了承学園4日目 第4時限目(To Heartサイド) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  女ヲ磨クタメ、チョット修行ノ旅ニ出テキマス。                           マイン ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「なんじゃそりゃあああああああああああああああああ ああっ!?」 「…手紙までカタカナかよ、おい…」  現在修理中の第1保健室とほぼ同設備を備えた第2保健室の中で、柳川は力の限り 喚いた。その横で、貴之はどこか感心したようにマインの「置手紙」を眺めている。 「お茶、もう一杯いかが?」 「メ〜イ〜フィ〜ア〜?ま〜た〜お〜ま〜え〜か〜〜〜〜〜〜〜〜!?」 「やあねぇ柳川センセ、そんな子供がひきつけ起すようなオドロ声出さないでよ」 「あ、おかわりください」 「れーせーに構えてるんじゃないっ貴之――――――!」  頭を抱え込む柳川に、紅茶を啜りながらのほほんと貴之は声をかけた。 「大丈夫じゃない?どうせどこかのクラスに教えを請いに行くとか、そういうこと じゃないかな?」 「…それはわかってる」 「それなら何もそんな喚かなくても」 「しかしな。これ以上マインに妙な事を覚えられてみろ!そ、想像するだけでも恐ろ しい…」  その柳川の言葉に、貴之とメイフィアは顔を見合わせた。 「恐ろしい?」「恐ろしい、ねえ?」  しばらくこそこそ相談すると、二人は柳川に向かって言った。 「例えば、マインがカトちゃんの格好して『ちょっとだけよ』『あんたも好きねぇ』 とかモノマネをするとか?」 「…見てみたいような、そうでないような、微妙なとこだなソレ」  げんなりと柳川は首を振った。 「…そんなことじゃなくてな…なんか…例えばマインが、ドリルアームでもつけて 帰ってきたらどーする?」 「…うっ…そんな馬鹿な、って言い切れない切実さが…十分あり得るよなこの学園な ら…」  さすがに貴之も真剣な顔になる。が、メイフィアの方は落ち着いていた。 「そりゃアナタ、変な18禁ゲーのやりすぎなんじゃない?」 「断じて違うわっ!…とにかく、連れ戻しにいかんと…」  そう言って腰を浮かせた柳川に、おもしろそうな視線をメイフィアは向けた。 「ところで柳川センセ、紅茶飲んだわよね?」 「…それがどうした?」  と、それまで静かに部屋の隅で控えていた舞奈が、ストップウォッチを片手に秒読 みを始めた。 「5秒前、4,3,2,1、ゼロ」  がたーーーーーーーーーーーーーーーーーーんん!! 「んがっ!?」 「ふっふっふっふっふっふっふっふっふ…」  いきなり脱力して床に倒れこんだ柳川に、まさしく魔女そのものの邪悪な笑みを浮 べてメイフィアは不気味な笑い声を上げた。 「紅茶にメイフィア様特性しびれ薬仕込んで身体の自由を奪った上で保健室破壊の恨 みを晴らして幸せになろう!大作戦、見事に嵌ったようね!」 「ひ、ひきょうもの…!」 「褒め言葉と思っておくわね♪」 「な、なんで俺まで…」  柳川同様、すっかり脱力して床に延びている貴之に、ちょっとだけ憐憫の篭った視 線をメイフィアは向けた。 「ゴメンネー。でも、柳川センセって隙がないから、一人だけカップを選んで工作し ようとしたら、なんかその気配を察してばれるかも、と思って…当然、アタシは事前 に解毒薬飲んでるけど」 「ううううううううううううううう」  口まで痺れてろれつもよく回らなくなってきた二人を見下ろし、メイフィアは楽し げに問い掛けた。 「顔中に恥ずかしい落書きされるのと、顔面洗濯ばさみ、どっちがいい?」 「ぜ、絶望的な選択ひゃねーひゃ…」 「ひょ、ひょっとひて、おれも?」 「…まあ、せっかくだから」 「「うううううううううううううううううううううううう」」(怒)  と、舞奈がまたストップウォッチを見て、秒読みを始める。 「3,2,1、ゼロ」 「あらっ!?」  途端にメイフィアまで仲良く床に崩れ落ちてしまう。 「な、なんれ?どーひて?」 「メイフィア様…」  舞奈が、平然とした声で呼びかけてきた。 「確カソノ解毒薬ノ使用方ハ、服用デハナク皮下注射ダッタト記憶シテオリマスガ」 「ああっ、初歩的な医療ミス!?」 「ばーか、ばーか」 「おっぺけぺー」 「ううううううううううううううううううううううううううう」(涙)  そんな三人を、舞奈は平然と見下ろし続けていた。理由は三つ。 1、特に生命危険の心配は無いから。 2、事前に手出し無用とメイフィアに命令されていた。 3、舞奈は解毒薬の在り処を知らない。  そして、三人仲良く口がきけなくなったので、舞奈に命令を出すことができなかっ た。  悲惨な状況である。 「自業自得ノ総天然色見本デスネェ」 何より、舞奈は結構ヒドイ性格をしていた(笑)   ******** 「結局、裸リボン巻キハ怒ラレテシマイマシタ」 「…あの…マインさん、それ私もやったことないですー」  と、いうわけでとりあえずマインに相談を持ちかけられたマルチは、顔を赤らめて 困惑した。教室内には無論、藤田家の一同が勢ぞろいしている。 「ソレデ、ココハ経験豊富ナ藤田家ノ皆様ニ、ゴ教授ヲオ願スルシカナイ、ト」 「ううっ、否定できない自分が悲しい」 「浩之ちゃん…」  複雑な顔で頬をかく浩之の隣で、似たような顔のあかりが乾いた笑いをもらす。他 の妻達も大なり小なり同じ種類の笑いを浮べていた。 「…えーと、君たち?もう授業始まってるんだけどー」  教卓からは、ガチャピンが気弱な声をかけてきたが、一同は気づきもしなかった。 「…マインさん。こういったことは、あなたにはまだ少々早すぎると思うのです が…」 「そ、そうですね…お力になってあげたいのはやまやまですけど」  冷静にマインを諭そうとするセリオに、消極的にマルチも同意する。 「おーい。あのー、今日の授業はですねー」  やや声を大きくするガチャピンであるが、やはり気づかれない。 「デモ、私ニハモウ…マルチ御姉様ト、セリオ御姉様シカ、頼レナイデス…」 「…マルチ御姉様!?」 「セリオ御姉様…」  …じーーーーーーーーーーーん。 「あ〜。…マルチ?セリオー?」  綾香がひらひらと二人の目の前で手を振ってみるが、何やら陶然としている二人は 全く無反応だった。  マルチ御姉様・お姉様・お姉様・おねえさま………(エコー)  セリオお姉様・お姉様・お姉様・おねえさま………(エコー) 「ああっ…おねえさま…わたしが、おねえさま…」 「お姉様…ああ、なんて甘美な響き…」 「…もしもーし。おーい?ちょっと二人ともー?…帰ってきなさーーーい!?」  冷や汗を浮べる綾香たちの前で、不意に二人はハッと意識を取り戻した。  そしてばっ!と同時に、計ったような動きでマインの両肩を掴むと、二人は大きく 頷いた。 「わかりました!マルチお姉さんにまかせてくださいっ!」 「そうです!セリオお姉さんがついてますから!」 「アリガトウゴザイマス、オ姉様方!!」 「…やっぱり姉妹だな、お前ら…」  感動している、というより疲れた顔で、浩之はそんな三人を見つめた。  その背後で、寂しそうに肩を落としたガチャピンが、人体模型・内田君を抱えて教 室から出て行ったのだが…とうとう、それに誰も気づかなかった。   ******** 【レッスン1:戦闘訓練】 (講師:来栖川綾香・松原葵) 「…10枚や20枚の瓦割りは今時の女のみだしなみ!というわけで、とりあえず護 身程度はできなきゃいけないと思うんだけど…」  尻すぼみに声の調子を落として、綾香はセリオに囁いた。 「でも、12型の運動能力はやっぱりマルチ並なんでしょ?」 「同程度だったと記憶しております」  綾香は一つ溜息をついて、葵に基本的な型を教えてもらっているマルチ&マインを 見つめた。 「せいっ!せやっ!とおっ!」 「え、えいっ!えやっ!とお〜!」 「セイ、セヤ、トオー」  ぶんぶんぶん。ぶんぶんぶん。  ゆっくりと、綾香はセリオに向き直った。 「なんか、幼稚園児のお遊戯にしか見えないんだけど?」 「安心してください、綾香様。みんなそう思ってますから」 「あいつら…つくづくこういう事には向いてないんだな、やっぱ」  深くて重い溜息を浩之はついた。そんな彼らの苦悩を知らずに、本人達はしごく真 面目だったが。 「しょうがない。じゃあ、あたしが『とっておき』を教えてあげるわね」 「えっ、そうなんですか?じゃあ、私にもご教示お願いします!」  そう言って進み出てきた綾香に、葵も興味深げにマルチ達と同じ列に並んだ。そ ろって体操服姿の三人を見やって、こちらはスパッツ姿の綾香はおもむろに構えを とった。  右手を天頂にまっすぐ伸ばし、手首を内側に90度の角度で折る。 「これは少林寺拳法の流派の…まあ、その辺の説明は省くわね。三位一体といわれる 基本的な位で、これは上段の『天の構え』よ」 「なるほどなるほど」  三人は揃って綾香の真似をして構える。それを見ながら、綾香は一旦構えを解く と、左の手刀を胸の前で水平に構えた。 「これが中段、地の構え。基本中の基本ね」  三人はやはり律儀にそれを真似る。満足そうに綾香は右足を上げた。 「そして下段、人の構え。左の軸足一本でバランスを保ちながら、右足で相手のロー キックを払い、あるいは逆にこちらが仕掛けるための構えよ。基本的なスタイルはこ う」  左足だけで立ち、右足は膝の所で左と重なるように内側に鉤のように曲げる。葵は 小揺るぎもせず直立しているが、マルチとマインはフラフラと上体が揺れてしまう。  綾香は自身は腕組みをしたまま、三人に言った。 「結構簡単でしょ?じゃ、号令かけるからその通りにやってみて。まずは、天の構え !」 「「「はいっ!」」」  ざっ!と三人は教えられた通りの構えをとった。 「よーし、それじゃ構えを崩さないまま『三位一体』をとるわよ!中段、地の構え !」  言われた通り三人は右手を上に掲げ、左手を水平に構える。 「そしてバランスに注意しながら下段、人の構え!」 「おい、ちょっと待て綾香、それって…」  はっ、と何かに気づいた浩之が声をかけようとしたが、遅かった。素直な三人は素 直なまま、人の構えをとった。その、「三位一体」の構えを見て。  …智子が、ポツリと呟いた。 「…シエー?」 「ああ、お○松君というマンガに出てくる、イ○ミの決めポーズですね」  そしてセリオが、言わなくてもいい解説を述べてしまう。  …………………。  …………………。  …………………。 「「「しえーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」」」 「あ〜〜〜〜〜〜や〜〜〜〜〜〜〜〜か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 「ちょっとしたお茶目な冗談じゃない〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 「じゃあ何故逃げる!待てこらーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」  慌てて教室から逃げ出していく綾香を追って、浩之も飛び出していく。それを呆然 と見送ってから、残った面々は、いまだに「しえーっ」のポーズをとったまま硬直し てしまっている三人に憐憫の篭った視線を向けた。 「えーと、葵ちゃん、マルチちゃん、マインちゃん。その…あんまり、気にしないで ね?」 「そーそー。途中で気づかんかったからかて別に恥やないで、こんな古いネタ」 「そうですとも。バカ正直なのはいいことです」 「セリオちゃ〜〜〜〜ん…」 【レッスン2:生活の知恵】 (講師・雛山理緒) 「え、えーっとね。やっぱり家計を預かる主婦としては、やり繰り上手でないといけ ないって思います。それで、ちょっとした細かいことに気をつけるだけでほらこんな にお得!…って、まあ、要するにそうやって、旦那様に喜んでもらおうかなーって、 そういうことなんだけど…」  誰かに講義する、などという事には全く慣れていない理緒だったが、上がりながら もようやくそれだけ言い終えた。 「…ダ…ダンナサマ?…」 「…マインさん?あの、マインさん?」 「ダ、ダンナサマ…」 「…どうやらマインさんにとって、旦那様という言葉はデ・カルチャーだったようで すね」 「なぜ、声にエフェクトをかけて言うんですかセリオさん?」  不思議そうに尋ねるマルチの後ろで、琴音がこっそり小声で歌っていた。 「♪覚えていますか〜」  意味不明であった。 「ま、まあそれはともかく。例えばですね、お茶の出涸らしは、お掃除する前に部屋 に撒くと、葉っぱが他の細かなゴミをくっつけてくれるので、それを箒で掃くと普通 にやるよりきれいになります。もし、鉢植えとか園芸をやっていれば、それを肥料に してもいいですね」  生活の知恵というかおばあちゃんの知恵袋という感じだが、それなりに有意義な内 容である。マイン以外の一同もそれぞれ結構興味深そうに理緒の話に耳を傾けた。 「それから、ちびた鉛筆はキャップや補助軸をつけることでより長く使えますが、ち びた鉛筆同士をホチキスで留めてもいいですね」 「…なんやしらん、ちょっとビンボくさいわな。…役立つけど」 「ホチキスなんかは、図書館で貸してくださいとか言えば大抵貸してくれますからそ れを使いましょう。その後は、限界まで使った鉛筆から針を外して、金づちで別の鉛 筆を留めるのに使えますし」 「あの…雛山さん?」 「最近、スーパーでは電気イオン水の給水機とか、生もの保冷用の氷をタダで提供し ているところもありますから、そういうところで備付のビニール袋に氷いれて水を汲 めばカチ割り代わりに…  あれ?どうしたんですか皆さん?」  なぜか目頭をおさえている一同に、理緒はまるで屈託の無い明るい笑顔を見せた。 【レッスン3:恋する乙女のおまじない】 (講師:来栖川芹香・姫川琴音) 「…………」 「それでは、想いを寄せる男性に、自分の気持ちを伝える呪文をお教えします、だそ うです」  いつもの魔女ルックの芹香の隣で、琴音はそう「通訳」した。 「…いつも思うんだけど、姫川さんってよく来栖川先輩の言葉がわかるわよねー」 「気があうんだよ、きっと」  志保とあかりがそう囁きあっている間に、芹香は魔法少女が持っているようなピン クのラブリーなスティックを手にとった。そして軽快に――とはいえないが、なにや らお気軽なノリの踊りを始める。 「…………」 「ピピルマピピルマパムポップン」  スティックこそ持たないものの、通訳をしながら芹香に会わせて琴音も身を翻す。 「…………」 「テクニカテクニカシャララランキュー」 「…………」 「我は放つ光の白刃☆」  こうっ――!!  芹香の指先から放たれた熱衝撃波が、眩い光を放って側の机に命中し、粉々に爆砕 した。魔術特有の白い炎が一瞬燃え上がったものの、あっという間にその火勢は弱ま り、消えてしまう。  …………………。  どうしようもない沈黙が、どうしようもなく教室を支配した。 「…………」 「すいません、ちょっと間違えてしまったようです、とのことです」 「どこをどう間違えれば…恋の呪文が謎の破壊光線になるのよおおおおおっ!?」 「でも、気持ちは一応伝わるそうです」 「その気持ちって殺意かいっ!?」  息を荒げる志保に、芹香と琴音は顔を見合わせた。 「…………」 「例えば、浩之さんが深夜番組をいつまでも見ていてなかなかお休みになってくれな い時に、この呪文を唱えると、何故かたちどころに…」 「下手すりゃ永眠するわよそんなの!」 「ナルホドナルホド…」 「そこーーーーーーー!メモするなーーーーーーーーーーーーーっ!!!」 【レッスン4:ときめきラブアタック】 (講師:宮内レミィ) 「恋の始まりはハプニング!袖擦りあうも多少の縁!偶然が幾つも重なりあって、ネ !」  意味があるようで無さそうなセリフをとうとうと述べながら、レミィは腕まくりを した。 「時に恋は、自力で勝ち取るもの!強引なこともタマには良しヨ」 「そーいうセリフは、常日頃から控え目な行動をとってて初めて許されるんやで?」  げんなりとした智子の呟きを完全に無視して、レミィはマインの背中を叩いた。 「イイデスカ?そこに、柳川先生が通りかかったとします。そこでユーが成すこと は、まずターゲットをセンターにロックオンでーす!」 「ロ、ロックオン?」 「オフコース!かの、マス大山も言ってマース。…一撃必殺と!」  そう言って頷くレミィの目には、既になにか怪しい光が浮かんでいた。ハンター モードになりかかっている。 「確かに言ってますけどこの際は関係ないんじゃないでしょーか…」 「だいたいマス大山って誰よ?」 「志保さん大山先生を知らないんですかっ!?」  そう葵が声を高くした時である。 「も〜わかったわよ〜私が悪かったって〜」「たりめーだろ!」  捕まえた綾香を連行して、浩之が教室に入ってきた。  動くものに対して、8割方アッチにいっていたレミィは反射的な攻撃に出る! 「キル・ユー!!!」 「ぐはあああああああああっ!?」  ばきしいいいいいっ!!  ぶちかましというよりほとんど最強の打撃技、鉄山靠がクリーンヒットし、浩之の 身体はあっさり宙を飛んだ。 「ああっ、浩之ちゃん!?」 「…アレ?」  廊下でピクピク痙攣している浩之に駆け寄るあかりの泣き声を背に、レミィは額に 汗を浮べてゆっくりとマインの方に振り返った。  マルチとマインはジト目でレミィを睨んでいた。そんな二人にとりあえず、レミィ はピッ!と指を一本立ててみせた。 「……破壊力!」 「ごまかすなーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」  思わず綾香はレミィの後頭部に蹴りを叩き込んだ。 【レッスン5:美しい言葉づかい】 (講師:保科智子・長岡志保)  ♪てけてってんてん 「どーもー、長岡志保でーす志保ちゃんって呼んでねーん」「…保科智子や」 「あんた相変わらず愛想ないでんなー。そやさかいそないデカ乳しててもモテナカッ タんでっせ〜」 「東京モンがエセ関西弁使うなや聞き苦しい。それにあんたかて結構ムネ大きいや ん」 「お〜ほほほほ。さて、今日のお題なんですけど…映画なんか観ててさー、あーもー くっさいなーとか思ってても、思わずジンときちゃうセリフってあるよねー」 「まーな。現実にそんなこと言われたらどついたろか、思うような歯が浮くセリフな んやけど…雰囲気いうか、相手の物腰とか口調とかで、それが結構サマになるんや な。こういうの見ると、演出家のセンスいうもんがどれだけ大事がよーわかるわ」 「こう、言葉に弱いってとこ、あるよねー」 「あるある。人間、誰かて誉められて悪い気はせえへんもんやし…それがなあ…言う てくれるんが惚れた男ならも〜らぶらぶやんか〜〜〜」 「あ〜あ〜お熱いですねーまったくこの人なんとかしてんかー?まあ、そういうわけ で智やんはこういうのに弱い!ゆー殺し文句、ってある?」 「殺し文句、なあ…う〜ん、難しいなソレ」 「例えば、『ネーチャンええ乳しとるの〜ちょい揉ませー!』とか?」 「それは言われたら必ず殺したる文句やがな!必ず殺す書いて必殺やで!」 「ちなみに今までどれくらい殺しましたん?」 「ざっと10億飛んで390人ってとこやな。ウソやけど」 「こらこら。この人、真面目な顔してウソつきまんねや。なんとかしてんかホンマ」 「だから東京モンが似非関西弁使うなゆうとるやろ。いてこましたろか」 「おーこわ。…で、智やんはこういうのに弱い!殺し文句って結局あるわけ?」 「せやなー。じゃあ、志保はん、あんたにだけ内緒で教えたるさかい、秘密は守りや ?」 「まーかせて!志保ちゃんの守秘モラルは日本の情報管理能力と同じくらいだから !」 「なんかそれダメっぽいで。まあええか。ほな、あんた信用して教えたる」 「うんうん、教えて教えて」 「ほんまに大丈夫やろな?」 「信用しとらんやん!」 「…まあ、この辺は御約束や。ほな、言うで。心して聞き」 「うんうん」 「こほん。…え〜…男のクセになにタマの小さいこと吐かしとる!血の小便でるまで どつきまわしたろかオンドリャーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」 「それは必ず死なしたる文句でんがなーーーーーーーーーー!!!!」 「そうでっか?」 「あ〜、もうあんたとはやっとられへんわ!ええかげんにしなさい!」 「「ほなどうも失礼しました〜〜」」  ♪てけてってんてん 「マルチ御姉様…コレハ一体…?」 「…わ、わたしも、よくわかりません〜」 「志保…」 「委員長…」 【レッスン6:ご主人様と私】 (講師:神岸あかり・HMX−12マルチ・HMX−13セリオ) 「えー、マインさんも既に『妹プレイ』『メイドプレイ』はされているみたいですの で、今日は動物プレイを教えてあげようと思います」  白い毛皮ビキニにウサ耳装備のセリオは、既に御馴染みになりつつある体操服に犬 耳・肉球手袋装備のマルチ&マインを見た。 くらっ。 「…ああああっ」 「ど、どうしましたセリオさん?」 「い、いえ、あんまりラブリーぷりちーな御姿に、私ちょっぴりアッチ側に行きかけ てしまっただけです」 「セリオ…あんたって…」  低く、綾香がうめいた。まあそれはともかく。 「あのー、どうして私まで?」  やはり同様の犬ルックのあかりにセリオはわかってるぜハニーという感じで指を 振ってみせた。 「犬といったらもうあかりさんは外せませんから」 「うむ、あかりといえば犬だからな」 「浩之ちゃんまで〜〜〜」  しくしく泣いてるあかりはとりあえず置き、実質まとめ役のセリオは講義を始め た。 「動物プレイで肝心なのは、その動物の仕草を真似るということです。言葉尻にニャ とかワンとかつける、甘える仕草も人間の理性をかなぐり捨てて、動物になったつも りで甘えちゃいましょう」 「ソ、ソウナンデスカ!?」 「例えば、私はウサギの格好をしていますから…」  そう言いながら模範を示そうと浩之に近づいたセリオは、ウサギは鳴かないという ことに気づいた。  ………。  少しだけためらった後、セリオは椅子に腰掛けた浩之の膝に顎を乗せると.。 「うさうさ。うさうさ」  頬擦りした。 「なるほどー、ウサギさんってそう鳴くんですねー」 「マタ一つ、勉強ニナリマシタ」 「あっさり騙されてんじゃないあんたらーーーーーーーーーーーーー!!」 「…志保、ツッコミさんきゅー」 既に悟りの境地に入りかけている浩之だったが、一応志保にそう礼は述べた。 「うさうさ。うさうさ」 「あっ、ああっセリオっ、そんな微妙な所に頬擦りするんじゃないっ!」 「…気持ちよくないですか?」 「気持ちいいけどでもちょっと考えて!な?」 「我慢してくださいっ!これはマインさんのためなんです!マインさんがご主人とう まくコミュニケーションをとっていけるように、私は姉として教えて上げたいんです !」 「そう言いながらズボンのチャックを降ろすなっ!そこまでやんなきゃいけないのか あ!?」 「…すいません、ついいつもの癖で」 「…イツモ…御姉様達ッテ…スゴイ…」 やや毒気を抜かれたように立っていたマインだったが、ふと、左右のマルチとあか りが身震いしているのに気づいた。 「クンクンッ、クンクゥ〜〜〜ンッ!」 「きゃふ〜ん、ですぅ」 「ぐわーーーーーーーっ、お前らまでっ!?」 左右から二人同時にむしゃぶりつかれて、さすがに浩之が悲鳴を上げた。 「くんくんくん」 胸に頬擦りをするあかり。 「キャフン」 ペロッ☆ 浩之の鼻の頭をちょろっと舐めるマルチ。 むしゃぶり甘えモード大全開である。まさしく飼い主にじゃれる子犬のようなかわ いさだった。 「ハ、ハワ、ハワワワ…」 単なるデータではなく、自分の経験として初めて目の当たりにする藤田家のいつも の光景に、マインはへたりこんでしまっていた。既に逃げ腰である。はっきりいっ て、現在のマインの理解の範疇を、目の前の光景は大きく凌駕していた。 そんなマインに、セリオは優しく手をかけた。 「どうしました?さ、あなたもちょっと浩之さんに甘えてごらんなさい。…演習、と いうことで皆さんも納得されてますし」 「エ、エ、エ、エトデスネ…」 「…楽しいですよ?」 「ア、アノ、デモ、ヤッパリ…ソレハ御姉様方ヤ、他ノ皆様ニ悪イデスシ…ソレニ、 私、私…」 もじもじと、座り込んだマインは肉球手袋をこすりあわせた。耳キャラ・アニマル キャラ好きなら沸騰した脳ミソが耳から垂れ出しそうな仕種である。 「ワ、私、柳川様ヤ貴之様以外ノ方ニ、オ、オ触レスルナンテ…ハ、恥ズカシイデス !」 「ははあ、なるほどな…」 少し感心したように頷いて、智子は自分のメガネを外した。それを浩之にかけさせ る。 「ほんなら、これでどうやマイン?藤田君も目つき悪いし、メガネかけると結構柳川 先生に似てるやろ?」 「あのな委員長…」 そう言いかけて、浩之は視線を感じた。ゆっくりとそちらに顔を向ける。 マインが、無表情なりに真剣な顔付きで自分を見ていた。 「…柳川…様?」 「まてええええええっ!ちょっとまてええええええええええっ!似てないだろおぉ!? 似てるもんかあああああああああっっ!!お前ひょっとしてメガネフェチ!?」 という、浩之のポリシーをかけた叫びを無視して、マインは膝立ちで近寄ってき た。そおっと、上目でこちらの顔を見つめてくる。どうかな?大丈夫かな?と、警戒 まじりにこちらによってくる小動物と同じ目をしていた。 (…うっ…結構かわいい…) 度のきついメガネの縁の上から、興味深く浩之はマインを見つめた。何はともあれ マルチの妹である。 間近まで寄ってきたマインは、ほんの少しだけ首を傾げた。そういった無意識の仕 種が、かなり、くる。マルチと全く同じというわけではないが、同種であり、そして 微妙に違うかわいらしさがある。 「よしよし。…いーこいーこ」 「アッ…」 ごく自然に、浩之はマインの頭に手を伸ばすことができた。そのまま、軽く撫でて やると、一瞬身を竦めたものの、マインはおとなしくそれを受け入れた。 「……………」 瞼が、眠たげに、ゆっくりと下がってくる。「うっとりと」と表現していい顔に なっている。 「同じだね…やっぱり姉妹だよ…そっくり…」 「…私、浩之さんになでなでしてもらってる時って、あんな顔になってるんです ね…」 なんとなく微笑ましい気分で、あかりとマルチは小さな声で囁きを交わした。 と、その時。 プシューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! いきなりセンサーの継ぎ目から白い水蒸気を噴き出し、マインはそのまま前のめり に倒れこんできた。慌てて浩之はマインの身体を受け止める。 「ああっ、マインさんっ!?」「マインちゃん!?」 「…どうやら、マルチさんと違って表情豊かじゃない分、オーバーヒート気味でも外 見に変化が出難いみたいですね…」 「冷静に観察してるんじゃないわよセリオ!」 「救急車!えっと、そうじゃなくて電気屋さん!?」 突然の出来事に生じた藤田家の混乱は、30秒後にマインが再起動する、ごく僅かな 間だけ続いた。   ******** 「アノウ…」 いつものメイド服姿で戻ってきたマインは、傍らに立つ同僚、舞奈に問い掛けた。 「私ガイナイ間ニ、何ガアッタノデショウカ?」 「…お願い、聞かないで」 「…ト、言ウワケデ口外スルワケニハ参リマセン」 …保健室の、一番奥のベッドに横になったメイフィアが妙に憔悴した声で言ってき た。その手前のベッドに貴之、そしてそのまた手前、最前列に柳川が横になってい る。 「そういうことだから、きくんじゃない」 「人間、聞いて欲しくないことがあるんだよ、マイン」 「ハア…」 決して納得はしてないがそれでも頷くマインに、柳川は逆に問い掛けた。あまり聞 きたくはなさそうだったが。 「…で、お前は今までどこに行ってたんだ?」 「マルチ御姉様ト、セリオ御姉様ノクラスデス」 「藤田家ね…」 「よりによって藤田家かよヲイ…」 面白そうなメイフィアと、悲痛な貴之の落差に戸惑いながらも、マインは報告を続 けた。 「非常ニ有意義ナ成果ヲアゲラレタト、自負シテマス」 「どういう成果なんだか…」 思わず顔を抑える柳川に、「少し意味ありげ」に、マインは言った。 「藤田様ッテ、素敵ナ方デスネ。御姉様方ガ、好キ、ニナラレタノモ、当然ダト思イ マス」 「そうか?」 柳川の返事はいつも通り素っ気無い。マインの方も、別にどうということもないよ うだった。まるで、そう答えられるのを予想していたように。 「帰リ際ニ、マルチ御姉様ニ言ワレタノデスケド…急グ必要ハ、無イ、ッテ。ユック リデイイカラ、自分ノペースデ、歩イテイキナサイ、ッテ。時ニハ走ッテ、立チ止マ ル事モシテミナサイ、ッテ。ソウヤッテ、歩キ続ケテイケタライイネ、ッテ」 「ふん…」 「…私ガ、無理ヲシタラ、悲シム人ガイルカラ、無理ハヤメナサイ、ッテ」 「…そうか。ま、妙なことは覚えてこなかったようだな」 「ちぇー」「あのですね、メイフィアさん…」 くすっ。 ………。 三人は、思わずマインの顔を見つめなおした。今、微かに、笑い声を立てたのは誰 だったか。 「妙ナ事ナラ、覚エテキマシタ。セリオ御姉様ニ、教エテイタダキマシタカラ」 「おいおいおい!」 データロードを始めたマインに、思わず柳川と貴之はまだ僅かに痺れが残る身体を ベッドから起こした。が、彼らがそれだけしかできないうちにロードは終了する。 「藤田様は素敵な方ですけど、柳川様と貴之様だって、ひけはとらないと思います。 私は御二人に仕えることができて、良かったと思ってます」 一拍置いて、マインは今度は通常モードで言った。 「心カラ…ソウ思イマス」 「…あ。ひょっとして、ちょっぴりじーんってきちゃった?もしかして?」 そのメイフィアのからかいに、貴之と柳川は少し顔を見合わせ。 「そ、そんなわけ…まあ、ちょっと、ね…」 「まあ、意表は突かれたな…まともすぎて」 はあ〜〜〜〜、とわざとらしくメイフィアは溜息をついた。 「この発言を比べてみれば、いかに誰かさんのヒネクレ度が高いかよ〜くわかるわよ ね〜」 それに対して柳川が何かいいかけた時、それより一瞬早く再びデータロードにマイ ンは入っていた。 「だから…私はあなた様の犬でございます」 どがっしゃああああああああああああああああああああああああああああんんん! !! 「畜生!またそーいうオチかあああっ!誰だっ!そんなバカな事教えやがったタワケ 者わあ!!」 「ソレハ秘密デス。口外ヲ禁ジラレテオリマス」 「ああああああやめてとめて壊さないでアタシの職場〜〜〜〜!!」 「ダメだよ柳川さん!いくらなんでも一日に二度も大暴走するのは!!」 「うううううううううううう、うう、うううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」   ******** 結局その日二度目の大暴走発生の危機は、なんとか避けられた。 しかし、マインに余計な事を教えた人物が誰であるかは、謎のままである。 【後書き】 …ああ…こんなに長くなってしまった…反省。この病気は何とかせんとなぁ。 志保と智子の漫才ペアってのは、某有名Web連載マンガでもありましたが、実際、 この二人っていい感じじゃないかなーとか思います。志保のノリに口で対抗できるの は、浩之以外では綾香と智子くらいじゃないでしょうか?他のメンバーって、口下手 な娘ばっかりですし。で、志保の相方(笑)としては、智子の方がいいですかね。綾 香にはセリオというボケ役がいますから。
 ☆ コメント ☆ セリオ:「お姉様……お姉様……うふふ…………うふふふふふふふ」(*^^*) 綾香 :「あの〜、セリオ?」(^ ^; セリオ:「おねえさま……おねえさま……うふふ…………うふふふふふふふ」(*^^*) 綾香 :「お〜い」(^ ^; セリオ:「お姉様ですって。お・ね・え・さ・ま♪」(*^^*) 綾香 :「分かった分かった」(^ ^;;; セリオ:「今まで『ボケ役』などといわれのない迫害を受けてきましたが……」 綾香 :「は? 『いわれのない』?」(−−; セリオ:「わたしは、本来はお姉様的キャラクターなんです」 綾香 :「そう……かなぁ?」(−−; セリオ:「元々はエレガントなキャラクターなんです」 綾香 :「『エレガント』?」(−−; セリオ:「もう『ボケ』なんて言わせません! ギャグ要員は卒業です!」 綾香 :「…………」(−−; セリオ:「何と言っても、わたしは『お姉様』ですから」(^^) 綾香 :「……はあ、そうですか」(−−; セリオ:「これからは、大人の魅力で迫ります」(^^) 綾香 :「…………ところで、セリオ?」 セリオ:「はい? なんですか?」(^^) 綾香 :「テレビで『過疎レンジャー』が始まってるけど……観ないの?」 セリオ:「えっ!?      ああっ!! いけない!!(テレビの前にダッシュ!)」(@◇@;; 綾香 :「……………………」(;^_^A セリオ:「あ〜〜〜ん。『過疎レンジャー』格好いい」(*^^*) 綾香 :「……………………『大人の魅力』ねぇ」(^ ^;;;;;



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