理事長室では、臨時会議が開かれた。参加者は数少ないが、当事者ばかりだ。 「……由々しき事態ですね……」  事の報告を受けた秋子は眉をひそめた。最初の頃はそれもいいか、と思って楽しんでい たが、ここまで問題がこじれるとは思っていなかったようだ。 「2時限担当をイビルから私に回して下さい」 「いいでしょう……イビルさんには代わりに藤井家の担当に回っていただきます。当初藤 井家担当予定だったガチャピン先生は別クラスへ回しましょう」 「それから……誠家1時限は休講ですか?」 「多分そうなります。授業をできる状況にないでしょうね」  この場にいるのは秋子、ルミラ、イビルの3人のみ。 「じゃ、藤井家担当か……かったりぃなぁ……」  イビルがのそのそと理事長室を出ていく。  ルミラも後を追って、部屋を出ていった。 「……ふぅ……」  1人になった途端、秋子は深い溜息を漏らした。  私立了承学園   5日目2時限 「Heart To Heart」編  さくらもあかねも、もう教室内では一言も話さなかった。  ……やがて、彼がやって来ることは分かっている。  でも、その時どうしろというのか。普段通りになど、できそうにない。  がらり。 「!!」  慌てて顔を上げると、戸口にはルミラが立っていた。 「さ、授業始めるわよ……あら? 誠はまだなの?」  ……その顔を見ていると、さくらとあかねの中に沸々と怒りがわき上がってきた。 「あなたが……あんな予告状出さなければ……」 「まーくんだって……うちにいたはずなのに……」 「え? え?」 「粛正」 「決定」 『覚悟!!』 「い、いやあああああああ!!!!!」  魔族の名門、デュラル家当主をめった打ちにする人間が、そこに2人いた。  がらっ。 「はい、ルミラさん、何か用ですか?」  唐突に、エリアが教室へ入ってきた。 「……来た……わ、ね」 「えっ? あっ……」  どうやら、ルミラはこの238実習室に誰がいるかは教えなかったらしい。 「!!」  あかねとさくらの手が止まる。  沈黙。 「……エリア先生」  最初に口を開いたのは……さくらだ。 「わたしたちに、譲る気はないです」 「今の先生に、まーくんは譲れないよ!」  かなり強気に、2人は出た。 「エリア先生には、まーくんを想う人としての覚悟が足りないよ」 「わたしたちを敵に回す覚悟が、エリア先生にはありますか?」 「て、敵に回す……なんて……」 「そのくらいの覚悟がなかったら、まーくんを想う人として失格だよ」  あかねはもう一度「失格」という言葉を使った。 「……」 「……」 「……」  長い沈黙を破ったのは、扉の音だった。 「ん? どうしたんだ、あかね……さくら……エリア……?」 「何してんだよ?」  のんきそうな声の誠。対照的に暗い印象を漂わせるフランソワーズ。 「そりゃ予告状出したけどさ……別にエリアは無事だったんだし、いいじゃねえか」  それが問題なんじゃない!!  そう言いたい2人だが……誠を前に面と向かって言うのはできなかった。 「誠様」 「ん?」 「エリアさんを、どうされるおつもりですか?」 「は?」  唐突に聞かれて、誠には何の事やらさっぱり分からない。 「何の事だよ? フラン」  その瞬間、フランソワーズの表情が一気に……自動人形のために乏しいはずだが、それ でもあからさまに分かるほどに……不機嫌なものへと変わった。 「お、おい、フラン……」 「……本当に、気づかれていらっしゃらないのですか!?」  少しフランソワーズの声量が上がった。 「私は、誠様のその点だけが……嫌いです」  嫌い。  そんな単語がフランから飛び出すとは、誰も思っていなかった。 「エリアさんに色々と親切にして、親身になって、尽くしてあげて、それでいてエリアさ んの気持ちを一切知ろうともせず、答えようともしない……誠様らしいといえばそれまで ですが、私はその点が嫌いです」  ここまで固有名詞を出されれば……誠でも気づくだろう。それに彼は、昨日の4時限に フランソワーズのヒントからこの答えに到達しかけている。  ……誠はここにきて、ようやく質問を理解した。 「……」  その途端に、俯いてしまった。  誠には強力な優しさがある。だからこそ、自分の身を挺してでもさくらやあかねを守る し、エリアにだって親身になってきた。  もし今、エリアを受け入れたらどうなるか。  ……さくらやあかねが悲しむだろうか。  もし今、エリアをはねつけたらどうなるか。  ……エリアは悲しむだろうか。 「……さくら、あかね」  俯いたまま、誠が問い掛ける。 「お前ら、だから今朝はいなかったのか?」 「……そうだよ」 「お前らの結論は?」 「拒否です」 「!?」  誠は予想外だったらしい。慌てて2人を見た。 「まだ、エリアさんには覚悟が足りませんから」 「まーくんを想うんだったら、わたしたちを敵に回す覚悟がいるんだよ。エリア先生には まだそれがないから」 「……エリア。この言葉聞いて、どう思う?」 「……仕方のないことだと……思います……」  事実、エリアはそう思っていた。  抑えられない想いではある。でも、叶っては行けないのかも知れないと、心のどこかで 思っている。エリアはそう感じていた。 「……なら、今のところ……俺も、拒否だな」 「!!」  エリアの顔が真っ青になる。同時に、さくらとあかねも驚いた顔をした。  ……さくらもあかねも、誠が拒否なんていう……強い結論を出すとは思わなかったから だ。誠の優しさは2人が一番よく知っている。エリアを傷つけたくないと、誠が強く思っ ていることも知っている。  ……だから、保留のような答えを出すんじゃないかと思っていたのだ。 「さくらとあかねの言うとおり、まだ覚悟が足りてないぜ……エリア」 「……」 「さくらやあかねに拒否されても、それでも……って言うんだったら、俺も考えた。けど この程度で引き下がるんだったら……まだ、俺は認めない」 「……」 「けど……」  完全に俯いてしまったエリアの頭に、誠はぽんと手をのせた。 「もし、その覚悟ができたら……また言いに来いよ」 「……」 「俺は、待ってるから。さくらもあかねも、覚悟ができたなら認めるさ……ダメなのは今 だけだ」 「ちょっと、あなたねえ!! それでいいのっ!?」  ようやく復活したルミラの厳しい追及。 「……勘違いしないで下さい。俺はエリアを永遠にふったわけじゃない……おごりかも知 れないけど……エリアがもっとその想いを強くして、さくらとあかねを越えて俺を振り向 かせられるくらいになったら……俺も考えます」  それが誠の出した、結論だった。 「エリア先生……強敵になるのを楽しみにしています」 「でも、まーくんはそんな簡単には渡さないからねっ!!」  誠の出した結論に満足したのか、さくらとあかねはニッコリ微笑んだ。 「……はい……」  エリアは小さく頷くと、とぼとぼ教室を出ていった。  チャイムが、静かに鳴り響いた。 「あーあ……2時限おしまい。結局授業できなかったわね」  そういうルミラの口調は、どことなくほっとしたものだった。  後書き  ……いいのか!? 本当にこんな結論でいいのか!?  悩んでいても仕方がないので、投稿することにしました。  今後、落ち込み気味のエリアをフォローできれば、更にグレードアップしたエリアが帰 ってくるはずです……今までの構図を維持できると思いますが……  でも、何だかありきたりな結論になってしまったような気もしないでもないような(^^;                                      竜山
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「覚悟、ねぇ」(−−) セリオ:「覚悟、ですか」(−−) 綾香 :「う〜ん」(−−) セリオ:「う〜ん」(−−) 綾香 :「何というか……」(−−) セリオ:「これで……良かったのでしょうか」(−−) 綾香 :「う〜ん」(−−) セリオ:「う〜ん」(−−) 綾香 :「まあ、誠たちの言うことももっともなのよねぇ」(−−) セリオ:「そうですね。確かに正しい判断だとは思います。      でも……なにかが間違ってるような気もします」(−−) 綾香 :「う〜ん」(−−) セリオ:「う〜ん」(−−) 綾香 :「ありきたりだけど……今後の展開に期待、かな。      正直……今の状態では何も言えないわ」(−−) セリオ:「ですね」(−−)



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