私立了承学園第464話
「私生活の過ごし方」
(作:阿黒)




「柳川様…貴之様」
 了承学園校門前。
 自分をじっと見つめている2人に深々とお辞儀をして、しかししばらくマインはそのまま黙りこんだ。
 悲しそうな瞳で、言う。
「ソレデハ…行ッテマイリマス…」
「ああ。…行っといで」
「…ハイ。貴之様」
 何かを吹っ切る。そのために必要な時間と儀式。
 そして、ようやくマインは2人の顔から視線を外し、歩き出そうとした。
「マイン」
 その貴之の呼びかけに、マインはピクリと震えた。
 だが、振り向かない。
 そして、振り向くのを我慢しているメイドロボに、貴之は、言った。
「サヨナラは、言わないよ。
 …だから…だから、いつでも、帰っておいで」
「貴之様…!」
「マイン…!」
「あー。お前ら」

 一人、場のノリについていけずにこめかみを指で押さえていた柳川は、微妙に疲れた口調で二人に話し掛けてきた。

「たかだか一日留守にするくらいで、どうしてそんな今生の別れみたいに盛り上がれるんだ?」
 あっはっは〜、と笑いながら貴之が応えてくる。
「いやー。せっかくだし」
「何がだ?」
「サービス…ダソウデス」
「そんな意味不明なサービスはいらん!」

 何の事はない。今日は半年に一度の定期点検をマインが受けに行く、というだけの話である。ただ、いつものメンテナンスと違って、フレームのX線探査や材質疲労のチェック等、普段よりも手間隙をかけるメニューであるため、一日がかりになるのだが。
「明日ノ午前中ニハ戻ル予定デスガ…私ガ居ナクテ、大丈夫デスカ?」
「一日留守にするくらいで大袈裟な奴だな」
「…朝、チャント起キラレマス?」
「俺はちゃんと目覚ましかけて自分で起きてるだろ?」
「たま〜〜に、寝過ごすけどね。たま〜〜に」
「御飯、チャント食ベテクダサイネ?冷蔵庫ニ、作リ置キシテオキマシタケド」
「レンジで温めなおすだけなんだろ?大丈夫だって」
「多忙ダカラト、食事ヲ抜カナイデ下サイ」
「一食くらい抜いたからって別に死ぬわけでも…いやちゃんと食べるから」
 マインの無言の視線に、バツが悪そうに応える柳川である。
「食器ハ、私ガ帰ッタラ洗イマスカラ、水ニ漬ケテオイテ下サイ」
「ああ。別に皿洗いくらい構わんが」
「洗濯物ハ、ワイシャツ以外ハ洗濯機ニ」
「わかった」
「就寝前ニ、ガス・電気ハチャント点検シテ。水道ノ蛇口ハキチント閉メテ」
「わかってるって言ってるだろ」
「私ガ居ナイカラトイッテ、深酒シナイデ下サイネ?」
「……あのな。お前、俺を何だと思ってるんだ?
 何も知らん他人がさっきからのお前の言葉を聞いたら、柳川裕也という男は余程の生活無能力者だと思うぞ」
「………………」
「なんで黙り込む!?」
「まあまあ柳川さん。…マインは嘘はこれっぽっちも言ってないんだから」
「……。あのな、俺だって独り暮ししていた頃はそこそこちゃんとやってたんだ。
 大体貴之、お前だって一緒にいるんだからそんな心配することなんて」
「あ、俺、今日はこれから病院で精密検査。一泊するから、帰りはマインと同じくらいかな」
「御迎エニ行キマショウカ、貴之様」
「…ちょっと待て貴之?精密検査って、お前そんな話、俺は聞いてないぞ!?」
「昨夜言ったじゃない。血液検査とかもするから、俺今日は朝食抜きだし」
「…そうだったのか?」
「柳川様、昨日ハ早クカラ御酒入ッテマシタカラ」
 微妙に、ため息でもつきそうな雰囲気で、マインは柳川を見た。
 その視線に思わずたじろいでしまう。
「…昨夜ダッテ、私ガ控エテ下サイ、ト御願イスルノニ、ウイスキーヲ5杯モ」
「い、いや、それくらいは…普通だろ?」
「御風呂上リニ、缶ビールヲ2本」
「…風呂の後のビールはうまいんだから仕方ないじゃないか」
「就寝前ニ、ブランデー・ティーヲ」
「そんな、香りつけでほんの少し…」
「紅茶2、ブランデー8を少しとは言イませン!ソレを3杯もお代りしテ!!」
 マインの口調がデータロードしてるわけでもないのに流暢になるのは、感情が昂ぶっている証である。
 怒ってる。かなり怒っている。
「えーと」
「…シカモ昨夜ハ空飲みデ殆ど何モ召し上がっテませんシ!今朝ハ今朝でギリギリ迄起きラれなくテ、結局朝食ヲ抜かレて!」
「あー…一応、道すがらブロック栄養食とか食べたし」
 …………。
 …………。
 マインは僅かに眉を寄せ、きゅ、と唇を噛んだ。
「……御願いデス。もう少シ、ご自愛してくだサイ…」
「あー。その。
 ……わかった。わかったから、もう、お前らさっさと行け!時間無いんだろうが!」
 何故かズキズキ痛む胸を抑え、半分やけ気味に柳川は喚いた。

  * * * * *

『ミガキャ・ソドドゼ・ジョグボゴ!』
(日本語訳=Piaキャロットへようこそ!)

「…なんだコレ」
「はい?試験に出るグロンギ語講座の例文ですけど、それが?」
「いや。そんなサラッと謎の言語とか出されても」
 何やら熱心に机に張り付いて謎の問題を作っているアレイに内心困惑しつつ、しかし関わり合いになるのを避けて柳川は立ち上がった。
 定時ではあるが、大部分の教師陣が残業していくのを尻目にさっさと帰り支度を整える。
「…じゃ、お先に。お疲れさん」
「ガジョグ・バサ〜」(さようなら〜)
 ガシャガシャと甲冑を鳴らして手を振る金属塊になげやりに手を振り返すと、全てを忘れることにして柳川は職員室を出た。
 柳川はいつもいつも傍迷惑な破壊行為ばかりやっているように思われがちだが、実のところメイフィアと絡まなければ多少の口の悪さはあるものの、意外におとなしい。
 むしろ、一般的なデスクワークの苦手な教師陣の中では澤田編集長等と並んで「ごく普通の」業務に精通している数少ない人材として、普段は職務に精励している。
 彼は仕事人間であると思われている。少なくとも刑事時代はそう思われていた。
 が、それは事実ではない。
 決して不真面目ではないし、確かに職務熱心ではあったが、柳川は仕事のことしか頭にない仕事人間とは少し違う。
 仕事しかすることが無かった、というだけのことである。
 貴之が薬物中毒で半ば廃人と化してしまった時は、就業時間内にやるべきことは全て終わらせ、一分一秒でも多く、プライベートな時間は貴之の傍にいるためだけに使っていた。
 だから残業はしない。
 その頃の名残は、今も続いている。
 そしてその主な理由も、加わったものはあるが、本質的なところではあまり変わってはいない。
「…しかし今日はどうしたもんかな…」
 廊下を歩きながら、柳川はぼやいた。
 誰も居ない部屋に帰る、というのは随分久しぶりだった。そして帰ったところで、何かあるわけでもないということも。
 レンタルショップで暇つぶしになりそうな映画の2,3本でも見繕うか、という安直な考えも浮かんだがすぐに否定する。
 どこかで遊ぶ、という案もすぐに却下した。ゲーセンに入り浸るような歳ではないし、ビリヤードなりボーリングなりは相手が要る。
 マインは酒量が過ぎると注意するが、柳川自身は自分は人並みだと思っている。酒はそれなりに好きだが、通ぶって銘柄に凝るようなこともないし、酒に耽溺するにはほど遠い。
 そんなわけで、馴染みのパブやバーがあるわけでもない。
 というか、職場の宴席は仕方ないとしても、自分のペースで、自分の好きな酒を、自分の好きなように飲むのに、他人は邪魔である。高い金を払って不愉快な時を過ごすくらいなら、独りか、気心のしれた相手と一緒に、お気に入りの一本を空ける方がずっと良い。
 ちなみに風俗関係は、最初から頭に無い。
「ターキーでも買って帰るか…」
 結局無難な結論を下し、そう独りごちた時である。

 ふぅうっ。

「っ!?」
 いきなり耳元にナマあったかい息を吹きかけられ、柳川は片手を耳にやりつつ、反射的に握ったもう一方の拳を勘だけで振り回した。
「きゃっ!?」
 半ばは予想していたが、相手――メイフィアは柳川の拳を鼻先ギリギリで何とかかわして大きく仰け反った。
「どういうつもりだお前?」
「そりゃこっちの台詞よ!…あっぶないわね〜」
 壁に貼られた防火ポスターから飛び降りて、実体化したメイフィアは白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、眉を顰めた。
「ほんのお茶目な冗談じゃない。そんなまともに食らったら頭蓋骨陥没しそうな勢いで殴りつけてくんじゃないわよまったく」
「やかましい。気色悪くてジンマシンが出そうになったぞ俺は」
「出てないからオッケー」
「やかましい!」
「まあまあ。…ところでさ、今日はマインと貴之君、いないんでしょ?」
「だったらなんだ?」
 そう問い掛けつつ、思わず一歩引いてしまう柳川である。
 逆にメイフィアは、なんつーかこう、腐肉を見つけたハイエナみたいな笑顔で一歩踏み出してくる。
「じゃあさー。今日は泊まりにイッテもいい?」
「…………」
 いつの間にか壁際に追い込まれていた柳川は、右を向き、左を向き、さらに背後の窓から外を確認した。
 誰も居ない。特に某タマネギ頭の東スポ女生徒とか。
 よっしゃ。
「…まあ…別にかまわんが」
「そう?じゃあ遠慮なく」
「少しは遠慮しろ」
 人目があったら絶対に言わない返答を消極的に出してきた男の方とは対照的に、女の方は鼻歌でも飛び出しそうな雰囲気で、楽しげに身体を揺らした。
「あ。ところで参考までに訊くけど、あんたは白衣の下は何も着てないのと、素肌に荒縄縛りとどっちが萌え?」
「萌えとかいうレベルかそれ!?…っておい」
 白衣姿のメイフィアに、何かものごっつ嫌なものを感じて、柳川は僅かに口元を引き攣らせた。
 メイフィアは保健医である。白衣姿は珍しくも無い。
 だが、今のように、白衣の前をぴったり閉じていたようなことは無かった。
 足元を見ると白衣の裾、膝下10cmくらいから、以外に細くて白い素足が覗いている。
「…お前…お前がいくら恥知らずとは言っても…まさか、なぁ?」
「ふふ〜〜〜ん?」
「まてっ!ありとあらゆる意味でちょっと待てっ!!」
「なによ〜。自分で自分を縛るのって大変だったのよ?」
「よりによって縄の方かいっ!!?」
「いーじゃん。…好きでしょ、こういうの」
「…………………………ううっ……否定できない自分が悔しすぎる……」
「あー。はいはい。
 …ところであんた、バーボン党なの?あたしはてっきりスコッチ派かと思ってたんだけど」
「別に、そう大してこだわりがあるわけじゃない。というか、こだわるほど薀蓄あるわけでもなし」
 基本的に気持ちよく酔えれば銘柄や種類などさして気にしない柳川である。これは酒に限らず料理や家具、衣服等も同じである。
「あんたさー。つまんない奴って言われない?」
「………否定はしない」
 何となく拗ねたように視線を逸らせる柳川に忍び笑いなどしながら、メイフィアは軽く手を振って別方向に足を向けた。
「じゃ、後でね。あたしはまだちょっとヤボ用あるからー」
 そのまま去りかけて、立ち止まってくる。
「あ、ゴハンどうする?マインのことだから準備してると思うけど」
「お前の分はないぞ」
「わーかってるって。…じゃ、買い物とかしてくるからも少し遅くなるかな。なんかツマミになりそうなの作ってあげるから」
 そう言って、意味ありげな笑いを浮かべる。
「あの娘は、そーいうメニューには疎いでしょ?楽しみにしててね〜」
「…………」
 浅漬けの素を一瓶、一気飲みしたような顔をして柳川は軽い足取りで去っていくメイフィアをなんとなく見送った。
 と、その影が廊下の角に消えた時になって、ハッと気づく。
「待てっ!?だからお前そんな格好でうろつくな――――――――――!!?」

 その、かなり必死な叫びは、メイフィアには届かなかったのであるが。

「る〜る〜るりら〜〜るりらり〜〜♪(じゃんじゃん)
 きょ〜おの〜〜〜ご〜はんは〜〜〜〜〜白濁ー、ぶっかけドロドロ〜〜〜
 ご飯にかけて〜〜〜♪
 ジュルジュルっ!と喰うの〜〜〜〜〜♪(※)」
 (※)繰り返し

 深く突っ込むと18禁というか普通はムッチャ嫌な状況っぽい歌をテケトーに歌いつつ、久しぶりの精力補給&お楽しみチャンスにルルリラ♪なメイフィアは無警戒で保健室に入った。
 助手の舞奈はいなかった。
 しかし、無人ではなかった。
「あれ?どしたのあんたたち……ッ!?」

 ヴァンッ!!

 疑問が驚愕に変わるより早く、強力な力場がメイフィアの全身を包み込み、縛り上げた。

  * * * * *

 教員寮の4階、自室近くまで辿り着いて、柳川は異変に気がついた。
 ドアからやや離れた位置にある小窓――キッチンの窓が少し開いていた。
 そこから、何かガサゴソと小さな音が漏れ聞こえてくる。
「…………」
 気配と音を殺して近づくと、そっとドアノブを捻る。――案の定、鍵は開いていた。
 貴之とマインの筈がない。
 メイフィアならあるいは先回りしてこっちを驚かそう、くらいの茶目っ気と能力はあるが、その可能性は低いように思える。
 もしかして空き巣の類か……?
(1・2…)
 胸中で数をかぞえつつ、柳川は軽く踵を浮かせた。
(3ッ!!)

 ドアを開くのと中に突入するのに殆ど時差は生じなかった。
 突風のようなスピードで、しかし全く音を立てず、柳川は玄関からすぐのキッチンに飛び込む!

「おかえりなさぁい☆」

 ずがしゃああああああああああああああああっっっ!!!

 鼻にかかった甘ったるい声で、そんなことを言ってきた裸エプロンのHM−12型に、柳川はそのままの勢いで三回転ずっこけた。

「…柳川先生。イクラ自分ノ家ダカラッテ、靴ハ脱イデ下サイ」
 何やら床にうつ伏せになってピクピクと全身をわななかせている柳川に12型――舞奈は、伊達メガネを直しながら言った。
「…おい…お前…」
「ナンデスカー?」
 顔は伏せたままで震える声を上げる柳川の頭の方に、舞奈は座り込んだ。
「裸エプロンでしゃがみ込んでくるなっ!丸見えだろうが!!」
「見ナキャ良イジャナイデスカ」
「そっ…それはそうなんだが…」

 しかしロボットだろうが何だろうが、そーいう肌も露な格好をしている女の子を前に、見てはいけないと思いつつもつい、目端で追ってしまったりするのは、若い健康な男子には無理からぬことで。
 例えば店頭で高い位置にディスプレイされている月姫・秋葉フィギュア見かけて、ついスカートの中を覗き込みそうになったからといってこの悲しい男の性を誰が責められよう!?ええオイ!!?
 翡翠だったら本当に覗き込んでたかもしれんがッ!
「…ツマリ、柳川先生モソレト同ジ程度ニ駄目人間ナンデスネ」
「断定すんなメガネロボ!つーか、何でお前がここにいる!!?」
 突っ込みどころが多すぎるが、とりあえず一番の疑問をぶつけてきた柳川に、舞奈はデータロードしてから答えた。
「実は今朝、『御願い世界で一番プリティで私より100倍ステキなメイドロボの舞奈様、私のヘタレでどーしよーもなさげにどーしよーもないカスご主人様の面倒を、どーしようもなくヒマでヒマでやることなくて気が向いたら見てやって、ついでにエサとかやっといてくれませんか報酬はスイス銀行にウチのヒョロ眼鏡ご主人様が一千万振り込みますから』と、マインさんに頼まれまして」
「ロボットなのに平然と嘘をつくなお前特に一千万とかっ!!」
「冗談デスヨー。本気ニシナイデクダサイ」
 嘘に決まっているが、この腐れ魔女の手下ロボが内心本気でそう思っているのは疑いようもなかった。
 でもまあ、メイフィアの助手だし。
 実は最近結構物分りがよくなった(単にあきらめただけ、とも言う)柳川は、疲れたため息を一つついただけで、それ以上は止めることにした。
 まあ…つまりは、マインが自分が留守をする間、友人に代理を御願いしたのだろう。
 そんなに俺が信用できんのか、という気持ちはあるが、確かに信用できんかもなーと自分で認めてしまって、ちょっと鬱な柳川である。
「…しかし…何で裸エプロンなんだお前?」
「???」
 丸っきり意味不明なことを言われたように、舞奈は目をパチクリとさせた。そういう子供っぽい仕草だけを見ていると、この娘も一応はマルチの妹なのだな、とは思うのだが。
「ダッテ…マインサンノ代理、デスカラ当然」
「俺はマインにそんな事は一度もさせとらんっ!!」
「何デサセナインデスカッ!!?貴方、ソレデ御主人様ノツモリデスカ!!」
「お前が濃くて歪んでるのは良く分ったが、その識見でウチのマインを判断するなああああああっ!!!」
「酔ッタ勢イダケデ、行キ着ク所迄行ッチャッタクセニ、ソンナ所デ遠慮シナイデ下サイ!」
「うっわー殺してえ」
 とりあえず靴は脱ぎながら、いっそこの場で何もかもぶっ壊したくなる破壊衝動を懸命に押さえ込む柳川である。自分の部屋だし。
「マアイイデス。サッサト着替エテ座ッテテ下サイ。茶デモ淹レマスカラ」
「それはいいからとにかく服を着ろお前…」
「嬉シイクセニ」
「絶対確実究極至高にそんなことは微塵もないっ!!」
「…お静かに。外から丸聞こえですよ」
「…………」(こくこく)
「って――――――――!!?お前らまでなんでっ!!?」
 いつの間にか背後に立っているHM−13・雪音とHM−12・マリナに柳川は反射的に喚きつつ、……頭の片隅では何となくある程度の察しはついていた。
「実は今朝マインさんに頼まれまして」

 そーか、そこまで主人を信用しとらんのかあのメイドロボ。
 鬱々と暗い情念の炎を燃やす柳川である。

「…恐らく自分たちが居ない機を逃さずメイフィア様が柳川先生に何らかの手段を講じてくるでしょうから、それとなく抑制してください、と。具体的には飲酒とか」

 ………すいません全くその心配どおりな展開になるところでしたマインさん。
 ますます鬱になってゆく柳川であった。
 床に蹲ってしまっている柳川には目もくれず、舞奈(裸エプロン)は2人に問い掛けた。
「ソレデ、首尾ハ?」
「はい。とりあえずキルリアン振動機の特殊力場で捕獲した後、呪符で拘束しておきました。まあメイフィア様でしたら明朝までには自力で脱出してくるとは思いますが、当座はそれで十分かと」
「どこが『それとなく抑制』なんだお前!?」
「後腐レ無クテイイジャナイデスカ」
「まあ言外の意味を勝手に拡大解釈しまして。大出血サービスですね」
「だから、そーいうサービスはいらん!」

 くいくいっ。

 そっと袖を引かれて振り返ると、お下げ髪以外はマインと同じ外観のマリナが、黙って頭を振った。

 言うだけ無駄です。あきらめましょう。

「……苦労してるんだな、お前」
「……………」(こくん)
 何となく妙な連帯意識のようなものが芽生えかけている、柳川とマリナであった。
 どちらかというと傷の舐めあいかもしれなかったが。

  * * * * *

 寝衣代わりの黒いタンクトップに揃いの綿スウェットというラフな格好に着替え、舞奈が温めた夕食を食べると、後はもうすることが無かった。
「オ〜〜湯〜〜ヲ〜〜〜、カ〜ケ〜ル〜少〜女〜〜〜〜♪」
「…………?」
 何やら懐かしい歌を口ずさんでいる舞奈と、それに不思議そうな顔をしているマリナが2人がかりでリビングを片付けているのを横目にしながら、隅から隅まで目を通してしまった新聞を柳川はテーブルに投げ出した。
 夕食前からずっと疼いている頭痛をこらえながら、言う。
「舞奈。…せめてパンツくらい穿け」
「シカシ、ソレデハ裸エプロンノ意味ガ」
 目の前で揺れている小ぶりなお尻を見ないようにしながら、マリナが淹れてくれた茶を一息に飲み干して、柳川は立ち上がった。
「ちょっと、風呂入ってくる。
 ……念のために言っておくが、別に背中流しとかのサービスは要らんからな」
「ムッ」
「ムッってなんだムッって!……どうしたマリナ?」
 物言いたげな顔をしているマリナが、小さく首をふる。
「風呂はダメだと?何故だ?」
「ア、今、雪音サンガ入ッテマスヨ」
「…他人の家で一番風呂か?なんでそうお前らって図太いんだよ!?」
 こういうのと付き合っていて、どうしてマインやマリナはあんなに控え目なんだろう。
 同型でも、持って生まれたクセとかあるのだろうか?
「ふう。いいお湯でした」
 そこへ、雪音がやってくる。

 がんっ。

「どうしました柳川先生?いきなり床に突っ伏しちゃったりして」
「………どうしましたとか言われてもな……」
 腰に手を当てて立っている、裸ワイシャツな雪音をなるたけ見ないようにしながら、ヨロヨロと柳川は起き上がった。

 どぷりーん。

「くう…」
 推定・93の谷間が視界に入り、少し顔が赤らむのを自覚する。
 この乳は反則だと思う。
 正直中学生…下手をすれば小学生のようにも見える12型と違って、13型は中々に魅力的なボディラインを誇る。そもそも胸に谷間とかできないし12型。
 そういう意味では、雪音は自分の「武器」の使い方を心得ていると言えよう。
「だからって、なんでそんな格好せにゃならんのだ…?」
「それは無論、本日はマインさんの代理ですから」
「…ああそうだろそーなんだろ…」
 いい加減反論する気力も無くして、柳川は深々とソファーに座り込んだ。
「駄目デスヨ雪音サン。ココハ一緒ニ御風呂入ッテ(ブーン)『お客さーんカユいところはございませんか〜?』とかサービスしなくちゃ」
「あ、そうですね」
「俺が、いつ、そんなことをマインにさせたあああああああああっっっ!!!?」
 ……………。
 ……………。
 舞奈と雪音は何やらアイコンタクトを取ると、ポン、と同時に手を打った。
「ワカリマシタ」
「柳川先生の方が『洗ってあげる係』なんですね?」
「あああああああああああ!!いい加減にしろお前ら!…ったく…」
 憤然として柳川は立ち上がった。そのまま荒っぽくズカズカとリビングを出て行こうとする。
「ア、怒ッチャイマシタネ」
「でも否定はしてないところが的を得ちゃいましたか?」

 ぐっ。

 挫けそうになる気力を必死に奮い起こし、柳川はドアノブに手を伸ばした。
 無視だ無視。下手に関わると却って精神的な疲労が増すだけだ。
 そう胸中で繰り返しながら、ドアノブをひねる。
「ドチラヘ?」
「もういい。寝る。することもないしな」
「することが、無い?」

 きゃぴ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!

 微妙に相手の語調が変わったような気がして、思わず柳川は肩越しに振り向いた。
 振り向かなければよかった。
 意外なほど至近距離に、妖しいとしか表現できない笑みを浮かべた舞奈と雪音を見出してしまった柳川の腕を、ガッシ!と2人が掴んでくる。
「フッフッフ…ソレナラバ!」
「今日は互いの親睦を深めるためにも、じっくりと特撮ヒーローについて語り合いましょう!」
「ちょっと待てお前ら!それ単にお前たちの趣味だろ!?ってーかー!なんで俺を巻き込む!!?」
「まあまあ。…ステ〜イツのフレ〜ンドから向こうで放映されて〜いるパワーレンジャーのビーデオを送っテ貰ったのデスヨ」(微妙に右上がり)
「その某世界忍者みたいな口調やめいっ!」
「アラ?存外ニオ詳シイデスカ柳川先生?」
「なら、手加減は無用ですね。――マリナさん、準備はよろしいですか?」
「命令ノママニ」
 宇宙空母ギャラ○チカの下っ端機械兵士の如く、赤いモノアイをフィーンフィーンとさせるような口調で応じてきたマリナに。

 孤立無援、という四文字熟語だけが柳川の脳裏には浮かんでいた。

 ――どんなに真面目そうに見えても、やっぱり姉妹なんだなぁこいつら。

  * * * * *

「――柳川先生」
 はっ。
 トロトロっ、と眠りかけていた柳川は、その呼びかけに捕まって眠りの園への脱出を阻まれた。
 照明を落とし、TVモニターの明かりだけが煌々と眩しいリビングで、柳川は両脇のメイドロボ達に相変わらず拘束されたままである。
 モニターの中では、アメコミ顔のモ○ガンが「Fireball!」と叫びつつ手から謎の怪光線を撃っていた。
 時計を見ると、日付はとっくに変わっていた。というか、朝の4時。
「…あの、俺、今日も仕事あるんだが…」
「私モアリマスヨー」
「私もです」
 ……基本的に「睡眠」は必要としないメイドロボたちが軽く言ってくる。

 もーこうなったら実力行使で叩き出してやろうか。でも後でマインに怒られそうだし。
 そう、何度も自問自答する柳川を余所に、マインの友人たちは楽しんでいるようだった。
 とりあえず。

「…頼むから、お前ら、パンツくらい穿いてくれ」
「嬉シイクセニー」
「殿方にとってはある意味理想的な状況かと思われますが、如何?」
 裸エプロンの舞奈と、裸ワイシャツの雪音が両方からしなだれかかってくる。
「もしかしてサービスというより嫌がらせだろお前ら!?」
「アッハッハッハッハ。…何故ソウダト?」
「…お前ら俺のこと嫌いみたいだし」
「それは勿論ですが」
 即答かいっ。
「でも、マインさんに柳川先生の面倒を看てくださいと頼まれたのは事実ですし。だったら、お互い楽しい時間を過ごせるように努力してみようかと」
「楽しいのかお前らっ!?」
「意外ニ楽シイデスヨー」
「ええ。楽しくないですか、柳川先生?」
「……いやまあ……プラスが全く無いわけではないのは確かなんだが……」
 マイナスの方が大きすぎる。っていうか、お前ら間違った方向性で努力してるし。
 雪音の肉感的な柔らかさ(主に巨チチ)と舞奈、というか12型の瑞々しい肢体のしなやかさを伴なった柔らかさに挟まれた今の状況は、まあ、なんというか、男の本懐というか至福ともいえないことのないような。雪音の言葉ではないが、ある意味理想的な状況かもしれない。
 つーか、ハーレム?
「…………」
「ドウシマシタ?」
「いや…なんでもない…」
 男という生き物は本当に度し難い。それとも、単に俺がケダモノなだけなのか。
 何やら哲学的に高尚っぽいことを考えてみたくなる柳川である。
「…ソレニシテモ…見レバ見ル程、邪魔ッケナ胸デスネ」
 ビミョーに不機嫌そうな口ぶりで、舞奈がかなり無造作に雪音のワイシャツの内側に手を滑り込ませた。

 ぐに、ぐにっ。

「やっ、ちょ…いきなり何をっ…」
「マア、ソウイウ仕様デスカラ仕方ナイデスケドネ。本当、無駄ニBIGサイズ」

 ぎゅっ、もぎゅうっ!

「ヒッ…い、痛い!痛いですよ!」

 ロボットでも痛いのか!?と一瞬怪訝に思ったものの、柳川はすぐに考えを改めた。
 人間と全く同一では無いとしても、彼女達にも『触感』はある。触れればわかるし、頭を撫でられれば「嬉しい」と感じるだけの感覚があり、何より性感帯がちゃんと存在する。
 いや、この前確かめたから。

「別ニ、別ニ、羨マシクナンテ、羨マシイダナンテ、チットモ、少シモ、全然、思ッテマセンケド思ッテマセンケド〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「いっ、いたい、いたいいたい、いたいっ…千切れるぅ!」
 胸の突起を力任せに抓られ、たまらず雪音は泣きの入った悲鳴を上げた。
「ウフフフフ…」
「おい…舞奈…お前、なんか目が据わってるぞ…」
 人を間に挟んでじゃれるな、という文句も言えず、柳川は半ば自分に身体をもたれて友人の胸をまさぐるメガネロボの顔をただ見つめた。
 12型の、感情表現の乏しい顔に、なにか歪みっぱなしな愉悦が浮かんでいる。

 ――怖っ。素で怖っ。

「本当ニ…本当ニ、大キイデスネ…」
「ふあ…あう…」
 先ほどとは一転して、壊れ物でも扱うように繊細で優しく、ゆっくりと雪音の胸を舞奈は弄りだした。
 もはやほとんど身体を被うという役割を果たしていないワイシャツの下で、指がモゾモゾと蠢く。
「や、やめてください舞奈さん…」
「エ?嫌ナンデスカ?」
「嫌って…」
「口惜シイデスガ…シカシ、イイ触リ心地デスネェ…」
「うわ、ちょっと!?な、なんでそんなに上手なんですかっ!!?」
「ウフフフフフ…」
「…………………」
「あっ、やっ、そんなもみくちゃにっ…って、ええっ!?マリナさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!?」
 いつの間にか雪音の背中に張り付いて、背後からマリナが掌に納めきれないふくよかな膨らみに手を伸ばしてきた。
「……………」
「フッフッフ…対抗心、トイウ奴デスカ?
 成程、確カニ雪音サンノ身体ニ関シテハ貴女ニ一日ノ長ガアルデショウガ…負ケマセンヨ?」
「え、や、ちょっと御二人ともっ!?…………はぅん☆」
 前後から二人がかりで胸を責められはじめ、雪音は抵抗もできずに悲鳴混じりの嬌声を上げた。
「………………お前ら、もしかして俺の存在を忘れてるだろ?」
 三人のじゃれあいに巻き込まれ…というか舞奈は半ば自分の膝に乗っているし、雪音は自分の腕を掴んで放さないわで逃げ出したくても逃げられない柳川は、途方に暮れた。
 いやまあ、力ずくで跳ね飛ばせばそれでいいのだが、こう、今は、先程からの三人の行為を目の当たりにして、止むに止まれぬ事情で立ち上がることができなかった。
 げに悲しきは男の性よ。格好悪いことおびただしいが。

 いっそ鬼の獣性のまま、欲望の限りを尽くしてしまった方が楽なのではなかろーか。
 そんなことも思わないでもなかったが、こんな時に限って彼の内の獣性は行儀良くかしこまり、ピクリとも動こうとしない。
 ……あんまりアクが強すぎると、かえってやる気が殺がれるのかもしれない。

「ああっ…もうこの際誰でもいいから何とかしてくれ…」
 彼らしくなく、あるいは彼らしく、そんな弱音をこっそり吐いた時である。

 バタ―――――――――――――ン!!!

「は―――――――――っはっはっは―――――!!!あの程度の呪符でこのメイフィアさんをいつまでも縛っておけるだなんて思うなこの不良ロボ共〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「おおおっ!!!?」

 いきなりドアを蹴り開けて飛び込んできた白衣姿の腐れ魔女の姿に、柳川は生まれて初めて心の底から歓喜した。
 ていうか。まだその格好だったですか?

「ったく動けないアタシを男子トイレの個室なんかに閉じ込めやがって!ロック無しで!もし今の無防備な状態で見つかったらどうしよう、なんてドキドキワクワクでもうちょっとで別な趣味に目覚めるとこだったんだからね!」
「目覚めるなっ!ちゅうかワクワクかよお前!!」
 メイフィアの登場でさすがに声も出せずに固まっているロボ三人娘の間から、柳川がつっこむ。
「……あれ?」
「なんだメイフィア?…いや、まあとりあえず何でもいい、こいつら何とかしてくれ」
 キョトン顔でただこちらを見ているメイフィアに、柳川は助けを求めた。
 だが、メイフィアは動かない。
「………おい?」
 なにか、ものごっつ嫌なものを感じて、柳川はおそるおそる声をかけた。
 と。
「あら。楽しそうじゃない…裕也♪」
 ニンマリと、メイフィアは笑った。
 怒ってる怒ってる。
 もうメチャクチャ怒り心頭しまくりやがってます。
「そっかー。あたしが辛ーくて苦しーい艱難辛苦な目にあっている時に、ロボ娘三人はべらせて歓楽してやがいましたか裕也クン?」
 裕也のユとウとヤの間に、致死量の毒素が溢れて垂れ流しっ。
「えと、あの。メ、メイフィアさん?それは、誤解というものなのですよ?」
「裸エプと裸ワイに挟まれて何が誤解かあああああああああああああああああああああっっ!!!」
 ニコニコ笑顔のままで怒声を上げるという器用な真似をしつつ、瞬間的にメイフィアと柳川達の間の空間がグニャリと歪んだ。とてつもなく破滅的な魔術が発動しかける―――

「エイッ、静脈ニ麻酔注射♪」
 ぷすっ。
「はうあっ!?」

 何処に隠していたのか、手品じみた手つきでエプロンの下から舞奈は注射器を投じた。
 それはかなりあっさりと、メイフィアの首筋に突き刺さる。
「こ、この…」
 脱力してヘナヘナと床に崩れ落ちながら、しかしメイフィアは必死になって魔術構成を繋ぎとめた。
「し…死なば諸共っ…!」
「うわやめろバカ…!」

 カッ

 次の瞬間、空間爆砕の無音の破壊衝撃波が、悲鳴も何もかも掻き消して、全てを薙ぎ払った。

  * * * * *

 カン、カン、カン。

 早朝の大気を震わせて、教員寮の階段をマインは登っていった。
 時刻は7時までにまだ10分ほど余裕がある。何時もなら主人を急かして起こす時間帯だ。
 データ処理とバックアップを終えると、マインはその足で来栖川の了承別室を出てきた。
 友人たちに主人の事は頼んでいたが、やはり不安があった――という理由は、言い訳だろうか。
 早く会いたい。顔が見たい。話がしたい。
 ただ、そうしたいと思うから。

 もう起きているだろうか。
 御飯、ちゃんと食べてくれたろうか。
 ネクタイくらいは、私がいつものように結んであげたいのだけど。
 みんなにはお礼を言わないと。
 それから、二人で貴之様を迎えに行こう。
 そして三人で、学園へ行こう。いつものとおりに。

「…………」
 四階に上がってすぐ、開け放たれたままのドアが視界に入った。
 悪い予感がした。
 近づいてみると、やっぱり主人の部屋のドアだった。
 予感が確信に変わった。
 そっと、室内に入りつつ声をかける。
「柳川様?皆サン…?」
 呼びかけても、応えは無い。
 靴を脱ぎ、足音を立てないようにしながらそっと中に入る。
 キッチンに火の気は無かった。
 だが、人の気配は感じられた。
「…マイン」
「柳川様!?」
 一気にリビングに飛び込んで、マインは愕然とした。
 メチャメチャに破壊された家具。サッシ戸のガラスにもひびが入っている。
 サイドボードの中の酒瓶は、全滅していた。
 そして。
「柳川…様?」
「あー。え〜と、まあ、色々と訊きたいことはたくさんあるんだろうが…」
 メイフィアと舞奈と雪音とマリナと一緒にもみくちゃになって、気絶している女性陣の下敷きになっている柳川は、大儀そうに顔を上げて、…ため息をついた。
「こちらとしても言いたいことはたくさんあるし…いやもうどこから説明したらいいものやら、困るんだけどな」
「ハア…」
 メイフィアの捲れあがった白衣の裾から覗く縄、裸エプロン姿の舞奈、裸ワイシャツの雪音、その雪音の胸をしっかと掴んで放さないマリナの順に視線を巡らせているマインが、気の無い声を上げる。
「あの…マイン、さん?」
「…何デスカ?」
「もしかして…怒ってます?」
 その問いに、マインは即答はしなかった。もう一度、破壊された部屋を見回し、そしてその視線を戻す。
「ソノ…何ト言イマショウカ…怒ッテイイヤラ、呆レルヤラ、色々気持チガゴチャ混ゼニナッテ…」
「一言でいうと、『うひゃあ』って感じ?」
「ア。ソウデス、ソンナ感ジデス」
 はは、と、二人は小さく乾いた笑い声を上げた。
 そして、ガックリうな垂れる。
「あー。その。とりあえず、…………すまん」
 きょとん、と、マインは柳川を見つめた。
 この主人が、軽くとはいえこうあっさり頭を下げるのは、まあ絶対とは言わないが、滅多にはないことだったから。
「…イエ。私コソ申訳アリマセン。
 ヤッパリ、柳川様ヲ1人ニシテオイテハ、イケナカッタノデスカラ」
「素朴に失礼だねお前」
 憮然とする柳川に、ほんの少しだけ口元を綻ばせて、マインはとりあえず主人を掘り出すことから始めた。

 学園に電話を入れて、1時間だけ主人の出勤が遅れることを連絡しよう。
 キッチンは無事だから、簡単に朝食を作って、身支度を整えさせて。
 残念だけれど、貴之様の迎えはお1人で行ってもらおう。
 それから、多分この面倒ごとを起こした友人&元上司を叩き起こして、後片付けをして。
 お昼前までには何とか一段落つけて、そしたらお弁当を作って学園に行こう。
 大丈夫。
 こんなトラブルも、いつもどおりといえば、いつもどおりだから。

 なんとなく、楽しいとすら思いながら。
 マインはそっと、胸のうちだけでそう呟いた。


<了>




【後書き】
 ジ〜ライヤジライヤッ♪
 意味なんて無いですが。ノリですフィーリングです。
 そーいや機動岡引・地盤って、そんなに古くはないけれど中途半端にマイナーだと思うが、どうよ?

 久しぶり、ということで、まあやりたいようにやってみました。で、メイドロボズ。
 メイドロボズのお約束としては、
(1)直接的な暴力はしない(舞奈以外)
(2)人間に対して直接的な悪口雑言はしない(舞奈以外)
(3)雪音はエロ下品ネタ担当
(4)マリナはほとんど喋らない
 ということで、性格の悪さとしては

 舞奈>>>雪音>>>>>>>>>マリナ>>>マイン・セリオ>マルチ
(悪)                            (良)


 という感じで。
 まあなんとなくそう取り決めているだけで、実際書く時はその場のノリで色々変わったりもするんですが。
 次回はフツーに授業とかやりたいですが…我ながら予想つかないですね。





 ☆ コメント ☆

綾香 :「あ、あの三人と一晩一緒に……」(^^;

セリオ:「楽しそうですよね。わたしも御一緒したかったです」(^^)

綾香 :「……え?」(ーー;

セリオ:「はい? なにが『え?』ですか?」(・・?

綾香 :「あの惨状が……楽しそう?」

セリオ:「? はい。とっても楽しそうに思えましたけど?」

綾香 :「……。
     思ったんだけどさ、
     『舞奈>>>雪音>>>>>>>>>マリナ>>>マイン・セリオ>マルチ』
     これの順位って絶対に間違ってるわよね」

セリオ:「なんです? 唐突に」

綾香 :「正しくは
     『舞奈>>>雪音>>セリオ>>>>>>>>マリナ>>>マイン>マルチ』
     こんな感じだと思う」

セリオ:「な、なにゆえ!?
     清廉潔白で清くて正しくて可愛くて純粋で、綾香さんをオールナイトビデオ鑑賞に巻き込むのが
     なによりも好きだったりするちょっぴりお茶目さんなメイドロボであるわたしが
     どうしてどうしてそんな順位に!?」

綾香 :「……修正。
     『セリオ>>舞奈>>>雪音>>>>>>>>>マリナ>>>マイン>マルチ』
     やっぱこうだわ」(ーーメ

セリオ:「な、なぜ!?」(;;)




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