私立了承学園
5日目 放課後 エクストリーム部


「それにしても…ホント、冗談みたいなところよね…」 「…の割には以外と落ちついてるな?」 「まぁね…あんたらと付き合ってればイヤでも適応力はつくわよ…」 「…どう言う意味だよ?」 「…あんたたち、自分らがどれだけ普通じゃないヤツの集まりか理解してる?」  その場の勢いでいきなり模擬戦から始まったエクストリーム部だが、今はティリア 達もやってきて、普段通りの練習が開始されている。 「まぁそんなわけだから、異世界がどうとか、魔王がどうとか言われたって今更よ」 「どんなわけだか全然わかんねーけどな」  ちょっと一息ついている坂下と浩之は、打ちこみなどをしている綾香達を眺めなが らそんな他愛ない話をしていた。  そんな時間を数分過ごす。 「さて…いつまでも休んでるわけにもいかないわね。ティリアさん、お願いします!」 「うっし、んじゃオレも…デュークさん、頼む!」  明確な時間が決まっていたわけではないが、二人は休憩を終え、立ちあがる。 「それじゃ私も一息つこうかしら…… 葵ー! あなたもこの辺で一休みしない!?」 「あ、はいっ!」 「お疲れさま、タオルです」 「サンキュ、セリオ」  浩之達が立ちあがるのが合図だったように、今度は綾香と葵が一息つく。  ビシッ  フッ 「はぁッ!!」  ズシン!! 「っと…なんだ、浩之達に負けたって言うから大したコトないと思ってたけど十分強 いじゃない」  手は抜かれていたものの、自分を狙ってくる木刀をすべて的確に捌き、絶妙のタイ ミングで正拳を打ちこんできた坂下に、その拳を左手で受け止めながらも、ティリア は舌を巻いた。受けた左手に重い衝撃が走る。 「いえ、まだまだです。あいつらには全く敵いませんでしたから」 「まぁね…なんといってもこの世界の勇者だもんね。ねぇ? 勇者浩之?」 「ティリア、頼むからその呼び方はやめてくれ…痛っ!」 「ほらほら、よそ見するなっ!」 「ちぇー…解りましたよっ」  よそ見してる間に小突かれると、浩之も気を引き締めてデュークの攻撃を上手に捌 いていく。  そんな練習を5分ほど続けた。 「はぁっ、はぁっ…ありがとうございました」 「いえいえ」  息を乱しながらも、ティリアに頭を下げる坂下。対するティリアはまだまだ余裕で ある。  あれからティリアは5分の間、徐々にレベルを上げていっていたが、坂下はやはり ほとんどの攻撃を上手く捌いた。 「でもホント大した物ね、自分より強い相手と闘っていなかった人とは思えないわ」 「まぁね、好恵はバカ正直だから練習だけは欠かしてなかったものね」 「誰が、バカだってっ!?」 「好恵」 「はっきり言うなっ!!」  息を切らしながらもバッチリ怒鳴る坂下。 「あはは、でもこれだけの実力者なら、あの時いてくれたらありがたい戦力になって たでしょうね」  そんな坂下に苦笑しながら、「ガディム事件」を思い出すティリア。 「そうねー、あの夏休みはいい経験だったわね、好恵も来ればよかったのに」 「それは、結果論でしょ? 部活も重なってたし、仕方ないじゃない」 「まーねー、言ってみただけよ」  現実的な坂下の言葉に綾香は肩をすくめおどけてみせた。 「それにしてもホントいい動きしてたわね、好恵、って言ったかしら?」 「はい」 「綾香たちもうかうかしてられないわよ? 追うものと追われるものとでは執念が違 うからね。まして、好恵はそういう執念は人一倍強そうだしね」 「まーね、良くも悪くも一直線だからね。ま、私も油断する気は無いけどね」 「悪かったわね…単純で」  坂下はジト目で綾香を睨む。 「あはは、まぁ、そうでなきゃ好恵じゃないわよねー☆ っとまぁ好恵からかうのは この辺にして…葵、私達も組み手しない?」 「あ、はいっ、がんばります!」  5分強の休憩を終え、綾香と葵も組み手を開始した。 (ふぅ…確かに、これだけの相手と練習してたんじゃ、私なんかよりずっと強くなっ て当然よね…)  一息つきながら、好恵は綾香たちの実力を裏付ける練習内容に納得していた。 (さて、型でもやろうかしら…… ? 誰か来た?)  組み手の相手もいないので、一人で練習を始めようとする坂下の目に、こちらへ駆 けてくる人間の姿が映った。  そして、その人物はすぐにやって来た。 ---------------------------------------------------------------------------- 「うわっ、もう始まっちゃってるよ!!」 「と、トーヤさん!?」  デュークとの組み手を終えて休もうとしていた浩之は、やって来た人物…藤井冬弥 を見て、間抜けな声を出す。  それほど予想していない人物だったのだろう。 「どうしたんですか、今日は?」  綾香とティリアも組み手を一時中断する。  浩之ほどは驚いた風もなく、しかしやはり意外だったのか、綾香も冬弥に問う。 「ん…まぁ、俺もちょっと心身ともに鍛えてみようかな、と思ってね」  冬弥はテレたように笑いながらそう言った。そして、全員を見回して、 「というわけで、よろしく頼むよ」  そう言って頭を下げた。 「う、うん、それはかまわないんだけどね…」 「どうしたの? ティリア」 「い、いやあの…」  突然胸元を抑えて気分悪そうにするティリア。 「お、俺も…」 「あ、やっぱデュークも?」 「そ、そりゃあな」  ティリアに呼応するかのように、デュークも手を口にあて、気分悪そうにする。 「どうしたんだ、二人とも」 「いや、ここに来る前にね…」 「ちょっとしたモノ食ってきたもんだから…」 「「気持ち悪くなった…」」  浩之の質問に答えて、仲良くうずくまるティリアとデューク。  そんな二人を見て皆はあきれるだけだった。 「ったく…二人仲良く無理してんじゃねーって」 「「め、面目無い…」」 「ま、そういうことならゆっくり休んでて。私達は私達で練習してるから」 「「そ、そうしてくれると助かる…」」  ティリアとデュークは二人仲良く休憩モードに入った。 「さて…顧問が休憩に入っちゃったから私達だけでやらないとね…それでもいいかし ら、冬弥さん?」 「ああ、もちろん構わないよ」  そして、生徒たちだけのエクストリーム部が始まった。 ----------------------------------------------------------------------------  30分後。 「トーヤさん、大丈夫か?」 「しょ、正直…かなり、ツライ…」  冬弥は膝をつき、肩で息をしていた。 「でも冬弥さんも大したものよね…浩之があれだけのメニューこなせるようになるま で2・3週間はかかったんじゃないかしら?」 「そーだな、それくらいだ」  綾香が本当に感心したように言うと、浩之も自分のことを思い出して頷く。 「2、2・3週間!?」 「え、ええ、そうです」  冬弥は、驚いたように叫ぶ。  綾香がちょっと驚いたように答える。 「そ、それを、俺は今日だけでやったの!?」 「ええ、だから凄いって言ってるんですけど…」 「ぐ、ぐふぅっ!!」  浩之の2・3週間を1日でこなしたことがよほどショックだったのか、あるいは実 際に体が限界だったのか、冬弥は後ろに倒れた。 「うわ!? と、トーヤさんしっかりしろー!!」 「も、もしかして2・3週間ぶんってのがよっぽどショックだったのかしら?」 「もしかしなくてもそれがショックだったんだと思いますっ!」 「だ、大丈夫ですよ、命に別状はありません!」 「そんなもん、別状あったら大変よっ!!」(ゲシッ) 「い、痛いですぅ〜…ここって蹴られるところですか!?」 「あはは、パニクってるわね…」 「そうだな…」 「いや、そうだなじゃなくて、顧問ならなにかフォローはなさらないんですか…?」 「「いや、こっちも動けないし…」」 「はぁ……」  結局3分後に冬弥が目を覚ますまで、藤田家の面々は半パニック、顧問と坂下はの んびり空気の中だった。 ---------------------------------------------------------------------------- 「全く…あまり無理しちゃダメよ?」  ティリアもようやく復活し、言葉だけは冬弥を咎める。  顔は笑っていたが。 「いいじゃないかティリア。男ってのは好きな女のためには無茶したくなるものなん だって。な、冬弥?」  デュークも復活し、面白そうにニヤニヤしている。 「あ、あはは…」  デュークの言葉に対して曖昧に笑う冬弥。 「あ、やっぱりっすか?」 「そうだとは思ってたけどね」 「何か決意のようなものを感じました」 「無茶は体に毒ですけど、立派なことだと思います」  …冬弥がみんなの為に頑張っていたことは、誰から見ても明らかだったようである。  すると冬弥は観念したように、ここへ来た本当の理由を語り出した。 「…皆は俺がいるだけでいいって言ってくれるんですけどね。いつまでも皆の言葉に 甘えてるだけで何も変わらないんじゃ俺が俺を嫌いになっちゃうから、そうならない ように自分を鍛えようと思って…ここへ来たんです」 「うん、それでもやっぱり彼女達にはあなたの無事が一番大事なんだから…余計な心 配かけないためにも、まずは自分の限界をしっかり知りましょう、ね?」 「……はい」  またまたにこやかに、言葉だけは冬弥を責めるティリア。  しかし冬弥はしっかり反省した。 「なんだかおまえ達に勝てなかった理由がわかった気がするよ」  部活を終えた帰り道。  冬弥、ティリア、デュークと別れ、藤田家と坂下は一緒に歩いていた。  坂下が突然そんなことを言い出した。 「え? それはとっくに解ってたんじゃないの?」 「ああ、確かに自分より強いやつと闘ったことがないと言うのも大きな理由だろうけ ど、それだけじゃなくて」 「ふむふむ」 「人の為に何かをやる…っていうのは、強いものなんだな…」  先ほどの冬弥と皆のやり取りを頭の中に思い浮かべ、しみじみと言う坂下。 「…あんたってやっぱりくそ真面目よねー…」 「なによ、それ」  そんな坂下を綾香は感心半分、呆れ半分といった表情で見やりながらしみじみと言 った。坂下は面白く無さそうに文句っぽい言葉を綾香に返す。 「そんな当たり前のこと今更言うからさ。空手ばっかりやってたからそういう気持ち にも気付かなかったんでしょ? ちょっと一休みして、友達と遊び歩いてみたり、テ レビやマンガでも読んだりすれば、おのずと解ってくることだと思うわよ?」  綾香は人差し指を坂下に見せつけるように立て、そう言い聞かせる。 「そう…か。そうかもね…」  坂下は綾香の言葉をかみ締める。  その様子が「くそ真面目」であることには気付いていないようである。 「まっ、誰かの為にって思うと、また一味違ってくるわけよ。ね、浩之?」  そう言って綾香は浩之の腕を取る。 「あっ、綾香さんずるいです! 私も!」 「あぁ! 私もっ!」  綾香の行動を見て葵はすかさず浩之もう一方の腕を取る。  出遅れたセリオは浩之の首にしがみつく。 「うわっ、お前ら、動きにくいって」 「へへ〜☆」 「うふふ」 「浩之さんの背中、大きいです」 「ったく、しょーがねーなー…」  始めは戸惑っていた浩之だが、嬉しそうな3人を見るとすぐに苦笑して、そのまま とても歩きにくそうに歩き出した。 「はいはい、ごちそうさま」  そんな4人を見て坂下は心底飽きれた様子でそう言った。  しかしその表情には、以前の侮蔑にも似た感情は全く含まれていなかった。 <おわり>
 ERRです。  冬弥が浩之達の部に、ってのは初めて冬弥が力のなさに悩んだ頃から考えていたも のです。  冬弥が部にやってくるのを主題にしたかったんですが…なんか別の部分に食われた 感が強いですね。無念。
 ☆ コメント ☆ 雅史 :「へぇ〜。坂下さんって『くそ真面目』なんだ。      あはは。なんか、僕みたいだね」(^ ^ゞ 志保 :(おいおい。自分で自分を『くそ真面目』って言うなよ)(−−; 圭子 :「そうかもしれませんね。くすくす」(^^) 志保 :(あんたも、素直に納得しない!)(−−; 雅史 :「そんなに笑わないでよ。ヒドイなぁ、圭子ちゃん。      僕、傷ついちゃうよ」(^ ^ゞ 志保 :(そういう台詞をニコニコしながら言っても説得力が無いって)(−−; 圭子 :「ご、ごめんなさい!」(−−; 志保 :(……って、真に受けるんかい、あんたは!?)(−−;;; 雅史 :「ウソウソ。冗談だよ、圭子ちゃん」(^ ^ゞ 圭子 :「あう〜。雅史さん、いじわるです」(*・・*) 雅史 :「あはは。ごめんね、圭子ちゃん」(^ ^ゞ 圭子 :「もぉ〜。雅史さんってばぁ〜〜〜」(*・・*) 志保 :(…………誰か、このバカップルをどうにかして)(−−; 雅史 :「圭子ちゃん……」(^ ^ゞ 圭子 :「雅史さん……」(*・・*) 雅史 :「……………………」(^ ^ゞ 圭子 :「……………………」(*・・*) 志保 :(はいはい。もう、好きにして。      それにしても、今回の話で、どうしてこんなコメントになるのよ?)(−−; 雅史 :「……………………」(^ ^ゞ 圭子 :「……………………」(*・・*) 志保 :(それ以前に、どうして、あたしはこんな所にいるんだろ?      はぁ〜、やれやれ)(−−;;;



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