ふぅ…

 結局今日も見つからなかったな、バイト…
 明日は了承の外も探してみようかな…何もここで探す必要はないわけだし。
 まぁとりあえず今日のところはそろそろ帰るか…
 そう思って帰路につこうとしたその時。


「…これは?」


 僕は電波を感じた。いや、それだけなら大した問題ではない。
 だが、その電波は僕が今まで感じた感じたどんな人…いや、どんな生物のものとも
違っていた。

 その時抱いた気持ちが興味だったのか、それとも別の何かなのか、それは解らない。
 ただ、気がついたら僕はその電波の発信源に向けて歩きだしていた。






「……」

 ころころころ…

 そこにいたのは、小学校低学年くらいの、幼い少女だった。
 彼女は無表情に、自分の手のひら上で転がるおもちゃを見下ろしていた。

「……」
「…?」

 やがて、僕の接近に気がつくと、彼女は僕の顔を見上げるようにその顔を上げる。
 奇妙な電波を放っていたのは確かにこの少女のようだ。
 そしてそれは、少し形を変えたものの、今も放出されている。

「……」
「おにいちゃん、だれ?」

 別段僕のことを警戒する様子も見せず、少女は尋ねてくる。
 無垢だからなのか、あるいは…
 いずれにしても、このままでは僕はただの怪しい男である。

「僕は…拓也」
 とりあえず、名乗っておく。
「拓也さんだね、わたしはみずかだよ」
 そう言って彼女は無邪気な笑顔を見せる。
 知らない人間に対する警戒心は無いのだろうか? いくら了承学園の敷地内といえ
ど、完全に安全なわけではないのに。それとも、そんな猜疑心もないくらい幼いのだ
ろうか?
 あれこれと考えてみるが、仮説が生まれるだけで答えは出ない。そう思うと考える
ことが馬鹿らしく思えてきた。

 そんな時のことだった。彼女が思いもよらない言葉を発したのは。

「拓也さん、何かなやんでるの?」
「!?」

 幼い少女だと思っていたが、鋭い洞察力を持っているようだ。
 表情も声も普段通りに振舞っていたはずなのに、このような言葉をかけられるとは
思っていなかった。それも、こんな幼い少女に。

「おどいてるね」
「ああ」
「わたしね…自分でいうのもヘンだけど、そういうのけっこうわかるんだ…だって、
見なれてるからね」
「見なれている…?」
「うん。昔からずっと見てきたから、なやんでる人の顔。生まれた時から今日まで、
ずっと、ずっと」

 彼女の言葉には不思議な重みがあった。
 こう言ってはなんだが、まるで数千年の時を経たもののけのようだった。

「特にね…今の拓也さんみたいな顔は本当にずっと見てきたんだよ。
 …まるで、この世界に自分がひとりぼっちでいるような…そんな、さびしい顔…」
「!?」

 僕はまた驚いていた。それも、先ほどよりもずっと強く。
 自分の悩みを指摘されたから驚いているのではない。彼女の言葉に動揺している自
分に驚いているのだ。
 僕自身、僕がそのことで悩んでいるとは思っていなかった。いや、気づいていなか
っただけなのかもしれない。
 いずれにせよ、彼女の言葉は鋭利な刃物のように僕の胸に突き刺さった。


「………さん?」
「…」
「拓也さん?」
「え! あ、な、なんだい?」
「ううん、なんかぼーっとしてたから」

 一瞬、思考に空白があったらしい。
 名を呼ばれ、必要以上に驚いてしまった。
 それにしても、この少女は一体誰…いや、なんなのだろう。
 少女というにはあまりにも言葉に重みがある。
 本質は確かに無垢な少女のそれにしか思えないのに。

「ね、拓也さん」
 再び深い思考に沈もうとする僕の名を彼女が呼ぶ。
「ん、なんだい?」
「何があったのかまではわからないけど…ひとりぼっちっていうのはさびしいよ」
 そう言うと彼女は、今まで出会ったどんな人の顔にも見たことがない表情になる。
 言葉で表わすとすれば、寂しさを極限まで追求した結果たどりつく絶望の表情、と
でも言うべきだろうか。どのように育てばこの歳の子がこのような表情ができるよう
になるのだろう、と思った。
 でも、そんな表情も一瞬だった。
 彼女はすぐに優しく微笑む。
 しかし、新たに浮かんだその笑顔もやはり、歳相応の少女のそれとは思えないほど
の慈愛に満ちていた。

「あのね…本当にひとりぼっちになってからじゃ、どうしようもないんだよ」
「……」
 笑顔で、子供に言い聞かせる母親を思わせる口調で僕に語りかける彼女。
 傍から見ればそんなものではないのかもしれないが、僕には何故か自分が幼い子供
で、目の前の少女が優しい母親のように思えたのだ。

「昔ね…とっても仲のいい兄妹がいたんだよ」
「…え?」
 仲のよい兄妹。
 その言葉に瞬時、僕は自分、いや自分たちの事を言われたのだと思ってしまう。
 だがそれは勘違いだったようだ。
「お兄ちゃんはよく妹をいじめてたんだけど、妹のことを誰よりも想っていたんだよ。
 妹もよくお兄ちゃんにいじめられてたんだけど、誰よりお兄ちゃんの事を想ってい
たんだ」
 僕らの場合はそんな他愛ない兄弟喧嘩をした覚えすらない。
 家庭環境の異常さが、そういう関係を築くことを許さなかった。
 彼女の言葉は続く。

「その兄妹のお父さんは、早くに死んじゃったんだ。お母さんと3人ぐらし。それで
も3人は幸せだった。いつもいたずらばかりの困ったお兄ちゃんも、いつもお兄ちゃ
んにいいように遊ばれてる妹も、優しいお母さんも、みんな幸せだったんだ。ひとり
ぼっちじゃなかったから。みんながみんなを深く想っていたから。たしかな絆があっ
たから」
 この話は、彼女の実経験なのだろうか?
 なんとなく、そんな気がした。
「だけどね…深い絆だったからこそ、こわれちゃうのも簡単だったんだよ…」
「……」
 兄妹。
 壊れる生活。
 …彼女も、僕と似た生活をおくってきたのだろうか。
「妹がね、病気になったんだ。絶対治らない、たいへんな病気」
「え!?」
 彼女の話から、彼女が「妹」なのだろうと勝手に思いこんでいた僕にとって、彼女
の言葉は衝撃だった。
「どうしたの?」
「あ、いや…なんでもないよ、続けてくれるかな」
 彼女は一瞬首を傾げると、さして気に留めた様子も無く、話を続ける。

「お母さん、きっとお父さんが死んじゃったことでもう限界だったんだね。そんなと
きに娘が死んじゃうなんて聞いて、もう現実を見られなくなっちゃったんだ。
 お母さん、それからなにかの宗教にいりびたるようになっちゃって、家にも、娘の
いる病院にもほとんど姿をあらわさなくなっちゃったんだ。
 兄妹の家族は、妹思いのお兄ちゃんと、兄思いの、病気の妹だけになっちゃったん
だよ」
「……」
 二人。
 二人の世界。
 その兄妹の世界は、かつての僕と瑠璃子の世界に似ている気がした。

「お兄ちゃんは、自分ひとりになっても、いつも妹のためにがんばってたよ。
 お兄ちゃん、幼かったから、大好きな妹の病気のこと何も知らなくて。きっと昔み
たいに楽しい日が戻ってくるって信じて、病院でひとりぼっちの妹のために元気に毎
日を生きていたんだ。時々学校をさぼって妹のところへ行ったりもしてたんだよ。妹
もお兄ちゃんのことを大好きで、いつも心配してたから、そういう日はお兄ちゃんの
こと、ちょっと怒ったりしてたんだ。
 お母さんはいないし、妹の病気もよくならないけど、そんな何気ない日常の中で、
兄妹はまだ笑顔でいられたんだ。二人とも、病気が良くなることを信じていたし、何
より、ひとりぼっちじゃなかったから」
「……」
 彼女の話は…
 悲しい幕切れが待っているだろうことが解っているだけに、悲痛だった。



「でもね、残酷な時間の流れはそんな二人から笑顔をとっちゃったんだ。
 ─妹が、死んだんだよ」
「……」
 僕は─瑠璃子への愛と日常の圧迫により、次第に瑠璃子への愛を歪めていき…結果、
瑠璃子を失い、狂気に堕ちた。そしてその時…力を手に入れた。
 挙句…その力を私利私欲の為に行使する、最悪の悪魔となった。
 ─その「お兄ちゃん」は…どうなったのだろう。
 ただ一人の愛する者を失った「彼」は…


「そのお兄ちゃん…もう妹もいなくなっちゃったから、ただの男の子だね…その男の
子は、絶望したんだよ。世界にただ一人取り残されたような、そんな寂しさと悲しさ
の中で、ただ絶望したんだよ。
 それからその男の子はおばさんのところに引き取られたんだけど、そこでもその男
の子の絶望は変わらなかった。どんどん自分の心を閉ざして…自分の世界に落ちてい
ったんだ。そんな彼に、話しかけられる人は誰もいなかったんだ。
 悲しいよね、周りには同い年の子もいっぱいいて…その気になれば友達になって…
たくさんたくさんあそんだり、いっぱいいっぱいおはなししたり、できたのにね」
「……」



「でも、ひとりだけ、そんな彼にいっしょうけんめい話しかける女の子がいたんだ─
 生きてるだけだった彼は、はじめその女の子の声にもぜんぜん応えようとしなかっ
たんだけど…でも、その声は彼に届いていたんだ。少しずつ、だけどね」
「……」
「それである日、彼が自分の心の扉を少しだけ開けてみようとしたとき、ちょっとし
た事故でね、女の子は彼の頭に石をぶつけちゃったんだ。そしたら彼はすごく怒って
ね、それから毎日、女の子にふくしゅうとかいっていたずらし続けたんだよ。
 そんなさんざんなきっかけだったけど…彼は、その女の子のおかげでもう一度この、
限りあるからこそかけがえのない、たくさんの出会いがある、流れる時間の存在する
世界に出てくることができたんだ」
「……」
 …出会い、か。
 僕もいくつもの出会いをした。
 だが、そのかけがえのない出会いを…僕は大事にできているのだろうか?
 その出会いから、何かを得られているのだろうか?



「大好きな人と二人だけ、えいえんの時を過ごせる世界…それは幸せなのかもしれな
いけど、やっぱり少しさびしいよ。その世界から大好きな人が消えてしまったら…悲
しいよ。さびしくて悲しくて、だれかを求めてもだれもいないなんて、つらいよ。
 でもね、この世界はそんなさびしい世界とは違うんだよ。たくさんの人がいて、た
くさんの出会いができるんだ。
 その男の子はもう少しで取り返しのつかない、さびしい世界の人になっちゃうとこ
ろだったんだけど、なんとかぎりぎりのところでこの世界にとどまることができたん
だよ。それは小さなきっかけだったけど、まわりを見たからなんだ。
 辛いことや悲しいこともいっぱいあるかもしれないけど…自分で足をふみだせば、
まわりをみわたせば、すてきなものだっていっぱい見つけられるのがこの世界なんだ
よ。こんなにすてきな世界なのに、求めるのをやめちゃうなんて損だよね」
 綺麗な笑顔を浮かべ、彼女は僕に言う。
「自分は一人だ…って思ってても、実はおちついて眺めてみると、意外とたくさんの
人が自分のまわりにいて、自分のことを考えてくれてるものなんだよ。ひとりぼっち
でさびしいのは、自分がまわりに目を向けてないだけって場合もあるんだよ。その男
の子がそうだったみたいに」

 ね? とでも言うように、小首を傾げ、可愛い笑顔で僕を見上げる彼女。
 正直、どういう反応を返せばいいのか悩んでしまったが、
「うん…ありがとう」
 自然と、そんな言葉が口をついて出た。ご丁寧に照れ笑いと一緒に。
 そんな僕の返事に満足したのか、彼女は満面の笑みをうかべ、うんっ! と頷いた。





「それじゃわたし行くね。これからルミラさんとお出かけなんだ」
「あぁ…そうなんだ。それじゃまたね、みずかちゃん」
「うん、またね。拓也さん」
 ルミラさんと知りあいだったのか…まぁ、この了承学園にいるんだ、誰と知り合い
でもおかしくはないか。
 手を振り去っていくみずかちゃんを見送り、僕も家路につく。
 彼女の言葉を反復しながら。





私立了承学園 5日目 4時間目 ONE 〜輝く季節へ〜 作成者:ERR
「あ、この前の人かな?」 「えっ?」  我ながら間抜けな声を出したものだと思う。  いや、行動自体も結構間抜けだ。誰にも会わずに帰るつもりだったのに、それが僕 にはできるはずだったのに、考え込んでいたためにあっさりと人に出会ってしまった。  それも、見知った人に。 「先輩、この前の人って?」 「ほら、おととい屋上に浩平君が迎えに来てくれたことがあったでしょ? あの時一 緒にお話してた人だよ。 えっと…そうですよね?」  目の見えない彼女…川名さんは、確認するように僕のほうへ顔を向ける。 「うん、そうだよ」  ここで嘘をつくのはあまりに忍びないので、正直に答える。 「わっ、当たったよ」 「凄いな先輩」  目が見えない上、僕は声も出していなかった。それなのに相手が誰かわかるという のがどれだけすごいことか、僕も解っているつもりだ。彼女には電波という手段もあ るだろうが、雰囲気からして電波で僕を判別したようでもない。  彼女の感覚の鋭さに僕は、いや、彼女の連れの皆、また彼女自身も驚いていた。 「ところで、今日は何をしてるの? 私達は先生の雪ちゃんと住井君がズルして授業 を早く終わらせたから、これからお昼なんだよ」 「そーいう人聞きの悪いことを言うのはこの口かっ!!」 「ふぇぇぇ、ひはひおゆひはん…」  川名さんに「雪ちゃん」と親しみを込めて呼ばれた女の子が川名さんのほっぺをつ ねっている。きっと親友同士なのだろう。その様子に僕は苦笑した。…ただ単に川名 さんの顔が面白かっただけかもしれないが。 「…それで、今日は何をしてるの?」  「雪ちゃん」から開放され、少し赤くはれているほっぺを涙目で押さえながら、も う一度同じ質問を僕に投げかける川名さん。 「うん、実はバイトを探しているんだ…でも、どこも結構不景気でね…」  見つからなかったということを、まわりくどく説明する。 「ふーん…大変なんだね」 「うん、まぁね」 「なぁ先輩、それより自己紹介とかしなくていいのか?」  恐らく「浩平君」であろう少年が、僕と川名さんの会話に横槍を入れてくる。  そういえば、僕はまだ名乗っていなかったっけ…というか、川名さんも名乗ってい なかったか。 「あ、そうだね。私は川名みさきだよ」  そう言って微笑む川名さん。 「えっと、折原浩平です」 「愛しい旦那様だよ」 「ばっ、先輩!!」  川名さんの、聞いてるこっちまで恥ずかしくなるようなセリフを受け、思いきり動 揺する折原君。 「本当なのに…」 「あはは…」  少し残念そうにうつむく川名さん。…本当に凄い人だ、色々な意味で。 「あの…七瀬留美です、よろしくお願いします」  そう言って、二つのおさげが印象的な、大人しそうな少女がぺこりと頭を下げる。 「留美ちゃん、この人電波使いだから演技してもばれちゃうよ?」 「うぁっ…」  …別に思考を読もうとかは思ってないのだけど、川名さんの言うとおり、彼女なり に無理をしていたらしく、なんともぎこちない電波が僕の頭に届く。よほどショック だったのか、七瀬さんは顔を引き攣らせている。  そんな彼女を愉快そうな顔で眺めつつ、活発そうな少女が軽く頭を下げる。 「柚木詩子です。こっちが里村茜です」 「詩子…自己紹介くらい自分でできます」 「まぁまぁ、遠慮しなさんな♪」 「してないです…里村茜です。よろしく…」  性格は180度反対に見えるが、この二人は恐らく親友なのだろう。文句を言う里 村さんの口調にも、あまり不機嫌さは伺えない。  それにしても…里村さん、その髪の毛…長過ぎないかい? 「始めまして、深山雪見です。みさきの保護者です」 「う〜、雪ちゃん、私子供じゃないよ」 「手がかかるのは一緒でしょ」 「…雪ちゃん、酷いよ…」 「あはは、オレは住井護です、よろしく。一応こいつらの担任ってことになってます」 「かなり納得いかないがな」  憎まれ口を叩く浩平君。恐らくこの住井君と浩平君も、親友同士だろう。雰囲気が そう語っていた。 「みゅーっ!」 「みゅーじゃないでしょ、すみません、この子は椎名繭っていいます。それと、わた しは長森瑞佳です、はじめまして」 「…みずか、さん?」 「はい?」 「あ…いや、なんでもないよ、ゴメン」  普通であればそのまま終わってしまいそうな、なんということはない自己紹介だっ たが…偶然にしてはあまりに強烈な偶然だった。  目の前の瑞佳と名乗る女の子と、先ほどであった「みずか」という少女は、名前だ けでなく、見た目も似ていた。この長森さんという少女の小さい頃は、恐らく寸分違 わずみずかちゃんと一緒の姿だったのではないだろうか。何故か、そう思えた。  娘…はありえないだろうから、妹とか、そういうものだろうか? だとしたら名前 が同じなのは奇妙である。それに…根拠はないのだが、長森さんとみずかちゃんの関 係はそういうものではないように感じた。 「それで、君の名前はなんて言うのかな?」  一通りの自己紹介が終わり、川名さんが僕に尋ねてくる。 「僕は…月島拓也」 「月島って…祐介のとこの?」 「…ああ。瑠璃子の兄、月島拓也です。よろしく」  正直に、瑠璃子の兄であることを告げる。  なんとなく気がひけたが、隠す理由も見当たらなかったから。 「ふ〜ん…そうだったんだ。だから初めて会ったとき瑠璃子ちゃんと間違っちゃった んだね」 「よく解らないけど、そうかもしれないね」  血がつながっていれば電波も似ているものなのだろうか?  自分では実感がないし、長瀬君に言わせればまったく違うそうなのだが…  川名さんは電波が無くても鋭い感覚を持っているようだし、同じ電波でも僕らとは 何か違うものが見えているのかもしれない。  それから、お喋りをして5分ほどの時間を費やした頃。 「あ…そういえば」 「ん、どした先輩?」 「この間拓也君、自己紹介してなかったのに私の名前呼んだよね…あれってどういう ことかな?」  思わぬところで思わぬことを指摘される。 「あ…あれは…」  思わずどもってしまう。  いらぬいたずら心が余計な問題をもたらしてしまいそうである。 「まさか…」  ジト目で僕を睨む川名さん。 「電波で心を読んだ、とか言わないですよね?」  同じく僕を睨む浩平君。 「女の子の心を覗くなんて…」  目が据わっている七瀬さん。  こ、これが彼女の素か!? 怖いんですけど… 「それはちょーっと酷いねー」 「ちょっとじゃないです…すごく酷いです」  困ったような顔をする柚木さんと、冷たいまなざしを向ける里村さん。 「プライバシーの侵害だよ…」 「ほぇ?」  ため息をつくように、非難する長森さん。  なんのことやら解ってない様子の繭ちゃん。  そんな皆に僕ができることといえば… 「あ、あはは…ゴメン、じゃぁ、失礼するよ!」  引き攣った笑顔でごまかし、逃げることだけだった。 「わっ、逃げたよっ!!」 「つかまえろー!!」  浩平君の叫び声に呼応して、皆が僕を追いかけてくる。 「…逃げては駄目です」 「みゅー!!」 「うわっ!?」 「繭、ナイス!!」  弾丸のように飛んできた繭ちゃんにより、その場に倒れる僕。  そこへ皆も追いついてくる。 「ささ、みさき、好きなようになさいな♪」 「お、お手柔らかに…」  深山さんの言葉に、引き攣った笑顔で懇願する僕。割と情けない。 「そうだね…それじゃ、今度から拓也君のこと拓也ちゃんって呼ぶよ」 「うはは、そりゃいーや! よろしくな、拓也ちゃん先輩」  とても嬉しそうに「ちゃん」を不自然に使って僕の名を呼ぶ住井君。 「そ、それは勘弁してくれ!!」  あまりにむずがゆいその呼び名から逃げるように、川名さんに頼んでみる。 「イヤだよ、拓也ちゃん」 「人んちの嫁さんのプライバシーを侵害したんだから、それくらいの罰は受けてもら わないと」 「ぐふっ…」  僕は、もはやぐうの音も出せなかった。  そんな僕を見て、皆は笑っていた。  あからさまに声を上げて笑う子、楽しそうに笑う子、静かに微笑む子。  その笑い方は様々だったが、確かに笑っていた。  そして僕は…ぐうの音は出せなかったが、苦笑は出てきた。  いらないいたずら心など出さなければよかった…と、少し後悔する僕。  しかし、その時心の中に、別の何かを感じていた。  それは多分、「やすらぎ」と「楽しみ」、そして「喜び」。 (見渡せば、意外と多くの人が自分のまわりにいる…か) (ありがとう、みずかちゃん。その通りだ)  不思議なもので。  「拓也ちゃん」という呼び名はイヤなのに。  そう呼ばれてからかわれることが、楽しいと思えた。  これが、友人との他愛ないやりとりというものなのだろうか?  だとしたら…  僕は、今まで友人というものを持ったことが無かった。  この喜びは、本当に新鮮なものだったから。  もっと感じていたい…そんな感覚だった。 <おわり>
 ERRです。  拓也を前に進めよう、のコンセプトのもと作成したお話です。  これで拓也は友達を作ることができるように…なったのかな?  人の心を勝手に覗くのは立派にプライバシーの侵害です。絶対にやめましょう(笑)
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「やっぱり、人の心を読んじゃいけないわよねぇ」(^ ^; セリオ:「ですね」(;^_^A 綾香 :「プライバシーの侵害だからね」(^ ^; セリオ:「はい。      でも、わたしは、綾香さんの心だったら、電波がなくても読めますよ」(^0^) 綾香 :「へ? なんで?」(@@; セリオ:「だって、綾香さんって単純ですもん」(^0^) 綾香 :「…………(むっ)」(ーーメ セリオ:「『食う寝る遊ぶ』の3つだけですから」(^0^) 綾香 :「失礼なこと言うな!!(げしっ!!)」凸(ーーメ セリオ:「あうちっ!      あう〜、訂正しますぅ〜。      『食う寝る遊ぶ蹴る』の4つですぅ〜〜〜」(;;) 綾香 :「…………まだ言うか」凸(ーーメ



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