藤井家四日目 一限目 「ふぁ…………」 俺は、なんとなく目を覚ました。 寝起きでまだぼやけた頭を総動員して枕元の時計を見る。 ………短針がまだ五を指してやがる。 仕方ない。二度寝といくか………。 しかし、一度さえてしまった頭はなかなか眠ろうとしない。 ………やっぱり起きるか。 俺は周りで眠っている妻達を起こさないように布団から抜け出した。 ううっ。みんな寝顔もかわいいなぁ。 しかし、俺は寝顔を見ていたいと言う誘惑に耐え、あらかじめ用意しておいた着替えを片手に寝室の扉を 閉めた。 「ふう、たまには早起きしてみるもんだな」 別の部屋で着替え、外に散歩に出た俺は思わず呟いた。 空気が澄んでいて気持ちが良い。 いまどきのキャンパスらしく、ここ了承学園の校内には緑が多い。 それゆえに朝霧も吹いている。 雰囲気抜群だな。ちょっと冷えてるのもさっぱりして気持ちが良いし。 妻達も誘えば良かったかな………。 少し思うが、俺は多分妻達みんなが起きていてもこの散歩には誘わなかっただろう。 世間の人達は贅沢だと思うだろうけど、俺は一日中女の子に注目されるっていうのがちょっと疲れる。 もちろん妻達全員は愛してる。愛しているが………、 「環境になかなかなじめないんだよなぁ。俺」 独り言を呟いて俺は苦笑した。 「今まで由綺くらいにしかもてなかったし」 はるかとも一緒にいたが、あいつを見てても女の子って感じしなかったしなぁ。 ちょっと前まで大して女っ気のなかった俺の周りに、いつのまにか大人数の妻達。 愛する人達に囲まれるのはうれしいが、やっぱり少し緊張する。 浩之達はどう思ってるんだろう? 一瞬浮かんだ考えを俺は打ち消した。 浩之や耕一さん、和樹の性格を考えれば………、 「極楽とは思えど、全然緊張とか肩が凝ったりとかしないんだろうな」 言い過ぎかもしれないけど、あの人達は煩悩の塊だし。 誠君たちは……幼なじみだし、もう慣れてるんだろうな。 浩平や祐一は……女の子を振りまわしこそすれ、女の子に振り回されることはないだろうし。 「俺って押しが弱いのかなぁ………」 なんか考えてるだけで情けなくなってきた。 そこで俺がふと顔を上げると、目の前に女の人がいた。 「うわぁぁっ!」 お、思わず飛びのいてしまった。 しかし、まったく気がつかなかったぞ。 俺はどぎまぎしながら、改めて目の前の女性を見た。 髪と瞳の色は黒紫。魅力的なプロポーションをきちっとしたスーツで固めている。 100人の人に聞いたら、98人は美人と答えるだろう。 そんな美人が、艶然とした表情を浮べて目の前にたたずんでいた。 しかし、俺はその顔に覚えは無かった。 俺がこの人の顔を忘れたって言うことはまずない。 ADの仕事上、一度会った人の顔はそうそう忘れないし、なによりこんな美人を忘れるとは考えにくい。 俺が頭をフル回転させて考えていると、その女性は………。 「……………」 こちらに顔を近づけてきたぁぁっ! 「な、ななななななな!」 俺が混乱して硬直しているうちにも、その顔は近づいてきてぇぇぇぇぇっ! 「ぷっ」 俺の顔に触れるか触れないかのところで顔を止め、笑った。 ってこの声は…………まさか…………。 「なかなか面白かったぞ。なるほど柳川先生がお前をからかうのも無理はない」 「ガ、ガディム〜!?」 その声は、間違い無くガディムの声だった。 「ふむ。ようやくわかったか」 うろたえる俺と違い、ガディム(美人)は平然としている。 って、そんなこと言ってる場合じゃない。 「なんなんだよその格好は〜!!」 「うむ。実はな…………」 俺の問いに、ガディム(美人)は顔を真面目にして答えた。 「似合う?♪」 「その声で言わないで下さいその声でぇ〜!!」 俺は思いっきりつっこんだ。 考えて欲しい、魅力的な女性が、あの、あのガディムの声でしゃべる光景を! そこらの下手なホラー映画よりよっぽど怖い。 俺が悶絶していると、ガディム(美人)は頬をぽりぽりかきながら言った。 「いや、本当のことを言うとな。この姿をしているのはちゃんとした理由がある」 「なんなんですか、その理由って言うのは………」 俺は力なく答えた。 「この姿をしている理由。それは………新しいネタの研究のためだ」         こけっ 俺は古典的な擬音を発してこけた。 そんな俺を無視してガディムは続ける。 「最近は生徒も目が肥えてきてな。ありきたりな姿じゃあ驚きも笑いも取れなくなってきた。 特に、この前の貧ぼっちゃまルックには自信があったのに…………」 そういってガディム(美人)は地面に座り込んでのの字を書き始めた。 「だから、人目をしのんでこうやって早朝に新しい姿の研究をしていたのだ」 いや………この姿で行けば十分驚きは取れると思うけど……。 「ああ。心配しなくてもお前の教室にはまともな格好で行くから」 俺の呆然とした顔の意味を取り違えたのだろう。 あっさり立ち直ったガディム(美人)は俺の肩をぽんぽんたたいて言った。 ………今の姿が多分一番まともだし………。 「でも、そんな格好どうやってしてるんです?」 俺は率直な疑問を言った。 「ん。ああ。私はそもそもお前達多細胞生物よりも単細胞生物の性質の方が近いらしい。 私の食欲…モノを取りこむこと…もこれなら説明がつく。 だから、自分の体の細胞は自由にコントロール出来る、というわけだ。 たとえば、お前達の世界の時とティリアの世界の時では、私の姿はまったく違う。 今度ティリアにでも聞いてみろ」 ガディム(美人)はあっさりと言う。 ……じゃあガディムって、もしかしてただ強いだけのスライム? 「ちなみに、この服も私の細胞で出来ている」 そう言った瞬間、ガディム(美人)は全裸になっていた。 「だからこういうことも出来るわけだ…………って、大丈夫か」 「大丈夫なわけ無いだろ………」 俺は鼻を抑えながら立ちあがった。 俺の周りは鮮血(鼻血)で赤く染まっている。 「………」 俺がティッシュで鼻血を拭いているのを見ていたガディムはポツリと言った。 「冬弥。私はお前の精神力の事は高く評価しているが……完璧ではなかったようだな」 「ど〜いうことだよ」 「冬弥……お前の精神力は女に対してウブ過ぎる」           ざくっ その言葉は、俺の心に思いっきり突き刺さった。 見つけちゃったよ………俺と、あいつらの違い……。 俺は、鮮血(鼻血)のなかに膝をついた……………。 追記、 「いた?」 「いいえ。少なくとも、この寮の中にはいませんでした」 「まったく。いったいどこに行ったの?」 「もしかして………」 「もしかして?」 「ほかの寮に夜這いに言ったとか!」 「ええっ」 「そんな……冬弥君に限って……」 「そうだよ…」 「冬弥……なにか思い詰めた顔してた」 「!そんな…そんなぁ」 「私達というものがありながら………」 この後、帰った冬弥は妻達の詰問を受け、朝から全員にがんばらなければならないのだが………、 それはまた別のお話である。     ばっとえんど 〜あとがき、と言うか独白〜 どうも、試験が終わってハイになってるキヅキです。 でも結果は多分………ううっ。私もう笑えないよ……てところでしょうが。 ……やめですやめですこんなくらい話はっ! 最近、冬弥のSSが真面目なので、たまにはこういう話もよいだろうと思い、これを書きました。 とは言っても、センスも悪いし、まだまだ問題も多く抱えていますが……。 第二の理由は、このSSと同じ冒頭を使ったSSで失敗してしまったのですが、この冒頭だけでも使えない かな〜、と思って再利用してみました。 最も、シリアスからギャグに一気に変わっちゃってますけど。 こんな愚作しか書けない私ですが……また、どこかでお会いしましょう。
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「女装って言うのかな? これって?」(^ ^; セリオ:「変身……じゃないんですか?」(;^_^A 綾香 :「どっちにしてもイヤよねぇ」(^ ^; セリオ:「まったくです」(;^_^A 綾香 :「ガディムの声をした美女だなんて……」(^ ^; セリオ:「想像しただけでおぞましいです」(;^_^A 綾香 :「それにしても……ガディムって、どんな姿にもなれるのね」 セリオ:「みたいですね」 綾香 :「と、いうことは……よ。浩之やあたしたちの姿にもなれるって事よね」(−−) セリオ:「それは、まあ」 綾香 :「それって……危なくない?」(−−) セリオ:「言われてみれば……かなり……危ないかも」(;^_^A 綾香 :「でしょう? これからのガディムには気を付けないとね。      あたしたちの姿で悪さをしないように、よーく見張らないと」(−−) セリオ:「ですね」(;^_^A  



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