大きく笛が鳴り響いた。  同時に、白黒の球体が動き出す。  さあ、始まりだ!  私立了承学園   5日目4時限 「こみっくパ〜ティ〜」&「White Album」編                   竜山 Wrote  事の顛末は10分ほど前に遡る。 「初顔合わせだったはずだな」 「えっ?」 「合同授業だ。校庭へ出るぞ」  どん! と音を立てて教卓の上に機械が置かれる。  そして…… 「……それ、どういう仕組みですか?」 「知らん」  数秒経つと、和樹達は芝生の上に立っていた。しかも、動きやすいユニフォーム姿に、 靴はスパイクになっている。思わず仕組みを訊きたくなる和樹の気持ちもよく解る。 「それ、名前は?」 「秋子特製空間転移装置MarkU自動着替え装置付とかいう長い名前だ」 「……………………」  この瞬間、千堂家の人々は心に決めた。  ……考えないことにしよう、と。 「お、来たな君たち」  スタスタと一人の男が歩いてくる。  確か……緒方英二って言ったかな? あの緒方理奈ちゃんの兄で、有能なプロデューサ ーだとか…… 「あの、お兄ちゃん? 合同授業って、どこと?」 「……この人がいる時点で想像が付かんか?」 「あ……藤井家とですか?」 「正解だ。取りあえず準備体操をして体をほぐしておけ。藤井家の到着は遅れ気味になっ ている。来たらすぐに始める予定だ」  では、その藤井家に視点を移そう。 「何だって!? んな無茶言うなよ!!」  伝書ラルヴァの言づてを聴いた途端、冬弥の顔は青ざめた。 「4時限は校庭の芝区域でサッカー!? ここから遠すぎるっての!!」  倉庫を出たばかりの冬弥からすれば、あまりに遠すぎる。  というより、既に4時限は始まっているのだ。遅刻は免れないと覚悟はしていたが、ク ラスへ戻ろうとすると校庭へ行けという。 「気ニスルナ。何ナラコレヲ使エ」  どん。  ……何であるかは、読者の方々には想像が付くだろう。 「おわわっ!?」  突然目の前が歪みだして、和樹がビックリした声を上げる。 「な、なんや!?」  ……じきに、その歪みが収まると…… 「ははは……何と言っても秋子さんだからなぁ……」 「……つーか、どうやって来たんだ、ここに?」  突然出現した5人を前に、和樹はそれ以外何も言えなかった。 「いや、伝書ラルヴァが秋子特製空間転移装置MarkU自動着替」 「もういい、ワカッタから」  途中でそれを遮って、和樹はお〜〜〜〜〜〜〜きく溜息をついた。 「所で……千堂和樹さんだっけ?」 「ん、どーした?」 「何でここにいるんすか?」  冬弥の質問に、藤井家の面々が揃って頷く。 「は? 聴いてないのか? 合同授業って」 「……知らない……」 「聴いてないよ」  由綺たちの呟きももっともだ。  和樹達は、これから何をするのかは知らない。  一方冬弥達は、誰とそれをするのかは知らない。  ……手落ちなのか、わざとやったのかは、作者のみぞ知る(爆死) 「ま、まずは自己紹介かな……って、するまでもないか?」 「まあ、名前と顔くらいは解りますし。これからの授業、宜しく頼みますよ」 『宜しくお願いまします』  さすがに業界人の多いクラス。礼儀はわきまえている。  堅苦しさは感じさせず、しかし礼儀正しく挨拶されて、千堂家クラスの面々は多少面食 らっていたが、やがて 『こっちこそ!!』  と、明るく返した。 「よし、全員揃ったな。じゃあ、早速だがくじを引いてもらう」  雄蔵が何やら解らない箱を持ってきた。 「何のことはない、中に手を突っ込んで1枚取ればいい」 「じゃ、俺から……」  まず和樹が右手を突っ込む。 「ぎやあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」 「か、和樹!?」  突然手を引き抜いた和樹に、千堂家のみならず、その場全員がビックリする。 「だ、大丈夫!? 手見せて!!」 「え?」  有無を言わさず瑞希がその手を取る。  そして…… 「……和樹?」 「は、はい……」 「……心配かけないでよおおお!!!!」  ばきっ!! べしゃ。  テニスラケットが炸裂し、和樹は数m吹っ飛んで、ひしゃげた音を立てつつ地面に突き 刺さった。辛うじて埋もれずに残った右手がピクピクとけいれんしている。  ……その手は、何ともなかった。  その頃、冬弥達は何事もないかのようにくじを引いていた。 「ん? Aって何だ? 由綺、お前は?」 「Bだよ。はるかは?」 「B」  どうやらアルファベットのAかBが書いてあるようだ。 「俺はBだな……」 「にゃ……いつ復活したんですかお兄さん?」  確かに。それは作者も解らない(爆) 「和樹と同じ。B」 「ウチはAや」 「やりい〜〜〜〜っ!! パンダだけエー! なかまはずれ〜〜〜!!」  ということは、詠美はBらしい。  取り合えず、AとBをまとめてみよう。   A 冬弥、美咲、マナ、由宇、彩、千紗、郁美   B 和樹、由綺、はるか、瑞希、詠美、南、あさひ、怜子 「Aは赤、Bは緑のゼッケンを付けろ」  ……どっかの中学校で聴きそうな台詞である。 「まさか、このチームでサッカーですか!?」 「その通りだ。この2クラスは人数差が激しいのでクラス対抗というわけには行かない。 よってこういう方法を採らせてもらった」  確かに雄蔵の言葉も一理ある。  しかし。  例えば由綺は、冬弥を敵に回すことになってしまっている。同じように、和樹は彩や千 紗、郁美、由宇などを敵にせねばならない。  つまり、家族がばらばらになってしまっているのだ。 「……大丈夫なんですか?」 「この程度のことで崩れるほど、お前たちの結束は脆いのか?」  思わず、質問した和樹の方が止まってしまった。  ……そうだよな。  これは、ただのスポーツに過ぎないし、これからやることは遊びに過ぎない。  授業が終われば、またクラスごとにまとまって、元通りになる。  そんな難しく考えることはない。 「……そうと決まれば。やるからには勝つぞ!」 「言ったな? よーし、俺達も負けねえぞ!」  和樹と冬弥の元気な声が、芝の校庭に響きわたった。 「11人には足りないから、コートは80m×40mのミニサイズだ。ルールは全て普通 のサッカーと同じにして行う。但し時間は15分ハーフ、計30分。じゃあ、各自散りな がらポジションを決めろ。審判は我々教師で行う」  というわけで、2チームはそれぞれ自分のハーフコートへ散った。  まずはAチームから見てみよう。 「どうします?」 「早い話がキーパーさえ決めりゃええんでないの?」 「マナちゃんはキックが強烈だからフォワードに……」  げしっ!!  ……冬弥、雉も鳴かずばなんとやら、だぞ。  一方のBチームは。 「向こうは1人少ないから、数を利用して攻められると思いますよ」 「ですね……でも、ちょっと由綺さんたちを冬弥とぶつけるのは忍びないから、その辺は 上手く調整しましょう」 「ふっふっふ、パンダ、覚悟なさ〜〜〜〜い?」  ……闘志を燃やしているのが約1名。 「いいな?」 「はい!」 「OKです!」 「では、キックオフ!」  大きく笛が鳴り響いた。  同時に、白黒の球体が動き出す。  さあ、始まりだ!  キックオフはAチームから。  冬弥から由宇にボールが渡り、試合が動き始める。  Aチームは一昔前の西欧スタイルに近い3−2−1の陣形を取る。冬弥を先頭とし、中 央の2人は右にマナ、左に由宇。後ろの3人は中央が美咲、右が彩、左が郁美となってい る。キーパーは……千紗。西欧スタイルではあるが、完璧に攻撃重視の陣形だ。  左サイドを由宇が駆け上がっていく。その眼前に、目を血走らせんばかりの勢いで詠美 が立ちふさがった。  Bチームは1人多いという利点を生かし、4−2−1の陣を組んで前半は防御を固め、 相手のスタミナ切れを誘って後半で勝負に出る戦法だ。先頭は瑞希、中央の2人は右が詠 美、左が由綺。後ろ4人は左から順にあさひ、南、はるか、怜子。キーパーを和樹が務め るという、どう見ても防御中心の陣形を組んでいる。 「パンダあああ!!!! 負けないわよぉ〜〜〜〜〜〜〜!!!」 「じゃかしい!!」  ぼこっ。  由宇の蹴ったボールが詠美の頭にヒットした。 「ふみゅみゅ〜〜〜〜〜〜ん、いたーーーーーーーーーーーーい!!!」 「ほぉ〜、なかなかヘディングは上手やないか」 「ふみゅ〜〜〜〜!!!」  サッカーそっちのけで言い争いが始まってしまった。  ……今は一方的に由宇が優勢だ。  ボールに目を戻そう。  詠美のヘディング後、ボールははるかの手に渡った。 「はるかさん、こっちです」  しかし、南の呼びかけにも関わらず、はるかは全くボールに手を付けない。 「ゆ、由宇さん! ボールボール!!」 「はは〜ん、さては頭を使うんは得意なんか? あ、中身のことやないで」 「ふみゅみゅみゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」 「…………マナちゃん、真ん中に寄って!」  こりゃ駄目だと判断した弥は、右サイドのマナを中央へ引き寄せ、自分が左に寄ること でツートップへと切り替えた。中央よりもはるかに近くなったので、ボールを奪いに行け るチャンスは充分にある。 「はるか、いくぞ!」  ぼこっ。 「……」 「……」 「……はるか」 「……あ」 「……どういうことだ?」 「……間違えた」  はるかの蹴ったボールは、見事冬弥の頭を直撃した。 「お前まで由宇さんの真似するこたないだろ」 「あ、じゃあ冬弥、頭使うの上手いんだ」 「そうじゃないって」 「中身はどうだろうね?」 「…………」 「ふ、藤井さ〜〜〜〜〜〜ん!!!」  美咲の悲鳴のような声で、冬弥はふと我に返った。  そうだ、はるかの相手してる場合じゃない!  慌てて振り返ると…… 「Bチームに得点! 1−0!!」 「…………」  遅かった。  冬弥の頭を打ったボールは、その後あさひの元へ渡った。更に由綺へ渡される。  後は簡単だ。マナがあがりすぎていた上に中央へ寄っていたので、由綺の担当である左 スペースはガラガラである。ドリブルで駆け上がって、彩と美咲の間にパスを通し、瑞希 がそれに追いついてシュート、というわけだ。  元々由綺はアイドルであるため、日頃からある程度の運動はしている。瑞希もテニスな どのスポーツはできるわけだから、運動神経は悪くない。防御重視のBチームだが、攻撃 力はそれなりに高いと言っていいだろう。  Aチームは前半開始6分の時点で、早くも苦境に立たされた。  もう一度、センターサークルにボールがセットされる。  そして、笛が鳴り響く。 「えっ!?」 「お、おいおい!!」  突然の行動に、Bチームの全員が面食らった。Aチームは美咲をセンターラインギリギ リの所に残すと、残る5人で総攻撃をかけてきたのである。  この場で返しておかない限り、防御重視の陣形を取っているBチームを破るのは、時間 を追う事に難しくなるだろう、という由宇の主張が通ったのだ。 「わわ、ちょ、ちょっと!」  ぎこちないパス回しやドリブル。はっきり言って、A、B両チームを通じてサッカーを 得意と言いきれる人などいない。この攻撃だって、例えば雅史だったら平気でカットして カウンターへ繋げてしまえるだろう。稚拙と言ってしまえばそれまで、というレベルだ。  しかし、守るBチームだってレベル不足なのは同じだ。5人の総攻撃という時点で面食 らってしまっているのだから、守ることさえ上手くいかなくなりつつある。  中央の冬弥から、右を駆け上がってきたマナへパスが通る。 「ええーいっ!!」  げしっ!  しっかり足で止めて……強烈なキックが炸裂する!  ……とはいえ、威力充分でもコースが良くなければシュートは入らない。マナの蹴った ボールは和樹のほぼ真正面。難なくパンチングで防がれて―― 「とどめや!!」  げしっ!!  ピーーーーーーッ!! 「キーパーチャージ!!」  ……文句は言えまい。左から飛び込んだ由宇が、キーパーの和樹もろともボールを蹴っ 飛ばそうとしたのだから…… 「ゆ、由宇……このやろ、殺す気か……」 「和樹はこの程度じゃ死なへん」 「いや、そーゆー問題じゃなくてだな……」 「そないことより、あの程度でキーパーチャージ!? おかしいやないの!!」 「いや、あれは反則取られてもしょうがな……」  英二の必死の説得空しく、由宇は鼻を鳴らすと審判である英二をぴしっとはたいた…… お陰で英二の頭が右へ0.5ラジアンほど回転した。  本来なら審判に対する暴力は即退場ものだが、この時ばかりは英二は自分の頭に気が言 ってしまい、それどころではなかったとか。  ちなみに千堂家の面々は由宇以外は全員英二から離れていたし、由宇はもう彼の方など 見ていなかった上、英二本人が大急ぎで直したため、千堂家にばれることだけは免れた。 「ハーフタイム!!」  雄蔵の声の直後、由綺のシュートがゴールに突き刺さった。  残念ながら、それは得点にはならない。 「ふう……はあ……」 「だ、駄目、強すぎ……」  それでも、Aチームは完全にやられていた。  得点、実に1−4。  前半15分でこれである。ましてBチームは防御重視の陣形を組んでいるわけで、後半 は攻撃陣形に切り替える可能性が強い。そんな中、3点差をひっくり返すのは容易ではな い。 「ど、どうするの……? このままじゃ……」 「あまり時間はとれない。後半を始めるぞ!」 「え、ええっ!?」  こんな状態のまま試合が再開されたら、Aチームの大量失点は免れない。  やはり想像通りだった。  Bチームは先頭に和樹、右に怜子、左に詠美、と攻撃陣を完全に切り替え、防御態勢を 解いた。その攻撃の前に、キーパーを冬弥へ切り替えたAチームの奮闘空しく、後半開始 早々2分で得点差は4点に開いてしまった。  それでも、冬弥は諦めない。  いや、内心諦めているのかも知れないが、そんな様子はカケラも見受けられない。  ……自分が諦めたら終わりだ。このチームそのものが諦めモードに入ってしまう。自分 の家族は勿論のこと、自分のチームにいる千堂家の人々のためにも、諦めるわけにはいか ない! 「さあー、行くぞー!」  Aチームの攻撃が始まった。  左サイドを由宇が、詠美の挑発を一切無視して駆け上がる。中央の冬弥を経由して、右 のマナへとボールが渡り、必殺スネ蹴りシュートが炸裂する! 「あっ!」  しかし、あさひの膝に当たってしまい、ボールは大きく跳ね返った。そのままボールは サイドを…… 「それえーーーーっ!!!」  どかっ。  ……ぱさ。  突然サイドラインの外から飛び込んできた人によって、ボールは見事にゴールへ叩き込 まれた。 「り、理奈ちゃん!?」 「申し訳ありません、遅くなりました」 「弥生さんも!?」  ハーフタイム中の出来事だ。  さすがに得点差が大きくなりすぎていると感じた英二は、ラルヴァを総動員してより一 層理奈と弥生の捜索を急がせた。元々2人の捜索は4時限が始まった時から続いていたの だが、このままでは見つからないまま、Aチームの惨敗に終わってしまうと考えたのだ。  そして。 「ん? そうか、見つけたか! で、どこに……え? ネコ?」  詳しく訊くと。  そのラルヴァは、道でギリギリ聴き取れるくらいの嗚咽を漏らしている理奈を発見し、 狂喜に震えた。  コレデアノ上司ニデカイ顔サセナクテ済ム! ヨウヤク下ッ端カラ脱出デキルゾ!!  とばかりに近づいて……弥生の警棒の直撃を受け、よく解らないうちに子猫を引き取る ことになってしまったとか。  しかし、そんな人情話……いやラルヴァ情話?……を聴いているほど、今の英二に余裕 など無かった。 「取りあえず、何でもいい! 集合場所まで二人を連れて戻り、例の機械でこっちへ送る んだ!!」 「アノ、子猫トカ言ウ話ハ……」 「さっさとせんか!!」 「…………ウウウウウウウ…………」  ラルヴァ、いつかその努力が報われる日は……来る……はずだ………… 「というわけで、緒方理奈参上! Aチームに入ります!」 「同じく篠塚弥生、Aチームへ参入いたします」 「いや、別に名乗らないでも解るからいいよ」  苦笑しながらも、冬弥は思わず万歳三唱したい衝動に駆られていた。  理奈は由綺と並ぶトップアイドルである。基本的な運動能力は身につけているだろう。 弥生さんの方は運動神経こそ多少未知数だが、世渡りと勝負の駆け引きと脅迫に関しては この中で右に出る者はいないに違いない。 「……藤井さん、何かお考えですか?」 「い、いえ何も!!!」  ……鋭いし。 「では、Aチームに2名追加。但し今の1点はナシだ」 「えええーーーーっ?」  ……まあ、それは仕方ないだろう。試合中に乱入してきたようなものだし。  さて、理奈と弥生が加わったことで、冬弥の期待通り戦局は一変した。  由宇、理奈、マナの3人で十分攻撃が仕掛けられる上、その後ろの弥生が的確かつえげ つない(爆)指示を飛ばしてくれるおかげで、冬弥は防御に専念できるようになったので ある。  更に、1人多いことを武器にしていたBチームが逆に1人少なくなったことに動揺して いるのも、戦局を変えた要因の一つだろう。 「ゴール! Aチームに得点! 5−4!!」  もう1点差だ。しかし時間も刻々となくなりつつある。  Bチームもうかうかしていられなくなったのか、攻撃に転じてきた。現在の攻撃陣に加 え、前半に活躍した由綺と瑞希を再び前線に押しだしてきたのだ。対するAチームは弥生 を少し後ろへ下げ、防御の指示を仰いで相手を迎え撃つ。  完全なマンツーマンディフェンスが整い、Bチームの進撃が弱まった。 「くっそ……由綺さん、たのんます!」  和樹から由綺へとボールが渡る。そしてその前に、理奈が立ちふさがった。 「……由綺。この先1歩も進ませないわ」  思わずその勢いに飲まれ、1歩後退する由綺。 「……来ないの? ならこっちから行くわよ?」  理奈が1歩踏み出すと、由綺は1歩後退する。 「由綺さーん!! 負けんなーーー!!」  その時、和樹から激励が飛んだ。  たったの2言。  短い2言。  ……それでも、由綺を立ち直らせるには十分だった。 「……いいよ。止められるんだったら止めてみてよ、理奈ちゃん!!」  猛然と突っかかっていく由綺。 「理奈ちゃん、負けるな!!」  冬弥も激励を飛ばす。  普段は言えない言葉。  普段は、二人は対等に、自分の妻だから。  けれど今は、片方は味方、片方は敵。  心おきなく、味方を応援できる。 「彩さん、理奈さんのフォローに入って下さい」 「はい」 「瑞希、由綺さんのフォロー!!」 「うん!!」  彩と瑞希に挟まれて、由綺と理奈の攻防が続く。 「えいっ!!」 「はっ!」  由綺が強引に抜きにかかるが、寸前で理奈のかかとがボールを捉える! 「理奈さん、後ろ!」  その声に従い、後ろも確認せずにボールを出す理奈。  そこには彩が待っている。 「彩さん、アレを使って下さい!」 「……えいっ」  ぼこっ。  ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!  ずばあああっ!!!! 「……」 「……」 「……」 「……」  ピーーーーーーーーーーーッ。 「Aチームに得点! 5−5!!」 「おい!!! あれ、アリなのか!?」  彩の手にはあのピコピコハンマー。  そう。ゲートボールよろしく、ハンマーでボールを叩いたのである。  あの和樹を余裕で吹っ飛ばしたハンマーで。 「……すご……ネットがちぎれちゃってる……」 「それ以前に、ボールどこ?」 「……はるかさん、大丈夫だった?」  キーパーのはるかに駆け寄る和樹。 「……何かあったの?」  そして思わず、こけた……  結果は5−5。見事引き分け。 「ち。勝負無しか……今度またやろうぜ、冬弥」 「こっちこそ。その時は負けません」  パァン、と、小気味よい音を立てて、お互いの掌が鳴った。  その後の余り時間は、各生徒の雑談で盛り上がった。 「……あのハンマー、なにもんだ?」  という 冬弥の質問に苦笑する千堂家の面々。 「まだまだね、由綺」 「……でも、いつか勝つよ!」  不敵な笑みを浮かべ合う由綺と理奈。 「やっぱ頭の中身は伴わんようやな」 「ふみゅ〜〜〜〜〜」  また始まった2人。  それらは全く、いつもの風景だった。  いつもと変わらない、2つの家族があった。  和樹は思う。  別に、問題ないんだ、と。  クラスが分かれて戦っても、最後にはこうして楽しい自分たちがいるんだから。  冬弥は思う。  やって良かった、と。  いつもと同じクラス内だけでの授業では、絶対に得られなかったであろうものが得られ たのだから。  その思いは、きっとクラスの誰もが感じている事なのではないか。 --------------------------------------------------------------------------------   後書き  サッカーのルールが解らなくても、ある程度は理解できるよう書いたつもりですが……  ちょっと最後はシリアスになってしまいましたが、基本的にはギャグです(^ ^;  また私の筆力不足により、登場キャラがかなり偏っていますがご勘弁をm(_ _)m  今回、初の試みに挑戦です。授業の中で、クラスを意図的に分割、混合しました。それ によって得られるものも、いくつかあるはずと思ったからです。但し、これは恒久的にク ラスを分裂させてしまうものではありません。  なお、 >……手落ちなのか、わざとやったのかは、作者のみぞ知る(爆死)  手落ちです(連爆死)  駄文、しかも今回は長文でしたが、お読み頂きありがとうございました。  では、失礼いたします。                               2000 / 12 / 28                                 竜山
 ☆ コメント ☆ 綾香 :「ねえねえセリオ。あたしたちもサッカーしよ♪」(^^) セリオ:「由宇さんみたいに……頭……狙いません?」(;^_^A 綾香 :「狙わないわよ〜」(^ ^; セリオ:「本当にぃ〜?」(¬_¬) 綾香 :「信用ないわねぇ」(^ ^; セリオ:「だってぇ〜」(;^_^A 綾香 :「絶対に故意に狙ったりしないって。      それに、もしも仮に頭とかに当たっちゃったとしても……      ボールは友達よ、怖くないわ。大丈夫」(^ ^; セリオ:「友達、ですか……。      でも、蹴るのが綾香さんですからねぇ。      そうしたら、友達も凶器になってしまいます」(;^_^A 綾香 :「どういう意味よ」(−−; セリオ:「だって、綾香さんは全身凶器のリーサルウエポンですからね。      その綾香さんから放たれるボール。      ああ、想像するだけで恐ろしいです」(;;) 綾香 :「…………おい」(−−;;; セリオ:「ですから、出来ればサッカーは遠慮したいです」(;^_^A 綾香 :「却下! ほら、行くわよ」(−−) セリオ:「あうあう。ち、ちょっと……引っ張らないで下さいよぉ〜。      そ、それに……綾香さん、目が怖いですぅ〜〜〜(ずるずる)」(;;) 綾香 :「気のせいよ。おほほほほ……」(^^メ セリオ:「あう〜〜〜。絶対に気のせいじゃないですぅ〜」(;;) 綾香 :「そんなことよりも……これからセリオにはたっぷりと堪能してもらうわ。      ……リーサルウエポンとやらの威力を、ね」(^^メ セリオ:「いーーーーやーーーーーーーーーっっっ!!」(T△T) 綾香 :「おほほほほほほほ」(^^メ  



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