私立了承学園 相沢家    昼休み その2

 

 

 それは、先日の夜の事である。

 「あれ?真琴ちゃん、何読んでるの?」

 あゆは真琴が見慣れない漫画を読んでいるのに気づいた。

 「・・・ミスター○っ子。」

 真琴は肉まんを食べながら、あゆに返事を返す。

 おそらく毎度のごとく、生返事であろうが。

 「へぇ・・・ボクも読んで良い?」

 「・・・うん。」

 その言葉を受け、あゆは真琴の横に積んであるミスター○っ子(全19巻)に手を伸ばした。

 

 −−−−−十数分後−−−−−−

 「これだよ!」

 「うわっ!」

 いきなりあゆが声を上げて立ち上がる。片手に本を持ち、バックに炎を燃え立たせて。

 「ど、どうしたのよぉ!」

 真琴がいつもとは様子の違うあゆに、思わず後ずさりしながら尋ねる。

 「完全な料理というものはないんだよ!」

 「あ、あゆちゃん・・・?」

 「料理は常に可能性への挑戦だよ!」

 すでにトランス状態に入っているあゆには、真琴の言葉は耳に入っていない。

 「つまり!いつもボクが食べている鯛焼きよりも、もっともっとおいしい鯛焼きがあるということだよ!」

 「あうー。あゆちゃん、真琴の話聞いてないよう。」

 真琴はすでに涙目である。

 「ボクはそのもっともっとおいしい鯛焼きを食べてみたい!そこで・・・真琴ちゃん!」

 「は、はぃぃ!?」

 「協力してくれるよね?」

 「な、何であたしが・・・」

 「・・・肉まん。」

 「あうっ・・・」

 あゆの言葉に、真琴が反応する。

 「もしうまくいけば、真琴ちゃんももっともっとおいしい肉まんを食べれるよ?」

 「・・・」

 真琴はしばらく黙り込み・・・

 「もっとおいしい肉まん・・・」

 「鯛焼きもだよ・・・」

 「「ふふふふふふふふふ」」

 二人はあやしげな笑いを浮かべた後、しっかりと手と手を取り合った。

 

 

 

 

 そして昼休み。

 「それじゃあ行ってくるよ!」

 「あ、あたしも!」

 四時間目の終了後、あゆと真琴はものすごい勢いで教室を飛び出した。

 「・・・何をやってるんだ?あゆと真琴は。」

 祐一が二人の様子を呆れたように眺めていた。

 「あははー。何か急いでいる見たいですねー。」

 佐祐理が祐一の横で二人の後ろ姿を見送る。

 「そういえば先ほど、二人に何かを尋ねられていたみたいですけど。」

 美汐が祐一の側に来る。

 「ああ。なんか、この学校の料理における有名人を聞かれてな。」

 「それで?」

 「知ってる限りをリストアップして、二人に渡した。」

 「・・・そうですか。」

 美汐は祐一の言葉に、ため息をつく。

 「どうした?」

 「いえ、思い過ごしだと良いんですが・・・」

 「?」

 美汐の言葉に、祐一は首をひねる。

 「・・・昼食」

 舞が祐一に声をかける。

 「そうだな・・・・って、名雪と栞は?」

 祐一は名雪と栞の姿が教室内に無いのに気づく。

 「栞は繁華街に買い物に行ったわ。」

 「名雪さんでしたら、先ほど『五月雨堂に行く』って言って、後ろから出ていきました。」

 香里と佐祐理の言葉に祐一は一瞬考え込み・・・

 「・・・そういうことか。甘いな、名雪。」

 名雪の行動を読み切った祐一がにやりと笑う。

 「祐一・・・昼食」

 舞がせかすように祐一に言う。

 「そうだな。それじゃあ、そろそろ食堂に行くか。」

  

 

 

 

 

 「うぐぅ・・・」

 あゆは祐一からリストアップしてもらった紙を見て、思わずうめき声を漏らす。

 「どうしたの、あゆちゃん。」

 「人が多いよぉ・・・・」

 あゆの持っているリストの中には、8人の名前が乗っている。

 二人はこのリストに乗っている人に鯛焼きと肉まんを作ってもらい、ついでにその作り方も習って、

 もっとおいしい物を自分たちの手で作ろうと計画していた。

 「うーん・・・でも、あかりさんや瑞希さん、梓さんはさすがに作り方は知らないと思う。名雪は五月雨堂に

 行くみたいだし。」

 「うぐぅ・・・それじゃあこの4人は駄目だね。」

 あゆはあかり、瑞希、梓、名雪の欄に×をつける。

 「・・・でも多いわね。」

 「うぐぅ・・・仕方ないよ。二手に分かれよう。」

 あゆはそう言って、リストを半分に切る。

 「それしかないわね・・・それじゃあ、終了十五分前に教室で。」

 「うん、了解だよ!」

 かくしてあゆと真琴は二手に分かれた。

 限りなく究極に近い鯛焼きと肉まんを作るために。

 

 

 

 

 あゆが真っ先に来たのは、食堂の厨房。

 本日の担当は秋子さんである。

 「あら?あゆちゃんは祐一さん達と一緒じゃないんですか?」

 「えへへ・・・ちょっと・・・」

 秋子さんの言葉に、あゆは笑ってごまかそうとする。

 「それより秋子さん、ちょっとお願いが・・・」

 「はい、何ですか?」

 いつものにこやかな笑顔で秋子さんが尋ねる。

 「鯛焼きと肉まんを食べたいんだけど・・・」

 「あらまぁ。それだったら食堂で注文していただければいいのに。」

 「出来れば作り方も教えて欲しいなーって。」

 「了承(一秒)」

 あゆの言葉に秋子さんは一秒で了承を出す。

 「それじゃああゆちゃん、まずはこのエプロンをつけて・・・」

 −−−−−数分後−−−−−

 「これで出来上がりです。」

 秋子はそう言って、あゆに出来立ての鯛焼きと肉まんとレシピを渡す。

 「ありがと!秋子さん!」

 あゆは秋子さんに頭を下げる。

 「いえいえ、良いんですよ。それより、上手に作れると良いですね?」

 「えへへ・・・やっぱり分かっちゃいました?」

 秋子さんのその言葉にあゆは照れ笑いを浮かべる。

 「ええ、もちろん。それより、急いで次の人に会いに行った方がいいわよ。」

 「あ、そうだね。それじゃ秋子さん、ありがとうございました!」

 あゆはそう言って、厨房を後にした。

 

 

 

 

 続いてあゆが訪れたのはHONEY BEE。

 「あ、あゆちゃん!」

 結花はあゆの姿を認めるなり、あゆに抱きつく。

 「うーん!やっぱり可愛いー!」

 「うぐぅー!うぐぅー!」

 結花の抱擁を受けて、あゆは苦しそうにうめく。

 「あ・・・いけない。またやっちゃった。」

 あゆの苦しそうな様子に気づいて、結花は慌ててあゆから身を放す。

 「うぐぅ・・・今何か、川が見えたよ・・・」

 「あはは、ゴメンゴメン。つい我を失っちゃって。」

 「それより・・・ちょっとお願いが・・・あるんだけど・・・」

 大きく深呼吸しながら、あゆは結花に用件を話す。

 「と、言うことなんだけど。」

 「うんうん。可愛いあゆちゃんの頼みだもん!わたしにどーんと任せなさいって!」  

 −−−−−数分後−−−−−

 「これでHONEYBEE特製鯛焼きと肉まんの完成よ!」

 結花があゆに鯛焼きと肉まんを渡す。

 「・・・(ごくっ)うぐぅ、今すぐ食べたいよぅ。」

 あゆが鯛焼きの香りに思わず唾を飲む。

 「うんうん。その気持ち分かる分かる。何せこの私が、愛情たっぷりで作ったんだもの。」

 結花があゆの様子を見て頷く。

 「それとこれがレシピね。機会があったら作ってみてね。」

 「うん、やってみるよ。」

 あゆが興味深そうに、結花の渡したレシピを見る。

 「ほらほら。お友達が待ってるんじゃない?速くしないと、鯛焼きも肉まんも冷めちゃうわよ?」

 結花の言葉にあゆが慌てて時計を見る。

 「あ、そうだね。ありがと結花さん!」

 あゆは結花に礼を言って慌ててHONEYBEEを去っていった。

 「ふむ・・・初めて作ったにしては結構いけてたわね。家の新商品に追加しようかな・・・」

 数日後、HONEYBEEに鯛焼きと肉まんが追加されたそうである。

 

 

 

 

 

 「んぐんぐ・・・」

 「モグモグ・・・」

 あゆと真琴は教室でひかりの作った鯛焼きと肉まんを食べていた。

 「やっぱりひかりさんも料理が上手だよ。」

 「うんうん。ひかりさんが肉まんを作るのを横で見てたんだけど、手つきが凄いのよ。」

 「秋子さんや結花さんも凄かったなぁ・・・いつかはあんな事が出来るのかなぁ。」

 二人は、秋子さん達の料理の手つきを思い出していた。

 「そういえば、同じ肉まんでも作る人で味が違うのよね。」

 真琴が肉まんをほおばりながら言う。

 「うんうん。鯛焼きでもあんこや皮の味に違いがあるよね。」

 あゆが鯛焼きを飲み込んで言う。

 「あ・・・ひかりさんの作った肉まん、もうなくなっちゃった。」

 真琴が残念そうに言う。

 「それじゃあ、残るは一箱だね。」

 あゆが真琴の横にある箱に目を移した。

 真琴が箱のふたを開けて、中から肉まんを取り出す。

 あゆも鯛焼きを取り出す。

 そして二人同時に口に運び・・・

 

 

 

 

 

 「間に合わなかったか・・・」

 相沢家の教室に慌てて駆け込んできた梓は、自分が間に合わなかったのを悟った。

 教室の中には、あゆと真琴が机の上にうつ伏せになって気絶していた。

 「まったく千鶴姉は・・・料理修行をするのは良いけど、人に作るのはもっとうまくなったからにして欲しいよ」

 梓は二人の症状がそれほど重くないのを確認した後、ため息をついて教室を出た。

 二人の机の上には、四枚のレシピと祐一の作った二枚のリストがおいてあった。

 そのリストに書かれている人物八名は・・・・改めて言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 おまけ

 五時間目開始前

 「祐一!なんてことすんのよ!」

 「ひどいよ、祐一君!」

 「ん?どうした、うぐぅにあうー。」

 「ボクはうぐぅじゃないよ!それより、この人の鯛焼き危険だよ!!」

 「そうよそうよ!おかげて、三途の川を渡りかけたわよ!」

 「ウソじゃねーぞ。たしかにその人は料理で有名だぞ。・・・逆の意味で。」

 「うぐぅ・・・」

 「あうーっ・・・」

 

 

 

 

 おまけ2

 

 その日の夜、祐一の部屋

 「祐一・・・覚悟してよ。」

 「やっぱり祐一君にも味わってもらわないと・・・」

 「「せーの・・・」」

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 「そんな酷なことはないでしょう・・・ZZZ」

 

 

 

                          おわり

 

 

 あとがき

 

 ども、滝月十夜です

 うが・・・・・スランプだ・・・

 何かノリが悪い・・・大丈夫かな。

 最近、長編のネタばかり思いついて、了承のネタが出ずらい・・・

 次の投稿、いつになるだろ。

 ではでは

 

 

 

 




 ☆ コメント ☆ 綾香 :「『料理で有名』…か。確かにそうね」(^ ^; セリオ:「……………………」(−−メ 綾香 :「知名度でいったら、八人中でダントツの一位だもんね」(^ ^; セリオ:「……………………」(−−メ 綾香 :「『料理の得意な人を教えて欲しい』と言わなかったあゆたちのミスね、これは」(^ ^; セリオ:「……………………」(−−メ 綾香 :「って、あんたはさっきから、何をふくれてるのよ?」 セリオ:「入ってない」(−−メ 綾香 :「はい?」 セリオ:「リストの中に、わたしの名前が入ってないんです。      料理といったら、わたしの超得意分野なのに」(−−メ 綾香 :「『超得意分野』って。      あんたの場合はデータをダウンロードしてるだけであって、自分自身の実力じゃ……」 セリオ:「なにか言いました?(ジロッ)」(ーーメ 綾香 :「(びくっ)ううん。な〜んにも」(^ ^;;; セリオ:「わたしと言えば『料理』。料理と言えば『セリオちゃん』なのに」(−−メ 綾香 :「セリオと言えば『ボケ』の間違いじゃ……」 セリオ:「な〜に〜か〜言〜い〜ま〜し〜た〜〜〜!?(ギロッ)」(ーーメ 綾香 :「(びくくっ)いいえ! 何にも言ってません!!(こ、こわひ)」(;;) セリオ:「とにかく……祐一さん許すまじ、です」(−−メ 綾香 :「そ、そう」(;^_^A セリオ:「そういうわけですから…………ダウンロード……『千鶴さんの料理』」(−−メ 綾香 :「ち、ちょっと!!」(@◇@;; セリオ:「…………ダウンロード完了。      ふっふっふ。祐一さん、今から、美味しい料理を作りに行ってさしあげますね♪」(^^メ 綾香 :「セリオ! 落ち着いて!!」(@◇@;; セリオ:「それじゃあ……セリオ、行っきま〜す♪(ダッシュ!)」(^^メ 綾香 :「セリオーーー!!      ……………………あ〜あ、行っちゃった。      ふぅ。祐一、成仏してね」(−人−)ナム



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