私立了承学園第453話
「ゆめ」
(作:阿黒)







 夢は、心を映す鏡。
 幸せな夢。悲しい夢。怖い夢。
 夢は心の闇を写し出す。
 鏡は真実の姿を写し出す。
 機械は夢など見ない。
 機械に心など…無いのだから。

(人造人間キカイダー・THE ANIMATION第4話『鏡』予告より)


 * * * * *

「御主人様〜」
「はっはっはっはっはっ。どうしたマインー?」
「いえ…あの、『御主人様』って、呼んでみたかっただけなんです…」
「はっはっはっはっはっ。なんだそれはー?甘えん坊だなあマインはー」
「あ…申し訳ございません」
「まーいーさー。呼びたいなら、好きなだけ呼んでみろ〜」
「えっ…よろしいのですか?それでは…。
 御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様・御主人様…」
「はっはっはっはっはっ。ムカツクくらい素直だなーマインはー」
「御主人様〜」
「はっはっはっはっはっ。今度はなんだ〜?」
「御主人様、お茶が入りました」
「うむ、そーか」
「あの…今日は、ホットケーキを焼いてみたんですけど」
「そーか。どれどれ」
 モグモグ。
「うむ、うまいっ。余は満足じゃ」
「はい」
「よし。ご褒美になでなでしてやろう」
「えっ…」
 なでなでなでなで…
「あっ…御主人様、そんな…」
 なでなでなでなで…
「よーしよしよし」
 なでなでなでなで…
「ああっ…」
 なでなでなでなで…
「いー子いー子ー」
 なでなでなでなで…
「はふぅ…」
 なでなでなでなで、なでっ。
「あ、ありがとうございました…御主人様」
「はっはっはっ。これくらい当然だろうー。だって俺はお前の御主人様なんだからー」
「御主人様…私…うれしいです…」
「なあ、マイン?」
「なんでしょう、御主人様?」
「笑ってくれてかまわんが…俺は、時々思うんだ。…いつまでも、こうやって、みんな一緒にいられたらいいな、って。こうやって、いつもお前にお茶を注いでもらえる日が続けばいいな、って。そんなことを、な」
「…それくらい、お安い御用です。私、毎日だって御主人様のためにお茶を御用意します。いつだって、ずっと、御主人様の傍にいますから」
「そうか?――そうだといいな。うん。だといいな、うん」

 ずず〜〜っ。

「御主人様。…そんな音を立ててお茶を飲まないでください」
「…………」

 ゴゴゴゴゴゴゴ……

「御主人様?」
「…茶が…」
「…お茶が、どうかしたのでしょうか…?」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「茶が…」
「お茶が?」
「茶が…茶が…。茶がぬるいっ!!」

 どど―――ん!!

「茶がぬるいっ!いつもより、ほんのちょっとだけぬるい!ぬるいぞっ!!」
「え、えっと…それは、先程からお話していましたから…その間だけ、少し冷めてしまったのではないかと…ナデナデとかしていただきましたし…」
「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ、我慢ならん!我慢なら――ん!!ならんならんならんならんぞっ!ならんといったら我慢ならんわっ!!」
「そ、そんなワガママ云っちゃイヤです御主人様」
「ほぉ〜〜〜う、お前、御主人様に口ごたえするというのかあ〜〜〜ん?」
「そ、そんな…口ごたえなんて…」
「なんて悪い子なんだマインはー。そんな悪いメイドは、お仕置きしないとなー」
「えっ…そ、そんな、ごめんなさい、あやまります。だ、だから、許してください御主人様…」
「いーや許せんなー。というわけでというわけだからー、こっちに来なさいマインー」
「ううっ…すみません御主人様…」
「さてー、メイドさんのお仕置きの定番といえばー?」
「て、定番といえば…?」
「――やはりここは尻叩きしかあるまい!」
「え――――――――!!?」
「そーいうわけだからマイン、俺の膝に腹ばいになりなさいー」
「ううっ…こ、こうでしょうか御主人様?」
「もっとお尻を高く上げなさい。――そうそう」
「うっ…ううっ…わ、私…恥ずかしいです…」
「さあて。じゃあ、お仕置きするぞ…」

 ぱし――ん!

「!ああっ…!」

 ぱし――ん!

「うっ、うう…」

 ぱし――ん!

「あっ、あうう、もう許してください御主人様!」

 ぱし――ん!

「…うっ…ううっ…」
「なんだ、泣いてるのかお前?そんなに痛かったか?」
「だって…だって、…私…」
「ああ。わかった、もう泣くな。ちょっと悪ふざけしただけだ。な?本気で怒っちゃいないよ。だからもう泣くな?な?」
「…御主人様…」

 * * * * *

「小野寺さんよ…」
「柳川君。あのね、仮にも年長者に向かってそんなドスのききまくりやがった声で恫喝するのは、よくないと思うの?」
 わからない人間には果てしなくわからないカビの生えたアニメネタは、やはり理解されないようだった。更に険悪さを増した視線から1ミリでも逃れようと、さり気なく移動を試みる小野寺である。
 借金の取り立てを迫る金融業者のような笑みを浮かべ、巧みに相手の退路を塞ぎ壁に追い詰めるように移動しながら、柳川は、指を不気味に蠢かした。
 来栖川重工HM開発課・了承学園特別別室。
 その施設内に無数にある、メイドロボ用の調整室。
 その整備ベッドでプログラムのアップデート作業中のマインを指差しながら、柳川は、歯を軋ませるような声を上げた。
「一つ確認しておきたいんだが。…お前ら、マインに何をした?」
「何って…だから、最初に説明したとおり、先日判明したバグの修正作業を…」
「うむ。そういった説明を受けた記憶はあるぞ」
「ついでにバックアップとスキャン、簡単なメンテも行っておこうということで…」
「ああ。そういう説明も受けたなぁ」
「と、いうわけでつつがなく納得していただきたい」
「いただけるかあの状態でっ!」
 微妙に視線を逸らせている小野寺に喚くと、ビシッ!と柳川はマインを指差した。
 手首の接続端子部を露出させてケーブルを繋いだ、もうかなり見慣れた姿。ただ、そのようなチェック作業中のメイドロボは通常、表面上の活動は完全に休止した状態にある。身動き一つ、することはない。
 …にも関わらず、瞼だけはしっかりと閉じているものの、マインは手首にケーブルを接続したまま、ベッドの上でもじもじと手足を擦り合わせていた。あまつさえ時々、ビクッと痙攣まで起こしている。
「ほんっっっとぉ〜〜〜〜に、大丈夫なのかあれはっ!?一体どうなってんだこれは!説明しろ説明!!」
「説明…」
 心なし、顔を赤らめているようにも見えるマインの顔に視線を向けると、しばらくこの別室チーフは考え込んだ。
 やがて、抑制のきいた理知的な声と口調で、小野寺は、云った。
「夢でも見てるんじゃない?」
「エンジニアの見解がそれかっ!!」
 普段、好き勝手暴発暴力ヤクザな振舞いに躊躇などすることはないと思われている柳川であるが、これでも一般人に対してはその暴力性を抑制するだけの理性と良識は持ち合わせている。メイフィアや大志級の攻撃を加えるのは、さすがに危ない。
 だから必死に自らの感情を抑えてはいるが、しかし、あと少し何かあったら、もうどうでもいいかな、とか思わないでもない柳川であった。
 と、首をふるふると動かすマインを見ながら、なんとなく小野寺は、口ずさんだ。

 ふるふる。ふるふる。

「…なんちゃってなんちゃってやんやんやん…?」


































 ……ぷちっ。

「ぅうぉおおのでらああああああああああああああっっ!!!」


 * * * * *

「アノ…メイフィア様?」
「なあに、マイン?」
「一体、何ガアッタノデショウ?」
 調整室の床に、うつ伏せで倒れて痙攣している柳川を見ながら、マインはメイフィアに顔を向けた。その視線が自分が手にしている、見るからに凶悪そうなトゲがついた鉄球を鎖で繋いだ棍棒に向けられていることに気づき、事もなげに云う。
「ああ、これ?モーニングスターっていうのよ」
「イエ、ソウデハナクテ」
「雪音のトコから適当に持ち出してきたんだけどね。別に呪われアイテムってわけじゃなさそうだけど、中世騎士の血を幾人も吸ってきた由緒ある代物だとか…」
「…助けてもらっておいてなんだけど、そういう意味でもないんだがなぁ…」
 あちこち白衣に掻き傷を作っているものの、特に大事無さそうな小野寺が、疲れた声で云う。
「…いや、まあ、アタシだってホントは嫌だったんだけどね」
 そう云いながら、メイフィアは腕につけたエンジ色の腕章を2人によく見えるように体を動かした。

 とにかく柳川先生をなんとかする係。

 週番がつけていそうなその腕章には、マジックで適当にそんな事が書かれてあった。
「まあ、物理的にでもいいから何とか手綱をとってもらえないかなーって理事長にお願いされちゃったからさー。まあ、普段からなんとなくつるんでること多いから、適任といえば適任かもしれないけどねー。正直、あたし一人じゃ力不足という気がしないでもないけれど」
「力不足って、具体的には?」
「火力かな」
「結局力押しですか…」
 とりあえず有効そうな手段ではあるかもしれないが。
 そう思いながら冷や汗を浮かべて立ち尽くしている小野寺の脇で、マインが一歩、前に出た。
「ん?なに?マイン?」
「エット…」
 しばらく沈黙を挟んだ後、マインは云った。
「特別手当トカ出ルンデスカ?ソノ係」
「…ノーコメント」
 まるで説得力のない事を云って視線を逸らし、メイフィアは半眼でこちらを見ているメイドロボに、少し拗ねたような口ぶりで云った。
「あんた最近、少しすれてきたんじゃない?前はもっと素直で純真だったのに」
「…ソウダトシタラ、ソレハ多分柳川様ト、メイフィア様ノ影響ダト思イマス」
 先程の夢の内容を思い出し、マインは内心赤面しながら、できるだけ冷厳そうな声でそう云った。


<終わる>








【後書き】
 機械の見る夢。
 過去のメモリー。
 矛盾やストレスから起こるエラー。
 純粋無垢の存在から、段々と『成り下がって』いくこと。それは成長ではなく退廃というものかもしれない。
 人間に近付くことイコール、幸せという図式は必ずしも成り立たない。

 …………。



 ウソです。
 ホントは自分の妄想を吐き出しただけです〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
 メイドさんのお尻を叩く。
 セクハラでサドっ気溢れる滅茶苦茶外道な趣向じゃが…
 叩いてみたいとは思わんかメイドさん萌えならばっ!メイドさんの白いおしりに赤い手形をつけてみたいとは思わないのか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?

 ムチで叩くのはちょっと殺伐しすぎるかな、と。お尻ペンペン、くらいならいいんですけど。(いいんか?)

 自分でもちょっと疑問を持たぬではないし、ひょっとして俺ダメ人間?とか。
 おぼろげに、思わないでもないのだけれど。





 ☆ コメント ☆

 葵 :「ま、マインちゃんってすっごい夢を見てるんだね」(^ ^;

琴音 :「ホント」(;^_^A

 葵 :「あれ、マインちゃんの願望なのかな?」(^ ^;

琴音 :「かもしれないね。というか、間違いなくそうだと思うよ」(;^_^A

 葵 :「マインちゃんって了承学園内での数少ない清純派だけど……。
     そろそろ、その認識も改めないといけないかな?」(^ ^;

琴音 :「そうかも」(;^_^A

 葵 :「それにしてもお尻ペンペンだなんて……。
     倒錯的というか……ディープというか……」(^ ^;

琴音 :「素敵よねぇ」(*^^*)

 葵 :「……はい?」(−−;

琴音 :「やっぱり、お尻ペンペンはメイドの基本よね」(*^^*)

 葵 :「そ、そうなのかな?」(−−;

琴音 :「わたしも今度メイド服を着て……浩之さんに……そしてそして……。
     や〜ん、わたしってばわたしってば〜」(*^^*)

 葵 :「……」(−−;

琴音 :「やんやんやん♪」(*^^*)

 葵 :「…………」(−−;;;



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