連載小説 私立了承学園
第参百六話 四日目 放課後 その2(Heart to Heartサイド)

 急展開っ!!
 エリアの恋の物語はいかに?!

 それにしても、了承のHtHの主役って、何気にエリアな感じだよなぁ。

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「はふぅ……誠さん……」

 深夜――

 魔道研究会での一件を終え、学園寮の自室に戻ったエリアは、
今日も今日とて、『誠さん抱き枕』を抱きしめながら誠へ想いを馳せていた。

 ちなみに、この抱き枕、『まーくんの館』というホームページに
掲載されていた作り方を参照して作られていたりする。

「……誠さんもお誘いすれば良かったですね」
 と、誠さん抱き枕の顔を見つめ、呟くエリア。

 夜空に輝く満天の星空。
 そして、眼下を優しい光で照らす美しい満月。

 もし、あの時、誠がいたら……、

 皆の輪から誠を連れ出して、屋上で二人きり。
 二人並んで腰を下ろし、星空を見上げる。
 そっと誠の肩に頭をあずけるエリア。
 少し寒そうに肩を震わせるエリアの肩を誠が優しく抱く。

 いつしか二人は見詰め合い……、
 そして、二人の唇が……、

「な〜んちゃって♪ な〜んちゃって♪ うふふふふふ……」
 幸せな妄想に浸り、抱き枕を抱きしめたまま、ベッドの上をゴロゴロと転がるエリア。

 と、そんなエリアの元に……、

 コンコン――

 客が来た。

「はーい……?」
 突然、ドアがノックされ、はにゃ〜んモードから通常モードに戻ったエリアは、
こんな夜遅くの来客に首を傾げながらドアへと向かう。
 そして、ドアを開け、来客を出迎えた瞬間、目を見開いた。
「ま、誠さんっ!?」
 そう……ドアを開け、その目の前にいたのは、想い人である誠だったのだ。
「ま、誠さん……ど、どうしたんですか、こんな時間に?」
 思わぬ誠の訪問に、動揺するエリア。
 それを必死に抑えつつ、エリアは誠に訊ねる。
「ああ、実はさ……」
 訊ねるエリアに、ちょっと言い難そうに頬を掻く誠。
 そして、次に誠が言った言葉は、今まで以上にエリアを驚愕させる内容であった。










「今夜……ここに泊めてくれ」










 さて、時は少し遡る。

 誠、さくら、あかね、そして今夜からはフランソワーズも加わった夕食後――

 いつものように愛情一杯のご馳走、さらには月見団子もお腹一杯食べた誠は、
自室で今日のノルマ分の勉学に勤しんでいた。

 昼間の学園での授業が『ああいうの』なので、
誠達のような学生の本分である学業は疎かになりがちである。
 さくらとあかねは元々成績優秀なのでそれでも問題は無いのだが、
誠はそういうわけにはいかない。
 だから、こうして夜、一応真面目に勉強をしているのだ。
 了承学園にいる以上、暗記記号術的な勉強は必要ないのかもしれないが、
そんなに甘くは無いのが世の中というもの。
 いつかは、この了承学園を卒業する時が来る。
 そして、社会に出る時が来る。
 そういう時の為に、勉強をしておくに越したことは無いのだ。

 と、いうわけで、二時間ほど集中して勉強し、
そろそろ寝ようかと、軽く伸びをした、その時……、

 シュッ!!

 カッ!!

 開けてあった窓から飛来した『何か』が閃き、誠の鼻先をかすめ、
乾いた音をたてて壁に刺さった。
「な、何だ?」
 慌てて飛来した『何か』に目を向ける誠。

 壁に刺さった『何か』……、
 それは一枚のカードであった。

「おいおい……キャッ○カードかよ」
 それを見て、ちょっと疲れた表情になる誠。
 だが、それに書かれた内容を見た瞬間、誠の表情は一変した。


『予告状。今夜、エリアの血を頂きに参上します。吸血鬼ルミラ・デュラル』


 それを見た誠は、カードをポケットにしまうと、部屋を出たのだった。










「……と、いうわけなんだ」
 エリアの部屋に来た理由を話し終えた誠は、そう締め括って、エリアの淹れたコーヒーを啜った。
「なるほど。そういうことだったんですね」
 誠の話を聞き、納得するエリア。

 今日、誠はルミラからエリアを守ると誓ったばかりだ。
 その矢先に、誠に届けられたこの予告状。
 ようするに、今夜の訪問はルミラの襲撃があるという事で、エリアの護衛に来たのだ。
 突然、泊めて欲しいと言ってきた誠に、『色々と』想像してしまったエリアにとって、
その誠の説明は、安心半分、残念半分といったところである。

「……まあ、単純に戦闘能力で言えば、俺なんかよりもエリアの方がよっぽど強いんだけどな。
だから、多分、足手まといにしかならないかもしれねぇけど……」
「そんなことないです! 誠さんの気持ちだけでも……私……」
 と、そこまてせ言って、エリアは恥ずかしさに俯いてしまう。
 それでも、何とか消え入りそうな声で続きを言う事が出来た。
「……う、嬉しい……です」(ポッ☆)
「そっか。そう言って貰えると俺も嬉しいよ。
でさ、一応、役に立ちそうな道具はひと通り持ってきたんだ」
 と、誠は持ってきたバッグから、対ルミラ用決戦兵器(?)を取り出す。

 超音波の虫除け。
 蚊よけの風鈴。
 蚊取り線香。

 全て、過去にルミラを撃退した実績のあるアイテムだ。
 昼間の内に、誠が集めておいたのである。

「ま、これだけあれば、何とかなるだろ?」
「そうですね」
 それらの道具の準備をしながら、微笑み合う誠とエリア。
 と、その時……、
「……ん?」
 誠は『ある物』の存在に気がついた。
「どうしました…………っ!?」
 誠の視線がベッドの上にある物にそそがれているのを知り、
エリアの表情に緊張が走る。

 そこにあるのは……『誠さん抱き枕』。
 どうやら、誠を部屋に入れる際に、しまい忘れてしまったようだ。

「あ、あの……誠さん……そ、それは……」
 顔を真っ赤にして、何とか誤魔化そうとするエリア。

 だが、そこは超絶同感男の誠。

「へえ〜……抱き枕かぁ……これ、エリアが作ったのか?」
「は、はい……」
「何かのキャラクターか?」
「…………」

 と、その抱き枕のモデルが自分だとは、全然気付かない。
 エリアの心境としては、またしても安心半分、残念半分といったところか。

「それにしても、エリアって料理だけじゃなく裁縫も上手なんだな」
 と、誠はベッドに腰掛ける。
「そ、そうですか? ありがとうございます」
「うん。まさに理想のお嫁さんって感じだな」
「……あ」(ポポポッ☆)
 誠の何気ない一言に、再び顔を赤くする
「…………?」
 そんなエリアの様子に首を傾げる誠。
 だが、何を思ったのか、急に真剣な表情になった。
「……エリア」
「は、はい」
「ちょっと、ここ座れ」
 と、ぱむぱむと自分の隣りを叩く誠。
「え? ど、どうしてです?」
「いいから」
「……はい」
 珍しく真剣な面持ちの誠に、エリアはおずおずと誠の隣りに腰掛ける。
 エリアの体は、緊張に震えていた。
 なにせ、誠と一緒に、並んでベッドに腰掛けているのである。

 もし、このまま押し倒されたら……、
 おそらく、拒めない。

 そう考えると、期待と不安に、エリアの胸は張り裂けそうになる。


『ま、一度処女捨てるつもりで迫ってみたら? まあ、ホントにやっちゃうかどうかはともかく、
それくらいの覚悟でないと気付いてももらえないわよ? あのニブチンには』



 脳裏に蘇るメイフィアの言葉。
 それが、エリアを決断させた。

 そして、誠が動いた。

「エリア、じっとしてろよ」
 そう言って、エリアの肩を掴む誠。
 ビクッとエリアの体が震える。
 それに構わず、誠はゆっくりとエリアに顔を近付ける。
「…………んっ」
 間近に迫った誠の顔。
 エリアは覚悟を決め、キュッと瞳を閉じる。

(……誠さん……優しく、お願いします)

 誠の吐息が頬をくすぐる。
 もう、誠の唇は目と鼻の先なのが、気配でわかる。

 そして……、





 ――ぴとっ





「……はい?」
 額に何かが当たる感覚に、エリアは目を開ける。
「……別に熱は無いよな?」
 見れば、誠はエリアの額に自分の額を押し当てていた。
 どうやら、熱を測っているようだが……、
「エリア、お前さっきから変だぞ。顔が赤いし、情緒不安定だし」
 と、まるで何事も無かったかのように言う誠。
 しかし、エリアは平静ではいられない。
 未だ誠の顔は間近にあるのだ。
 こんな状況で、そう簡単に興奮がおさまるわけがない。

 そして、ついにエリアは行動に出た。

「ま、誠さんっ!」
 誠に抱きつこうと、両腕を広げ跳びつくエリア。
 しかし、ちょっうど良い(?)タイミングで……、

 コンコン……

「ん? 誰だ?」

 スカッ!

 ドアがノックされたので、誠は立ち上がる。
 そして、ドアを開けた。
「あーっ! やっぱりここにいたっ!」
「フランさんの言った通りでしたね」
「……お邪魔します」
 そこにいたのは、さくら、あかね、フランソワーズの三人だった。
「何だ、お前らか。おい、エリア、さくら達が……って、何やってんだ?」
 と、後ろを振り向き、床にうつ伏せに倒れているエリアを見て、誠は不思議そうに首を傾げる。
「な、何でもありませんっ!」
 慌てて起き上がり、不機嫌そうにそっぽを向くエリアに、四人は顔を見合わせるのであった。










「……で、お前ら、何しに来たんだ?」
 とりあえず、全員分のお茶とお菓子が用意され、落ち着いたところで誠がさくら達に訊ねる。
「それはわたし達のセリフです。まーくんこそ、こんな時間に、エリアさんのお部屋で何してたんですか?」
 と、半目で訊ね返すさくら。
 その目が、返答次第ではタダじゃおかない、と物語っている。
 あかねも同様だ。
 フランソワーズは……取り敢えず傍観している。
「べ、別にやましいことはしてないぞ。理由はこれだよ」
 と、さくらとあかねの迫力に圧されつつも、誠はポケットから例の予告状を取り出し、さくら達に見せる。
 それを見て、さくら達はだいたいのところは理解したようだ。
 でも、まだ納得はしていない。
「……理由は分かりました。でも、だったら、どうしてわたし達にも声をかけてくれなかったんですか?」
「そうだよ。エリアさんは、あたし達の担任で、それ以上に大切なお友達なんだよ。
あたし達だって、エリアさんを守りたいよ」
 二人の言葉に、誠は申し訳なさそうに頭を掻く。
「いや、もう寝てるだろうから、起こしちゃ悪いと思ってさ。
悪かったよ。次からは、ちゃんとお前達にも協力してもらう」
 さくらとあかねにそう言ってから、誠はフランソワーズに目を向けた。
「フラン……お前は、どうする? 嫌なら嫌でそれでもいい。誰もお前に文句は言わないぞ」
 フランソワーズの元々の主はルミラである。
 そのルミラと対峙する事は、ランソワーズにとってはつらい事だろう。
 それを思っての、誠の気遣いであった。
「ワタシは、長年、ルミラ様にお仕えしてきました。
ですから、吸血鬼であるルミラ様が生き血を求めてしまうのは充分に理解しています」
 ひと言ひと言、選ぶように慎重に言葉を紡ぐフランソワーズ。
 そんな彼女を、誠はただジッと見つめる。
「ですが、もしも、ルミラ様が危険な行為に走るようでしたら、
ワタシは全力を以って皆様をお守りいたします」
 と、真っ直ぐに誠を見つめるフランソワーズ。
 その瞳に、迷いは無い。
「分かった……ありがとな、フラン。頼りにしてるぜ」

 なでなでなでなで……

「……あ」(ポッ☆)
 誠に頭を撫でられ、恥ずかしそうに俯くフランソワーズ。
 そんな二人の様子を、さくらもあねもエリアも、微笑ましく見ている。
「じゃあ、今夜は全員でエリアの部屋にお泊りってことになったけど、それでいいか、エリア?」
「はい。もちろんです。皆さん、ありがとうございます」
 誠と二人きりではなくなったのが少し残念ではあるが、
皆が自分の為に集まってくれたというのは、とても嬉しい。
 だから、エリアは心から笑って頷くことができた。
「でも、ただ襲撃を待っているだけというのもヒマですね」
「だったら、みんなでトランプでもして遊ぼっ♪」
「そうだな……そうするか」

 と、いうわけで、皆の意見は一致し、トランプに興じ始める五人。
 しかし、ルミラの襲撃はいつまで経ってもやってこない。





 そして、いつしか、皆は遊び疲れて眠ってしまったのだった。










 一方、その頃のデュラル宅――

「あの、ルミラ様……」
「なーに? アレイ」
「先程、誠様のお部屋に予告状を投げ込んでらしたんですよね?」
「そーよ」
「いつ、行かれるのですか?」
「行かないわよ」
「はい?」
「わたしはね、もう誠君とエリアの血は狙わないって決めたのよ」
「でしたら、何故、予告状を?」
「あんな物を見ちゃったら、誠君が黙っているわけないでしょう?」
「……なるほど、そういう事ですか」
「そういう事よ……というわけで、わたしはそろそろ寝るわ。おやすみ、アレイ」
「はい。おやすみなさいませ、ルミラ様」















 そして、明け方――

 朝の冷え込みに体を震わせ、エリアは目を覚ます。

「っ!!」

 そして、驚きのあまり目を見開いた。

 何故なら、自分と誠が向かい合うようにして眠っていて、
目の前に誠の寝顔があったのだ。

「…………」
 高鳴る動悸に、胸を押さえるエリア。
 だが、鼓動は激しくなる一方だ。

 そして、まるで吸い込まれるように、半ば無意識に、エリアは誠に体を寄せていく。

 今、誠は眠っている。
 だから、エリアはいつもより大胆になることが出来た。

「……あったかい」
 誠の胸に顔を埋め、心地良いぬくもりに身を委ねるエリア。
 そのあたたかさと、甘さに、今にも溶けてしまいそうだ。

 と、その時……、

 ――ギュッ!

「えっ?!」
 突然、誠がエリアを抱きしめた。
 あまりに唐突な事に、エリアは身を堅くする。
「ま、誠……さん?」
 もしかして、目を覚ましているのかと、恐る恐る誠を見上げる。
 だが……、
「ぐー」
 思いっ切り爆睡していた。
 どうやら、寝惚けているようだ。
 しかし、これはエリアにとっては嬉しいアクシデントである。
 寝ているとはいえ、愛する人に抱きしめられているのだから。
「誠さん……」
 誠の腕の中、幸せに浸るエリア。
 ふと、誠の寝言が耳に入る。
「……エリア……俺が、守るから……」
 そして、一層、力強く抱きしめられる。
「あ、んん……」
 嬉しさのあまり、エリアの体が痺れた。
 いや、体だけではない。心も痺れた。

 体が熱くなる。
 胸が切なくなる

 誠が愛しくてたまらなくなる。





 今まで秘めてきた想いが、弾ける
 もう……止められない。





「誠さんっ! 誠さんっ!」
 エリアが誠を抱きしめる。
 強く、強く……、

 そして、誠の服が涙で濡れるのも構わず、声を殺して泣く。
 泣きながら、エリアは……、





「誠さん……好きです……大好きです」





 想いを、誠に伝えた。

 誠は眠っている。
 だから、エリアの言葉は、想いは……、

 ……伝わらない。
 ……届かない。

 まるで、象徴のようだった。
 自分の恋の行方を暗示しているようにも思えた。

 それでも、エリアは想いを伝え続ける。

 いつか、いつか必ず、この想いが伝わることを信じて、エリアは想いを伝え続ける。





「……好きです……好きです……好きです……」





 ……そう。
 何度も、何度も……、




















 エリアは知らない。
 気付いていない。

「…………」
「…………」

 自分に背を向けるようにして眠るさくらとあかねの瞳が、
しっかりと開いていたことに……、





<おわり>
_______________________________

<あとがき>

 ああっ! 急展開っ!
 ついに、ついに、ついに、エリアの気持ちがあの二人にバレました!

 果たして、エリアの想いは誠に伝わるのか?
 誠はエリアの想いをどう受けとめるのか?
 さくらとあかねは、どんな答えを出すのか?

 そして、どうするSTEVENっ!
 今後の展開は何も考えてないぞっ!!(笑)

 …………ゴメンナサイ<(_)>

 少なくとも、HtH本編と同じような展開にはしたくないですねぇ。
 あっちでは、誠もエリアを好きになってたから、結構トントン拍子で事は進みましたけど、
こっちでは、そういうわけにはいきませんからねぇ。

 さあ、マジでどうしよう?

 でわでわー。



 ☆ コメント ☆ 綾香 :「あ〜らら」(^ ^; セリオ:「ばれちゃいましたねぇ」(;^_^A 綾香 :「これから、どうなっちゃうのかしら?」 セリオ:「今後の展開がすっごく楽しみですね」(^0^) 綾香 :「うん」(^^) セリオ:「それにしても……ルミラさん、今回の話で随分と株を上げたんじゃないですか?」 綾香 :「そうね」 セリオ:「それでも、扱いは『蚊』なんでしょうけど」(;^_^A 綾香 :「それは仕方ないわよ。そういう運命だもん」(^ ^; セリオ:「……ですね。そういう運命ですもんね」(;^_^A 綾香 :「そうそう」(^ ^;  ・  ・  ・  ・  ・ ルミラ:「そ、そんな運命はイヤー!!」(;;) メイフィア:「……ルミラ様……哀れ」(−−;



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