長瀬家 5日目 1限目 「ねぇねぇ祐君」 「ん?どうしたの?」 僕達が教室で先生を待っていると、沙織ちゃんが僕に声をかけてきた。 「次、誰が来ると思う?」 「? 誰って?」 「先生よ。セ・ン・セ・イ」 沙織ちゃんはにこにこしながら続ける。 「この学園って時間割が無くて授業がランダムじゃない。だからこの、誰が来るのかな〜って先生を待っ てる時、どきどきしない?」 「確かに、それはあるわね」  声の方を見ると、ついさっきまで瑞穂ちゃんと話していた香奈子さんがこちらを見ている。 「ここだと、先生のキャラに差があるわよね。だからなおさらそう感じるんでしょうね。 ま、どの授業も楽しいから良いけど」 「じゃあ, 皆さんはどの先生の授業を受けたいんですか?」 瑞穂ちゃんが言う。 「う〜ん。やっぱり秋子さんかな?あの人の授業って結構面白いし」 「私は……。ガチャピン先生ね。一番まともな授業をしてくれそうだし」 「そういう瑞穂ちゃんは?」 「わ、私は……。澤田先生の授業を…」 「やっぱり。瑞穂はよくコミックZ読んでたし、そうだと思った」 「ねぇねぇ、祐君は?やっぱり叔父さんの長瀬先生が良かったりする?」 沙織ちゃんにいきなり話を振られる。 「いや。身内が先生って言うのもやりにくいよ。僕は…そうだね。デューク先生とかよさそうだと思うよ。 そういえば、瑠璃子さんはどう?誰の授業が良いかな」 窓際でひなたぼっこをしていた瑠璃子さんに声をかける。 「…………」 しかし、瑠璃子さんはただ曖昧な笑みを浮べるだけ。 と。 「ふっふっふ………」 どこからともなく、別の笑い声が聞こえてきた。 「確かに、秋子女史も良いだろう。ガチャピン先生も良いだろう。澤田編集長も良いだろう。 デューク先生も良いだろう……。だが、彼らは日本じゃ二番だ」 声があたりに響く。が、見まわしても人影はない。 「とぉっ!」 突然の掛け声と同時に………。        どがぁっしゃぁぁぁぁぁんっ!! 「ふっ。この学園のナンバーワン教師!九品仏大志見参!!」 「なにいきなり出てきて訳わかんないこと言ってるんですかぁっ!」 突然窓を蹴破って教室に乱入してきた大志先生に僕は思いっきりつっこんだ。 ああっ、昨日みたいなまともな登場を期待してた僕がバカだった。 「しかも…なんですかその格好は…」 「ふっ。似合うかね?マイ同士」 そう言って、大志先生はその場でくるっと回った。 なぜか、大志先生は真っ赤なスカーフに黒い革帽子、白いギターを装備していた。 しかし、いつもの服装のままそれらを身につけているものだから……。 「…変」 沙織ちゃん。ストレート過ぎ。 「そうですよ。大体、今の子達がズバットなんて知ってるわけ無いじゃないですか!」 それをなぜわかってるの瑞穂ちゃん? 「あ、頭痛い………」 それが普通の反応です。香奈子さん。 「くすくすくす……………」 瑠璃子さんは相変わらず笑っている。 「まぁ、それはそれとして、だ」 大志先生はそう言うと、指をぱちんと鳴らした。 その瞬間、こなごなになって床に落ちていたガラスが全て消失した。 『えっ?』 瑠璃子さん以外の、僕達の声が見事にはもった。 …………もはやなにも言うまい。 「さて、今日の授業だが……これだぁっ!」 僕達のリアクションを完全に無視し、大志先生は言って黒板を勢いよく叩く。 その勢いで黒板はくるっと一回転して……。 「決め台詞?」 思わず声に出てしまう。 一回転したその黒板には、でかでかとその四文字が書かれていた。 「そのとおりだ」 大志先生はうんうんと頷いている。 「古来より、マンガ、アニメ、ゲームなどあらゆるジャンルで活用されているもののひとつだ。 その際、局地的にそのキャラの周りに風が吹いたり、稲妻が落ちたりする事もあるという。 人気キャラは、特有の心の琴線に触れる台詞をを必ずといっていいほど装備している。 さらに、その中でも特に飛びぬけたものは日常会話でも使われるほどだ。 「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだっ」や「おちろおちろおちろっ!」などはもうおなじみだな」 …………おなじみなんだろうか? 「日常で使われているため決め台詞とは言い難いが、「あう〜」や「うぐぅ」などはよく聞くな。 最も、これらの言葉は女性のみ使用可能だ。男が素で使うと見苦しい場合が多いからな。 まぁ、ネットでなら男でも使用可能だが」 僕の心を読んだかのように大志先生が言う。 「それで………この授業は何をすれば良いんですか?」 僕は疲れた声を出して答える。 「とりあえず、諸君には一人一回以上の決め台詞を……」 「ハイ、ハァ〜イ!一番はあたしが行きまぁ〜すっ!」 その言葉に最も早く反応したのは沙織ちゃんだった。 「うむ、そうか。では同志沙織。ビシッと決めてくれ」 尊大な態度で答える大志先生。 教室にあった机やイスは黒子達の手によっていつのまにか片付けられている。 ………そう言えば、この黒子っていったい誰?      ぱんぱんっ 僕の内心の疑問をよそに、沙織ちゃんは自分の頬をたたいて気合を入れた。 そして…………… 「とすっ!」 叫ぶと同時、彼女は高く跳躍していた。 天井はいつかのように完全に無視されている。 そして、空中にはどこから現れたのかバレーボールがあった。 沙織ちゃんは体を思いっきりそらし、その反動でバレーボールを撃つ! 「ひぃのぉたぁまぁっすぷぁぁぁぁぁぁぁいくぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」           どごぉぉっぉぉぉぉぉっ!! 沙織ちゃんの放った渾身の火の玉スパイクは大志先生の足元に直撃した。 沙織ちゃんはそのまま着地し(いつのまに着替えたのかいつもの体操服だ)親指を立て、 「あたしの火の玉スパイクは無敵だよっ!」 ビシッと決める。 確かに、これは決め台詞だ。 「素晴らしい、素晴らしいぞまいシスター!!」 少しすすけた大志先生が惜しげも無い拍手を贈っている。 って、火の玉スパイクの余波をもろにもらって、ただすすけるだけ!? この人、本当に人間なんだろうか…………。 「さて、同志沙織は正に王道をいく、必殺技を絡めた決め台詞を決めてくれたが……」 ひとしきりの拍手を終えた大志先生が、品定めをするように僕達を見る。 「次は、誰がいってくれるのかな?」 「………私がいくよ…………」 そう言って、一歩前に出たのは瑠璃子さんだ。 「おおっ、次は同志瑠璃子か」 大志先生は嬉々としてその言葉に反応する。 瑠璃子さんは構わずに教室の真中に立つと、表情を若干引き締める。 「…注文、双方向立体映像投影機」 小声で注文し、瞬時に目の前に置かれた機械に手をかざす。 そして、呟く。 「………いくよ」        ぱぢっ 瑠璃子さんが力をこめると、部屋全体に瑠璃子さんがイメージした映像が広がった。 電波を使って、直接機械とつながっているのだ。 電波を自在に操れる瑠璃子さんならではの芸当だ。 色は一色しかないものの、その映像はとてもリアルに見える。 それは………… 「あのときの………」 その映像は、屋上で僕と瑠璃子さんが再会した時の瞬間だった。 「………………」 映像を無言で消し、瑠璃子さんはその瞳をこちら〜僕だ〜に向ける。 そして……、 「祐介ちゃん。電波、届いた?」 "あの時"とまったく同じ声、同じ調子で言う。 「うむ。うむうむうむ。興味深い、非常に興味深いものを見せてもらったぞ、同志瑠璃子」 大志先生が感心したように呟く。 「さて、それじゃあ次は………」 「次は、僕が行きます」 僕はそう言って、教室の真中に歩み出る。 「ふむ。それでは、まいブラザー祐介の決め台詞。きかせてもらおうか」 大志先生が腕を組んで言う。 「…僕はあんまりこういうのは得意じゃないから、僕の、今までの台詞の中で一番いいと思った台詞を 言います」 僕は教室を見まわしてそういうと、深呼吸をした。 教室中の視線が僕に向かっているのがわかる。 その視線を全身に感じながら、肺に吸い込んだ息で、空気を震わせる! 「……最も強い力、それは、愛だぁぁぁぁぁっ!」        ずこけっ! 僕が叫ぶのと同時に、教室にいた人全員がレトロな効果音とともにこけた。 「ゆ、祐君……普通、このタイミングでそんなこと言う?…」 「祐介さん…恥ずかしく、ないんですか?……」 「……………ああっ、祐介君がこの学園の色に染まってきてるよぉ」 「そ、そう来るとはさすがの我輩もわからなかったぞ……」 全員が力なく呟く。 僕、なにか変なこと言ったかな? 「…………祐介ちゃん」 「なに?瑠璃子さん」 僕は瑠璃子さんの方に振り向いた。 瑠璃子さんは相変わらず曖昧な笑みを浮かべている。 「……祐介ちゃん。だんだん染まってきてるよ……。電波が、濃くなってきてる」 「?」 僕は、みんなの反応と瑠璃子さんの言葉に首を傾げるしかなかった。 追記、 「香奈子ちゃん、ほら、早く私達も決め台詞言おうよ」 「だめよ!みんなのはあんなに力入ってるんだから!下手な事言えないわよ!」 「でも、このままじゃあ授業終わっちゃうんだけど……」 「だから今必死に考えてるんじゃない!」 「じゃ、じゃあ私先に言ってもいいかな?」 「ダ〜メ。私と瑞穂、二人で決め台詞決めるって言ったじゃない」 「そ、そんなぁ」 結局、この二人は終了のチャイムが鳴り響くまで議論を続けたとさ。 〜あとがき、というか独白〜 ど〜も、最近時間がないキヅキです。 このお話のネタはちょっと前からあったんですが、時間が無くて(以下略) しかし、このお話、「決め台詞」の授業になってるのかなぁ? 自分で書いといて、ちょっと不安です。 ちなみに、祐介の言った台詞は雫の異星人襲来編の、エンペラーとの戦いで言ってた台詞です。 多分これであってたと思うんですが………。 閑話休題 う〜ん。でも、このお話を見る限り、祐介が染まってるって言うより、天然になってるだけかも(弱気)。 まぁ、若干価値観が狂ってきてるってことで勘弁してください。(若干か?) 瑠璃子の電波による映像は、QOHの「兄からの想い」から引っ張ってきました。 (ネタがわからない人はQOHをプレイしましょう。絶対はまりますから) ちなみに、私はまわし者ではありません。 蛇足ですが、今まで私が言われて一番心にきた決め台詞を。 「奇跡は、起きないから奇跡って言うんですよ」 それでは。
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「なるほどぉ。決め台詞かぁ」(^^) セリオ:「決め台詞はいいですねぇ。      リリンの生み出した文化の極みです」(^^) 綾香 :「は?」(−−; セリオ:「…………あ、あれ?      わたし……今、何か言いました?」 綾香 :「へ?」(−−;;; セリオ:「すいません。どこからか、謎の怪電波が飛んできたみたいです」 綾香 :「怪電波ってあんた。…………まあ、いいけど」(−−;;;;; セリオ:「ところで、綾香さんには何か決め台詞ってありますか?」(^^) 綾香 :「う〜ん。決め台詞ねぇ。      『快勝! 快勝!』かな?」 セリオ:「それは、PS版『ToHeart』のおまけゲーム      『Heart by Heart』での勝ち台詞ですね」(^^) 綾香 :「説明ありがとう」(^ ^; セリオ:「いえいえ」(^^) 綾香 :「それじゃ、セリオは?      なんか、決め台詞ってある?」 セリオ:「わたしですか? そうですねぇ。      わたしの言葉ではありませんが、好きな決め台詞はあります」 綾香 :「へぇ〜。どんなの?」 セリオ:「『故郷の過疎化は俺達が阻止する!』です」 綾香 :「…………なにそれ?」(−−; セリオ:「『過疎レンジャー』の決め台詞です。      すっごくかっこいいですよね」(^0^) 綾香 :「か、かっこいいかなぁ。      切なくはあるけど」(^ ^;;; セリオ:「わたしもいつか、過疎レンジャーみたいな決め台詞を言えるようになりたいです」(^^) 綾香 :「ならんでいい、ならんでいい」(^ ^;;;



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