私立了承学園
5日目 2時間目 Kanon


「この時間は動物園の見学に行くぞ」  このほのぼのとした課題にもっともあわない教師の一人、柳川は俺達にそう言った。 心なしか嬉しそうにも見える。 「わぁ、昨夜お願いしたばかりなのにもう作ってくださるなんてさすがは秋子さんで すねぇ」 「はちみつクマさん」  そういや昨日佐祐理さんと舞が秋子さんに何か頼んでいたようだ。  そうか、一夜で動物園を作ったのか。だがもうそれくらいじゃ驚かないぞ。 「そんなわけ無いだろう。動物園の工事自体は数日前から行われていたんだ」  柳川が佐祐理さん達に冷ややかなまなざしを向けてあきれたように言う。  …それでも結局数日で作っちまうんだな…  まぁ、それはともかく。 「やっぱり了承の動物園と言うからには一筋縄ではいかないんでしょ? サファリパークを生身で横断とか」 「祐一君…それはイヤすぎよ…」  俺の言葉に心底イヤそうに顔をしかめる香里。ありえない話ではないからより一層 イヤだといった表情だ。 「ふん、ここは了承学園だぞ? そんなつまらんものなわけがなかろう」  しかし柳川は不適に笑い、俺の予想を否定する。  やはり、どことなく嬉しそうに見えるのは気のせいではあるまい。  というより、あのヒネクレ者が手放しに誉めるところがますますイヤな感じである。 「なぁ香里…俺なんだかスゲーイヤな予感がするんだが…」 「奇遇ね…あたしもよ…」  とりあえず無事に済むことを祈るぜ… …無理っぽいけど。 ---------------------------------------------------------------------------- 「あははー、可愛いですねぇ」 「…はちみつクマさん」 「ねこー、ねこー」 「名雪っ、それはトラよっ!!」 「…ゴリラですね」 「あぅっ、つば吐いた!!」 「あゆさん、これどうでしょう?」 「…じょ、上手だと思うよ。ブタさんかな?」 「狼です! そんなこと言う人嫌いです!!」 「うぐぅ…ごめん…」  予想に反してと言うかなんと言うか、割と、ていうかかなり、ていうか全然普通の 動物園だった。まぁそれならそれで大変よろしいのだが。皆楽しんでるみたいだし。  しかしまだ油断はできない。なんといっても柳川が誉めた動物園だ。あの狩猟者が こんな普通の動物園を楽しんでいるとは思えない。 「祐一…」  俺が考え事をしていると、舞が俺の名を呼んだ。 「ん、どうした舞?」 「…ゾウさん」 「ああ…ってうおっ!?」  舞が指差すほうを見て、俺は絶句した。  その方向にいた生物は、ゾウと言うには巨大すぎたからだ。  プレートに目をやると、 『マンモス』  と当たり前のように書いてあった。 「うわっ、やっぱりただの動物園じゃないんかい!!」 「空間転移に物質縮小の次は時間を超越したわね…」 「もうこれくらいでは驚きませんけどね…」  またまた俺、香里、美汐の三人はため息をついた。 「うわー、あれだけ大きいと皆一緒に乗れそうだねぇ」 「お鼻を滑り台に使えそうだね」  相変わらず名雪やあゆは論点がずれている。よく言えば適応力が高いとも言えるが。  その後もサーベルタイガーやらブラキオサウルスやら、しばらく学術的価値を無視 した過去の神秘の生物が続いた。  本来それらの生物が存在することに驚くべきなのだろうが、それらの動物がいるこ とに驚くものが一人もいない(俺含む)ことにこそ俺は驚いた。  …いや、予想通りだったと言えばそれまでだが。 「で、次はこれか…笑うところか、ココ?」 「さぁ…」 『くま』  そう書かれたプレートのついた個室の中、ガラス窓一枚隔てた向こう側には、どう みてもくまのぬいぐるみとしか思えない物が置いてあった。  プレートの説明を読んでみると、 「動物ではない」  と一言だけ書いてあった。 「ここって動物園じゃなかったんかい!!」  とりあえずつっこんでみる。 「でも祐一、動いてるよ?」  名雪の言葉にもう一度ぬいぐるみを見ると。  確かに動いていた。  …ていうか立った。  …ていうか暴れ出した。 「…怖ッ!!」  とりあえず率直な意見を述べてみる。 「うぐぅ…も、もしかして変な呪いとかかかってる?」 「あうぅぅぅぅぅ、叩いてる、窓叩いてるよぅ!!」 「…とりあえず逃げましょう」 「…同感ね」  そのあまりのイヤさに俺達はとっととその場を後にした。  太古の生物の次はどうやら妖怪シリーズらしい。  しばらくは呪われていると思われるぬいぐるみや動物の妖怪が続いた。  妖怪達の中には高い知能をもっているやつもおり、そういう連中は檻やら個室の中 やらではなく、普通に歩いていた。ある意味、居住空間のようでもあった。  …動物には違いないのかもしれないが、これは動物園というのだろうか? 「ッ!!!!」 「どうしたの名雪? ッ!! 祐一君、名雪を押さえてっ!!」 「え?」  突然香里が焦ったように叫ぶ。  そして名雪と香里の視線を確認すると…その先にいたモノを見て、俺はすぐに状況 を理解した。 「なっ!? 名雪落ちつけっ!!」 「うーーーーっ、離してよぉーーーーっ!! ね、ねこさんなんだよぉっ!!」 「ダメだダメだ! ただの猫でもダメなお前をあんなヤツに近づけられるかっ!」  その先にいたものは…  俗に言う「猫バス」だった。  あの妙に多い足だとか、窓だとかが微妙に不気味ではあるのだが、不思議な人気を もつアレだ。 「離してぇっ、ね、ねこバス乗るのーっ!!」 「だ・め・だーっ!!」 「お、落ちつきなさいって名雪っ!! もぅっ、なんであんなのがいるのよっ!」 「ふむ、確かこの辺の連中は大抵ルミラの知り合い、あるいはその紹介だと聞いてい るな。大方あれもそんなところだろう」  香里の叫びにそれまで静かだった(つーか忘れてた)柳川が律儀に答えてくれた。 「あぅーっ、ふかふか♪」 「ねぇねぇ猫バスさん、走ってみてよ!」 「だぁーーーーーーーーーっ! お前らもそーやって名雪を刺激するようなことして んじゃねぇーっ!!」  とりあえず普段の数倍の怪力を発する名雪を必死で押さえ込みながら、猫バスにい ち早く乗りこんではしゃいでる真琴とあゆに精一杯怒鳴っておく。  その後、全員で名雪を猫バスの見えないところまで引きずっていき、ようやく事態 は一応の解決をみた。 「お前達も大変だな…」 「そう思うなら手伝ってくださいよ…」  他人事のように(他人事だけど)言う柳川にとりあえず俺は疲れきったように文句 を言っておいた。いや、実際疲れたが。 「うにゅ…ねこバス…」 「わかったわかった…今度ちゃんとアレルギー対策を練ってから来よう、な?」 「うー…解ったよ、約束だよ?」 「おう」  落ちつきは取り戻したものの、まだ諦めてはいないようだった。まぁ当然か。  俺だって少しは興味があるからな。そこいらの乗り物よりずっと楽しそうだし。  そして更に動物園の奥に進んだ時、俺は強力なプレッシャーを感じた。 (こ、これは!?)  その時ふと横目に柳川の姿が見えた。  …笑ってる、笑ってるよ!! 不適にニヤリと!!  俺はその時絶対この後何かが起こると確信した。 「…何もいないよ?」 『ザーグリング』  そう書かれたプレートの貼られた個室には何もいなかった。  とりあえずまだ何も起きないか…そう思ったとき、俺は聞いた。見た。 「来たか…」(ニヤリ)  柳川がボソッと呟いて、彼の瞳孔が縦に裂けるのを!!  と同時に、先ほど感じたのと同じプレッシャーを感じた。  ちゃきっ  舞も何かを感じたか、剣を構える。  勿論、香里も真剣な表情になっている。  他の皆はどうか知らないが、俺達のただならぬ様子に緊張している。  無意識のうちに、俺と香里と舞で皆を囲むように立っていた。  …そして数秒の沈黙の後。  それは現れた。 ボコッ、ボコッ、ボコッ、ボコッ!! 「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」  地面からライオンくらいの大きさで、前足が鎌状になった生物、というか動物型エ イリアンとでも言ったほうが早そうな生き物が4匹現れた。と思う間もなくそいつら はすばやい動きで俺達に襲いかかってきた!  すかさず「不可視の力」で作り出した空気の弾丸をぶつける。 「gyyyyy!!」  悲鳴らしきものを上げて吹き飛ぶその生物。 「やったか!?」  しかし、その生物は態勢を立て直すと、再び飛びかかってくる。  だが、動きが直線的なため、簡単に狙い撃ちにできる。  再び空気の弾丸をぶつける。 「gyaaaaaaaaa!!」  再び悲鳴をあげ、そいつは吹き飛んだ。  だがそいつはまた態勢を整える。こちらも、すかさず力を集める。  だが次の瞬間、そいつは予想外の行動に出た。 ザゥッ!    ホンの一瞬ですばやく穴を掘り、地面に潜り込んでしまったのだ。  唖然として俺は香里と舞を見る。 「逃げた…のかしら?」 「…逃げた」  どうやら二人が相手していたヤツも穴を掘って消えたようだ。  もう一匹は…  …うん、流石柳川先生(爆)  …と、俺達が気を緩めていると… ボコッ、ボコッ、ボコッ!! 「なにっ!?」 「!!」 「…!」  出現した時と同様に前ぶれなく飛び出してくるやつら。  そして一瞬の後にはこちらに向けて駆け出していた。  気の緩んだ隙を突かれたため、反応が遅れる。  と、その時。 「ガオォォォォォォォォン!!」  獣の咆哮が聞こえた。 「はっ!?」  どうやらホンの一瞬気を失ったらしい。  他の皆も似たような状態になっていたようだ。  あゆや真琴はまだ目を回している。  そして、あの生物はいなくなっていた。 「ククク…ザーグリングとやら、なかなか珍しい命の炎だ…」  その柳川の言葉が妙に耳に残った。 「いやー、やはりストレス解消は狩りにかぎりますなぁ!!」  心底満足そうな、最高の笑顔(やや紫っぽい返り血付き)の柳川。イヤすぎ。どこ となく言葉使いも変だし。笑顔でそんなこと言われても不気味なだけである。 「なんで秋子さんはこんな危険な動物園を作ったんだ…」  誰にともなく、今の率直な思いを吐き出す俺。皆それに無言で頷いている。  そしてその俺の疑問に答えたのは柳川だった。 「いや、動物園を作ろうと言ったのは理事長だが、実際には各区画毎にそれぞれ専任 の担当者がついて作られたはずだが…」  なるほど…ここを作ったのは直接的には秋子さんじゃないというわけか。 「まぁそれはともかく、とっとと奥に行くぞ」  言って柳川はずんずん奥に入っていく。 「「「「「「「「「遠慮します」」」」」」」」」  見事にはもってこれ以上進むことを拒否する俺達。 「なぜだ? この奥には今の連中など比べ物にならんくらい狂暴で強力な連中がいる と思うぞ?」  なぜとか言うかこひつわ…  つーか、そんなこと言われればますます行くわけがないつーの。 「じゃっ」  柳川の言葉を待たずに、爽やかに片手を上げて俺はそれだけ言い、Uターンする。  皆も当然ついてくる。  まぁ、みすみす皆を危ない目にあわせるわけにもいかないからな。  その後の残りの時間は、不覚にも再び猫バス前を通ってしまい、再び名雪が暴走し かけるのを皆で抑えつけたり、呪いのぬいぐるみの前を駆けぬけてきたり、恐竜やマ ンモスといった連中を眺めたり…まぁおおむね充実していた。 「そういえば、あの襲ってきた生物はなんだったんでしょう?」 「さぁ…動物っていうよりはエイリアンだったな…ってことは」 「あの人、ね…」  あの区画を作った人物に目星をつけた俺達。  とりあえず、また後でなんか奢ってもらうことに決定。 「あ…そういえばザーグの地上種ってどんな固い地面でも穴を掘れるはずじゃ…あの 設備じゃ危険ですね、後で修正しなくては」  自分の宇宙船の片づけをしながら、ガチャピンはふと動物園で自分が担当した区画 のアラに気がつき、後で改善せねば、と考えていた。 <おわれ>
 ERRです。  猫バスは瑞佳とも絡ませたかったんですが…  話として折原家を噛ませるのが蛇足になりかねなかったのでやめときました。  今回は若干血なまぐさい部分がありますね。  久々に柳川が狩猟者です(妙な日本語) ※補足  ザーグリングってのは狂暴なエイリアンです。  自分達の種族以外の生物をほぼ無差別に攻撃します。  出展・・・BLIZZARD社「スタークラフト」  獣の咆哮・・・柳川の鬼の咆哮です…って言うまでも無い!?
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「ふ〜ん。楽しそうな動物園ねぇ」(^^) セリオ:「そ、そうですかぁ?」(−−; レミィ:「うん! とっても楽しそうだヨ!」(^0^) セリオ:「そう……かなぁ?」(−−;;; 綾香 :「な〜に言ってるのよ、セリオ。      とっても楽しめそうな場所じゃない」(^^) レミィ:「アタシもそう思うヨ」(^0^) セリオ:「うーーーん。どこがそんなに楽しそうなんですか?」(−−;;; 綾香 :「そんなの、決まってるじゃない」(^^) レミィ:「決まってるネ」(^0^) セリオ:「で? どこなんです?」(−−; 綾香 :「倒しがいのありそうなのが多いからよ」( ̄ー ̄)ニヤリ レミィ:「獲物がいっぱいいるからヨ」( ̄ー ̄)ニヤリ セリオ:「…………こ、この人たちって……」(−−;;;



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