了承学園4日目 第3時限目(まじかる☆アンティークサイド)  カラフルな色の大群。仰々しいほどに施された装飾。雑然として騒々しくて…しか し、とても華やかで楽しげな。  遊園地とは、そんな場所であろう。 「と、いうわけで手元のプリントの通りこの遊園地の諸施設に試乗して、各々の感想 を提出すること。それが今回の授業だ」  心もち義務的な口調で一同に説明すると、やや皮肉げに周囲を見回して柳川は肩を 竦めた。 「まあこんな子供だましで幼稚で刹那的で底の浅い遊戯施設の何がおもしろいのか知 らんが、精々楽しんでくるよーに」 「…どーしても憎まれ口の一つは言わないと気が済まない性格なんですね…」 「…スミマセン、捻クレタ御主人様デ」  ポツリと呟いた健太郎に、一同とはやや離れた場所で貴之と一緒にいたマインが頭 を下げる。  了承ネズミーランド。  アミューズメント地区に相次いで建設された娯楽施設の中で、外資系ではなく学園 独自の設立によるものの一つである。一応名目はごく一般的な遊園地ではあるが、名 前から知れるように某アミューズメントパークのバッタモン的な性格が強い。 「…お城が天守閣になっていますが…」 「…あの、どう見てもミ○キ−な着ぐるみは…目に、黒いシールが貼り付けてあるけ ど…」  みどりとなつみが頭が痛そうにうめいているのは無視して、柳川は缶コーヒーを開 けて口をつける。そんな柳川にスフィーが少しだけ気になっていたことを尋ねた。 「ところで、先生達はどうするの?っていうより、なんで阿部先生たちまで来てるん ですか?」 「デートだから」  ・…………。  凍りついてしまったスフィー達を半眼で見ると。 「と、いうわけでオレと貴之のらぶらぶハッピーな時間を邪魔せんように」  めきめき…  空になったスチール缶を、親指と中指だけでゆっくりと潰していく柳川は、顔だけ は笑っていたのだけれど。 「じゃ、行こうか貴之?何か乗りたいものがあるか?」 「えーと、じゃあとりあえず定番ということでジェットコースターでも…」  腕こそ組まないものの肩を寄せるように去ってゆく男二人と、その後をやや距離を 置いてついていくメイドロボの後姿を、健太郎達は無言で見送った。 「…ああいう人たちって…やっぱりいるもんなんだなぁ…」 「ま、まあ趣味は人それぞれ…ですし…」 「あ、あは、あはは…」  げんなりと呻く健太郎に、みどりとリアンが乾いた笑顔で応じる。 「…今の娘…マルチちゃんそっくりだったけど…無表情キャラ入っててこれはこれで 結構萌えるものがあるよーな…」 「…ゆ、ゆか…?」 「…まあ趣味は人それぞれ…だそうですし」  引き攣った笑いを浮べて結花を見るスフィーの隣で、どこかあきらめたようになつ みが呟いた。  ***********  了承ネズミーランドはまだ一部未完成であり営業は始めていない。その前の施設モ ニターとして今日の授業が設けられたのであろう。  というわけで、広大な敷地の中にはスタッフのHMシリーズや黒子達の姿がチラホラ と見えるだけでほとんど健太郎達の貸切といっても良い状態であった。 「大宇宙スーパー・グラビトン…?」  とりあえず目についた看板を健太郎は見上げた。月と宇宙をバックに、宇宙服を着 た人間がポーズを取っている絵である。 「アストロノーツシリーズ第1弾!NASAの宇宙飛行士たちはこんな訓練をして宇宙へ 挑んでいるのだ…だそうですけれど」 「あ、クリアしたら認定証くれるんだって。ちょっとおもしろそー」  淡々とパンフの説明を読み上げるなつみの言葉に、結構おもしろそうな表情で結花 は頷くと。 「じゃ、がんばってね健太郎〜」 「オレがやるんかい!」 「あったりまえでしょうが。すこーし怪しい雰囲気でちょっぴり好奇心くすぐるけれ どつまらなかったりヒドかったらアレだしということでとりあえず実験台で鉄砲玉を 送り込むのはもはや常識」 「もはやかい!常識なんかい!?」 「というわけで男だったられっつらごーよ!愛してるわ健太郎!」 「…これほど真実味のない愛してるわってセリフ、初めてだなオイ…」 「それじゃああたしが挑戦してみよっかな。リアンも一緒にやろ?」 「え?ええっと、姉さんが行くなら私も…」 「…わかった。俺が試してみるよ」  スフィーと、特にリアンに無茶な真似をさせるわけにもいかず、健太郎はもぎりの お姉さん(セリオ型)に案内されて、マーキュリー計画時代の初期型指令船を模した カプセルの一つに乗り込んだ。シートベルトを締めてもらい、カプセルが閉じられ る。 「これって、やっぱりこのカプセルが撃ち上がるんですか?」  計10個並んだカプセルを眺めながら、みどりは案内係のセリオ型に問い掛けた。 それならちょっとした体感絶叫マシンというところで、割とおもしろいかもしれな い。 「いえ、これは宇宙飛行士が地球の重力圏を脱出する時に加わる負荷を実際に体験で きるシミュレーションマシンですので」 「…はい?」 「最新の、大宇宙科学力を使った重力制御装置により、瞬間的に10Gの負荷がカプ セル内にのみ加わる仕組みになっております」 「瞬間的?」 「10G?」 「大宇宙科学力ってなに!?」 「…健太郎さんっ!?」  思わずカプセルに視線を向ける妻達の目の前で。  ドカンッ!!!!!  轟音と共に、小さく健太郎が乗ったカプセルが震えて…そして、静かになった。 「けっ、健太郎――――――――!?」 「生きてる健太郎っ!!?」  スフィーと結花が慌ててカプセルの扉にとりつき、開いた。 「健太郎―――――!!」  一瞬の間。そして。 「ひらひら〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 「うわあああああああああああああああああああああっ!?」 「け、け、けんたろ―――――――――――!?」  まるでアメリカンコミックのように、紙のようにペラペラになった健太郎がヒラヒ ラと外に流れ出てきた。 「け、け、健太郎さんが、健太郎さんが―――――!!」 「一反木綿になってしまいました――――――――!!」 「そんな…バカなことって…」  泣き叫ぶみどりとリアン。さすがに絶句するなつみ。 「あら、やっぱり」 「やっぱりじゃないでしょうがああああっ!?どうすんのよコレ!」  左手に紙になった健太郎をつまみ、右手で結花は1人冷静なセリオ型の襟首を掴み 上げた。 「とりあえず、認定証を発行します。…良かったですね」 「いいわけあるかあああっ!!ああっ、ゴメン健太郎!!あたしが焚き付けちゃった ばっかりに!」  ペラペラでヒラヒラになった健太郎を抱きかかえ(?)号泣する結花の目の前でセ リオ型はおもむろに自転車の空気入れを取り出し、健太郎の口にチューブの先端を差 し込んだ。 「ちょっと待っててください。今、空気をお入れしますから」 「「「「お約束―――――――――――――――!!!」」」」  しびびんしびびんしびびんびん。  思わずその辺を飛び回ってしまう結花達だった。 「あ、あ、あ、あんたねぇっ!幾らなんでもそんな空気入れて元に戻ると思って…」 「…大丈夫です。コレは大宇宙コンプレッサーですから」 「その大宇宙っていう枕詞は何だ――――――――!!」  しゅこしゅこしゅこしゅこしゅこ… 「ううっ、一体どうしたんだ俺…?」 「あ、治りました」 「それで治っていいのか健太郎―――――――――――――――!!?」  ホースを咥えて頭をかく健太郎に、思わず突っ込みをいれる結花である。 「でも、良かったです。健太郎さんがご無事で…」 「あの…みどりさん、無事って…?」  1人真面目に空気を入れていたみどりが嬉しそうに顔をほころばせるのを見なが ら、リアンが冷や汗を流して呻く。 「…やっぱさ…もっと空気いれたら風船みたいにパンパンになるのかな…?」 「それでもって、針で刺したらピューーッって…?」  うずうずうずうずうずうずうずうずうず。  針を片手に葛藤するスフィーとなつみだった。  *********** 「えーっと、大宇宙フリーフォールに大宇宙メリーゴーランド、大宇宙ジェットコー スターに大宇宙ミラーハウス、大宇宙お化け屋敷」 「その大宇宙シリーズは全部却下!」 「ここの目玉の一つみたいですけど…」 「…メインの乗り物は大抵大宇宙シリーズみたいだけど…」  思わず一斉に溜息をつく一同だった。 「この、大宇宙回転ソーサーってなんだろ?」  スフィーの疑問に、無言で健太郎は前を指差した。その先に、回転するコーヒー カップの代りに、回転するアダムスキー型円盤が並ぶ光景があった。たまに、回転し ながら宙に浮き上がっていたりする。 「どこのどいつか知らないけどここの開発責任者、絶対どっか常識が他人と3メート ルばかりズレてるに違いないわねー」 「とりあえず、俺はその野郎の首を絞めたくてしょうがないぞ」 「…でも、あれは結構楽しいかも」  なつみの言葉に、しばし思案するみどりとリアンである。 「あ、あれおもしろそー!」  突然のスフィーの歓声に、一同は彼女の視線を追って顔を向けた。 「アニマル・ゴーカート…?」  とりあえず脊髄反射で視覚情報をそのまま声帯に転化して。健太郎は首を傾げた。 「あれって、デパートの屋上なんかによくあるよーな…?」  結花の言葉通り、遊園地よりむしろデパートの遊戯場によくおいてある全長2メー トル程の、四つん這いになったパンダや犬がそこには無造作に放置してあった。3、 4歳児対象で、硬貨を入れると子供を背に乗せてゆっくりと歩くロボットである。 「いらっしゃいませ。ご試乗されますか?」 「するするー。どれに乗ってもいいの?」  現在Lv.1程で小学生なスフィーは喜び勇んで手近なクマに飛び乗った。見ている だけなら微笑ましい光景である。  その後に、係のセリオ型がヘルメットを被せ機体からベルトを伸ばしてスフィーの 身体を固定さえしなければ。 「え、え、え、なななんでこんなこと…」 「ではお客様…お気をつけて」 「ええ――――――――――――っ!!?」  カチッ。  セリオ型が手中のコントローラーを操作すると同時に、今まで微動だにしなかった クマの素な目玉がキュピーン!と光った。 『…殺す!』  機械音声でそう呟いたクマはブルルッ、と身を震わせると…。  キュイイイイイイイイイイイイイイインンン!!! 「うりゅりゅりゅりゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」 「スフィ―――――!?」  唖然としている健太郎達の目の前を掠めて、猛烈な勢いで足裏のグライディングホ イールから火花を散らし、クマは時速80km以上のスピードでローラーダッシュした。 あっという間にその姿は小さくなって消える…と思ったらまたこちらに向かって戻っ てくる。 「うりゅりゅ〜〜〜〜みんなどいて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 「ぐわああああああああああああああああああああああっ!?」  蜘蛛の子を散らすように一同は慌てて散開したが、何故かスフィーを乗せたクマは 健太郎目掛けて一直線に突っ込んできた。 「うりゅ〜〜〜〜〜!けんたろどいて〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 「お前が追いかけてくるんだろうがっ!?」 「あたしじゃないよぉ〜〜〜クマに言ってよそういうことは〜〜〜!!」 「うわああああああああああっ!?」  すんでのところで、健太郎は横っ飛びにクマの突進を避けた。そのまま20メートル 程走って、横滑りにクマは急停止する。その、無表情なクマの瞳に、何故か明確な殺 意を健太郎は見たような気がした。 「本来スローモーな動きのアニマルロボットに、ゴーカート以上の走力と機動性を与 えたニューマシン。これがアニマルゴーカートというわけです」 「冷静に説明するな冷静にっ!」  無表情に説明するセリオ型に結花はスリーパーホールドをかけながら喚いたが、ロ ボットにその攻撃は無効である。  と、その目の前でクマが前足――というか前輪を持ち上げ、ウイリー走行を始め た。そのまま爆煙を撒き散らしながら健太郎まで殺到し、そして。  ブンッ! 「ひゃああああああああああっ!?」 持ち上げた前足を、どうみてもパンチとしか思えない動きで繰出してきた。危うく転 がって避ける健太郎。だがクマは全く容赦せず、二撃、三撃を連続して叩き込む! 「更にカート同士の熱いバトルも楽しめるよう、格闘回路もバッチリ付属」 「遊戯車両にそんなもん仕込むなっ!っていうか早く止めなさいよっ!」  凄む結花に、ふっ、とセリオ型は機械的に笑って見せた。 「実は先程ツッコミを受けた際にコントローラーを飛ばしてしまいまして。しかも飛 んだ先が悪かったですね」  丁度その時、クマの足元で何かが砕ける小さな音が鳴った。  ………。 「ご愁傷様です」  バキッ!  セリオ型の顔面に肘を埋め込むと、結花は手近な棚に置いてあったヘルメットを 被った。とりあえず目についたタヌキに飛び乗り手早くベルトを締める。よく見る と、ロボットの背にはバイクのようなハンドルがついていた。 リアンは、結花の行動にある予感を覚えて声をかけた。 「あ、あの結花さんまさか…」 「とりあえず、…あたしがあのクマを倒すっ!」  多分アクセルだろう、と思って右ハンドルを捻る。同時にタヌキさんはブルルッと 起動した。音こそしないが微妙な振動が結花に伝わってくる。 「いけええええええええええええっ!!」  グライディングホイールが唸る。回る。軋む。  そしてウィリー走行したタヌキはそのまま一直線にクマの横っ腹に衝突した! 「うりゅりゅ〜〜〜〜〜!?」 「ああっ!?ごめんスフィーちゃん!!」  思わず青ざめる結花の目の前で、クマはスフィーを乗せたまま横転した。当然ス フィーはその下敷きに…!  みょいん。 「あ、あれ?」  そう誰もが思った瞬間、器用に手足を使うと、クマは一回転して何事も無かったよ うに常態に戻った。背中のスフィーにもケガは無かったようで、きょとんと目を丸く している。 「ご、ごめんスフィーちゃんつい頭に血が上って…!で、でも、大丈夫、なの?」 「う、うん…なんか知らないけど、今転んだ時、一瞬バリアみたいなものがパーッて 広がって、あたしを守ってくれたみたい…」 「ああ、それは大宇宙科学力を使った不思議エネルギーによる不思議バリアーです」  ………………。 「えーと…大宇宙、なんだって?不思議バリアーって?」  何事もなかったよーにあっさり復活してきたセリオ型に、どうやら修羅場から脱出 できた健太郎が嫌そうに尋ねた。 「は。とっても不思議なエネルギーを利用した、とっても不思議なバリアーです」  真顔で答えるセリオ型の端整な顔から目を逸らし、健太郎はもう一度「アニマル・ ゴーカート」の看板を見つめる。…横に小さく「大宇宙」と書かれてあった。 「あああああああっ、しまったああああああああああああっ!」 「…どうやら脳波操縦器がやや過敏だったようですね。補助的なシステムなのです が…」 「あの、それはどういう…」  何やら頭を抱え込んでしまった健太郎はとりあえずリアンとなつみに任せ、みどり は丁寧に尋ねた。 「はい。基本的な走行操作は手動で、危険時の防御はオートで行うアニマル・カート ですが、ウィリーやパンチといったやや複雑な操作は脳波操縦システムを使っていま す。あくまで補助ですが、その気になれば…そうですね、乗ってるだけで誰でも運転 できる、というように出来ているんです」 「ははあ…」 「で、クマ号はそのシステム調整にやや不備があったみたいですね。健太郎さんです か?搭乗者の方が健太郎さんのことを強く意識していたため、先程のように執拗に健 太郎さんを追い詰めるように動いてしまったようです」 「なんかよくわかんないけど…えーと、つまり?」  はにゃ?と説明の半分はわかっていない顔つきながらも、スフィーは一つ頷いて。 「えいっ!お返しパンチ!」 「甘いっ!」  不意に唸ったクマの左腕を、寸胴短足な体形ながらも恐ろしく素早い動きでタヌキ が裁いた。 「ほんとだー。思ったとおりに動くよこのクマ」 「へー。結構おもしろいかも」 「…あ、あのなお前ら…」 「でも、意外におもしろそうですよコレ」 「そうですね…」 「ちょっと、乗ってみましょうか?」  どうやら興味津々な女性陣を呆れたように眺めまわしてから。健太郎は、深々と溜 息をついた。 「よーし。じゃ、皆で乗ってみるか?」  *********** 「…なかなか愉快な乗り物だな」  集合場所の、観覧車前のベンチに座っていた柳川の第一声はそれだった。 「猫バスだね、まるで」  感心したように貴之が応じる。6人乗りの大型アニマル・カートの上から、リアン が遠慮がちに応えてきた。 「猫じゃないです。タスマニア・ウォンバットだそうで」 「そんな動物、俺は知らん」 「え〜。かわいいんだよ〜」 『ご利用ありがとうございました』  機械音声でそう喋ると、全員を背から降ろした大型ウォンバットはゆっくりと遠ざ かっていった。このまま自動的に乗り場まで帰っていくということで、遠慮なく借り 出したのである。園内の交通機関としてはなかなかのものだろう。 「さて、と。まだ時間は10分程は余ってるが…楽しんできたか?」 「…ええ、まあ」 「楽しかったよ〜」  苦笑する健太郎の横で無邪気に笑ってスフィーが断言する。 「まあ一時間じゃそれほどたくさん回れなかったろうが…とりあえず、アンケート用 紙は明日のHRで提出すること」  どーでもよさそうな口調だが、かなりまともな内容を告げると柳川は時計を見て、 何気なく呟いた。 「…まだ観覧車くらい、乗る時間はあるか?」  その言葉に健太郎達は顔を見合わせた。 「観覧車って、恋人同士でないと乗れないんだよねぇ〜」 「おいおい…スフィー、まだ覚えてたのかよ」  意味ありげなスフィーの言葉に、やや赤面する健太郎である。そんな二人に、結花 やリアン達は意味ありげな視線を送った。 「はあ。観覧車って、そういういわれのある乗り物だったんですね…」 「まーったくあんたって男はそうやって純真なスフィーちゃんを毒牙にかけて…」 「でも…たしかにそのとおりかもしれませんね」 「…乗る?」  その、最後のなつみの言葉に一瞬の間を置いて。  一同は、大きく頷いた。  *********** 「…そういや、マインは何にも乗ってないよね?」  健太郎達が乗り込んだゴンドラが発着所から離れていくのを見ながら、貴之はこの 時間ほとんど無言だったマインに優しく声をかけた。 「…マインも乗ってみるかい観覧車?まあ、派手な乗り物じゃないけど割と楽しいよ ?」 「命令ナラ、同乗イタシマス」 「…いや、別にそこまでして乗らなくてもいいよ。…あ、柳川さん、俺ちょっとトイ レ」 「ああ」  少し小走りに向こうのトイレに消えていく貴之を見送って、柳川は無言でマインを 睨んだ。 「…せっかく貴之が気をつかってやってるってのに、無粋な奴だな」 「申シ訳アリマセン。デスガ…」  何か言いかけて、口を閉ざしたマインを不審そうに柳川は見た。 「ですが、なんだ?何か理由があるのか?」 「…………」 「命令だ。答えろ」  こんな時の柳川の口調には優しさも温かみも無い。 「…先程、健太郎様達ガオッシャッテマシタ。観覧車ハ、恋人又ハソレニ準ジル者同 士デナクテハ、同乗シテハナラナイ、ト」  酢でも飲んだような顔つきになった柳川は、呆れたようにしばらく首を振っていた が。 「馬鹿」 「申シ訳アリマセン」 「あんなの冗談に決ってるだろこの低能。ったくこれだから機械ってのは融通がきか ないというか頭が固いというか…」  やや距離を置いて無言で立ち尽くしているマインを睨んで、柳川は溜息をついた。 「…一つ尋ねるが、そういう制限が無いなら、乗ってみたいと思うか?」 「興味ハ、有リマス」 「じゃ、乗ってもいいぞ。何事も経験だ。…待っててやるから」  三秒程沈黙して、それからマインは、ゆっくりと首を振った。 「イイデス…」 「そうか」  素っ気無く応じて、柳川は居心地悪そうにベンチに座りなおした。  *********** 「…へっくしっ!」 「あらあら、風邪ですかガチャピン先生?」  その辺の書店で買ってきた参考書や問題集を片手にテスト問題を作っていた地球外 生命体に、秋子は湯飲みを差し出しながらやや心配そうに声をかけた。 「あ、これはわざわざどうもすいません…いただきます」  触手ではなく手で湯飲みを受け取ると、大きな身体を器用に屈めてお辞儀をしてか らガチャピンは茶を啜った。 「季節の変わり目は体調を崩しやすいんですから、気をつけてくださいね 「気をつけます。あ、ところで理事長、例のネズミーランドの件でスタッフから報告 が来てるんですが…」 「ええ。私も先程目を通しましたけれど…少々アニマル・カートに問題があるとか? 操縦系と、それと健太郎さんが危うくケガをされるところだったとか…」 「いえ、あれも一応ロボットですからね。三原則はちゃんとAIに入ってますから人 間に危害を加えられるようには出来てません。オートガードシステムは搭乗者、並び に付近の一般客もちゃんと範疇に入ってるんです。あの場合、ちゃんと打撃は寸止め するように出来てますし、更に不思議バリアーや自壊装置、物質透過能力も…まあ、 スリルがないとおもしろくないという意見もありましたので、そのあたりと三原則の 第一条との兼ね合いをどうとるか、というバランス調製が少々問題あるかもしれませ んが…あ、今回の操縦系の過敏反応もその辺が影響してるのかもしれません。脳波誘 導は便利ですが少々便利すぎるというところが…」 「はいはい、あれは元々ロボットバトル用の試作モデルを転用したものでしょう?ア ニマルカートに問題があるとしたら、ロボットバトルそのものを見直す必要があると 思いまして」  何やらパネルまで持ち出して説明しようとしていたガチャピンは途中で遮られて少 し残念そうだったが、一つ頷くとさっさと次の話題に移った。 「その辺は安心してください。…ところで、実はこちらから少々覗いたいことがあり まして。この、スーパーグラビトンなんですけど?」 「ああ、それがどうかしましたか?」 「これって…元々は人外教師お仕置き用マシンだった筈では…一般人には少々きつす ぎるのでは?」 「…シャレのつもりだったんですけど、まずいですかやっぱり?」 「まずいです。…というか…柳川先生、このマシンがおもしろいって三回乗ってるん ですよね。お仕置きになってませんし」 「あらあら」 「それに、ミラーハウスでは脅かし役の異次元人に噛みつくし。お化け屋敷の方も、 逆に脅かされてスタッフが自信喪失しちゃったみたいなんですよね」 「お化け屋敷は本物が売りなんですけどね。せっかくルミラさんのつてを頼ってスペ クターやレイスの皆さんを招きましたのに…」 「困ったものです」 「困りましたねぇ…」  しばらく両者は無言で、なんとなくぼんやりと天井なんか見上げてたりしていた が、やがて秋子が口を開いた。 「…とりあえず、スーパーグラビトン100倍っていうのはどうでしょう?」 「…私が言うのもなんですけどグラビトンシリーズはもう止めません?」  …了承ネズミーランドの開園は、もう少し延期になる運命のようだった。 【後書き】  なんか久しぶりです。二週間ぶりですか?了承書くの。  ネタはあるけど書くヒマがなし〜。  了承学園地下には裁判官ロボがいて、何か問題起した教師は「お仕置きダベー」と か言って…やめましょうね、このネタは。  今回は宮田家の話なんですが…ああっ、魔法を使ってない!?別に魔法を使わな きゃいけない制約なんてないんだけど、魔法が出てこないとまじ☆アンらしさが出な いというか。う〜〜〜〜ん…。  …いわゆる主人公格キャラなら、マインと一緒に観覧車に乗ってあげるんだろうけ ど、そういう優しさが最近食傷気味というか。だから、敢えて乗らない。優しくな い。そんな柳川がお気に入りなのかなと。  最近思う、今日この頃。話創るのは難しいけど。  あ、ちなみに観覧車は大宇宙シリーズじゃありません(笑)
 ☆ コメント ☆ セリオ:「うわ。イヤすぎ」(−−; 綾香 :「ん? なにが?」 セリオ:「『大宇宙シリーズ』です。……怖いですよ、これ」(−−; 綾香 :「そう? 面白そうじゃない」(^^) セリオ:「えぇ〜? そうですかぁ?」(−−; 綾香 :「うん。特に『アニマル・カート』がいいわね」(^0^) セリオ:「危険が危なくてデンジャラスだと思うのですが……」(−−; 綾香 :「そっかなぁ? 面白いと思うけどなぁ」 セリオ:「まあ、確かに綾香さんみたいな好戦的な方にはピッタリな乗り物かもしれませんね」(−−; 綾香 :「…………ほっとけ」(−−;;;  ・  ・  ・  ・  ・  葵 :「わたしは『大宇宙スーパー・グラビトン』がいいなぁ」(^^) 琴音 :「えっ!?」(@◇@;;;  葵 :「10G……いいトレーニングになりそう」(^^) 琴音 :「と、トレーニング?」(−−;  葵 :「10倍の重力。その中で修行すれば、わたしも『スーパー松原葵』になれるかも」(^^) 琴音 :「…………『ドラゴン○ール』じゃないんだから」(−−;;;;;



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