私立了承学園
5日目 1時間目 痕・WHITE ALBUM


「あ…」  冬弥達が眠い体を押して1時間目の授業のために実習室へむけて廊下を歩いている と、由綺が短く声を洩らし、体をこわばらせた。 「どうした?」 「う、ううん…」  冬弥は心配して由綺に声をかけるが、由綺はただ不安そうに首を振るだけだった。  見るからになんでもないわけがないのだが、由綺がなんでもないと言うのなら、そ れ以上追求する気も無かった。 「!」  すると、続いて理奈があからさまに顔をしかめた。  …前方から耕一達が来たからだ。  それを見た冬弥は、由綺や理奈の表情の意味を知った。  皆を見ると、美咲やマナも芳しくない表情をしている。 「おはようございます、耕一さん」  それでも冬弥は、いや、だからこそ、明るく耕一に声をかける冬弥。 「よ、よう」  対する耕一はぎこちない笑みを冬弥に返す。  冬弥は自分を許してくれたが、冬弥を想う女性達の様子が痛かった。  結局挨拶もそこそこに別れた。 ---------------------------------------------------------------------------- 「…みんな、あのさ…」  実習室に到着し、冬弥は真っ先に口を開いた。 「ん…解ってる…解ってるんだよ冬弥君…」  冬弥の言葉をさえぎるように由綺が言う。 「うん…耕一さんは悪くない。解ってはいるの…」  理奈もそっと呟いた。 「そっか…」  冬弥は落胆したように息を吐いた。  最初から解ってはいた、皆頭では解っているのだ、と。 「けど…だけどやっぱり…私怖いよ…耕一さんのこと…」 「…由綺?」  自分の体を自分で抱きしめるようにして、由綺は震えていた。 「冬弥君だって強いのに…なのに、あんな…あんなに…うっ…」  耕一にやられてぼろぼろになった冬弥を思い出し、由綺は言葉に詰まる。 「…だから…もしも…もしも耕一さんがその気になったら…」 「由綺っ!!」 「っ!」  由綺の言葉は冬弥の叫びによって遮られた。  普段の冬弥からは想像しがたいその大声に、皆硬直する。 『だって…もしも耕一さんがその気になったら…』  それ以上は、例え仮説でも絶対に言わせてはならないと思った。  そう思った時、気がついたら既に叫んでいた。 「由綺…たとえもしもでも、そんなこと言っちゃいけない」 「と、冬弥君…」  冬弥は由綺の両肩を押さえて、やや強めに言い聞かせる。 「冬弥君…痛いよ…」 「あっ…ごめん…」  知らぬ間に由綺を押さえる手に力を入れすぎていた。  由綺の声に慌てて手を離す。 「ううん…私こそゴメンね…そうだよね、あんなこと…言っちゃいけないよね」  冬弥の手から離れた由綺はうつむきながらそう言った。 「冬弥さん…」 「弥生さん…」 「皆さん解っています…ですが…時間が…必要です…」 「…ごめんなさい」 「いえ…」  普段どおりの無表情にやや辛そうな表情を浮かべながら、弥生が冬弥に言い聞かせ るように語った。 (くそっ、俺がふがいないばっかりにっ!)  冬弥は拳を強く握り締め、心の中で憎々しげに吐き捨てる。 (逃げ足でも絶壁でもなんでもいい、せめてあの時俺が身を守れていればっ!)  重い空気の実習室の中、黒板に書かれた「自習」の文字に気付く者は無かった。 ----------------------------------------------------------------------------  黒板には「自習」の2文字が書かれている。  自習と言われても何を学べばよいやら解らぬため、柏木家は他愛ない話をしていた。 「そういやさっきどうして冬弥さんに挨拶するときどもってたんだ?」  梓としては何気ない言葉のつもりだったのだろう。  しかしその言葉は一瞬で室内を無音にした。 「え? え? ど、どうしたんだよ」 「あ、いやすまん…」  初音と梓は首を傾げるばかりだ。 「昨日…」  と、楓が静かに口を開いた。 「ん、なんだい楓?」 「昨日、耕一さんと冬弥さんが賭け麻雀したんです」 「はぁ? 麻雀?」 (楓ちゃん…?)  耕一は一瞬なんのことか解らなかったが、すぐにそれが楓のフォローだと気付く。  千鶴のほうを見ると、彼女もうん、と頷いていた。 「それで…耕一さん大負けして…だから今冬弥さんには頭が上がらないんです」 「そ、そうなんだよ…おかげで小遣い使いきっちまった…」  耕一も楓に合わせる。 「ほっほぉぉぅ…アンタはそういうくだらないことに大事な金を使うんだね…?」  ポキポキと手を鳴らしながら微妙に怖い笑顔を浮かべる梓。  嘘の代償は割と高くつきそうだ。 「ま、待てっ梓!!」 「そうはいくかっ! 将来穀潰しを養うなんてゴメンだよっ!! 今ここでその根性 修正してやる〜!!」 「うわあぁぁぁぁぁっ!!」  表面上はいつもの耕一と梓のやり取りを見る楓の瞳はしかし、悲しみの色を湛えて いた。 (耕一さん…楓、梓、初音…ごめんなさい…)  謝りたくとも謝れない。  千鶴はせめて心の中で、最愛の家族に謝罪した。 <つづく>
 ERRです。  痛い…  2時間目に続きます。
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「うーん。怯えちゃってるわね」(−−; セリオ:「仕方ない……と言えばそれまでなんですが」(−−; 綾香 :「耕一さんが悪くないって事を、頭では理解しているだけにかえって厄介よね」(−−; セリオ:「はい」(−−; 綾香 :「ここはやっぱり、冬弥さんが何とかするしかないのかな」 セリオ:「そうでしょうね。由綺さんたちの心を癒せるのは冬弥さんだけだと思いますから」 綾香 :「うんうん。そうよね。      ではでは、冬弥さんの活躍を願ってみんなで応援しましょう!!」(^0^) セリオ:「しましょう!!」(^0^) 綾香 :「……てなわけで、2時間目に続く」(^^) セリオ:「続きま〜す」(^0^)



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