその特色故に、世間一般から広い支持を必ずしも受けるとは限らない。だが、受ければ大ブレイクすることは珍しくない。他者の支持を受けるモノというのは、良かれ悪しかれアクの強い作品であるからな。時にはアクどころが毒に至ることもあるし、個性的イコール受ける作品とは限らん。どうしようもなく下らない個性、というものもあるのだからな。

 だが、世間的な評価は低いとはいえ、18禁分野の猛者連という奴は、時にとんでもなく化ける可能性を秘めている。

 同志よ。漫画界の覇者となるならば、この分野を必ず制しておかなければならん理由がわかったか?単なる市場としても、そして将来我らの野望の障害となるやもしれん強大な敵を生み出すジャンルだ。そして何より、これまでお前が培ってきたノウハウでは通用しない特殊な漫画と読者層を抱えている。

 まい兄弟。お前はこの修羅の中で生き残り、見事にこの修羅界を制することができるか!?」

「大志…」

 唇を噛み締め…そして和樹は、僅かに項垂れた。

「正直に言おう…俺だって、男だ。自分でいうのは抵抗もあるが、煩悩魔人なんて不本意な称号を受けていることも承知している。俺は…ちょっぴりスケベであることを、認めよう。18禁ものに興味があることも。

 だが…障害がある。大きな障害が。

 だからこそ、俺は今までこのジャンルに手を出せずにきた。

 実を言えば、構想を練って、絵コンテを書き上げたことだってあるんだ。だけど…だけど、どうしても、俺は、それを作品にすることができなかった!!…俺は…俺は、チキン野郎だ……!!!」

「同志…」「和樹さん…」

 大志達はしばらく黙って項垂れた和樹を見つめた。その中で1人、由宇が動いた。

「なんなんや、その障害って?言うてみい?」

 ノロノロと、頭を抱えた和樹は、それでも僅かに躊躇いながらも話し始めた。

「…俺の煩悩の趣くまま…俺は下書きをしたよ。時々ハッと覚めて、俺、一体なにやってんだって、理性の呼び声に己の所業を振り返って慄然としながらも、それでも、書き進めたよ…」

「下らん理性や良識など捨て去ることだまいブラザー」

「ちょい黙っとき!…で、それから?」

「いやらしいポーズの絵を描くことには、次第に慣れてきた…けれど、どうしても、どうしても慣れることができなかったんだ…」

 血を吐くような呻きを洩らすと、少し涙の滲んだ目を和樹は上げた。

「原稿として形にする時に…どうしたって恥ずかしいんだよ!女の子の喘ぎ声を、男の俺が考えるってのは!!」

「…は?」(×3)

「だってさ!?やっぱり、場の臨場感を醸し出すためには台詞も感情が篭ってないと雰囲気が盛り上がらないだろ!?アダルトビデオで、女優が大根な演技で台詞棒読みしてると、くだらなくて興ざめしてしまうだろ!?

 原稿執筆してる場だって、やっぱり気分が乗らないと盛り上がらないし!だから…俺は女の子の身になって、感情篭った台詞を考えたよ!!そしたら…そしたらさ!?

『ああん、もういっちゃうよおおおおお』とか!『そんなとこ舐めちゃきたないよぉ』とか!

『あっ、あっ、ああん、あっ、あああああ、いやあああ、イッちゃううううううううううううう』とかとか!!

一気に自分のやってることの恥ずかしさに気づいてしまうんだよ!もう身悶えするほどに!!」

「いや…聞いとるコッチもかなり不気味やで、和樹」

「…男の人がそういうこと言うのは、なんだか、かなり嫌な意味でくるものがありますね…」

 …………。

「それが当然よおおおおおおおっ!!!…ううっ、ペッペッ」

 いきなりそんな大声をあげて、失神していた瑞希が復活してきた。どうやら少々結び目が甘かったらしく、縛めを自力で解き、口に張られていたガムテープを剥がしながら続ける。

「そんな、人としてまともな理性と羞恥心を持っていたらそんな恥ずかしいこと出来はしないわ!和樹、それはごく真っ当な人間としては当たり前のことよ!人として、そんな恥ずかしいことには耐えられないわ!」

「瑞希っちゃん。…あんた、自分の心にやましいものはホントに無いんか?」

「あるわけないじゃないこれっぽっちも!!」

 夕暮れ時とはいえ、人目に触れるやもしれない公園で初体験を迎えた人間の言葉とも思えない。

「ええい同志瑞希!我輩たちのこれまで延々続いてきた18禁同人誌正当化のための理論武装を聞いていなかったのか!?」

「途中からなんか気絶させられて聞いてないわよ!!」

「むう…それは困った」

 大志の後ろで、彩と郁美がそっと瑞希から顔を背けていたが、まあそれはともかく。

「ええい、とにかく我輩たちの野望のためには通らねばならん関門なのだよまいシスター。とにかくそういう訳だからまい兄弟、とりあえずその羞恥心を磨耗させるためにギャグパロから手をつけてみるのだな。なに、同志ならばすぐにそんなやらしい台詞を考える苦痛にもすぐに慣れるであろう。我輩が保障する」

「保障するなバカ―――――――!!」

「瑞希ちゃーん。女の子だってレディスコミックとか好きなんだしー、やっぱ千堂君の描いたそういう漫画、見てみたい気持ちはあるよ?あたしは、もっと別な奴が見たいけど」

「玲子さんまでっ!!…ほ、他のみんなもそうなの!!?」

 その、瑞希の悲鳴のような問いかけに、残された他の妻達はおどおどと顔を見合わせた。

「ま、まあ、その、こみパのクイーンとしては、べ、別にそんなの興味なんかないけど、で、でもファンが望むなら、それに応えてあげるのも人気者のしゅくめいというかー…」

「うみゃー?千沙、あの、実はいままでのお話、ぜんぜんわかってないんです〜」

「え、えっと、和樹さんがそういう漫画を描いてみたい、というのであれば…」

「…私としては…和樹さんの意思を、尊重します…和樹さんが…描きたいのなら…必要ならモデルだって…」

「あ、彩さ――――――ん!!そんな自分を安売りするようなこと言っちゃダメよ――――!!か、和樹のバカに好きなように、なんてさせたらどんないやらしいカッコさせられるか…!!」

「あらら?瑞希さん、そういう経験あるんですか?」

「えっ、いえっ、あの……!!」

 南の何気ない指摘に、簡単に自滅しかけている瑞希であった。

 と。

 それまで、この時間まったく発言せずただ顔を真っ赤にしていたあさひが、おずおずと和樹の傍に近づいて、袖を引いた。

「ああああああのあの、かか、か、和樹さん…」

「うん?どうしたの、あさひちゃん?」

「え、えと、えと、あの、あ、あの、あのですね…」

 あたふたと意味もなく周囲をみまわし、わたわたと手足をばたつかせながら、あさひは、ともすれば消え入りそうな小声で、和樹に言った。

「あ、あ、あの、わ、わたた、わたし、その、えっと、だから…。

 か、和樹さん、に、えっと…かいてほしい…です。その、あの、……ぷ、ぷに萌えメイドさんのオムツ失禁もの…とか…」

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

「あ〜……今、なんと申された?あさひ、ちゃん?」

 動揺しているように、語尾を震わせたその言葉を発したのは……大志だった。

「えっ…い、いえ、そ、そそそんな、わたし、和樹さんにネコ耳少女調教ハードコアとか女秘書SM緊縛六大地獄巡りとかモモちゃん×ちとせちゃんのハートフルれずれずスカトロものを描いて欲しいなんて、コレッポッちも思ってないです!!」

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

「…あさひちゃん…アンタ、それ説得力無さすぎ…」

 と、由宇がポツリと呟いた時である。

「……ウソだ」

「大志…?」

 和樹は目を瞠った。この男とのつきあいは嫌になるほど長いが、その長いつきあいの中でも、大志が顔を青ざめさせ、冷や汗をかきながらブルブル震えるなどということは、今までに一度も無かったことである。この男はチョバムプレートの面の皮と、ワイヤーロープの神経の持ち主であった筈だった。

「そんな…そんな…」

 大志は、二、三歩よろけると、臓腑から搾り出すような声を上げた。

「そんな…そんな…我らのあさひちゃんが、我らが女神あさひちゃんが、その清純な唇で、涼やかなる声で…スカトロなどっ!!?」

「あー。いや、あのな、大志?」

「たとえ…たとえ、人の妻になろうとも、その穢れなき天使のような心は永遠であるはずだ…あさひちゃんは、あさひちゃんは…」

「いや、俺も、その意見には賛成だし、だけどちょっと、今の発言には驚いてるのも同じだが、大志お前ちょっと?」

「う…う…」

 そう呟きながら更に後退した大志は、突如身を翻し教室から飛び出していった。

 

「ウソだああああああああああああああああああああああああああああっ!!!

 我輩は認めぬ!認めんぞおおおおおおっ!!

 あさひちゃんは、うんこもおしっこもしないんだあああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

「人聞きの悪い事を大声で叫びながら駆け去るなああああっ!!!?」

 

「……和樹」

 あっという間に視界から消え去った大志に呆然としている和樹の肩に、瑞希はしみじみと手を置きながら言った。

「いい?あれがつまり、なれの果てよ?」

「あ、あのあの、あの、えと…」

「まあ…そうかもしれんが…」

 あさひ同様、その瑞希の意見には全面的に賛同はできぬまでも、しかし、今は何も反論する気にはなれない和樹だった。

 

 

 

(終わる)

 

 

 

 


【後書き】

えーと。まあ、黒磯の例の事件に触発されたわけじゃないんですけどね。ネタそのものは割と前から温めていたものですし。

 

「サルマキスの恋人たち」というコミックスがあります。まだ成年コミックマークが付く前に発行された古いものですが。

 作者は、あんくるさむ先生。(KOFのアンソロとか、故サターンFUNでドラゴンフォースの漫画とか描いてましたね)

 その中の一編に、こんなお話があります。

 1人の放浪中の剣士が迷い込んだ森の中で、1人の老婆と出会います。老婆は大きな天幕を構え、ここで春を売る商いをしているのだと。

 老婆は1人のまだ幼さの残る少女を呼び出します。無言で少女は男の前で身を覆った布をはだけ、己の身体を晒します。男は一夜の宿代わりには丁度良いと、少女を買います。

 事の終わった後、閨の中で男は少女に語りかけます。あの老婆は血縁というわけではなく、お前はさらわれてこのようなことをさせられているのだろう?あの老婆を俺が斬ってやろう。そうすればお前は自由の身だ。

 それまで表情らしいものを浮かべなかった少女が、蔑みの笑いと共に言いました。

 そんなことできるわけがない。あなたのような、下衆に。

 その言葉に激昂し男は剣を少女に突きつけます。少女はその剣尖に噛み付いて、言いました。

 金で女を買うような下衆に、誰が…!!

 憎悪で歪んだ、悪鬼のような少女の顔に、立ち読みしていた私は、こういう表現は、漫画ならではだなぁ…と感歎しましたね。

(買って読めよ、オレ)

 氏の作品集の中である単行本の中では、さして目立つものではないかもしれません。しかし、これが掲載されていた雑誌の中では、その特異性は目立っただろうなぁ…そう思います。

 

(ちょっといい話?)

 表紙が明るいイメージで、キャラがセル塗りの成年コミックってのはまずハズレです。つまんないギャグつけて適当にオチにもなってないオチつけてるものが多い。絵も、キャラはそこそこですがそれ以外はまずダメでしょうね。

 絵的なことを言えば、アクセサリーとか小物(靴、時計等)を丁寧に、上手に描けているかというのが一つの目安かな?

 でもまあ、生身の彼女を持つ方がいいんだけどねぇ(^^;こんなことに詳しくてどーする、って感じデス。

 

 



 ☆ コメント ☆

浩之 :「和樹さんが描いたエロマンガ……かぁ」

綾香 :「なーに。浩之ってば興味あるの?」(¬_¬)

浩之 :「い、いや! そ、そんなことはないぞ!」(@@;

綾香:「…………エッチ」(¬_¬)

浩之 :「だ、だーかーらー!」(@@;

綾香 :「あはは、ウソウソ。冗談よ。男の子だもん、興味あるのは当然でしょ」(^^)

浩之 :「そ、そうだよな。当然だよな。あ、あはは」(^ ^;

綾香 :「だから、あたしは『読んじゃダメ』なんて事は言うつもりはないわ」(^^)

浩之 :「そうなのか?」(^ ^;

綾香 :「うん。ただ……その代わり、二つだけ条件があるの」

浩之 :「条件? なんだ?」

綾香 :「一つ目は、間違っても……」

浩之 :「間違っても?」

綾香 :「大志さんみたいに濃くはならないでね、お願いだから」

浩之 :「なれるわきゃないだろうが。
     ……で? 二つ目は何だ?」(^ ^;

綾香 :「エッチな本を買ったら……」

浩之 :「買ったら?」

綾香 :「あたしにも見せてね」(^0^)

浩之 :「……………………をい」(−−;

 

 




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