私立了承学園  5日目3時間目  相沢家

 

 

 

「この時間は特撮ものだ。」

授業担当の久品仏大志が黒板に大きく『特撮もの』と書く。

「・・・どういう意味だ?」

相沢家の中で、唯一変身技能をもつ祐一がジト目で大志を見る。

ちなみに、今回の大志の服装はいかにも『悪の親玉です』とか言うようなマントを羽織っている。はっきり言って、

似合いすぎである。

「今回はとある特撮ものの熱烈なファンから依頼を受けてな。一度でいいから、カノンライダーの特撮を

見たいという意見が我が輩のネットワークに入ってきたのだ。」

「いったいどこのどいつだ、そんなものを依頼するのは。」

「ふっ。クライアントの名前は秘密だ。」

嫌そうな顔で言う祐一に、大志は余裕綽々の表情で答える。

「まぁそんなわけで、この授業は特撮ビデオ『カノンライダー危機一髪』の収録をする。」

 

 

 

 

 

「古来より、特撮ものには二つの必要不可欠なものがある。・・・わかるかな?マイブラザー祐一。」

特別撮影所に移動した後、大志は相沢家の面々に尋ねる。

「知るか、そんなもん。」

「変身する主人公と悪役の存在・・・ですね。」

祐一が大志に即答した後、美汐が冷静に答える。

「うむ、正解だ。」

美汐の答えに大志は満足そうに頷く。

『・・・いつも漫画ばかり読んでいる真琴ならともかく、なぜ美汐が即答できる?』

祐一は心の中で何気ない疑問を呟く。

「まさか、私たちにその悪役をやれって言うんじゃないでしょうね・・・・」

香里が心底嫌そうに言う。

「ふっ。そのような単純なことをこの我が輩がするはずが無かろう。そちらの方は、我が輩がしっかりと確保

しておるわ。」

相沢家の妻達がおのおのが安心したような表情をする。

「それではマイシスターズは、早速この服に着替えてもらいたい。」

大志はどこからともなくいろいろなコスチュームをそれぞれに配っていく。

「・・・なに、これ。」

舞が渡された服を広げる。

「我が輩が独自のネットワークを駆使して手に入れた、『耐火耐冷耐刃スーツ』だ。その名の通り、燃えない・

冷めない・破けないと、ご近所の主婦の方々に大人気の一品だ。」

「近所の主婦って・・・・」

名雪が疑わしそうに、手もとのスーツを見る。

「では次ぎに、悪役の方々を紹介しよう。カムヒァー!!!」

大志が高らかに叫び、両手を大きく打ちならす。

すると、撮影所の後ろから誰かが出てくるのが分かる。

祐一達は後ろを振り向き・・・・

「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」

一様に、信じられないものを目にしたように固まった。

「我々ガ、今回ノ悪役デス・・・」

先頭のそれが恭しく頭を下げる。

「ら、ラルヴァさん・・・ですよね?」

栞が疑わしげに尋ねる。

そう、悪役の方々とはラルヴァの皆さんである。

とはいっても、その事は相沢家の面々のみならず、大抵の者なら予想がつくだろう。

が、完全に予想外のことが一つ。

「おまえら・・・・その色は・・・?」

「ウウウ・・・・ガディム様と大志殿ニ無理矢理・・・」

祐一の指摘に先頭の赤いラルヴァが嗚咽を漏らす。

赤ラルヴァ、ではない。赤いラルヴァ、である。

お分かりになられたであろうか。

通常、赤ラルヴァとは、翼の部分だけが赤い。が、このラルヴァは全身、余すところが無く赤いのだ。

さらに、その赤いラルヴァの後ろには黄色いラルヴァ、緑色のラルヴァ、シルバーのラルヴァなどもいたりする。

ざっとその総数、256体。そのどれもが違う色で塗装されている。

「大志・・・・これはあんまりにもあんまりだろうが・・・」

祐一がげんなりした表情で文句を言う。

「これは話の構成上で必要なのだ。」

「必要・・・?」

「つまりはこういうことだ・・・フォーメーションA、開始!!」

大志の号令と共に、大群の中心にいた白いラルヴァへ他のラルヴァ達が殺到する。

「な・な・な・な・な・・・・・・」

目の前で繰り広げられている光景に、祐一は言葉を無くしていた。

あろうことか、目の前のラルヴァ達は融合を始めたのだった・・・・煙幕もなしに。

目の前の光景を説明すると・・・・ラルヴァの形をしたスライムが一つになっていく、とでも言えばいいのだろうか。

筆舌しがたい光景が展開されていた。

「うぐぅ・・・なにあれ・・・」

「あんなものみたら・・・当分笑えないよ・・・」

「あんな光景・・・人類の敵です・・・」

「地獄絵図も真っ青ね・・・」

「あうー!ドロドロのグチョグチョが・・・・」

「真琴、それ以上は言わない方がいいです。」

「・・・・・絶対に、間違っても、何が起きても、相当に好きじゃない。」

「あ、あはは・・・・」

他の面々もほぼ同意見のようである。

 

 

 

かなりの時間の後ラルヴァ達の融合はある一つの形に安定してきた。、

「お、どうやらそろそろ終わりのようだぞ。」

控え室の祐一がその気配を察したのか、栞が持っていたトランプを回収し始める。

融合にかなりの時間を要することを悟った祐一達は、目の前の光景から逃げるように控え室へ逃げ込んでいた。

「うぐぅ・・・本当に?」

あゆが疑わしげに尋ねる。

「ああ。ちょっと確認して・・・・」

祐一が、控え室のドアをのぞき込み・・・・慌ててドアを閉める。

そのまま控え室のテーブルに戻り、しまったトランプを再び配り始める。

「・・・?どうしたの、祐一。」

「・・・何を考えているんだ?あの馬鹿オタクは・・・」

名雪の言葉が耳に入っていないのか、ぶつぶつと呟きながらトランプを配り続ける。

と、そこへ・・・・

『マァイ・ブラザァ、アーンド、マァイシスタァズ!準備は完了したぞ!』

大志の大音声が体育館中に響きわたる。

「あれ、終わってるじゃないの。」

香里がそう言って、席を立つ。

「香里・・・見ない方が身のためだぞ。」

「え?」

祐一の言葉が香里の動きを止める。

が、香里の横を真琴が抜けて、ドアのノブに手をかける。

「どんなのになったのかなぁ。」

「あ、馬鹿!よせ、真琴!」

祐一の制止もむなしく、真琴は控え室のドアを開け放つ。

そして一同は見た。

・・・巨大な久品仏大志の姿を。

 

 

 

『どうだね、諸君!これぞ久品仏フォーメーションA!びっく大志だ!我が輩も融合することによりこの

形態への移行が可能なのだ!』

あまりといえばあまりの事に、相沢家の面々は呼吸をすることさえ忘れていた。

「大志・・・このパターンで行くと、巨大ラルヴァになるはずじゃないのか?」

すでに一度見てしまっていたため被害の軽かった祐一が、呆れたように言う。

『愚問だな、マイブラザァ。大衆は常に裏切られることを望んでいるのだよ。』

「だからってそれはないだろ・・・だいたいお前、256色でよくそこまでリアルに再現できたな・・・」

「我が輩の手に掛かれば、256色を1600万色にする事なぞ、ゴリラの指をひねるよりもたやすいわ!」

「・・・・・・」

話していて頭痛がしてきたのか、祐一は頭を抱えて地面にうずくまる。

「それでは撮影を開始する!まずは我が輩とカノンライダーズの戦闘から・・・」

大志が宣言したときだった。

キーンコーンカーンコーン・・・・・

授業の終了のチャイムが鳴り響く。

融合に時間を費やしすぎたためだ。

「ふむ、もはやそのような時間か。それでは撮影はまたの機会に・・・」

大志がそう言って、融合を解除しようとする。

「待ちなさい・・・・」

香里の言葉に大志は動きを止める。

祐一が後ろを見ると、そこにはにっこりと笑った香里の姿があった。

「そこまでやったんですもの。戦闘シーンの撮影くらい、協力して上げるわ。」

にっこりと笑いならも、周囲の空気は殺気で満ちあふれていた。

風もないのに、香里の髪がたなびき始める。

「い、いや、我が輩としてはまたの機会の方が・・・」

「遠慮することありませんよ。」

香里の横では、栞がニトログリセリンと書かれた瓶を持っていた。

「はちみつくまさん。」

舞はすでに『力』の発動体制に入っていた。

「しっかりと協力して上げますから。」

佐祐理がスーツのセットの杖を取りだす。

「い、いや、今は機材が足りなくて・・・」

「ふーん、その足りない機材で撮影しようとしてたんだ・・・」

名雪がバズーカ(控え室にあった)を取り出す。

「その罪、万死に値するよ。」

あゆが巨大なハンマー(同上)を構える。

「わ、我が輩は急用があるので・・・」

そう言って立ち去ろうとする大志。

「逃げようったって・・・」

「そうはいきません。」

真琴と美汐が巨大なドラゴンバズーカ(打ち上げ花火をまとめた物)を構える。

「・・・ここまでやっといて、何にもしなかったら時間の無駄だよな。」

祐一は金色に光る目で大志を見据える。

「そ、それではさらば!」

「「「「「「「「「逃がすかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」」」」」」」

その瞬間、大志を中心に特別撮影所が跡形もなく消し飛んだ。

 

 

 

 

その後、パソコン室にて。

「ふむ・・・こんな物か。」

ミイラ男(大志)はパソコンに向かい合って、何かの文章をまとめているようである。

「あら、ここにいたんですか、久品仏さん。」

後ろからかけられた声に、大志は硬直する。

「あ、秋子理事長・・・」

「用件は・・・言わなくても分かりますね?」

秋子さんの言葉に、大志は冷や汗を垂らす。

しばしの沈黙・・・

「さらば!」

大志は言うなり、コンクリートの地面へと潜行を開始する。が、

「ラルヴァ達ガ世話ニナッタヨウダナ・・・・」

逆に地面の中から出てきたガディムに押さえ込まれてしまう。

「が、ガディム殿!貴殿も嬉々として協力してくれたではないか!」

「マァ、タシカニ塗装ハ面白カッタガ・・・部下達ガ病院送リニナッテイルノデナ。」

表情を変えずに−−ガディムに表情があるのかは疑問だが−−大志に答える。

「久品仏さん・・・覚悟はよろしいですか?}

数秒後、教室中にすさまじい絶叫が響きわたった。

その数時間後、遊園地のスーパーグラビトン100倍に縛り付けられている大志の姿が目撃されたという・・・・

 

 

 

 

おまけ

「あら?」

大志の処分をガディムに任せた後、大志の座っていたパソコンの電気がついているのに気づく。

「何をやっていたんでしょうか。」

秋子さんはパソコンをのぞき込む。

 

    拝啓

     貴殿に依頼されしカノンライダー撮影の件、諸般の事情につき、戦闘シーン以外を取ることが不可能に

     なってしまった。お詫びの意味も込め、この貴重な映像を貴殿に送る。

                                               S−13へ

 

                                             お・わ・り

 

あとがき

やっと書きましたラルヴァ戦隊。一度やってみたかったんですよね、これ。

でも、実は私、戦隊物は一度も見たことはありません。(かの有名なウルトラマンですら)

まぁ、戦隊物・・・とは言えませんか、このSSは。

ところで、S−13って誰のことか分かります?

ボケが標準装備のあの方です。

ではでは



 ☆ コメント ☆ 綾香 :「まったく、バカなことを頼むヤツがいたもんねぇ」(−−; セリオ:「そ、そうですね。あ、あはは、あはははは」(;^_^A 綾香 :「…………ん?」(−−; セリオ:「な、なんですか?」(;^_^A 綾香 :「S−13って……まさか……」(−−; セリオ:「ち、違います!! わたしじゃありません!!」(@◇@) 綾香 :「……………………おい」(−−; セリオ:「わたしじゃありませんってば!!」(@◇@) 綾香 :「………誰もセリオの名前なんて一言も出してないでしょうが」(−−; セリオ:「わたしじゃ……って……………………あ」(−−;;; 綾香 :「セリオ……墓穴掘りまくり」(−−; セリオ:「あう」(;;) 綾香 :「……………………ばか」(−−) セリオ:「あうあうぅ〜〜〜」(;;)



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