了承学園4日目 昼休み(まじかる☆アンティークサイド)  パン!パン!パンッ!  自分の頬を叩いて気合を入れると、結花は店――喫茶店「Honey Bee」の店内中央 に仁王立ちした。拳をギュッと握り締める。 「ウオリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」 「う、…うおりゃあああああああぁ…」  凄まじい気合をかける結花の後ろで、いかにも気弱げにリアンがか細い声を上げ る。 「ランチタイムは稼ぎ時ッ!そして!最も人の込み合う修羅場ッ!だぁが!あたしは 負けん!退かん!お客様にはニッコリ笑顔!満足のいく料理!時間をかけない手際よ さ!そしていつもニコニコ現金払い!食い逃げ野郎は即・死なす!」 「あ、あの、殺すのはだめですよ結花さん…」 「あたしがこの店の法だああああああああっ!!神だっ!!仏だっ!!支配者だああ あああっ!!文句があるならかかってこんかああああああいいっ!!…さあっ!今日 も行くわよリアンっ!」 「ううっ、聞いてないし」  えぐえぐ泣きながらも厨房に入る結花を見送って、接客に入るリアンだった。  健気な娘である。  カラン… 「あ、いらっしゃい…ま、せ…」 「うむ」  咄嗟に向けたリアンの微笑が途中で硬化するような凄味と迫力を周囲に惜しげもな く発散しながら、胸に七つの傷を持つバンカラ男(死語)、立山雄蔵はやや身を屈め ながら店内に入ってきた。ドアの敷居で頭をぶつけないための配慮である。 「へー、なかなかいい感じの店じゃん」  その後ろからサラが続く。一緒に昼食とは見かけによらずなかなかのらぶらぶカッ プルぶりといえようか。傍目からは、盗賊の首領と番長のバイオレンスタッグにしか 見えないが。 「ご、ご注文は?」  リアンも正規のウエイトレスである。やや緊張を残しながらも、真面目に職務を果 たそうとする。窮屈そうにテーブルについた雄蔵は、案外優しい目でリアンを見て。 「…味噌サバ定食、ご飯大盛りでな」  ずるっ! 「あ、あたしは牛丼大盛り卵と味噌汁お新香付〜」  ずるべちっ!! 「…なにをやっとる、おい」  顔面から床にこけて、しくしく泣くリアンを怪訝そうに雄蔵は見つめた。 「あ、あの…そういうメニューはウチには置いてないんですけど・・・」 「なにいっ!」「ええっ!?」  リアンの言葉に、何故か衝撃を受ける雄蔵とサラである。 「…むう…味噌サバといえば熱い漢の定番料理であろうに…今時の飯屋は軟弱になっ たものだな…」 「そうなのか?…しかし牛丼も置いてないなんて、案外見掛け倒しな店だな」 「ウチは喫茶店ですぅ…確かに食事もできますけどぉ…」  序盤から既にくじけそうなリアンだった。 「まあ、無いものは仕方あるまい。…む、戦う漢の定番料理・カツカレーはあるでは ないか。それでいい。無論、大盛りでな」 「へぇ。じゃあ、アタシも同じでいいや。大盛りで」 「は、はい…」  オーダーを確認すると、リアンは即座にそれを厨房の結花に伝える。と、その間に ドアの鐘が鳴り、新たな来客を知らせてきた。 「はいっ、いらっしゃ…」 「はっはっはっ。…いやまあ、別に意味は無いんですけどね、この笑いには」  触手をうねらせながらお気楽そうな仕草を見せる緑色の地球外生命体は、目の前の リアンに話し掛けた。 「えーと。全部で6名なんですけど、席ありますか?」 「うぐぅ〜、ボクお腹ぺっこぺこだよぉ」 「わたしもぺこぺこだよー」 「あう〜、お腹空いたの…」 「……ぽんぽこたぬきさん」 「あははー、今日は何をたべましょうか?…あれ?リアンさん?リアンさーん?」  立ったまま気絶しているリアンを、佐祐理は揺すぶった。幸いそれだけでリアンは すぐに意識を取り戻したが。 「どうしたのリアンちゃん?貧血?」 「…あ、名雪さん…え、えっと、皆さん御食事ですか?」  よくよく見れば、謎の緑色の物体の影に隠れるように相原家の名雪、あゆ、真琴、 舞、佐祐理がいた。 「そーなのー。今日はガチャピン先生のおごりー」 「あうー、早く案内してよー」 「…ごはん」 「あー。とにかくリアンさん?そういうわけですので席に案内していただけませんか ?」 「ひいいいいいいいいいい!」  梅○かずおのマンガに出てきそうな悲鳴を上げるリアンを心配して、ガチャピンは 更に彼女に近づいた。 「あう、あう、あう〜〜〜〜〜〜!」 「おうガチャピン。ここの隣空いてるぞー。テーブル大きいし、ここに座ったらー ?」 「おや、サラ先生に立山先生。…御二人も御食事ですか?」 「あう〜、どこでもいいから早く座ろうよー!」 「…いこ…佐祐理」 「そーだね。名雪ちゃんとあゆちゃんもとりあえず座ろうか」  おしゃべりをしながら席につく一同を見ながら、どうにか落ち着いてきた心臓を抑 え、リアンは注文を取りに行った。 「す、すいませんでした。…それじゃあ皆さんご注文は?」  それに真っ先に反応してきたのは奇怪な生物だった。おもわず仰け反るリアンだっ たが。 「あ、じゃあ私、トマトサラダとこのシーフードパスタって奴。それと、ミネラル ウォーターをお願いしますね。…皆さんも、好きなものを注文して下さい。今日はこ の前のお詫びですから」 地球の常識知らずにしてはまともなオーダーを出すと、ガチャピンは相沢家(一 部)の面々を促した。どうも、今日は以前の消化器系授業のお詫びらしい。 そして、舞がメニューから顔を上げた。 「…牛丼」  がくっ。  その一言に、思わず項垂れてしまうリアンである。二度目だったので耐性はできて いたが。 「あははー。喫茶店に牛丼はありませんよー。…じゃあ、小倉ピザにしましょうか。 なんだか面白そう」 「…それでいい」  ちなみにこれは小倉餡を乗せたピザである。(実在します) 「じゃあ、わたしはイチゴサンデー」 「はいはい」  ようやくまともな注文に、思わず涙ぐんでしまいそうになるリアンだった。 「タイヤキ〜」「肉まんー」 「しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく」 「あゆちゃん真琴ちゃん、だからそれは喫茶店にはないよ…」  また泣いてしまったリアンをいーこいーこと慰めながら、困っているような口調で 名雪が言う。ちなみにリアンの方が名雪より2歳年上のはずなのだが。  …結局、真琴がいつまでも拗ねていたがジャンボミックスパフェとこの店の十八 番、特製ハチミツ付ホットケーキに二人の注文は落ち着いた。 「リアーン、カツカレー二人前上がったから運んでー!」 「あ、はいわかりました!」  くじけそうだがくじけるヒマも無く、リアンは結花からカレーを受け取ると雄蔵と サラの前に並べる。 「お待たせしました、どうぞ」 「うむ」  おもむろに頷くと雄蔵はスプーンでカレーをすくい、豪快に口に放り込んだ。泰然 として咀嚼し、グイッと飲み込む。 「………………」 「…あ、あの…なにか?」 「どうしたんだよ、雄蔵?」  何故か沈黙してしまった雄蔵に、サラがやや不安げに声をかけた時である。 「…うまいぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」  カッ――!!  まるで○皇のようなセリフと共に、正しく味○ばりの謎の光線を雄蔵は口から発射 した!咄嗟に避けたサラの頭を掠めて、背後に座っていたガチャピンの後頭部(?) に光線は直撃する。 「あち、あち、あち」 「先生―、焦げてる焦げてるー」  その後ろの混乱をよそに、雄蔵は轟然と吼えた。 「ぶらぼーーーーーーーーーっ!!おお、ぶらぼーーーーーーーーー!!」 「…って味○からブラボーおじさんになってるし」  その佐祐理の呟きは、雄蔵の野太い叫び声にかき消されて誰にも聞こえなかったの だが。 「うまい!うまいが…このカレーはかれーーーーーーーーーーーーー!!」 「雄蔵、ナイス!オヤジギャグ!!」 「「「「「「「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい !」」」」」」」  その場にいた全員が、下らなさに脱力しながらも一斉につっこんだ。  ***************** 「なんじゃらほい」 「雄蔵、またなんか難しいこと言ってる…」 …その後、落ち着いた雄蔵は普段どおり黙々とカレーをたいらげ、サラもそれに 習った。名雪たちの注文も届き、店内にはようやく和やかな雰囲気が流れ始めてい た。 「はぁ…」 「御疲れ、リアン。もう少ししたらあたしたちもお昼にしよっか」  香りつけにレモンの果汁をいれた冷水のコップを手渡され、リアンは一礼すると一 息でそれを飲み干した。喉が渇いて、結花にありがとうの一言も言えなかったのだ。 「…あ、またお客かな。リアン、もうちょっとの辛抱よ!」 「はい、私がんばります結花さん」  ガラス戸の向こうに人影が立ったのを見て、結花は厨房に引き返し、リアンは出迎 えに向かった。 「いらっしゃいませ、何人様ですか?」 「…三人だ」  ぎくううううううううっ!!  思わずリアンは青ざめた。今度の客は阿部貴之とHM−12・マイン、そして柳川裕 也であった。  他の二人はともかく、最後の1人はほとんど暴○団関係者のようなものである。と いうより、下手なヤクザより遥かにタチが悪い。 (ああっ、こういう時に限ってお皿の中に気づかないうちに虫とか入ってて、それに 因縁つけられて店の中で大乱闘して店を完膚なきまで破壊された上犯されて回され ちゃうんだわもうグルグルと!)  リアンも一応亭主持ちである。当然、昔と違って色々その手の知識もそれなりには ある。ちょっと歪んでいるような気もするが。 「あ、マインちゃんこんにちはー。こっちの席空いてるからおいでよー」 「コンニチハ、アユ様。…ソレデハ、失礼サセテイタダキマス」 リアンが案内するまでもなく、案外あっさり柳川達は席についた。 「貴之、何を食う?」 「そうだね。柳川さんは?」 「俺は…午前中にちょっとメシも食ったし軽くでいい。…そうだな、このキムチ雑炊 にでもするか」 「柳川さん結構ベジタリアンだからね。…じゃあ俺は普通の田舎雑炊でいいや。マイ ンは…まあ、帰ったら充電しようか」 「…アノ、モシモシ?」  テーブルの傍らで、妙に白くなっているリアンに、不審そうにマインは声をかけ た。見回せば店内の人間全てが、同じような顔になっている。  柳川が、言った。 「…どーしたんだ、お前ら?」  だんっ!とサラが立ち上がって喚いた。 「ちょっとまたんかエルクゥ!お前、狩猟種族が菜食主義者ってそんな矛盾が許され ていいと思っとんのかコラーーーーー!?」 「いや…別にそんな御大層な主義じゃなくて、単なる好みというか偏食なんだが」 「そ、そんな、柳川先生といったらお腹へったら生肉を手づかみで食べるような野生 な人だと思ってたのに!」 「へっへっへ、ぱーくぱーくとかいってー」 「ひどいよー。柳川先生、乙女の純情をうらぎったー」 「…お前ら…そのセリフ、三年は忘れんからな」  額にピクピクと青筋を浮べながら、柳川は佐祐理と名雪とあゆをジト目で睨んだ。 側に貴之がいなければ、遠慮なく暴走していただろうが。 「しかし…大変そうだねあの子」  やや落ち着いた後、店内を忙しく立ち回るリアンの姿に、冷水を飲みながら貴之は 少し眉をよせた。あれから新たな客が入ったわけではないが、とにかくよく食う客ば かりである。気がつけば雄蔵とサラは大盛りカツカレー6杯目に入っているし、イチ ゴサンデーとパフェとホットケーキの皿も、スフィーばりの食欲でたいらげられてい る。そのためリアンはひっきりなしに厨房とテーブルを往復していた。その間にも水 のお代りや空き皿の取り下げ等、休む暇もない。もっとも、昨日のように誠がいない だけ、まだマシなのではあるが。 「リアーン、雑炊二人前あがったよー!」 「は、はーい…!」  そう言いながらも、即座に動けないリアンを見て、マインが控え目に二人に言っ た。 「…私ガ受ケ取ッテキマショウカ?」 「そうだね。どうせ俺たちの分だし。行っといで、マイン」  頷いてマインが席を立った後、憮然としている柳川に貴之は苦笑した。 「リアンの仕事なんだから、リアンにやらせなきゃいけない。そう思ってるんでしょ ?…でもさ、マインみたいなロボットは目の前で困ってる人がいたら手伝わな きゃ、って思っちゃうよ。…いいじゃない、それで」 「いや、あのな貴之。問題はそういうことじゃなくて、俺が心配しているのは…」 がた――――――――――ん!!! 「いや―――――――――っ!かわいいいいいいいいいいいいいいっ!!かわいいい わああああああああああああっ!!メイドなマルチちゃん――――――――!!」 「ハ、ハワワワワワ――――――――!?ワ、私ハマルチ御姉様デハアリマセン ―――――!」 「ああっ!ちょっと無表情なとこなんかもそれはそれでいかわいいの―――!!」 …………。 …………。 「…つまり、まあこういった事になるんじゃないかと…」 「だ、大丈夫かな、マイン…」 やがて、何故かメイド服の襟元を乱し、おぼつかない足取りのマインが、それでも 注文の雑炊をトレイに載せて持ってきた。 「ご、ご苦労さま、マイン。…大丈夫?」 「ダ、大丈夫…ダト、イイデスネ…アノ、私、何故カモウ少シ、オ手伝イスルコトニ ナッテシマイマシタノデ…」 「そ、そうか。…がんばれよ?」 厨房で何があったのか、詳しく尋ねていいものやら判断がつかず、柳川はあいまい に頷いた。襟のリボンを結びなおしながらリアンの手伝いに向かうマインを二人は困 惑しつつ見送ってしまう。 実は「ロボット」として求められる使い勝手という点では、マルチより量産型の方 が優れている。マインはそつなく仕事をこなし、無難にリアンのサポートを勤めた。 やがて柳川達の食事が終わりかけた頃。 ガコン!… 「はい、いらっしゃいませ…?」 何かがドアにぶつかった音に反射的に応じてから、リアンは出入り口に誰もいない ことに気づいた。 「あ、あれ?」 「む。どうしたかな、まいシスター」 ドアの隙間から侵入し、二次元から三次元に実体化しながら、鷹揚に大志は目が点 になっているリアンに声をかけた。 「すごい!すごいです師匠!その技は一体…」 「ふはははは、これはちょっとコツがいるからな。素人はマネしないほうがいいぞ、 同志・住井」 「…コツでどうにかなるものなのかね…?」 少しだけ呆れたように呟きながら、ちゃんとドアを開けて住井とガディムが入って くる。 「昔からいうでしょう、ガディム殿」 ちっちっちっ、と指を振って大志は二人に言った。 「屁のツッパリはいらんですよ、と!」 「おおっ!?意味はよくわかりませんがとにかくすごい自信だ!!」 「…言わないし聞かないししかも意味がないと思うぞ、大志よ」 どことなく頭のいたそうな表情で、ガディムは苦く呟いた。 「まあ、人間の食事というものも食って食えないことはないが、やはり私としては精 気か魂の方がいいのだがな…」 「まあまあ、そういわずに。…うむ、なかなか良い店であるな。我が野望のための橋 頭堡として申し分なし!」 「あの…ご注文は…?」 先程から無視されたままのリアンが、ひくひくと引き攣った営業スマイルを浮かべ ながら問い掛けるが、大志は気にもとめなかった。 「うむ!この店をマンガ喫茶に改装し潜在オタク候補者の啓発に努め!更に同人作家 の溜まり場として情報交換から同人誌の巻末座談会の場として活用し!以って一般市 民を草の根レベルでオタク文化に接する場を設けることによって徐々に愚民どもに ピーチとあさひちゃんとぷに萌えメイドさんとメガネっ娘の良さを布教する!この店 を皮切りに商業地区を傘下に収め、経済面から我らの世界侵略に対する体制を整える !うむ!我ながらなんとグレイツな計画であろうか!素晴らしい!素晴らしいぞ我輩 !なんかもー大安吉日一白水星という感じだな!」 「勝手に人の店をそんな事に使わないでくださいっ!」 思わず悲鳴じみた抗議をあげるリアンだったが、そんなことを気にする大志ではな い。それどころか。 「おお、まいシスター!うむ、メガネっ娘はやはり良い!何といっても19歳という年 齢の割にロリな肢体と清純さがメガネっ娘の押さえるポイント!リアン殿さえいれば 我が野望はもはや成ったも同然!」 「勝手に人をワケわかんない計画に巻き込まないでくださいっ!」 「…アノ、オ客様、他ノオ客様ノ迷惑ニナリマスノデ店内デハオ静カニ…」 「むおっ、メイドさんも標準装備とはこれはますます都合良し!少々ぷにさが足りん がまあ良かろう!やはりちょっぴりドジで健気なメイドは基本だからな!」 「何ガ基本ナンデスカーーーー!?」 「むう…同志住井よ見えるか?あれが我らの約束の地、黄金のオタク千年王国のまば ゆい光だ!なんと神々しい…!」 「俺には見えないし一歩間違えるとアブない人みたいな台詞ですけど流石は師匠!俺 は一生師匠についていきますよ!」 「…バカが加速するのもいい加減にしろお前らーーーーーーーーーーーーー!!」 ブンッ!! 「はぐああああああああああっ!!?」 突如飛来したテーブルを、人間の関節の構造では絶対不可能な体位で大志は避け た。結果としてテーブルは後ろにいた住井に直撃し、彼を撃沈した。 「むう…いきなり何をするのか同志柳川!」 「…何をするのか、だと?」 左手をポケットに入れたまま柳川は大志を睨み付け。 「…そういえば、あんまり意味なかったかもしれんな」 「あの…柳川先生…」 後ろで、ガチャピンが何かを必死に耐えるような声でうめいた。 「とりあえず、俺達はもう帰るからいつまでも出入り口に陣取ってられると迷惑なん だが」 「あ、お会計ですか?」 「…チッ…覚えていやがったか…」 ちゃっかりレジの前に移動するリアンに、思わず舌打ちしながら呟く柳川である。 何故か冷や汗を流しながら、貴之が複雑な笑みを見せた。 「柳川さん、あわよくば無銭飲食狙って…」 「まあそれはともかく!飯も食ったしそろそろ帰るかマイン!」 「誤魔化してる誤魔化してる」「大人って汚いよ…」「…キライ」 外野の声は無視して会計を済ませると、柳川たちはさっさと店から出ようとした。 と、その前に大志とガディムが立ちはだかる。 「ふっ…柳川殿。我らを裏切るというのであれば仕方ない。裏切り者には死を!それ が組織の鉄則だ」 「別に裏切ってないしそもそも何を裏切ったのか見当もつかないし大体組織ってなん だ!?」 「残念だ…吾輩は貴兄なら実践超ハードコアやおい同人作家として全国1000万のやお い少女達に夢と希望を与えてやれる希有な人材だと期待していたのだが、同志和樹と 同じくメイドに嵌ってしまったのが運のツキというべきか…」 「何だかよくわからんが要するにケンカ売ってるのかお前?」 「しかしちょっぴりロリで貧乳がお好みで妹属性とは…意外にムッツリだったのだな 柳川殿」 「お前、今の台詞で殺戮決定」 「だか仕方ない!それが宿命であるというのなら、我らは戦わねばなるまい!さあ、 行くがいいガディム殿!今日、この時、この一瞬のためにあなたはこれまで生きてき たのだ!それがそなたの運命!」 「そんな運命嫌だな…」 そういいながらも、一応ガディムはのっそりと前に出てきた。あまり乗気ではなさ そうだったが。 「柳川さん、ケンカはまずいですよ。こんなところで鬼になっちゃったら…」 「案ずるな、貴之。そういつもいつも暴走して暴れるしか能がないと思ってるのか? ここは一味違う大人の対処法というやつを見せてやろう」 その不遜な態度に、流石におもしろくなさそうにガディムは鼻を鳴らした。 「…別に大志の口車に乗るつもりはないが…変身もせずにこの魔王と戦えるとでも 思っているのか柳川先生?」 ふっ、と鼻で笑うと柳川は無造作に懐に手を突っ込み… パンッ! 乾いた、大きいが意外に重みの無い音が店内に響き渡った。 「どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」 「ちっ、外れたか」 「おっ、お前なああああああっ!外れたかって…なんだそれは!?」 自分の頭のすぐ横の壁にできた弾痕を横目で見ながら、ガディムは柳川が手にした まだ硝煙の立ち上る拳銃を指差した。 「ただのニューナンブだが」 「こっ、この男は…なんで警視庁はこんな男に銃を持たせるんだっ!?」 「さ、さすが同志柳川…外道な上に卑怯な男よ…」 「やはり力任せにぶん殴って事を強引に終わらせるなんて、野蛮だよな。ここは文明 の利器を活用してスマートな話し合いで解決しようか」 「チャカで脅してるだけではないか!そんなもんただのヤクザだっ!」 「やかましい!こんな豆鉄砲の一発や二発でくたばるタマでもないくせに我侭いう なっ!」 「絶対我侭とかいう問題じゃないと思う…」 名雪とあゆが異口同音に呟いたが、やはり無視。 「ああっ、やっぱりこの人たちが絡むとこういう事になるんだわ…」 「スイマセン、アンナ御主人様デ…」 レジ台の下に隠れて頭を抱えるリアンに、同じく屈んで身を潜めているマインが申 し訳なさそうに謝罪する。 「グガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ…」 「くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく…」 魔王と鬼人が不気味な笑みを漏らしながら対峙する。ガチャピンと名雪たちは思わ ず食べる手も休めてその対決を見守った。店内に、重苦しいほどの緊張感が満ち溢れ る。そして、その水位が決壊する時… 「人の店でなにやっとるかこのヤクザーーーーーーーーーーーーー!!」 「ぐはああああああああああああっ!!!?」 後頭部を思い切り蹴飛ばされ、柳川は前方に三回転半ほど回って壁に叩き付けられ た。そのまましばらく柳川の身体は壁に張りついていたが、やがてズルズルと床に崩 れ落ちる。 ピクピクと僅かに痙攣して、結構ヤバそうだった。 「この店で暴力沙汰は許さないわよ!」 「あのー結花さん、その剃刀のようなハイキックがとても説得力ないんですけど」 「この店ではアタシが法だああああああああああっ!!」 ばきいいいいいいいいっ!! デンプシー・ロールから連続した伸びのいいガゼルパンチが顎に炸裂し、ガディム は一発でKOされた。悲鳴すら上げず床に黒い巨体が叩き付けられる。 仲良く並んで床にのびた二人と結花を大志は恐ろしそうに見比べていたが、やが て、しゅたっ!と敬礼のような仕種をすると。 「じゃっ!吾輩はちょっと用事を思い出したのでこれでっ!」 「ちょっと待ちな」 がしっ! 逃亡を図った大志はあっさり襟首を掴まれて、結花に捕獲された。 「こちら、お客様のお連れの方ですよね?」 あくまで丁寧に、にこやかに、しかしきっちり大志に念を押す結花である。 「うむ!まあ一応ひょっとしたらそうかもしれないがあるいはそうでもないかもしれ ないし、とりあえずうっちゃっておいても大した影響は無いと思われるので我輩これ にて失礼したいなぁ思う今日この頃」 「それはいいですから他のお客様の迷惑になりますので、お引き取り願いません?し てくださいますよね?なんてったってお連れ様ですし。それに店の修繕費とかももら わなきゃいけないし、何より今後この店に不埒な考えを持たないように灸を据える必 要があるんじゃないかなーってアタシは思うんですけど?断わられると、アタシとし てもコンクリートとかシャベルとか車とか、色々用意しなきゃいけない物があって大 変ですし」 「………こわい」(×11) 土気色の顔で沈黙してしまった大志を捻じり上げる結花をみながら、全員がポツリ とその言葉を呟いた。 **************** 「うーーん…」 「どうしたんですか、結花さん?」 ランチの客が帰って静けさを取り戻した店内で、リアンが作ったパスタで遅い昼食 をとりながら頭を捻る結花に、おずおずとリアンは問い掛けた。 「ああ…さっきは色々あって大変だったね」 「は、はあ…」 複雑な笑みを浮かべるリアンの様子には気づかず、フォークにクルクルとパスタを 巻きつけながら結花はふう、と息をついた。 「やっぱり、リアン以外にも人手が要るよね。健太郎やスフィーちゃんもそういつも いつも手伝ってはくれないし、アルバイトも募集はしてるけど…」 「そのうち、誰かいい人が来てくれますよ」 「うん、そう願いたいんだけど…」 「どうしたんです、結花さん?」 どうも歯切れの悪い結花に、リアンは少し不審を覚えた。 「いや、あのさ…ふっと思ったんだけどね…いっそ、メイドロボでも買っちゃおうか なーって。今日は臨時収入が入ったから、ってわけでもないけど。案外、使えるみた いだし」 「うん、わたしも結構良いと思います。メイドロボってよく知りませんけど。…でも HM−12って結構安いんじゃないんですか?」 「うーん…それでもやっぱり高級車1台分はするけど…でも…う〜ん…もし、アルバ イトがこなかったら考えてみてもいいかなーって。…リアンはどう思う?」 「うーーーん?…難しいですね」 結局、二人はそれで会話を打ち切るとそそくさと昼食を終えた。昼休みの時間がそ ろそろ終わりに近づいてきていたこともあり、そう簡単に結論が出せる話でもなかっ た。 (でも結花さん…マルチちゃんやあゆちゃんのこと気に入ってたし…借金してでも買 いそうな…) その思いは胸中だけに留めておくリアンだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 【後書き】 柳川がベジタリアンっていうのは、同人 でたまに見かけるネタですが、どうなんでしょう?まあ、ミスマッチを狙ったギャ グ、という点では普通ですし、外見だけなら結構線が細いですからそう違和感はない ですが。それは別として結構好き嫌いが多そうですな、この男は。 メイドロボのお値段ってHM−13が高級外車2、3台分として、12型は国産高 級車1台分くらいでしょうか?最低200万くらい?どうなんでしょ?それくらいな ら買っても…安ければなお良いけど… 一応メインはまじアンの筈なんですがリアンと結花しかでてこないしなぁ。ちゃん と宮田家をメインに据えた話も書きたいですが、イマイチキャラのパンチが弱いとい うか。結花はすごく扱いやすいんですけど(笑)
 ☆ コメント ☆ セリオ:「お昼時の喫茶店って戦場なんですねぇ」(;^_^A 綾香 :「お昼時だから……というよりは、      メンツに問題があったから戦場になったんだと思うけど」(^ ^; セリオ:「あ、あはは。確かに」(;^_^A 綾香 :「しっかし、こうして見ると、やっぱりガチャピン先生ってまともよねぇ」 セリオ:「何と言っても、教師陣の中で一番の常識人ですし。      人(?)は外見で判断してはいけないというお手本の様な方ですから」 綾香 :「外見で判断してはいけないのは結花さんも同じね。      見た目は可愛らしいのに、      柳川さんやガディム教頭をKO出来るキック力の持ち主なんだもん。      ……侮れないわ」 セリオ:「そうですね。      あのキックの切れは、綾香さんに匹敵するかもしれません」 綾香 :「うん、そうかもしれないわ。      あのキックは、よっぽど使い込んでいる様に見えるしね」(^^) セリオ:「『使い込んでいる』……ですか。      つまり、それだけ蹴られている人がいるわけですね」(−−; 綾香 :「そうでしょうね」(^^) セリオ:「誰かは存じませんが……その方に、妙に親近感を覚えるのは何故でしょう?」(−−; 綾香 :「親近感?      もしかして、セリオも誰かに蹴られてるの!?      ひどい!! 一体、誰がそんな事を!?」(ーーメ セリオ:「……………………だ、誰でしょうねぇ…………(ひくひく)」(^^メ  ・  ・  ・  ・  ・ 健太郎:「そっか。セリオちゃんも……。お互いに苦労してるなぁ」(;;) 結花 :「え!? まさか、あんたも誰かに蹴られてるの!?      どこのどいつよ!? そんなヒドイ事をするのは!?」 健太郎:「…………………………………………おい」(ーーメ 結花 :「ん??」



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