「あはは、ねこさんねこさん!」
「お、なんだみずか、来てたのか」
「あっ浩平、おかえりー」

 オレ達が街から帰ってくると、みずかのやつが瑞佳の猫と戯れていた。
 猫と一緒に床の上をごろごろ転げまわったり、猫を持って丸まってみたりしている。

 それはそれで微笑ましい光景だったが、でか瑞佳だけじゃなくてちびみずかまでが
猫好き病になったりしたらたまらんな。

「「にゃー」」

 …折角こいつの将来のことを心配してやっているというのに、当の本人はのんきな
もので、オレの方へ猫をつきつけながら、何が愉快なのか満面の笑顔で猫の鳴き真似
をしている。猫のやつも一緒に鳴いたので、綺麗にはもる。

 …ん? なんか違和感が………あれ?

 って誰だこいつっ!?



「くぉら! でか瑞佳ぁ〜〜〜〜〜!!」



 次の瞬間、オレはみずかの持ってた猫の首根っこを引っ掴み、大声で叫んでいた。




私立了承学園 5日目 放課後 ONE 〜輝く季節へ〜 作成者:ERR
「浩平っ、そんな大声出さなくても聞こえるよっ!!」 「ばか、これが大声出さずにいられるかっ!」  オレを非難しながら現れた瑞佳に負けじと怒りをあらわにして、手に持ったモノを つきつけてやる。 「誰だこいつは!」 「あ、新しい仲間だよ」  何言ってるの? とでも言いたげな顔でそんなことを言ってきやがる。 「『あ、新しい仲間だよ』じゃないっ!! こんなやついつ捕まえてきたっ!」 「捕まえたんじゃないよ、ウチの教室の前にいたんだもん」 「あのなぁ…だからってそのまま持ってくるなっ!」 「だって、ダンボールに入ってたんだよ、きっと捨てられてたんだよ。そのままじゃ 可愛そうだよ」 「にしてもウチに連れてくることはないだろう、もう何匹いると思ってんだっ!」 「8匹。その子入れて9匹だよ」 「お前はウチを猫牧場にでもする気かっ!」 「何言ってるんだよ、そんなわけないよ」 「とにかく、コイツは却下!!」 「え!? 浩平酷いよっ! その子まだ小さいのにっ!」 「何もウチで飼う必要はないだろ? 誰かに引き取ってもらえ」 「誰だよ」 「誰かだ」 「うーっ」 「ふーっ!!」 「うーーーーーーーーー!!」 「ふかーーーーーーーー!!」 「ふぅ…ふぅ…」 「はぁ…はぁ…」 「…何やってんの?」  オレ達が肩で息をしているのを怪訝な表情で見ながら、留美が聞いてきた。疲れて るのに答えを求めてくるとは気の効かないやつだ。 「ちょうど…どれだけ話し合っても…どこまでも平行線でしかないことに…気づいた ところだ…」 「はぁ…はぁ…どこが…話し合い…だったんだよっ…ただ…唸りあってた…だけだも んっ…!」 「まぁ…そう…いうこと…だ…」 「はぁ?? さっぱり解んないわよ」 「浩平、とりあえず休んだら?」  …そういやちびみずかがいたんだった…  しばらく蚊帳の外に追いやられたせいか、ちょっと機嫌が悪そうだった。  …そうだな、とりあえず一休みするか。 ---------------------------------------------------------------------------- 「…とまぁ、こういうわけだ」 「ふーん…」  5分ほど休憩し呼吸を整えて、事の成り行きを留美に説明する。  事情を聞いた留美はしばし考え込む。  オレと瑞佳の話し合いが平行線で終わったため、判断を留美に委ねることにしたの だ。だから、オレと瑞佳は留美の思考に一切の口をはさまない。  留美が考え込んでる間、件の猫はみずかのおもちゃになっていた。  と、一分ほども考え込んでいただろうか、留美はすっ、とオレ達の方に顔を向ける。 「んー、やっぱここは家族全員の意見を聞きましょう。ま、多数決ってやつね」  考え込んだ割に平凡な答えだった。 「悪かったわね、平凡で…」 「ぐわ!? なんで解ったんだ!?」 「浩平、口に出してたよ」 「なにっ、しまった!」  オレとしたことが…気をつけねばなるまい。 「で? それで文句無いわよね?」 「おう、構わないぞ」 「わたしもそれでいいよ」  多数決ということで意見がまとまった。  ふっ、我が家はみさき先輩のおかげでエンゲル係数が高いのだ! どうせ全員財政 面から却下に違いないさ……  …家計管理代表者って瑞佳じゃん!!  …くそっ、早くも不利な戦いになってしまったかもしれん… 「あはは、ねこさんねこさん!」 「にゃ〜」  オレの苦悩など露知らず、みずかはまだ猫を抱えて床を転げまわっていた。 ---------------------------------------------------------------------------- 七瀬留美の場合 「あたしは賛成ね」 「…すまん、よく聞こえなかった、もう一度」 「賛成」 「…飼わないのに?」 「飼うのに」 「ば、ばかなっ! なぜだっ」 「日当たりのよい窓辺で自分の膝の上で眠る猫を優しく撫でて午後を過ごす…乙女に しか成せない技よ」 「…それは乙女と言うよりばーさんという感じだが」 「うっ」 「それに、お前にそんなおだやかな役が勤まるかっ、どうせ怖がられて逃げられるの がオチだっ」 「どういう意味だっ!!」 「腹が減ったらそこらの野良猫をとっつかまえて頭からボリボリ食うようなやつに近 づく猫がいるわけがないっ!」 「……それって、ケンカ売ってるのよね?」 「……さ、次は茜にでも聞いてくるか」 「まった、お土産くらい持ってきなさいって♪」  凍るように素敵な留美の笑顔。  額の青筋さえなければ、最高の笑顔だった。 ---------------------------------------------------------------------------- 里村茜の場合 「…とういことで、こいつを飼うか飼わないかって話しになってるわけだが…」 「浩平、そんなことよりその顔や体の傷は一体…?」 「いや、ちょっと留美と愛を確かめ合ったんだ」 「またですか…浩平、あまり七瀬さんをからかわないであげて下さい、可愛そうです」 「善処する」 「…それで、この猫を飼うか飼わないか、という話しでしたっけ?」 「ああそうだ。当然嫌だよな」 「…可愛いです」 「へ?」 「飼いましょう、浩平」 「…嫌です」 「…そんなこと言う浩平、嫌いです」 「茜、それキャラ違う…」 「浩平も人のこと言えません」 「茜、考え直すなら今だぞ?」 「嫌です」 「飼いたくなくなってきただろ?」 「そんなことないです」 「…やっぱり飼いたいのか?」 「…はい」  くそっ、茜もかっ!  瑞佳と並んで我が家の家計を牛耳ってる茜ならあるいはと思ったが…  …まぁ、考えて見ればあのぬいぐるみを本気で欲しがったりするやつだからなぁ…  次行くか… ---------------------------------------------------------------------------- 柚木詩子の場合 「飼いたくないよな、うん、そうかそうか、やっぱりなぁ! お前ならそう言うと思 ったよ、うん!」 「折原君、何言ってるの? それとそっちの可愛いのは何?」 「可愛くなんてないぞー、こいつは夜な夜な人の生き血を啜って歩く魔物なんだ」 「可愛いねぇ」 「うわっ、いつの間に奪った詩子!!」 「今だけど」 「おのれ、侮れんやつ…」 「名前はにゃもにしようと思うんだけど」 「ぐわ、勝手に飼うことに決めるなっ!!」 「あはは、くすぐったいよにゃも」 「話しをきけーっ!!」  くそっ、相変わらずマイペースなやつだ。 「それ折原君には言われたくないなぁ」 「ぐわっ、オレの思考を読むなっ!!」 「声に出してたって」  …ぬぅ、オレとしたことが。 ---------------------------------------------------------------------------- 椎名繭の場合 「みゅー♪」 「こいつはみゅーじゃないぞ、だから飼いたくないよな?」 「みゅーっ!!」 「そうかそうか、飼いたくないか」 「飼うもん!!」 「よし、じゃ次は澪だな」 「飼うー!!」  なんか後ろから聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。 「みゅーっ!!!!!」 「いてて、髪をひっぱるなっ!!」 ---------------------------------------------------------------------------- 上月澪の場合 『飼いたいの』 「…すまん、字が読めない」 「…」  はぅ〜  かきかき 『かいたいの』 「…すまん、平仮名が読めない」 「…」  う〜  あ、拗ねてる。  これ以上ここにいると根負けしそうだから先輩のところ行くか。 「〜〜!! 〜〜!!」  なんか後ろでやってるが、この際無視。 ---------------------------------------------------------------------------- 川名みさきの場合 「先輩、猫一匹増えるっていったら嫌だよな?」 「ううん、嬉しいよ」 「まさかぁ、そんなわけないだろ?」 「ううん、ホントに嬉しいよ。あの子達、手触りが良くて凄く気持ちがいいんだよ」 「じゃぁ、触って気持ち良くなかったら嫌だよな?」 「う〜ん…そんなことはないと思うけど…」 「じゃ、とりあえず増える可能性のあるヤツを触ってみるか?」 「うん」  持ってきた新入り候補を先輩に渡してやる。 「うわぁ、この子、凄く気持ちいいよ。毛、ふさふさだよ」 「にぁ〜」 「わぁ、鳴き声も可愛いね」 「…なるほど、飼いたくなくなったみたいだな」 「飼いたいよ」 「…冗談だよね?」 「ううん、本気だよ」 「だって猫だぜ!? きっとみさき先輩の飯とか横取りしたりするんだぜ!?」 「きっと一緒に食べたほうが美味しいよね」 「ぐぁっ…」  みさき先輩の弱点を突いたつもりが、逆効果だった。 ---------------------------------------------------------------------------- そして、長森瑞佳  ぐぁっ、澪と繭を無理やり「NO」としても5vs3で負けてるじゃないか!!  くそっ、なぜだっ!! 「あ、浩平どうだった?」 「…現れたなだよもん星人!!」 「わたしだよもん星人じゃないもん。で、どうだった?」 「…5・3で飼うに決定だ」 「え、浩平以外にも反対する人いたんだ」 「おう、そりゃそうだ」 「そんな人いません」 「え?」  不意に、茜の声が聞こえる。  そしてそちらを見ると…皆が勢ぞろいしていた。 『KAUNOー!!』  澪が掲げるスケッチブックにそんなことが書かれていた。  …恐らく、いや確実に、オレが平仮名が読めないとか言ったからだろう。  結構律儀なヤツである。 「長森さん、浩平以外全員飼うことに賛成です」 「うわぁ、嬉しいよっ」  畜生、ホントに嬉しそうに笑ってやがる。  普段なら愛らしいであろうその顔も、負けた今はなんか腹が立つぞ。  そんな不機嫌な顔をしていたオレの顔をちびみずかがじーっと覗きこんできた。 「浩平、なんでそんなに飼いたくないの?」  なんで、だと? そりゃあ……  …なんでだ?  世話は瑞佳がするだろうし、こいつ(=猫)もおとなしくて厄介ごとを起こすとも 考えにくい。食費がどうとか言ったって、猫一匹の食費なんてそんなに大したコト無 いし。  じゃ、なんで?  そして、しばし考え込み、一つの答えを導き出す。 「多分、瑞佳に言われると反対のことをしたくなってくるからだな」 「うわぁ、そんなの勝手だよっ、酷いよ浩平っ!!」  瑞佳がオレを非難する。まぁ、それは当然だろう。 「朝お前に起こされるとより一層惰眠をむさぼりたくなるのと一緒の理屈と思われる」 「自慢にならないことそんなに威張って言わないでよっ!!」 「いやまぁ、条件反射みたいなものでオレにも悪気は無いから許してやってくれ」 「やだもん。謝らないと許してやんないもん」  完璧に拗ねる瑞佳。皆はそんな瑞佳にあきれている。 「あんたねぇ…」 「…浩平に飽きれてるんです」 「素晴らしいマイペースっぷりだよね」 「みゅーっ!!」 『絶句なの』 「まぁ、浩平君だからね」  …どうやらまた考えたことを口に出してたらしい。  瑞佳は完璧にへそを曲げてしまった。  みずかは件の猫を抱え、オロオロと困ったようにオレと瑞佳の顔を交互に見比べて いた。  仕方が無い、悪いのはオレだしな。 「悪かったって、反省してるから許してくれよ」 「……」 「なんでも言う事聞くから」 「…ホント?」 「ホントホント、一つだけだが」 「なら、その子飼ってもいい?」 「…そんなことでいいのか?」 「うん、特別にそれで許してあげるよ」  輝くような笑顔でそう言う瑞佳。  こんな顔で言われては断れるはずも無い。  …というか、断ったら約束違反だが。 「よし、じゃぁ今日から正式に新入りだな。よろしくな」 「うにゃ?」  みずかが抱えていた猫ののどを撫でてやる。  するとそいつは気持ち良さそうに目を細めていた。 「まったく…結局反対者はいなかったんじゃないの」 「それなのにこんなに話しがこじれるなんて、さすが浩平です」 「いやぁ、それほどでも」 「浩平君、多分誉め言葉じゃないと思うよ」 「ていうか、絶対誉め言葉じゃないよ」 『皮肉なの』  そんな会話をしながらオレ達は、新参1匹を加えた9匹の猫と戯れる瑞佳とみずか、 そして繭を眺めながら、のどかな午後を過ごした。 <おわり>
 ERRです。  新参猫はもちろん4日目・相沢家3時間目で登場したあのロボット猫です。  相沢家と違って、折原家はアレルギーあるわけじゃないし、猫の数以外さほど問題 は無いでしょうから、こんな感じでOKだと思うのですが、どうでしょう?  瑞佳のテーマ曲は今後「9匹のネコ」に改名ですね(それはない)
 ☆ コメント ☆ 名雪 :「うーっ。羨ましいよぉ」(*・・*) 祐一 :「諦めろ」(−−) 名雪 :「わ。そんなあっさりと言わないでよ」(@◇@) 祐一 :「仕方ないだろ。お前には猫アレルギーがあるんだから」(−−; 名雪 :「うーっ。でも、でも、ねこさん」(*・・*) 祐一 :「まあ、9匹の猫に囲まれるという状況は、名雪にとっちゃパラダイスだからな。      羨む気持ちは分かるけど……って、どこへ行くつもりだ?」(−−; 名雪 :「み、見逃してよ、祐一。ねこさんが、ねこさんが……」(;;) 祐一 :「長森のとこに行く気だったんだろ。絶対にダメだぞ」(−−) 名雪 :「うーっ。祐一のイジワルぅ〜」(;;) 祐一 :「イジワルで言ってるんじゃない。俺は名雪の為に言ってるんだ」 名雪 :「…………」 祐一 :「俺は、名雪が苦しむ姿なんか見たくないんだよ」 名雪 :「……祐一。……そう、だよね。ごめんね、『イジワル』だなんて言っちゃって」 祐一 :「いや。分かってくれればいいんだ」 名雪 :「うん。ありがとう、祐一。      わたしのこと、気に懸けてくれて」(^^) 祐一 :「あ、あたりまえだろ。そんなこと……」(*・・*) 名雪 :「……だから……わたし……ねこさんの代わりに祐一で『我慢』するよ」(^^) 祐一 :「待てこら」(ーーメ



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