(な、何故私はこんな状態になっているのだ…?)

 魔王ガディムは心の中で問うた。
 その質問に答える者はない。


「あははー、くらえがでむー!」

 ぴゅーっ

「おわっ冷たい!!」

 少年に水鉄砲を食らうガディム。
 そう…魔王ガディムは現在子供達のお守をしていた。

 …保育園で。
 これほど似合わない組み合わせも無かった…といいたいところだが。

 何故か、妙に溶け込んでいた。






私立了承学園 5日目 2時間目 教師サイド(ガディム編)
「ガディム先生、確か今日の2時間目は空いてましたよね?」  1時間目終了時、ガディムは秋子にそう訊ねられた。 「ええ、空いております」  時間割を確認し、返事をするガディム。  その返事を聞いて秋子は微笑み、 「なら、次の時間ここで私の知り合いの手伝いをしてほしいのですが…」  そう言って1枚のメモをガディムに渡した。  そこには簡単な地図が書かれていた。 「はい、かしこまりました」  素直に従うガディム。 「ありがとうございます。ガチャピン先生にもお願いしてありますので、お二人で頑 張って下さいね」  それだけ言うと、秋子は自分の仕事に戻っていった。 ---------------------------------------------------------------------------- 「みなさーん! 今日だけお手伝いに来てくれたガディム先生とガチャピン先生です。 元気にご挨拶しましょうね」  などと異形2人を紹介しながらも保母さんはびくびくしていた。 (あ、秋子ぉ、こんな謎な人(?)達よこさないでよぉ!!)  それでも表面上は笑顔を取り繕ってそう言えるのがプロの意地を感じさせた。 『おはようございまーすがでぃむせんせいがちゃぴんせんせーい!!』  保母さんの苦悩を知ってか知らずか(多分知らない)、園児達が元気に挨拶する。  ガディムやガチャピンのようなメルヘン(?)な連中に対する免疫は子供達の方が 大人よりよほど強い。というより、無知ゆえにどんな不条理なことも受け入れるだけ かもしれないが。 「ガチャピン先生です。短い時間ですけど皆さんよろしくね」  自分より先ににこやかに自己紹介する宇宙人を見てガディムは感心していた。  同時に自分の自己紹介を考える。  しかしまとまらない。  そうこうしてるうちにガチャピンの自己紹介が終わってしまった。 「ささ、ガディム先生」 「う、うむ…」  ガチャピンに促されて前に出るガディム。  そして何をとち狂ったか、 「魔王先生ガディムだよ! 皆さんよろしくね☆」(ニ゛ッ゛ゴリ゛)  などと可愛げに微笑んで(本人が思ってるだけの可能性が高い)挨拶をした。  盛大にずっこける保母さん。  だが、保母さんの思いに反してその自己紹介は大好評だった。  ガチャピンも拍手をしている。  子供達の波がいっせいにガチャピンとガディムに襲いかかった。 『『『わーっ!!』』』 「わわわ、皆さん押さないで!!」 「ぬ、ぬおおおおおおお!?」 (さ、最近の子供の趣味って…解らないわ…)  保母さんは一人、頭を抱えていた。 ---------------------------------------------------------------------------- (な、何故私はこんな状態になっているのだ…?)  もう一度ガディムは問うた。  もちろん、それに答える者はない。 「くらえがでぃむー!!」  ぽかぽかぽかっ!! 「おわわ、イタイイタイ!!」  子供に殴られるガディム。 「わーい! まおうがでぃむをやっつけたぞー!!」 「うわー、けんたんすごいぉー」  どうやら「けんたん」とやらにやっつけられてしまったようだ。  ガディムはとりあえずその場にうつぶせに倒れておいた。 「うわーい! がちゃぴんせんせい、もっとすぴーどだしてー!」 「ははは、よーしそーれ」 「わーい!」  ガチャピンはガチャピンで、宇宙アイテムで大人気だった。  今は小型のホバークラフトに子供を乗せて空の散歩をしている。 「こうじくん、はやくこうたいしてよー!」  下から女の子のそんな声が聞こえる。 「やーだよー」 「うえーん!」  現在乗っている「こうじくん」とやらが女の子に意地悪そうに言う。  それを見たガチャピンはゆっくりと下に下りる。 「ほらほら、喧嘩はダメですよ。さ、こうじくんの番は終わりです」 「ちぇー」 「さ、つぎはみよかちゃんの番ですよ」 「うぅっ、はーい」  ガチャピンが優しく声をかけると、「みよかちゃん」も泣き止んでホバークラフト に乗りこんだ。 ---------------------------------------------------------------------------- 「今日はどうもありがとうございました」  まだ少し怯えていたが、とりあえず無害ということを理解したか、保母さんはガデ ィム達に頭を下げた。  園児達は普段より数倍エキサイトした遊びに疲れて、普段よりずっと早く、一人残 らず寝息をたてていた。 「いえいえ、あれだけ楽しんでもらえれば来たかいもありましたよ。ね、教頭?」 「う、うむ…」  にこやかに言うガチャピンに対して、ガディムは複雑な表情だった。  凄いおもちゃで園児を楽しませたガチャピンと、自分が凄いおもちゃになって園児 を楽しませたガディムの違いだろうか。  ガディムの体はあちこち落書きやら水鉄砲の水やらでよごれていた。 「申し訳ありません…」  そのガディムを見てもう一度頭を下げる保母さん。 「い、いえいえ…これも仕事ですので」  ガディムは言いながら、保母という職業は大変だ、と思っていた。 「さて、それじゃ失礼します」 「はい、ご苦労様でした」  最後にお互いに頭を下げ、ガチャピンとガディムは帰路についた。 ---------------------------------------------------------------------------- 「それじゃガディム教頭、私は道具を片付けてから戻りますので」 「ええ、お疲れ様でした」  帰路の途中で、宇宙アイテムを片付けに行くと言うガチャピンとガディムは別れた。 (やれやれ、戦闘の数倍は疲れるわ…)  体のよごれを綺麗にしながら帰路を歩くガディムは、そんなことを思っていた。  と、その視界のすみに、一つの人影を見つける。 (おや、あれは?) ----------------------------------------------------------------------------  ころころ… 「…」  ころころ… 「…」  みずかは、カメレオンのおもちゃを手のひらの上で転がしていた。  そのたびに出たり入ったりする舌を無表情で眺める。  ころころ… 「…」  この時間、授業が無かったみずかは、外で一人で遊んでいた。  そんなみずかの後ろに、大きな影が現れる。 「!?」 「しっかりつかまっていろ」  その影は、みずかをひょい、と抱え上げると、おんぶした。 「…ガディムおじさん?」 「そうだ」  自分を抱え上げた者の名を呼んでみる。  ガディムは軽く返事をすると、宙に浮いた。 「えっえっ?」  みずかは何が起きているのか把握しきれていない。 「…しっかりつかまっていろ」  ガディムはもう一度みずかに言うと、一気に上空高くまで浮上した。 ---------------------------------------------------------------------------- 「うわっ…すごーい!!」 「そうか…」  みずかはガディムにおんぶされて空を飛んでいた。  みずかの感嘆の声を聞いてガディムは満足そうにニヤリ、と笑った。  ”えいえんのせかい”で空を飛ぶことはあった。  しかし、風も、空も、陸も、その全てが”えいえんのせかい”のそれとは違った。 「…こーんなこともできるぞー」  音も無くガディムは巨大化する。  ガディムが空を覆う。 「あははは! すごいすごーい!!」  みずかは無邪気に笑う。 「…空を歩いてみるか?」 「えっ?」  ガディムが言ったことが一瞬理解できなかったみずかは、小首を傾げた。  それにかまわずガディムは次の行動を起こす。  やはり音も無く、ガディムの体から色が消えていき、下の陸が見える。 「わぁ、すごいよっ!」  みずかははしゃいでガディムの上を駆けまわった。  透明ガディムの上を歩くのは、ガディムの言葉通り空を歩いている気持ちになった。 「うわぁっ!」  と、みずかが足を踏み外す。  だが、すかさずガディムがラルヴァを放ちみずかを支えたため、大事には至らなか った。 「ははは…気をつけろ」 「う、うん…ごめんなさい」  素直に謝るみずか。  ガディムは微笑んでみた。  透明になっているのでみずかの目には見えなかっただろうが、それなりに自然に笑 えたのではないかと、自分では思った。 ---------------------------------------------------------------------------- 「ガディムおじさん、楽しかったよ、ありがとう」 「それはよかったな」  ガディムは嬉しそうにお礼を言うみずかの頭をなでてみる。  不器用なその手のおかげでみずかの綺麗にととのった髪がくしゃくしゃに乱れてし まったが、そのことを気にする者は誰もいなかった。 「さぁ、それでは戻るぞ」 「う、うん…」 「どうした?」 「あ、あの…また一緒に遊んでくれる…?」  上目遣いでガディムを見つめるみずか。  その瞳には期待と不安が入り混じっていた。  それを見たガディムは苦笑して、 「あぁ、暇なときはいつでも相手になるぞ」  と言って、もう一度みずかの髪の毛をくしゃくしゃにした。  その言葉を聞いたみずかは満面の笑顔で、 「ありがとうっ!」  と言った。 <おわり>
 ERRです。  いくらなんでもキャラ立てが無茶すぎ!?  掟破りの「ほのぼのガディム」です(爆)  …こんなガディムが書けるのは了承だけです。  それでもかなり無茶な気がしないでもないですが(笑)  この話のネタ出しは、以前書いた「4日目放課後・ONE」に聖悠紀さんがつけて 下さった感想、「みずかに遊び相手はいないのか」が始まりです。  聖悠紀さんに感謝します。
 ☆ コメント ☆ セリオ:「さすがはガチャピン先生。これなら、保父さんにだってなれますね」(^^) 綾香 :「うんうん。まったくだわ。      ……それに引き替え……」(−−; セリオ:「ガディム教頭だって頑張ってたじゃないですか。      ちゃんと子供たちと遊んであげてましたし」 綾香 :「遊んであげてたぁ〜? 遊ばれていた、の間違いでしょ」(−−; セリオ:「そ、そうとも言うかもしれませんが……」(;^_^A 綾香 :「そうとしか言わないって」(−−; セリオ:「あ、あはは……。      でもでも、最後はかっこよかったですよ」(^^) 綾香 :「まあね」(^ ^; セリオ:「ですが……ほのぼのしたガディム教頭って、やっぱり違和感がありますよね」(;^_^A 綾香 :「そうねぇ。『ボケボケしていないセリオ』と同じくらいの違和感が感じられるわ」 セリオ:「……は?」(−−; 綾香 :「う〜む。『ほのぼのしたガディム教頭』と『ボケボケしていないセリオ』。      どっちの方が、強い違和感があるかしら?      うむむむむ。これは難しい問題ね」(−−) セリオ:「……ううーっ。そんなの真剣に悩まないで下さい。お願いですから」(;;)



戻る