ミューゼル=クラスマイン


 相羽家の嫁の一人で、相羽カイトの幼なじみでもある。


 優しく思いやりがあり、よく気がつく性格で、少し内気だが誰とでもすぐ
うち解けて皆の面倒をしっかり見てあげ(カイト曰く『お節介』)、そして
心の内に、芯の通った勇敢さを秘め、想いを寄せる相手には献身的で一途な
行動力を発揮する……なかなか出来た女の子である。
 カイトなんぞには勿体ない。某性欲魔人にも同じ事が言えるが。


 しかも、清純なイメージを持つ美人ともなれば、前の学校で人気者だった
ことも容易に頷けるだろう。

 人は、彼女のことをこう言う………










 正統派ヒロインと!









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私立了承学園(相羽家クラス)   「慈愛の拳は母心!」

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「正統派……?」

「そや! アンタくらいまんま王道いっとるキャラはないでぇ!」

 昼休み。

 少しお花を摘みにいっていた相羽家の「お姉さんと子供コンビ」……もといミューゼルとコレットは、
たまたま居合わせた千堂家の由宇と連れだって、旦那達が先に向かってるPiaキャロットへと足を進めて
いた。

 彼女達は、既に学園開始三日目の授業で面識がある。

 体験入学の時『惚れ込んだ』セレスがいなかったことに由宇がガッカリはしたものの、彼女達は
すぐに互いにうち解けていた。

「王道……かなぁ?」

 突然力説し始める由宇に、ミューゼルは困った顔をして「あはは」と苦笑いする。

「そや! ええか? その性格! 行動! 仕草! しかも職業癒し系! 正統派清純系美少女
ヒロインを本能でやっとるよーな天然記念物、生身で見るのはウチ始めてやわ! 強いて言えば
次点は藤井家の由綺さんやけど……」

「えーと(^^;」

「あのね、由宇………(ーー」

 こめかみを押さえて呟くコレットの声を、しかし由宇は遮ってうち震える。

「なおかつ、最終決戦でラスボスにかっさらわれ『囚われお姫様イベント』を実体験するという強者ぶり!
くううううう……感動の嵐や!(TT」

「あ……あの……何も泣かなくても……」

「そろそろ帰ってきなさいってば。ミュウ困ってるわよ?」

 ぶっとい汗を浮かべつつ、二人はアッチの世界にいってる友人をひっぱり戻した。

「あかんあかん、感動で涙もろくなりよった……」

 由宇はゴシゴシとメガネの下を器用にハンカチで擦るとビシッとハリセンを振り上げる。

「アンタ達の冒険話を聞かせてもらったこと、感謝するで! 燃えてきた燃えてきた、次の新刊は
これで決まりや! この話、決して無駄にはせん!」

 バッグに炎すら燃やして気合を込める由宇。

「ねえねえ、今の話マンガのネタにするの?」

 とコレット。彼女の言葉に、ちょっと興味を引かれたようだ。

「ふふふふふ……当たり前やないか! ネタが服被って歩いてるよーなアンタ達の話、有効活用のひとつ
も出来んと同人作家を名乗る資格はないっ!」

 ファンタジー世界の住人で、しかも冒険者の卵で、剣や魔法を使いこなし、エルフなんぞまでいる……

 確かに、カイト達相羽家の面々は、千堂家からすればお付き合いして損のない人材なのかも。

「うーん、胸を張って言う話かなぁ……」 

「ん?」

「あ……ううん、こっちの話(^^」

 手をパタパタ振って微笑むミューゼル。

 コレットはふぅっ、と溜息を吐いて親友を見てから、気を取り直すように由宇に話しかけた。

「ねえねえ、私やミュウをモデルにしたキャラとか出てくる?」

「そやな……コレットとミュウか、互いに引き立てるこのコンビなら3杯はいけそうやで!」

「………なんか、今ミョーに納得出来ないフレーズがあった気がするけど……」

「ふふふふふふふふふふ、勝ち気我が儘系ハーフエルフと正統派癒し系ヒロインのパーティーで、
天下とったるぅっ!」

「うわしかも聞いてないし」

 始めは「マンガのキャラのモデルになる」ということで気をよくしていたコレットだったが、この
ディープな同人オーラに当てられて、ひしひしと後悔の念が込み上げてきた。

「あ、そーいえばなミュウ?」

「え? なに、由宇さん」

「呼び捨てでええって。それは兎も角、コレットは魔法使いやからバリバリ派手な攻撃魔法の使い手なん
やろうけど……アンタはどうなん?」

 メガネを光らせて、なにげなく由宇は問う。

 視界の外で一瞬ぴくっとコレットが硬直するが、彼女は気付いていない。

「どう……って?」

 ぱちぱちと、あどけなく目を瞬かせてミューゼルが聞き返す。

「よーするに、神官系のアンタの場合……こう、神術系の攻撃魔法か何かつかえん? 
真空の刃やら死の言葉やら過剰回復魔法やら……」

 思い付く限りのモノをつらつらと挙げてみる。

 しかし、ミューゼルは苦笑しながらフルフルと首を横に振った。

「私はそんな魔法は使えないよ。一応、護身用に軽く覚えているのはあるんだけど……
攻撃は、他のみんなに任せっぱなしだもん」

「そか……そーやな。ミュウにそういうコト期待する方が間違っとる。流石は正統派……」

「だからもういいって」

 コレットが呆れるような顔をして由宇をたしなめる。





 その時……



「はーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ! 甘い! 甘い甘い甘過ぎるぞ同志由宇!」

 3人の頭上から、高らかな笑い声が投げかけられる。

「……そ、そのあまりにも馬鹿馬鹿しすぎる馬鹿の馬鹿笑いはぁっ!」

「なにげに馬鹿を強調してるわね」

 由宇は、オーバーリアクションで空を仰いだ。

 そこには……




        バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ




 天を舞うヘリコプターに逆さまに吊され、真っ直ぐ腕を組むポーズで現れた一人の漢の姿が!

 ちなみに、ヘリを操縦しているのは毎度お馴染みのラルヴァ(下っ端)だ。

「くぅぅ……現れよったな、九品仏 大志!」

 ハリセンを振り回し牙を剥いて叫ぶ由宇の様子に、大志はフフンと不敵に顔を歪める。

「くくくくく……マイフレンド由宇よ! その程度のネタで満足するとは既に我が輩の勝利も同然!
マイすちゅーでんとミュウは私がいただいていく!」

「また何かくだらんことでも考えてるんやろ! ウチの目の黒いうちは、大切なネタ……もとい友達
をアンタの好きにはさせへんでぇ!」

「うう……所詮、私達ってネタだけの存在……?」

「コ……コレット、そんなことないって、ね?(^^」

 いじいじと沈む親友を慰める、当の狙われた本人。

「ふっ……我が輩はの世界征服のために、彼女の『魔王の器』の素質とやら我が輩がいただくのだ!
さあ、同志ミュウよ! 我が輩と共に来い! そうすれば世界の半分を与えようではないか!」

「ナニ懐かしいRPGのラスボスのようなこと言ってるねぇぇぇぇぇぇぇん!」

 叫ぶと同時に、由宇は跳び上がる!

 一直線に大志に向かって……その体を蹴り伝って、頭上に浮かぶヘリを飛び越し……

 愛用のハリセンで袈裟懸けに叩きつぶす!


               ずごしゃあぁっ!

「ウアアアアアアアアアア!?」

「ぬぅ……っ! み、見事なり、同志由宇! しかし我が輩を倒そうと第二第三の……」

「お約束じみた負け惜しみをのたまうなぁぁぁぁあああああああっ!」

 由宇は怒りに任せ、地面に叩きつけるかのようにハリセンを振り下ろす。

 ヘリと大志は、自由落下を遙かに凌ぐスピードで眼下へと墜落していった。



 しかし……その落下地点には……!



「!! あ……あかん! ミュウ! コレットーっ!」

 いまだ落ち込んで地面に四コマな絵すら描くコレットと、それを慰め続けるミュウがいた。

「え………っ!?」

 ミューゼルは、振り向くと……目の前に迫る巨大な鉄の塊(+大志)をまのあたりにし、

 呆気に取られたように立ち竦む!


    『もう駄目だ………!』と、由宇の表情が絶望で染まった瞬間……










「戒めの拳!」




         ずごわしゃああああああああああああああっ!





「……………は?」

 由宇は、我ながら間抜けな声、と後に呆れそうなほど……呆気に取られた呟きを漏らした。

 ミューゼルの右手が眩しく光ったと同時に…………

 鋼鉄の固まりことヘリコプターは、残像を残すほどのスピードで横真っ直ぐに跳ね飛ばされ、
進行方向の建築物を薙ぎ倒して遥か彼方まで飛んでいった。

 ロープで括られていて大志も、それごと既に見えないくらいまで小さくなっている。

「ふぅ……だ、大丈夫? 由宇ちゃん」

「はぁ……なんというか色々ツッコミたいことはあるんやけど、それはウチのセリフやない? と、
いうこととか………そもそも今の何なん?」

「うん、私が護身のためにもっている、初歩の神術なんだけど……どうしよう、まわりの人達に、
いっぱい迷惑をかけちゃった……私、謝ってくるね」

 と、たたたっ、と崩れた建物の方に走っていくミューゼル。

「……………あのな、コレット……」

「考えちゃ駄目よ……命惜しけりゃ」

 いつのまにか復活しているコレットが、長い耳の先まで顔を青ざめて、由宇から目を背ける。

「さっき光った時……ミュウの右手がぶれたような気が……」

「だから考えちゃ駄目なの絶対っ! わ、私はなんにも全然見てないからね!」

「まるで高速パンチを……」

「いやああああああーっ!」

 耳を塞いでブンブン頭を振るコレット。

 ちょっぴり涙目になってる気もする。

「……………そやな」

 なにか色々と釈然としないモノを感じながら。

 向こうで「御免なさい御免なさい」とぺこぺこ頭を下げるミューゼルを眺めつつ、

 由宇は自分を納得させることにした。






ファンタジー侮りがたし、と



 ……なんか微妙に間違っている気はするが、考えてはいけない………












「派手にやりましたねぇ」

 回収されるヘリの残骸を眺めながら、秋子はいつものポーズで呟いた。

 ミューゼルは正当防衛でお咎め無し。

 騒ぎの元凶である大志には既にお仕置きが決定している。

 ふと………秋子は、「く」の字にひしゃげた残骸の中央へと目を向けた。

「あらまぁ」

 微笑みながら、彼女は一点を見る。


 そこには………


 分厚い鋼鉄にただ1つ、深々と刻まれた………

 クッキリと残るゲンコツの跡があった。














 ミューゼル=クラスマイン。

 正統派ヒロインの鏡と、世間の男の子に大好評な女の子。

 しかし、彼女をよく知る者達は……密かこの称号を彼女に冠しているらしい。







 『神の拳を持つ少女』…………と。











                       了




あとがき


 やってしまいました。

 前回のコメントで調子に乗って……こんなモノを書いてしまった。

 とうとう……とうとうミューゼルまで壊してしまったあああああああああああああああああっ!(血涙)

 ということで、自己嫌悪ちうの端島司です〜TT

 それはそれとして、楽しんでいただけたでしょうか? このSS♪

 ゲームにある、神術1LVの攻撃魔法『戒めの拳』……これに持つ私のイメージを具現化した話です。

 いやぁ……ミュウってば、並み居るモンスターを「神聖パンチ」で殴り屠っているんだなぁ……と

 シュールな気持ちでプレイした記憶があります(笑)

 まぁ、魔王ラガヴリの肉体として選ばれただけのことはあるかなぁ……と(こらこら)

 ………武器で殴るよりも遙かに強い鉄拳。これが正統派ヒロインから繰り出され……ああっ、モノを
投げないでくださいっ!(TT)

 さて、賛否両論と感想はあるでしょうが、ひとまず今回はこれにて。

 最後に……



 ミューゼルファンの皆様、御免なさい………TT(平伏)






                       をはり




 ☆ コメント ☆ 綾香 :「せ、正当派?」(^ ^; セリオ:「神の拳って……」(;^_^A 綾香 :「ここにもギャップの激しい人物が一人」(^ ^; セリオ:「清楚な外見で神の拳」(;^_^A 綾香 :「ファンタジーって奥が深いのね」(^ ^; セリオ:「全くです」(;^_^A 綾香 :「取り敢えず、彼女だけは絶対に怒らせないようにしましょう」(^ ^; セリオ:「了解」(;^_^A 綾香 :「でも……」 セリオ:「でも?」(・・? 綾香 :「敢えて怒らせてみるのも面白いかもね。      是非とも手合わせしてみたいわ(にやり)」( ̄ー ̄) セリオ:「……こ、この人は……」(−−;



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