私立了承学園 まじかるアンティーク編  4日目 1時間目

 

 

 

   「さーて、初めは健太郎君達だったね。」

   緒方英二が宮田家の教室に向かっている時だった。

   廊下の奥から突然、突風が吹きすさんだ。

   風速、およそ5m。

   「うぉっ!?」

   英二は数歩たたらを踏むも、どうにかその場にどどまる。

   「・・なんなんだ?」

   首を傾げながら、身だしなみを整える。

   そして、頭のカツラに手を伸ばした時・・・

   「・・・ない」

   カツラが今の風でどこかに吹き飛ばされてしまったと気づき、青ざめる。

   慌てて周りを確かめると、数メートル離れたところに落ちているのを発見する。

   「ふぅ・・・あんまり飛ばされなくて助かったよ。」

   そう言って落ちたカツラに近づいたとき、再び廊下に風が吹き荒れた。

   そしてカツラは宙に浮き・・・

   「ああーーーー!!」

   たまたま開いていた窓から、校舎の外へと飛んでいった。

   「ま、まずい・・・誰かに今の俺の姿を見られ出もしたら・・・」

   英二は真っ青になってそう呟き、大慌てでカツラを探しに校舎の外へ出た。

   その様子を影で見ていた人物が一人。

   「・・・これで、健太郎君の教室に行っても問題ないわね。」

   その人物は英二の姿が完全に見えなくなるのを確認して、健太郎の教室へと向かう。

   「ふっふっふ・・・わざわざ職員会議をサボってまで建てたこの計画、絶対に成功させてみせるわ!」

   懐には『採血表』と書かれたファイルが見える。

   「名付けて、『不意討っちゃえば、抵抗されないで血をGET!』作戦の発動よ!」

   その人物−−−ルミラは高らかにそう宣言した。

 

 

 

   −−−同時刻−−−

   「かゆいー!かゆいよー!!」

   スフィーは半分泣きながら腕をかいていた。

   見ると、蚊に刺されたのか、赤く晴れ上がっている。

   「まったく・・・だから網戸だけでも閉めておけって言ったのに。」

   健太郎はため息を付いて、スフィーを見る。

   「どうしたの、健太郎さん。」

   なつみが健太郎に尋ねる。

   「昨日の夜、月見をしただろ?」

   「うん。」

   「どうも、その時に蚊に刺されたらしい。」

   宮田家は昨日の夜、『ねー!月見しよ月見!』というスフィーの意見で、月見をしたのだ。

   夜も更け、宮田家の全員が眠りについた頃、スフィーが開けっぱなしにして置いた窓から一匹の蚊が

   まぎれこんだ。

   そしてその蚊は、最も血を吸いやすい、つまり寝相の悪いスフィーから血をごちそうになったのだ。

   「うう・・・かゆいよぉ・・・」

   スフィーはすでに涙目になっている。

   「はい、スフィーちゃん、キンカン。」

   結花が、虫さされの特効薬をスフィーに渡す。

   「ありがとー、結花。」

   スフィーはキンカンを受け取り、腕に塗る。

   「だけど、困った物ですね。」

   みどりがいつもと変わらない笑顔で言う。

   「この暑い季節、窓を開けて涼みたくなるんですけど・・・」

   「どうしても、蚊が入って来るんですよね・・・」

   「夏は窓を開けて、月を見て、風鈴の音を楽しむのが好きなんですが・・」

   「ついでにスイカもー。」

   元気のないスフィーが間に言葉を入れる。

   「うーん、外ならともかく、家の中でそれをすると、どうしても蚊が入ってくるんだよな」

   「ええ。蚊さえどうにかなれば良いんですけど・・・」

   健太郎とみどりが同時にため息を付く。

   「・・・どうにかなると思う。」

   「え?」

   その言葉に、健太郎がなつみの方を見る。

   「ちょっと魔力使っちゃうけど・・・良いこと思いついたの。」

   「魔力を・・・って、スフィーが良くやる魔力付加?」

   健太郎は、スフィーがほうきやひょうたんに魔力付加するのを思い浮かべる。

   「リアンに協力してもらえば出来ると思う。」

   なつみがリアンの方を向いて言う。

   「え?私?」

   「うん。・・・して・・・・すれば。」

   「ええ、それなら。あまり魔力も使いませんし。」

   「決まり。やってみていい?健太郎さん。」

   なつみの言葉に健太郎はしばし考え込み、

   「・・・無理はするなよ。」

 

 

 

 

   「MOS・・・BLD・・・SOUND・・・」

   「BLA・・・MIND・・・LISTEN・・・」

   なつみとリアンの声が教室内に響く。

   「「GHEST!!」」

   二人の声がハモり、魔力が机の上の物体に収束される。

   「・・・成功です。」

   リアンが軽く息を付いて話す。

   「名付けて、『蚊よけの風鈴』。」

   なつみが机の上の物体−−風鈴を手に取る。

   「『蚊よけの風鈴』?」

   「そう。この風鈴の音を聞いた蚊は、無意識のうちに音から遠ざかるような行動をとるの。」

   「へぇ、そりゃ凄い。これなら、蚊取り線香とか虫よけスプレーとか使う必要がないな。」

   なつみの説明に、健太郎は感心する。

   「もっとも、音が鳴らなければ、効果はないけど。」

   なつみは独特の上目遣いの笑顔で健太郎を見る。

   「よし、早速使ってみよう!」

   健太郎は、窓際の天井に風鈴を設置し、窓を開ける。

   ちりーん・・・・ちりーん・・・・

   澄んだ風鈴の音が、宮田家の教室から廊下へと響きわたる。

   「・・・いい音だなぁ。」

   健太郎が感慨深げに呟く。

   「ええ・・・なんか、心が洗われるようですね・・・」

   みどりがすがすがしそうな表情で言う。

   「なんか、昨日より音が良くなった気がする・・・」

   なつみが目を閉じて言う。

   「ええ。魔力付加は、付加した人の想いも発揮されるときがあるんです。」

   リアンがにこやかに笑いながら、付け加える。

   「そうそう、この場合は、なつみとリアンの想いが音に乗ってるの。」

   痒みの引いたスフィーが、リアンの後を続けて説明する。

   「へぇー。だからこんなに澄んだ音がするんだ・・・」

   結花が感嘆のため息を付いて言う。

   「・・・あれ、そう言えば、そろそろ授業が始まるんじゃないか?」

   健太郎が時計を見て言う。

   「あ、そうですね。・・・いったい誰が来るんでしょうか・・・」

 

 

 

 

 

   −−−20分経過−−−

   「誰も来ませんねー・・・」

   みどりがぼーっとした表情で答える。

   「ひょっとしたら迷ってるとか・・・?」

   「まさか。いくら何でもそれはないだろ。」

   スフィーの言葉に、健太郎が答える。

   「・・・でもまぁ、このままなにもない方が良いかもね。」

   結花がなつみとリアンの方を向いて言う。

   「・・・」

   「・・・」

   なつみとリアンは、机の上にうつぶせになって寝ていた。

   魔力を使った影響もあるが、それ以上に、暖かい日差しに涼しげなそよ風、澄んだ風鈴の音。

   これだけそろえば、疲れていなくても眠気が押し寄せてくるだろう。

   「うーん・・・そういえば、昨日のあまり寝てないんだよな・・・夜中にお客さんが来たから。」

   健太郎があくびをして言う。

   「それじゃあ、先生が来るまで寝ませんか?」  

   「あ、賛成。それじゃ・・・ZZZ・・・」

   みどりの言葉にスフィーが頷いて、即座に眠りにつく。

   「・・・なんて寝付きの良い奴・・・それじゃあ、みどりさん。俺も寝ますね。」

   「ええ。おやすみなさい。」

   数十秒の後、健太郎のところからも、規則正しい呼吸音が聞こえる。

   「さて・・・」

   健太郎が寝たのを確認すると、みどりはみんなを起こさないように机の移動を始めた。

 

 

 

   「なつみ達はどうしてるかしら。」

   授業の終わりにさしかかった頃、ミュージィーが健太郎の教室へやってきた。

   廊下から宮田家の教室をのぞき込み・・・

   「ふふふ・・・幸せそうね、みんな。」

   教室の中では、健太郎と妻達が一カ所に集まって、気持ちよさそうに眠りについていた。

   澄んだ風鈴の音を鳴り響かせる中で。

 

 

 

 

   「あれ?こんなところで何をしてるんですか?ルミラさん。」

   ミュージィーが職員室へ戻るため階段を下りたところで、ルミラが壁にもたれかかっていた。

   「・・・あ、ミュージー・・・ここ、何階?」

   「3階よ。」

   「3階・・・・さっきは5階・・・気が付けば4階を通り過ごしてる・・」

   ルミラは虚ろな目でなにやらブツブツと呟き、階段の方へ向かって動き出す。

   「今度こそ・・・絶対に作戦は成功させるわよ・・・」

   そう言ってルミラは階段を上り始める、が、4階で足を止めずに5階まで上る。

   「・・・何をやってるのかしら・・・」

   ミュージーは首を傾げて、職員室へと戻っていった。

 

   ・・・つーか、ルミラ、只の「蚊」に先を越されてやんの。

 

 

 

 

   「カツラはどこだー!!俺のカツラ!いたら返事しろー!」

   英二は叫びながら、カツラの落下点と思わしき茂みの付近を捜していた。

   「めぇー」

   「え・・?」

   後ろから聞こえた鳴き声に英二が振り向くと、そこには一頭の山羊がいた。

   「・・・なぜ山羊?」      

   英二は山羊を観察する。

   どっからどう見ても、只の山羊。口元に、白い糸の固まりを加えている。いや、糸の固まりと言うよりも

   髪のような・・・

   「あー!!俺のカツラ!!」

   英二が慌てて取り返そうとする。

   が、それより速く、山羊はカツラを軽く上に放り投げ、カツラを口の中に入れる。

   「・・・」

   「・・・」

   山羊の口が動き、のどを何かが通り過ぎる。

   「うがあああああ!たべるな食うな飲むな!つーかなぜ山羊かカツラを食べる!?

   『かみ』か?『かみ』だからか!?今すぐ吐き出せぇぇぇぇぇ!!!」

   その後、英二さんは昼休みまでずっと山羊と格闘していましたとさ。

 

   めでたしめでたし?

 

 

 

 

   あとがき

   ども、滝月十夜です。

   久々の投稿です。いやー、なんかネタがあまり沸かなくて・・・

   ちなみにこの話は、部屋に大量の蚊に進入された事がきっかけで思いつきました。

   ・・・網戸が役に立たないんです。泣く泣く、蚊取り線香を炊きました。

   みなさん、部屋に大量の蚊が進入したことはありませんか?  

   ではでは


 ☆ コメント ☆ 綾香 :「やっぱり、本家には勝てないみたいね」 セリオ:「? 本家って?」 綾香 :「蚊」 セリオ:「そ、そうですか」(;^_^A 綾香 :「それにしても……ルミラ先生……パワーダウンしてる気がするんだけど」(^ ^; セリオ:「何を言ってるんですか。ちゃんとパワーアップしてるじゃないですか」 綾香 :「は? どこが?」 セリオ:「ギャグキャラ度、が」(^0^) 綾香 :「納得」(^ ^; セリオ:「ルミラ先生、これからも、楽しい笑いを振りまいて下さいねぇ〜」(^0^) 綾香 :「本人には、振りまいているつもりは無いと思うんだけどなぁ」(^ ^; セリオ:「大丈夫。結果オーライです」d(^-^) 綾香 :「それは……ちょっと違う」(^ ^;;;



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