「もう来る頃ね」
 右手に填めた小振りな腕時計の文字盤と闇の向こうに続くアスファルトの道路とを交
互に見比べながら、高瀬瑞希はそう小さく呟いた。
 その背後からは賑やかな談笑とゆったりとしたアコースティック・サウンドとが入り
交じった喧騒が決して不快ではないバックグラウンド・ノイズとなって聞こえてくる。
 やがて、闇の向こう側に小さく前照灯の明かりが浮かび上がり、まもなくそれは黒々
とした二台のクルマのシルエットとなって現れた。
「来たか??」
「うん」
 小さく響くエンジンの音を聞きつけた千堂和樹がポーチに姿を現すと、二人は並んで
滑り込んでくる二台のクルマを出迎えた。
「瑞希ちゃん、やほ〜〜〜」
 二台のクルマが停車するかしないか、と言ったところで早くも後ろの黄色いスカイラ
インのセダンの運転席の車窓が開き、そこから顔を出した瑞希と同年輩の若い女性がそ
う明るい声で呼び掛けながら、器用に右手一本でステアリングを操りながら、空いた左
手を突き出して大きく振っていた。
「待ってたよ、留美さん」
 それに応えて、瑞希が内心で少々呆れつつも小さく手を振りかえすのと、二台が揃っ
て停車するのがほぼ同時であった。
 先頭のシルヴァーのホンダS−MXの運転席側に和樹が回り込み、軽くウィンドウを
ノックして運転者にドアロックの解除を求める。
 かちゃっと言うドアロックの外れる音がドアの内側から響いたのを確認すると、和樹
は運転席のドアを開いた。それに合わせ、運転者が先ず前消灯、続いてエンジン自体を
きってクルマから降りる。
 クルマから降りた運転者は年齢、体格ともだいたい和樹と同じ……身長はやや低いく
らいだろうか。
 場に合わせたオックスフォード・スタイルのスーツの着こなしはかなりのものだが、
少々ラフなヘアスタイルとそれを目許に掛らぬように額に撒かれた赤いバンダナが年相
応の若さ……と言うべきか、やんちゃさのようなものを醸し出しており、決して気障な
不快感を感じさせない。
「瑞希……ああ、俺のかみさんの一人なんだけど、彼女から知り合いが来るって聞かさ
れたんでね。俺は千堂和樹っていう。宜しく」
 そう言って、和樹が右手を差し出すと、バンダナの青年もその手を握り返して、言っ
た。
「前田耕治です。お世話になります……前に一度、研修で来たことはありますけど、い
ろんな意味で驚かされっぱなしですね、ここは」
「はは……だが、本当に驚くのはこれからだと思うぜ。それより、敬語は無しにしない
か??見たところ二人とも歳も似たようなもんだと思うし、そういう他人行儀は無しにし
たい」
「ああ、そうだな……まぁ、客商売長い事やってると、どうしてもこうなっちまうんだ
がね」
「それは俺も解らんでもないよ。それより、立ち話もなんだ、かみさん達をエスコート
してやって、中に入ろうぜ。みんなにも紹介したいし」
 そう言って、悪戯っぽい表情で和樹は背後を指で指し示した。
 そこでは、男同士で盛り上がってる二人の姿に少々機嫌を損ねた耕治の妻達が膨れ顔
で彼等を睨んでいた。

「たった半日でここまでやるってのは……大したもんだ」
 和樹と瑞希に導かれて、妻達をエスコートして体育館に足を踏み入れた耕治は、考え
うる限り本格的に行われたインテリアに、そう感歎の呟きを漏らした。
 天井こそ、体育館特有の無骨なトラス構造を残しているものの、どうやって取りつけ
たのかわからないが、蛍光燈の替わりに大型のシャンデリアが下げられ、又フロアにも
シート上の毛足の長いカーペットが敷き詰められている。
「ほんと……うちの施工業者さんも真っ青ね」
 耕治の後を接いでそう呟いたのは涼子である。
「おーい、耕治、こっちだ」
 耕治たちが館内の様子に目をとらわれてる内に、テーブルの一つに移動した和樹が、
数人の女性たちと共に耕治たちを手招きしていた。
「紹介させて貰うぜ、さっき俺と一緒にいたのが、瑞希……っと、それから、玲子ちゃ
んとは確かそちらの留美ちゃんとつかさちゃんだっけ、彼女たちとは知り合いらしいな」
 そう言われて、四人が軽く肩を竦めた。
「それから、彩ちゃん、あさひちゃん、由宇、詠美、南さん、郁美ちゃん……あと、も
う一人、千紗ちゃんがいるんだけど……」
 そこで和樹は一旦言葉を区切り、立食スペースのあちこちに視線を走らせて、ある一
点で目を留めた。
「にゃにゃ、この料理もおいしいですぅ〜〜〜これも持って帰んなきゃ」
「千紗ちゃん千紗ちゃん、こっちもおいしいですよ。なくなる前に……」
「にゃあ〜〜」
 そこでは千紗と藤田家の理緒の二人が持参したタッパーに料理を詰めて廻っていた。
「まぁ、あの通りなんでな」
 そう言って苦笑してみせる和樹。その後を追って、今度は耕治の方が家族の紹介を始
めた。
「あずさと美奈ちゃん……この二人は姉妹でな、今回の法律で一番救われたんじゃない
かな。それから、涼子さん、早苗さん、留美さん、つかさちゃん、ともみちゃん、ユキ
ちゃん、紀子ちゃん……それから……」
 そこで一旦言葉を区切り、控えめに立つ中性的な面立ちの、耕治と同じオックスフォ
ード・スタイルに身を固めた小柄な存在に目を向けた。
「……潤、だ」
 呼ばれて潤は小さく会釈してみせる。その姿に、和樹と玲子の二人が何か違和感を感
じたのだが、その事を耕治に問い質すかどうか躊躇っている内に、横合いから声がかけ
られたのであった。
「皆さん、楽しそうですね」
「あ、秋子さん。こんばんわ」
「こんばんわ、和樹君……耕治君、来て下さいましたね。ありがとうございます」
「あ、いえ……こちらこそ、お招きありがとうございます」
 普段の太めの三つ編みを解いて自然に足らし、落ち着いたワインカラーのイーヴニン
グに身を包んだ秋子の、大人の女性ならではの色気に内心どきっとするものを感じなが
ら、耕治と和樹の二人は秋子に軽く頭を下げた。
 その後ろでは、旦那達の内心を見透かしていた両家の妻達が殺気を込めた視線をそれ
ぞれの旦那の背に注いでおり、二人は後で死ぬほど冷や汗をかかされる事になる。
 それから、更に二言三言、秋子を交えて言葉を交わす内に、和樹も玲子も先程感じた
疑問を耕治に聞く機会を失ってしまったのだが、そのまま、秋子が他のテーブルに移動
するのにあわせて両家の家族もそれぞれ三々五々、幾つかのグループに別れて談笑を始
めたのを切っ掛けとし、和樹は耕治に、又玲子は潤にそれぞれ声をかけてみることにし
た。

 和樹と耕治の二人は、会場の片隅にあるカクテルバーに場所を移していた。
 他の場所に比べると、ここは未成年者がいないせいもあって比較的人気も少なく、落
ち着いて話をするにはうってつけであった。
「すまんな、いきなり誘っちまって」
「いや、大体聞きたいことは解ってるから、いいさ」
 そう言って、取り敢えず差し出されたジントニックに口を付け、唇を軽く湿らせる。
「聞きたいのは……潤の事だろ」
 耕治がそう聞くと、和樹も受取ったスコッチのオン・ザ・ロックを気持ちだけ口にし
た後、「そうだ」と小さく首肯いた。
「女の子……だろ、あいつ……いや、彼女か」
「よく解ったな」
「何、まぁ半分は感、だがね……」
 そう言って、手にしたグラスを置き、視線をホールに向ける。丁度、玲子が潤を伴っ
てテラスの方へと歩いていく姿が目に止まった。
「そう言えば、和樹んとこの玲子ちゃん、だっけ??彼女も感づいてるようだな」
「ああ……と、いうか、多分先に気付いたのは彼女だと思うんだけど。留美ちゃんかつ
かさちゃんから聞いてないか??彼女の趣味」
「いや……コスプレって程度しか聞いてないけど、それがどうかしたか??」
 そこで再び、和樹はグラスに口を付けた。
「うん、瑞希はまぁ、どちらかというとアニメ系なんだが、彼女はいわゆる男装系のコ
スプレが好きでな、自分もよく男の格好をするだけに違和感、というか不自然さを感じ
たようだ」
「なるほどな……」
 そこで耕治も自分のグラスに口を付け、それから暫し黙り込む。
「……知ってるのか??」
「え??」
「彼女、お前さんが薄々正体を感付いている事……あるいは、他の家族が自分の正体を
知っているかどうか」
「そうだな……多分、あずさ達は気付いてないと思う。潤も……多分俺が感付いてると
は思っていないだろう」
 その返事に、和樹は暫し沈黙すると、視線を天井に泳がせ、何かを考え込んだ。
「どうする……つもりなんだ??いや、別にお前さんを責めてる訳じゃないぜ。彼女が何
で男の格好のままでいるかを詮索する気も無いし。
 ただ、いつまでも騙し通せるものでもないだろうし、秘密を抱え込んだままで生活を
続けるのは……窮屈なんじゃないかと思うんだがな」
「そうだな……俺は……不器用だからな。待つさ。潤が正直に打ち明けてくれるのを。
それに、俺のかみさん達は、その程度の事であいつを軽蔑するほどタマの小さい奴らじ
ゃないと思うし。さ……」
「そうか……ま、不器用は俺だって負けず劣らずだがね」
 そう言って、二人は殆ど同時に苦笑すると、小さく肩を竦め合った。
 そして、
「お互いの不器用さと、不器用な旦那を持った健気な嫁さん達の為に」
 二人のグラスが小さく合され、カットグラス同士が触れ合う心地よい音が、小さく響
いた。

 ガディムに率いられた楽団が、スウィング・アレンジの「鳥の詩」の演奏を終えると、
照明が薄く落され、同時に余計なテーブルが片付けられた。
 やがて、日ごろの感謝の意を込め、各家庭の亭主達が女性教職員の手を取ってホール
に姿を現すと、ゆったりとした「Moon River」の調べと共にダンスパーティが始まった。
「で……どうするの??」
 栗色の長い髪をまっすぐに降ろし、シルク特有の美しい光沢を放つミッドナイトブル
ーのカクテルドレスに身を包んだあずさが、少々手持ち無沙汰な表情でホールを眺めて
いた耕治に問いかけた。
 実のところ、あずさも戸惑いを感じていた。本当は、最初のダンスの相手を美奈に譲
るつもりでいたのだったが、それを口にする前に、肝腎の美奈を含む全員から背中を押
されたのである。
 だが、今ひとつ耕治の表情が浮かないことと、他の面々が妻達とではなく教員達と踊
っている事、そして曲そのものが流れ始めてしまった事で間に入るタイミングを逸して
しまったのだ。
「そうだな……この曲はスキップ、かな」
 視線をホールに向けたままで耕治がそう呟くと、あずさはふっと小さくため息を漏ら
した。
「ばーか」
「え??」
 耕治の言葉に、あずさはそう小さく応じると、耕治が反応するより早く、後ろを振り
返って屈み込んだ。
「かおるちゃん、耕治お兄ちゃんと遊んできたい??」
「うん、かぁる、おにいちゃんとあそぶ〜〜」
「そっか、じゃあ言ってらっしゃい」
「お〜〜」
 そう言って、自分の身長の半分にも及ばない小さなレイディを耕治の前に押し出した。
「おにいちゃん、あそぼ〜〜」
「ほら、かおるちゃんがこう言ってるんだから、行って来なさいよ、耕治君」
 わざと怒ったような仕草で耕治を睨みながらそういうあずさに、思わず耕治は苦笑を
一つ漏らすと、
「解ったよ、我儘なお姫様」
 そう言って、普段はアップにしている髪の毛を降ろして、胸元に薔薇のコサージュを
あしらった黄色いドレス姿のかおるを恭しい仕草でひょいと抱き上げると、肩を竦めつ
つホールの方に歩き出した。
「……サンキュな、あずさ」
 二、三歩歩いて、一旦立ち止まった耕治は、後ろを振り返らずにそう小さく呟くと、
再び、今度は立ち止まらずにホールの方に歩いていった。
「まったく……素直じゃないんだから。あのお馬鹿さんは」
 その姿に、微笑ましいものを感じて、あずさの後ろでかおるを送り出した春惠が小さ
くくすりと微笑んだ。

 一曲目の「Moon River」が終わり、二曲目、思わぬ緒方理奈のヴォーカル付きの
「Tennessee Walz」、そして三曲目の「Raspsody in Blue」が流れる中、潤と玲子の二
人はカクテルバーで受取った限りなく生のコーラに近いコークハイのグラスを手に裏庭
のベンチに座り、話し込んでいた。
「……そっか、役者の勉強の為に、か。頑張ってるんだ、潤クン」
 虫の音と、背後から静やかに聞こえるオールディズの調べの混ざった心地よいBGM
に浸りつつ、玲子は満天に輝く星空に視線を向けながら、呟いた。
「うん……でも、玲子ちゃんには簡単に見抜かれたし、多分耕治も気付いてると思う……
まだまだだって気がするよ……」
 玲子とは反対に、三分の一ほど中身の減ったグラスを弄びつつ、足元の地面に目を落
して潤はそう呟いた。
「にゃはは……それは、趣味とはいえ私だって男装するからね、見抜けてと当然だと思
うって。それに……」
「それに??」
「和樹クンもそうだけどさ、私たちが思ってる以上に男の子って鋭いよ。なにより、自
分が好きになった女の子のことにはね……」
「そうかな??」
「にゃはは……そうそう。それよりさ……」
 一頻り玲子は楽しそうに笑うと、急に表情を引き締め、潤の顔を正面から見据えた。
「いつまでも、そうし続ける気なのかな??潤クンは……いずれその内、煮詰まっちゃう
んじゃないかって思うんだけどね」
「うん……自分でも解ってるんだ。そんなことくらい……でも……」
「でも??」
「でも、思うんだ……僕が本当のことを打ち明けて、そうする事で何もかもすっきりす
るかも知れない。けど、そうする事で、今ある幸せが崩れるんじゃないか、耕治も、あ
ずさちゃん達も僕のことを軽蔑しちゃうんじゃないか、そう思うと……恐いんだ……」
 そう言って、視線を玲子の瞳から外し、俯く潤。
 その姿に、玲子は無言で暫く見つめていたが、やがて、何かを思い付き、決意を秘め
た瞳で立ち上げると、潤の手を取って立ち上がらせた。
「玲子ちゃん……一体何を??」
「にゃは……潤クン、今日は何の日か知ってる??」
「今日って……ダンスパーティ??」
「そう。そして、ダンスパーティの夜には、シンデレラの為に心優しい魔法使いが現れ
るって、相場が決まってるんだよ」
 そう言って、まだ困惑顔の潤の手を取って歩き出す玲子。その、有無を言わさぬ強引
さの中にも何か優しさのようなものを感じ、潤は黙って玲子に従わざるを得なかった。

「潤さん、遅いですね……」
 「Take It to the A Train」の響きにあわせてステップを踏みながら、家族達の方に
目を向けて紀子は心配そうにそう呟いた。
「さっき千堂さんとこの……玲子さんだっけ、彼女に誘われたっきり戻ってこないんで
すけれど……」
「そうだな……何処行ったんだろうな、潤の奴……」
 紀子の手を取ってリードしながら、自分もちらりと家族の方に目を向け、また先程の
和樹との会話や、玲子との取り合わせに、何か引っかかるものを感じながらも、耕治は
とりあえずはこの一曲を踊り切る事に専念した。
 ただ、この曲が終わったら、探しに行ってみるか、そう心に決めてもいた。

「こんな所に連れ出して、何の用だ??」
 妻達とのダンスを一曲づつ踊り終え、軽くジンジャエールのグラスを手に取って体の
火照りを冷ましていた耕治の元に玲子が現れたのは、潤の姿を求めて耕治がホールの中
を一通り廻ってみた直後であった。
 耕治が何かを言い出す前に、玲子とはただ一言、「付いて来て欲しい」、そう言うと、
踵を返し、裏庭へと歩き始めた。
 耕治としては、いきなり今日始めて会った相手に命令される理不尽さと反感もあった
が、先程の事もあり、とりあえずは黙って従う事にした。
 そして二人は、中庭に出たのである。
「にゃはは……そう怖い顔しないで欲しいな。親切な魔法使いさんとしては、ただ不器
用なお姫様の為に魔法をかけてあげただけなんだから」
 そう言って、くすりと笑って、軽く耕治の追求を交わす玲子。そのまま、手で耕治の
動きをやんわりと制すると、物陰に向かって目配せしてみせた。
 それを受けて、控えめな足音と共に小柄な人影が、体育館の影から現れた。
「お、おい……これって一体……」
 物陰から姿を現した人影の正体に気付いて耕治が絶句するのを横目に、玲子は悪戯っ
ぽく笑うと、
「にゃはは、後は頑張るんだよ、潤クン」
 そう言って、一人さっさとホールの方に戻っていってしまった。
「その……玲子ちゃんが勝手に……変、だよね、耕治……」
 ボーイッシュに纏まった黒いショートカットの髪に、飾りリボンの付いたペールグリ
ーンのヘアバンドを指し、同じカラーを貴重にした肩と胸元の大きく開いたドレス。
 手首から二の腕までをすっぽりと覆う長い手袋と胸元を飾る飾り布は純白で、更に左
胸に椿のコサージュ。
 薄く惹かれたルージュは赤と言うより桜色で、中性的な美しさを持つ潤の魅力を上手
く引き出しているといえた。
「潤……お前……」
「ごめんね、耕治……僕……私……その……」
 その先が言葉にならず、つっと涙を流して俯く潤。
「ばーか」
「え??」
 いきなり、そう言われて戸惑う潤は、さらに続いて起った事態にすっかり混乱してし
まった。
 上半身に決して不快ではない圧迫感を感じたと思った直後、潤の躰はすっぽりと耕治
の手で抱きしめられていた。
「お前が……女の子だってことぐらい、俺が気付いてないと思ってたのかよ……馬鹿……」
 その言葉に、暫しそのまま耕治の手の、胸の暖かさに浸っていた潤は、「ごめんね……」
と小さく呟くだけであった。
 背後から聞こえる曲が、いつの間にかオールディズから現代曲をアレンジしたものに
変わり、又時折ヴォーカルの声が交じり始めたのに、二人は気付いていなかった。

「……そっか、苦労してんだな、お前も」
 背後から小さく聞こえる緒方英二の「Graviti of Love」をBGMに、先程まで玲子
と座っていたベンチに腰を降ろして、先程玲子に話したものと同じ内容を、潤は問わず
語りに喋り終えた所であった。
「ま、そこがお前のいいところなんだが……」
 そう言って、次の言葉が思い浮かばず頭を掻く耕治。
 その仕草に子供っぽさを覚え、潤は小さく笑うと話題を変えた。
「ところでさ、耕治……耕治は気付いてたっていうけど……何時から気付いてたの??」
その言葉に、頭を掻く手を止めた耕治は空を見上げてう〜んと考え込むと、
「そうだな、あの温泉旅行の時、かな……」
 そう言って、照れ臭そうに含羞んだ。
「そっか……」
 そう言って、さらに潤が何かを続けようとしたが、それとほぼ同時に背後から流れて
くる歌が終わり、次の曲が始まっていた。
 それに気付いた耕治が立ち上がると、恭しく潤の手を取り、立ち上がらせた。
「最後の曲だけれど、踊ってくれますか、お嬢さん」
 そう言って、最高の笑顔を見せる耕治。
 その言葉に、感極まった潤は多くを語る事無く、ただ「はい」と首肯いたのであった。

今夜こそは こんな街から 逃げ出してしまおう Headrightに浮かぶ闇の中……
「「Cinderella Libarty」か……あの御仁らしい捻くれた選曲だな」  ステージの上でマイクを持つ人影を見上げて、苦笑交じりに和樹は小さくそう呟いた。  その傍らでは、普段はサイドでポニーテイルにしている赤毛を解いてアップに纏め、 白に近いチェリーピンクのタイトドレスを身に纏って、いつもとは異なる美しさを湛え た瑞希が、ダンスとアルコールで上気した頬を和樹の肩に預けている。  その、普段は見られる事の無い艶っぽい美しさに内心でどきりとした物をおぼえなが ら、和樹は、そんな内面を瑞希に見透かされないように無駄な努力を試みながら、片手 で瑞希の髪を優しく撫でつつ、呟いた。 「お前の友達……好い人達だな……」 「うん……」  そう答えながら、瑞希は優しく自分の髪を撫でる和樹の手の暖かさを感じながら静か に目を閉じた。
ずぶ濡れの二人は 叱られた 子供のように 震えて眠ってた……
「あ〜あ、残念……おせっかいの度が過ぎちゃってダンスの機会を無くしちゃったな…… ま、今回は人助けだし、その分後で和樹君に甘えちゃえばいいか……」  そう、呟いた玲子は一人、小さく肩を竦めると視界の片隅に手持ち無沙汰に佇む留美 の姿を見付け、声をかけると二人ならんでカクテルバーへと歩いていった。
裸のままで 俺に背を向け ガラス窓から 夜明けの街を見ていたお前 声をかけると 振り向きながら 無理に笑って”やっぱり いつもと同じ朝”と言う……
「誰……でしょうね。あの娘」  カクテルバーでの玲子と耕治のやり取りにただならぬものを感じ、こっそりと後をつ けていたあずさと美奈は、物陰から月明かりの中で踊る耕治と潤の姿を眺めていた。 「やっぱり……私たちの旦那様は、最高の朴念仁だっていうことよ」  そう言ってシニカルに笑う姉の姿に、ただ美奈は不思議そうに首を捻るだけであった。
太陽の光に 当てたら 跡形もない Cinderella Libarty……
「なぁ、潤……」  ステップを踏みながら、耕治は不意にそう呟いた。 「なに??」 「あのさ……お前の気持ちはよく解ったから……これからは無理なんかしなくていいか らな……」  そこで一端、二人の躰が離れ、再び近づく。 「俺はいつでもお前のことを見ててやるから……みんなも、お前のことを嫌ったりなん かする訳ないから……  だから……判断はお前に任せるから、何時でもいい。言ってくれるよな、自分の口か ら。その日を俺は待ってるから……」 「うん……」  そして曲が終わり、魔法の解ける時間が訪れる…… 「頑張るから……見ててね……有難う、耕治……」  暫し、ラストダンスの余韻に浸りながら、そう呟く潤。  そんな潤を、ただ耕治は優しく抱きしめるだけであった。  そんな二人を、月と星星とがただ優しく見つめていた。
私立了承学園 a private campus "Ryousyou-Gakuen" This Episode is "Welcome to Pia-Carrot!!2" 5th Day,Afterschool Times 「シンデレラリバティ」 Written by うめ☆cyan
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  こんばんわ、うめ☆cyanです。  ぴあ2編、潤フォローエピソードです。  登場編で潤をちょっとギャグキャラ化し過ぎて苛め過ぎたんですけれど、もうちょっ と幸せにして欲しいという声が多かったので(^^ゞ  確かに、潤は崩し安いから動かしてて楽しいんですけれどね。  ちなみに、ラストの曲ですが、
Woman and I… OLD FASHIOND LOVE SONGS 柳ジョージ&レイニーウッド(ワーナー・ミュージック・ジャパン)
というCD収録のDisk1の2曲目に収録されています。本当はあんまりダンス向けの曲 じゃないんですけどね、タイトルが今回の作品に相応しかったので使ってしまいました。  それにしても、私の書く話は……長いなぁ(^^ゞ

 ☆ コメント ☆ 綾香 :「ひとまずはハッピーエンド、かな」(^^) セリオ:「そうですね。      不遇な扱いが続いた潤さんですけど、やっと報われましたね」(^^) 綾香 :「それにしても、潤みたいな娘が男の子の振りをするのって無理があるわよねぇ」(^ ^; セリオ:「まったくです。綾香さんみたいな暴力的で乱暴な人なら別ですけど……」(−−; 綾香 :「…………(げしげしげしげし)」凸(ーーメ セリオ:「あうあうあうあう」(☆☆; 綾香 :「余計なことは言わなくてもいいの」(^^メ セリオ:「はい゛。ずびばぜん」(;;) 綾香 :「それはそうと……耕治さん。      『最高の朴念仁』か。まるで、どこかの誰かさんみたいね」(^^) セリオ:「え? 『最高の僕のニンジン』?」(・・? 綾香 :「…………おい」(−−; セリオ:「僕のニンジン。……僕の……ニンジン。……僕の…………。      いやーん。綾香さんってばエッチぃ〜」(*^^*) 綾香 :「…………(げしげしげしげしっ!)」凸(ーーメ セリオ:「あうあうあうあうっ!」(☆☆;  



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