私立了承学園
4日目 昼休み ToHeart


「やっぱこれが一番落ちつくぜ」 「ふふ、浩之ちゃんたら」  昼休み。  学食前の廊下で浩之とあかりが談笑していた。  ちなみに、当然というか、浩之の片手にはカフェオレが握られている。  先の会話の「これ」とは、言うまでも無くカフェオレのことである。 「しかしおまえも大変だよな、単純な人数だけでも多いのに、1人で10人前は軽く 食うやつらが何人もいてさ」 「う〜ん……でも、1人でやってるわけじゃないしね」 「まーな。でもせっかくローテーション組んでも誠や楓ちゃんが毎日のように来たら 休む間もねーな」 「あはは、そうだね。でも、お料理好きだから大丈夫だよ。それにお母さんや秋子さ んの仕事振りを見てると勉強にもなるしね」 「うむ。勉強熱心なのはいいことだ。しっかり勉強して美味いもん食わしてくれよな」 「うん。頑張るよ」  などと平和な会話をしている二人の前を、重そうな買い物袋をぶら下げたフランソ ワーズがふらふらと横切った。 「あ、あれフランソワーズちゃんじゃない?」 「お、ホントだ。おーい、フランソワーズ!!」  二人に名前を呼ばれたフランソワーズは、無駄の無い動きで二人の方へ体を向け、 「こんにちわ、浩之様、あかり様」  と、丁寧なお辞儀つきで挨拶をした。 「こんにちわ、フランソワーズちゃん」 「よっす……う〜ん…なんか、昔のセリオみたいだな、お前」  浩之がフランソワーズの様子に、率直な意見を述べる。 「そうでしょうか?」 「ああ、なんつーか、カタイ感じっていうか、さ。もっとラクにすりゃいーのに」 「ありがとうございます。でも、ワタシは生まれたときからこうですから、自然にと 言われれば、これが自然な動作と言えますので」 「はは……そんなところもセリオそっくりだぜ」  浩之は苦笑しながら言った。  そんな浩之をフランソワーズは困った(ような)顔で見つめるしかなかった。 「ところですげぇ量だな、それ。誠んとこの晩飯用か?」 「はい。誠様はご健啖ですので」  フランソワーズの表情は相変わらず乏しいが、それでも誠のことを語る彼女の顔は なんだか嬉しそうに見えた。 「まーな……よし! 手伝ってやるよ」  そう言って浩之はフランソワーズのほうに手を差し出した。 「え……そんな、悪いです」 「ンな気使わなくてもいーって。さっきよろめいてたじゃねーか」 「ですが…」 「いいんだよ、フランソワーズちゃん。浩之ちゃんも好きでやってるんだから」  あかりがにこやかな顔でフォローを入れる。 「そーゆーこと。だから変な気ぃ使わなくてもいいぜ。さっきも言ったろ? ラクに すりゃいいんだって」  浩之も微笑んでフランソワーズを見つめる。  そんな二人を交互に見、すこし考えた後、ようやくフランソワーズも折れた。 「そう…ですか。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」  そう言って、また深く頭を下げた。  それを見た浩之とあかりは、顔を見合わせて苦笑した。 ---------------------------------------------------------------------------- 「そーいや、おまえとこんなに話すなんて始めてだな」  他愛のないお喋りなどしながら誠家寮に向かっていた3人。  そんな時、浩之がぼそっとそんなことを言った。 「そういえばそうだね。隆山で会ったときもしばらくはただのエビルさんのお人形だ と思ってたし」 「この学園に来てからもほとんど会ってねーしな」 「そう言われてみれば…そうですね」  それでも、これだけ気兼ねなく談笑できる雰囲気を作る。  これも浩之やあかりが作り出す独特の暖かい空気の為せる技である。  2人はそんなことには気づかないが。 「んで、フランソワーズは幸せか? 誠ンとこのメイドになれてさ」 「な、何を突然…」  唐突にそんな事を言われ、無表情ながら頬を染めるフランソワーズ。 「解りやすいなー、なんか可愛いぜ」 「お、お戯れを……」 「いや、冗談なんかじゃないぞ。おまえならいつでもいい嫁さんになれるぞ」 「うん、そうだね」  そして、浩之はフランソワーズの頭を撫でた。 「あ……(ポッ☆)」 「あ、悪りぃ、つい……」 「い、いえ……」  顔を伏せてしまったので浩之達には解らなかったが、フランソワーズの顔は真っ赤 だった。 「それにしても結構重いな。ったく、誠ももう少し控えめにしろっつの」  袋の中の大量の食材を見て呆れたように浩之がつぶやく。 「う〜ん、そうだね。こんなに沢山、毎日だと運ぶだけで大変だね」 「いえ、ワタシは苦とは思いませんが」 「苦になんなくたって、体には負担かかるだろ? いくらなんでもこの量を手で持っ てくのはほどほどにしとけよ」 「リヤカーとか使ってね」 「……いや、そりゃちょっとどうだろ…」  あかりの発言に、リヤカーで夕食の買い物を運ぶフランソワーズを思い浮かべる…  ちょっとイヤ(笑)  いや、フランソワーズでなくても十分イヤだが。 ---------------------------------------------------------------------------- 「それでは、ありがとうございました、浩之様、あかり様」  また深く頭を下げるフランソワーズ。 「いや、いーってことよ、楽しかったしな」 「うん、そうだよ。また何か手伝うことがあったら遠慮無く声かけてね」 「…ありがとうございます」  あかりの言葉にまた頭を下げるフランソワーズ。  その様子を見て、浩之とあかりはまた苦笑した。 「あ、それとさ」  と、浩之は思い出したように切り出した。 「「?」」  あかりとフランソワーズは疑問の表情を浮かべながら浩之の顔を見る。 「ずっと思ってたんだけどよ、いちいち呼ぶときにフランソワーズじゃ長すぎるから …今度から「フラン」って呼んでいいか?」  浩之にしてみれば何気ない言葉だったのだろう。  …数秒の沈黙の後、フランソワーズは口に手をあて、くすくすと笑い出した。  誰の目に見てもはっきりと解るように。 「ど、どうした? オレなんか変なこと言ったか?」 「い、いえ…申し訳ありません」 「???」 「浩之様…失礼ながら、質問してもよろしいでしょうか?」 「あ、あぁ、なんだ?」 「…よく、誠様に似ていると言われることはございませんか?」 「!? な、なんで解った!?」 「クスッ…いえ、なんとなく、です」 「???」 「それでは、本日は本当にありがとうございました。失礼します」 「お、おう」 「うん、それじゃ」  にこやかに手を振りながら、寮に入っていくフランソワーズを見送るあかりとは対 称的に、浩之は釈然としない顔だった。 「なぁ…オレってそんなに誠と似てるか?」 「うん、そっくりだよ」 「そうかぁ? どんなとこが?」 「そんなとこかな」 「はぁ? どんなとこだよ」 「だから、そんなところだよっ」 「解んねーって…」  結局、浩之には解らなかった。  …やっぱり「そんなとこ」が誠にそっくりである。 <おわり>
 ERRです。  ほのぼの・リベンジ(謎)  いえ、以前ほのぼの書こうとして見事にしんみりさせたことへのリベンジって事で。  どうでしょう、ほのぼのしてるでしょうか?  それはそうと、「フラン」を誠家の特権(?)じゃなくしてしまいました。  すいません。
 ☆ コメント ☆ セリオ:「フランソワーズさんとわたしって、そんなに似てます?」 綾香 :「似てると思うわよ。      フランと『昔の』セリオは、ね」 セリオ:「……なんで、『昔の』って強調するんです?」(−−; 綾香 :「だってねぇ。今のセリオは完璧にボケ役じゃない。      フランとは似ても似つかないわよ」(^〜^) セリオ:「むっ!」(ーーメ 綾香 :「あ〜あ。『昔の』セリオは素直で可愛かったのにねぇ。      ボケてなかったし」(^〜^) セリオ:「むむっ! では、今のわたしは可愛くない、と?」(ーーメ 綾香 :「そんな事はないわ。今のセリオだって可愛いわよ。      …………ボケてるけどね」(^〜^) セリオ:「むむむっ!」(ーーメ 綾香 :「だけど……あたしは、今のセリオの方が好きよ」(^^) セリオ:「……え?」 綾香 :「昔のセリオよりも……今の表情豊かなセリオの方が何倍も、何十倍も好き」(^^) セリオ:「…………綾香さん」 綾香 :「今のセリオの方が……魅力的よ」(^^) セリオ:「……そう、でしょうか?」 綾香 :「うん」(^^) セリオ:「…………綾香さん……ありがとうございます」(;;)カンルイ 綾香 :「もっとも……『素直』という点では、昔よりも格段に劣ると思うけどねぇ。      ね? セ〜リオちゃん♪」(^〜^) セリオ:「知りません!!      どうして、わざわざオチを付けますか!?」(ーーメ 綾香 :「だって……ほら……それがお約束というもんだし」(^ ^; セリオ:「そんなお約束、いらないですぅ〜」(;;)



戻る