「!!」  HUDがSマインの炸裂によって巻上がった砂塵で覆いつくされた瞬間、反射的に危 機感を感じた彼女は咄嗟に操縦桿を倒すと共に、フットペダルを踏み込み、愛機に前傾 姿勢を取らせた。  判断は正しかった。  回避行動を取った機体のすぐ上方を数条の目に見えぬ高速・高密度のエネルギーの筋 が刺し貫く。 「来ます……ね」  見た目には苦戦しているにも関らず、冷静にそう判断すると彼女は徐にHUDの自動 追尾をカットし、手動照準でビームを撃ち込んできた辺りに左腕に装備された三五ミリ 三連装多銃身機銃の残弾全て――と、言っても元々携行弾数が少ない為、一門あたり二 〇発も残ってはいなかったが――を叩き込んだ。  赤く色づけされた曳光弾の列が砂塵の中へと吸い込まれ――明らかな命中弾の存在を 物語る閃光が閃く。  だが――  直後、砂塵を突き破り、HUDいっぱいにアンバー・ホワイトに塗装された重量感溢 れる機体が姿を表す。  その機体表面に新たな弾痕は殆どなく――その悉くが大型の楯で防がれているのが解 り、彼女は舌打ちを一つ漏らすと、スロットルを噴かし、操縦桿を押し込む。 「接近格闘戦……いいでしょう、望むところです」  直後、彼女の操る青い機体の持つ、幅広い蛮刀の如き大剣とアンバー・ホワイトの機 体の持つ日本刀のごとき鋭剣とが交錯し、耳に響く刃なりがフィールド一帯に響き渡っ た。  私立了承学園 五日目1限・相沢&藤井家 「この時間は以前ご説明したバトリング・フィールドの調整のお手伝いをお願いします」  相沢家と藤井家の面々を引き連れてアミューズメント・エリアの一画にあるロボット バトル競技場――バトリング・フィールドにやってきた秋子は、いつも通りのにこやか な表情で勢揃いした両家族の面々を前にして告げた。 「あ、でも、調整って、確か先日芳晴達がやったんでは??」  祐一が不思議そうにそう言うと、 「ええ、ですが、前回のテストプレイでは後半でコリンちゃんが……じゃ、なくって、 コンピュータ操作の無人機を相手にしたモードの方でしたので。  今回、皆さんにやって戴きたいのは、メインになる人間同士の戦闘のデータ取りの方 なんです」 「しかし、それだったら、祐一のところは解らんでもないけど、うちに話をもってくる のはちょっと違うんじゃないですか??」  今回のテストプレイが、人間が操縦する機体同士による本格的な対戦の方であると知 って、冬弥がしごく真っ当な疑問を口にした。 「いえ、勿論、この後もいろんな条件の下で全てのクラスの方にテストプレイをして戴 く事になっていますよ。  ちなみに、今回は一対一での戦闘の際のバランス調整が目的なのですけれど、きちん とそのあたりのことを踏まえてプレイして戴ける方が必要ですので、そういう意味では 貴方方のクラスが適任と判断したんです」 「はぁ……」 「それで、今回は申し訳無いのですけれど、こちらの方から実際にプレイして戴く方を 指定させて戴きたいのですが、宜しいでしょうか」  その言葉に、今回は全員が乗れる訳ではないということが判明し、ちょっとがっかり する両家の面々。しかし、逆に現金なもので、「ここで乗せて貰えば後でみんなに自慢 できる」等と考えている部分も存在することは確かで、誰と誰が選ばれるか、期待半分、 不安半分といった面持ちで秋子の次の言葉を全員が今か今かと固唾を呑んで待ち構えて いた。 「く〜」  訂正。約一名を除いて。 「それでは、今回ですが……あの、そんなに繁々と見つめないで下さいな」  秋子が口を開くと、それにつられて全員がぐぐっと身を乗り出す。普段滅多にお目に かかれないほど真剣な眼差しを全員から注がれて、秋子は思わず頬を赤らめた。 「す、すみません」 「いえいえ……それでは、今回乗って戴く方ですが……相沢家からは舞さん、藤井家か らは弥生さん、お願い致します」  その言葉に、指名を受け損ねた者は「はぁ」と落胆の溜め息をつき、逆に指名を受け た二人は……元々普段から無表情かつ無口な人物である為、殊更特別な感慨を受けたよ うには見えなかったが、、よくよく観察すると目尻や口元が僅かに引きつっているよう になっており、どうやら嬉しいらしく、笑っているようだった。 「それでは、皆さん、入りましょうか」  そんな両家族の悲喜交々を横目に、そう言って秋子はロビーに繋がるエントランスの ドアを開けた。 「やはり、舞の乗る機体ということは剣を中心にした機体ですね?」 「……………………はちみつくまさん」  そう言って、端末に表示された機体の一覧から該当する機体を探す舞。  主に装備面を基準にした検索事項に該当した機体の中から、これはと言うものを順繰 りに追っているうち、ある一点で彼女の手が止まった。 「これがいい」 「はええ〜〜これはまた作者さん泣かせ……じゃなかった、通な機体ですねぇ〜〜」  ……作者ってなに(笑) 「これでいいんか??舞」 「……………………………これなら、佐祐理も一緒に乗れるから」  祐一の問いに、そう返事をして舞は自身のメモリカードに必要情報を登録した。 「な、なんというか……非常にらしいといえばらしい選択ではありますね」 「あら、そうでしょうか??」  弥生の選択した機体を見て、思わずそう呟く冬弥。由綺とはるかが全く同じタイミン グでこくこくと首を振っているのがお笑いではある。 「なんというか……固定装備が「鞭」ってあたりがなんとも……」 「……………………………女王様」 「でも、それを言うならズバリそのものの名前の機体もあるけどね〜♪」  言いたい放題なことを言う家族に対し、「これは後でお仕置きですね。特に冬弥さん には」と内心で恐ろしい事を考えながらも、弥生は見かけ上はいつも通りのクールさを 維持しつつ、所定の手続きを完了した。 「毎度の事ながら……人知を越えてるな、この学校は」  秋子のプログラムに従って設定されたバトル・フィールドはそのサイズが約五キロ四 方の広大な空間である。  今回は双方共に陸戦用の機体を選んだ事もあり、クリーク(小川)やピーク(丘陵)、 樹木線などが複雑に入り組んだ山岳地形と、大隊規模の戦車部隊が機甲戦闘をを展開で きそうな広大な砂漠地形、そしてその要所要所に設けられた、二〇メートル級のロボッ トが全身をすっぽりと隠せる巨大なタコツボや塹壕、そして分厚いベトンで固められた トーチカと物資集積所(一応、ここを破壊されるか、どちらかの機体が戦闘不能になっ た時点で競技終了となる)等が巧みにレイアウトされたそこは、仮想空間に再現された ものとは思えぬ圧倒的な存在感をもって全員の前に存在している。 「それでは、よろしいですか」  スピーカーから秋子の声が響く。 「……………………はちみつくまさん」 「あははは〜〜いいですよ〜〜」 「問題ありません……」  三者三様に受諾の返事が返されると、「それでは始めて下さい」という秋子の声と共 に、それぞれの機体を収めている掩堆壕のシャッターが重々しい音と共に開かれ、リフ トに乗せられた巨体がゆっくりと地上にその姿を現した。 「なんとまぁ……B3、グフ・カスタムか」 「おいおい……”破裂の人形”とは……やってくれるぜ」  フィールドの両端に設けられた、野戦指揮所を模した建物――観戦ブースで、互いに 相手の機体をモニター画像で確認した祐一と冬弥がほぼ同じタイミングでうめき声をあ げた。 「なんてマニアックな機体を!!」  そして、続いて発せられた台詞は、一語一句違わず、タイミングすら同じであった。 「行きます」 「…………行く」  一瞬の静寂の後、ほぼ同じタイミングでグフ・カスタムの核融合エンジンと”破裂の 人形”のイレーザー・エンジンが唸りをあげ、全高一八メートルに達する青い機体と、 全高二三メートルに達するアンバー・ホワイトの機体が砂塵をあげて疾駆を開始する。 「弥生さん、あちらの機体は威力は低いですが一〇〇門を越えるビーム兵器を搭載して います。接近戦に持ち込むのが得策ですよ」 「あはは〜〜、グフさんのヒートロッドは厄介ですよ〜〜。間合いを取られないように 気をつけて下さいね〜〜」  弥生のグフ・カスタムに随伴する、はるか操縦のサポート用ルッグン空中警戒管制機 のRIOシートから美咲が、疾駆する”破裂の人形”の頭部に設けられたサブ・コクピ ットから佐祐理が、それぞれのパートナーに指示を送る。  弥生に対する美咲のバックアップは、相沢家サイドの機体が操縦と戦闘を舞、火器管 制とレーダー捜索を佐祐理がそれぞれ担当する複座型のレイアウトを採用しているのに 対して、単座機である為に一人で全ての機上作業を熟さねばならない弥生に対して、コ ンディションをイコールにする為のハンディキャップとして認められたものである。 「諒解」 「……………………わかった」  最初は遠距離レーダーのPPIスコープ上に映る点でしかなかった目標がグラス・コ クピットのHUDの中に出現し、やがてそれがはっきりと人型の形をとり、ついには明 確な攻撃意識と共に重厚感と凶悪さを伴った巨大な鋼鉄の塊となってこちらに向かって くる光景に、さすがの弥生、舞も緊張感を覚え、元々少ない口数を更に極限まで縮める と同時に、反射的に操縦桿を押し倒し、フットペダルを踏み込んだ。  一直線の軌道を描いて激突するかに思われた両機は、だがほぼ同じタイミングで弧を 描くような運動に移行し、そしてほぼ同時に第一撃を発砲した。 「貰いました」  HUDに目標の姿を捉え、旋回戦によって発生する急激な横Gに耐えながら、照準レ クティルの中央部に目標が入り込み、ピパーが重なった瞬間、弥生はスロットル・レバ ーに取りつけられた長砲身七五ミリ多砲身機関砲のトリガーを絞り込んだ。  轟音と共に六本の砲身を束ねた機関部が回転し、毎分六、〇〇〇発もの勢いでタング ステン・カーバイト製の弾心を持つ高初速徹甲弾が吐き出され、約一〇発毎に混ぜ込ま れた曳光弾の光跡が光の矢となって優雅な曲線で形作られた美しいモーターヘッドに吸 い込まれていく。 「クッ!!」  旋回戦による高Gの影響を受けているにもかかわらず、見事としか言い様の無い照準 で”破裂の人形”の胴体と頭部を正確に狙って撃ち込まれてくる高速弾の弾列を確認し、 舞は思わず舌打ちを漏らすと咄嗟に、スロットルをほんの一瞬だけ緩め、同時に、自ら もHUDの中央に蒼き鬼神の異名を持つモビルスーツの重厚感溢れる姿を収め、アーム レストと一体化した操縦桿に取りつけられたビーム兵器の発射ボタンを押し込んだ。  ”破裂の人形”の胸部と両肩の大型装甲に納められた多数の小型ビーム兵器のうち、 目標に指向可能な約二〇門が粒子加速器の低い唸りと共に目に見えぬ超高速のエネルギ ーの矢を打ち放つ。 「やりますね……」  咄嗟に行き足を殺す事でこちらが放った機関砲弾の死の列線から逃れると同時に、ビ ーム兵器を打ち放ってきた目標の姿を目に止め、弥生はそう低く呻くと、スロットルを 全開に叩き込むと同時に機体を最大速度でジャンプさせた。  まさしく、絶妙のタイミング――  脚部とバックパックのスラスターを全開にして”破裂の人形”を飛び越える形になっ た弥生のグフ・カスタムは、空中で素早く姿勢を組み替えると、右腕に装備された鋼鉄 の鞭――ヒートロッドを相手の頚部目掛けて打ち込んだ。 「よし、貰った!!」  その瞬間、思わず身を乗り出してそう、冬弥が叫んだ程完璧なタイミングで打ち出さ れたそれは正確に目標の頚部を捉え、モニターカメラや佐祐理のいるサブ・コクピット を内部に収めた頭部と胴体とを繋ぐ動力ラインを断ち切る筈だった。  しかし―― 「あはは〜、それは甘ちゃん過ぎるというものですよ〜」  相変わらずの佐祐理の能天気な声が響いたと思った刹那、”破裂の人形”の巨体が一 瞬にして掻き消え、繰り出されたヒートロッドは空しく空虚な空間を引き裂いて地面に 突き刺さるのみだった。 「はえ〜、危なかったです〜。でも、複座コクピットとイレーザー・エンジンを舐めて 貰っちゃ困ります〜〜」 「…………………佐祐理、えらい」  大部分の二〇メートル級ロボットが単座のレイアウトを採用する中であえて複座のレ イアウトを採用したモーターヘッドの面目躍如、と言ったところであった。  頭部と腹部、二ヶ所にコクピットを備え、腹部のコクピットに乗る主搭乗員が戦闘機 動全般を担当し、頭部のコクピットに乗る副搭乗員が火器管制システムの制御や全周捜 索、メカニックの維持と、今回のような咄嗟の場合の緊急機動を担当する事で主搭乗員 が戦闘に専念し、ワークロードを局限するという、F−14D「トムキャット」戦闘機や F−15E「ストライクイーグル」戦闘爆撃機と同種の発想に基づくシステム・デザイン こそが、このモーターヘッドと呼ばれる大型人型兵器の最大の特徴なのである。  この場合、頭部サブ・コクピットで全周捜索レーダーで目標位置を把握し続けていた 佐祐理の咄嗟の判断と、これだけの巨体を短距離とはいえ瞬間移動させる事が可能なイ レーザー・エンジンの高出力がヒートロッドによる一撃撃破の脅威から彼女らを救った のである。  勿論、これだけの大質量を瞬間的に移動させるのであるから、いかに強力なイレーザ ー・エンジンといえどもその際にかかる負荷は凄まじく、そう何度も使用できるもので はないのだが。 「随分と舐めた真似をしてくれますね」  氷のごとき冷酷さを感じさせる声で弥生はそう呟くと、再びスロットルを開き、機体 をダッシュさせる。 「弥生さん、瞬間移動能力のある機体相手に平野での戦闘は不利です。地形を利用して 戦って下さい」  上空を飛ぶルッグンからの美咲の指示に、「わかりました」と簡潔に答えると、弥生 は機に一瞬前傾姿勢を取らせ、肩のスパイク・アーマーを使った突撃――体当たりを試 みるふりをし、舞達が身構えた瞬間を狙ってスラスターを焚き、機体を跳躍させた。  と、同時に残弾を気にしつつ、シールドに固定された超砲身七五ミリ胞を再び放つ。  繰り出された砲弾が”破裂の人形”の足元一帯に着弾し、盛大な砂埃を巻き上げ、視 界を阻む。  それでも、巻上がる砂塵の中から数条のビームが放たれてくるが、視界を阻まれ、ま た巻上がる砂塵のせいでレーダーの感度も大幅に落ちている状態での、感を頼りの公算 射撃である為、命中弾は殆どない。  僅かに命中した数発も、巻上がる砂塵の細かいパウダー・サンドにエネルギーを減衰 させられ、着弾する頃には分厚い装甲版を貫通できるほどの熱エネルギーを有しておら ず、僅かに機体に塗られた塗料を剥がせる程度の威力を残すに過ぎない。 「……………しまった!!」  弥生の狙いに気付いた舞が舌打ちを漏らした時には既に遅く、弥生のグフ・カスタム は一気に戦場を飛び越えると、後方の樹木線の中に機体を飛び込ませていた。 「弥生さん、凄い」 「でも、あの弥生さんと互角に戦ってる舞と佐祐理も流石ね」  観戦スペースでは、両機のあまりの高度な戦いぶりに、誰もが話す事すら忘れてモニ ターテレビに見入ってしまっていた。無論、 「く〜」  相沢家の約一名を除いて、ではあるけれど…… 「あう〜、肉まん〜〜」 「うぐぅ、たい焼きおいしいよ〜」  基い、あまりに高度過ぎて展開についていけず、飽きてしまって早目のおやつタイム に突入してしまったのも、二名程いた…… 「平野部での戦いは瞬間移動能力がある分、舞達の方が若干有利ね」 「だけど、篠塚さんは林の中に移動しましたからね。あそこでは瞬間移動は使えません し、少々厄介な事になりますよ」  そんな三人を放っておいて、冷静に戦況を分析しているのは香里と美汐である。  無論、調整とはいえ授業の一環であるから、パイロットの毎と弥生、及びサポート役 の佐祐理、美咲、はるか以外にも課題は与えられており、外部から見た戦い方の分析を 行なうよう言い渡されている。  もっとも、相沢家では名雪、あゆ、真琴の三人がお約束のパターンに陥っているし、 藤井家では理奈、マナはともかく由綺は「凄い凄い」を連発するだけなので、あまり役 に立っているとはいえない。  取り敢えず、現在は弥生が戦場を移動した事による、一種の膠着状態が発生しており、 観戦ブースで見守る面々はこの間の奇妙な静寂を利用してそれぞれの感慨を述べていた のであった。 「?!…………動く!!」  最初に気付いて声をあげたのはマナだった。と、殆ど同じタイミングで、相沢家ブー スでも、 「動きますよ!!」  と栞が声をあげ、それで、それまで互いに好きなことを言い合っていた両家の面々は 再びモニターに注目した。 「………………行く!!」 「はええ〜〜、でも、あの中では瞬間移動は使えませんよ〜〜、気をつけて下さいね〜」 「…………解った」  先に膠着状態を破ったのは舞達の方だった。”破裂の人形”はイレーザー・エンジン を全開にすると、樹木線めがけ最大速度で突っ込んでいった。 「まいりましたね」  樹木線の僅か後方、そこに掘られた塹壕の一つに機体を隠して、ここまでの戦闘で受 けたダメージと残弾の確認をしていた弥生は小さく一つ、そう漏らした。  損傷は大したことはない。ビーム兵器の直撃は既に四発、食らっていたが、その何れ もがこの機体の中でも最も分厚い装甲を持つ胸部と膝の外部増設装甲に集中していた為、 内部機構への被害は発生していない。  問題は七五ミリ砲弾の残段数で、毎分六、〇〇〇発を発射可能なこの砲の携行弾数は、 だが僅かに三〇〇発でしかなく、トリガーを引きっ放しにすれば、僅か三〇秒で撃ち尽 くされてしまう。  実際、これまでの戦闘で一〇秒近い射撃を二度も行なってしまった為、残弾は既に一 〇〇発を僅かに越えるレヴェルにまで落ち込んでおり、ここから先はこれまでのように 景気良く砲弾をばらまくという訳にはいかないようである。  もっとも、七五ミリ砲を撃ち尽くしたとしても、まだ左腕に直接装備された三五ミリ 三連装多銃身機銃が残っているが、こちらは七五ミリ砲に比べれば口径も小さく、銃身 長も三八口径と短い為威力という点では格段に落ちてしまう。  なにしろ、七五ミリという口径は第二次大戦期の米独の主力戦車、V号パンテルやM 4シャーマンのそれ(あるいは、海上自衛隊の現用戦闘艦艇が主砲として採用している イタリア・オットーメララ社製の単装速射砲のそれ)に匹敵し、更に砲身長はそれらの 装備よりも格段に長い一〇五・六口径、すなわち砲身の長さが口径の一〇五・六倍、七 ・九六メートルと言う途方もないもので、それ故に同口径の一般的な砲のそれよりも格 段に高い初速(毎秒一、六二〇メートル)と、それによってもたらされる長大な射程 (水平射撃時二三、三〇〇メートル)、及び貫通力(射距離一、〇〇〇メートルで約四 〇〇ミリの厚さのルナ・チタニウム装甲版を貫通可能)を有する、モビルスーツに搭載 される実弾系の携帯火器では、ほぼ最強級の火器といっても過言ではない。 「美咲さん……七五ミリ砲弾の補給は可能ですか??」  上空を旋回するルッグンに乗る美咲に、弥生は問いかけた。 「えっと……駄目です、三五ミリ機銃は腰の後ろのマウントラックに予備の弾倉が二つ、 装備されていますが、七五ミリ砲は給弾ベルトごと交換しなければならないのと、威力 が大きい為使える弾数に制限が掛っているので、手持ち分を射耗したらそれまでです」 「そうですか……仕方ありませんね」  美咲の返事に、小さく舌打ちをして弥生は呟くと、七五ミリ砲弾が尽きた場合の戦い 方に付いて急ぎ、プランを練り始めた。 「弥生さん……来ます!!方位〇一一、距離、陣前三〇〇、瞬間移動は使っていません」 「諒解」  美咲の報告を受け取り、弥生は出来るだけ音を立てないように、彼我の位置関係を脳 裏に描きつつ塹壕内を移動した。 「距離、一〇〇。まもなく樹木線を抜けます」  再び、上空から報告が入る。と、まもなくHUDで切り取られた視界の斜め前方に黒 々とした影が浮かび上がり、それはやがて巨大な人型――”破裂の人形”の姿となって 現れた。 「距離、五〇……三〇……二〇……一〇……五……今です!!」  美咲の合図と共に、ヒートロッドを繰り出す。  目標は今まさに塹壕の手前に差しかかり、そこでこちらの居所を探ろうと隙を見せた、 正に千載一遇のチャンスであった。 「………………しまった!!」  足元の塹壕から、地を這うヘビのように滑り出るヒートロッドに気付いた時にはもう 手遅れだった。  咄嗟に操縦桿を捻り、スロットルを噴かして期待を急激な横滑りに持ち込むが、それ よりも一瞬早く、ヒートロッドが左足を捉え、絡みついた。 「……ちっ」 「甘いですね」  舞の怒りを含んだ舌打ちと弥生の冷笑がほぼ同時にそれぞれのコクピットに響いた。 「舞、ベイル・クローです!!」 「……、わ、解ったっ!!」  やや冷静さを失った舞に対し、佐祐理が指示を与える。だが、 「ふふふ、遅い、遅いですよ……]  傍で聞いている分には殆ど悪役そのものの声色と台詞で優越感を表しながら、弥生は ヒートロッドを巻き上げつつ、スロットルを全開にして塹壕から機体を跳躍させた。  ”破裂の人形”の左足に絡みついたヒートロッドが舞い上げられ、それが遊びを失っ てピンと音立てて一直線になった瞬間、バランスを失った”破裂の人形”はそれまでグ フ・カスタムが籠っていた塹壕に音立てて転げ落ちる。 「これで終わりです」  バランスを完全に失い、更に変な体制で濠内に転がり落ちた為、身動きできないでい る”破裂の人形”をHUDの照準レクティルに収めると、 「楽しませてくれましたが……私と張り合うには貴方方はまだ……未熟!!」  某少佐が某へぼ少尉に向けて放ったものと全く同じ台詞を、正反対の調子で吐きつつ、 弥生はヒートロッドの通電スイッチをオンにすると共に残り少ない七五ミリ砲のトリガ ーを絞り落とした。  轟音、そして衝撃――  グフ・カスタムの七五ミリ砲が吠え、濛々たる砂塵が舞い上がる。 「今度こそ、決まった……な」 「クッ……舞、佐祐理さん!!」  それぞれの観戦ブースで冬弥が勝利宣言を、祐一が悲鳴を上げる。  しかし―― 「まだ……ね」 「まだよ!!」  叫んだのは理奈と香里。  その言葉に、観戦ブースにいた全員が思わず発言者の顔を見つめ、それからゆっくり と再び、モニターへと視線を転じた。  モニターの中で、砂塵が収まりつつあった。 「はえ〜〜、危ないところでした〜〜」 「………………ありがとう、佐祐理」  再び、絶体絶命のピンチを救ったのは今度も佐祐理であった。  濠内に転げ落ちた機体の姿勢制御で手一杯の舞に変わり、咄嗟に左腕に装備した大型 の円形の楯、ベイルを構えさせ、その裏側に装備された近接戦闘用の鉄の爪、ベイル・ クローを繰り出して左足に絡みついたヒートロッドを切断したのである。  しかし、咄嗟に楯で全身を庇い、クローでヒートロッドの脅威から逃れたといっても、 その全てを躱し切れたわけではない。  今の一撃で、”破裂の人形”はこれまでの戦いで被ったダメージを数十倍上まわる損 害を被っており、機体のコンディションのモニターもその役割の一つである佐祐理の頭 部コクピットのモニターには、赤い警告灯の嵐が唸っていた。  特に、ヒートロッドを切断に成功する直前、一瞬とはいえマトモに高圧電流を浴びせ られた左足の損害は無視できるものではなかった。 「…………どれくらい、やられた」 「そうですねぇ〜〜衝撃で後部のビーム砲塔が駄目になっちゃいました〜〜、あと、左 足のエンジンさんもちょっと壊れちゃってますね〜〜、六〇%以上の発揮は異常加熱で 爆発の恐れあり、だそうです〜〜] 「…………そうか」 「バランスを取る為に、エンジンの出力を五五%に制限しますね。推力線が狂ってしま いますので、右足も同様ですから、瞬間移動は後一回が限界と思って下さい〜〜」  判定中破、レヴェルの低いプレイヤーならば戦闘力喪失とみなされ、競技終了とされ るであろう大損害である。  だが―― 「あはは〜、でも、その代わりあちらもヒートロッドと七五ミリ砲が使えなくなりまし たから、おあいこですよ〜〜」  知ってか知らずか、能天気な声で笑う佐祐理の言葉に、やや一方的に打たれた事で気 弱になっていた舞の表情にも再び強いものが戻ってきた。 「…………なら、反撃開始だ」 「はいです〜〜」  傷ついたアンバー・ホワイトの巨体が、再び唸りをあげて立ち上がった。 「しぶといですね」  長さを三分の一に減じられたヒートロッドを収納し、用を為さなくなった七五ミリ胞 を砲架ごと投棄して身軽になった弥生のグフ・カスタムは”破裂の人形”が体勢を立て 直し、反撃に転じる前に素早く距離を取って、今度はクリークの縁まで移動している。  本当は、三五ミリ機銃による追い打ちをかけたいところであったが、最後の最後に反 撃のビーム攻撃を浴び、それを防ぐ為に左腕の楯を構える必要があった為、左腕に固定 装備された三五ミリ機銃を使うことはできなかったのである。  しかも、困った事に直撃となったビームの一発が頭部のUHFマルチブレードアンテ ナを吹き飛ばしてしまい、上空を飛ぶ美咲のルッグンとのリアルタイムでのデータのや り取りが不可能となってしまったのだ。  すなわち、こちらも決して無事という訳ではなく、機体こそ判定小破だが主装備のう ちの二つ、更にはデータリンクをも一時に失った事による戦闘力の低下は、目をおおわ んばかりである。 「もう……あと一、二回の戦闘が限界ってとこね」  観戦ブースのテレビモニターで両方の被害状況を観察していた香里がそう呟いた。 「そうだな……舞と佐祐理さんの方はエンジンがおしゃかになりかけてるようだし、篠 塚さんの機体は武器がない」  香里の分析に祐一がそう付け足すと、香里もその言葉に同意するように首肯いて、再 び視線をブラウン管に戻した。 「結構、かかりますね……」  HUDの片隅に表示された時計にちらりと視線を転じて、弥生は呟いた。  既に、戦闘開始から二五分近くが経過しようとしている。  競技時間は、授業時間五〇分の内、説明に要した一〇分と纏めに必要な一〇分を除く 三〇分間とされているから、後、一度か二度の交戦で決着を着ける必要がある。  どの道、機体のダメージ、装備の残量もそれ以上の戦闘に耐えられるものではないし、 なにより長時間、窮屈なコクピットに押し込められてGや衝撃に責められ続け、更に相 手の放つプレッシャーとも戦いを余儀なくされた事で、肉体面と精神面の疲労もかなり のものに達している。  周囲からみればそれでも息一つ崩していないようにみえるが、それでも普段の自分に 比べるならば呼吸は浅く、速くなっており、また上下つなぎのパイロット・スーツの下 のインナーは汗を大量に吸い込んで不快さを限界まで高めている。  もっとも、それは弥生だけに限らず、”破裂の人形”に乗る舞も佐祐理も同じことで あるのだが、とにかく、ここまで自分を追い込み、平常心をかき回してくれるあの二人 に対し、弥生は少なからぬ感歎を覚えると共に、ほぼ同様の憎らしさをも感じていた。 「……お互い、火力戦は無理なようだな」  クリークを挟んで、対岸に立つ蒼い機体を見やって、舞はそう呟いた。  背面のビーム砲座の悉くが、塹壕に転落した際の衝撃で破壊され、またエンジンの出 力低下にともなって、稼動できる砲座の大部分も、全てに出力を振り分けた場合、決戦 距離での十分な穿孔破断効果――あるいは熔解破断効果を期待するのは無理と解り、舞 は佐祐理に言って比較的粒子加速器の状態の良い一〇門を除いて、全てのビーム兵器の 使用を中止させ、その余剰出力を残されたビーム砲座と実剣へ振り分けさせている。  一方、対戦相手の機体に視線を転じれば、左腕の楯にマウントされていた凶悪な長砲 身七五ミリ多砲身機関砲は既になく、その代わり楯の裏側に収められていた幅広の大剣 ――ヒート剣を右手に持って佇立している。 「……剣での決着、望むところ」  舞はそう言うと、腰にマウントされた日本刀を思わせる細く、鋭い鋭剣――「天叢雲」 と銘されたイレーザー・スパッドを抜き、構えさせる。  これまでに数倍する緊張感が戦場に満ちた。  双方が実剣を構えたまま、無言の緊張感に満ちた時間が流れ――それが極限まで高ま った瞬間、ほぼ同時に両機が動いた。  各融合エンジンとイレーザー・エンジンとが唸り、巨大な影が決戦を求めて跳躍する。  ”破裂の人形”の、一〇門のビーム兵器が最大出力で発射され、超高速の目に見えぬ エネルギーの矢が蒼い機体へと伸びてゆく。  グフ・カスタムの大推力のスラスターが唸り、高温・高圧の噴射がクリークの水を蒸 発させ、濛々たる水蒸気を吹き上げさせる。  殺到するビームが立ちこめる水蒸気の壁に衝突し、水の粒子と触れたビームが瞬間的 な温度変化によってサーマル・ブルーミングをおこし、収束性を失って拡散する。  エネルギーを失ったビームの残滓が辛うじてグフの機体に届くが、十分な熱量を既に 失っていたそれは機体の表面に当って微かな閃光を放つだけに留まる。  しかし、そのビーム攻撃はほんの陽動に過ぎず、立ちこめる水蒸気の向こうに向け、 弥生が反撃の三五ミリ機銃を放った時には、既に”破裂の人形”の姿はそこにはなく、 最後の瞬間移動能力を作動させ、アンバー・ホワイトの機体はグフ・カスタムの背後へ と回り込んでいた。 「くっ!!」  先手を取られた事に対する罵りの言葉を弥生が呟くより早く、”破裂の人形”は肩か らグフ・カスタムの背中へとぶち当たっていた。 「ぐっ……」  背後から襲いかかった強烈な衝撃にコクピット内が激しく振り回わされ、両肩と腰の シートベルトが激しく食い込んで、胃の内容物が逆流する感覚に弥生は思わず苦痛の声 を漏らした。 「この……」  強烈な体当たりを食らってたたらを踏むグフ・カスタム。だが、姿勢を崩したのはほ んの数歩で、弥生の適切な操作により素早く姿勢の回復に成功した機体は、一〇メート ルほどの距離を明けて”破裂の人形”と向かい合った。 「はや〜〜、やっぱり。今の瞬間移動でエンジンさんが駄目になっちゃいました〜〜」  ”破裂の人形”の頭部コクピットでは佐祐理の残念そうな声が響く。  異常加熱により、暴走一歩手前まで陥ったイレーザー・エンジンのモニタリング・コ ンピューターが異常を検知してエンジンをスクラムさせ、出力をアイドリングレヴェル よりも僅かに高いところで抑え込む。  こうなると、もう瞬間移動は使えない。 「…………佐祐理、Sマイン!!」  舞の叫びと共に、最後に残された飛び道具である近接戦闘用の小型爆雷、Sマインが 射出される。  同時に、グフ・カスタムも再び機動をはじめ、自らに向けて飛翔してくるSマインを 迎撃しようと、三五ミリ弾の弾幕が放たれる。 「掛った!!」  三五ミリ機銃弾がSマインの弾頭を捉え、数基のSマインが空中で爆破される。しか し、最初から舞と佐祐理は炸薬量が小さく、又飛翔速度も遅く、迎撃の容易な小型爆雷 を全くあてにしておらず、これを最初から陽動の手段としてしか考えていなかったのだ。  空中で撃破されたSマインが凄まじい爆煙を撒き散らし、撃ち漏らしによって地上に 落下したSマインが炸裂によって砂埃を巻き上げる。 「!!」  HUDがSマインの炸裂によって巻上がった砂塵で覆いつくされた瞬間、反射的に危 機感を感じた弥生は咄嗟に操縦桿を倒すと共に、フットペダルを踏み込み、愛機に前傾 姿勢を取らせた。  判断は正しかった。  回避行動を取った機体のすぐ上方を数条の目に見えぬ高速・高密度のエネルギーの筋 が刺し貫く。 「来ます……ね」  見た目には苦戦しているにも関らず、冷静にそう判断すると弥生は徐にHUDの自動 追尾をカットし、手動照準でビームを撃ち込んできた辺りに左腕に装備された三五ミリ 三連装多銃身機銃の残弾全て――と、言っても元々携行弾数が少ない為、一門あたり二 〇発も残ってはいなかったが――を叩き込んだ。  赤く色づけされた曳光弾の列が砂塵の中へと吸い込まれ――明らかな命中弾の存在を 物語る閃光が閃く。  だが――  直後、砂塵を突き破り、HUDいっぱいにアンバー・ホワイトに塗装された重量感溢 れる機体が姿を表す。  その機体表面に新たな弾痕は殆どなく――その悉くが大型の楯で防がれているのが解 り、弥生は舌打ちを一つ漏らすと、スロットルを噴かし、操縦桿を押し込む。 「接近格闘戦……いいでしょう、望むところです」  直後、弥生の操る青い機体の持つ、幅広い蛮刀の如き大剣とアンバー・ホワイトの機 体の持つ日本刀のごとき鋭剣とが交錯し、耳に響く刃なりがフィールド一帯に響き渡っ た。  激突、そしてそれに続く斬撃――  死力を尽くした剣の応酬が繰り返される。  舞の鋭い突きを弥生が被弾経始を重視した滑らかな曲線で構成された肩アーマーでい なす。  弥生の重い一撃を舞が大型のベイルで受け止め、その力を巧く受け流してたたらを踏 ませる。  大上段から、サイドから、凄まじい剣戟の応酬が続き、一撃が繰り出されるたび、そ れを受け止めるたび関節が、バランサーが、シリンダーが悲鳴を上げ、軋み――荷重に 耐え切れなくなったものが音立てて壊れ、さながら機体が血を流して悶えているように オイルを吹き出させる。  やがて、凄まじい応酬の果てに一端、両方の機体が離れ、距離を取った。 「次で決まるな」 「ええ」  双方の機体が一度距離を開けた理由を悟った冬弥が呻いた。  傍らの理奈が視線をブラウン管に釘づけにしたまま、同意の呟きを漏らした。 「これで終わりです」 「………終わりだ」  時間にしてほんの数秒――だが、観るものにとって永遠に近い数秒の後、ヒート剣を 横薙ぎに構えたグフ・カスタムと「天叢雲」を水月に構えた”破裂の人形”が、最後の 推力を全開にして体ごとぶち当たるように突進し、交錯した―― 「決まった……な」 「決まった」 「決まった……の??」 「決まったわね」 「決まりました」 「決まったようね」 「決まったね」 「決まったわ」 「く〜」 「あう〜」 「うぐぅ……」  ブラウン管の中で、砂塵を巻き上げて二機の機体が交錯した。  一瞬、激突の衝撃に画面が激しくぶれ、そして次の瞬間、濛々たる砂埃で一瞬視界が 閉ざされた後、ゆっくりと砂埃が収まり始めると、その中に絡み合って動かない二機の 機影が見えた。 「どう??見える??」 「う〜ん、砂埃が酷くて、よく見得ないけど……どうやら終わったみたいね」  上空を旋回するルッグン電子戦機の機上で、操縦桿を握るはるかが問いかけた。観測 窓から双眼鏡で下界を伺っていた美咲が、何とかして立ち込める砂埃の中か状況を把握 しようと悪戦苦闘していた。 「…………イレーザー・エンジン、オーヴァーロードにより機能停止、Sマイン残弾な し、全ビーム兵器、出力不足により使用不能、右上腕部油圧系全損、機能停止……」  損害を報告するHUDのワーニングメッセージをぼんやりと眺めながら、全てが終わ った事を舞と佐祐理は悟った。  眼前のHUDいっぱいをもつれ合って停止した弥生のグフ・カスタムの蒼い巨体が埋 めつくしており、被弾による傷の一つ一つまでが正確に見て取れるほどだった。 「……主動力系伝達ライン切断、三五ミリ機銃残弾なし、ヒートロッド使用不能、左腕 脱落、メインカメラ破損……」  HUDを埋めつくすばかりの”破裂の人形”の大破した巨体とワーニングメッセージ を、力の抜けた表情で見つめながら、ゆっくりと呼吸を整えつつ弥生は戦闘終了を知っ た。  グフ・カスタムの大剣――ヒート剣は、”破裂の人形”の右腕部のフレームやシリン ダー、配線等を粉砕しつつ右脇腹に深く食い込み、更に高熱によって周辺にある主要回 路の悉くを機能停止に追い込んでいた。  一方の”破裂の人形”の鋭剣――イレーザー・スパッド「天叢雲」は、グフ・カスタ ムの左肩基部を捉え、高周波振動によって駆動部を粉砕し、左肩を付根から脱落させる と共に、そのまま余剰の運動エネルギーでバックパックから腰へと延びる動力パイプを 切断し、分厚い腰部スカート・アーマーに食い込んで止まっていた。 「グフ・カスタム、”破裂の人形”、共に戦闘不能。引き分けと判定します」  秋子の声が戦闘終了を高らかに告げる。 「皆さん、お疲れ様でした」  自力で動けなくなった愛機を、サポート要員のHM−13が操縦するモーター・ドーリー とギャロップに任せて、一足早く家族の元に戻ってきた三人に、秋子は優しく労いの言 葉をかけた。 「無様な戦いをしてしまいました」  そういったのは、パイロット・スーツの胸元を開け、エアコンから吹き出す心地よい 空気で汗を引かせていた弥生である。ちなみに弥生のパイロットスーツはお約束通りジ ○ン公国軍のそれであり、その姿を見た冬弥が思わず「まるでシ○マ姐さん……」と呟 いて冷ややかな刺すような視線を向けられたのは秘密ということにしておこう。 (しかし、ちょっと絵にしてみたいぞ by作者) 「…………そんなことはない。弥生、強かった」 「そうですよ〜〜、お陰で、とっても楽しめました〜〜」  横からそういってフォローを入れたのはスポーツタオルで汗を拭いていた舞と、自販 機で缶コーヒーを買い求めていた佐祐理である。蛇足ながら舞と佐祐理が来込んでいる のは装飾過剰気味のややごてごてとしたスーツ(佐祐理はスカート)である。尚、佐祐 理は何やら頭にクリスタルのようなものをくっつけているのはいわずもがなのお約束だ。 (こちらも絵にしてはみたいがやるとヨー・ド○メシ総裁(仮名)に血祭りに上げられ そうなので辞めとく方が懸命だろう by作者) 「そうですか、ありがとうございます」  佐祐理が差し出した缶コーヒーを受取りながら、いつも通りの平板な調子でそう応じ た弥生ではあったが、僅かに賞賛の意のこもったものである事を、同じように感情表現 に乏しい舞との付き合いの長い佐祐理は、見過ごす筈がなかった。 「ところで秋子さん、いいデータは取れましたか??」  理奈や由綺、マナの記録と自分のそれとを突き合わせてレポートを作っていた冬弥が そう訪ねた。 「おかげさまで。やはり高段者同士の対局だといいデータが取れますね」  冬弥の問いに、心の底から嬉しそうな声で秋子が応じた。 「これで、文化祭の楽しみが一つ増えますわ」 「え??」  秋子の呟きに、それを聞き取ったもの全てが怪訝な表情を浮かべたが、それに秋子は 取り合わず、端末機から吐き出されてきたカードを手に取ると、それを舞達に手渡して、 カードに記載されたランク欄を指で示し、説明を始めていた。 「プレイヤーランクがSランクとされていますね」 「私はサポーターランクにAがついています」 「…………プレイヤーSランク」 「あはは〜〜、私はサポーターAランクとプレイヤーBランクです〜〜」  秋子に促されるままに自分達のカードの情報を確認した四人が、口々にそう言った。 「基本的に、プレイヤーランクはDから始まってC、B、Aと上がっていき、最上位が Sになります。Sランクになるとエースパイロットの認定が受けられ、専用機を設定す ることが出来るようになります」  ちなみに、Sランクプレイヤーに与えられる専用機は他のハウス機とは分けて用意さ れる為、同一機種が他のプレイヤーに使われていても、使うことができる他、オリジナ ルカラー、パーソナルエンブレムなどの独自の装飾、及び戦績によって得られるポイン トに基づいたチューンナップなどを行なうことができる。  Aランクの場合、専用機を持つことはできないが、既に他のプレイヤーに使われてい ない限り、同時に他のプレイヤーが同じ機体を選んだ場合に勇戦使用権を持つことがで きる他、搭載装備について上位プレイヤー専用のものを選ぶ事が可能になる。  サポーターランクの場合は同様に支援用の機体や複座機の場合、アビオニクスの強化 について同様の措置が取られる。  それらの説明を受けて、弥生と舞は専用機の、美咲と佐祐理は優先使用機をそれぞれ 設定するかを決めるよう促された。 「そうですね……折角ですから、今回使ったカスタムを使わせて戴きます」 「…………”破裂の人形”がいい」  弥生と舞はどうやら今回乗った機体が気に入ったらしく、それをカスタム・チューン して専用機にすることにしたようだ。 「私は……他にも幾つか乗ってみたいですので、今回は止めておきます」 「あはは〜、佐祐理も今度はプレイヤーでやってみたいので、パスします〜」  美咲と佐祐理はパスを選択した。 「解りました。ただ、今回乗って戴いた機体は損傷が激しいので、急いでも修理に二〜 三日は掛りますから、その間は使えません。まぁ、その間にカスタムのプランを纏めて くださればいいでしょう。本格稼動までもまだもう少し掛りますし、他にも調整すると ころはありますから」  そう言って、レポートの回収を済ませると秋子は、「この時間はこれで終わりますね。 皆さん、お疲れ様でした」と挨拶し、職員室に戻っていった。 「さて、と――」  時計を見ると、この時間の終了まで後五分程ある。 「折角だから、一休みして戻りますか」  祐一がそう言うと、相沢家と藤井家の面々は口々に「賛成」と漏らして、歓談を交え つつ一番手近な「百花屋」に向かって歩いていった。 End. 「うにゅ〜」 「あう〜」 「うぐぅ……」 「はいはい、そんな目で見ても駄目だってば。レポート提出、ちゃんとしなかったんだ から自業自得でしょう」  ちなみに、おやすみモードで寝こけていた名雪と、たい焼きと肉まんに夢中でマトモ に授業を見てなかった真琴、あゆの三人は仲良くペナルティとして「あの」セットを強 制オーダーされましたとさ。 今度こそEnd. 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  はじめまして、うめ☆cyanと耗します。  最初にお詫びしておきます。  今回はFSSとOVAガンダム(08小隊)を知らないと面白くないかもしれません。  出来るだけ予備知識なしでも楽しめるように配慮はしていますが、その代わりあちこ ちに説明が入ってますので、かなり長くなってしまいました。  一応、全てのキャラに台詞を与えるようにはしましたが、キャラによって扱いに差が かなりあるのは今後の反省課題でしょうかね。  今回ですが、GX9900氏の話がガンダムのみで進んだので、性格の違う機体同士 でちゃんと戦闘になるかどうかを書いてみたいこともあって、あえてモーターヘッドを 出してみましたが、いかがなものでしたでしょうか。  オーラバトラーの線も考えたんですが、折角舞が乗るのであれば、佐祐理とのコンビ ネーションも書いてみたかったので、複座で尚且つ実剣装備系の機体ということで選ん だのですけれども、少しマニアックに過ぎましたかね??  それにしても、ロボットバトルでこれなんだから内容がもろに「星間大戦録(OCT 7氏「さまよいの森」で連載中のギャルゲー戦記)」とダブりそうな了承艦隊編は書く のはまずかろうね……(その前にPiaきゃろ編を書かないと)  それでは、今回はお読み戴きありがとうございました。
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「うーーーっ」(;;) セリオ:「…………」(;^_^A 綾香 :「また、分かんない単語がいっぱい」(;;) セリオ:「…………」(;^_^A 綾香 :「せんもんようごばっかり」(;;) セリオ:「…………」(;^_^A 綾香 :「うううぅぅぅぅーーーーーーっっっ」(;;) セリオ:「…………」(;^_^A 綾香 :「……………………」(;;) セリオ:「そろそろ、かな?」(;^_^A 綾香 :「うがーーーーーーーーーーーーっ!!」凸(ーーメ セリオ:「あ。やっぱり切れた」(;^_^A 綾香 :「ロボットなんて邪道よ!! 戦うなら素手にしなさい!! 素手に!!」凸(ーーメ セリオ:「それでは、このフィールドの存在意義が……」(;^_^A 綾香 :「うがーーーーーーーーーーーーっ!!」凸(ーーメ セリオ:「……ダメだわ、こりゃ」(;^_^A 綾香 :「うがーーーーーーーーーーーーっ!!」凸(ーーメ



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