連載小説 私立了承学園
第弐百参拾六話 四日目 1時限目(Heart to Heartサイド 職員会議編)

 了承学園初の職員会議です。
 いや、もしかしたら、今までにもやってたかもしれないけど……、

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 了承学園設立四日目――

 その日は、朝から全教職員が会議室に集まっていた。

 了承学園の会議室というと、国会議事堂のような内装を想像するかもしれないが、
意外や意外、普通の教室に長テーブルが置かれただけの、ごくごく普通の会議室である。

 その長テーブルに腰掛ける教師一同。
 そして、上座に置かれたホワイトボード。

 その光景は職員会議と言うよりは、PTA会議のようにも見える。
 まあ、実際、教師の中には生徒の保護者がいるわけだから、間違ってはいないのだが。

「みなさん、おはようございます」
 皆の前に立ち、朝の挨拶をする秋子。
『おはようございます』
 秋子に一礼する教師達。
 秋子は全員を見回し、席が一つ開いていることに気が付いた。
「……メイフィアさん。主任のルミラさんの姿が見えませんが?
それと、ここではタバコは控えてもらえますか」
「っと、これは失礼……」
 咥えていたタバコを灰皿でもみ消しつつ、メイフィアは秋子の質問に答える。
「ルミラ様は、昨日、修行に行くと言って出ていかれたまま、まだ戻ってきていません」
 その答えに、秋子はふぅっと軽くタメ息をつく。
「こんな大事な会議に欠席するなんて、仕方の無い人ですねぇ」

 ――お仕置き決定。

 その場にいた秋子以外の全員がそれを予測し、心の中でルミラに合掌した。
「それで、この会議の議題は何なんですか?」
 と、これはティリア。
「それはですね……ひかり、お願い」
「はいはい」
 秋子に言われ、ひかりは丸めていた大きな紙を、ホワイトボードに貼りつけた。
 そこに見事な毛筆で……、

 ――『藤井(誠)家クラスの今後の処遇について』

 と、デカデカと書かれていた。

「どういうことです?」
 誠の事と知り、職員の中で最も敏感に反応するエリア。
 そんなエリアを見て、秋子は内心微笑ましく思いながらも、真面目な表情で皆に説明する。
「みなさん、ご存知の通り、誠家クラスは藤田家クラスと同じクラスとなっていますよね?
実は、それにはある事情があるんです」
「ある事情、といいますと?」
「……みなさん、現在、第二校舎が建設中なのは知っていますね?」
 秋子の言葉に、全員が頷く。

 第二校舎というのは、今後、増加するであろう了承予備軍クラスの為の校舎である。
 第一校舎を葉っぱ系、鍵系、作戦系クラスの為の校舎とするならば、
第二校舎はそれ以外の系統のクラスの為の校舎、というわけだ。

「それと誠君達と、何か関係あるんですか?」
「実はですね……今日から、誠家クラスには第二校舎へ移転して頂こうと思うのです」
 秋子の言葉に目を見開く一同。

 誠家クラスの第二校舎への移転。
 それは、事実上、誠達と離れ離れになることを意味する。
 もちろん、会おうと思えばいつでも会えるのだが、
自分達が第一校舎の教師である以上、その機会はグッと減ってしまうだろう。

 ハッキリ言って、それは寂しすぎる。
 ここにいるのは皆、教師である以上に、誠達の友人でもあるのだ。

 いや、自分達は、まだマシな方である。
 何故なら、この場には……、

『…………』

 全員の視線がエリアに集まる。
 しかし、秋子の言葉が余程ショックだったのだろう。
 エリアはその視線に全く気付かず、ただただ呆然としている。

「秋子さんっ! そりゃどういうことなんだよっ!?」
 バンッと机を叩いて立ち上がるサラ。
 親友であるエリアの気持ちを代弁しているのだ。
「落ち着け、サラ。秋子理事長のことだ。きっと深い考えがあるに違いない」
 と、興奮するサラを諌める雄蔵。
「で、でもよぉ……」
「いいから座れっ!」
 雄蔵のいつになくきつい口調に、サラは憮然としつつも腰を降ろす。
「じゃあ、その深い考えってのを聞かせてもらおうじゃねーか。
当然、納得のいく話を聞かせてくれるんだろ?」
「サラッ! そんな口の聞き方……」
 サラり態度に、さすがにキレる雄蔵。
 しかし、秋子がやんわりと制する。
「雄蔵さん、構いません。最初からちゃんと説明しなかったわたしが悪いのですから。
それでは、この件に関してのわたしの考えを聞いていただきましょうか」
 そう言うと、秋子は、丁寧に説明を始めた。



 秋子の話の内容は、こういうものであった。

 第二校舎に編入するであろう了承予備軍クラス――
 そのクラスは皆、まだ多夫多妻制度に慣れていない者ばかりだ。
 その為、この学園の授業についていくことが出来ない可能性が有る。
 そこで、誠家クラスを模範生として第二校舎に送り込もうというわけだ。

 ならば、何故、誠家クラスに白羽の矢が立ったのか?
 それは、誠家クラスが、この了承学園において少々特殊な存在だからである。

 誠家クラスは、葉っぱ系、鍵系、作戦系はもちろん、あらゆる系統に当てはまらないクラスだ。
 つまり、それはどの系統のクラスとでも、良い関係を持てるということだ。

 さらに、彼らは世間に多夫多妻制度が発足される遥か以前から、
誠、さくら、あかねという三人の関係を築き上げている。

 もし仮に、男女の一対多数の関係を『たさい』と称するならば、
この学園で最も『たさい』経験が長いのは彼らということになるのだ

 ならば、誠家クラスの三人こそが、模範生としてふさわしいのではないだろうか。

 ……これが、秋子の考えである。



「……うむ、なるほど。確かに秋子殿の言われることもにも一利ある。
もし仮に、模範生を推薦しろと言われれば、我輩も同志・誠達の名前を出すであろう」
 秋子の意見に、最初に同意したのは大志であった。
 日頃の奇行のせいで忘れられがちだが、
この男、物事を論理的に解釈する能力には長けているのである。
「大志さん、そう言っていただけると幸いです。
それで、他のみなさんはどうですか?」
 と、秋子は他の教師達を見回す。
 皆、押し黙ったまま、同じ表情をしていた。
 頭では理解できているが、気持ちでは納得いかない……そんな表情だ。
 秋子にもそれは分かったのだろう。
 軽く息をつき、話を続ける。
「どうやら、みなさん、わたしの意見には反対のようですね。
でしたら、反対する理由を聞かせてもらえますか?
言っておきますけど、個人レベルの感情で発言しないようにしてくださいね。
あくまで、全校生徒達の学園生活をより良くするということを前提として発言してください」
 と、キッパリと言い放つ秋子。
 その言葉は、暗に『エリアのことは引き合いに出すな』と言っていた。

『…………』

 シーン……

 静まりかえる一同。
 と、そこへ……、

「……はい」
 その静寂破るように、一人が手を上げた。
 アレイである。
「はい。アレイさん、何ですか?」
 訊ねる秋子に、アレイは真正面から向かい合う。
「わたくし、この第一校舎には、誠様達がまだまだ必要だと思います」
「……その理由を聞かせてもらえますか?」
「はい。この第一校舎にはたくさんの家族が存在しています。
その家族の何組かは、この学園に来られるまで、まったく交流が無かった方々もいます。
ですが、誠様達だけが、その全ての家族と面識があるのです。
ですから、生徒間の交流を深める為にも、
誠様達には、その掛け橋になっていただけるのではないでしょうか」
「その件に関しては、浩之さんと祐一さんの案から、
合同授業をするという形で解決している筈ですけど」
「それでも、まだ交流が成っていないクラスも多くあります。
それに、授業以外の面でも、誠様なら、きっと……」
 そこまで言ったところで、アレイは言葉を途切らせた。
 緊張のあまり、膝がガクガクと震えている。
 今、アレイは理事長である秋子に対立する意見を述べたのだ。
 基本的に控えめな彼女にしては、上出来過ぎることである。
「よしよし。あんたにしちゃ上出来だよ。よく頑張ったね」
 と、アレイの隣りに座るメイフィアが、今にも倒れそうな彼女の体を支える。
「秋子理事長……どうでしょう?
ここまで頑張ったアレイに免じて、ここは一つ、考え直してもらえませんか?
多分、ここにいる全員、アレイと同じ意見だと思うんですけど」
 メイフィア言葉に、一同はうんうんと同意する。
 そんな皆を見て、秋子は頬に手を当て、優しく微笑んだ。
「……そうですね。では、誠家クラスの移転は、取り敢えず先送りということでよろしいですか?」
『はいっ!』
 秋子の言葉に、嬉しそうに頷く一同。
 中には、安堵のタメ息をついている者もいる。
「さて、それではみなさん……ここで一つ提案があるんですけど……」
 皆が喜びの笑みを浮かべ、場も和んできたところで、
秋子はそう言って皆の注目を集める。
「ついで、と言っては何ですが、今日から誠家クラスを藤田家クラスから独立させようと思います。
そこで、誠家クラスの担任を決定したいのですが……誰か希望者はいますか?」

 シーン……

 秋子の言葉に、当然、誰も手を上げようとする者はいない。
 皆、エリアの気持ちを思ってのことだ。

 しかし、当のエリアも手を上げようとはしない。
 いや、上げたくても恥ずかしくて上げられないのだろう。

「…………」
 そんなエリアを見て、秋子はやれやれと肩を竦める。
「誰も希望者はいないようですね。それでは、わたしの方から指名させて頂きます」
 と、秋子は教師一同を見回す。
 そして……、
「誠家クラスの担任は……フランソワーズさんにお願いします」

『っっっ!?』

 秋子の予想外の言葉に、一同は驚愕する。
 誰もが、秋子はエリアを指名するものだと思っていたからだ。

 しかし、秋子が指名したのは……、

「ワタシが……誠様のクラスの担任に?」

 と、無表情のまま呟くフランソワーズ。
 その表情は、驚き半分嬉しさ半分……、

「ま、待ってくださいっ!!」
 ガタッと、椅子を蹴って立ち上がるエリア。
「……エリアさん、どうかしましたか?」
「あ、あの……私が……」
 しどろもどろになり、言葉にならないエリア。
「エリアさん……言いたい事があるなら、ハッキリとお願いします」
「…………何でも、ありません」
 シュンと俯き、席に座ってしまうエリア。
 そんなエリアに、秋子は優しく声を掛ける。
「エリアさん……待っているだけでは、何も得られませんよ。
時には自分から一歩踏み出す勇気も必要です。そうしないと、後で必ず後悔することになりますよ」
「は、はい……」
 秋子に言われ、エリアは再び立ちあがると、ゆっくりと深呼吸をする。

 そして……、




















 キーンコーンカーンコーン……、

 ガラッ!

「誠さん、さくらさん、あかねさん! 
今日からこのクラスの担任になりました、エリア・ノースです。よろしくお願いします!」





<おわり>
_______________________________

<あとがき>

 と、いうわけで、こういうことになりました。(笑)
 書きたかったのは、秋子の最後の言葉です。

 ちなみに、この話……以前、HtHクラスをR2落ちさせるつもりで書いたのを
修正したものだったりします。

 でわでわー。




 ☆ コメント ☆ 綾香 :「へぇ〜。結構まともな職員会議をやってるんだ。ちょっと意外、かな」 セリオ:「そうですね。なんか、教師みたいです」 綾香 :「教師だってば……一応」(^ ^; セリオ:「そうでした」(;^_^A 綾香 :「忘れるのも無理もないけど」(^ ^; セリオ:「……あはは」(;^_^A 綾香 :「でもさぁ、この話だけを読むと、普段の壊れっぷりがウソみたいよねぇ」 セリオ:「全くですね。いつも、こうであったら嬉しいのですが」 綾香 :「う〜ん。それはそれでつまらない様な気もするけど……」(^ ^; セリオ:「……かもしれませんね」(;^_^A 綾香 :「あっ、そうそう。いきなり話は変わるんだけど」 セリオ:「なんですか?」 綾香 :「この話、すごく良い内容だと思うんだけど、ひとつだけ気に入らないところがあるのよ」 セリオ:「へ? それはどこですか?」(@◇@) 綾香 :「最後のところ。      あれじゃ、フランソワーズが可哀想よ」(−−; セリオ:「……なるほど。      単に、だしに使われただけですからね。あれでは」 綾香 :「うん。秋子さんが言おうとしている事はすっごく分かるのよ。      おかげでエリアも勇気を持てたわけだし。でも……」 セリオ:「フランソワーズさん、指名されたとき嬉しそうな顔をしていましたからね。      確かに、可哀想です」 綾香 :「前もって打ち合わせがしてあった、とか言うのなら全然問題無いんだけどさ」 セリオ:「そういう風には見えなかったですが……でも、そうである事を祈りましょう」 綾香 :「そうね」 セリオ:「ついでに、誠さんのクラスの副担任になれる様にも祈っておきましょう」 綾香 :「大丈夫よ、きっと。それは、祈るまでもない様な気がするわ」(^^) セリオ:「そうですね」(^^)



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