私立了承学園
after school :「書庫の隙間」

「・・・・・・さて、と・・・」


無意識に口に出して呟きながら、祐介は中央玄関前から正門へと視線を送った。
わらわらと、警備員ラルヴァ達が大挙して出動していくのが見える。

彼らはこれから、通学路で発生した空間制御システムの障害を取り除き、
安全な通行ができるよう、全ての制御ポイントを点検しなくてはならないのだ。
もちろんこれも、重要な警備部の仕事ではある。だが、先ほど聞いたエリア教諭の
話によると、どうも事故原因は夜間警備の不備にあるようだ。
身内の誰かのケアレスミスのおかげで、また大変な超過勤務と言う訳である。

祐介が毎日利用している中央玄関前には、黄色と黒のストライプのロープが張り渡され、

『調整中につき、立ち入り禁止。ご迷惑をおかけしております』

と、ドカヘルを被ったラルヴァが頭を下げている看板が立ててある。

正門から学生寮へと伸びる通学ゾーンが、まるまるすっぽりと亜空間フィールドに
包まれてしまっていた。うねうねきらきらとカレイドスコープのように揺らめいている
フィールド境界面は神秘的な光を放っており、もうちょっと小さければ学園の
名物オブジェになるのにな、と、祐介は思った。


(・・・・・・気の毒だなあ)


不平と不満と不快と不服。
不遇、不合理、不公平、不運。
不眠で不休な不安が不幸・・・・・・


警備員達から惜しみなくふんだんに迸ってくるネガティブ電波を感じとって、
ちょっぴり自分も鬱になり、祐介は溜息を吐く。

だが、それでも出動して行く警備員一人ひとりに炊出しのおにぎりが手渡されていたり、
警備員達に混じって率先して現場指揮をとっている芳晴の姿があったりと、
幾つか改善点が見受けられるのは、せめてもの救いといえるだろう。

こういう重要な作業に正規職員ではない芳晴の協力を仰いでいる点については、
今後の課題と思われるけれど。

ぼんやりとそんなことを考えながら、祐介はゆっくりと、周囲に意識を走らせる。
格技場から気合の入った雰囲気が流れてくるのは、恐らくトレーニング中の浩之達だろう。
それ以外、ほとんどの生徒は既に帰宅した後らしく、特に気配は感じられない。
進路指導室でちょっと調べ物をしたつもりが、思いのほか時間が経っていたようだ。


玄関をでる前に聞いたエリア教諭の説明によると、普段使っている通学路に近づける
ようになるには、大分時間がかかるらしい。
寮に帰るにはいったん校舎逆側の北門から出て、地下鉄で了承学園本校舎駅から
繁華街地区まで行き、そこからさらにぐるっとまわって、職員寮の方から帰らなくては
ならないそうだ。ものすごい遠回りである。


「転送装置とか魔法とか使って、校門と通学路ショートカットして帰れないんですか?」

「空間制御トラブルが起きている付近でワープや転移魔法を使ったりすると、
連鎖トラブルが起こる事があるんです。見当違いの場所に転送されてしまったり、
変な場所にまた空間のひずみが発生したり・・・学園内の空間制御には5重6重の
安全装置が働いていまして、危険な場所への転送は起こらないように管理されていますから、
突然行方不明になったりとか、そういう事はないのですけど・・・・・・
いま無理に通学路に入りこみますと、かえって相当な遠回りになってしまうかと。」

「なんだ、じゃあいきなり宇宙空間に放り出されたりとか、
そういう人命に関わるような危険があるわけじゃないんですね?」

「ええ、その点は大丈夫です。いまトラブルの原因を探っていますし、
仮通路も後2時間ぐらいで完成すると思いますから。
明日の登校には支障はないですよ。」

「そうですか。」

普段常軌を逸したハイテクに頼っていると、いざトラブルが起きたときに返って面倒くさい。
ともかくも、見た目ほど重大な危険を伴う事故ではない様だ。

突然通学路が超巨大迷路になった、という事実を、「『軽微』のトラブル」で済ますには、
幾分か抵抗があったけれども。


「・・・あ、この洒落使えるかも。憶えとこ。」


惚けた事を呟きながら、祐介はとりあえず、この後の行動へと思考を移す。

私服登校が認められているため、すっかり少数派になってしまった学生服の
裾に付いている内ポケット―祐介はウオッチポケットと呼んでいるが、
正確な名称はよく知らない―から、懐中時計を取り出して時間を確認する。

懐中時計を使うようになったのは、内科の大内先生の真似だ。
時計自体は安物であるが、『かっこいいね』と瑠璃子が誉めてくれたので、
気を良くして愛用している。

時計の針は、午後5時43分を指していた。


いったんは言われたとおり繁華街地区を通って、ついでに最近できた新しいスーパー、
「耀駆紅丸」で買物をして帰ろうかと思ったが、なんとなく気乗りがしなかった。

仮通路ができるまで、病院で子供達と遊ぼうかとも思ったが、
そろそろ病院の夕食の時間でもある頃だし。
それに、「ひとりで病院にお見舞いに行ったらダメ」と、沙織達にきつく言い含められている。


(・・・・・・あそこで待つかな。)


時間をつぶすには『あそこ』は最適だ。それに落ち着くし、今はそんな気分でもある。
我ながら名案、と自分の中で結論を出して、祐介は北門には向かわず、
別棟の附属図書館へと歩き出した。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



了承学園附属図書館。

国立国会図書館と神保町の全店舗、大英図書館にチャリングクロス・ロードと
ヘイ・オン・ワイの全店舗を内包していると形容される、超巨大図書館である。

その一階フロアの入口付近には、書籍販売コーナーも設けられている。
品揃えは繁華街地区にある大型書店に及ばないが、学術専門書や
受験参考書などに関しては、手狭ながらも十分に充実している。

祐介は図書館に入ると、書店コーナーの脇の階段を下り、地下1階の
古本販売コーナーに足を運んだ。ここには定価で購入するとかなり高価な
学術専門書が安価にそろっている他、探している絶版図書などを
独自のネットワークを駆使して取り寄せてくれるサービスもあり、
学園内の多くの読書家の穴場スポットになっている。

書棚をゆったりと眺めながら、とりあえずぐるりとフロアを一周する。
書店に入って、まずどのコーナーに足を向けるかは読書家の間でも
意見が分かれるところであるが、祐介はここではまずこうやって、
フロアー全域をざっと偵察するのを慣例としている。
さほど広いフロアーではないので、それで概ね、
その日の掘り出し物等はチェックできるのだ。

SFコーナーで、ダグラス・ヒルの『宇宙戦士キール・ランダー』シリーズを見つけ、
4冊とも抱える。こちらはちょっと高学年向けなので、小さい子への朗読用に
『チップとタップ』という双子の仔犬の絵本を数冊選び、カウンターに向かう。

こうして、暇を見て病院のお見舞いの際に朗読する本を探すことも、
すっかりあたりまえの習慣になっていた。


「あの、以前頼んでおいた士郎正宗の初期作品集、入ってますか?」

「あ、はい、少々お待ちください。」

カウンターにいた店員がいつものHM-13ではなく、見慣れない女性店員だったので、
若干緊張しながら尋ねる。だが祐介の心配は杞憂だったようで、ストレートヘアを
後ろで一つに纏めた女性店員は、すぐに目的の本をレジ奥から持ってきてくれた。


「こちら、『ブラックマジック』ですね?」

「はいそれです。間違いありません。」

「入荷注文書の控えか、メンバーズカードはお持ちですか?」

「あ、これです。」


臨時と思われる女性店員は、むしろ普段以上にスムーズに、諸手続きを済ませていく。
丁寧な中にも気さくさを感じさせる対応で、楽しんで働いているのがよく伝わってくる。
着けているブルーの事務用エプロンには、酔拳の型を構える香港アクションスターの
写真がプリントされていた。


「ありがとう御座いましたー」


なんとなく、どこかで会ったような気がする臨時店員さんに見送られてから、
祐介はそのまま、図書館地下にある書庫の入口へと向かった。

地下の書庫は、学会誌などが中心に保存してあるブロックで、かなり学術的・専門的な
内容の蔵書が多い。そのため、図書館の中でも特にひっそりとしていて、めったに他の
閲覧者に出会うことがない場所だ。天井までそびえる威圧的な稼動式書棚が立ち並び、
人がふたりすれ違うのも困難な、狭い迷路を形成している。

人によっては不気味さすら感じる、本の森に踏み入っていく祐介の様子は、
特に普段と異なる様には見えない。だが、見る者が見れば、その足取りや
表情から、彼が割と上機嫌である事がわかっただろう。

「あそこ」に行くとき、祐介はいつも機嫌がよくなる。
そして「あそこ」からの帰りは、大抵もっと機嫌がよくなっていた。

勝手知ったる様子で歩を進めると、祐介は「K-13」の書棚の前で止まった。
そして周囲に人がいないことを確認すると、不意にかがみこみ、
書棚の下のほうをこんこん、と2度ノックする。


(すすすっ)


書棚の下から、滑るように一匹の蜘蛛が這い出して来た。
子供の手のひらほどもある、大きな蜘蛛だ。
誰が見ても、一目でそれが尋常な蜘蛛ではない事が解る。
生物学関連の書棚にあるどの本を見ても、その蜘蛛は載っていないだろう。

銀色の体毛に覆われ、エメラルドグリーンの眼をしたその蜘蛛は、
そのまま、つつつっと書棚の端を上ると、書棚の最上段まで登る。
そして、そこからつーっ、と糸にぶら下がって、向かい合う「K-14」の書棚に飛び移った。
ふたつの書棚の間に、銀色の蜘蛛の糸が渡される。

そのまま蜘蛛は、ゆらゆらとゆれながらジグザグに、一段一段、向かい合うふたつの
可動式書棚の間を跳び移り、床へと降りていく。
ふたつの書棚の各段が、幾本もの銀色の糸で繋がれていった。


「お疲れ様。」


そのまま何事もなかったように、再び書棚の下に去っていった蜘蛛に
一声かけてから、祐介は書棚の横の稼動スイッチを押した。
鈍い作動音がして、ゆっくりとふたつの書棚が近づいていき・・・程なく、ぴったりと密着する。
不思議な事に、書棚と書棚の間に張り渡されていた蜘蛛の糸は、たわむ事無くぴんと張ったまま、
書棚の間に消えていった。

そして、祐介はもう一度、書棚の稼動スイッチを押す。再び、ふたつの書棚の間隔が開き・・・・・・

蜘蛛の糸は、もうなかった。
代わりに、「あるはずのないもの」が、そこにあった。


ふたつの書棚に挟まれた奥―その壁に、扉が出現していた。

祐介が時折訪れる、彼しか知らない、秘密の自習室である。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆





「〜〜〜♪〜〜〜♪」

珍しくハミングなんか口ずさみながら、祐介はいつもの場所へと歩を進める。
地下の書庫に現れた扉の向こう側は、なんと青空の広がる屋外であった。

この場所はいつ来ても晴れていて、いつ来ても暑すぎず寒すぎず、
昼寝していて蚊に刺される事もなければ、突然の雨に困らされる事もない。
季節感や自然感覚には乏しいが、のどかで静かで、読書をしたり昼寝をしたり、
ぼーっとしたりするのには最適な場所だった。
以前、全くの偶然でこの場所を見つけてから、祐介は頻繁にここを利用している。

前来た時に持ってきておいた小さめの木箱を茂みの中から担ぎ出し、
日当たりのいいお気に入りの場所に運んで腰をおろす。
芝生の地面はやわらかく暖かで、不思議と何時間座っていても、
体が痛くなるような事はなかった。

すうっと深呼吸と伸びをして、さて今日は何を読もうかと祐介が木箱の中を
覗き込んだとき。

唐突に、のどかな秘密の憩い時間は終わりを告げた。




ひゅーーー〜〜〜・・・・〜〜〜ーーードグッ!!(ぐりっ)




「るぐぺっ!!」

「とっとと・・・着地失敗。」


綺麗に伸身で両足をそろえ、屈みこんでいた祐介の背中の上に落ちてきた志保だったが、
着地の際に若干足元がふらついてたたらを踏んでしまった。0.2点ほど、減点になるだろう。


「・・・あっれ〜?うーむ、やっぱしむぼーだったか。ねぇ祐介、ここどこ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・正確にどことはいえないけど・・・・・・
以前からなんかのミスでできてる、図書館地下の亜空間スペースだよ。」


突然空から降ってきた知り合いの女子高生に理不尽に踏みつけられ、
なんか腰骨あたりが変な音発てた上に、依然として潰されたままの体勢で、
それでも丁寧に返答する祐介。

「切れやすい若者」が問題視される昨今、なんと辛抱強い少年であろうか。
非常に大人である。

・・・・・・一般的にはここは切れるべき場面なのかもしれないが、
そこは敢えて言及せずにおこう。


「そっかー。いやー、夕方の地域情報番組が気になってさー。
いちいち繁華街地区迂回してたんじゃめんどいから、
ダメ元で正門に突撃してみたら、いきなりここにでちゃってさ。
んで、あんたはここでなにしてんの?」

「僕は仮通路ができるまで、ちょっとここで時間つぶそうと思って・・・
あのさ長岡さん、とりあえず降りてくれないと・・・その、見えそうなんだけど。」

「あ、いやん。」

似合わない動作で似合わない台詞を吐きながら、やっと志保が祐介の背中から降りる。
律儀に上を見返らないように地面を見ていた祐介は、よろよろと立ち上がってゆっくりと息を吐く。
・・・肋骨は、無事だった。

とりあえず自分の無事(?)を確認した祐介は、再度溜息をついてから、
恨めしげに志保にぼやいて見せた。

「あのさ・・・正門前に立ち入り禁止ってロープが張ってあるのに、なんだってそんな無茶するの?
万が一、例えば今だってそっちの小川におっこったら、怪我ぐらいしたかも知れないじゃない。」

「だいじょぶじょぶじょぶもーまんたい。ほらあたしってギャグキャラだし。」

「そゆ事自分で言わない!!」

「的確な自己認識は自立の基本よ、祐介。第一こんぐらいのありがちなトラブル、
身を張って乗り込んでいけないようじゃあ、ピューリッツア賞なんて夢のまた夢!」


そーゆーもんだろうか?
自己認識の部分に関しては、確かに的確かもしれないけれども。

本来不名誉であるはずの自己評価を、恥入るどころか都合よく利用する逞しさ。
馬鹿と天才紙一重、とはよく言うが、こういう実例を見るにつけ、
その言葉の更なる解釈が実感できる。

きっと最後まで成功するのが馬鹿で、いつか失敗するのが天才なんだろう。
もちろん長岡さんは勝組みだ。


「・・・・・・なんかものすんごく失礼な事考えてるでしょ、祐介。」

「長岡さんはすごいなあって思ってただけだよ。」


一応、嘘ではない。


「・・・ま、いっか。んで、とりあえず帰りたいんだけどさ。
えっと、もっかい確認するけど、ここって図書館の中なの?」

「う〜ん、中かって言われると語弊があるんだけど・・・
とりあえずあそこのドアから出ると、図書館の地下一階の書庫に出るよ。
いつもそこから出入りしてるから。」

「ふーん・・・って、いつも?ここって、前から普通にこれる場所だったの?」

「んっと・・・・・・」


祐介としては残念であったが、既に志保がここに来てしまっている以上、
この場所について隠しとおすのは無理だろう。状況としてはむしろ、
正直に説明した後に口止めしておいた方が、面倒は少なそうである。
東スポSPAオニオン娘に、どれほど口止めの効果があるかは疑問であるが。


「秘密基地なんだよ、ここ。しばらく前に、偶然見つけてさ。
一人になるのにいいところだから、ちょくちょく利用してるんだ。
ホントは、警備の人に連絡したりしなくちゃならないのかもしれないけど・・・
出れなくなるとか、そういう危険はないみたいだし。」

「ふーん・・・秘密基地・・・ねぇ・・・?」

「・・・・・・なにさ、そのねべら〜っとした顔は。」

「べっつにぃ・・・・・・でもさ、ほんとにだいじょーぶなの?
例えば、中で迷子になったりとかさ?」

「試してみたら解ると思うけど、どこまで歩いて行っても、
何時の間にかあそこの扉の前に戻ってくる事になってるんだよ。
それに他の場所にもいくつか出入り口があるんだけど、どこも全部、
出ると必ず図書館の書庫に繋がるんだ。たぶん、最初はなんかの目的で
作られて、作業行程の不備かなんかで放置された空間なんじゃないかな。」

「ふむふむ、なるほどなるほど。・・・・で・・・」


取材の新聞記者気取りで、カリカリ手帳に情報を書き込んでから、
志保はさらににやら〜〜っと、えろっちぃ笑みを浮かべて祐介に向き直る。


「んでんで。その秘密の園を利用して、長瀬家の皆さんはどういった事を
なさってらっしゃるのか、より詳細に綿密に教えて頂きたいのですけれどー?
っていうか吐けやオラ一切合切。」

「なんのことさ!?」

「だからぁー、具体的にこの秘密で密室であるにも関わらず屋外であるという、
そりゃもういろんな事に便利な秘密空間を、多感で大人の世界に興味シンシンな
オ・ト・シ・ゴ・ロ、の皆さんが、どのように利用なさるっているのかを。
具体的にひとつひとつ、前戯から体位のバリエーションから後戯に至るまで、
きちんと取材して明日掲示板に貼り出すのが校内最新情報発信源の義務って言うか、
個人的興味っていうか、単に冷やかして時間つぶしたいっていうか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・長岡さん・・・自分で言ってて、さみしくならない?」

「うっさいわ!!」


やはり、口止めは無理っぽい。志保が現われてから5分足らず、
既に何回目になるか数えるのもめんどい溜息を吐きながら、
祐介は気だるげに言葉を返した。


「別に・・・ただ本読んだり、昼寝したりしてるだけだよ。
それに、ここの事は沙織ちゃん達だって知らないし。」

「へ?そーなの?」

「さっき言ったでしょ、秘密基地って。まあ・・・瑠璃子さんは、ひょっとしたら
気付いてるかもしれないけど。少なくとも僕は、ここの事は誰にも話した事ないよ。」

「え〜〜〜〜、なーんだ。」


そんな、さもつまらなさそうに落胆されても困るのである。
というか、秘密の亜空間と聞いただけで、どうしてそーゆー18禁な発想にたどり着くのか。
小一時間問い詰めたい祐介だった。


「長岡さんさ・・・そーゆー偏った取材の仕方してると客観性が損なわれるし、
またおばさんくさくなったとか言われちゃうよ?」

「なーによ!!この学園のもおすとびゅーてぃー特派員に対して、何たる侮辱!
あんたこそ、そのノリが悪くて毒にも薬にもならない純情優等生スタンスにいつまでも
安住してるから、長瀬家の授業内容について専門職員会議が開かれちゃったり
するんじゃないの!ちったあ先生方の苦労も考えんかい!」

「関係ないでしょ!?・・・っていうかそーなの?」

「らしいわよ。ひかりさんが、自分の課題案全部リジェクトされたって、溢してた。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・こほん。」


校長先生が、職員会議でどんな課題を提案したのか。
怖いもの観たさでちょっぴり気になったが、大幅に話がそれている事に気付いて
あてつけがましく咳払いをする。


「『そういった』乗りの話なら、別の場所でやってよ。
ここは図書館の書庫で、僕はここに読書に来たんだから。」

「だあって暇だし。あーあ、こんな時ヒロなら、もっと気持ちよく会話のドッチボールに
付き合ってくれるのになー。祐介アンタ、つまんない。だめ。ダメのダメダメ。」

「はいはい、わるうございましたねー・・・」


理不尽な非難に付き合う気を無くし、ついでに本を読む意欲もどこかに無くして、
祐介はぼふっと仰向けに寝転がる。


夕暮れ時を過ぎているはずなのに、抜けるような青空が広がっている。

じっと凝視していてはじめてわかるぐらいのゆっくりとした速度で、雲が流れていく。

文句のつけようのない、のどかな青空。

そして、光に照らされた、文句のつけようのない脚線美。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?脚?」



ひゅーーー〜〜〜・・・・〜〜〜どしん!(もにゅ)



「むぐうっ!!!」

「あ、あら?ここは?」


祐介が見上げていた上空・・・といっても大した高さではないが、突如として空中に
出現した黒ストッキングに包まれた脚とお尻が、志保と同じように落ちてきた。
・・・・・・仰向けに寝転がっていた祐介の、正に眼前に。


「あ、千鶴さん、こんにちはー。」

「え?あ、あら長岡さん、こんにち・・・いえ、こんばんは。
あの、ここはいったい・・・」


きょとんとした表情でしりもちをついたまま、鶴来屋会長柏木千鶴は、とりあえず挨拶を
済ませてから志保に現況を尋ねる。志保同様、意図してここへ来た様子ではない。


「なんかここ、図書館の地下みたいですよ。いま、空間制御システムが誤作動起こしてる
みたいで、あたしも正門前から急にここに来ちゃったんですけど。」

「私はちょっと、いくつか仕事があったものですから隆山の方に行っていたのですが・・・
帰りに、いつもの出入り口を通ったら、突然ここに来てしまって・・・」


どうやらエリアの懸念どおり、学園内のあちこちに影響が出ているようである。


「あーとりあえず千鶴さん、早くそこどかないと、いろんな意味で祐介がやばそう。」

「はい?」


ぽるりぽるりと頭掻きながら地面を指差す志保に従って、
千鶴も下に視線を向け・・・そしてやっと、自分の状況に気付く。


「きゃ、きゃあっ!!」


そう。

自分が仰向けになっている祐介の、ちょうど顔の上に跨る形で座っている状況に。

敢えて漢字4文字で表現するなら。

顔面騎乗

である。


「ご、ごめんなさい祐介さん!大丈夫ですか!!」



真っ赤になって飛び退きながら、千鶴のスカートの中で窒息寸前になっていた祐介を抱き起こす。
どうりでなんだかさっきから、股間に生暖かい吐息がかかって「きゅん」となっちゃうと思った。


「祐介さん、しっかりしてください!」

「う、うう〜〜ん・・・」

「祐介どうだったどんな感じだった何色だったどんな匂いした?」



「いやーーーーーーっっっ!!!」



づびし



「へぶっ・・・・・・」


ポケットからMP3レコーダー取り出しながらインタビューする
志保の天道を熊手掌底で打抜いて沈黙させてから(※)
千鶴は鬼気迫る勢いでがくがくと祐介を揺さぶる。

※非常に危険ですので、
絶対に真似しないで下さい

「ゆ、祐介さん!!今の出来事は忘れてください全部一切綺麗さっぱり!!」

「う・・・・・・し、白のレース・・・」


「わ・す・れ・て・く・だ・さ・い!!!」


なんだかまだ朦朧とうわごとを呟いている祐介にヘッドロックをきめ、
げんこつでぐりぐりしながら念を押す。豊満とまではいえないまでも、
実は本人が気にしているほどは小さくはない千鶴の胸元に
顔を押し付けられる羽目になり、再度呼吸困難に陥る祐介。


「わ、忘れます忘れましたもう憶えてません!!」


嘘でもそう言わないと、ほんとに記憶無くすまで絞められそうである。


しかし、祐介とて純情多感で健康な高校生男子。

ほんとのところ、忘れろと言われてもそう簡単には忘れられないだろう。

が、それについて攻めるのは酷というものである。
いやむしろ、『忘れろ』、などというほうが無理な話だ。
無茶な話だ。無体な話だ。残酷な話だ。
健全な精神を無くせと言っているに等しい!

もちろん千鶴は祐介にとって、素敵な大人の女性である。
だがそれは、彼が耕一や芳晴に対して持っている認識とほぼ同種の物であって、
瑠璃子に抱いている認識と明確に異なる事は、いまさら説明するまでもない。
今後も変わらず、いや今まで以上に祐介は、瑠璃子達を愛していくだろう。

今回の事は彼本人には全く落ち度のないアクシデントであるし、
志保が落ちてきた時の態度ですら、祐介はとても温厚で紳士的である。

祐介にとっても千鶴にとっても単なる事故。それ以上でも、それ以下でもない。

だから。

こんごしばらく、千鶴にあうたびにドキドキしちゃったり、
黒いストッキングを見るたびにドキドキしちゃったり、
夢にちょっと千鶴が出てきちゃったりしても。

そのぐらいはまあ、普段の善行のご褒美として、大目に見てあげるべき!

じゃないかな―って思うよ?
(弁護終了)





「い、いいですね、くれぐれも他言無用ですよ・・・今度、何かご馳走しますから・・・」


やっと祐介を解放し、もじもじとスカートの裾を弄りながら、しつこいぐらいに念を押す。
なんとも言えない気まずさを感じ、祐介はとりあえず話題を逸らす事にした。


「えっと・・・あ、そうだ。ペットボトルのですけどお茶ありますから、
とりあえず一服しましょう、うんそうしましょう。」


若干、引きつり気味の愛想笑いを浮かべながら、小川に沈めておいたビニール袋から
500ccのペットボトルのお茶を2本取り出し、ひとつを千鶴に手渡す。


「あ、どうも・・・」


キンキンに冷え過ぎているペットボトルにちょっとびっくりしながら、千鶴は祐介の善意を受け取った。
祐介はにこっと今度は自然に笑って見せてから、もう1本のペットボトルを未だ前のめりに
倒れ伏している志保の後頭部にぴとっと当てる。


「ひあっ!!・・・あ・・・・あれ?ここは・・・・」


冷たさで一気に気がついて、呆けたようにきょろきょろ辺りを見回す志保に、
祐介は畳みかけるように状況を説明する。

「長岡さんは、夕方の情報番組が気になって、無茶して空間制御トラブルが生じている
通学路に乗り込んで、図書館地下の亜空間スペースに落っこちました。ここまでOK?」

「お・・・おーー。」

「そんで僕と話してる時に、今度は頭の上に千鶴さんが落っこちてきて、
頭をぶつけて気絶しました。OK?」

「えっと・・・うん。」

「はい、お茶。」

「あ、あんがと。」


どうやら千鶴の一撃で、すっぽり記憶が欠如したらしい。勢いで納得させられている。


(千鶴さん・・・記憶を消すならもうちょっと穏便な方法だってあるのに・・・・。
長岡さん、週末に模試控えてるんですから、あんまり頭に衝撃与えちゃだめですよ。)

(ご、ごめんなさい、つい・・・・・・)

「ねーねー、なんかさっき、とってもおもろい光景見たような気がするんだけどー」

「「気のせいです。」」


ぴったしハモって志保の記憶回復を打ち消して。


「とりあえずお茶でも飲みましょうか、祐介さん。」

「そうですね。あ、お茶菓子もありますから。」



ひとつの小さな秘密が、闇に葬られた。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「いけませんよ祐介さん。奥地に突然、異世界空間ができていたりした事例もあるんですから。
こういうイレギュラー空間は一見安全そうでも、きちんと警備部に届け出ないと。」


改めてこの場所についての説明を聞き、千鶴はとりあえず至極常識的な、
型どおりのお説教をしてみせる。ただ、その口調はやわらかく苦笑交じりで、
あまり本気で叱っている様子ではない。

実際、祐介が安全だというのなら、安全なのだろう。知っての通り祐介には不思議な
能力があり、特に悪意や敵意に対する察知能力は、エルクゥの超感覚をも凌ぐ。
千鶴もそれとなく周囲を探ってみたが、危険な存在は全く感じられなかった。

それに、いくらなんでも本校舎に隣接する附属図書館に生じた危険ポイントが
見逃されるほど、この学園のシステムは脆弱ではない。祐介の想像どおり、
倉庫か何かの目的で作られた空間が、たまたま放置されているだけだろう。


「いえ、その・・・なんかすごくいい所なんで、誰かに知らせるのもったいなくて。
ほら、こういう自分だけの秘密の場所って、なんか自分の部屋とまた違った
雰囲気があるって言うか・・・なんとなく、落ちつく感じがするじゃないですか。
まあでも、今回の事でここも見つかって閉められちゃうんでしょうけど。」


ちょっとばつが悪そうに言い訳する祐介を見て、千鶴が再度苦笑を漏らす。
その横で、祐介が周到に鞄に忍ばせていたぽたぽた焼きをざくざく頬張りながら、
志保が不思議そうに呟いた。


「んー・・・確かにいいとこだけどさぁ・・・あたしはちょっとそういう感覚、
わっかんないかな〜。」

「え、変かな?」

「あたしなんか、お店でも公園でも良さそうな場所見っけたら、す〜ぐあかりとか
雅史とかに教えたくなるけどな。怪しい場所なら、絶対ヒロとか綾香に教えたくなるし。
秘密基地ってのも、まあ別に悪かないけど・・・」

「でも耕一さんや梓なんかも、小さい頃にはよく裏山に行って、秘密基地とか作って
遊んでいましたし・・・男の子ってきっといくつになっても、そういうのが好きなんですよ。」


懐かしそうな表情で、千鶴がフォローを入れる。

普段から大人しく目立たない、同世代のなかではちょっと自己主張に乏しいきらいもある祐介が、
「自分だけの秘密基地」にこだわっている様子は、千鶴にはちょっと可愛らしく感じられた。


「そりゃ、相当お気に入りで他人に知られたら価値の落ちる場所だったら、
秘密にするかもしれませんけど。でも、そういう子供の頃の秘密基地だって、
大抵は秘密を共有する友達がひとりくらいはいるんじゃないですかぁ?」

「それは、まあ・・・」

「ましてや祐介、あんた4人も婚約者がいるのにさー。
普通だったらこんなまたとない空間、家族で共有するって発想になんない?
たまに、月島さんとのふたりっきりの逢瀬に活用するとかさ。
病院の子供たち呼んで、派手にパーティーするとかさ。
公園とか神社の裏とかと違って覗かれたりおまわりさんに捕まったりしない、
最適野外プレイ空間として最大限に活用するとかさ?」

「どうしても『そっち方面』に話持ってく気だね、長岡さん・・・」


んな事に活用しようものなら真っ先に覗きに来るくせに、と思いながら、
祐介は棘だらけの視線を志保へと飛ばす。だが彼の放った視線の棘は志保の顔に
突き刺さるどころか、全て彼女の鼻息でぱらぱらとはじき返されてしまった。


「いやだってさ。あんただって多夫多妻制がフライング気味に可決された決め手が、
少子化対策だって知ってるでしょ〜?
と、すれば!!繁殖成功率向上のためにあらゆる努力をするのがあるべき姿、
そう正に『そっち方面』こそが基本的な多妻部学生の発想であり・・・」

「外敵に狙われてる訳でもあるまいし、場所は繁殖成功率と関係ないだろ!
むしろ重要なのは排卵周期とか・・・」

「いえその祐介さん、あんなヘリクツに生真面目に付き合わないで下さい(大汗)」


てゆーか、繁殖とか言わないで。

いろんな理由で頬を染めつつ、千鶴が話に割って入る。
祐介もこういう反応をしてしまうから、志保や大志に遊ばれてしまうのだ。


「ま、まあ長瀬家の皆さんはまだ高校生ですし・・・
それに受験もあることですから、今はマイペースでのびのびと・・・」

「ダーメ、ダメダメ、千鶴さん、そんな甘やかしちゃ。あかりだって雛山さんだって、
あの性欲魔人と毎度毎晩どっぷりたっぷりとねっぷりと付き合いながらも、
それなりにきっちり成績伸ばして来てんですから!
藤田家にできて、長瀬家にできないはずがあろうかいや無い!」

「「できないできない。」」


左右に首を振る動作までぴったりあわせて、祐介と千鶴が否定する。


「むむっ!!そんな、ヤる前からあきらめててどうする!!」

「いやだから、できるできないじゃなくてやらないって言ってるのに。」

「なぁ〜〜んでよ!あんたもちったあ、テスト前日だろうが連日徹夜だろうが、
しっかりバッチリヤるときゃあヤる、ヒロの姿勢を見習ったらどーなのよ!
・・・いや、流石にあそこまでとは言わないまでも、せめて15.3%ぐらい?」

「あんなテストステロン駄々漏れ男(※)、基準にしたらダメ!!!」

※祐介君と浩之君は
本当はとても仲良しで、
この日の翌日も一緒に
ゲーセンで遊びました。



お茶で酔った訳でもあるまいに、今日はなんでかやたらとけしかけて来る
志保に呆れつつ、げんなりした表情で祐介がぼやく。


「別にどうでもいいじゃないか。僕が自分の秘密基地で、一人でいようが
本読んでようが昼寝してようが・・・」

「だあって、せっかくの秘密スポット発見なのに〜。
そこであんたが本読んでたって、スクープにも何にもなりゃしないじゃない。
せっかくなんだから、なんかおもろい事とかしれ。」

「結局それかーーーっ!!ってか、それじゃやらせでしょーーーっ!!」

「じょーだんだって。あんまかっかすると若はげるわよ?」


へらへら手を振って祐介をいなし、もりもりと砂糖しょうゆ味せんべいを頬張る。


(・・・僕もぶっていいですか?)

(我慢しましょうよ、漢の見せ所です。)

(・・・・・・・・・・・漢って辛いなあ。)


ヤなシチュエーションで、そんなことをしみじみ実感してしまう祐介である。





「・・・でもさ。ほんとのホントに、沙織達にも秘密にしてんの?」


ぐびっとペットボトルをあおって口の中のものを胃に流し込み、
ふうっといったん息をついてから、また志保は祐介に話を振ってきた。


「うん。」

「なんで〜?」

「なんでって・・・だから別にいいじゃない、なんででも。」

「むう。だって、変ですよねぇ?」


ジャンルを問わず自分が得た情報を広める事が好きな志保にとっては、祐介の感覚は
どうも理解しにくいようだ。志保に意見を求められて、千鶴はちょっと途惑ったようだが、
あごに人差し指を当ててちょっと考えてから、マイペースで言葉を紡ぐ。


「んー、どうかしら。別に変、という事はないと思いますけど。
私にも、独りになるための場所というのはありますし。」

「ほーら。」


賛同者を得て嬉しかったのか、得意げに祐介が頷く。ちょっぴり、子供っぽいしぐさだ。


「別に無性に独りになりたい時があるとか、そんな大げさな理由があるわけではないのですけど。
でも、なんとなく他の誰にも教えた事のない、お気に入りのスポットというのはありますね。」

「そうそう。なんとなく、なんですよね。別にばれたからどうって言う訳でもないんだけど。」

「ふーん・・・そーゆーもんですかねー。」


珍しく複雑な表情で、お行儀悪く口にくわえた煎餅をひこひこ動かしながら、
どさっと仰向けに寝転がる。

志保の雰囲気がなんとなく変わったので、千鶴も祐介も、静かに彼女が語りだすのを待った。


「あたしは、そーゆーのないかなー。独りになりたいときは、どこでもいいから独りになれるトコを
衝動的に歩き回って探す感じ。ま、あんまりそんな事もないけどねー。」

「・・・そうなんだ。」

「そーなのよ・・・なんていうかな、あたしはむしろ周りに人がいる方が、独りになれるのよねー。」

「難しい事言うね。」

「ファミレスとか、デパートとかでさ、周りに人がいっぱいいるんだけど、その方が返って
周りが気にならなくなってさ。つらつら考え事するときとか、そういう時かなー。」

「・・・・・・解る・・・気がします。」


あまり大きな声ではなかったが、
今日始めて、千鶴は志保に同意した。


「祐介ってさ、ひょっとして完全無音の部屋に、ずーっと一人でいても平気な方?」

「・・・ずーっとの度合にもよるけど・・・でも自分の部屋にいる時も、たいていは無音だよ。
不器用なのかな、音楽とか聴きながら、勉強したりできないんだよね。」

「あたし逆。勉強中はCDとかラジオとか、ずーっと垂れ流し。なんか聞こえてないと、
返って落ち着かなくてさー。別に音楽でリラックスして効率アップとか、そんな高尚な
もんじゃなくて、お笑い番組だろうが、コマーシャルだろうが、なんか音が欲しいわけよ。
何にも聞こえなくなると、なんとなく寂しくなるっていうか・・・・・」

「ふーん・・・・・・ちょっと意外。」

「?何が?」

「長岡さん、独り平気そうに見えたから・・・あ、別に変な意味じゃなくてさ。
なんていうか・・・どこにいてもどんな時も、マイペースに突き進んでそうな感じで。」

「ぷっ・・・・・・そーんなことないない。繊細でさみしがりやなんよーあたしゃー。」

「ふーん・・・・・・・・・そなんだ。」

「そーなのでぃす。」


くすくすと、彼女には珍しい笑い方をする。
その声を聞きながら、なんとなく祐介も千鶴も仰向けに寝転がった。

もうすっかり日が落ちている時間のはずなのに、未だに真っ青な青空があった。







「でも、あたしゃーてっきり、祐介もあたしと似たタイプかと思ってたよ?
ほらあんた、みんなで集まってるときとかも、ときどき端っこで黙ってたりするからさ。
実は結構、自分シールド自在なやつなんだろーなーと思ってたんだけど。」

「?なにその自分シールドって?」

「だからさっき言った、人込みの中でもすぐに自分に入れるっていうかぁ、
考え事したり妄想したりできるっていう・・・・・・ええい、雰囲気で解れコラ。」


ジャーナリスト志望としては、どうにも説明力に乏しい志保である。
だがこんな説明をして、自分がいつも人込みの中で妄想してると思われるのも癪だ。


「前はそうだったかな・・・変わったのかも。」

「恋をして?」

「ノーコメント。」

「うあ、かっこつけー」


ていっと、横に生えている草をむしって祐介の顔に投げつける。
それをふんっと鼻息で吹き飛ばして、今度は祐介が言った。

「瑠璃子さんと会ってから・・・僕は音が無くても、いや、むしろ音が無い方が、いろんな事を
聞けるようになった・・・目を瞑っていた方が、多くを見れるようになった。そんな風になったから、
逆にどんどん、静かなところに行こうとするようになったのかもね。」

「ふーん・・・なんか、中国拳法の師匠みたいな台詞だけど・・・」

「私も・・・今はどちらかと言うと、祐介さん的な気がします。」


無言で静かに話を聞いていた千鶴が、ゆっくりと口を開く。


「全く静かな、誰もいない、誰にも見つからない場所にいるとき・・・・・・・・・・・
そんな場所で本を読んだり考え事をしてるときって、確かに独りなんですけど、
そんなときのほうがむしろ独りという感じがしなくて・・・身近な人の事ですとか、
すごく素直に考える事ができたりするんですよ。それでそのあと家に戻った時に、
今まで以上に家族といるのが嬉しく感じて・・・その感覚が嬉しくて、なんとなくまた、
こういう場所に来るんですよね。」

「うん、同感。こういう場所に来て、帰ったら何しようかとか考えるのも、すごく楽しいですよね。」

「ふーん・・・・・・なーんか解らないでもないんだけど、あたしはやっぱり、
実感としては理解しにくいかなー。」

「たぶん、長岡さんは大人なんだよ。」

「は?」


急に飛躍した結論を祐介が出したので、思わず首だけ持ち上げて祐介を見る。


「大人だから、周りに人がいても独りになれるし、だからといって寂しくならないし。
周りに人がいないときは、どっかに誰かいないかなって、探しにいけるんだよ。
実際、大人になるほど、独りになりたくてもどこにもいけない事の方が多い訳だしさ。」

「えーと、なんか解るような解んないような論理だけど・・・うん、とりあえず、
大人の魅力溢れる女って言われるのは、まあ悪くないわね。」

「魅力溢れるなんていってないよ?」

「・・・・・・流しなさいよ馬鹿。」

「えーと・・・それじゃ、私もまだ成長できていない子供、という事ですか、祐介さん?」


くすくす笑いながら二人の会話を聞いていた千鶴が、ちょっと意地悪に問い返す。


「え?あ、いえ、千鶴さんは立派な大人で、子供なんかじゃ・・・」

「じゃあ、いい大人のくせに、子供っぽいと?」

「いやだから、そうじゃなくて・・・・・・」


思わぬサイド攻撃に狼狽しながら、祐介は必死に適当な言葉をさがす。


「千鶴さんはむしろ大人っぽいですし・・・えっとつまり・・・若く見えるっていうか・・・」

「・・・・・・・・えい。」


ずでし


「ぐふうっ・・・・・・・な、なんで・・・・・・」

「『若く見える』とか言われて喜ぶほど、歳はとってません!」


日本語の難しさを鳩尾で痛感する祐介である。変に引張ると自分にも飛び火しそうな気がしたので、
志保はさりげなく話題を変えることにした。


「まー、大人か子供かはともかくさ。やっぱあたしはにぎやかで、いろんな人がいっぱいいる
変化に富んだ場所にいたほうが楽しいし、そっちのほうがずっと落ち着くわけよ。
神輿の上で叫びながら、人垣見下ろしてじーんとまったりできる、根っからのお祭娘ってやつ?」

「自慢なんだか自虐なんだか、微妙な言い回しだね。」

「あら、私は素敵だと思いますよ?」

「ま、そーゆー意味ではここの学園は面白いやあね。毎日お祭りだし。」

「確かに、にぎやかな場所とにぎやかな連中には事欠かないね。」

「ちょっと、羽目を外し過ぎちゃう方もいますけど・・・・・・」

「設備も整ってるし、人材も、まあ大きく偏っちゃいるけど豊富なのは間違いないから、
希望すれば大抵のことはできるようになってるしね。それに学食も美味しいし。
いったん割り切ったら、なんかもー当分ここにいてもいっかなーとかなんとか思ったりなんかして。」


そんな冗談めかした言葉を聞いた時、ふいに祐介はある事を思い出し、疑問を口にした。


「・・・・・・でも、長岡さんは外を受けるんでしょ?」

「あら、そうなんですか?」

「え?え??だ、誰から聞いたの?」


『外を受ける』、というのは、一般の高校生らと同じく自分の希望進路にあわせて、
全国にある大学や専門学校の入学試験を受験する、と言う意味だ。
先ほど志保が言ったように、了承学園には全ての分野に関する設備が整っており、
その充実度は全国の大学や大学院等の施設にも全く劣ることは無い。
近隣の医学部の大学生や研修医達が、付属病院の先生方を講師に仰いでの
特別授業や特別研修を受けたりする事もあるのだ。

だから本人が希望するなら、了承学園に在籍したまま大学や大学院の講義や実習を
受ける事も出来るわけで、この場合は便宜的に『内に残る』という言い方をされる。

ただ、了承学園の「学部大学過程」への進学様式をどのようにするかについては、
まだ明確な規定ができていないようだ。和樹や健太郎等、多妻部にも大学生は結構いるが、
彼らは皆、他大学からの編入組であり、高校を卒業した新入生を迎えるという経験はまだ無い。
多妻部においてはそもそも学年と言う区切すらなかったりする訳で、そのあたりを今後は
どのように調整していくか、現在検討会議が繰り返されている最中である。


「いや、別に誰かから聞いたわけじゃないけどさ。よく進路指導資料室であうし、
さっきここに来る前も赤本枕にして寝てたから、多分そうなんだろうなーって。違うの?」

「あっちゃあ・・・って、なにアンタ見てたの?この志保ちゃんの、かあいらしー寝顔を!
くぬう、不覚!!金払え820円!!」

「・・・・・・何その微妙な価格は。寝てるほーが悪いんじゃないか。」

「払わないっていうんなら、こないだ病院でこっそり撮ったアンタと片倉先生のツーショット
画像と一緒に、ない事ない事Mailで書き立てて携帯で学園中に配信してやる。」

「ちょっと、病院で携帯電話使っちゃダメなんだよ?」

「あ、いや撮影したのは携帯じゃなくて普通のデジカメでだからだいじょうぶ・・・」

「こほん!」


際限なく話が逸れていきそうだったので、千鶴が咳払いをして二人を止める。
どうもやはり、祐介はツッコミとしては今ひとつ詰めが甘い。

先ほどの祐介の発言に反応して、いったん身を起こした志保だったが、
なんとなく脱力したようにまた芝生の上に倒れこむ。


「別に、外受けるのってめずらしかないでしょ。あんたんとこだって全員そうじゃない。」

「まあね。別に珍しいとは言わないけど、でも大抵は知り合いの多い在京の大学
選んでる人が多いから、長岡さんもそうなのかと思ってたんだけど・・・関西行くんでしょ?」

「なにあんた、人が寝てるのをいい事に、どこの大学の赤本チェックしてるかまで・・・えっち。」

「あのまま赤本涎まみれにして、怒られた方が良かった?」

「くっ・・・・・・・・・」


そー言えば気が付いたとき、口元にティッシュがひいてあった。こいつだったのか。
流石にハズくなったので、志保は似合わぬ咳払いをしてから話を戻す。

「いやホントに、まだぜんぜん何も決まっちゃいないのよ?とりあえずいろんな所、
片っ端から見てみちゃあいるけどね。近くの大学もそれなりにチェックしたけど、
どうもね・・・確かに経済的な事とか、いろいろと利点はあるんだけど・・・・・・」


一概には言えないが、引越ししたり一人暮らしをしたりせずに通える近くの進学先に
しぼって探すとなると、選択肢は残留組ということになりやすい。
ハードウェア、ソフトウェア両面で、了承学園を凌ぐような環境はそうはないからだ。


「楓も、細かい事が正式に決まってよさそうであれば、残る事にしたいと言ってました。
いろいろ理由を並べてましたけど、やはり、耕一さんの近くに居たいからでしょうね。」

「でしょうね。まあ、楓さんなら耕一さんさえいれば、どこで勉強したって大丈夫な気がしますし。
塚本さんも、似たような事言ってたと思いますし、残留組、多いみたいですよ。
それで長岡さんも友達多いから、てっきりそーなのかなって思ってたんだけど・・・」


祐介も千鶴も、敢えて「彼」の名前は出さずにおく。
言うとまたキーキー怒り出すに決まってるから。


「・・・・・・・・・さっきいったでしょ、あたしは御祭り女だって。ずっと一ヶ所にいるのはヤなの。
真の祭り好きは全国各地、新しい祭り、まだ見ぬ祭りをその身体に刻むべく、
また新たな地へと旅立つのだった!・・・・・次回へ続く。」

「いや続かれても。・・・・・なんか、雁之介はんみたいだね。」

「誰が裸の大将だ!」

「だって、女性の放浪紀ってぱっと思い浮かばなかったから・・・・・・」

「かげろうお銀がいるでしょーが。」

「・・・・・・なるほど。」

「納得しないで下さい祐介さん・・・・・・」


ふうっと、いろんなものを含めた溜息を吐いてから、千鶴はむくっと起き上がって、
真直ぐに志保を見る。


「仕事で関西に行く機会も多いですが、面白いところですよ。頑張ってください、志保さん。」

「へ?あ、ど、ども。」


急に真面目な顔で真摯に激励されたので、戸惑いながら志保は居住いを正す。


「志保さんがここを出ていろんな土地に行くと言うのは、とてもいい考えだと思います。
大学に行くにせよ、就職するにせよ・・・これはあくまで私見ですけど、私も志保さんは、
どんどん動きつづけるのが似合ってると思いますよ。」

「は、はあ。いえその、実は行きたいなーって思ってても、あたしの頭じゃあ行けないとこの方が
多いんですけど・・・へへ。」


普段はあまり話す機会が無い千鶴に、こんなふうに語りかけられるとどうにも照れくさい。


「でも志保さん、最近頑張ってらっしゃるようじゃないですか。」

「そだね。こないだも模試の時に遇ったし。」

「ん、ちょっとこの間は、あかり達も受けるって言い出したから、付き合いでね。
結果は散々だったけどねー。」


やや自虐的にへらへらっと笑ってから、志保は急にばつが悪そうにぐじぐじしながら、
声まで潜めて祐介と千鶴に近づく。


「で、でさぁ、祐介、千鶴さんも・・・あたしが外受ける事は、他言無用って事でお願いしたいんだけど。
特にあかり達にはぜった、ぜったい、絶対に!!内緒にしといてくんない?」

「・・・・・・浩之達に知らせてないの?・・・・・・なんで?」

「なんででも!」

「でも、志保さんとあかりさんは大親友な訳ですし、そういう大事な事はきちんと・・・」

「でもだめ!だからダメ!!じぇ〜〜ったい、内緒!!!」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


ぶんぶん両手のこぶしを上下に振り回しながら、頑なに秘密主義を貫こうとする志保。
その様子があまりにも必死なので、祐介と千鶴は顔を見合わせ、ひそひそと話し始める。


「ひょっとして、ホントに誰にも継げずに出て行く気ですかね?」

「でも、それって意味があるんでしょうか?そもそも、隠し通せるとも思えませんし・・・」

「いや案外、ばれなかったりするもんですよ。どんな意味があるかは知りませんけど・・・」

「逆に、演出なんじゃないでしょうか?土壇場になって判明すると、インパクトがありますし。」

「あ、なんかのドラマで見た気がします。再出発を目指してヒロインが新幹線に乗るところで・・・」

「そうそう、彼女が側からずっと居なくなるという衝撃で、自分の本心に気付いた彼が、
ホームの向こうから走ってくるんです。」

「それで、彼の手を振り払って列車に乗ろうとする彼女をぎゅっと抱きしめて・・・・・・」







「「志保!俺、今やっと気付いたんだ!!俺は、おまえの事が・・・」」



「どすこーい!!!」




あからさまに志保に聞こえるように、メロウでかゆいドラマシーンを想像し始めたふたりを、
両手のツッパリで同時に突き飛ばす。


「何の話だ何のシーンだ誰の真似だ最後のそれわぁっ!!」

「誰の真似かよく解るから突き飛ばしたくせに・・・・・・」

「冗談だったんですけど・・・ひょっとして、図星でした?」

「んなわけないでしょ〜がっ!!」

「でも、なんとなく無意識潜在的にちょっとは妄想してみたりとか、ない?」

「うっきぃーーーーーーーーっ!!むかつくむかつくちょおむかつくー――!!」

「キャラ、違っちゃってるよ長岡さん・・・・・・(汗)」

「ふふふ、大丈夫ですよ、誰にも言いませんから。」

「絶対ですよ!!祐介、あんたもばらしたらどうなるかわかってんでしょうねぇ・・・・・・」

「解ってる、わかってるって、秘密ね秘密。りょーかいだってば。」


ばらしたら おまえをバラす 早急に。

携帯電話の送信ボタンに指をかけて脅しかけてくる志保に、
まだ笑いを堪えながら祐介も応じる。

実は志保が脅迫のネタにしている祐介と片倉先生の写真は、
病院の中庭でみんなでお昼を食べていた時のものである。
少し席をはずした時間もあったので志保は気付かなかったようだが、
ちゃんとその場には瑠璃子も香奈子も居たのだ。
看護師さんも周りにいてアリバイもあるので、特に脅迫のネタになるとも
思えないシロモノなのであるが、敢えてそれを明かす必要もないだろう。


「でも教えてよ、何で秘密なの?みんな、応援してくれると思うけど?」

「なんでって、なんとなく・・・だけど、なんででもとにかく秘密なの!」

「変なの。」

「変でもいーから、もーその話題は終わり!忘れろ!!」


やたらとむきになって一方的に言い切ると、志保はすくっと立ちあがり、
バンバンとお尻についた草を払ってすたすたと歩き出す。


「あーもー、なんかおなか減っちゃったじゃない!
祐介、あんたなんか奢ってよ口止め料代わりに。」

「口止め料って・・・そんなら長岡さんが奢るのが筋じゃない。」

「ふふ、私がご馳走しますよ。そろそろ仮通路もできたと思いますし。」

「え、そんな、いいんですか?」

「ええ、私も少しおなかが減ってしまいましたし、ちょっとしたものでしたら。」

「おー、さっすが鶴来屋会長さんふとっぱら!」

「ふ、ふとっぱ・・・私、太ってないですぅ・・・・・・」


変なところでボケる会長である。

すっかり機嫌をなおしてつったか先を歩く志保に続きながら、
千鶴は声を落として、こっそりと祐介に囁いた。


(でも・・・なんにしても志保さん、楽しめているみたいですね、今。)

(あ、なんだ、ひょっとして千鶴さん、心配してたんですか?)

(なんだ、って・・・そりゃ、心配もしますよ。彼女一時期、退学届まで・・・)

(大丈夫ですよ。長岡さんは、僕とは違います。)

(と、いいますと?)

(大人なんですよ。)


ふふっと笑いながら呟いた祐介に、千鶴も笑みを返したが・・・
なんとも、複雑な微笑になってしまった。

千鶴から見れば、志保より祐介の方が大人びて見えるのだが、
その辺の差は同世代の感覚なのか、祐介個人の感覚なのか。


「あっ!ヒッーロー!!もう通れんのー?」

「ん?なんだおまえ、まだ帰ってなかったのか?ちょうどさっき、復旧作業も
あらかた終わったところだ。んで、これから芳晴さんや健太郎さん達と一緒に、
家の連中も呼び出してみんなでHoneyBeeで打ち上げしようって話してたんだが。」

「あ、いいねいいねぇ、ねえねえ、あたしも参加していい?」

「・・・ま、いいけど。後片付けくらいは手伝えよ。」

「うっわー、なにこの魚、でっかーい!!ひょっとして今日のメインってこれ?おいしーの?」

「聞いちゃいねえし・・・ってか、あの空中魚みて、もうちょっと別の反応はねーのかよ・・・」



なんというか、祐介の言葉が正しいとすればだが。
こんなに純粋で単純な大人も、珍しい。
ある意味羨ましかったり。


空中をふよふよ泳ぐ巨大魚を、無邪気に携帯のカメラ機能で撮影する志保を見ながら、
そんな風に思う千鶴であった。


(あとがき)

よく、まだあまり書かれていない組み合わせでの会話シーンを書いてみようという
動機で話を作るのですが、今回もそんな試み。
千鶴さんと志保ちゃんと祐介君での、高校生っぽい会話第2段。
千鶴さんは高校生じゃないですけども。

「大人」とか「子供」の基準とか解釈はそれこそ人それぞれいろんな形がありますし、
人には大抵、大人的な部分と子供的な部分が混在しているのが普通なので
一概には言えないのですが、個人的には高校生キャラの中では志保ちゃんも
割と大人っぽい部類のような気がします。もちろん、内面的な部分でですけどね。

実際に年月が経ち、より大人になった時、「つくづくあの頃はガキだったわねー」、
と振り返れる子供時代は、平均よりは大人っぽいかなと。
ちょっと起伏に乏しいお話になっちゃったのと、なんかネタが中途半端に
ローカルだったりマイナーっぽかったりするのが反省点ですね。
でも、そんな元ネタをこっそり仕掛けるのって楽しいですねー?ね〜??(←誰に同意を求めてるの?)







 ☆ コメント ☆

セリオ:「秘密基地、いいですよね。まさに女の浪漫です」

綾香 :「そ、そう?」

セリオ:「はい。秘密基地さえあればご飯三杯はいけます」

綾香 :「……ワケ分かんないって」

セリオ:「アッサリ割れるバリアーと自爆装置があれば完璧」

綾香 :「……危ないわねぇ」

セリオ:「それが日本的様式美ってやつです、ハイ」

綾香 :「……はぁ、さいですか。
     ま、それはさておき。閑話休題。
     志保の事なんだけどさ。
     彼女の頭の中、だいぶ浩之に毒されてるみたいね」

セリオ:「秘密基地と聞いただけで、発想が18禁へ直行ですからねぇ」

綾香 :「まあ、祐介じゃなくて浩之だったら、確かに志保が言ったみたいな使い方をしたと思うけど」

セリオ:「ですね。尤も、浩之さんの場合、別に基地なんて無くても……以下自粛」

綾香 :「……と、とにかく、祐介だったらあんなものよね。
     了承学園では貴重な純情派だし。
     男に対して純情派という表現も我ながらどうかとは思うけど」

セリオ:「大丈夫ですよ。女性なのに漢とか言われてる人もいるくらいですから。
     それくらい何の問題も有りません」

綾香 :「……フォローになってる様な……イマイチなってない様な……」





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