連載小説 私立了承学園
第弐百四拾話 四日目 1時限目(Heart to Heartサイド 授業編)

 つーわけで、職員会議編の続きです。

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 職員会議も無事に終わり、職員室へと戻ってきた教師達。

 だが、そろそろ朝のホームルームの始まる時間なので、
落ち着く暇も無く、教師達は自分の担当するクラスに向かう。

 ただ一人、スキップを踏んで出ていく者もいたが、
まあ、それが誰なのかは、敢えて言う必要もないだろう。

「……自分から一歩踏み出す勇気、ね」
 と、ルンルン気分で出ていく彼女の姿を見送りつつ、ひかりは苦笑する。
「ねえ、秋子? あなた、もしかして、あの子にそれを分からせる為に、
あの会議を開いたんじゃないの?」
 と、訊ねるひかりに、秋子はニッコリと微笑む。
「あら? やっぱり、分かった? さすがはひかりね」
「当たり前でしょ。付き合い長いんだから……でもねぇ、ちょっと方法がマズかったんじゃない?」
「……フランソワーズちゃんのこと?」
「そうよ。誠君のクラスの担任に指名された時のあの子の表情、
あなた、ちゃんと気付いてたんでしょ?」
「もちろんよ。それどころか、以前から、あの子が誠君達に興味を抱いている事にも気付いていたわ」
「だったら、どうしてあの子をダシに使うような真似したのよ? 可哀想じゃない」
 ひかりのその言葉に、秋子は悪戯めいた笑みを浮かべた。
「ふふふ♪ それについては問題無いわよ。お詫びにプレゼントをあげたから」
「……プレゼント?」
「あの子にとっては、担任になるよりもずっと素敵なものよ」
「何なの? それ」
「ふふふふ♪ 実はね……」




















「まっこっとさ〜ん♪ まっこっとさ〜ん♪」

 る〜んたった♪ るんたった♪、
 る〜んたった♪ るんたった♪

 誠家クラスに向かい、スキップを踏みつつ廊下を進むエリア。

 それも無理はないだろう。
 誠家クラスの担任になったということは、
それだけ誠とともに過ごせる時間が増えたということになるのだから。

 了承学園一の純情少女エリア。
 今まさに、幸せ絶頂である。

 キーンコーンカーンコーン……

 ガラッ!

 チャイムと同時に教室のドアを開け、エリアは中に入る。
 そして、教壇の上に立ち、ペコリと頭を下げた。
「誠さん、さくらさん、あかねさん! 
今日からこのクラスの担任になりました、エリア・ノースです。よろしくお願いします!」
 エリアの姿を見て、誠は頬をほころばせる。
「おっ! 担任はエリアなのか?!」
「ふふ……良かったですね、まーくん」
「うん。良かったね、まーくん」
 そんな三人の反応に、瞳を輝かせるエリア。
「ま、誠さん……もしかして、私が担任になって喜んでくれているのですか?」
「当ったり前だろ。俺、担任がエリアで凄く嬉しいよ」
 誠のその言葉に、エリアの胸がジ〜ンッと熱くなる。
 まさに、感無量というやつだ。
「なんたって、エリアは数少ないまともな教師だからな。
他のわけわかんねぇ奴だったらどうしようかと思ってたんだよ」

 ずるぺちっ!

「そ、そういう理由なんですね……」
「他に何か理由があるのか?」
 何故かコケているエリアに、誠は首を傾げる。
 とことんニブイ男である。
「もういいです……取り敢えず授業を始めましょう」
 キョトンとした顔をしている誠に、エリアは深くタメ息をつきつつ、
課題の内容を黒板に書くためにチョークを持った。

 と、その時……、

 ガラッ!

「……失礼します」
 ドアが開いたかと思うと、そこにはフランソワーズの姿があった。
「フ、フランソワーズさん……」
 唐突に現れたフランソワーズに、エリアは表情を曇らせ、俯いてしまう。

 エリアは気付いているのである。
 先程の会議で、誠家の担任を秋子に指名された時の彼女の表情の変化を見た時から、
フランソワーズが少なからず誠に好意を抱いていることを。
 それに気付いていながら、あの時、エリアは名乗りを上げてしまった。
 アランソワーズから、誠家担任の座を奪ってしまったのだ。
 もしかしたら、今、この場に立っているのは、自分ではなく、
このフランソワーズだったかもしれない。
 そう思うと、フランソワーズに申し訳無い気持ちで一杯になる。

「どうしたんだ、フランソワーズ?」
 そんなエリアの様子に気付かず、誠は教室に入って来たフランソワーズに目を向ける。
 すると、フランソワーズは床に三つ指ついて……、

「誠様、さくら様、あかね様、不束者ですが、末永くよろしくお願い致します」

 ……と、ぺこりと頭を下げた。

「「「は?」」」

 フランソワーズの不可解な行動に、誠、さくら、あかねは目が点になる。
「ど、どういうことなんです?」
 エリアもかなりうろたえている。
 今のフランソワーズの言葉は、まるで誠家に嫁入りに来たようではないか。
 その真意を確かめる為に、エリアはフランソワーズに訊ねる。
 しかし、フランソワーズの答えは、エリアの想像とは少し違っていた。
「本日より、ワタシはメイドとして誠様達にお仕えさせて頂くことになったんです」
「な、何でまた、そんな唐突な……」
 と、今度は誠に訊ねられ、フランソワーズは話し始めた。





 ことの経緯はこうである。

 以前、フラソワーズは誠達が中庭で昼寝しているところを見かけたことがある。

 身を寄せ合って、安らかに眠る三人。
 その寝顔を見ていると、胸の奥がほかほかと温かくなってくる。

 優しくて……、
 あたたかくて……、
 ほのぼのとしていて……、

 そんな、ゆったりとした穏やかな時間と空間。
 その幸せに満ち足りた雰囲気。

 その時、ふと、彼女は思ったのだ。

 ――この方達にお仕えすることができたら、どんなに素晴らしいことでしょう。
 ――この方達の幸せの為に働くことができたら、どんなに幸せでしょう。

 ……と。

 しかし、自分はデュラル家の者によって作られた自動人形である。
 だから、自分には、デュラル家に仕える義務がある。

 それでも、誠達への想いを断ち切ることができないでいた。

 と、そこへ降って湧いた誠家クラスの担任の座。
 それを秋子に指名された時、内心、驚きもしたが、同時に嬉しくもあった。

 仕えることが出来なくても、担任になれれば、
誠達の幸せの為の手助けが出来るかもしれない、と。

 しかし、結局、誠家クラスの担任はエリアになってしまった。

 残念ではあったが、決まってしまった事は仕方が無い。
 誠家クラスの担任は、エリアこそが相応しいと、納得もできる。

 別に、自分は誠に対して恋愛感情を抱いているわけではないのだ。
 ただ、誠達三人の関係に憧れているだけなのだ。

 でも、やはり、残念なのものは残念である。

 と、肩を落とし、1時限目はすることも無いので会議室の掃除でもしようと、
フランソワーズは考えていた。

 そこへ……、

「フランソワーズちゃん、さっきはヒドイことをしてごめんなさいね。
お詫びに、何でも一つだけ願いを叶えてあげるわ」

 と、秋子が言ってきた。

 そこで、ダメで元々で、お願いしてみたのだ。

 誠様達にお仕えさせてください……と。

 そして、秋子は1秒で答えてくれた。

「了承」





「……というわけなんです」
 そこまで話して、フランソワーズは申し訳なさそうに顔を伏せる。
「本来、自動人形でしかないワタシが自分の個人的な幸せを求めるのは間違っています。
自分でご主人様を選ぶなど以ての外です。それは重々承知しています。
ですから、もし皆様がダメと仰るなら……」
「……何、バカなこと言ってんだ、お前は」
 フランソワーズの言葉を遮るように、誠は彼女の頭にポンッと手を置いた。
 そして、優しく撫でる。

 なでなでなで……、

「あ……(ポッ☆)」
 両手を頬に当て、赤くなるフランソワーズ。
 そんなフランソワーズの頭を撫でながら、誠は言葉を続ける。
「自動人形だろうが何だろうが、お前には幸せを求める権利はあるよ。
だって、こんなにいい子なんだからな」

 なでなでなでなで……

「ま、誠様……お戯れを(ポポッ☆)」
「俺達のところにいることで、お前が幸せになれるなら、俺はお前を歓迎するぜ。
でも、メイドとしてじゃなく、家族の一員として迎えさせてもらう。
さくらとあかねも、それで良いよな?」
 と、さくらとあかねに目を向ける誠。
 当然、二人の返事は……、
「うん。もちろんだよ♪」
「よろしくお願いしますね、フランソワーズさん♪」
 と、心良く頷いた。
「フランソワーズさん、良かったですね」
 エリアもまた、フランソワーズに微笑みかける。
 正直、彼女が羨ましくもある。
 考え方によっては、担任になるよりも待遇が良いのだから。
 でも、エリアは、心からフランソワーズを祝福することができた。
「おめでとうございます、頑張ってくださいね」
「はい。ありがとうございます、エリアさん」
 そう言って、フランソワーズはエリアに耳打ちする。
「……いつか、『エリア様』とお呼びすることが出来る日を、お待ちしています」
「っっっ!?」

 かぁぁぁぁ〜……

 フランソワーズのその言葉に、エリアの顔が真っ赤になる。
 そんなエリアを見て、クスクスと微笑むフランソワーズ。
「二人して何やってんだ? おい、エリア。お前もちょっちこっちおいで」
「は、はい……」
 熱く火照った頬を片手で押さえつつ、エリアは手招きする誠の傍に座る。
 すると……、

 なでなでなでなで……

「あ……(ポッ☆)」
「エリアは今日から俺達の担任だからな、よろしく頼むぜ」

 なでなでなでなで……

「は、はい……よろしくお願いします(ポポッ☆)」
 誠のなでなでに、夢心地になるエリア。
 そうなると、さくらとあかねも黙ってはいられない。
「まーくんっ! あたしもなでなでしてぇっ!」
「わたしも撫でてください〜!」
「おわっ!! お前ら、ちょっと待てっ! 順番だ順番っ!」
 あっという間に、もみくちゃにされてしまう誠。
「…………クスッ☆」
 そんな誠達の姿に、笑みを浮かべつつ、フランソワーズは黒板にチョークを走らせた。



 ――『なでなで』



「フランソワーズさん、何してるんですか?」
「早くおいでよぉ」
「ええいっ! こうなりゃ、まとめて面倒見てやる! お前も来い!」
「フランソワーズさん、さあ、こちらへどうぞ」
 誠、さくら、あかね、エリアがフランソワーズを呼ぶ。

「はい。それでは失礼します☆」

 そして、フランソワーズは、いそいそと四人の中に混ざりに行く。

 自動人形であるが故、フランソワーズの感情と表情は乏しいものだ。
 しかし、その小さな微笑みは、こぼれそうなほど幸せに満ちていた。




















 場所は変わって、職員室――

「……なるほどね〜。誠君達のメイドになりたいっていう願いを叶えてあげたわけね。
でも、『ご主人様』から『愛しい人』、『メイド』から『お嫁さん』に変わるのは、時間の問題じゃない?」
「そうね。わたしもそう思うわ」
「だったら、いっそのこと、誠家クラスの生徒にしてあげれば良かったじゃない」
「あら、ダメよ。フランソワーズちゃんは、あくまで学園の教師なんだから。それに……」
「それに?」
「『ご主人様とメイドの禁断の愛』……萌えるじゃない♪」
「秋子……本当の狙いはそれね」
「うふふ☆」





<おわり>
_______________________________

<あとがき>

 本当は、副担任にするつもりでした。
 でも、Hiroさんコメンで書かれているのを見て……、

 ぬうっ! 読まれたっ!\(@O@)/

 と、思い、急遽変更っ! こういう形になっちゃいました。(笑)
 相変わらずのシンクロ率です。(^〜^ゞ

 ちなみに、フランソワーズはあくまでも教師です。
 ですから、ちゃんと教師としての仕事はします。
 他のクラスに教師として行くことも当然あります。
 でも、仕事が無い時は、誠家クラスにいる、ということで。

 ようするに、たまーに授業に参加している、ってことです。

 でわでわー。



 ☆ コメント ☆ 綾香 :「なるほど……こういう展開になるのね」(^^) セリオ:「フランソワーズさんも幸せそうですし……まさに大団円です」(^^) 綾香 :「一日が始まったばかりで大団円っていうのも変な気がするけどね」(^ ^; セリオ:「それは言わない約束ということで……」(;^_^A 綾香 :「はいはい」(^ ^; セリオ:「しかし……これで誠さんたちは、学園一のラブラブクラスになっちゃいましたね」 綾香 :「そうねぇ。何と言っても教師陣からしてラブラブだから」(^ ^; セリオ:「でも……誠さんだけは、そう思ってないでしょうね……きっと」 綾香 :「筋金入りの鈍感男だからねぇ」 セリオ:「教室の空気が完璧にピンク色になってる事にも気付いてないんでしょうね」(;^_^A 綾香 :「そうだと思う」(^ ^; セリオ:「誠さん……凄すぎます」 綾香 :「でもまあ、それが誠の誠たる所以だから」 セリオ:「エリアさん……苦労しそうです」 綾香 :「いいんじゃない。それでも本人は幸せみたいだから」 セリオ:「そですね」(;^_^A 綾香 :「なにはともあれ、今後は下手に誠たちのクラスには近付かないようにしないとね。      じゃないと、甘〜い空気に毒されちゃうわ」(^ ^; セリオ:「……確かに」(;^_^A



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