連載小説 私立了承学園
第弐百七拾四話 四日目 4時限目(Heart to Heartサイド)

 誠とエリアの仲がついに進展する……のか?!

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「この時間はバトミントンをします」

 と、エリアは誠、さくら、あかね、フランソワーズの四人の前に立った。、

 この時間の科目は『体育』。
 というわけで、誠達は担当のエリアとともに、体育館へとやって来ていた。

 本来、体育は雄蔵の領分なのだが、そこはそれ、担任の権限でどうとでもなる。

 愛しい人とともに過ごす為に、担任の特権をフル活用するエリアなのであった。

 ちなみに、気になる服装だが、誠は体操服、さくらとあかねとエリアはブルマ姿、
フランソワーズはジャージである。

「バトミントン……(うるうる)」
 授業内容を聞き、何やら感涙する誠。
「まーくん、どうしたの?」
「いや……まともな授業っていいなぁ、って思ってさ。ホント、エリアが担任で良かったよ」
 誠の言葉に、エリアはにっこりと微笑む。
「喜んでいただけて嬉しいです。では、早速、始めましょうか」










「それっ!」

 ポーンッ!

「えいっ!」

 パシーンッ!

「にゃっ!」

 スパーンッ!

「はいっ!」

 パーンッ!」

「よっと!」

 パシィーッ!

 五人で輪になって、ラケットを振るう。
 そして、乾いた音が体育館に響く度、ロケットが宙を舞う。

 その光景は、了承学園では結構稀な、平穏な授業そのものであった。

「わりぃ……ちょっと休憩」
 誠が輪の中から外れ、壁にもたれて腰を下ろす。
「ふぅ……まともな運動ってのは久しぶりだな」
 と、ひと息つく誠。
 そこへ……、
「どうぞ、タオルです」
 いつの間に抜けてきたのか、フランソワーズが誠にタオルを差し出す。
 動きにソツが無い。
 さすがは、誠家のメイドになることを志願しただけの事はある。
「サンキュ、フラン」
「あ……(ポッ☆)」
 と、誠は彼女からタオルを受け取り、軽く頭を撫でてやる。
 いつの間にか、誠家クラスの者はフランソワーズのことを『フラン』と略して呼ぶようになっていた。
 そういった親しみを込めた呼ばれ方が、フランソワーズには嬉しくてたまらない。
「そういえば……」
 タオルで汗を拭きつつ、仲良く戯れるさくら、あかね、エリアの三人を眺め、
誠はまるで独り言のように呟く。
「エリアって……最近、可愛くなったよな?」
「そう思いますか?」
「ああ……もちろん、初めて会った時から可愛かったけど、
何て言うか、雰囲気……かな? それが日増しに可愛く、な」
 と、ちょっと照れながら言う誠に、フランソワーズはクスッと微笑む。
「そうですね……女性は恋をすると変わると言いますから」
「…………は?」
 フランソワーズの何気ない一言に、誠はキョトンとした顔になる。
「エ、エリアって……恋してるのか?」
「そうですよ。ご存知ありませんでしたか?」
 しれっとした顔で言うフランソワーズ。
 さりげなく、エリアの気持ちを誠に気付かせるつもりなのだ。
「全然知らんかった」
 と、意外そうに言う誠の言葉に、フランソワーズは「やっぱり」と内心呟く。
「エリアって、誰に恋してるんだ? フランは知ってるのか?」
「はい。存じております。ですが、ワタシの口からお教えすることはできません」
「そうだよな。俺なんかが詮索していい事じゃねーよな。
でも、何とか協力してやれねーかなぁ」
 腕を組んで考え込む誠。
 そんな誠に、フランソワーズは……、
「誠様の場合は、少しは詮索した方が良いかと思いますが……」
 と、わざと誠に聞こえる声で呟いた。
「……そりゃどういうことだ?」
「わかりませんか?」
「わからん」
「それでは、ヒントを差し上げましょう。
エリアさんは、このクラスの担任に選ばれた時、とても喜んでおられました」
「っっっ!!」
 フランソワーズの言葉に、誠はハッとなった。

 誠は鈍感ではあるが、馬鹿ではない。
 これだけ聞けば、簡単に答えは出てくる。

『エリアは、今、誰かに恋をしている』
『エリアは、このクラスの担任になった時、とても喜んでいた』

 この二つの情報から導き出される答えは、一つしかないのだ。

「まさか……」

 そして、誠がその決定的な答えに到達しようとした、その時……、

「ちょっとちょっと、誠く〜〜〜ん♪」

 と、何処からか猫なで声が聞こえてきて、誠の思考は中断した。
「何だ?」
 声がした方を見る誠。
 すると、そこには、ルミラの姿があった。
 体育用具倉庫から顔だけ出して、おいでおいでと手招きしている。
「どうしたんですか?」
 特に警戒もせずにルミラに歩み寄る誠。
 そう……誠は、最近のルミラの動向を知らないのである。
「…………」
 そんなルミラの行動を、フランソワーズは敢えて黙認する。
 おそらく、元々の主であるルミラへの義理の為だろう。
 それに、長年デュラル家に仕えていたので、
ヴァンパイアであるルミラが生き血への欲求を抑えきれないという事情も分からなくは無いのだ。
 もっとも、ルミラの唇が誠の首筋に押し当てられるというのは、
フランソワーズとしても納得できないところではあるのだが……、
「ルミラさん、何か用ですか?」
「実はね、次の授業の用意をしてるんだけど、どうしても人手がいるのよ。
ちょっとでいいから手伝ってくれない?」
 もっともらしい理由を言うルミラ。
 何も知らない誠が、これを断る理由は無い。
「いいですよ」
「じゃあ、取り敢えず倉庫の中に……」
 にんまりと微笑んで、ルミラは誠を倉庫の中へと誘い込もうとする。
 だが、そうは問屋が下ろさない。
「誠さんっ!! ちょっと待ってくださいっ!」
 そんな二人の間に、エリアが割って入った。
 ここまで一気に駆けて来たのだろう。
 ハアハアと、肩で息をしている。
「どうした、エリア? そんなに慌てて」
「ルミラさんのお手伝いは私がしますから、誠さんは授業を続けていてください!」
 と、ググッと誠に詰め寄るエリア。
「あ、ああ……わかった」
 その有無を言わせぬ迫力に、誠はエリアの言葉に従い、
バドミントンを続けているさくらとあかねの方へと立ち去る。
「じゃあ、エリアでもいいわ。ちょっと来てくれる?」
 計画を邪魔されたにも関わらず、けろっとした表情のルミラ。
 そのまま、エリアを倉庫の中へと引っ張り込む。
 そして……、

 バタンッ!

 と、扉を閉めた。

 薄暗い倉庫の中、エリアとルミラが対峙する。
「ルミラさん、どういうつもりですか? また、誠さんを狙うなんて」
「だってぇ、由緒正しきヴァンパイアとしては、初志貫徹しないとねぇ」
 と、楽しそうに微笑むルミラを前に、エリアは伸縮型の杖をシャキンッと取り出し、構える。
「誠さんの血を、あなたに吸わせたりはしません。誠さんは、私が守ります」
「その言葉を、彼の前でハッキリ言えばいいのに」
「そ、それは……」
 ルミラの一言に、エリアの警戒が一瞬途切れる。
 ルミラは、その一瞬を逃さなかった。
「それっ♪」
「えっ? きゃあっ!!」
 エリアの隙を突き、跳び掛かるルミラ。
 そして、体育用のマットの上に押し倒す。
「な、何を……」
 必死に抵抗するエリア。
 しかし、非力なエリアが、ヴァンパイアの怪力にかなうわけがない。
「うふふふ♪ 実はね、今回のターゲットは最初からあなただったのよん♪」
「ええっ?!」
「ああやって誠君を誘い込もうとすれば、あなたが出てくるのはわかってたもの。
まあ、そうでなくても、ここにいるのが誠君になるだけだから、それでも構わないし、ね」
「そ、そんな……」
「というわけでぇ……いっただっきまーーーーーすっ♪」
 エリアの体をマットに押さえつけ、ルミラはエリアの首筋に唇を当てる。
「ぅん……☆」
 ルミラの魔力の為か、それともちょうど弱い部分のなのか、エリアは思わず反応してしまう。
 そして、ルミラの牙がエリアの肌に立てられ、血を吸おうとした、その時……、

 ――ガラッ!

「どうした、エリア? 何か、悲鳴が聞こえ……た……」

 突然、倉庫の扉が開いた。
 そして、そこに立つ誠の姿。

「あ……」
「い……?」
「う……」

 エリアとルミラの状況を見て、誠の表情が固まる。

 マットの上にもつれ合うように倒れた二人――
 エリアの首筋に押し当てられたルミラの唇――
 そして、ほんの少し上気したエリアの頬――

 いくら鈍感とは言え、誠も健康なお年頃の男の子である。
 この光景を見て、何を考えるかは、想像に難くない。

「……失礼」
 妙に冷静な口調で、誠はバタンッと扉を閉める。
 それを、ただただ呆然と見送るエリアとルミラ。

 そして、扉の向こうから……、

「そっか、エリアの好きな人って……そうだったのか。
そういえば、初めての相手はティリアさんだって噂も聞いたことあるしな……」

 誠の呟きがかすかに聞こえてくる。

「それにしても、馬鹿だな、俺って。
もしかしたらエリアは俺のことを……だなんて。
自身過剰もいい加減にしろっての」

 と、そう呟きつつ……、

「おーいっ! さくらー、あかねー、フランー!
そろそろ授業も終わるし、サッサと着替えて食堂いこうぜーっ!」

 誠は立ち去った。

「…………」
「…………」

 エリアのルミラの間に流れる僅かの沈黙。

「は、ははは……」
 さすがに、バツが悪そうに引きつった笑みを浮かべるルミラ。

 誠は気付いていたのだ。
 エリアの気持ちに、気付きかけていたのだ。
 しかし、ルミラの行動で、いらぬ誤解を受けてしまった。

 もう二度と来ないかもしれない、千載一遇のチャンス。
 それが、今、あっさりと消えてしまったのだ。

「あ、あの……エリア……ゴメンね。こんなことになるなんて……」
「…………」
 エリアから離れ、慌てて謝るルミラ。
 しかし、エリアは呆然としたまま、何も答えない。
「……ほほ、ほほほほ、ほほほほほほほほ」
 と、ふいにムクッと起き上がり、エリアは乾いた笑みを浮かべる。
 そして、いきなりルミラに手をかざすと……、
「ウィルドバーンッ!!」
 呪文詠唱すっ飛ばして、風系最強魔法をブッ放す。
「うひゃあっ!!」
 それを何とかギリギリでよけるルミラ。
 しかし、エリアの攻撃は止まらない。
 いや、それはもう攻撃ではないのかもしれない。
 何故なら……、

「ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! 
ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! 
ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! 
ウィ〜〜〜ル〜〜〜ド〜〜〜バ〜〜〜〜〜〜〜〜ンッ!」

 狂ったように、あたりかまわず攻撃魔法を乱射しているからだ。

「ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! 
ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! 
ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! 
ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! 
ウィルドバーンッ! ウィルドバーンッ! ウィルドバ〜〜〜〜〜〜〜〜ンッ!」

「ひぇえええーーーーーーーーーっ!!
エリアーーーーーっ! お願い、落ち着いてぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 それは無理というものである。





 で、結局……、

 体育館が全壊するまで、エリアが落ち着きを取り戻すことはなかったのであった。
 ちなみに、そのすぐ側で、ズタボロになったルミラが倒れていたのは言うまでも無いだろう。










 了承学園一の純情少女エリア。

 彼女の想いが、誠に届く日は、まだまだ遠い。
 ……ってゆーか、どんどん遠ざかってる?

「そんなのイヤですぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!」(泣)




















 ――おまけ

 その日の放課後の職員会議――

「それでは、多数決によって裁決します。
今回の件で、体育館全壊の責任はルミラさんにあると思う人は手を上げてください」
「「「「「「「「「「はーい♪」」」」」」」」」」(教師一同)
「と、いうわけで、民主主義(数の暴力)に則りまして、ルミラさん、お仕置き決定です」
「いーーーーーーやーーーーーーーーーっ!!」





 ちゃんちゃん♪





<おわり>
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<あとがき>

 了承学園一の純情少女エリア。
 それと同時に、薄幸の美少女エリア。

 彼女の幸せは、いつになったらやってくるのか。
 その前に、レ○疑惑(つーか誤解)を解かないといけませんねぇ。

 ……どうしよう?(笑)

 でわでわー。




 ☆ コメント ☆ 綾香 :「あらら。エリアってば可哀想」(^ ^; セリオ:「想いに気付いてもらえないどころか、レ○疑惑まで……」(;^_^A 綾香 :「不幸ねぇ」(^ ^; セリオ:「不幸ですねぇ」(;^_^A 綾香 :「いつになったら想いが届くのやら」 セリオ:「…………届きますかねぇ? あの鈍感な誠さんに」 綾香 :「誠の鈍感さは筋金入りだからねぇ。      こうなったら、面と向かって『好きです』って言うしかないかも」 セリオ:「そうですねぇ。      もう、直球勝負しかないかもしれませんね」 綾香 :「とにかく、エリアには、自分の気持ちに正直になって突っ走ってもらいたいわ。      ……手遅れにならないうちに」 セリオ:「そうですね。わたしたちの近くにもいますもんね。      自分の気持ちに正直になれないが故に、泥沼にはまっている人が」(;^_^A  ・  ・  ・  ・  ・ 志保 :「…………………………………………ん?」  ・  ・  ・  ・  ・ 綾香 :「やっぱり、人間素直が一番よね」(^0^) セリオ:「はいです」(^0^)
 



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