藤井家四日目 四限目 「はぁ〜」 「なんて言うか………」 「尋常な大きさではありませんね」 俺達は目の前にある「ソレ」の大きさに圧倒されていた。 「ソレ」は、一言で言うならパイプの化け物のような代物だ。 ただっぴろいドーム状の部屋の中央に、直径数メートルのやたらと太い柱のような機械が あり、そこから何本ものパイプが縦横無尽に走っている。 そして、そのパイプは部屋にいくつかあるカプセルのようなものにつながっている。 そこかしこでランプが点滅しているから、この機械が動いている事がわかる。 もちろん、ここはいつもの教室ではない。 では、なぜ俺達がこんな所にいるかというと………。 この授業のチャイムが鳴ると同時に、教室にいた俺達は光に包まれて…… 気がついたら、この場所にいた。 簡潔に言うとこんな感じだ。 なかなかに異常な現象だが、こういう事に慣れつつある自分がちょっと怖い。 「なんか、宇宙船の中にありそうな機械ね」 あたりをきょろきょろしながら理奈ちゃんが言う。 「そうだね。それで、あのカプセルの中で人が眠ってたりして」 同じくあたりをきょろきょろしながら由綺が言う。 「スリープコールドというものですね」 あたりを冷静に観察しながら弥生さんは呟く。 「なら、お約束があるね」 ボーっとしていたはるかがボソッと言う。 「お約束?」 不安そうに、美咲さんがはるかに尋ねる。 「うん。こういう場所だと、いるもんじゃない?」 「なにが?」 「エイリアン………とか」 相変わらずのマイペースではるかが言う。 「はは………まさかそんな…」 内心いやな予感を抱えつつ、俺が言いかけると、       ぼとっ 「き、きゃあぁあああああっ!!」 「いやぁぁぁぁぁっ!!」 「な、なによこれぇぇぇぇっ!!」 天井から、謎の緑色の物体が俺の目の前にふってきた! やっぱりかいっ!しかもお約束どおり触手までついてるっ! ……どうする!? 混乱する俺達の中、相変わらず冷静に観察を続けていた弥生さんははっとして、 「皆さん。その方は………」 なにかを言おうとするが……。 「もう、もう…なんなのよぉぉぉぉぉぉっ!!」 きれたマナちゃんがそのエイリアン(触手付き)に突っ込む! そして、       どがっ!! 必殺の蹴りを放った! それをむこうづねの辺りに、もろに食らったエイリアン(触手付き)はきりもみしながら 宙を舞い……。       べちゃっ 壁に叩きつけられ、つぶれて動かなくなった。 「……やった、の?」 それを見たマナちゃんは半ば呆然しながら呟いた。 「凄い!マナちゃん!」 「さすが!」 そんな喜ぶ俺達に、 「皆さん、お喜びの最中に申し訳ありませんが…」 弥生さんは言いにくそうに言う。 「あれは、ガチャピン先生だと思われるのですが………」 途端、シンとなる俺達。 「………マジ?」 「マジです」 表情一つ変えずに、弥生さんは言い放った……。 落ち着いて見れば、確かにそれはガチャピン先生だった。 「まったく。死ぬかと思いましたよ。 藤田家の人達には無視されるし、今日は厄日なんでしょうか?」 それから数分後、蘇生したガチャピン先生は自分の形を整えながらこう言った。 「あんな登場の仕方をする方が悪い」 はるかが非難するように言う。 「…まあ、それはもう良いとして」 「良くない」 「………」 まだ涙目のマナちゃんのつっこみを無視すると、ガチャピン先生は続ける。 「今日の授業は、あれの見学ですっ!」 言いながら、触手で中央の柱を指す。 「そう言えば、あれってなんなの?」 比較的早く立ち直った理奈ちゃんが不思議そうに尋ねた。 「あれはですね、来栖川と了承学園のスタッフ、加えて私の技術力を合わせて作り上げた新型の シュミレーションシステム。その名も、シミレーション・ウォーカー。略してSWです!」 心なしか、多少自慢げにガチャピン先生が続ける。 「SWは、データを打ち込めばありとあらゆる状況をシミレーションしますっ! しかし、それは従来のシステムでも可能な事。このシステムの売りは、人間がその中に入れる事 ですっ!」 「中に入る?」 「もちろん擬似的にですが」 俺の問にガチャピン先生は答える。 「簡単に言うと、人工電波によって人間の意識をSWにつなげる事が出来るのです。 いや〜、長瀬君たちの電波のデータを地道に集めた甲斐がありました。 と、それはともかく、そのおかげでありとあらゆるシミレーションを疑似体験する事が可能にな ったのです! 最も、打ち込むデータはまだ開発中ですが…」 「なんか、発想がありふれてるわね」 「マンガやノベルなどでは使い古されたアイディアですね……」 「打ち込むデータが無いって、所詮未完成品じゃない」 「……しくしくしく………」 理奈ちゃんと弥生さん、マナちゃんの辛口な意見にいじけるガチャピン先生。 …頼むからその外見で地面にのの字を書くのはやめてくれ。 「それで、私達はどうすれば良いんですか?」 美咲さんがガチャピン先生に問う。 「それは、皆さんにはSWのテストプレイをしていただこうと思いまして」 思ったよりあっさり立ち直ったガチャピン先生が言う。 「でも、危なくないんですか?」 心配そうに由綺が言う。 「その点なら大丈夫です。今のところ、副作用などは確認されていません」 「誰かで試したの?」 やっと立ち直ったマナちゃんが尋ねる。 「それに、打ち込むデータは無いんじゃないの?」 さらに、はるかも尋ねる。 「ええ。心配なら、その様子を見てみますか? あと、入ってもらう世界は…」 ガチャピン先生がそう言うと、上から巨大なモニターが降りてきた。 そこに映し出されたのは………。 「殺す殺す殺すころぉ〜す!!」       ぶつっ 「かわいいですよ梓先輩(はぁと)。あ、ここがもう………」       ぶつっ 「うぉぉぉぉぉおぉぉっっ!!我輩の萌えキャラがいっぱいでござるぅぅぅっ!!!」 「幸せなんだなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」       ぶつっ 「ピィィィィィィィィィィチィィィィィィィィィィィィィ!!!」       ぶつっ 「この方達のように、自分の願望の世界に入ってもらいます。 あ、ちゃんと全員無事に帰ってきましたよ」 ………別な意味で余計に心配になったのは俺だけか? 見まわすと、やはり妻たちも嫌そうな顔をしている。 証拠に、顔にいやそ〜な縦線が入っている。 ………俺も入ってるんだろうなぁ。 「この画像はつい先ほど、秋子理事長が連れてきた「志願者」達が入ったシミレーションです。 大志先生だけは昨日の晩のものですが…どうです?安心できましたか?」 こっちの表情は無視かよ、オイ。 「ちょっと質問なんだけど………」 「なんでしょう?」 顔をひくつかせながら、理奈ちゃんが言う。 「なんて言うか…こういうシミレーションしかないの?」 「いや、そう言うわけではありませんよ」 ガチャピン先生は触手の一本を指のようにピンと立てて続ける。 「今のシミレーションは、入った方達の心の奥底に眠っていた願望を引き出したものです。 ですから、あなた方がこういうことを望まない限りこういうことにはなりません」 「それならまだ良いんだけど…」 ふに落ちない顔をしながらも、納得する理奈ちゃん。 「それでは、早速れっつご〜です」 結局、ガチャピン先生に押しきられる形で俺達はカプセルの中に入った。 カプセルの中は案外狭かった。 とりあえず、中のシートに腰掛け、ヘルメットのようなものを被る。 まるで、何かのロボットのコクピットみたいだ。 「準備は良いですか?」 突然ガチャピン先生の声が響く。 「まぁ。OKかな」 「だいじょうぶです」 「はい」 「やっぱりちょっと怖い」 「もうちょっと広くならないの?」 「なんだかわくわくしてきた」 両隣に、次々妻達のアップの映像が浮かんできた。 ここまで来ると本当にコックピットだな。 「冬弥くんはどうですか」 「OKだけど……。どんな所に行くか、ある程度わかんないんですか?」 せめて心構えだけでもしておきたい。 「それは、あなた達の考えている事次第です。 と、それでは、行きますよ」      ウィィィィィ 言葉が終わり、周りの映像が消えるとと同時に、周りの機械が低い音を出し始める。 そして、俺の意識は闇に落ちて行った………。 そして、唐突に、視界が開いた。 そこは……。 俺の部屋だった。 完全に、まったく、俺がこの部屋から出て行ったままの俺の部屋だ。 もしかして…。 ようは、じっくりゆっくりしたいってことが俺の願いってことか? 「ん〜。なんて言うか、俺らしい願望だな〜。 でもまぁ、この学園に来てからずっとどたばたしてたしなぁ」 しみじみと独り言を呟く。 もちろん、答えが帰ってくるはずもない。 にしても、願いが所帯じみてるというか、なんというか……。 我ながら、もうちょっと派手な願いは無いんだろうか? もし、これに入ってるのが浩之とか、和樹とかだったら……………。 ……………。 なんか怖い事になりそうだから考えるのはやめとこう。 と、俺がそんな事を考えていると………。        がちゃっ 「冬弥君!」 「由綺?」 突然開いた玄関を見ると、由綺が顔を覗かせていた。 「私達もいます」 その言葉通り、由綺の後ろには、弥生さん、美咲さん、理奈ちゃん、マナちゃん、 はるかがいた。 「どうして?」 俺が驚きながら尋ねると、 「私達にも良くわかんないんだけど……。全員気がついたらこの玄関前にいたのよ」 理奈ちゃんがわからない、といった顔をして答えた。 「…………結局、これが全員の願望なんですね」 「? どういうこと?」 「私達の願望の中心には、冬弥さんがいるという事です」 ごくわずかに微笑んで弥生さんが言う。 「ちょっと、いつまでも女の子を立たせてないで、中に入れてよ」 頬を膨らませながらマナちゃんが言う。 「あ、はいはい。狭いけれどどうぞどうぞ、あがってあがって」 そう言って、俺は奥に引っ込み、速攻で見える所をかたずけた……………。 結局、俺達は時間いっぱいまで俺の部屋(偽だけど)で話していた。 全員で話す事は始めてじゃないけど、俺の部屋ということもあって、話はいつも以上に弾んだ。 (妻達に言わせると、どの場所よりも落ちつくらしい) 別に変わった所、状況じゃなくても、妻達と一緒にいるだけで俺にとっては十分だということが 実感できた。 俺は、妻達と、こんな暖かい時間を守る。 たとえ、何をしてでも。 妻達と話しながら、俺は決意を固めた―――――― 追記、 「ちぃっ。失敗かっ」 モニターの前でまんま悪役の台詞をしゃべるのは…大志だった。 「願望を観察すれば、同志藤井冬弥を篭絡する糸口になると思ったのだが……読みが甘かったか。 まさかここまで欲が無いとは……。 まぁいい。どうせガチャピン殿の代わりを引き受けたついでで拾ったチャンスだ。 同志を篭絡するチャンスはまだまだある」 呟くと、出口に足を向ける。 出口の扉に手を掛け、大志は呟いた。 「なにかを決意したようだな、同志冬弥。あの時の、同志和樹とまったく同じ目だ。 なにかを決意すれば、その意思の力は強くなるだろう。だろうが…。 同時に、状況が見えなくなるものだ。……己を見失わないようにな、同志冬弥………」 言って、扉を開けて出て行く。 その大志の独り言を聞いた者は、誰もいなかった。 〜あとがき、というか独白〜 むぅ。なんだか掲示板で、この時間に書く!と予告したのにえらく遅くなりました。 申し訳ありません。……内容が伴ってたら、まだ言い訳もできるのになぁ。 SWのネタは前々からあったので消化できて少しほっとしてます。 本当はSWを使って別の作品の世界へ…って考えてたのですが、冬弥の件の前振りに使いました。 この件は本当に真剣な問題なので、解決法は力の無い私には書けませんでした。 しかし、冬弥の心理について書きたかったので、なんとか書いてみました。 かなり拙いですが………勘弁してください。 追記、SWの元ネタ、わかる人いるのかなぁ?某MTG漫画のマシンから考えたんですけど……。
 ☆ コメント ☆ セリオ:「由綺さんたち……甘いですね」(−−) 綾香 :「ん? なにが?」 セリオ:「せっかく男性の部屋に入ったのに、ただ話をするだけとは……」(−−) 綾香 :「は?」 セリオ:「男性の部屋に入ったら、まずはベッドの下を調べる。基本です」(−−) 綾香 :「おいおい」(^ ^; セリオ:「そして、予想通りの『ブツ』が見付かったら、即座に排除です」(−−) 綾香 :「なにも、そこまでしなくても……」(^ ^; セリオ:「ダメです!!」凸(−−メ 綾香 :「…………そ、そう」(^ ^; セリオ:「そして、『ブツ』の排除した後は、きっついお仕置きを施すのです!!」 綾香 :「…………」(^ ^; セリオ:「そういえば……浩之さんにお仕置きした事もありましたねぇ」( ¨)トオイメ 綾香 :「そうなの?      へぇ〜。あいつもそんなの持ってたんだ。やっぱり男の子ねぇ」(^〜^) セリオ:「そんなに『凄い物』ではなかったですけどね。      ですが、ついついお仕置きしちゃいました」(−−ゞ 綾香 :「……ついついって……あんた」(^ ^; セリオ:「でも……いつのまにか、立場が逆転してるんですよねぇ」(*^^*) 綾香 :「は?」(−−; セリオ:「浩之さんて……やっぱり凄いです」(*^^*) 綾香 :「あなた、どんなお仕置きをしたのよ?      ……………………まあ、簡単に想像できるけど」(−−;;;



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