了承学園5日目第1時限目 (まじかる☆アンティーク&NIGHT WRITERサイド)  …まあその他色々出てますけどメインはこの2家族ということで。でも芳晴とエビ ル出てないなぁ。 「皆さんおはようございます」 「あ、おはようございます秋子さん」  やや時間に遅れてきたものの、にこやかに挨拶しながら入ってきた秋子理事長に心 持ち背筋を伸ばしながら健太郎は丁寧に挨拶を返した。他の一同もそれに倣って頭を 下げる。 「さっそくですけど、結花さん?今、そちらのお店ではアルバイトを募集してるそう ですが…」 「え、ええ、まあ…それが?」  いかにもおっとりと頬に右手を添えて、秋子は微笑んだ。 「それで、学園事務局の方に色々問い合わせがあったそうで…この時間はとりあえず こちらで承った方たちの面接をしていただけないかしら?」 「えっ…いや、それは別にかまわないっていうか、むしろ望むところって感じですけ ど…いいんですか?こんなプライベートなことで授業を潰して」 「生活もまた学習の一つですよ。ではさっそく始めてもらいますか?一応の予定とし て、もう希望者の方にはこの時間に集合するように通知してますから。 …実は何人かはもう廊下で待っているんです」 「割と強引ですね…」  健太郎は頭をかきながらボヤいたが、別に本気で困っているわけでもない。 「じゃあ、さっさと始めるか結花?それでいいか?」 「いいわよー」 「ちょっと、ドキドキしますね」 「…フッ…」  少し嬉しそうに笑うリアンの横で、なつみが小さく空疎な笑みを浮べたのには誰も 気づかなかったが。 「それじゃ皆さん、順番に、1人ずつ中に入ってくださいな」  その秋子の呼びかけに、即座に教室の扉が元気よく開いた。 「みんな喜ぶ力こぶ!!!」  がたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!  入ってくるなりポージングを決めたダリエリに、宮田家一同は揃ってコケた。 「…ううっ…絶対まともな人はこないと思って心構えはしていたんですけど…」  少し口惜しそうにつぶやきながら身を起すなつみに、少し情けなさそうにみどりが 応じる。 「…なんか…いきなり濃いですね…」  そもそも人間ですらない。つーか鬼の幽霊。 「ふっふっふっふっふ…」  ぴくぴくぴく。  ふるふるふるっ。  そんな一同の様子を全く気にせず、どうやら一時的に実体化しているらしいダリエ リは上下に細かく大胸筋を振動させながらより胸を強調するようにポーズをとった。 「うりゅりゅ〜〜〜!乳首が気持ち悪く動いてるよけんたろ〜〜〜〜〜〜!!」 「口に出して言うなスフィー!余計気持ち悪くなるっ!」  がっくりと膝をつく健太郎に、ゆっくりとダリエリは語りかけてきた。 「健太郎殿。…貴殿は実に、運が良い」 「…こう、出会いたくもない存在と遭遇する機会に恵まれることが幸運と呼べるな ら、とてつもなく運が良いんでしょうけど…」  ぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴく。  軽く2メートルを越す巨大な体躯の各所の筋肉を蠕動させながら、ダリエリは笑っ た。見ている方はその圧倒的な筋肉に、見ているだけで暑苦しくなっているが。 「ふふふふふ…この美しい筋肉がっ!この究極の肉体が!僅か時給550円であなた 方のものにっ!」 「え、やっすーい」 「安けりゃいいってもんじゃないっスフィー!!」 「勝手に時給の額まで決めないでよっ!…いや、まあ、雇う時はもうちょっと色つけ るけどさ」  頭を抱える健太郎と結花から、ゆっくりとリアンは秋子の方に視線を向けた。 「えーと…あの、エルクゥってこういう方ばかりなんでしょうか?」 「ユニークでしょう?」 「ゆ、ゆにーく…」  ユニークだとか愉快だとかひょうきんだとか、そういう範疇とはちょっと違うよう な気がしたが、どこがどう、と言われると少し困ってしまうリアンである。 「いやいやいや、私も地球人を相手に商売をする以上、経営者として接客のノウハウ を学ぶべきかと思いまして」 「あ、ダリエリさんはサービス業を営んでいらっしゃるんですよ」 「サービス業って…」  そのまま絶句してしまうみどりを尻目に、和やかな雰囲気でダリエリと秋子は会話 を続けた。 「でもダリエリさん、ご自分のお店の方はいいんですか?」 「いやまあ、店は夕方以降から開店ですし、私共は睡眠を必要としないですから。我 らは狩猟種族としては宇宙でも類稀な生命体ですが、こういったことは全くの素人で すからな。日々学習に勤しまねば…」 「ご立派です、ダリエリさん」 「ふはは。何せ肉体を手に入れたあかつきには全人類は我らの獲物ですからな。地球 全土をエルクゥの狩猟場にするという名づけて“大量殺戮屠殺まほろば愛の園”計画 のための下準備として…」 「失せろ―――――――――――――!!」  どがっしゃああああああああああああああああんんんん!! 「おっぱああああああああああああああああああああああああああああ!?」  結花の蹴りを土手ッ腹に喰らい、ダリエリは教室の窓ガラスの破片を撒き散らしな がら外に蹴り飛ばされた。 「ああいう人は成敗しちゃってくださいっ!お願いですから!」 「つーかせめて書類選考の段階で飛ばしてくださいよ…」  肩で息をする結花と、泣きながら懇願する健太郎を交互に見比べて、秋子は小さな 声で言った。 「ダメですかやっぱり?」 「秋子さん、それって確信犯…」  なつみが、ぼそっと呟く。 「ったく昨日のヤクザといい、エルクゥってこんなんばっかか!?」 「バカばっかりですね…」   ***************  めきっ。 「ど、どうしたの千鶴さん?」  手の中で砕けたシャープペンシルを、自分でも不思議そうに見つめている千鶴に耕 一は声をかけた。 「あ、いや…わからないのですけれど、何だか急に腹が立って…」   *************** 「えーと、それじゃあ気を取り直して次の方どうぞ」  背後でラルヴァ達がガラスの破片を片づけているのを尻目に、秋子は再び廊下に声 をかけた。 「あう〜〜〜〜〜〜…秋子さん…」 戸口から顔だけ覗かせて少し恨みがましい目つきで一同を見渡し、しかしそれでも 観念したように真琴が入ってきた。 「どーしても面接受けなきゃダメ?」 「真琴ちゃん。祐一さんがせっかくお膳立てしてくれたんですから…」 「あう〜〜〜〜〜〜〜」 相沢家において、真琴は料理や掃除といった家事全般等、「仕事」と名のつくもの に関しては全くノータッチである。そういった経験や能力が無いということもある が、何よりも決定的に「やる気」がないのである。難しいことや力を使う仕事は面倒 くさがって最初からなげてしまうが、買い物のような簡単な仕事を頼んでも、自分の 欲求のままに目に付いたものを買って金を使いこんでしまう。一応本人に悪気は無い のだが、金銭感覚や責任感というものが皆無なのが致命的だった。 「あう〜、祐一、あたしは食べて寝て遊ぶのが仕事だっていったら殴るし」 「いや、俺も殴りたくなるけど」 祐一に深く深く深く同感する健太郎である。若輩ながらも経営者、お金を稼ぐ苦労 と言うのは身に沁みている。 「と、いうわけで真琴ちゃんの社会勉強ということでこちらを紹介したんだけど…」 「んー…秋子さん、そういう事情はまあ、わかるんですけど…」 少し返答に困りながらも、とにかく結花は真琴に問い質した。 「えーと、真琴ちゃん?真琴ちゃんはとりあえずどういう仕事がしたいの?」 「んーと…」 頤に指をあて、真琴はちょっとだけ考えると結花に答えた。 「まあ、肉まんがあって、好きなときにマンガ読めて、あと何かジュースでもついて る仕事ならそれでいいかな」 「…殴っちゃダメですか秋子さん?」 「殴っちゃっていいわよ結花」 ジト目で秋子に問い掛ける結花の隣で、同じ顔をしたスフィーが頷く。と、そこに みどりが苦笑しながら入り込んだ。 「…本人にやる気がない以上、無理に務めさせても良い結果は出せないと思いま す。…今回は縁が無かったということで…」 「…仕方ありませんね」 「あ、もういいの?じゃああたし帰るねー」 やや落胆している秋子に流石にバツが悪そうではあったが、明らかにホッとした様 子でさっさと出て行く真琴だった。確かに、これでは採用したところでどうにもなり そうにない。 「えーと…それじゃあ次の方、どうぞ」 やや重くなった場を和ませるように明るくリアンは廊下に呼び声をかけた。 「失礼イタシマス」 ペコリと頭を下げてから入室してきたのは、見知った顔だった。 「ああっ!マインちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!! !」 がしいっ! 「ハワワーーーーーーーーーーーーー!!!?」 ミサイルの噴射煙のように埃を舞い上げて、ほとんど音速じみたスピードで結花は 小柄なメイドロボを拘束すると、嬉しそうに頬擦りした。 「うううっ、かわいいわっ!やっぱりかわいいわよ!このホッペのすりすりがムニム ニでプニプニかと思うとムッチリしてスベスベでツルツルしてほんわかしっとりポ ニョポニョって感じだニョ」 「アウ、アウ、アウ、アウ、アウ」 「あー、結花、あのな…」 とりあえず、色々と突っ込むところはあったが、とりあえず健太郎は。 「その、語尾のニョってなんだ?」 「他にもっとツッコムところはないんかいっ!?あーもう結花いい加減に…」 「あ、これ良かったらどうぞ」 とりあえずツッコミの得物を探して辺りを見回すスフィーの隣で、誰かがトイレの スリッパを差し出した。 「あ、ありがと…いいかげんにしなさいっ!!」 スパーーーーーーーーーーーーーーーーン! 小気味良い音と共に結花の後頭部にスリッパ(W.C記入済み)がヒット!その弾 みで外れた結花の手から、ほうほうの態でマインが抜け出す。 「ダメですよマインさん、武器も持たずに正面から結花さんに近づくのは危険すぎま す」 「ス、スイマセン、リアン様」 「あたしゃ猛獣かいっ!!」 「…猛獣みたいなものじゃないですか」 結花には聞こえないようにポソリと呟くなつみの横で。 「聞こえないように言うあたり、根性悪いねなつみさん」 ガターーーーーーーーーーーーーーーーーーン!! 「あれ?」 一斉にズッコケてしまった宮田家一同を不思議そうに見渡してから、貴之は傍らに 立つマインに尋ねた。 「もしかして…この人たち突発性インキンタマ炎とか変な病気でも持ってるのかな ?」 「…イエ…ソウジャナイト思イマス…」 「うーーーーーーーん…」 マインとお揃いのメイド服を着た貴之は、腕組みしながら考え込んだ。 「…そうなるともはや肛門カタルしか考えられないな…かわいそうに」 「勝手に人を変な病気にかけるなーーーーーーーーーーーーー!!」 「つーか何の病気よそれ!?」 「問題なのはアンタの服装よっ!!」 健太郎・結花・スフィーのトリプル突っ込みに、貴之は心外そうな表情で自らのメ イド服の、ミニスカートの裾をつまんだ。 「メイド服って可愛いのに…」 「その意見には賛成するが、だからって男がミニスカのメイド服着るなっ!見苦しい から!」 「そうですよ貴之さん、ちゃんとムダ毛の処理をしないと見苦しいですよ」 「秋子さん、そうじゃなくって」 一応突っ込みは入れてから、あらためて健太郎は貴之に視線を戻した。途端に挫け そうになる。 「あー。…とりあえずどういうことか、事情を説明してもらえる?」 「ハイ。実ハ、今回ノ募集ニ、貴之様ガ申込ミサレマシテ」 「…えーっと…貴之さんは一応教師なんでしょう?そんなアルバイトなんて…」 「了承」 「トイウワケデ、問題無シトイウコトニナッテシマイマシタ」 「あ〜〜〜〜き〜〜〜〜〜こ〜〜〜〜〜さ〜〜〜〜〜ん〜〜〜〜〜〜〜〜」 顔に縦線いれて背中にオドロ線をしょった健太郎は、泣きながら秋子に向かって呻 いた。 「ひょっとして、秋子さんウチに何か恨みでもあるんですかっ!?」 「そんなわけないでしょう?私はただ、皆さんの希望が叶うように配慮しているだけ ですが…」 どうやら本気で言っているらしい秋子にもはや何を言う気も無くして、健太郎達は 頭を抱え込んだ。と、そこに貴之がヘラヘラ笑いながら口を開く。 「いやー。実は新しいギターが欲しくてさー。で、まあここはバイトでもしようか と…あ、コンビニでならバイトしたことあるけど?」 疲れ切った顔を結花は上げると、嫌そうにメイド姿の貴之に視線を向けて、言っ た。 「…そーいや、柳川先生はそのアンタのキテレツな格好に何も言わなかったの?」 「ん?柳川さん?まあ、最初はちょっと驚いてたけどね」 「思ワズ顔面ヲ壁ニブツケテマシタガ」 「でも、別に変だとかそういうことは言わなかったな」 「言イタイ事ハ、タクサンアッタミタイデスケド」 「で、がんばれよって言って応援してくれたよ」 「血ノ涙流シテマシタ…」 ぽん、とリアンはマインの肩を叩いた。 「マインさん…挫けちゃダメよ?」 「アリガトウゴザイマス、リアン様」 「はっはっはっ。…なんか何気にヒドい事言ってない、君たち?」 無駄に爽やかな笑顔を見せる貴之は、どこまでも無邪気ではあった。周囲の人間は 頭痛に悩まされていたが。 「いやー。マインもだけど、やっぱりメイドさんっていいよね。こう、くるくると立 ち回る姿ってのがいかにも働き者で、健気で、かわいくって。で、まあ、マインのメ イド服を見ていたらこう、着てみたくなってさー。…健太郎君、君も男ならこの気持 ち、わかるだろ?」 「同意を求めないでくださいっ!」  実はちょっぴりわかってしまった健太郎だったが、それを言ったら絶対蹴られるに 決っていたので黙っていた。 「えーと…まあ、まともな格好してくるなら考えてもいいんだけど…つーかマイン ちゃんが来てくれるんならアンタなんかどっかその辺のスミで座ってても。漬物石の 代りくらいは勤まるだろうから…」 「結花さん、正直でひどすぎますその意見」 「そうよね。やっぱりマインちゃんだけ来てくれた方が後腐れなくていいし。いっ そ、柳川先生の所からウチに鞍替えしない?もう毎日かわいがっちゃうから」 「お断りいたします」(0.05秒)  わざわざデータロードまでして、速攻で拒否するマインである。 「ううっ、わかっちゃいたけど少しは悩んでくれてもいいのに…」 「拗ねてんじゃねーよ結花。で、どうする?貴之さんは不採用?」 「…マインちゃんがついてくるっていうのがネックなのよねぇ…グリコのオマケのよ うなもんで、オマケがメインなんだけど…うーん…メイド男なんて欲しくないけどメ イドロボは欲しいし…でも…」 「…とりあえず、保留ってことでいいですか?」  何やら葛藤してブツブツ非礼なことを呟いている結花からぎこちなく視線を外し て、健太郎はそう問い掛けた。が、貴之の方はあっさり頷く。 「ん、別にいいよ。選択権は君達にあるんだからね。…まあ、前向きに検討してくれ ると嬉しいな」  そう言うと、マインと共に一礼してから貴之は出て行った。こういう礼儀はちゃん と守っているのだが。 「やっぱりどっか、変なのよねぇ〜」 「この学園って変人の巣窟だもんね〜。あれくらいはまだ、おとなしい方だし」 「…ううっ。すると私は変人の巣窟の元締め?つまり変人女王?」  結花とスフィーの言葉に、なにやら傷ついたように拗ねる秋子である。そんな秋子 に、そっと健太郎は声をかけた。 「秋子さん、まあそう気にしないで。それより、次の面接にしましょうか」 「否定はしてくれないんですね、健太郎さん。…まあいいです。それでは次の方、ど うぞ」  …………………。  しーーーーん。 「あれ?ひょっとして、これでもう終りなのー?」 「いえ、まだ御二人いらしゃるんですけど…」  スフィーの問いに、秋子が首を傾げながら呟いた…その時! 「カァアイザァアアアアアア……コリンちゃーーーーーーーーーん!!」  どりるるるっ!!  両手に装着したドリルのみならず、自ら回転しながら床を突き破ったコリンは、そ のまま空中でゆっくりと回転しながら言った。 「マーク2!!」 「わからんわっ!!」 「どうでもいいけど何故まわる!?」  空中から健太郎と結花に――回転は止めたが――視線を向けるとコリンは重々しく 口を開いた。 「だってドリルは回るから」 「なるほど」 「なるほどじゃないでしょ秋子さんっ!…そもそもそのドリルはなんなんだよ!?」  すうっ…と、虚空を見つめてコリンは少し間をおいてから、言った。 「…銀の螺旋に思いを込めて。唸る正義の大回転!ドリル少女スパイラル・コリン、 嵐と共に只今見参!  唸る!回る!軋みを上げる!  今誕生する学園のニュー・スーパーヒロイン、らぶりーぷりちーエンジェル・スパ イラルコリン、スパイラルコリンの活躍にご期待くださいっ!」  …………。 「ここで次回に続くとおいしいよね」 「全然わかんねーーーーーーーーーーー!!」 「それよりカイザー・コリンMK2とスパイラルコリン、どっちが本名?」 「…一応、カイザー・コリンかな。スパイラルの方は実はマネだし」  ホバリングが疲れたのか、着地したコリンは頭を掻こうとして、両手に装着したド リルに気づいてそれを止めた。 「ちなみにドリル製作協力は来栖川重工学園別室ね☆」 「なに考えてんだ来栖川―――――――――――!!」 「バカばっかりだ…本気でバカばっかりだ…」  ***********  めきっ。  もひっ。 「…綾香様、どうかなさいましたか?」 「ど、どうしたんだよ先輩?大丈夫?」  思わず握りつぶしてしまったシャーペンを不思議そうに眺める綾香と、力を込めた ものの逆につき指してしまった芹香をセリオと浩之はそれぞれの表情で見つめた。 「あ、いや…なんか急にムカついて」 「…………」(コクコク)  *********** 「MK2は、MK1で判明した過大な重量によって機動性が損なわれるという欠点はとり あえず置いといて」 「まずそこから改善しろよオイ!」  フフン、と鼻で笑いながら妙なポーズをとると、コリンは話を続けた。 「より重武装化することによって攻撃力と破壊力を強化!ざっと当社比2.24倍! 東京ドームなら五つ分!」 「何が基準何だか」 「ちなみに高さは東京タワーの6倍ね」 「だーからわかんねーって。人の話をきけよ、おい」 「まずはシークレットウェポン其の1!ヘッドドリル!!」  掛け声と共に、コリンの頭の、アクセサリー代わりにつけているメガネのレンズ部 分がドリル状に隆起した。 「これで頭上の守りは完璧!更に!遠距離戦用シークレットウェポン其の2、おっぱ いドリ…」 「この大馬鹿―――――――――――――――――――――!!!」 「ぱぷううううううううううっ!!!?」  いきなり床を透過して現れたユンナの鉄拳が顎に炸裂し、コリンの身体はきりもみ しながら床に叩きつけられた。 「なっ…なにいきなり床から出てきて受けを狙おうなんて頭悪いことやってんのよこ の性悪女!!」 「あんたもだあんたもだ」(×6) 一斉に突っ込む宮田家一同である。 「んなことはどーでもいいのよっ!それより!またバカなことやってんじゃないかっ て心配になって来てみれば期待通りにバカやってるし!…あんたねぇ、一体何をしに きたの!?」 「バイトの面接」 「…いや…その通りなんだけど…なんかもう既にその言葉が虚しいんですが」 コリンの言葉に滂沱しながら呟く健太郎だった。そんな健太郎に少し申し訳なさそ うな視線をチラリと送ってから、ユンナは頭痛そうに両手ドリルのカイザー・コリン に顔を向ける。 「…一応はわかってるみたいじゃない。じゃあなんでそーいう格好してるわけっつー かドリル!?」 「あのね、ユンナ」 意外に神妙な顔で、コリンは 彼女なりに真面目に答えた。 「あたしも、まあつらつら考えてみたわけよ。やっぱりちょっとだけ勝手に芳晴のお 財布からお金借りちゃうのはまあもしかしたらほんの少しだけ悪いことかもしれない んじゃないかっておぼろげには感じないようなそうでないような、まあとにかくそん な感じー?みたいな」 「みたいなー、ってもう懐かしいわねそれ」 「ユンナさん、突っ込むところはそこだけじゃないと思うんですけど」 「で、まあ、バイトするからにはやっぱり受かりたいじゃない?」 「ま、まあ、そうよね」 「だからぁ…やっぱここは第一印象でインパクト与えておきゃーもう採用されたも同 然!!」 ぐがきゃっ!! 「短絡すぎるのよあんたはっ!ただでさえ一人で天界の恥をさらしまくっているって いうのにっ! どーしてそういうことばっかするのよっ!なーにが面接なんて一人で楽勝よ頭に虫で も涌いてんじゃないの!?」  ゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲ シゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲ シゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲ シゲシゲシゲシ!!! 「ああっ、ユンナその野性的なヤクザキックは…イタイってマジ痛いってゆーか死 ぬ、死んじゃううううううううううううううううううう!!」 「死ぬ?」  ピタリ、と蹴りを止めて、ユンナは呟いた。唖然として二人を見守る宮田家一同の 視線に気づいた様子もなく、ユンナは静かに両手を広げた。  グニャリ――  その掌に、空間に、波紋が広がる。途端、コリンの顔が真っ青になった。 「死ぬ?死ぬですってコリン?…いいえ、死ぬのはこれからよ…」 「い、いやあああああああああああっ!?ヘル&ヘヴンはちょっとシャレになんない わよ性悪ユンナ!?」 「誰が性悪かああああああああああああああああああああっ!!」  ユンナさんです。  健太郎達が心の中だけで揃ってそう呟いたと同時、ユンナの両拳が組み合わされ た。守護の左手、破壊の右手。二つの力が一つになる。 「少しは反省しなさあああああああああああああああああああいいいいっ!!」 「反省する前に死んじゃうって―――――――――――――――――――!!」  床を爆砕しながらその破片を撒き散らして突進するユンナの拳がヒットし、破壊の 閃光と轟音が全てを飲み込んでいく中、そんなか細い悲鳴が聞こえたような聞こえな かったような。  …………………。 「ふっ…」  もはや見る影も無く破壊し尽くされた教室を見渡し、ユンナは一人寂しい笑みを浮 べた。 「争いって、いつも空しい…」 「…だったら善良な一般市民を巻き込まないで欲しい…」  ぼこっ、とガレキの山から顔を出して、健太郎が呟いた。その隣でやはり同じよう に顔を出したスフィーとリアンの姉妹が半眼で頷く。 「あらあらあらあら、また見事に壊しちゃったわねぇ」  やはり同様にぼこっ、と顔を出した秋子が感心したように微笑んだ。 「ああっ、もうなにがなんだか…」 「まあ、こんなことになるんじゃないかと思ってましたけど」  その背後で、似たりよったりのみどりとなつみが完全にあきらめた口調でため息を ついた。 「まーったくやり過ぎなのよ馬鹿ユンナ」  やっぱりボコッ、と顔だけ出して案外元気そうにコリンが顔を出した。 「あああああああっ!!だから耐久力だけはあるギャグキャラって嫌なのよっ!?… やっぱり確実なのは熱湯しかないわね…」 「あたしはゴキブリかああああああああっ!!」 「…もう、どうにでもして…」  元気よく口ケンカを始めた二人の天使に、もう健太郎は何をする気も無くしてうな だれた。  と。 「ふっふっふっふっふっふっふっふっふ…」 「はっ!?この地獄の底から聞こえてくるような無気味な笑い声はっ!?」 「姉さん。…結花さんだと思うんだけど」  と、リアンが恐ろしそうに周囲を見回した時である。 「うぉりゃあああああああああああああああああああああああああっ!!」 「「どひいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!?」」  いがみあう二人の足元で、爆発のような勢いで瓦礫が撥ね跳んだ。その余波でコリ ンもユンナも思わず転んで座り込んでしまう。  そして舞いがった埃の中から、完全に据わった目つきの結花が、ゆっくりと現れ た。 「い、いかん…!あの目は攻撃色だっ!」 「攻撃色!?」  とか言ってる健太郎達を完全に無視したまま、血に飢えた猛獣のような凄みを浮べ て結花は二人の天使を睨みつけた。 「……決めたわ」 「え、えーと」「な、なにを?」  その迫力に完全に呑まれて、声まで青ざめさせたコリンとユンナ。思わず互いの手 をとりあったりしている。 「人の迷惑かえりみない、って点ではあんたら同レベルみたいね、どうやら」 「あら、イっちゃってる割には冷静かつ的確な観察」 「秋子さん、そんな呑気なこと言ってないでもーちょっと下がった方がいいですよ。 危ないから」 「えっ?えっ?えっ?」  そろそろと安全距離をとっている宮田家の面々を途方に暮れた顔つきで見回し、二 人は期せずして同時に結花に視線を戻しかけて。  ビュッ!!  二人の眼前で空気が裂けた。  結花のハイキックで、彼女の背後でいまだ煙のように立ち込める埃が「切り裂かれ る」のを、コリンとユンナは信じられないように呆然として、ただ見つめた。 「…あんたらには、この落とし前をつけてもらうためにウチでしばらく働いてもらう わよ。…いいわね?」 「え、えーと…確かにアタシは一応バイト募集で来たんだけど…」 「あ、あの、なんでこのバカはともかくあたしまで…」 「返事はハイ、でしょ!!」 「「は、はいっ!!」」  思わず正座して頷いてしまう二人。そしてこの瞬間、「Honey Bee」の新ウェイト レスが決定した。 「「「「「「…やっぱりこわい…」」」」」」  秋子まで一緒になって、異口同音に一同は呟いた。  と、その時、健太郎の胸中に軽い疑問が浮かび上がってきた。 (あれ…?さっき秋子さんあと2人いるって…1人はコリンさんとしてもう1人は… ?)   *************** 「ごめんなさいね雪音さん。秘書みたいなことまでさせちゃって」 「おかまいなく。こういった仕事は得意ですから」 「秋子ったら勝手なんだから…新しい家族の面接行ったその足でそのまま授業にまで いっちゃう普通?」 「…それだけ教育熱心ということだと思いますが」  たまたま自分の仕事の書類を届けにきたものの、雑然と書類が積み重なってしまっ た理事長卓を見かねて、雪音はそのまま理事長室に留まっていた。部屋の主である秋 子は現在授業に出ており、今は校長のひかりが書類の決裁を代行していた。…という より押付けられていたのだ。  サテライトサービスを搭載したHM−13型はオールマイティに職務をこなせるが、 元々経理担当で現在はオーパーツ調査業務にあたっている雪音は、その蓄積学習も あってこのような仕事は得意である。テキパキと書類を処理していく様は見事の一言 につきた。 「なるほどねぇ…HMシリーズが評価される理由がよくわかるわ」  少し余裕ができてホッとするひかりの目の前で、それまで遅滞無く動いていた雪音 の手がピタリと止まった。その無表情な顔に困惑があるように見え、ひかりは怪訝に 思いながら問い掛けた。 「…どうしたの?」 「…いえ、“Honey Bee”バイト募集に寄せられた履歴書なんですけれど…」  どれどれ、と受け取ったひかりは上から順に履歴書を捲っていった。 「ダリエリさんに真琴ちゃん、…阿部先生!?なに考えてるのよ一体…あとはコリン ちゃんか。まあ無難かな…」  そして、ひかりの手も止まった。凍りついたひかりの横顔を、心配そうに雪音が覗 う。  ひかりの手の履歴書に貼り付けられた、インスタント証明写真は、非常に見慣れた 人物のものだった。 「…水瀬秋子、職業・了承学園理事長、希望時間週三日、時間帯は要相談、年齢 は…」  くっ、とひかりの喉が鳴った。 「年齢は、花も恥らうじゅうななさいいいいいいいいっ!?それじゃあ名雪ちゃんは あんたが0歳の時に産んだ子かあああああああああああああああああっ!!」 「サバいうなこのやろー、の世界ですわね」  若いくせに何故か植木等を熟知している雪音だった。でも秋子さんならそれもあり かも…いや、さすがに無茶か? 「ふっふっふっ…あたしにこんな面倒な仕事押し付けておいて、自分は気楽にバイト 応募とは…しかも年齢を偽って」 「なんだか、年齢を偽ってる方に重点が置かれてるみたいですけど…」 「一回死んでみる?秋子…」 「…こわいからやめてください、ひかり様…」  その時、唐突に理事長室の扉が開いた。 「やっほー、ただいまひかりん〜♪」 「ああっ、なんてバッドタイミング…!」  ムンクの「叫び」みたいな顔になった雪音の悲痛な呻き声は、ただ、空しく響くだ けだった。   *********** 「ユ、雪音サン!?一体ドウシタンデスカ!?」 「知らない方が幸せです、マリナさん…」  服のあちこちから硝煙をたなびかせ、1時限目終了間際になってようやく帰ってき た雪音は、何があったのか、誰にも喋らなかったと言う。 (強引に終わる) 【後書き】 時間帯的には既に5日目第1時限目番外編で秋子&ひかりは出演しているのです が、既に他の時間もこの二人は何らかの形で関わっており、苦悩の末この時間に押し 込むことにしました。まあ、この時間のAIRメンバーのお話は時間割的には1時限目 という時間である必要性も、また作中の時間帯も特に述べられていないので強引にこ れは5日目のどこの時間でも良い話だ!仮に朝の時間帯の話としてもまだ早朝で、 帰ってきてから少し遅れて秋子さんは宮田家にやってきたんだ! …と、自分を誤魔化して(爆笑) ダメですか? 出番の多いキャラってこれだから使いにくいや。(;;  とりあえずコリンのバイト就職ってことで。なんかついでにユンナまで就職してし まいましたが。  でもユンナがウェイトレスなら通っちゃうよ、私。釣り目でショートでしかも天使 だ(爆)  バイトネタ、ってことでは他には千沙と、なんといっても理緒がいるわけですが… ドジ、ってことでネタ被るし、今更って感じですし、分量が多くなりすぎるのでカッ ト。それに当たり前すぎるかな?  と、いうわけであまり当たり前でないキャラをチョイス。なおかつ自分が動かしや すくてあまり他人が使いそうにないキャラってことで。…結果的にやっぱりマイン出 てるし(苦笑)  私はあまり秋子さんは使わないんですが、一応自分だけの取り決めごととして、秋 子さんをあまり「超越者」にはせず、ジャムネタはなるべく使わないよう心がけてま す。  秋子さんが出てきた時点で「あ、ジャムだな」と思われるのは嫌ですので。  んー、そのうちゲームレビューで「ドリル少女スパイラル・ナミ」投稿してみよっ かな?(未確定)  まあ、ちょっとだけ感想述べると、設定ほどには話はぶっ飛んでなくてちょっと肩 透かしでしたね、個人的には。もっとドリルな話かと思ってたんだけど。
 ☆ コメント ☆ ユンナ:「……………………」(ーーメ コリン:「どったの、ユンナぁ? 怖い顔しちゃって」(^0^) ユンナ:「……………………」(ーーメ コリン:「ん? ん? ん?      どうしたの? お姉さんに言ってみそ」(^0^) ユンナ:「『言ってみそ』じゃなーーーい!!」凸(ーーメ コリン:「わ」(@◇@;;; ユンナ:「全部……ぜーーーーーーんぶ、あんたのせいでしょうが!!」凸(ーーメ コリン:「へ?」(@◇@;;; ユンナ:「……ったく、どうしてあたしまでバイトなんか…………ブツブツ」(ーーメ コリン:「なーんだ、そんなことか。いいじゃない別に」(^0^) ユンナ:「むっ」(ーーメ コリン:「きっと楽しいよ、喫茶店でのバイト。      だ・か・ら、結果オーライよ」(^-^)v ユンナ:「……こ、この、超お気楽極楽脳天気楽観天使がーーーっ!!」凸(ーーメ コリン:「そんなに褒めないでよ。……照れちゃうじゃない」(*^^*) ユンナ:「……………………」(ーーメ



戻る