私立了承学園
4日目 2時間目 ONE


「…これは、ワナだっ!!」 「わぁっ、びっくりしたよ!!」  2時間目。  浩平は机の上にある紙を睨み、突然叫んだ。  その紙とは、ある意味学生にとって最悪最凶の敵である紙。  そう、テスト用紙である。 『たまに普通の学生気分を味わうのもいいだろう』  とか言いながら、担当の長瀬源一郎が配ったのだ。 『こう見えても本職だしな、時々でも普通の教師らしいことしてなきゃ勘が鈍る』  とも言っていた。  …とか言ってる割に、源一郎本人は教卓で新聞など読みながら茶をすすっている。  早い話、配りっぱなし。  これで勘が奪われないというなら、教師という仕事も楽なものである。 「浩平、いきなり大声上げたらびっくりするよぉ」 「いや瑞佳、これが叫ばずにいられようか? いや、いられない!! いられないはずだ!!」 「意味がわからないよ」 「…この学園に来て以来、まともな授業あったか? それで何でいきなりテストなん だよ? これは、通知表の点を下げるための教師陣のワナだ!!」  浩平は言いきった。  そんな浩平を見て瑞佳は、はぁっ、と深いため息をついた。 「確かにそうかもしれないけど……これ、簡単な2次関数の問題だよ」 「なにぃ?」 「浩平…文句を言う前に一度問題を見るものです」  瑞佳に引き続き、茜までも呆れたような顔で浩平を見る。 「ちぇーっ、解ったよ…」  浩平もようやく問題を解き始めた。 「っておい!? 違うだろ!!」 「わぁっ!! だから突然だとびっくりするよっ!!」  半分ほど問題を解いたあたりで、浩平はおもむろに立ち上がった。 「2次関数ってことは繭は解らないんじゃないのか?」 「あ……そういえば…」  そして、全員が繭の方を見る。 「〜〜〜……」  繭は、必死に問題を解こうとしていた。  音をあげることなく。 (繭も成長してるんだな……)  浩平は頭でも撫でてやりたい気分になったが、一応テスト中だと思い、我慢した。  …変なところは律儀である。  見れば、全員が繭に暖かなまなざしを向けていた。応援するように……  いつの間にか新聞をたたんで、そんな教室の様子を眺めていた源一郎。  そしてその状態に満足するようにうなづくと、全員に聞こえるように言った。 「まぁ、今更私が言うまでもないだろうが、君達はその若さで、既に自立の道を歩ん でいるんだ。我々大人は、基本的には君達の意思を尊重し、黙って見守る立場をとる。 だから、今君達がやりたいようにするがいいさ。  あ、ちなみに今回の課題は数学のテストじゃぁない。この状況で、君達がとるべき 行動を考えて欲しい。これが今回の課題だ」  そう言って源一郎は教室を出ようとしたが、出口の手前で思い出したように一言付 け加えた。 「あぁ、それでも一応、折角だから学力も見ておくか。長森、終わったら私のところ まで持ってきてくれ」 「あ、はい、わかりました」 「そんじゃ、頑張れよ」  そして今度こそ出ていった。 ---------------------------------------------------------------------------- 「みゅー?」 「だからこの場合はだな……」 「それじゃダメだよ浩平。いい? 繭。この場合はまずxを……」 「みゅ〜」  ・  ・  ・ 「はい、よくできましたね」 『えらいの』 「みゅ〜」 「よし、じゃぁ次だな。ここはまずだな……」 「アンタ教えるの下手ねぇ……ここはまず……」 「私は見えないから、せめて一生懸命応援するよ」 「みゅー!」  考えた結果。  皆で繭に2次関数を教えることにした。 「よし、よくできたな。偉いぞ、繭」 「みゅー! みんなの授業、おもしろかったからどんどんできたよ」 「繭ちゃん、いいこだねー」  そう言って詩子は繭の頭を撫でる。  繭は嬉しそうにニコニコ笑っていた。 「しかし…こうなると一番最初に文句から始めた俺が一番ガキみたいだな」 「まぁ、みたいって言うよりそのものだよね」 「まったくだわ」 「ぐっ……詩子、留美…」 「二人の言うとおりだよ、浩平ちゃん」 「ぐぁ…先輩ぃ〜、その呼び方はやめてくれぇ〜」 「…的を得ていますね」 「……」  うんっ、うんっ 「…茜に澪まで…」 「みゅー♪」 「はぁ……浩平はいつまでたっても手のかかる子だよ〜」 「…ぎゃふん」  浩平、撃沈。 ----------------------------------------------------------------------------  その日の昼休み。  祐くん&浩平ちゃん対談(謎) 「つーわけで、お前の叔父さんの授業では結構へこまされたよ。まぁ自業自得だが」 「あはは、それは災難だったね。でもなんで数学の問題なんだろ?」 「は? どういうことだ?」 「だって、叔父さんは教師だけど、担当は現国だよ」 「…は?」 「だから、叔父さんは数学じゃなくて国語の教師なんだよ」 「…そ、そうなのか……」  この場合、テストっぽいというだけで文句を言った浩平が悪いので、長瀬源一郎が 何の担当であったかは非常に小さな問題ではあるが。  それでも浩平は、なんだかやるせない気持ちになってしまうのだった。 <終了>
 ERRです。  プリント配ってはいおしまい、ってのは、できればあまりやってほしくないです。  しかも、新聞広げて茶まで飲むなよ叔父さぁん(笑)  いや、やらせたのは私なんですけどね(笑)  でもホント、プリント配ってはいおしまい、は好きじゃないです。  心当たりある先生方、もっと頑張れ!!  …言えた義理じゃないなぁ(苦笑)
 ☆ コメント ☆ セリオ:「テスト。学生にとっては地獄と呼べる時間ですね」(;^_^A 綾香 :「そう? あたしは好きよ」 セリオ:「へ?」(@◇@) 綾香 :「だってさぁ。問題さえ解き終えたら、あとは寝ていてもOKだし」 セリオ:「そう……かもしれませんけど」(;^_^A 綾香 :「あたしにとっては、『テストの時間』は『睡眠時間』と同義語なのよ」(^-^)v セリオ:「そ、そうですか。      えっと……参考までにお訊きしますが、どれぐらいの時間で解き終えます?」 綾香 :「そうねぇ。まあ、15分もあれば終わるわね」 セリオ:「それで、点数の方は?」 綾香 :「100点に決まってるじゃない。      セリオだって知ってるでしょ」(^-^)v セリオ:「……そうでした」(;^_^A 綾香 :「ところで、そういうあんたは?      セリオもいつも100点だけど?」 セリオ:「わたしは……10分くらいですね」 綾香 :「うわ、あたしよりも速いじゃない。      さすがはセリオねぇ」 セリオ:「解答をダウンロードする時間を短縮できれば、5分を切る事も夢ではないのですが」 綾香 :「へぇ〜。      …………って、おい。      『解答をダウンロード』!?      それって、思いっ切りカンニングじゃない!!」(−−メ セリオ:「え? 『カンニング』……ですか?      …………………………………………。      すみません。      『カンニング』という言葉を検索しましたが、該当するデータがありませんでした。      従って、わたしには、何のことやらさっぱり」(−−) 綾香 :「……………………こ、こいつはぁ〜」(−−;;;



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