1、理事長室 

 「理事長、食料庫の事で相談が少々…」
 「了承」

 ガディムがばたりとドアを閉めて、二人の会話が聞こえなくなる。

 
 黒い魂…清める…危険…救う…信じる…了承!


 「では、宜しくお願いする、理事長」

 「・・・聞いてましたね皆さん」
 秋子が口にすると例の三兄弟が次の間から出てくる。
 「「「準備はお任せください、ご主じ…げふげふん!理事長」」」
 
 
 秋子は心でつぶやいた。

 『ガディム先生…あなたも、成長したのですね』
 

 2、教室 

 「あかり、義母さんから聞いた話だと今日は秋子さんじきじきに授業するそうじゃねえか」
 
 「そうなの?ずいぶん珍しいね」

 

 がらっ!
 

 「おはようみなさん、今日はこの授業をやってもらいますよ」
 来て早々いきなり授業を始める秋子。

 


 「ん?」そして、ちらりとなぜか俺の目を見つめたが、そっと目を伏せて俺達に授業の開始を告げる。

 
 
(修正版)               了承学園 藤田家
 
 
 
 ぷにぷに 
 俺はほっぺを突くそのやわらかい感触に思わず口元が緩む。

 撫で撫で
 次にそっと頭をなでそのさらさらした髪をしばし堪能する。

 くんくん
 最後俺は頭の天辺に鼻先をくっつけその匂いを嗅いでみた。



 いかん、涙が出てきた、これは………可愛過ぎるっ! 


 「今日の授業は、この本物の赤ん坊を可愛がって貰う事です」
 そういって秋子さんが赤ん坊達を連れてきた。

 最初はおっかなびっくりだった俺達だったがだんだん扱いに慣れてきて楽しくなってきた。
 
 哺乳瓶でおっぱいをあげたり、おしめを取り替えたり、お風呂に入れたり、おんぶして抱っこしてまた明日(違)
 

 「浩之ちゃん」あかりが俺にしな垂れかかり、こう言った。
 「赤ちゃん、欲しくなっちゃった」

 それか?それが目的なのか?ひかりさんの陰謀なのか?

 「浩之さぁん」マルチが俺にしな垂れかかり、こう言った。
 「赤ちゃん、欲しくなっちゃったです」

 ぐっ………………(汗)OK 落ち着け俺、ちょっと待てマルチ、答えに困った俺はマルチたちを胸に抱きながらも、視線をあさっての方向にさまよわせる。

 

 ふいに俺の視界に飛び込んできたのは、秋子さんの横に居た
一人の男の子。

   
 この子は5歳くらいか?

 なぜ赤ちゃんに混じって園児がいるんだ?

 いや、それはともかく。

 
 俺が気になったのは、その子の眼だった。
 その眼に宿った深い後悔、そして哀しみ。

 何故?

 俺は何も考えずに、その子を腕に抱きとって、自分の膝に乗せていた。

 「あっ?」
 撫で撫で撫で撫で。

 「うりゃっ」俺は頭を撫でる。

 そんな俺の事を、秋子さんは優しい顔で見つめている。

 「駄目…僕に、優しくされる資格なんて」
 撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で。
 
 「んんっ、あっ、ないのに」
 撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で。

 「ふっ、ふっ、ふあああっ?ふわあっ…ううっ」
 子供が俺にしがみついた。
 
 「ふええええええええええええええええええん」
 子供が、終に泣き出した。 
  
 抱きしめた男の子から真実が、過去が、罪悪が、俺の心に、直接流れ込んできた。

 3、過去
 「役立たず」
 ヤメロ
 「欠陥品」 
 ヤメロ
 「ゴミ」 
 ヤメロ
 「お前なんか…」
 ヤメロッ、ヤメロッ、ヤメロッ
 「只の、予備だっ!」
 止めろーーーーーーーーーーーーーーーー! 

 
 或る大企業の会長の長男に生まれたオレ。

 産まれた時から、病気を患っていたオレ。
 
 薬で進行を抑えるしかない、なぞの病気。
 
 治らない、いつ死ぬか、判らない、病気。

 怒った親父は、オレに何も与えなかった。
 
 オレが紳一を名乗ったのは、親父の死後。
 
 遺産相続に必要なオレがつけた只の記号。

        そう 

 あの親父は名前さえオレにくれなかった。 
 
 あの親父は俺に言っていた、もし次の子ができたならお前なんか捨ててやると。
 
 オレは最低限の教育さえ、親父達からはして貰えなかった。
 
 オレに教育を教えてくれたのは下男の古手川。
 
 オレの遊び相手は、直人。
   
 オレが18の年。
 
 俺のたった二人の味方の一人、古手川。

 彼が壊れるところを、オレは見た。


 親父が飲ませたワイン。

 そこに含まれていた。
             

  
                            
                            
      
                            
                        麻薬。





 「あひゃ?うひゃっ、うひひひひひひひひひひひひっ」

 何をした?

 「ふふん、壊れおった」
 
 なぜ壊した?

 「ゴミの味方なぞするからだ」
 
 何で人を壊せるんだ?

 「ふん、人一人壊せずして、何の金、何のための権力よふははっ、ふはははははははははっ」
  
 それが、あんたの、答えかぁぁぁぁっ!



 その日、オレは、親父を毒殺した。




 オレは直人をそばに置き、壊れた古手川を執事に任命した。
 
 オレには彼を見捨てる事が、如何してもできなかったのだ。
 



 その後、もうすぐ死ぬと判ったオレは、オレ自身の人生に絶望し、女の子達を拉致して、オレは…オレは…。

 4、そして現在

 「うっ、うっ、ううううううっ」


 慙愧の念に捉われ泣いている‘紳一’
 

 彼の目を見ながら頭を撫でる‘浩之’


 

 「いいぜ、他の、誰が愛さなくとも…」
 
 「お前のその過去も償いきれない罪も」

 「その深い、憎しみや悲しみも含めて」

 
 


                      俺はお前を愛し、受け入れている


 
 
 その瞬間、暗黒だった魂が、白く塗り換わった!

 白い魂はやがて分裂し、赤ん坊達に吸い込まれていく。

 いや、赤ん坊じゃない?

 今まで、確かに赤ん坊だと思っていたそれは、実は紳一の傷つけた少女達の魂であった。

 紳一の魂が、彼女達の魂の欠けた部分を埋めていく。

 その分、紳一の魂が磨り減っていく。
 
 完全な姿を取り戻した魂は、それぞれの本体に帰っていく。
  
 「消える気なのか紳一?」

 浩之はつぶやいた。
 
 「いいえ、さっきあなた達が可愛がっていた分、彼女達の傷が埋まっていますから」

 秋子は言う。

 「ほら、彼の魂が余りましたよ」
 
 そして最後に残った魂が、浩之に吸い込まれ。

 近い将来、浩之の子供として生まれ変わる事になったという。



 浩之は思った。

 
 紳一は自分の魂で罪を償った。

 紳一は俺の中に居る、俺の中で生まれ変わるときを待っている。
  
 誰が傷ついたわけでもない、理想的な終わり方。


 何故?

 じゃあ、何故?

 何故俺は泣いている?

 俺は、少しだけ、ほんの少しの間だけ、秋子さんの膝で泣いた。
  
 

 その夜、理事長室にて、秋子はガディムと向かい合っていた。

 「よかった、浩之さんがちゃんと彼を救ってくれましたね」
 
 ガディムが首をゆっくりと振りながら言う。 
 「私は、始めからあの二人を信じていましたよ」
 
 「勝沼紳一の闇が、実はその殆どが、悲しみで占められていると気がついた時」

 「私は思い出しました、私が魔王だった時、この世界の勇者浩之から感じた光」

 ゆっくりと顔を上げるガディム。

 「私は、藤田浩之ならば絶対にあの男を救えると、そう何故か確信できました」




 秋子は思っていた。

 『もう少し、もう少しで彼方は気が付けますよガディムさん』
 
 『もう少しであなたは(食事)を必要としなくなるはずです』

 『気が付いて下さい、彼方にも本当は、光が宿っている事を』
  
 『その光に彼方が気付く日を、私は待っているのですからね』


(修正版)               了承学園 藤田家
      終わり







 ☆ コメント ☆

ユンナ:「人が歪むには、やっぱりそれ相応理由ってのがあるのよね」

コリン:「そういうもんなの?」

ユンナ:「そりゃそうよ。初めっから性根の捻じ曲がってる人間なんてそうは居ないもの」

コリン:「ふーん」

ユンナ:「だから、環境ってのは大事なのよ。特に幼少時はね」

コリン:「なるほどねぇ。
     ――ふむふむ、それでか。納得納得」

ユンナ:「?」

コリン:「ねえ、ユンナ」

ユンナ:「なによ?」

コリン:「あなたもきっと、子供の頃にたーっくさん酷い目に遭ったのね。
     だから、こんなにも性格が腐って……」

ユンナ:「あ・ん・た・に! 言われたくないわ!」

コリン:「いひゃいいひゃい! ほっぺひゃ、ひっひゃるなぁ!」

ユンナ:「――ったく。
     言わせてもらうけど、性格の腐り具合だったらどう考えてもコリンの方が上でしょうが」

コリン:「はぁ?
     ちょっと、変な言い掛かりはやめてよ」

ユンナ:「ああーん? 言い掛かりぃ?」

コリン:「そうじゃない。わたしに『性格が腐ってる』だなんて言い掛かり以外の何物でもないわ。
     コリンちゃんはね、天使一清らかな心の持ち主だとご近所でも評判なんだから」

ユンナ:「そんな戯言を吹いているのはどこのご近所よ?
     つーか、コリンが清らかぁ? はんっ、おへそがお茶を沸かしちゃうわね」

コリン:「…………」

ユンナ:「ん? どうしたのよ、キョトンとした顔して?」

コリン:「ユンナって凄い特技を持ってるのね」

ユンナ:「は?」

コリン:「おへそでお茶を沸かすことが出来るだなんて。
     ひょっとして、灼熱バーニングオヘソーみたいな必殺技とか撃てちゃったりする?」

ユンナ:「…………」

コリン:「なによ?」

ユンナ:「あんた、性格だけじゃなくて脳まで腐ってるのね。
     ――いやまあ、分かりきってたことだけど」

コリン:「なっ!? ちょ、ちょっと! 変な言い掛かりはやめてよ。
     コリンちゃんはね、天使一知的な頭脳派だとご近所でも評判なんだから」

ユンナ:「マジでどこのご近所よ、そんな暴言を吐いてるのは?
     あんた、まさか、天使の力を使って近隣住民を洗脳でもしてるんじゃないでしょうね」

コリン:「してないわよ。するわけないでしょ。
     だって、成功率低いんだもん。リスクがありすぎるわ」

ユンナ:「……高かったらするんかい」(汗




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