了承学園 宮田家 五日目 二時間目 「それじゃあ授業を始めましょうか」 この時間担当のミュージィがそう告げた。ちなみに、一時間目にコリンとユンナによって教室を破壊されてしまったので、 この時間は中庭にある大きな木の下にやって来ていた。 「今回はどんな授業なんですか?」 「それはね・・・」 そう言うとミュージィはインスタントヴィジョンの魔法を発動させた。そこに現れたのは・・・、 『思い出アルバム』 と言う文字であった。 「「「「「思い出アルバム?」」」」」 「ええ、要するにみんなのアルバムをお互い見せ合おうと言うわけね」 「なるほど、そい言うのも面白いですね」 「そう言えばあたしまだけんたろの昔の写真って見たことないな」 「私も見てみたいです」 「あたしはスフィーちゃんのアルバムが見てみたいな〜〜〜〜。きっと可愛かったんだろうなあ〜〜〜〜〜(はあと)」 「でも、今から家にアルバム取りに帰ってたら時間掛かりますよ?」 「それなら大丈夫、私とスフィー達が魔法で引き寄せるから」 「あ、その手があったか」 と言うわけで数分後には六人分のアルバムが揃い、かくしてアルバム鑑賞会が始まった。 「うりゅりゅ〜〜〜〜〜! 小さい頃のけんたろってかわい〜〜〜〜〜〜!!」 スフィーが感涙しながら見ているのは健太郎が小学校入学したときの記念写真である。 写真の中の健太郎は学校の正門をバックに真新しいだぶだぶの制服に身を包み、思いっきり緊張しているのが写真からでも 丸分かりである。さらに両脇には健太郎の両親も並んで写っていると言う、ある意味典型的な記念写真であった。 「そうねえ・・・、この頃は健太郎も可愛かったのにねえ・・・」 「結花〜〜〜! それはどう言う意味じゃ〜〜〜〜〜!」 「このお二人が健太郎さんのご両親なんですね」 リアンが写真を見ながら尋ねてくる。 「ああ、そう言や結花以外は親父やお袋に会った事無いんだっけ」 「ええ、こうして結婚した以上健太郎さんのご両親にも挨拶しないといけないんですが・・・」 「ねえ健太郎、おじさん達今どの辺にいるのかな?」 「さあな、今も珍しい骨董求めてあちこち渡り歩いてるようだし、こっちから連絡する手段は無いからな」 「でも健太郎さんのお父さん達が帰って来たら驚くだろうね」 「そうだな。親父達、日本で多夫多妻制が導入されたの知らないだろうし。俺が五人も奥さんもらったなんて言ったらきっと 腰抜かすだろうな」 「しかも、こーんな美人のね」 「普通自分で言うかスフィー・・・、まあその通りなんだがな(笑)」 「う〜〜〜〜〜ん! こんな格好のスフィーちゃんもかわいいわねえ〜〜〜〜〜〜(はあと)」 結花が見ているのはスフィー、リアンを始めとするグエンディーナの王族が揃った集合写真である。何でも王族では新年に なると一族が集まって集合写真を撮るのが恒例行事になっているのだと言う。流石に公式の写真だけあって、スフィーも リアンもいかにも王女らしい豪華な格好をしている。ちなみにグエンディーナにカメラがあるわけは無いが似たような 記録媒体はあり、スフィー達の写真はそれによって撮られた物である。 「まあ、『馬子にも衣装』ってやつだな。確かに可愛いのは認めるが」 「けんたろ〜〜〜〜、何かいやな言い方ね〜〜〜〜〜」 「でも、スフィーの小さい頃って言ったって、このくらいならしょっちゅう見てるし今更って気もするな」 この写真は今から十年前に撮られたものである。つまり当時スフィーは十一歳、丁度レベル1スフィーと同じ年代である。 確かにこれでは新鮮味に欠けるのも事実であろう。 「それよりも俺はリアンの方が気になるな。リアンの小さい頃の写真って見るの初めてだし」 そう言いつつ写真に見入る健太郎 「そういえばこの頃はまだ眼鏡かけて無いんだよな」 「はい、私が始めて眼鏡かけたのは十六歳の誕生日ですから」 「眼鏡かけて無いリアンってのも何か新鮮だよな。何せリアン『アノ時』だって眼鏡かけたままだもんな」 「け・・・健太郎さん・・・(真っ赤)」 「くすくす、健太郎さん、これって何やってるんですか?」 「どれどれ・・・、げっ、これは・・・」 みどりの見ていた写真はどこかの海で撮られたとおぼしき写真である。小学四・五年生くらいの水着姿の結花が手に棒切れを 持ってこちらにVサインを出しているのだが、なぜかその足元の砂浜から健太郎の首が生えていた。しかも健太郎はどうやら 目を回している様子である。 「結〜花〜、これってなんだか分かるかな〜〜〜〜〜」 「何よ健太郎・・・あ、あら〜〜〜〜、これって・・・」 「ど、どうしたんですか健太郎さん?」 「この写真は俺達が小五の夏に海水浴に行った時の物なんですけどね・・・、結花のやつ人の頭でスイカ割りかましてくれたんですよ」 「え〜〜〜、結花ってばひど〜〜〜〜〜い!」 「それはちょっとあんまりじゃないですか?」 「いくらなんでもやり過ぎだよね」 「人の頭は叩く物じゃありませんよ」 健太郎の説明を聞き口々に結花を非難するスフィー達 「全く・・・、折角人が砂浜に埋まって気持ちよく寝てりゃあいきなりポカ!だからな」 「い、いや〜、あの時は丁度足元に叩きやすそうな物があったからさあ・・・(汗)」 「そう言う問題じゃありませんよ結花さん。もしそのせいで健太郎さんに何かあったらどうするつもりだったんですか?」 「え? その・・・えーと・・・、ごめんなさい」 ミュージィにまで責められ思わず誤ってしまう結花。 「まあ、別に本気で叩いた訳じゃないんですけどね。で、泰久さんが面白がって写真撮ったってわけですよ。それにしても 結花が狂暴なのはこの頃から全然変わってないよな」 ビュン!! 健太郎がそう言った途端、健太郎の目の前を何かが猛スピードで横切っていった。見ると、結花が右足を振り切った状態のまま 健太郎を見ている。 「けんたろうく〜ん、なにかおっしゃいましたかしら〜〜〜(にっこり)」 「い、いえ!なんでもございませんです!はい!!」 結花の冷たい微笑みに完全にビビった健太郎はそう返すだけで精一杯であった。 「みどりさん、この格好結構似合ってるね」 「そうですか?」 なつみが見ているのはみどりの大学卒業時の記念写真である。 大学の中庭とおぼしき所で女子大生の卒業時定番の袴姿で手に卒業証書を持っていると言うまさにいかにもな写真である。 なつみの言う通りみどりの袴姿はとても似合っている。惜しむらくはバックが満開の桜の木では無いと言う事であろうか。 「どれどれ・・・、確かにとっても似合ってますね」 「ホントホント」 「健太郎さんもスフィーさんも・・・、何だか恥ずかしいです」 皆が口々に誉めるので思わず赤くなるみどり。 「でもいいな〜、あたしも卒業するときにはこんなカッコして・・・」 「お前の場合薙刀でも持てばさらにピッタリだと思うぞ」 めきょ 「あんた殴られたいわけ!?」 「・・・な、殴ってから言うな結花・・・」 いらん事言って結花に殴られる健太郎。 「でもよ、まじめな話お前が袴姿で卒業式に出られるかは分からんぞ。そもそもこの学園に卒業なんてあるのか?」 「あ・・・」 「なあなつみちゃん、この娘よくなつみちゃんと一緒に写ってるけどさ・・・」 「え? あ・・・」 健太郎が見ているのはなつみの小学校時の修学旅行の写真である。 五重塔をバックになつみともう一人の少女が並んでこちらに向かいVサインをしている。これ意外にもこの二人で撮られた 写真はたくさんある。 「この娘は私の親友・・・。ううん、元親友かな?」 「あ・・・、もしかして・・・」 それを聞いて健太郎は思い出した、言わばなつみの分身であったココロのおかげで仲違いしてしまったなつみの親友の事を。 「この頃はこの関係がいつまでも続くって信じてたけど・・・、友情って壊れるときはあっけない物だよね」 寂しげに呟くなつみ 「・・・それは違うわよなつみ」 「お母さん・・・?」 「本当の友情って言うのはね、それこそ何があっても絶対に壊れたりしない物よ。逆に言えば、その程度の事で壊れるようなら その娘は本当の意味での親友では無かったって事よ」 「・・・・・・」 「とにかく、なつみがその娘の事今でも親友だって思ってるんなら一度会いに行ってごらんなさい。相手もそう思ってくれて いるのならきっと元の関係に戻れるわ」 「・・・そうだね」 優しくなつみを諭すミュージィ。 長い間離れ離れだったとは言えさすが母親である。 ・・・とまあこんな調子でアルバム鑑賞会は進んでいたが、ある事に気づいたスフィーが言ってははならない事を言ってしまった。 「ねえなつみ? なつみには家族で撮った写真ってないの?」 「!、馬鹿!!」 「え?・・・、あ!」 健太郎に言われてスフィーも自分が余計な事を言ってしまった事に気がついた。 ミュージィはなつみが生まれてしばらくしてグエンディーナに帰ってしまっている。 もしそれまでに写真を撮っていたとしても、記憶消去の魔法の効力は文章や映像記録にも及ぶのである。 つまりなつみの家族全員で撮った写真と言うのは存在し得ないのである。 「ご、ごめんなつみ! 無神経な事言っちゃって!!」 「ううん、仕方ないよスフィー。こればかりはどうにもならないもの」 気にしてない様に振る舞うなつみだが、その表情はやはり少し寂しそうである。 「・・・あるわ」 「え?」 「お母さん?」 「一枚だけだけど・・・、私となつみ、そして勉さんと一緒に撮った写真が残ってるわ」 「え〜? でも記憶消去の魔法は人間界での自分の記録も全て消してしまう魔法なのにどうして写真が残ってるの?」 「この写真は私が持っていた物ですから」 そう言いつつ懐から写真を取り出すミュージィ。 記憶消去の魔法は確かに人間界の記録は消えるが術者自身には影響が無い。だからミュージィが身につけていたその写真は 難を逃れたと言う訳である。 「どれどれ・・・?」 写真を覗き込む健太郎達。その写真には赤ん坊───なつみ───を抱いた二十歳前後の頃だと思われるミュージィと、 もう一人、ミュージィと同年代と思われる男性が写っていた。なつみの父、勉である。 「この写真はね、私が退院してからすぐ、病院の中庭で撮った物なの。でもそれからすぐにグエンディーナに帰らなくちゃ いけなくなって・・・、結局これが家族で撮った最初で最後の写真になってしまったの」 当時を思い出しながらミュージィは話を続ける。 「帰る前にしきたり通り記憶消去の魔法を使って・・・、本来なら人間界との関わりもこれっきりになる筈だったわ。 だから、時空転移の魔法が発動する寸前に私の名前を呼びながら息を切らせて走ってくる勉さんを見たときには本当に 驚いたわ。でもその時分かったの。この人は記憶消去の魔法も跳ね除けるほど、本気で私を愛してくれてるって。 私はその時誓ったわ。いつか必ず、時空転移の魔法をマスターしてもう一度人間界に戻ってくるって。そして、勉さんや なつみと今度こそずっと一所に暮らすって」 そこまで語った後、ミュージィはため息を一つ吐いてさらに続ける。 「・・・でも、実際にはそうはいかなかったわ。元々時空転移の魔法を使えるのはスフィーさん達王族を始めとする一握りの 人たちだけ。高い潜在的魔力と本人の努力、その両方が必要なの。そして私の魔力はとても時空転移の魔法をマスターできる ほどのレベルでは無かったわ。それで、結局誓いは果たせないまま十年以上も過ぎて・・・、一番母親が必要な時になつみの 側に居てあげる事も出来なかった上、その間に勉さんが病気で死んでしまった事も知る事は出来なかった・・・」 スフィーからその事実を知らされた時、ミュージィはスフィーやリアンが居るのも構わずに泣いた物である。 「今はこうしてなつみの側に居る事が出来るようになったけど、勉さんはもう帰ってはこない・・・。そして無くした時間も もう取り戻す事は出来ないのよね・・・」 「お母さん・・・」 話を終え、がっくりとうな垂れるミュージィの手にそっと自分の手を重ねながら語り掛けるなつみ。 「お母さんがそんな風に悲しんでたら、きっとお父さんも悲しむよ。お父さん、私たちが自分の事を何時までも引きずった ままで暮らすなんて望んでいないはずだもの」 むろん、それは勉の事を忘れ去ると言う意味ではない。勉の事は思い出として胸の中に残し、己は命ある限り前へと進み 続けると言う意味である。死者にいつまでも拘っていては決して前へ進む事は出来ないだろう。 「それに・・・、確かにお父さんはもう居なくなってしまったけど『家族』が無くなってしまったわけじゃない。 健太郎さん、スフィー、リアン、結花さん、みどりさん・・・、みんな私の大切な家族だもの。もちろんお母さんだって そうよ。思い出だってこれからいくらでも作ればいいよ。だって私たち、これからずっと一緒なんだから」 「そうですよミュージィさん。まだまだ人生長いんですから」 「勉さんの事は確かに残念だけどあたし達はまだまだ生きてるんだし」 「いつまでも悲しんでいてはそれこそ前に進む事は出来ませんから」 「旦那さんの思い出はミュージィさんの胸の奥に大切にしまって」 「そして、みんなで一緒に未来へと進みましょう。だって私たち、家族じゃないですか」 なつみ達の励ましに思わず涙ぐんでしまうミュージィ。 「健太郎さん・・・、皆さん・・・、ありがとう・・・」 その時、結花がある事を思い付いた。 「そうだ! ねえみんな、せっかくだから記念に写真撮らない? 新しい家族の出発の記念に!」 「うん!それいいね結花!」 「新たな出発の記念・・・、いいですね。撮りましょう?」 「健太郎さんもいいですよね?」 「もちろん! ミュージィさんもいいですよね?」 「え?・・・ええ」 「よし、そうと決まれば・・・、注文です、カメラ一台、フィルム付きでお願いします」 「お待たせしました!」 注文を受け一秒でカメラを持って来る鈴鹿。 「あ、どうもすいません。ついでにシャッターお願いできますか?」 「いいですよ。それじゃあ・・・、この木をバックにしましょうか」 鈴鹿の勧めで自分達がその下に座っていた木をバックにする宮田家の面々。 「はい、それじゃあいきますよ〜。笑って笑って〜、はい、チーズ!」 パシャッ!! ・・・こうして、この写真は宮田家の新たなアルバムの1ページ目を飾る事になった。 新たな思い出、そして未来への第一歩として・・・。 <おしまい> 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 <あとがき> どうも、GX9900です 今回は出したのはいいが出番が少なくて下手すれば解雇されかねないミュージィをメインにすべし! と思い立って書きました。 私にしては柄にも無く真面目な話の上、珍しく訳の分からない新設定を出さずに書きました。でもそのせいか結構難産でしたね。 前半部の写真鑑賞は、とにかくそれらしいシーンを考えるのが大変でした。みどりの写真は、本当なら桜をバックにしたかった んですが、卒業式の時期にはまだ桜が咲いてないのではと思い泣く泣く断念しました(笑)実際ハマると思うんだけどなあ・・・。 あと、この話を書くに当たり、色々意見をくれたIRCの皆さん、どうもありがとうございました。 それでは。
 ☆ コメント ☆ セリオ:「わあ! これ、小さい頃の綾香さんですか? 可愛いですねぇ」(*^^*) 綾香 :「当然でしょ。だって、あたしだもん」(^0^) セリオ:「……………………小さい頃は可愛かったんですねぇ」(−−) 綾香 :「なんで過去形にするのよ」凸(−−メ セリオ:「いえ、別に」(−o−) 綾香 :「むかつくわね〜」凸(−−メ セリオ:「気のせいです。      ……って、あれ? こちらは芹香さんですね。      芹香さんは子供の頃から可愛いですねぇ」(*^^*) 綾香 :「当然でしょ。だって、あたしの姉さんだもの」(^0^) セリオ:「………………………………」(−−) 綾香 :「……何故、黙る?」凸(ーーメ セリオ:「いえ、別に。…………おや?」 綾香 :「ん? どうしたの?」 セリオ:「この芹香さんの写真…………何か変な物が写っているような……」(−−; 綾香 :「変な物とは失礼ねぇ。姉さんの友達に対して」(−o−) セリオ:「……と、友達?」(^ ^;;; 綾香 :「友達よ。友達なんだからぁ〜。だから、怖くなんかないんだから〜」(;;) セリオ:「無理に言い聞かせなくても……」(;^_^A 綾香 :「……………………くすん」(;;)  ・  ・  ・  ・  ・ 芹香 :「……お友達です♪」(´`)v  



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