私立了承学園
4日目 6時間目 NIGHT WRITER


「この時間は"奉仕活動"だ」 「「「「へ?」」」」 「どうした?」 「…こりゃまた課題とかけ離れたヤツが来たわねぇ…」 「コリン、アンタには言われたくないと思うわ…」 「なにー!? この正義のエンジェル・コリンちゃんをつかまえて何たる言草!!」 「だったら普段からその名に恥じない行動してなさい」  簡単に口論モードに移行する天使二人に苦笑を投げかけた後、芳晴はこの時間の教 師である柳川に授業内容の詳細を問う。 「それで、奉仕活動って具体的には何をするんですか?」 「ああ、了承学園の外でゴミ拾いをし、そこを綺麗にして自己満足にひたるのがこの 時間の目的だ」  柳川の嫌そうな口ぶりに芳晴はまた苦笑する。  ちなみに了承学園およびその周辺地域はメイドロボやラルヴァが大勢配備されてい る上、商業地区への来客がまだ少ないことから、それほど汚れてはいなかった。 「それよりそろそろ行きたいんだが…あの連中をどうにかしろ」  柳川は口論を続けるコリンとユンナを一瞥しながら、懐から"シュイン"の魔法瓶を 取り出した。 ---------------------------------------------------------------------------- 「これは酷い…」 「うわー…」 「時間かかるわよ、これは」 「ぱっと見まわすだけでも、美しい景色が台無しだな」  出た場所は森の中だった。  観光地なのか、人の入った気配が濃厚で、そこかしこにゴミが散乱していた。 「道具はここにあるから適当に使え」  言いながら柳川自身も軍手をする。 「柳川さんもやるんですか?」 「一応これも給料のうちだからな」  そして、各々準備をするとゴミ拾いにとりかかった。 「ふあー、凄いゴミねぇ…」 「…あのなぁ」 「…コリン、そう思うならあなたも働きなさい…」 「ちゃんと働いてるわよ!!」 「…私にはゴミ袋を持ってるだけにしか見えないのだが…」  確かにエビルの言う通り、コリンはゴミ袋を持っているだけだった。 「こ、これは皆がゴミを入れやすいように…」 「気持ちだけ受け取っておくから、あなたも働きなさい。上に報告するわよ」 「うぐっ…」  流石にユンナの一言が効いたか、コリンもしぶしぶ準備を整える。 「それじゃ改めて始めよう。俺は向こうを重点的にやります」 「では私はあちらをやろう」 「それじゃ私は向こうからやるから…コリン、あんたはそっちやりなさい。サボるん じゃないわよ?」 「ぶー、解ってるわよゥ…」 「それじゃ30分後に、最初の場所で集合!」 「へーい」 「ああ」 「解ったわ」  そして皆それぞれの担当場所に向かった。 ---------------------------------------------------------------------------- (ぶー、めんどくさいなぁ…)  まだぶーたれながらぱたぱたと低空を飛ぶコリン。  適度にゴミ拾いはしているものの、かなりやる気が無い。 (んでも、ゴミ袋空だと怒られるしなー、「ゴミ無かった!」とか言ってもスグばれ るだろうし…)  意地でもサボることしか考えないらしい。 (あーやめやめ! そうなったらそうなったで、そんとき考えればいーや!)  どうやら「ゴミ無かった!」でいくことに決めたらしい。  コリンは上空で昼寝でもしようと、上昇した。  と、その時。 「ありゃ? アレって…」  何かを見つけたようだ。 「…遅いわね」  集合時間になってもコリンは現れなかった。 「真っ先に帰ってくるものとばかり思っていたが…」  エビルも訝しげに呟く。 「…本当にこの時間、この場所と決めたのか?」 「ええ…」  柳川は芳晴達が集合時間を決めるより先にとっとと行ってしまったためにことの詳 細を知らなかったので、芳晴に問いただす。芳晴は当然の答えを返す。 「…すみません柳川さん。俺探してきます」 「私も行くわ」 「私も行こう」   痺れを切らした芳晴が言う。  ユンナ、エビルもそれに続く。 「そうか。ならば行け。行き違いになっても厄介だから俺はここに残る」 「お願いします。江美さんはコリンがゴミ拾いに行ったほうを探してください。俺は 向こうを探しますから。ユンナさんは空から探してみてください」 「…ええ」 「…解った」  全員、それぞれの分担する方向へ行くのを確認した。  それを考えれば芳晴の言葉は少々不自然にも聞こえる。  だが、皆芳晴の流れる口調からか、それともコリンの奔放(いいかげん?)な性格 を知っていたからか、何も言わずに芳晴の言葉に従う。  そして再び芳晴達は散った。 「全く手間をかける…」  その場に残った柳川は、腹立たしげに呟いた。 ----------------------------------------------------------------------------  芳晴には無意識下で予感があった。  コリンがこちらにいるのではないか、と。  事実、自分でも先ほどの言葉に軽く疑問を覚えたが、妙な自信にあふれ、コリンが 消えた方向とは違う方へ全力で走っていた。  …10分ほど走り、彼女は見つかった。 「はぁっ…はぁっ……コリン…」 「よ、よしはる…?」  芳晴は、息を切らしていた。  コリンは、半ベソだった。 「おまえ……何やってんだ!?」 「よしはるぅ…たすけてぇ…」  地面に座り込むコリンは泥だらけだった。  芳晴はそんなコリンに近づき、状況を理解した。  大きな木が倒れ、野犬であろうか、犬の足がその下敷きになっていた。  コリンはその犬を助けようと、犬の下の地面を掘っていたのだ。 「コリン…」 「ねぇよしはるぅ…このコたすけてよぉ…」  とうとう泣き出したコリンは、再び地面を掘りはじめた。  ふと泥だらけのコリンを見ると。  その白かった腕には赤いひっかき傷のようなものがいくつか見えた。  犬は力尽きたのか、眠ったように動かない。  …今はかすかに上下する胸元が、まだ息があることを示すのみだった。  いつからそこにいたのだろう、だいぶ衰弱しているようだ。  それでも最後の力を振り絞り、近づいたコリンを攻撃したのだろう。 「コリン…」  思わず、そのコリンの姿に涙する芳晴。  そして現状を冷静に見る。  木はかなり大きかった。持ち上げるのは不可能だろう。  転がせば…既にほぼ絶望的な犬の足をより確実に破壊するだろう。  ユンナなら魔法で吹き飛ばすのは容易だし、コリンの魔力でもこの犬をどかすくら い破壊するのは可能だろう。しかし、そうやって木に衝撃を与えると、犬へのダメー ジが心配だ。  …柳川なら、この大木をどけてくれるだろう。  だが、柳川のいる場所までは、全力で走って10分かかる。  コリンの飛行ならマシかもしれないが、今のコリンを全力で飛ばすのあまりに気が ひけた。  ユンナが上空から状況を把握し、柳川を連れてきてくれるのが最も好ましい。  しかし、その方法は確実ではない。  もう一度走るか…そう思ったとき、ようやく気がついた。 (そうだ! なんで気がつかなかったんだ…)  芳晴は目を閉じ、ぶつぶつとスペルを唱える。 「よしはる…?」  コリンはそんな芳晴を見つめる。 「神よ…その威光の一片を我が手に授けたまえ…アーメン…」  スペルを終えた芳晴は両手を空に向けて掲げる。  その手から光の柱が伸びる。  信号弾代わりにスペルを使ったのだ。 「ふぅ…」  全力疾走で呼吸を乱していながらも丁寧にスペルを唱えきるのは流石である。 「大丈夫、もうすぐ皆がきてくれるから」 「みんな…?」 「ああ。よく頑張ったな」  芳晴が穏やかにコリンにねぎらいの言葉をかける。  すると、せきを切ったようにコリンの瞳から涙があふれだした。 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 芳晴〜!!」 「…」  そんなコリンを芳晴はただ黙って抱きしめた。 「始め助け呼ぼうとしたんだよ…でも皆どこにいるか解らなかったから…その間もこ のコどんどん弱っていって…でもこんな木どうしようもなくて…だから穴掘って…そ したらこのコ、あたしのことひっかいてムダに体力使って…ぐすっ…そのうち動かな くなっちゃって、あたし余計なことしたんじゃないかって…」 「そんなことない、そんなことないよ…」  芳晴はコリンを抱く腕により力をこめた。  既にその場にいたユンナとエビルに気付く様子も無く。 「ま、今回ばかりは…大目にみましょっか」 「そうだな…」  手近なところに落ちていた、ほとんど空っぽのゴミ袋を持ってうそぶくユンナ。  一足遅れたエビルも、ただ芳晴とコリンを見、ユンナの言葉に頷くだけだった。  ユンナ・エビルの到着から数秒後、黒い風にのり、柳川が駆けつけた。  そしてコリンを一瞥し、無言で大木を持ち上げた。 「あぁぁ… よかった、よかったよぉ…まだ、生きてるよ…」  すぐに犬を抱きかかえ、コリンは嬉しそうに言う。  しかしその犬の足は無残に潰れていた。  それを確認した芳晴の胸がきりり、と痛む。 「まったく…いらん手間を増やしやがって」  毒づく柳川。 「すみません。でも、今回は許してやってくれませんか?」 「ふん…」  聞いていないコリンに変わって柳川に謝罪する芳晴。  そんな芳晴をつまらなそうに見て一息つくと、おもむろに魔法瓶を芳晴達に投げて よこす。 「?」 「早く帰れ。とっとと治療しないと手遅れになるだろうが」 「柳川さんは?」 「俺は後始末があるから先に帰ってろ」 「…解りました。それじゃ先に帰ってます」  ゴミ拾いの後始末。  一体何をするというのか。  その疑問をあえて口に出さず、芳晴達は先に帰った。 「ふぅ…」  その場に残された柳川は一息つく。  背広の右肩が徐々に血の色に滲んでいく。 「ふん…鬼の力などと言ってもこの程度か」  開いた傷口を見て、忌々しげに吐き捨てる。 「さて…では帰るか…」  柳川は鬼の力を解放する。  実は、ここから了承学園まではかなりの距離がある。  それなのに、柳川は一つしかない魔法瓶を芳晴達に預けたのだ。  瞳に赤を湛え、いざ飛び出そうとしたとき、柳川の後方で空間がねじれた。 「歩いてお帰りかな? 柳川先生」 「ガディム教頭…」  いまだに慣れない呼び方で、後ろに現れた魔王を呼ぶ。 「近道があるが、使ってみないか?」 「そうだな…助かる」  ガディムの背後で、また空間がねじれる。 「全く、つまらん意地なぞはらんでもよかろうに」 「ふん…放っておけば治るような傷でいちいち騒がれるのが鬱陶しいだけだ…」 「そうか…貴方がそう言うのならそれが事実なのだろう」 「ああ…」  ガディムはそっけなく答える柳川を見て、ニヤリと笑った。  そして二人はねじれた空間に消えた。 ----------------------------------------------------------------------------   「これでよし。命に別状は無いわ。でも、足までは責任持てないわねぇ…悪いけど」 「十分ですよ、ありがとうございます」 「いえいえ、コレが仕事だから気にしないで。んじゃあたしはちょっと出るからあと よろしくね〜マイン」 「カシコマリマシタ」  犬は眠っていた。 「ま、これで一安心だな」 「うん」  犬の寝顔を見つめる一同。 「授業の最初に言ったとおり、上に報告するわね」 「へ!? な、なにを?」  ユンナの唐突な言葉に思わずどもるコリン。 「決まってるでしょ、しっかり働いてる、って報告するのよ」 「ユ、ユンナぁ〜」 「なに情けない声出してるのよ、ほっといても情けないのに」 「一言多い!!」  珍しくいい感じになるかと思ったのに、一秒でいつもの二人になってしまった。  芳晴とエビルは苦笑するしかなかった。 「そういえば芳晴君、よくあんな見当違いの方向探すなんて言い出したわよね」 「そう言われてみれば…そうですね」 「それが神の導きと言うやつか?」 「そ〜んな安っぽいものじゃないわ!! これこそまさに二人の愛の成せる技よ!!」 「あんたねぇ…仮にも天使が神の導きを安っぽいとか言うな!!」 「は、ははは」(///)  いつもの調子のコリンとユンナ。  赤面する芳晴。  仏頂面のエビル。  妙な集団だったが、その周りの空気は穏やかだった。 <おわり>
 ERRです。  なんか、色々やり過ぎた気がします(大汗)  キャラが違うー(死)  ツッコミどころは沢山ありますが、目をつぶってください < ダメ発想  柳川が一緒に帰らなかった理由は…?  ご自由にご想像ください。
 ☆ コメント ☆ コリン:「ううっ。助かって良かったよぉ〜」(;;) ユンナ:「そうね。      今回はご苦労様、コリン」(^^) コリン:「うん。      ……って……へ? ユンナがあたしを誉めた!?」(@◇@;;; ユンナ:「そんなに驚かなくてもいいでしょうが」(^ ^; コリン:「だってだって……ユンナがあたしを誉めるなんて……」(@◇@;;; ユンナ:「まあ、確かに珍しい事ではあるけど」(^ ^; コリン:「あの、冷酷がユンナが」(@◇@;;; ユンナ:「…………おい」(ーーメ コリン:「あの、性格の悪いユンナが!!」(@◇@;;; ユンナ:「(ごちっ!!)」(ーーメ コリン:「うぎゅ〜。痛いぃ〜」(;;) ユンナ:「誰が、冷酷で性格が悪くて、冷徹で意地悪だってぇ〜〜〜!?」凸(ーーメ コリン:「そこまで言ってないぃ〜〜〜」(;;) ユンナ:「だ〜れが、美人で頭が良くて理想的な天使だって!?」(−−) コリン:「それは、ひとっつも言ってない」(ーーメ



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