私立了承学園

『必須科目』

 作:OLSON

 Kanonサイド


 妻達がエプロンを着けている。

 その下には…ちゃんと服を着ている。  

 動きやすいジーンズとトレーナー。

 色気こそ無いが、これはこれでいい感じだ。

 そして…俺も同じ服装だ。

 何故かと言うと…。

 

 

 

      『ボランティア』

 真琴が教室に入って来るなり、緊張の面持ちで黒板に下手な字で書きなぐった。

祐一「おーい、居ないと思ってたら教壇で何やってんだ?」

真琴「あぅー、祐一…いや、相沢君! 私語挟まない!」

香里「相沢…君?」

祐一「…で、何の悪戯だ?」

真琴「先生に対してその言い方は何よぅ?」

全員「え?」

真琴「あぅ…この時間は真琴が先生なのよぅ…だから、生徒と先生でケジメは付けなくちゃならないから、名字…は、みんな同じになっちゃったから…旧姓で呼ぶの」

祐一「名字…て事は…」

名雪「沢渡先生?」

(佐渡先生すみません)

 

 

 そして…俺達は真琴のバイト先である保育所に向う事になった。

 

 

子供「うえ〜ん」

祐一「あーあ…ほら、泣くな」

子供「びえ〜ん!」

祐一「折り紙なんて、どうでもいいから…」

 この男の子は、俺が作ってやった折り鶴が気に入って遊んでいたのだが、転んだ拍子に破けてしまった。

  そして、どんなにあやしても泣き止まないのだ…。

「しゃあないやっちゃな、あんたは…」

  後ろから声を掛けてきたのは…。

 ここに勤める保母さんであり、秋子さんの友人でもある晴子さんだった。

晴子「ほら、ここきぃ」

 そう言って、とたとたと駆け寄って来た男の子を抱き上げ、あやし始めた。

 そして、軽く頭を撫でて二、三言葉を掛けたらあっさり泣き止んでしまった。

 流石は年の功である。

 晴子「なんやてぇ?」

 どこからともなく取り出したハリセンで、俺は容赦なくシバキ倒された。

 

 口には出してないはずなのに…俺って、もしかして『サトラレ』?

 薄らぐ意識でそう考えていた。

 

 妻達の姦しい声は続く。

舞「うさぎさん…ごりらさん…りすさん…」

佐祐理「あははーっ、舞は折り紙上手ですねーっ」

 

名雪「くー」

香里「子供を寝かしつけてるあんたが先に眠ってどうするのよ…」

あゆ「うぐぅ、起きない…」

栞「起きないから、名雪って言うんですよ」

 

美汐「……それが姿を現した村はことごとく災禍に見舞われることになり、その頃より厄災の象徴として厭われてきた…現代に至るまでです」

真琴「美汐〜…じゃなくて天野…さん、子供にその話は難しすぎるよぅ〜」

 

 みんな子供達に付きっきりで俺はほったらかしだった。

 年の功と言う暴言は妻達にも悟られ、『同情の余地無し』と言う事らしい。

 

祐一「あいててて…」

晴子「お、復活したか、これに懲りて女性に年の話はしたらあかんで?」

祐一「は、はい、所で…」

晴子「何や?」

祐一「真琴のやつ、しっかり『先生』やれてるんですね」

 実際、子供の相手は真琴が一番手馴れている。

『先生』と豪語しただけあって、他の妻達のフォローもきちんと行っている。

 ここでバイトしてたのだから当然と言えば当然なのだが。

晴子「せやな、あの『まこちゃん』が、今では立派なもんや」

祐一「今では…て事は、やっぱり話も何も出来ずに迷惑掛けてましたか?」

晴子「いや、そうでもないで、あの『ガディおじさん』でも平気で飛び付く子供らや、真琴に対しても本人の気持ちなんかお構いなしで『まこちゃんあそぼう〜』言うてもみくちゃにしとったわ」

祐一「…『ガディおじさん』?」

晴子「あんたん所の『ガディム』とか言う先生や、前の職場では魔王とか言われとったらしいが、子供らには経歴も肩書きも関係あらへんからな」

祐一「『ガディおじさん』…」

晴子「真琴も子どもらから好かれとった。せやから、熱出して来られへんようになってからは子供らも寂しがってなぁ」

祐一「…そうだったんですか」

晴子「せやから元気になってほんまに良かったわ」

 …ちゃんと、勤まってたんだな。

 

晴子「…!? あかん!」

 突然、晴子さんは血相を変えて雪の積もる庭に飛び出した。

 雪…深くは考えまい、了承学園なんだから…。

 子供達が雪合戦をしていたようだが、その中のひとりが額から血を流していた。

 …まさか!

晴子「何で雪玉に石入れたんや! 遊びでもやっていい事と悪い事があるんやで!」

 そう言って雪玉を投げた子供達の尻を容赦無く叩いていた。

 …その中には栞も含まれていた。

 そして説教の止めは…。

晴子「今度こんな事しよったらジャム食わすで?」

 子供達、そして俺たちは硬直していた…。

 晴子さん、それはもう虐待です。

 

 

 

 

 

 

 

 さすがに罪の意識に沈んでいた栞は何とか立ち直り、改めて子供達と遊んでいる。

 怪我した子供もけろりとしたもので楽しそうに栞と遊んでいた。

晴子「幸い大した怪我で無くて良かったで」

香里「済みません。良く言って聞かせます」

 香里が頭を下げていた。

 姉として責任の一端はある…と考えているのだろう。

 栞と俺と香里とで怪我した子供の親に電話で謝罪したのだが、 『こうやって善悪の判断を身につけるんですから』と言ってあっさりと許されてしまった。

 晴子さんも、ここに預ける親も、擦り傷やたんこぶ程度で済むのなら痛い思いも経験しておいたほうがいい、と言う教育方針らしい。

 善悪の判断も、他者に対する思いやりも、根源的な痛みを知っていてこそ出来ること…なのだろうか。

晴子「ま、仕方無いやろな。入院しがちで外で遊ぶ機会があまり無かったんやろ。その上数少ない経験は、秋子の学園のあんたらとだったからな」

祐一「普通の人は、ああなるって事が判らなかったんですね…」

香里「前に雪合戦した相手って…あの柏木家の人達だったわね…」

晴子「あんたらの中には、過去に色々あって世間知らずな子がおるようやな」

 そう言って、栞、あゆ、真琴、舞の4人を見やる。

 子供達と楽しく遊んではいるが、なんとも不器用だった。

晴子「ま、焦らんとゆっくり取り戻したったらええ、時間はいくらでもあるんや」

祐一「…はい」

香里「そうね…そうよね。あの子にも『これから』があるのよね…」

 噛み締めるように呟いた。

 栞は、諦めていた『これから』を取り戻して、こうして俺達と共に居るのだ。

 栞にも、経験と成長の時間が与えられたのだ。

 

晴子「それを支えたるのも旦那であるあんたの…いや、家族であるあんたらの勤めやで?」

 

 

 

 帰り際、晴子さんにどうしても聞かねばならない事があった。

祐一「なんでボランティアでここの手伝いをする事になったんですか?」

晴子「…あれだけ女房がおったら判るやろ」

祐一「…へ?」

晴子「数年後にはどれほどの子宝に恵まれるやら」

 あの法案が可決された理由を思い出した。

晴子「今の内に子供の扱いに慣れておいた方がええやろ? 秋子の学園生にとっては必須科目になるんちゃうかな」

祐一「…人手不足、って訳では無かったんですね」

 秋子さんの配慮に、俺は感心していたが…。

晴子「すごかったんやなぁ、家族て…このうえない幸せとこのうえない辛さ…全てがそこにある、それはまさしく人が生きる、いうことや」

 と、何やら非常に重みのある言葉を…遠い目をして冷や汗を垂らしながら呟いていた。

 

 

祐一「このうえない幸せとこのうえない辛さ…か」

 帰り道、晴子さんの言葉を噛み締めながら歩いていた。

 俺に大切な事を伝える…と言うよりは、人手不足と言う指摘が図星でごまかそうとしていたようだが、あの言葉は俺の心に深く刻みこまれていた。

 

 そうなんだ。

 俺達の周りに沢山の奇跡があった。

 みんな、辛い思いをして、それを乗り越えて、こうして家族になった。

 そして…妻達の笑顔。

 幸せ…だよな。

 俺はみんなを幸せにできている…よな。

祐一「な、名雪? …って居ない!?」

 

 

 

 

 

 

 

子供「このおねえちゃん、まだねてるよー」

名雪「くー」

 


後書き

 はじめましてOLSONです。

 このHPを見て、佐渡先生の名を見て突発的に思いついてしまいました。

 でも…どうもギャグは苦手です。 かと言ってシリアスにも徹しきれず…中途半端ですね。

 それにDNMLばかり書いてたせいで仕草や表情等の描写は画像に頼る癖がついてしまいました。

 これはこれで簡潔でいいかもしれませんがどうでしょう?

 さて、真琴のバイト先の保母さんはAirの晴子さん…ってのはありがち…でしょうか?

 Keyで保育所つながりですから。

 学園にて既に神尾家は登場しているようですが設定資料集には特に書いてない為に状況が判らず、不整合があるかも知れません。

 まあ、あったとしても、あの『秋子さん』の友達なのですから…『了承』してくれませんか?





 ☆ コメント ☆ 綾香 :「……ガディおじさん」(^ ^; セリオ:「ガディおじさん……ですか」(;^_^A 綾香 :「…………」(^ ^; セリオ:「…………」(;^_^A 綾香 :「ちょーっと違和感がある呼び方だけど……深くは考えないようにしときましょう」(^ ^; セリオ:「そ、そうですね」(;^_^A 綾香 :「それはそうと……いい保育所ねぇ」(^^) セリオ:「そうですね」(^^) 綾香 :「最近は、子供が悪いことをしてもちゃんと叱れない大人が増えてきたからねぇ」 セリオ:「晴子さんみたいにしっかりと叱ってくれる方は貴重です」 綾香 :「やっぱり、子供の時から善悪の意識を身に付けておくのは大切だし」 セリオ:「また、そうしないと、ろくな大人になりませんからね」 綾香 :「そうそう。      過度に甘やかされて育てられると『自分さえ良ければいい』ってバカになっちゃうから」 セリオ:「その点、この保育所の子供たちは、将来きっと立派な大人になりますね」(^^) 綾香 :「うん、そう思うわ。      きっと、あたしみたいな素敵な大人になるわよ」(^0^) セリオ:「……………………」(−−; 綾香 :「ねっ? セリオもそう思うでしょ?」(^0^) セリオ:「……………………」(−−; 綾香 :「ねっ?」(^^) セリオ:「……………………」(−−; 綾香 :「…………ねっ!」(^^メ セリオ:「……はい」(;;) 綾香 :「よし」(^0^) セリオ:(…………ううっ。      本当に素敵な大人は無理強いなんてしないと思うのはわたしだけでしょうか?)(;;)



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