俺は早くも、この学園の授業におけるカルチャーショックを受けてグロッキー状態だった。

「カイトの馬鹿!(*ーー*) 思いっきり順応してたじゃない!」

「うるせーよ」

 コレットがこれでもかという的確なツッコミを入れてくるが、今は笑って受け流す。

 というかモノローグに突っ込んでくるな。お前は何処ぞのサトリ娘か? 外見は似てるけどな

 ………って、なんでそんなこと知ってるんだ俺……?

 そんなことを考えていると、次の授業開始のチャイムが教室に響き渡った…………





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私立了承学園(相羽家サイド) 「最強最悪雑魚キャラ伝承〜Sの恐怖〜」

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    ガラガラガラガラガラガラガラガラ

 教室の扉が開いて、二つ………の……人影が……………………




 …………………(思考停止)


 一瞬、海よりも深い静寂が、俺達を支配する。



「ぐふっ!(吐血)」

 この時間の俺の第一声はこれだった。

 その声を引き金として

「いやあああああああああああああああああああああああああっ!」

 いつもと違った大人しからぬ悲鳴を上げて、ミュウが目を塞ぐ。

 くそっ……ミュウにこんな声を出させやがって……!

 とりあえず泣き叫ぶミュウを慰めながら、俺は黒板から数歩後ずさった。

 『ヤツ』が現れた瞬間「はうっ」と失神したセレス以外、みんな思わず数歩引いている……

「という訳でだ」

 『その男』は、メガネを白く光らせると不敵な笑みを浮かべて口を開いた。

「喜べ、この時間は俺が他とは違うまともな授業をしてやろう」

 ……どこか腹の立つ傲慢ぶりだな。
 
 いや、今はそれどころじゃない。

「こらアンタ何考えてるっ!?」

 怯えるみんなを勇気づけるように、俺は、なんとか声を絞り出すことに成功した。

 ……今はそれすらもかなりの重労働だった……

「ふん。礼儀知らずなガキだ。柳川先生、もしくは柳川様と呼べ」

 その男……柳川というらしい……は、その傲慢っぷりを崩さず皮肉げなセリフを吐き捨てる。

 って何だよ柳川『様』ってのは(ーー)

「うぅ……か、カイトぉ……(TT」

 普段は勝ち気で突っかかってくるコレットも、今は弱々しく震えながら、すがりついてくる。

 うっ……なんか可愛いかも……一瞬思い切り抱き締めてやりた……ってそうじゃない!

「アンタのその格好はなんだと言っているんだああああああああああっ!!」

 喉の奥から絞り出す俺の怒声が、教室を振るわせた。

 柳川はピクリと眉を潜める。

「お前、冒険者なんか目指す癖にスライムもしらんのか?」


   …………………………………………………………………………………………………………


「いやあああああああああああああああああああああああっ!!(号泣)」

 うう……気持ちは解るけど泣くなミュウ!(TT)


 スライム

 緑色のぷるぷるした粘液質のモンスター

 冒険を志す者どころか、小さい子供までも、誰もが知っているポピュラーな魔物だ。


 俺達も冒険家の生徒として、序盤雑魚の代名詞スライムとは飽きるほど戦ってる。

 そして……

 今の柳川は、それをモチーフにした格好をしているらしい。

 いや……まぁ、俺も認めたくはないんだが………全身を包むその緑色の半透明着ぐるみはなんだ!?
おまけになんか糸引いてるし!!

 しかも、しかも……こいつ、着ぐるみ以外何も着てねぇ……つまり、透き通って体が……

 ………うう、きょ、強烈な吐き気がする……!(TT

「お……お……女の前で、いやそれ以前に人前でそんな格好すんな!」

「ふん……青いな、前はちゃんと葉っぱで隠しているだろうに」

「そういう問題かあああああああああああああああっ!?」

 怒り全開で突っかかろうと、柳川は何処吹く風という顔をしている。

 うわマジで殺意沸いてきた(TT)

「ゴメンナサイゴメンナサイ!」

 柳川と一緒に教室に入ってきたメイド姿の女の子が、ぺこぺこと頭を下げ続けている。

 ……これがなかったら、とっくの昔に剣技のひとつも繰り出してるぞ、全く……

「何をしている? みんな早く着席したらどうだ?」

「平然と流すな、頼むから着替えてくれ!」

「まあ、そこまで言うなら仕方がない(ぱさっ)」

「アアア柳川様っ!?」

「この場で脱ごうとするなーっ!」

 あ……頭痛くなってきた……

「カイトぉ……」

「ふぇぇん……か、カイトくん……」

「………あ……あ……あああああ……」

 コレット、ミュウ、沙耶……みんながここまで怯えるのなんて始めて見るぞ。

 あああ……気持ちよく気絶しているセレスが或る意味一番幸せかもしれないなぁ……



「では授業を始めよう」

 怯えるみんなを落ち着かせて席に座らせると、ようやく柳川が授業を開始する。

 ……ちなみに、あのメイドさん……マインというらしいが、彼女には丸プレートで汚物を隠して貰う
ように頼んだ。何処かのマンガやコントのように、シュールな光景だな……

 というか、出前が持ってこなかったか? そのプレート(ーー


(うう……カイト君……わたし、この授業耐えられないかも……)

 こそっと弱々しく、ミュウが俺に小声で訴えかける。

(安心しろ、ミュウ……お前も、こにいるみんなも、絶対に護ってみせる……何があっても!)

(カイト君……)

 そうだ。それは既に決めていたことじゃないか。

 ミュウを助け出すと誓った、あの魔王騒動の時……いや、みんなへの気持ちを確かめ合ったその時から
……俺は、何があっても愛するみんなを護るって!

 だから……どんな理不尽な課題を出されようと、みんなを辛い目になんて遭わせたりするものか!

 俺が自分に気合を入れていると……ついに、柳川は授業について語り出した。


「今日のテーマは『一般常識』だ」




 ………………………

 …………………

 …………
 
 ……

 …


「「「「は?」」」」




 ……常識……常識………この男が……裸スライムが……俺達に常識を……




「ここは、お前達の故郷とは異なる世界だ。当然良識や認識、価値観について色々と食い違いが起こる
だろう。なら、この世界で生活していく上で必要な最低限の常識は、学んでおくに越したことはない。
まぁ、この学園内には、その常識を様々な意味で超越している者も多くいるが……」



 ………俺達……超弩級破廉恥野郎からジョウシキをオソワッテイル………



「柳川様……ミナサン、タブン聞イテイラッシャラナインジャナイカト……」

「ん?」



 冷や汗ぶっこくマインさんの言葉に。

 心から不思議そうな顔をして振り返る、柳川の顔を見て……


 俺は………



                「「「「ブチッ!」」」」


 いや、俺達は……




 大切な何かが切れる音を耳にしたような気がした。

 





「鳳凰襲!」


「神の左手!」


「カラミティ!」


「麒麟撃!」






 教室という狭い空間内で、思わず放った各々の最強技が悲鳴を上げ、荒れ狂うエネルギーが暴走し…


 全てが白く染め上げられるのを感じていた。













 ちゅん……ちゅんちゅん………

 暖かい日差しと、小鳥の声が心地よい眠りに落ちる意識を刺激する。

「ふわぁあああああ……? はれ? カイトさぁん?」

 セレスはボーッとする頭を振って身を起こした。

「みなさん、何処へ言ったのでしょう………はや?」

 ぱちくりと瞬いて、彼女は意識を取り戻す。

 そして、自分の周囲の状況をようやく認識した。

 割れた窓ガラスから吹き込む風。

 原型を留めずひっくり返されている、嵐の通り過ぎた後のような教室内。

 そして……

 ガビーンな表情を残したまま、気を失って床に仰向けに転る、カイト達……


「あの……カイトさん、ミューゼルさん、コレットさん、沙耶さん……そんなところで眠っていると風邪を引いちゃいますよ?」

 ぽんと手を叩いて微笑みながら、セレスはマイペースに家族達を揺すり起こし始めた……





「ふっ。自爆するほど喜ぶとは、どうやらかなりウケを取れたようだな」

「柳川様……ソノ満足ソウナ台詞、本気デイッテルヨウニ聞コエルンデスケド……」





 粉々に粉砕された教壇の陰で、天井を見上げながら転がっている約二名に、セレスが気付くことは……

 介抱された皆が意識を取り戻す、授業終了チャイム後までなかったそうな。




 




                        了






あとがき


 ということで

 問題教師、柳川先生登場です〜♪

 む〜私の稚拙な表現で、柳川とマインのコンビを書き切れたかは疑問だらけなんですけど……

 でも、好きなんですよ。了承学園でのこの二人♪

 今回の仮装ネタは、ファンタジーらしく「スライム」でいってました。

 半透明で糸を引くスライムスーツ………

 気持ち悪さ全開ですね……(ーー)

 最後に思わず各々の最強技をぶっぱなしましたのはご愛敬♪

 柳川先生、まったく懲りてないし。いや懲りるとも思えませんけど。

 うう……最後に爆破オチ、というのは未熟の証明でしょうか(TT)。


 ちなみに。

 ミュウ、セレス、コレット、沙耶はそれぞれ、神術、スカウト、魔術、剣技を極め奥義も習得してます。

 カイトのスキルは……一応、皆さんの想像に任せます(笑)

 ただ、ここでは剣技6、スカウト2、神術2、魔術2、という組み合わせでスキルを習得しているものと
しました。

 では、また次の作品でお会いしましょう〜♪
 




                     をはり





 ☆ コメント ☆

綾香 :「…………う、うぷ」(−−;;;

セリオ:「ちょ、ちょっと吐き気が……」(−−;;;

綾香 :「近年希にみるイヤすぎるスライムだわ」(−−;;;

セリオ:「……ううっ。夢に見そう」(;;)

綾香 :「と、とにかく、一刻も早く忘れるようにしましょう」(−−;;;

セリオ:「はいぃ」(;;)

綾香 :「じゃないと……精神汚染の可能性もあるし」(−−;;;

セリオ:「な、何気に手遅れっぽい気がしますけどぉ」(;;)

綾香 :「しっかし……柳川先生、最近は少しはマシになってたのに……」(−−;;;

セリオ:「うううっ」(;;)

綾香 :「よりによってスライムとは……」(−−;;;

セリオ:「うう、ううう、ううううう。
     イヤーーーッ! スライムはイヤーーーーーーッ!!
     うわーーーーーーん!!」(T△T)

綾香 :「ああ、泣かない泣かない。よしよし(なでなで)」(^ ^;

セリオ:「えぐえぐ。スケスケねばねばトロトロ嫌い〜」(T△T)

綾香 :「ほらほら泣きやんで。怖くない、怖くないから(なでなで)」(^ ^;

セリオ:「でも……浩之さんのねばねばトロトロだったら……(ぽっ)」(*・・*)

綾香 :「…………なんの話よ」(−−;;;




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