─ 9:55


「はぁっ、はぁっ、どうだ?」
「さぁ…だが、ここからは見えん」
「そうか…まだ油断するな、できるだけ離れるぞ」
「おう」


 商店街地区…
 そこに、2つの不穏な影が忍び込んできた。





私立了承学園 5日目 2時間目 痕・WHITE ALBUM
─10:00 藤井家 「商店街を散策し、レポートを提出」  イビルが伝えた課題を実行するために現在藤井家は商店街を歩いていた。  当のイビルは課題を伝えると、レポートのチェックが面倒だなぁ、とか言って帰っ てしまった。  この人選と、先ほどの自習は秋子の提案である。  昨日の今日で藤井家や柏木家が普通に振舞うのは難しいと考えたためだ。  折角冬弥がコトの拡散を防いだというのに、つまらないことで広めるわけにはいか なかった。  そして秋子の思惑通り、イビルはとっとと帰ってしまった。 「それにしても…やっぱりここって化け物学園ね」  理奈が感心半分、呆れ半分といった風に言った。  学園敷地内部の商店街という言葉も凄いが、目の前の商店街の規模も凄かった。  普通の商店街と比べてもまったくひけを取らないだろう。 「そういえば、皆でこうして歩くなんて久しぶりだね」  由綺が嬉しそうに言う。  由綺と理奈が一緒に歩ける機会自体が少なかったのに、商店街を全員で一緒に歩く など、それこそ少し前では考えることも出来なかっただろう。 「そうだな」  だから、冬弥もこの時間はとても嬉しかった。 「あっ、冬弥さん、あそこで何か食べて行かない? 朝ご飯抜いちゃったし」  マナがヤックを指差して皆を誘う。  今朝は色々と忙しかったため(笑)、朝食をとっていなかった。 「賛成。おなかすいた」 「もう、はるかちゃん」  素で言ってのけるはるかに美咲が苦笑する。 「いこっ、冬弥君!」 「おう」  由綺が嬉しそうに冬弥の腕をひっぱり店内へ入っていった。 「本当はこういう食事は感心しないのですが…」  弥生がやや顔をしかめる。 「もうっ、弥生さん、たまにはいいじゃないっ!」 「は、はぁ…」  固いことを言うなとばかりに、理奈も弥生の腕をひっぱって入っていった。 ---------------------------------------------------------------------------- ─10:15 「はぁっ…はぁっ…」 「いい加減、徒歩は限界だ…」 「そうだな…しかしどうしてこうも車が少ないんだ…」 「さぁな…おっ、おい、あれなんかどうだ?」 「ん…?」 ---------------------------------------------------------------------------- ─10:10 柏木家 「いてて…まったく無茶するぜ…」 「これに懲りたら賭け事なんてやめるんだね」 「へいへい…」 「返事は「はい」!」 「はいぃっ!」  ここは商店街地区のとある喫茶店。  現在柏木家は、デュークの持ってきた課題「紅茶の飲み歩き・結果レポートの提出」 の遂行中だ。  課題を言って嬉しそうに出て行くデュークに対して全員が思ったこと。 (このデータはティリア(さん)とのデートに使うんだ…)  なんとも解りやすくて微笑ましいカップルだ、と思った。 「んー…70点ってとこかな…」 「辛口だな、80点くらいだと思ったけど」 「甘いね、アレくらいはモノが同じなら千鶴姉じゃなけりゃ煎れれる」 「…梓ちゃん?」  さらっと梓の口から出てきた言葉に律儀に反応する千鶴。  しかし。 「もう、千鶴お姉ちゃん、ここでやんちゃはだめだよぉ…」 「恥ずかしいです」 「うッ…」  下の妹2人の言葉に目を赤くした状態で硬直した。 「つーか梓もなんでいつもいつもいらんこと言うかね…」 「もうクセになっちまったよ」 「イヤなクセだなオイ…」  小声でボソッと言う耕一の言葉に、悪びれた風も無く平然と言ってのける梓。  耕一はゲンナリするしかなかった。 「よっし、次はあそこにしようか!」  梓の指差す方向には「エコーズ」があった。 ---------------------------------------------------------------------------- ─10:20 「ちょいとゴメンよ」 「はい、なんですか?」  …ちりっ…ちりっ 「!? うわ、うわぁぁぁぁ!」  ドサッ 「しばらく寝てな」 「よし、いくぞ」 「ああ」 ---------------------------------------------------------------------------- ─10:20 貴之・マイン 「あー、いい天気だ」 「ハイ」 「こんな日は縁側でお茶でもすすっていたくなるよねぇ」 「…申シワケアリマセン…ヨク、解ラナイデス」 「あはは…別に謝ることじゃないよ」  のどかな陽射しの歩道を、貴之とマインが歩いていた。  天気がよく、調子のよかった貴之が散歩に行きたいと言い出したためだ。  柳川は教師の責務を遂行中である。 「そうだ、いつもメイフィアさんにはお世話になってるから、今日は昼ご飯でも作っ てあげようよ」 「…ハイ」 「よし、それじゃ材料でも買いに行こうか」 「ハイ」  ただの散歩が目的を持った。 ---------------------------------------------------------------------------- ─10:22 月島拓也  今日も拓也は了承学園にやってきていた。  ただし今日は、直接学園のほうへは向かわず、商店街地区を流していた。  差し当たり、育ての親の世話になり続けるのもいい気がしなかったので、バイトで もないかと思っていたのだ。 「…本格始動はまだ先か…また後で来るかな…」  あちこちの店が開店準備にやっきになっている様を見て、拓也は今日のところは帰 ろうと思った。  しかしその時、彼は明確な悪意を含む電波を受信した。 「これは…」  性分からか、そんな電波を拾ってしまっては放っておけず、彼はその電波の飛んで きた方へ向かって歩いていった。 ---------------------------------------------------------------------------- ─10:28 「このまま一気に行くぞ」 「ああ…ったく、結構上手くいかないものだな…」 「そうだな…まぁ、なんとかなりそうじゃねぇか」 「ああ…まぁな」  商品搬入のダンプカーを奪い、2人組みの男は爆走する。 ---------------------------------------------------------------------------- ─10:30 藤井家 「お、そろそろ時間だな」  冬弥が時計を見てそう言う。  時計は10時30分を示していた。 「あ、そうだね。そろそろ帰ろうか?」  由綺の言葉に全員賛成する。  既に前の時間の重い空気は晴れていた。 ---------------------------------------------------------------------------- ─10:30 柏木家 「うん、美味かった。85…90点」 「お、いい点だな」 「まぁね。あれこそ誰でも煎れれない紅茶だよ」  梓も満足したようだった。 「そうだねぇ。わたしもあんなふうに煎れれるようになりたいな」  初音はマスターの腕に憧れていた。 「あら、そろそろ時間ですよ?」  千鶴が時計を指差す。  時計は10時30分を示していた。 「お、ほんとだ。それじゃ戻ろっか」  耕一の言葉を合図に、柏木家は教室への帰路についた。 ---------------------------------------------------------------------------- ─10:35 接触 「…アレハ?」 「どうしたんだいマイン? …あれ、猫?」  マインの視線を追うと、車道をよちよちと歩いている子猫がいた。 「…危ないなぁ…」 「…申シワケアリマセン貴之様」 「ん、かまわないよ」  買い出した食料品を貴之に預け、車道を歩く子猫のもとへ駆け寄るマイン。  * * * * * 「あれ? マインちゃんじゃない?」  理奈の指差す方向には、昨日冬弥の元へ現れたマインがいた。  あの時のことを思い出し、冬弥は胸にちくり、と痛みを感じた。 「何やってるのかな?」 「…あれじゃないでしょうか」  弥生が子猫を指差す。 「あぁ、確かにアレじゃ危ないわね」  理奈が納得したように言う。 「まぁ、見た感じほとんど車なんて無いから……!?」  大丈夫、と言いかけ、冬弥は我が目を疑った。  先ほどまで静かだった車道に、交差点から現れたとは信じがたい勢いで、猛スピー ドのダンプカーが出現したのである。  それを見た瞬間、冬弥は考えるより先に飛び出していた。  * * * * * 「まてっ、何かいるぞ!」 「かまわねぇ、たかが畜生1匹と人形1台だ! 突っ切るぞ!」  運転している男は、その目にマインと子猫を捉えていながら、アクセルを踏んだ。  * * * * * 「マインッ!!」 「!?」  ドンッ!  冬弥は飛び出した勢いで子猫を抱えたマインを突き飛ばした。  そしてすぐさまダンプカーの方へ顔を向ける。 (あとは『絶壁』で…っ!?)  冬弥はもう一度目を疑った。  ダンプカーは予想外に目前に迫っていた。 (まさか…アクセルを踏んだのかっ!?)  精神力で壁を作る『絶壁』  予想外の事実の前に、完全に心を乱した冬弥には、もはや数瞬の後に自分と接触す るダンプカーを防ぐ『絶壁』を作っている暇は無かった。 『冬弥くーーーんッ!!』  最期に、由綺の叫び声が聞こえた気がした。 ガシャアァァァァァァァァン! ズシャアァァァァァァァァ…  パラ…パラ…パラ…パラ…  巨大な衝突音に続いて何かを引きずる嫌な音がしばらく続き…  やがて暴走ダンプは止まり、ガラスの砕ける音が静かに響いた。  * * * * *  体は痛くなかった。 (今度こそ…あの世か…?)  冬弥はそんなことを考えながらゆっくり目を開く。 (あー…せめて天国がいいなぁ…って贅沢か)  落ち着いてそんなことを考える自分に苦笑する。  そして… 「よう、無事か?」 「なんだ…鬼がいるってことはやっぱり地獄か…」  目の前に耕一の姿を確認し、冗談か本気か解らないことを言う。  耕一は苦笑して、 「なに言ってんだ、死んでないって」  と、冬弥に教えてやった。  その言葉を受けた冬弥は2、3度瞬きし、そして今ようやく目が覚めたような表情 になる。 「あれ…耕一さん?」 「おう、やっと目ぇ覚めたか」  冬弥は、現在の自分の状態を確認する。  ケガは全く無く、どこも痛まない。  耕一の右腕に抱きかかえられる状態になっている。  そして耕一の左腕は…無人のダンプカーにめり込んでいた。 「…耕一さんが助けてくれたんですか?」  現在の状況からしてそれしか考えられなかったのだが、冬弥はあえて聞いた。 「ん…間に合って良かったよ」  耕一はしなやかに笑って答えた。 「ありがとうございます」 「いや、当然のことをしただけだよ」 「そんなことは無いですよ。あの状態で当然のように助けられる人なんてそういませ んよ」 「んー…そうかも」 「そーですよ」  そして2人で苦笑した。  と、冬弥はあることに気付く。 「えっと…この状態で2人して笑ってるってのはあらぬ誤解を受けそうなんですが…」 「お、おお、そうだな」  冬弥の言葉に耕一は慌てて冬弥を地面に降ろした。 「立てるかい?」 「ええ、おかげさまで」 「そっか、よかった」 「本当にありがとうございます」 「もういいって…ふんっ!」  再び謝る冬弥をたしなめ、耕一はダンプに突き刺さった左手を引き抜いた。  人が駆ける音が近づいてくる。 「「冬弥くんっ!!」」 「「冬弥さん!?」」  由綺、理奈、弥生・マナが開口一番に冬弥の名前を呼んだ。  愛しい人達の声に、冬弥は微笑んで応えた。 「やぁ」  と。 「冬弥…」  はるかがじっと冬弥を見つめる。  一見無表情なその瞳には、わずかな非難が見えた。 「ゴメンみんな…昨日の今日でまた心配かけちゃって…」  だから冬弥は素直に頭を下げた。 「冬弥君っ、冬弥君っ!!」 「よかった…無事で…」 「もう、心臓に悪いんだからっ!!」 「でも、本当によくご無事で…」  冬弥が頭を下げるのがスイッチであったかのように、妻達は冬弥に抱きついてき た。 「冬弥、あとで美咲さんにあやまってね」  一人離れた場所からはるかが冬弥に言う。  見ると、はるかの背中では美咲が寝ていた…いや、気絶していた。 「あぁ…もちろんだよ」 「さて、お邪魔虫は帰るかな」  耕一は誰にも聞こえないように呟き、冬弥達に背を向ける。 「お待ち下さい」  それを呼びとめる声がする。  耕一は後ろは振り向かず、立ち止まる。 「…まだ、お礼が済んでいません」 「そうだよ…耕一さん、冬弥君を助けてくれて、ありがとう…」 「朝は…その、ごめんなさい…」 「正直、耕一さんのこと怖かったです、けど、やっぱりいい人なんだね」 「ありがと」  弥生の言葉に続いて、由綺、理奈、マナ、はるかがお礼の言葉を耕一にかける。 「本当に、ありがとうございました」  最後に、弥生が耕一に深く頭を下げて言った。 「ははっ…どう…いたしまして…」  照れたように鼻の頭を掻きながら、耕一は言った。 「耕一さんっ!」 「大丈夫か耕一!?」 「お兄ちゃん!!」  楓、梓、初音が耕一の元ヘ駆けてきた。 「おう、大丈夫だよ」  右手を上げて応える耕一。 「そっか、よかった」 「突然飛び出した時はびっくりしたよぉ…」 「でも、冬弥さんも耕一さんも無事で本当によかったです」  耕一の様子を見て安心したように微笑む3人。 「車から降りた人は…千鶴姉さんが追いました」 「…そっか」  小声で耕一に伝える楓。  それで全て伝わったため、耕一もそれ以上は追求しなかった。 「それにしても、また皆にいらない心配かけた上に何もできなかったな、俺」  冬弥が自嘲するように言う。 「そんなことはないよ」  その冬弥の言葉を否定する声が後ろから聞こえる。  全員がそちらを見ると、買い物袋を下げた貴之と子猫を抱いたマインが立っていた。 「何も出来なかったなんてことないよ。君のおかげで、今ここにマインが立っていら れるんじゃないか」  そう言ってマインのほうを見やる。  それにつられて全員マインの方を見る。  マインは相変わらず無表情だったが、心なしか照れているようにも見えた。 「ほらマイン、藤井君に言うことがあるんだろ?」 「ハイ…」  貴之に肩を押され、前に出るマイン。 「ア、アノ、藤井様…」  珍しくマインが口篭もる。  しかし冬弥はその先を言わせなかった。 「いやいいよ。俺は君の一番大切な人に酷いことしたんだから。君にお礼を言われる 資格は無いよ」  全員、きょとんとした表情で冬弥を見る。 「あはは、藤井君は酷いなぁ」  唐突に貴之がそんなことを言う。  冬弥は頭に?を浮かべる。 「マインがお礼を言いたいって言ってるのにそれを言わせてくれないなんて、藤井君 極悪人だよ」  能天気に笑いながらとんでもないことを言う貴之。  さすがにここまで言われてしまっては、冬弥も黙るしかなかった。 「ほら、マイン」 「ハ、ハイ…藤井様…アリガトウゴザイマシタ」  器用さのかけらも無い、たったそれだけの言葉だったが、それでもその言葉は冬弥 の胸に響いた。 「それじゃもう帰ろうぜ、次の授業始まっちまう」  耕一がそう言って歩き出す。  当然皆ついてくると思ったのだが、誰も動かなかった。 「あ、あれ? どうしたの?」 「耕一さん…」  由綺が訝しげに耕一を、正確には耕一の左腕を見る。 「万歳してみてください」  理奈が耕一にそんなことを言う。 「へ? な、なんでそんなことをしなきゃいけないんだい?」  明らかに動揺する耕一。 「…」  マナが憮然とした表情で耕一に近づく。そして。  耕一の左肩をぽん、とやや強く叩いた。 「☆※△!?!?」  言葉には出さないが、なんとも言えない表情を浮かべる耕一。 「やっぱり…」 「折れてたんですね」 「隠すこと無いのに…」  由綺、理奈、マナの3人がため息混じりに言う。  あの瞬間、耕一はまず足を鬼化し飛び出した。  腕も鬼化したのだが、十分な強度が得られる前にダンプ、耕一ともにトップスピー ドの状態で正面衝突してしまったため、折れてしまったようだ。 「さぁ、保健室へ行きましょう」  弥生がそう言うと、全員歩き出した。 「ま、待ってください、こんなもんほっときゃ治りますってば!!」  確かに耕一の再生能力なら、次の時間の終わり辺りには治っているだろう。  だが。 「そういう問題じゃないです」 「うん」 「形が大事なんです」 「いちいち何かに触れるたびに痛いといやでしょ?」 「はいっ、おわりっ」  結局保健室で耕一はメイフィアによってギプスを付けられた。 「いらないのに…」 「まぁ1時間の辛抱ですよ」  イヤそうな耕一に冬弥は苦笑して慰めの言葉をかける。 「そうそう。それにいくら回復力が高くたって、変な風にくっついたらイヤでしょ?」 「それはまぁ…そうですけど…」 「だったらぼやかないぼやかない」  メイフィアの言葉はもっともだ、と思ったので、耕一もそれ以上は文句を言わなか った。 ---------------------------------------------------------------------------- 「はぁっ…はぁっ…な、なんだってんだ…」  ダンプから逃げ出した男の一人が小道を駆けていた。 「それはこっちのセリフです」 「あん?」  その男の行く手を阻むように、千鶴が立っていた。 「なんだお前は。そこをどけ」 「そうはいきません」 「そうか、なら眠れ」  男はそう言うと、千鶴をひと睨みした。  …ちりっ…ちりっ  男の予定では、目の前に眠る千鶴の姿があるはずだった。  しかし、一瞬の後、千鶴の姿はそこから消失していた。 「眠るのは…あなたです」 「!?」  背中からかかる冷たい声に振り向いた男が見たものは。  表情の無い、真っ赤な瞳だった。  絶対者の瞳。  千鶴の強烈な鬼気を浴び、男の意識はそこで途絶えた。 ---------------------------------------------------------------------------- 「ちっ…電波だ何だと言っても大したことできねぇな」  ダンプから逃げ出したもう一人の男が別の道を駆けていた。  その行く手を遮るように青年が立ちはだかった。 「汚い…電波だな…」 「あぁ?」  青年の言葉の意味を介さず、男は憮然として目の前の青年…月島拓也を睨む。  この時点で既にこの男の命運は尽きていたが、そんなことには気付くはずも無い。 「あんちゃん、そこをどきな」 「電波使い…その力を使って銀行強盗か…最低だな…って、僕に言う資格は無いか…」 「聞こえねぇか! どけっつってんだよ!!」 「悪いが、どく気は無い。お前を逃がすつもりも無い」 「あぁそうかい、だったら眠ってな!!」  男は拓也を睨み、「眠れ」と念じた。しかし。 「ど、どうしたんだ!?」 「…」 「な、なんで何も起きないんだ!?」 「…」 「い、一体…」 「…気付かないのか?」 「え? う、うわあああぁぁぁぁぁ!!」  男は拓也に言われて初めて気がついた。  周辺の電波は既に全て拓也の支配下に置かれていたのだ。 「ひ、ひいぃぃぃぃぃ!! ば、化け物!!」  拓也の周りに集まるあまりにも膨大な量の電波に、男は恐怖し、逃げ出した。 「言っただろう…逃がす気は無いと」 「ぎゃああああああああああああ!!!」 「やれやれ…ただ「眠れ」と言っただけなのに随分大きな悲鳴を上げるんだな…」  拓也は倒れた男を抱えると、了承学園へ向かった。 ---------------------------------------------------------------------------- 「ご協力ありがとうございました」 「いえいえ、お勤めご苦労様です」 「ありがとうございます。では失礼致します」  秋子の連絡を受けてやってきた警官は、2人の電波使いを引き取ると、秋子に礼を 言って戻って行った。  ちなみに、拓也の手によってあの2人からは電波の記憶は完全に消されていた。  これでもう一度電波を使って悪事をされる心配も無い。 「お疲れ様でした、拓也さん、千鶴さん」 「いえ、異常に気がつき、それを止める力があるものとして義務を果たしただけです」 「それにしても2人いたとは気付きませんでした…拓也さんがいなかったらもう1人 は逃がしていたところです」 「僕が捕まえたほうの男は、狡猾なことに自分の存在をあいまいにするように電波を 放っていたみたいです。もっとも状況が状況ですから、そんなことしなくても皆さん 気が動転して気がつかなかったかもしれませんけどね」  その場にいなかったにもかかわらず、由綺たちの叫びを電波で聞いていた拓也には あの瞬間の状況が手に取るように解っていた。  実際、男は大して電波の扱いが上手いわけでもなかったし、そのくせ目標を広範囲 にしていたため、どれほど姿の隠蔽に電波が役立っていたかは疑問だ。  千鶴たちが見つけられなかったのも、ただ単に千鶴たちのいた場所が位置的にその 男を見つけにくい位置だっただけと言えなくもない。 「いずれにしても、皆さんのおかげで事態は大きくならずに済みました。本当にご苦 労様でした」 「いえ…それじゃ、僕はこれで失礼します」 「はい、バイト探し頑張ってくださいね」 「…知ってらしたんですか」  秋子には全てがお見通しなのだろうか。  拓也は秋子の方をみて苦笑する。  秋子はいつもどおりに微笑んでいるだけだった。  最後に会釈して、拓也は理事長室を後にした。 「それじゃ私もそろそろ失礼しますね。耕一さんも心配ですし」 「ええ、そうですね。後で私も直接お礼に行きますけど、お疲れ様と伝えておいてく ださいますか?」 「はい、解りました」  最後に一度お辞儀して千鶴も出て行った。  こうして、一歩間違えば大惨事になりかねなかった事件は、各人の活躍によって最 小限の被害でおさまった。 <おわり>
 ERRです。  電波使いって月島兄妹と祐介以外にもいるんでしょうか?  いるSSは時々見かけますが、ここではいることにしてしまいました。  今回登場した犯罪者の電波使いは、大した威力の電波を扱えません。  一人の相手に眠れ、とか動くな、とか。  それでも十分恐ろしい力ですけどね。  結局やってきた警官全てをさばききれずに逃走していたのでしょう。  拙い文章ですが、耕一と藤井家のわだかまりはこれで解けたでしょうか…?  もし解けていなかったら…すみません。
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「こ、耕一さん……パワフル」(@◇@; セリオ:「ダンプを止めてしまうなんて……す、凄いです」(@◇@; 綾香 :「よく骨折だけで済んだわね」(@◇@; セリオ:「さすがは最強の鬼です」(@◇@; 綾香 :「うんうん」(@◇@; セリオ:「凄いと言えばもうひとり」 綾香 :「月島さん、ね」 セリオ:「はい。やっぱりお強いです」 綾香 :「まあねぇ。月島さんに対抗できるのは祐介くらいしかいないでしょうから」 セリオ:「ですね」 綾香 :「う〜ん。この二人に比べると、冬弥さんの印象は少し薄くなっちゃったかな?      派手だったからねぇ、耕一さんと月島さん」(^ ^; セリオ:「でもでも、冬弥さん、すっごくかっこよかったですよ」(^^) 綾香 :「そうね」(^^) セリオ:「かなり危なかったですけど、      でも、冬弥さんの行動がみなさんのわだかまりを消し去るきっかけになりましたし。      終わり良ければ全て良し、ですね」(^-^)v 綾香 :「うん」(^^) セリオ:「まさに、大団円です」(^0^) 綾香 :「一件落着。めでたしめでたし」(^^) セリオ:「よよよい、よよよい、よよよいよい!」(^0^) 綾香 :「………………古っ」(−−;



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