私立了承学園
5日目 放課後 ちっこいの編(笑)


 ここは相沢家寮。  学食で働いている名雪と秋子以外の面々が戻ってきていた。  今日の学食の賑わいを見て佐祐理も手伝おうとしたのだが、ローテーション表によ ると佐祐理は本日休みだったために「休みの時はちゃんと休んで」と厨房の皆に強く 言われてしまい、皆と一緒に帰ってきた。 「お昼はどうしましょうかー?」  居間でくつろぐ皆の方へ台所からそんな佐祐理の声が聞こえてくる。  学食が休みでも土曜で半ドンだったため、結局佐祐理は台所に立っていた。 「タイヤキっ!!」 「却下。それは昼飯というよりおやつだろう」 「うぐぅ…」  佐祐理の質問に真っ先に答えたあゆだが、祐一によってその案は却下された。  がっくりうなだれるあゆ。 「あははーっ、それならおやつに鯛焼きを作りましょう」  そんなあゆをフォローするように佐祐理は無邪気な笑顔でそう言った。 「うんっ!」  一発で元気になるあゆ。 「あ、でも餡子が無いですねぇ」 「うぐぅ…」  冷蔵庫やら棚やらを確認していた佐祐理の言葉にあゆはまたがっくりとうなだれる。 「よしっ、それならボクが買ってくるよ!!」  かと思えばすぐに元気に立ち上がった。  燃える決意を胸に秘め。  …餡子を買いに行くだけだが。  いずれにせよ、なんとも浮き沈みの激しいことである。 「あゆさん…別にお昼を食べてからでもよいのでは?」 「大丈夫、あんこ買ってくるだけならお昼ご飯ができる頃には帰ってこれるよ」  あゆは栞の言葉に勇ましく答え、居間を出ていこうとする。 「一人で大丈夫か? 迷子になったりしないか?」 「うぐぅ、大丈夫だよっ!!」  からかう祐一の声にムキになって答えると、弾丸のように飛び出して行った。 「…大丈夫でしょうか?」 「栞、それ年上を心配する言葉じゃないぞ」 「祐一さんは大丈夫だと思ってるんですか?」 「いや、そんなことはこれっぽっちも思ってないぞ」  「…うぐぅ、またそうやってボクのことバカにする!」  …まだ出ていってなかったようだ。  玄関のほうからそんな声が聞こえてきた。 「飯食ったら迎えに行くからな〜」  玄関に向かって叫ぶ祐一。  「…祐一くん、嫌いっ!」  最後にそんな声が聞こえた後、玄関の開く音がした。 「はぇー…」 「…佐祐理、ごはん」 「あ、はいはい。それじゃお昼はどうしましょうかー?」 「佐祐理さんの作るものならなんでもいいぜ」 「はちみつクマさん」 「解りましたー、それじゃちょっと待っててくださいねーっ」 ----------------------------------------------------------------------------  10分後。 「さっ、あとは帰るだけだよー♪ どうだっ祐一くん、ボクだってやればできるんだ からねっ!」  寮のほうへ向かってガッツポーズをするあゆ。何度も言うが、餡子を買いに来ただ けである。  ともかく、目的のものを手に入れたあゆはスキップなどしながら寮への道を行く。  と、その時。 「……」  …おろおろ  道の脇でスケッチブックを抱えて困り果てる少女が目に入った。  了承学園の生徒であろう、あゆはその少女に見覚えがあった。 「ねぇねぇキミ、どうしたの?」  あゆは優しく声をかける。 「……」  その少女は一瞬驚いたような顔をしたが、彼女もあゆの顔に見覚えがあったのだろ う、安心したように微笑むと、スケッチブックを開いて何かを書くと、それをあゆに 見せた。 『迷ったの』  スケッチブックにはそう書かれていた。  そういえば、折原家に言葉の話せない子がおり、その子はコミュニケーションの手 段としてスケッチブックを用いると聞いたことがある。この子がそうなのだろう。  あゆは心の中でそう思ったが、特に意識することも無く、普通に話しかける。 「道に迷っちゃったんだね? どこに行こうとしてたの?」 「…」  再び少女はスケッチブックに何かを書いて、あゆに見せる。 『あのね』 『はにーびー』    2ページ使ってそう書かれていた。 「はにーびーって、喫茶店かな?」 「……」  うんっ  書かれている内容から、あゆは昨日ガチャピンから昼食を奢ってもらった店を思い 浮かべた。目の前で少女が頷いていることから判断するに、どうやらその店に間違い ないようだ。  あゆは現在道に迷っていない。そして件の「Honey Bee」は昨日行った店である。 そして目の前の少女はその店に行けずに困っている。  ならば。  あゆが出す答えは一つであった。 「よしっ、それならボクが案内してあげるよ!! えーと…キミ名前は?」 「…」 『上月 澪』  スケッチブックに自分の名前であろう、漢字を書いてあゆに見せる。 「うぐぅ…うえ…つき…? ゴメン、読めないよ…」 「……」  はう〜、とうなだれる少女。  しかしくじけずに再びスケッチブックにペンを走らせる。 『こうづき みお』 「みおちゃんだね、ボクは月宮あゆだよ、よろしく!」 「……」  うんっ!  澪は元気な笑顔でうなづくと、はっとしたような顔をしてスケッチブックにペンを 走らせる。 『ありがとう』  スケッチブックにはそう書いてあった。 「うん、これくらいお安いご用だよ!」  あゆはにっこり微笑むと、澪を連れて歩き出した。 ----------------------------------------------------------------------------  あゆと澪が出会ってから5分後。 「うぐぅ…」 「……」  …おろおろ  もちろん、二人は道に迷っていた(笑) 「うぐぅ…ゴメン…」 「……」  うぅん、と首を横にふる少女。気にするな、ということだろう。 (うぐぅ…昨日行ったばっかりなのにどうして迷っちゃうんだろう…)  さすがに自分のふがいなさがイヤになってしまう。 「と、とりあえず歩こっ!? 止まってたら見つかるものも見つからないよっ!」  ちょっと沈んでしまうあゆだったが、持ち前の元気さですぐに立ち直り、元気良く 澪にそう言った。 「……」  うんっ  澪もそんなあゆを見て笑顔で頷く。  元気なのはいいことだが、こういうドジを標準装備しているような人達は迷った時 には闇雲に歩き回らないほうがよい。なぜなら。 「うぐぅ…」 「……」  …えぐえぐ  泥沼にはまるから(笑) 「どこだろ…ここ?」  顔をひきつらせ、目の前にそびえる古ぼけた中世の城のような建物を眺めるあゆ。  まだ昼のはずなのに、見上げる空は紫色だった。そして回りは森。  空飛ぶカラスの鳴き声が不気味である。 「……」  …えぐえぐ…ふるふる  半ベソ顔で首をふる澪。 「と、とりあえず戻ろっか」  もはや戻る自信もないが、とりあえずあゆは回れ右して来た道を戻ろうとする。 「〜〜〜〜!!!!」 「? どうしたの、みおちゃん?」  後を向いたあゆの目に最初に写ったのは、全ベソであゆの後を指差す澪の姿だった。 「???」 「…!!」  あうあう 『うしろ』  取り乱しつつもスケッチブックにそう書いて見せる澪。  おお慌てで書いたためミミズの這ったような字ではあったが、どうにか読むことは できた。 「うしろ…?」  そしてあゆが後を振り向くと… 「何かご用ですかぁ…?」  …そこには、平たく言うところの幽霊がいた。 「……」 「……」 「……」  …ひっくひっく… 「☆○×▽!!☆※□×〜〜〜!!」(泣) 「〜〜〜〜〜〜!!」(泣)  言葉にならない悲鳴を大音響であげるあゆ。  そのあゆの大声に呼応するかのように澪も声無き泣き声をあげるのだった。 「ど、どうされましたぁ…?」 「わああああ!! ご、ごめんなさいごめんなさい!! 祟らないでぇ!!」 「!!!!」  …えぐえぐ  もはや半狂乱の二人。  そんな二人を前に幽霊は困り果てるばかりだ。  状況イメージとしては迷子の子猫ちゃんと犬のおまわりさんあたりが適当か。  …とそこへ火に油を注ぐ者が現れた。 「どうしたぁふぁんとむ……おきゃくさんかぁ……?」  今度は通行人10人に「彼はなんでしょう?」と聞けば8、9人は確実に「ゾンビ」 と答えると思われる者が現れた。  しかもご丁寧に中まで見せてくれるサービスぶりだ。(中=ゾーモツ)  はっきりいって腐乱死体そのまんまなので、先に現れた幽霊より見た目の嫌さは数 倍は勝っていると思われる。  当然そんなものを見せられたあゆ達は更に更にパニックである。 「◎※★○×▲!■×〜〜〜!!」(泣) 「……」  …はふんっ…  再び謎な言語で悲鳴をあげるあゆ。  とうとう気絶する澪。 「あああああみおちゃん!! 眠っちゃダメ!! 寝たら死んじゃうよぉー!!」  ゆさゆさ  あゆは寒冷地で遭難したとき用の言葉を叫びながら、一生懸命澪の体を揺さぶる。 「…!」  …はっ!  澪、覚醒。 「大丈夫ですかぁ…?」 「おちつくまでやすんでいくかー……?」 「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」  …はふんっ…  そしてまた気絶(笑) 「うぐぅぅぅぅぅみおちゃんみおちゃん!! だから寝ちゃ…わあああ!!」  気がつくと二人のアンデットはあゆ達のすぐ近くにまで迫っていた。 「本当に大丈夫ですかぁ…?」 「えんりょなくやすんでっていいぞー……?」  言いながら、二人のアンデットは透明気味の手とイイ感じで腐った手をあゆの方に 差し出す。 「うぐっ、ごっごめんなさいごめんなさい!! もう絶対近づきませんからどうかや すらかに眠ってくださいていうか祟らないでー食べないでー!!」  ばびゅううううううううううううううううううん!!  普段のたよりなさからは想像できない轟音と土煙を立てながら、あゆは猛ダッシュ で澪を抱えたままそこを走り去った。 「……」 「……」  唖然とあゆを見送る二人のアンデット。  ちなみに彼らは「了承ネズミーランド」のお化け屋敷のスタッフである。  この古ぼけた城は彼ら用の宿泊施設だ。 「…怖がらせようとしても怖がらせられないのに…」 「…どーしてやさしくこえをかけるとにげられるんだぁ…?」 「……」 「……」 「…おまえなー、こういう時は内臓しまっておけよ…」 「…あーそうかー、これのせいかー…」  本当は相手が柳川かあゆ・澪かという点が問題なのだが、そんなことには気がつか ない。  ゾンビはファントムの言葉に納得したような顔ではみでた内臓をいそいそとしまい 始める。 「…そうだー、いいことをかんがえたぞー…」  唐突にゾンビはそんなことを言い出した。 「…なんだ、腐った脳みそで何を考えたぁ?…」 「…ないぞうがこわがられるなら、こんどはとうしゃひ1.5ばいくらいないぞう つめていけばばっちりじゃないかー?…」 「…おお、それはいいかもしれん…」 「…だろー? ぞんびっつーかないぞう? ってくらいつめていくぜー…」 「…しかもその内臓投げつけてみたりな」 「…おおー、そりゃぐっどあいでーあ…」  仕事の話で盛り上がる二人。  …とりあえず、今度了承ネズミーランドのお化け屋敷に入る人は飛翔する内臓に気 をつけねばならなくなりそうである。 ----------------------------------------------------------------------------  ところ変わってあゆ澪コンビ。 「うぐぅっ……」 「……」  …ひんっ…  二人ともまだ半ベソ気味だ。  それでも差し当たって街と呼べる場所には戻ってきた。 「ふえぇ…怖かったよぉ…」 「……」  …えぐえぐ 『呪われちゃうの』  澪のその言葉に、サーッと青ざめるあゆ。 「う、うぐぅ…どうしよぉ…」 「……」  …ふるふる  ベソをかきながら青い顔をする二人。  迷子になっていることなどそっちのけである。 「あっ、あゆさーーーーん!!」  そんなふたりのもとに元気にあゆを呼ぶ声が聞こえてきた。 「…あれ、マルチちゃん?」 「…?」  声のほうへ顔を向けると、おつかいの途中であろう、買い物袋をぶら下げたマルチ がぶんぶんと手を振りながらあゆ達の方へやってくるところだった。 「あー、やっぱりあゆさんですー…あ、澪さんもこんにち……はわわ、お二人とも、 ど、どうなさったんですかー!?」  あゆ達のところにやってきたマルチは、二人のただならぬ様子に気がつき、慌てて 何があったのかを聞いてくる。 「ま、マルチちゃん、どうしよう、ボクたちおバケに呪われちゃったよぅ……」 「……」  えぐえぐ  いつのまにか「呪われてしまう」が「呪われた」に変わっているが、マルチにはそ んなことは解るはずもない。 「そ、それは大変ですぅ!! 早くお祓いしないとダメです!!」 「ど、どうしよぅ…」 「確か今日は芹香さんが公園で魔術の研究をなさってるはずです。とりあえず芹香さ んに相談に行きましょう!!」 「う、うん」 「……」  うんっ ----------------------------------------------------------------------------  数分後。 「うぐぅ…」 「……」  …おろおろ 「はわわっ、ここはどこでしょうかー?」  3人は順調に道に迷っていた(笑) 「ま、マルチちゃん…」 「あううぅぅ…す、すみませぇん…」 「……」  …えぐえぐ 「そ、そうだ、わたしちょっと誰かに道を聞いてきますぅ!」  泣き出しそうな澪を見かねて、マルチはそう言うと辺りを見まわす。  通行人は多くはないが、開店準備をする店の店員や商品搬入の運送業者の人は結構 いる。そんな人達の方へマルチは歩いていった。 「あの、公園はどこでしょうか?」 「え、公園? どこの?」 「あ、あうぅぅ…」  聞き返されて、どこの公園で研究会をするのか聞いていないことを思い出すマルチ。 「う〜ん…公園だけじゃちょっと解らないなぁ…」 「す、すみませぇん…」 「いや、こっちこそ役に立てなくて…っと、忙しいから失礼するよ」 「は、はいっ、お仕事頑張ってください!」 「ありがとよっ!」  とぼとぼと戻ってくるマルチ。 「す、すみませぇん…どこの公園か聞いてなかったので誰かに尋ねることができませ ん…」 「うぐぅ…」 「……」  がっくり…  どうにか落ちついてきたか、二人ともようやく泣き顔では無くなったが、やはりマ ルチの言葉を聞くとがっくりとうなだれる。そんな二人を見てマルチもうなだれる。 「とりあえず、学校に戻ってみるのはどうかな?」  一向にに話が進まないとみて、あゆはそう提案した。 「あ、そうですね、学校に戻ればどうにかなるかもしれません!!」 「……」  うんっ!  この案はおおむね好評だったようである。 「よし、それじゃ学校へ行こう!」 「行きましょう!」 『行くの』  ……… 「はわわ…」 「うぐぅ…」 「……」  はう〜…  三人は少し歩いてすぐに気付いた。  すでに学校への道もわからない状態になっていたことに。 「ど、どうしましょう?」 「どうしよう…?」 「……」  ふるふる… 「あ、でも了承学園なら道を聞けば解るんじゃないかな?」 「あ、それもそうですー」 「……」  うんっ 「それじゃ、さっそく聞いてみましょう」 「うん」 「あのー、すみません」 「はい?」 「了承学園への道を聞きたいんですけど」 「了承学園? えーと、この道をまっすぐ行って、二つ目…いや三つ目だな、その交 差点を左に曲がって、そこをまたしばらく歩くと右手にパチンコ屋があるからその脇 の道を曲がって…」 「は、はわわ…」 「うぐぅ、覚えきれないよぅ…」 「……」  はう〜… 「……でまっすぐ行けば了承学園のはずだけど…ってキミたち?」 「あ、あうぅ…」 「うぐぅ…」 「……」  はう〜… 「う、う〜ん…もう一度最初から言おうか…?」 「「い、いえ、結構です、ありがとうございました…」」 「……」  ぺこり…  さすがに一通行人をこれ以上手間取らせるわけにもいかず、マルチ達は早々にお礼 を言ってその人を解放した。  その後も三人の迷子脱出作戦は続く。 「そうだ、ボクが空から道を探すよっ!」 「あ、それは名案ですー」 「…?」  ぴこぴこぴこ…  ふよふよふよ… 「…!」  ほえー…  あゆの飛行を始めて目にする澪は驚いてあっけにとられていた。  …………  ぴこぴこぴこ…  ふよふよふよ… 「うぐぅ…学校見えないよう…」 「はわわ…」 「……」  はう〜… 「!」 「どうしたの、みおちゃん?」  何か思いついたのか、スケッチブックにさらさらと何かの絵を描いていく澪。  やがて、ページに数羽の鳥の絵ができあがった。  と、そこからそれらの鳥が飛び出してきた。 「は、はわわっ!!」 「わ、すごいよっ!!」  素直に感心するマルチとあゆ。 「……!!」  そして鳥たちは「澪の意思を介さず」飛び立っていった。 (忘れてたの、以心伝心できるのは一つだけのときだったの)  心の中で思い出す澪。  そして、ガクッと肩を落とす。 「み、みおちゃん?」 「ど、どうなさったんですかー?」  この二人にどう説明しよう?  スケッチブックをもらったところから話そうかと思ったが、そんなことを解りやす く説明する自信は無い。  まぁ、いずれにしても今重要なことはただ一つ、結果である。だから。 『だめだったの』  澪は申しわけなさそうに、それだけを書いて二人に見せた。 「うぐぅ…」 「はうぅ…」 「……」  ぺこぺこ 「あ、全然気にしなくていいんだよ!!」 「そ、そうですー、澪さんは悪くないですー!」 ---------------------------------------------------------------------------- 「あれ、あの子たちは…?」  芳晴は知った顔の女の子三人組みを見つけた。  三人ともしょんぼりとして、とぼとぼと歩いている。 「おーい、君達ー、どうしたんだい?」  当然、芳晴はそれを放っておくような男ではない。  三人の方へ声をかけた。 「あれは…?」 「あ、芳晴さんですー!」 「……」  うんっ!  ようやく見つけた頼りになりそうな人を見て、三人は笑顔で芳晴の元へ駆けてきた。  ずるっ! 「はうっ!?」 「うぐぅ!?」 「…!?」  ずてっ!!  …否、駆けてきて、一斉にコケた。 「だ、大丈夫…?」  その見事に呼吸の合ったコケっぷりに芳晴はひきつった笑顔を浮かべながらも、とり あえずは三人の元へ駆け寄った。 「はうぅ…痛いですぅ…」 「うぐぅ…どうして何も無いところで転ぶの…」 「……」  はぅっ……  三人ともやや涙目だが、別段大したことはないようだ。 「えーと、それで、どうしたの?」  大丈夫そうなのを確認すると、もう一度芳晴は三人に訊ねた。  芳晴の言葉でいろいろと思い出す三人。 「ああっ、そうでした!!」 「うぐぅ! 餡子が迷子で喫茶店がおバケの崇りで学校がわからないんだよっ!!」 「……」  …あうあう 「えーと、とりあえず落ちついて順番に話してくれるかな?」  取り乱す三人に、やさしく諭すように語りかける芳晴。  すると、三人もどうにか落ちついてきた。  そして、順を追って芳晴に説明する。 「なるほど…でも別に呪いとか憑き物の類は見えないけど?」 「えっ? ホントに?」 「…?」 「うん、本当だよ」  最初は芹香に相談する予定だったが、芳晴も呪いの類については祓う専門家である。 だから、三人は芳晴のその言葉にホッと胸をなでおろした。 「うぐぅ…よかったよ…」 「よかったですねぇ二人とも」 「…」  うんっ 「それと「Honey Bee」だけど…俺今からソコへ行くから一緒に行くかい?」 「…!」  うんっ!  大喜びで頷く澪。 「と言ってもすぐソコだけどね」  芳晴が指差す方向には、確かにそれらしい喫茶店があった。 「それじゃ俺達は行くよ。学校はこの道をまっすぐ行けばすぐ見えてくるから」 「はいっ、ありがとうございましたー」 「助けてくれてありがとー! みおちゃんまたねー!!」 「…!!」  喫茶店の方へ行く澪と芳晴が見えなくなるまであゆとマルチは手を振っていた。  澪も笑顔で最後まであゆとマルチに手をふりながら歩いていた。おかげで途中で 躓きそうになっていた。 「なんだ澪遅かったな、とっくに特性寿司イチゴサンデーは溶けちまったぞ」 「浩平むちゃくちゃだよっ、いきなりイチゴサンデーにお寿司突っ込むんだもん!!」 「…」 「って澪ちゃんどうして残念がってるのっ!? 食べたかったのっ!?」 「…」 「わああ、そんな変なもの食べたらお腹こわすよっ!!」 「…」 「牛乳部部長に言われたくないってよ」 「そんなことひとっつもいってないもん! ね、澪ちゃん?」  喫茶店の方からそんな声が聞こえてくるのを確認すると、あゆとマルチも学校へ向 けて歩き出した。 「その後学校への道を歩いていたあゆとマルチはもう一度迷う前に祐一に回収された」 「うぐぅ、祐一くん、なんだよそのナレーション!!」 「はうぅ…」  その後、予告通りあゆを迎えに来た祐一と合流し、あゆとマルチはどうにか無事に 戻ってくることができた。 「それじゃ私はこの辺で失礼しますぅ」 「え? 寄っていけばいいのに」 「いえ、おつかいの途中でしたので」 「うぐぅ…ゴメンね、変なことに撒きこんじゃって…」 「いえ、あゆさんのせいじゃないですよ、わたしこそお力になれずすみませんでした」 「そ、そんなことないよっ」 「いえ、そんなことありますぅ」 「はいはい、お前らその辺にしとけって」  放っておくとどこまでもお互いに謝り続けそうだったため、祐一は頃合を見て止め に入った。あゆとマルチはバツが悪そうな顔をする。 「え、ええと、それじゃさよならですぅ」 「うん、今度一緒に遊ぼうね」 「いつでも歓迎するぜ」 「はいっ、喜んで!」  最後にきっちりお別れの挨拶をして、マルチは帰っていった。 「あゆ、また迷子になってたな」 「うぐぅ…」 「まぁ、人助けの結果なら仕方ないよな」 「えっ?」 「…違うのか?」 「う、うん…澪ちゃんに道を教えてあげようとしたんだけど…」 「ふーん…ならいいんじゃないか? あゆらしくて」 「祐一くん…」 「意気込みだけ空回りして、いかにもあゆらしいな」 「うぐぅ! またそういう意地悪言う!!」 「ははは、半分冗談だ」 「うぐぅ…もう半分は?」 「優しくって頑張りやで、いかにもあゆらしいな」 「…うぐぅ…祐一くんってたまに恥ずかしいこと言うよね…」 「ん、じゃあ撤回」 「うぐぅ、撤回しないでよっ!」 「ははは」  こうして、約1時間に及ぶあゆの冒険は終わった。  …くどいが、基本的にはただ餡子を買いに行っただけである。  …そのはずである…多分。 <おわり> ※補足  澪のスケッチブックから飛び出した鳥は、本能なのかしばらくするとスケッチブ ックに戻ってきた。
 ERRです。  長いです、気をつけてください。  って、最後に書いても意味無いですね(^^;  小型三人組みを書こう! と思い立ち、書いてみました。  都合のいいことに、ドジと言う共通点まであり、書くのは結構楽しかったです。  あとは、読んで楽しいことを祈るばかり(爆)
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「何というか……非常に予想通りの結果に陥ったわね」(^ ^; セリオ:「あゆさんとマルチさんのお買い物には、やはり誰かが付き添った方が良いですね」(;^_^A 綾香 :「そうね」(^ ^; セリオ:「ですよね」(;^_^A 理緒 :「だったら、次からはわたしが一緒に行くよ」(^^) 真琴 :「真琴もー」(^^) 綾香 :「え?」(^ ^; セリオ:「はい?」(;^_^A 理緒 :「そうすれば安心だね」(^^) 真琴 :「うんうん」(^^) 綾香 :「えっと……」(^ ^; セリオ:「あう〜」(;^_^A 理緒 :「ん? どうかしたの?」(・・? 真琴 :「なんか、変な顔をしてるよ」(・・? 綾香 :「な、なんでもないの。なんでも」(^ ^; セリオ:「そうです。なんでもないんです」(;^_^A 理緒 :「???」(・・? 真琴 :「???」(・・?



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