ここに住む人々は、確かに少し常識を超えているかも知れないが。  そこの世界には、どんな氷も溶かすような暖かさがあるかも知れないが。  いや、だからこそ、常識を忘れさせないために、暖かさを再確認させるために、ここに は飴でも槍でも氷でも……何か間違っているような。 「「「「「「「「「「「「「「「「雪だあっ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」  ともかく、四季は巡ってくる。  私立了承学園 番外編   雪降る季節  了承学園はその地理上、雪が降ることは比較的まれである。もちろん彼らの人智を越え た能力を持ってすれば雪を降らせる事などたやすいし、実際にやったこともある。だが、 よほど特別な事情がない限り、彼らは決してそんな行いをしようとはしない。  そして今日、待ちに待った自然の贈りものが、朝もやの中を弱々しく通ってきた太陽に 照らし出され、一面に拡がったのである。  こうなれば、了承学園に慣れた方にはもうおわかりかも知れない。 「秋子、今日は……」 「了承っ!」 「……もうわかってるみたいね」  せっかく滅多に降らない雪なのに、普通の授業なんか行ってはもったいない。多妻科は もちろんのこと、一般科も休校である。  どの生徒も思う存分楽しむ。集団雪合戦や足跡遊びもよし、平和的にかまくらや雪うさ ぎ、雪だるまもよし。これは多妻科の、更にごく一部に限られるが、中には真っ白な銀世 界での屋外行為に走る者もあるかも知れない(←!?)  もちろん生徒だけではない。教師は遊んではならない、などと誰が決めたというのだろ う。童心に帰った(?)秋子とひかりが主将となって行われた午前の目玉、教師対抗雪合 戦は、参加者よりも多い観衆を集めて多くの拍手を誘った。中でも秋子チーム副将・ガデ ィムの一騎当千の働きぶりは見事であった……  教師・生徒関係なく「了承学園で暮らす者」は午前中を大いに楽しみ、暖をとるのを兼 ねた昼食、そして午後もその賑わいが途絶えることはなかった。  しかし、一日中はしゃぎ続けるには人間の体力が追いつかない。一休みしたい人々は暖 房の利いた校舎へ入り、ある者は休憩を兼ねてテーブルゲームを始め、またある者は窓辺 から外の雪合戦を応援する。  そして今、何を考えたのか、多妻科の2つものクラスが、屋上へと集いつつあった。  午後のメインイベントは多妻科クラス対抗雪合戦。人数の少ない長瀬家、柏木家、城戸 家はそれを補って余りある能力があるし(もちろん大量使用は厳禁。罰則は……「了承学 園」と言うことを考えてご想像にお任せする)、決着はなかなか付かなかった。そんな中、 「そうだ! 屋上に上れば、上から狙えるよ!!」  この一言で、冬弥の行動は決定された。屋上にも多くの雪が積もっていることはほぼ確 実。幸い全員生存していた藤井家はすぐさま屋上を目指して駆け上がる。そして、  ガチャッ、  パパパパパパーーーーーーーンッ!!! 「よおし!! やれやれっ!!」 「「「「「「「「えええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!!」」」」」」」」 「うわあああっ!?」  先客がいた。やはり、雪合戦にかけてこの家族の右に出るものはいない。相沢祐一以下 9名の総攻撃により、藤井家は一瞬にして全滅してしまったのである。 「ははは……もうここに気づいてたのか」 「むしろ楽する作戦……ですかね。ここは入り口が一つしかないし、攻撃するには空から やるしかない。芳晴たちと耕一たちが怖いけど、他には全部これで勝てるって事ですよ」 「あとは数が減るまでここで待って、上から空襲すればいいんだよ」 「……卑怯と言えば卑怯だけど、まあそれも戦術よね」  そんな相沢家なので、彼らは藤井家の全滅を確認すると笑顔で歓待した。あくまで勝負 は勝負だが、それが終われば同じ校舎で学ぶ友達である。 「ねえ、待ってるだけじゃつまんないから、ボクたちだけでも雪合戦しようよ!」 「そうね! 何回当たっても平気って事にして、やりましょ!!」  こうしてあゆや真琴がはしゃぎ始め。 「あっ!」 「あ、栞ちゃん、ゴメンッ!!」 「ほう……栞をやるとはいい度胸ね。覚悟はいいわね?」 「お、お姉ちゃん、いいよ別に……」 「大丈夫よ栞……これは十分に攻撃理由になるのよ。行くわよっ!」  それに栞や香里が混ざり。 「ねえ、私たちもやろうよ!」 「……うん!」  藤井家から由綺が、マナが加わり。 「あっ!! 由綺、よくもやったわね!?」 「え!? あれ、理奈ちゃん、やってなかったっけ!?」 「ぬれぎぬもいいところだわ! ええ〜い反撃っ!」  理奈が、それに美咲や舞や美汐や弥生や佐祐理や……どんどんと増えていく。最後には 見ているのは祐一と冬弥の2人だけとなってしまった。  玉が飛び交う戦場を眺めながら、2人は屋上入り口のそばに避難した。祐一はまだ時々 柏木家と城戸家の様子を探っているが、今のところは大丈夫のようだ。 「雪に、何か思い出ってあるかい?」  唐突に言われて、祐一は下界から後ろ……冬弥に視線を戻した。 「……いくらでも」 「そっか。どっちが多いかな」  その声は間違いなく冗談だったので、祐一は答えなかった。そんなこと比べたって仕方 がないことくらい、2人ともわかっている。 「俺は、結構嫌いなんだ」  しかし、さすがにこれは意外だった。祐一が振り向いたことにさえ、冬弥は気づかずに 続ける。 「いろんな別れがあった。冬が来る度に思い出すんだ。別れがあれば出会いがあるとか言 う奴もいるけどさ、でもやっぱり別れってのは辛いもんだから」  不思議と、向こうの雪合戦の喧噪が小さくなったような気がした。冬弥の声だけが祐一 の耳に届いていく。 「まあ、思い出というか、教訓みたいなのはあるけどさ。冬が来る度に考えるんだ。みん ながどれだけ俺のことを考えて、そして俺はちゃんとそれに答えてるか、って」 「それは俺も同じですよ」  祐一の声には、ちょっとしたしんみりさを吹っ飛ばすような明るさがあった。 「だから、俺は冬が好きだ。ちゃんと俺に考え直す機会をくれて、新しい目でみんなを見 られるようになる。辛いこともあった。だから今がある、そうじゃないですか?」  冬弥の顔は相変わらず前を向いたままだったが、誰が見てもわかるくらい強く、その首 はうなずいていた。 「そっか。そう言われりゃ、俺も冬が好きだなあああっ!?」 「おっとっ!」  やはり雪国経験の勘か、とっさによけた祐一と、なすすべもなく直撃を受ける冬弥。 「やべ、もう一発来る!」 「なに……うおっ!!」 「ほらほら、しんみりした顔してない!!」 「せっかくの雪ですから、楽しむべきと思われます」 「……外しました。残念です」 「くっ。相沢くん、さすがね」  言うことは様々でも、満面の笑みを浮かべる理奈、弥生、美汐、香里。その笑いにつら れるように、二人は足下の雪を取る。 「「よおし! いくぞっ!!!」」  ちなみにあまりにもはしゃぎ過ぎたために、この後柏木家に発見されて相沢家が全滅し てしまったことは、彼らの雪国経験の名誉のために伏せておく。  自然でない雪が楽しみをもたらさないことを、了承学園の人々は知っている。  自然でない季節が、思い出を運んでこないことも。  不自然の代名詞と言われる事もある了承学園こそ、それを一番よく知っている。 ########################################   後書き  SSを書いたのはおそらく3ヶ月ぶり……了承に至っては半年ぶりかも知れません。  お久しぶりでございます。最近BBSにも復帰し、SSも再び始めてMIDIも再開、 さあ後は不合格まで一直線! の竜山でございます……  今回の話はもっと長くする予定だったのですが、ブランク3ヶ月の私が突然そんなこと できるはずもなく、藤井家と相沢家をピックアップしてまとめ上げたものです。もともと のプロットは「了承学園・雪の一日」と題して、各家族をいろいろ描写しようとしていま した。文中の「真っ白な銀世界での屋外行為」などはその名残です(^^;;;  このプロットを誰かが引き継いで書いていただければ願ってもないこと……なの……で す……が……(この男、出しゃばり過ぎにつき、今の言葉は無視して下さいませ)  では、失礼いたします。                                2001 / Dec. / 16                                 赤畑竜山
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「雪合戦にかまくらに雪だるまにスキー。雪って楽しいわよねぇ」(^^) セリオ:「そうですね。ワクワクします」(^^) 綾香 :「ひかりお義母さんや秋子さんが、思わず童心に帰ってしまうのもよく分かるわ」(^^) セリオ:「あのお二方はいつでも童心全開な気がしなくもないですが」(;^_^A 綾香 :「……そ、そうかも」(^ ^; セリオ:「雪合戦でも率先して大はしゃぎしていたみたいですし」(;^_^A 綾香 :「あはは」(^ ^; セリオ:「まあ、伝え聞いただけですから多少の脚色は入っているかもしれませんけどね。      …………その間、わたしたちは…………でしたから実際には見てませんし」(*−−*) 綾香 :「あ、あはははは」( ̄▽ ̄; セリオ:「どうでもいいですが……銀世界での野外行為はもうやめましょうね」(*−−*) 綾香 :「そ、そうね。      確かにムードはあるけど……寒いし……変な所が霜焼けになるし」(*・・*) セリオ:「まったくです」(*−−*) 綾香 :「でも……浩之がどうしてもって言ったら……      またOKしちゃうかもしれないけどさ」(*・・*) セリオ:「…………はい」(*−−*)  ・  ・  ・  ・  ・ 秋子 :「あらあら。みんな若いわねぇ」(^〜^) ひかり:「……銀世界での野外行為、かぁ。今度、わたしもダーリンと試してみようかな。      ……って、何を言ってるのかしらわたしってば。      やーんもう、ひかりんのバカバカ、えっち〜♪」(*^^*) 秋子 :「……………………。      あなたも若いわね。      …………いろんな意味で」(−−;;;  



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