私立了承学園第476話
「究極メイド」
(作:阿黒)



(1)

「学園メイドコンテスト…?」

 1階渡り廊下の掲示板に張り出された告示を読み上げて、浩之は首を捻った。
 いつもならばそんな張り紙をマメにチェックしたりしないのだが、たまたま目についた『メイド』の3文字につい、目が惹かれてしまったというか。
 日時は三日後の放課後、場所は了承アリーナ。

 ――真のメイドとは何か。正しきメイドとはどういうものか。
 今、ここに全ての真実が明らかになる!!!

「いやメイドの真実って…なに?」

 1人、張り紙に向かって思わず突っ込んでしまう浩之である。

「フッフッフッフッフッ…きましたね、マルチさん!」
「ふっふっふっふっふっ…きましたですよ、セリオさん!」
「うわっ!?」

 いつの間にか後ろで腕組みして不適な笑み(誤字にあらず)を浮かべるマルチとセリオにどうしようもなく不穏な空気を感じて、浩之は思わず引いた。

「了承学園メイドコンテスト…通称『冥土八連天跳黒煉獄』…古代ブルガリア文明が発祥とされる、メイドの道に踏み込みし修羅ならば一度は耳にしたことのある闇の秘儀…まさか生きているうちにその名を聞く日がこようとは…」
「セリオ…できればツッコミどころは一発言につき3つまでにしておいてくれないか?」
「ふっふっふー、腕が鳴るですー」

 ギッチョンギッチョン。

「ホントに鳴ってる!?つーかマルチお前それなんか動作不良音っぽいし!!」
「あ、そうでした。私、これからメンテナンスを受けに行く途中だったんです」
「それにしても…浩之さん。知らなかったんですか?了承学園メイドコンテスト…通称『冥土八連天跳黒煉獄』のことを」
「知るか。っていうか長ったらしいからその呼び方やめてくれセリオ」
「はい。ですがこの冥土八連天跳黒煉獄は」
「そっち使うのか…」
「メイドを極めしメイドの王『冥王』の中で誰が最強のメイド…『冥皇』を決めるこの大会…100年に一度開かれるというこの大会も、今回から一般参加も受け付けるということで、あかりさんや綾香さん、その他のクラスの方々も張り切ってらっしゃるそうですが」
「メイドって前提そのものが壊れてるしっ!そもそもメイド王ってなによ!?
 てか、あかりや綾香だと!?」
「いえ、実は他にも智子さんとレミィさんと理緒さんと琴音さんと葵さんも参加されますが」
「先輩以外全員じゃねーか!俺聞いてないぞソレ!?」
「はい。初めて言いましたから」
「優勝者には豪華賞品が出るんですよー」

 ニコニコと無邪気にそう告げるマルチに、ガックリと浩之は肩を落とした。

「いや…なんつーか一言で動機がわかっちまったが…そんなに豪華なのか?」

 浩之の問いに、二人は揃って頷いた。

「まずラジカセですね
「は…?」
「あと湯沸かし器」
「へ!?」
「「何といってもカレー一年分!!」」
「そんなもんが本気で欲しいのかお前たちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」

 頭を抱えるしかない浩之であった。
 ていうかどこぞの家族そろってゴロ合戦かよ!

「ふっ…セリオさんといえど、こればっかりは譲れないのですよー」
「マルチさん…たとえマルチさんが相手でも、手加減はしません…」

 なんかこー、オーラっぽいものまで放って視線の火花を散らしてるマルチとセリオの姿を視界に納めないようにしながら、浩之はとにかくひたすら頭が痛かった。

(まあ…こんなアホな大会、参加する物好きがそうそういるとも思えんが…)
 自分に言い聞かせるように、心中でそう独白する浩之だった。

  * * * * *

 三日後。

「ニューヨークへ行きたいか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」

 おおおおおおおおおお―――――――っっっ!!!

 司会の大志のお約束に、会場内のざっと1万以上のメイドロボ達は喚声をあげて応える。
 そのほとんどは学園各ブロックで都市運営の業務に携るHM−12・13型メイドロボだが、それに混じって其々思い思いのメイド服に見を包んだ、多妻部の女生徒・職員の姿もかなり見受けられた。

「アホばっかだ…心底アホばっかだこの学園…」
「あ、あはははは…」
「でもらしいっていうか…意外とは思わないよなぁ…」

 何かと広大な了承学園だが、流石に1万という数は多すぎて観客が入る余裕はなく、視聴覚室のテレビから実況を見る浩之と祐介、そして耕一だった。
 いずれも自分の見通しの甘さを苦くかみ締めながら、それでもやはり自分たちの最愛の家族のことは気がかりなので、画面から目を離すことなく会話を交わす。

「…和樹さんとか祐一とかはどうしたんすか?瑞希さん達も出てるみたいですけど」
「和樹は編集長に襟首捕まれて連行されてたよーな。後の連中は…まあそれぞれ自宅なりで見てるとは思うけどな」
「あ、冬弥さんはADで駆り出されてるそうですけど」
 そう応じる祐介の後ろでは半被を着てメガホンを持った応援モードの結花が同じ格好の健太郎と一緒に控えている。
「あっ健太郎、今リアン映った!
 うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜やっぱ萌えるわネコ耳リアン!しかもメイドでメガネの三段コンボ!
 あ〜〜〜〜も〜〜〜〜〜〜〜〜見るだけで勃起しちゃう〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「何がだ!?」
「あたしの百合棒」
「即答かいっ!ていうか百合棒って何!?」

 なんかこー、涙目で応じるしかない健太郎である。
 健太郎は先程からチラチラと『何とかしてくれこの女』という視線を三人に向けているが、皆、TV画面から片時も目を離そうとせず、丁重に無視している。
 その注目の中、このようなお祭り騒ぎの司会にはこれほどの適任者はいないであろう大志が元からハイテンションな上にブーストとターボがかかった状態で喚いていた。

「フフフフフ…では早速だが無駄に大勢集まった参加者を容赦なく振り分けるとするか…同志冬弥!」
「いやだから俺は一介のADであって同志なんかじゃないし…」

 そうぼやきつつカメラの端から飛び出した冬弥が大志に何やらTVのリモコンのようなものを手渡して、すばやく戻る。
そのリモコン(?)のスイッチに指をかけて。

「では早速第一次のふるい落としを行うとするかなエヴリワン!
 今週のドッキリビックリメカ・スイッチオン!」

 ゴゴゴゴゴ…

 会場全体を揺るがし、そして最初から開いていたドーム天井から、巨大な影がヌッと姿を現した。

 会場内の全員が、それを声を呑んで見上げる。

 それは――
 巨大な人間の手に抱えられた、巨大なザルに見えた。

「「「超○オリンピックかいっ!!!?」」」

 浩之・祐介・耕一が声を揃えて突っ込んだ。

「ちょっ、なによこの詠美ちゃんさまになんてこと…ひゃあああああああ!?」
「ふははははは…見ろ!まるで人がゴミのようだ!!」

 何かにとり憑かれたような顔をした大志がステージで高笑いしている間に、あれよあれよと巨大な手はメイドさんを片っ端から捕まえては巨大ザルに放り込んでいく。
 ある意味、実に豪快な光景である。
 さして時間もかからずに、あれほど大勢の参加者全員がザルに納まってしまった。

「ククク…さあて、何人残るかな?」
「太志さん…酔ってますね」

 悪人顔でニヤリ笑いなどしながらザルの起動スイッチに指を伸ばす大志をただ見つめることしかできないまま、青ざめた顔をした冬弥は思わず十字を切った。
 そして、スイッチは入った。

 ゴウンゴウン――

 ザルをゆすり、文字通り参加者がふるいにかけられる。
 いやそれでいいのかゆで○まご御大?

「な、なんで?なんでよー!?」
「あわわっ!?な、なぜなんですかー」

 ほとんど素通しのような勢いでまず全参加者のほとんどをしめるメイドロボ群がザルから落ちて山を作っていく。
 その中に混じってネコ耳をつけた綾香や琴音、リアン、楓、犬耳をつけた初音たちもアッサリと振り落とされてゆく。

「フハハハハハハ!
 選別されるのは『メイド』であって『メイドロボ』ではない!ロボは余計なのだよロボは!メイドロボというだけで残れると思う方が甘いのだよ!」
「くぅ…無念…」
「ウウ…白衣ノ天使ハ駄目デスカ…」

 雪音と舞奈はまだザルに残っているマインとマリナを見上げ、納得したようにため息をついた。

「ちょっと!なんでウチのリアンが対象外なのよ!納得いかないわよアタシは!!」
「結花…落ち着け…お願いおちついて…!!」

 口惜しさに地団太ふみながら、健太郎の首を締め上げて振り回す結花の声が聞こえたわけでもないだろうが、画面の中で大志はフッ、と哀しげな顔になった。

「そして…ネコ耳・犬耳で勝負してきたレディ。
 確かに萌える。その様は萌える。萌え死にそうだよ我輩も!!
 だがしかし!しかしだ!!
 その萌えはネコ耳に対する萌えか、それともメイドさんに対する萌えか…?
 邪道だとは言わん!我輩とて個人的にはネコ耳メイドさんは大好きだ!
 しかし純粋にメイド萌えを追及するという本大会の趣旨を鑑みると…今回は断腸の思いで選外とさせてもらう!」
「まて大志!ではメガネっ娘は…メガネっ娘メイドは良いというのか!?ネコ耳はダメでメガネっ娘はいいのか!?」

 いきなりステージ上に上がってそうのたまったのは――和樹だった。
 思わずテレビの前でコケてしまった3人に関係なく、画面の中の二人の男の対決は続いていた。

「ギリギリセーフ!」
「何故だ!俺は納得いかんぞ!!」
「わかる!我輩とて同志の憤りはよくわかる!
 しかしだ!メイドさんというものは本来奥ゆかしいもの!常に一歩下がって静かに控え目、壁際の影でひっそり咲く一輪の花の可憐な美しさ…それがメイド!そうではないか!?」
「それは…そうだが…」
「…ネコ耳はいい。いいものだ。
 しかしそこには受け狙いの、媚び狙いの作為がある!そんな自己出張の激しいメイドさんは…メイドの格好をしたネコ耳だ!そんななんちゃってメイドは断じてメイドさんではない!」

ガガ―――――ン!

「そうか…メガネっ娘は同時に文学少女属性も含まれている…そして文学少女といえば内気なもの…これはメイド属性と同じ!」
「わかってくれたかまいえたーなるふれんど!」
「くう…口惜しいが…口惜しいがわかってしまうぜ大志!」
「そう…それは良かったわねぇ千堂クン?」

 メキメキメキメキメキ…

 ニッコリと、どこまでもニッコリと、般若のように微笑みながら影のように和樹の背後に現れた澤田編集長は、〆切そっちのけでバカなことをのたまう新人漫画家の頭蓋を握り潰さんばかりの握力を発揮していた。
 具体的にはトランプの束をカステラのように千切るくらいに。

「全くちょっと目を離した隙に…動けないように足首の関節でも外してあげようかしら?」
「あだだだだだだだだだだだだだだだだだあああああああっ!!?
 わ、割れる!割れてしまいます、編集長っ!?」
「割れるものならとっくに割っちゃってるわよまったく…じゃ、後はヨロシクね」
「うむ。まかせるがよい」
「大志っ、てめ、助けろ!見捨てるつもりか!?」
「この世で最も最低最悪な行為は原稿を落とすことだ!我輩はそのような卑劣な男を同志とした
覚えなど無い!」
「うわあ…ある意味、すげえ男らしい」
「お褒めに預かり恐悦至極!」
「いや誉めたつもりはないけど」

 とりあえず大志にそう言って、引き摺られていく和樹を見送る冬弥だった。
 とかなんとか外野が騒いでいる間も参加者の振り落としは続いている。

「ちょっとコリン。…あんた、こっそり浮いてるんじゃない?」
「あらら〜〜?人のこと言えるわけユンナ?」

 シニカルな笑みをはりつけて、二人の天使はそろそろと間合いを計りつつ対峙していた。

「バレバレなのよアンタ。背中から羽が出てるじゃない」
「長いスカートを利用して、外から見えないように羽をちょっとだけ出してるなんて姑息よねぇユンナ?」
「フフフフフフ…」
「へへへへへへへへ…」
「うぐぅ。ズルはよくないよー」

 ぴこぴこふよふよ…

「「人のこといえるか――――――!!」」
「うぐうっ!!?」

 ぱちこ―――――――――ん!

 息の合った二人の平手ツッコミに、羽リュックで飛んでいたあゆがあっさりお空のお星様となった。

「そりゃお前らもだろがっ!」

 ドンっ!!

 そんな二人に生来ツッコミ役・梓の鬼パンチが炸裂!更に脱落者を増やした。

「梓ちゃん?ご協力は感謝しますけど、暴力行為はいけませんよ〜」
「へ?」

 見上げると、やや上方に幾つか空飛ぶバケツ――フライングプラットホームが浮いていた。
 その一つに乗っていた、今回はスタッフとして参加している南が困った顔をしつつ、頭の上で腕を交差させて『×』を作る。
 途端に梓の足元の網が大きく開き、悲鳴を上げる間もなく梓は落下していった。

「ちょっと〜〜〜!なんで〜〜〜〜?あたしズルしてないよ〜〜〜〜〜〜?」
「なんでよなんでよなんでよ〜〜!?納得いかない〜〜〜〜!!」

 自分の下の網がゆるみ、既に胸までザルから落ちかけているスフィー(Lv.1)がちょっと泣きの入った声をあげつつジタバタもがくが、容赦なく彼女の身体は重力にひかれていた。
 その隣りではやはり今にも落ちてしまいそうなマナも足掻いている。

「えーっと、ですね…」

 無線機でなにやら会話を交わした後、南は申し訳無さそうに言った。

「その……………児童労働はダメでしょ、ってことで」
「21歳なのに〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」
「わたし子供じゃない〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 怨嗟の叫びとともに、また二人逝った。

「ふみゅっ、ふみゅっ、ふ、ふみゅ〜〜〜〜〜!ゆ、ゆれる〜〜たかい〜〜おちる〜〜〜!!」
「大丈夫やて、慣れれば結構おもろいやないか」
「お、温泉パンダと違って、あ、あたしはゲリピーピにできてるんだからぁ!」
「デリケート、やろ。…なんや詠美、怖いんか?」
「バ、バカにしないでよね!この詠美ちゃんさまが…」

 ぐらぐらっ!

「ふみゅみゅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「あーはいはい、意地張らんでもええって。ホンマ、詠美は臆病やなぁ」

 苦笑しつつ、もはや虚勢をはる元気もなく泣きながら自分にしがみついている詠美の頭を、由宇はよしよしと撫でてやった。
 いつもいがみあっているのが嘘のように、由宇は優しい顔をしていた。

「大丈夫、大丈夫やて」
「ふみゅう…」

 へたり込み、由宇の腰にしがみついた詠美は由宇のエプロンを握り締め、はむ、と咥えた。
 そしてポロポロと涙を溢しながら、濡れた瞳で由宇を見上げる。

 ぐびびっ!

 由宇の喉が、妙な音を立てて鳴った。

(あかん…こらあかん…詠美の泣き顔はめっさカワイイけど…その上メイドやなんて…ものごっつ萌えるやんか〜〜〜〜!)

 一応断っておくが、ネタとしては好きでも由宇に『その趣味』は無い。
 しかしそれとは別の次元で、ぷに萌えやネコ耳やメイドのカワイイ女の子が、由宇は大好きなのである。萌えるのである。勃起するのである。

「ふみゅうううう…」
「っう、え、詠美っ…人の股間にそんな熱い息ふきかけんなっ」

 と、一応諌めはするものの、しがみつく詠美のしなやかな肢体のやわらかな感触とぬくもりが、由宇の萌えを誘発しとろけさせる。

「え〜い、み?」
「な、なに?パンダ?」
「ちょっと…ちょっとでええんやけど…『ご主人様』ってゆーてみ?ゆーてみ?」
「なんでそんなこと言わなきゃいけないのよ!」
「いやほら、うちら今メイドさんなわけやし…そういう呼び方とか練習せんといかんやろ?」
「べ、べつに今しなくったって…」

 ゆさゆさゆさっ!!

「ふみゅうううう――――――――!!!?
 みゅ―――――!!みゅ―――――!!みゅ―――――っ!!
 ご主人様ご主人様ごしゅじんさまあああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」




 …。



 ………。





 ………………………………ぷち。


「きた―――――――――!
 きたきたきたきたきたきたきたきたきたきたきたきたきたきたきたあああああっ!
 ガビーンときたでええっ!!
 なんかこう、ズガビシャピーン!って感じで漫画神が!!」

 由宇のメガネがギラリと禍々しく光った。

「傑作や…こいつは傑作になる…
 ふみゅふみゅプニ萌えメイド…こいつは弄りがいあるでぇ…
 次のこみパはこのネタで勝ったも同然!!」
「パ、パンダ?」

 長年のつきあいの中で、詠美はこんな由宇の姿を幾度か見てきた。
 萌えて萌えて萌えまくり、創作意欲の炎がコロナとなって荒れ狂う時――
 由宇は漫画の鬼となる。
 具体的には人間界の法律とか他人の自由意志なぞ簡単に超越してしまえるほどに。

「いくで詠美!この昂ぶりは今、カタチにせんと色褪せてまう!」
「ちょちょ、よくわかんないけどだったらあたしを巻き込むなぁ!失格になっちゃうじゃない!」
「メイドよりもカレー一年分よりも、ウチにとって一番はいつだってマンガや!!
 ちゅーわけで詠美、モデルよろしゅうな〜〜♪」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!?」

 問答無用、とあっという間に由宇はどこからか取り出したロープで詠美を後手に縛り上げ、さらに猿轡まで噛ませた。

「はおうおっ!?」

 ピシャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!

「またきた!きよったでぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!ヒーロー神と児童漫画神がっ!
 荒縄緊縛蜘蛛地獄・拘束24時間肉奴隷ふみゅふみゅプニ萌えメイド卑猥のわななき逆さ吊るしブランコ!でも申込は一般で!!
 …詠美…今のあんた、ホンマかわええで…」
「ふみゅ、ふみゅっ、ふみゅみゅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 極悪無残に身の危険を感じて必死にもがく詠美をあっさりとその小さな肩に担ぎ上げ、片手でスカートを絞ると由宇は軽々と巨大ザルの縁から躍り出た。
 2階程の高さを落下し、人1人担いでるとは信じられないほど危なげなく着地する。

「ああ……見える…見えるで…我が究極の理想郷(アバロン)が!!
 うわはははははははははははははははははは――――――――――――!!!」
「ふみゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 高笑いしながらあっという間に会場から由宇は駆け去っていった。
 その後に点々と、詠美の涙を残して。

「…もしかして、ああいうことするから詠美ちゃん猪名川さんと仲が悪くなったんじゃ…?」
「む?同人作家ならば身内の拉致監禁なぞ当然の当たり前の常識だぞ同志冬弥」
「あらあら…由宇ちゃんメガネで関西弁のツルペタメイドってことで結構マニア票集めそうだったんだけど」
「そうなの?というか、もっと別の心配してあげてよ牧村さん…」

 一応常識人の冬弥の呼びかけは、二人には届いていないようだった。

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