空を飛び交う無数の標的たち。  赤い羽の、多くの標的たち。  ふふふ……今に全部撃ち落としてやるさ。  そして、手元の水鉄砲を、中空へ向ける……  私立了承学園   4日目昼休み 「Piece Of Heart」編                    竜山 Wrote  昼休みも中程に差し掛かった頃。  1組の男女が、のんびりと中庭を歩いていた。  鳥たちが、すぐそこの木々に止まってさえずっている。これは聞いた話だが、この中庭 でバードウォッチングを続けていると、時として極彩色の羽を持つ鳥や、羽の中心辺りに 爪を持っている、まるで鳥の先祖のような動物が見つかることもあるらしい……が、今は そういったことはなく、スズメやムクドリといった普通の(?)鳥たちが見受けられる。  2人は木が乱立している、ちょっとしたかくれんぼくらいなら簡単にできそうな広場へ とやってきた。 「……静かだね、圭子ちゃん」 「お昼休みには絶好ですね」 「鳥の声って、静かさには邪魔にならないよね」 「落ち着きますよね……」  そのほぼ中央にあるベンチに腰掛けて、しばらく2人は談笑を続けた。  やがてどちらともなく会話は止まる。しかし、決して気まずくなったわけではない。会 話なんか無くても、この2人は心を通わせていることができ 「わあっ!!??」 「きゃあっ!!??」  突然の少年の大声、そしてそれにびっくりした少女の声によって、静かな時間は終わり を告げた…… 「キャハハハハハ!!! おおあったりぃ〜〜〜〜〜!」 「……し、志保ぉ…………」  少年、雅史は情けない声を上げながら立ち上がった。  服の右肩から肘にかけて、見事なシミが出来ている。 「逃げないならこっちからいくわよ〜? ほれほれ!」 「わわっ!!」  容赦ない攻撃に、雅史は立ち上がらざるを得なくなった。大急ぎで木陰へ駆け込み、志 保の攻撃から身を守る。 「ふふ〜ん。雅史はどれほどアタシに対抗できるかしらねえ?」  確かに、志保はこの作戦で浩之を水浸しにしたほどの猛者である。まあその時はほぼ相 討ちという形になり、双方びしょぬれになって勝負無しだったのだが…… 「何で僕なの!?」 「ヒロのヤツはあかりと一緒だったからよ!! そんな所を撃つわけにいかないでしょー が!?」 「浩之はダメで、僕ならいいわけ!?」 「うるさいわね〜!!」  ……志保、ひょっとしてヤケクソになってない!? 僕で鬱憤を晴らしてるんじゃない よね!?  泣きたくなるような気持ちの雅史だった。  とにかく、容赦ない志保の射撃から逃れ回る。 「わあっ!!」 「あったり〜! 志保ちゃんに1点!!」  ズボンの左足にシミができた。  ……ううっ、冷たいよぉ。  こっちには水鉄砲がないから、もしやり返すとしたら志保に近づくしかない。だが、そ んなことをすれば更に多くの攻撃にさらされることは目に見えている。  そういえば圭子ちゃんはどうしたかな? そう思ってふとベンチを見てみたが、もう彼 女はいなかった。  うん。ちゃんと逃げたみ 「ばきゅ〜〜〜〜〜〜〜ん!!」 「わっ!!」  ……くっ、くっそぉ〜。 「ほら、くやしかったらアンタらもやってみなさいよ!」  余裕の声で、志保は水鉄砲をさっきのベンチの上に置いた。  どうやら、あれを取ってやり返して見ろ、ってことらしい。  ……が、あそこに近づけば、集中砲火を浴びるに決まってる。その心づもりなのか、志 保の方は余裕しゃくしゃくでそのベンチの前に構えている。  ……このままじゃやられっ放し。いくら僕でもそれはちょっとイヤだ。  雅史がそう思ったその時、彼は視界にある人影を認めた。  ……よしっ! 「えいっ!!」  志保は突然の出来事に面食らった。  雅史が自分の目の前に飛び出してきたのだから無理もない。 「ちょっと!? 肉弾戦は禁止よっ!?」  叫びながらも乱射する。しかしいくら撃たれても、雅史は一向に後退しない。さすがに 志保の顔にも焦りが見え始める。  距離は徐々につまり、3m、2m…… 「きやあああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」  超大袈裟な声と共に、志保が思いっきり飛び退いた。  完全に雅史に気を取られていた志保が、背後から圭子に撃ち抜かれた瞬間だった。 「ちょ、ちょっと!! 2対1なんて卑怯よ!!」 「……いや、僕たちに問答無用で水鉄砲撃てば、こうなることくらい予測付かない?」  影から叫ぶ志保に、ちょっと苦笑しながら雅史が水鉄砲を手に取る。  ……その瞬間、何かを思いだしたように圭子の顔が青ざめた。  その顔を見て、雅史は不思議そうな表情を浮かべる。  …………そこで、彼の意識は終わっている。  バシュッ!  圭子の持つ水鉄砲を、寸分違わずに水の筋が撃ち抜いた。 「……志保さん?」 「……なに?」 「覚えてなかったんですか? 自分が酷い目にあったこと……」 「……い、いや、いろいろあったから、つい……あはは……ぐほっ!!」  小さく口を開け、乾いた笑いを浮かべた志保のその口へ、水の筋が飛び込んだ。 「げ、げほっ!!」 「し、志保さん!」 「……もっと狙い甲斐のある的はないのかい?」  いつもの、優しい声。  けれどそこにいるのは、いつもの彼じゃない…… 「……3つ数えたら、後ろ向いて」 「えっ?」 「いいから!」  小声で圭子に叫ぶと、志保は左手を掲げて、人差し指を突き出した。  再び全く狙いを外さず、その人差し指の爪先に水がぶち当たる。 「ふふ……その程度じゃ、まだまだ的とは言えないよ」  中指もまた突き出される。それも勿論、雅史にとっては的でしかない。  そして3つ目が突き出された瞬間、志保と圭子はくるりと後ろを向いた。 「たすけて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」 「何事ダ!?」  その声を真っ先に聞き付けたのは例によって巡回中のラルヴァ。連絡も忘れて大急ぎで 現場へ急行した彼は…… 「ギエエエエエエエエエ!!!!!!!」  見事、真っ赤な羽を水で撃ち抜かれて撃墜された。 「ははは、属性に気を付けようね」  声色はとっても優しいのに。言っていることも思いやりある言葉なのに。やってる行為 はサバゲーマニアも真っ青。 「……み、水鉄砲なのが幸いしたわね」 「これが実弾だったら、私たちもう生きてません」 「……それもそうきゃあっ!!」  固まってじっとしてる2人に向けて、1発の水鉄砲が放たれた。 「人質はおとなしくしてるもんだよ?」  ……声色が優しいことって、案外迫力を生むんだな、と思った2人だった。  その後も、ラルヴァが駆けつけては撃墜される、が続く。こう言うときに限って赤ラル ヴァばかり集まってきたりするのはお約束である。  大体、いくら現在は足を洗ったとは言え、主役に悪役が勝てるわけがないのだ(爆) 「何か……凄いわねえ」 「ああ、雅史さん……」  哀れ人質の身となった2人の周りには、ラルヴァ達の戦い敗れた証が残っている。その 数、既に3体。その3体を一瞬で打ち落とした雅史に対する恐怖からか、ラルヴァ達は辺 りを飛び回ってはいるものの攻撃をする素振りを見せない。どういうワケか炎獄攻撃をし ても、水鉄砲1つでかき消されてしまうのはやはり主役級と悪役の格の差か?(連爆) 「やっぱ炎属性の弱みかしらねえ?」  珍しくしおらしい声で呟いた志保。 「……ねえ、志保さん?」 「何よ!?」  そんな精神状態の志保に声を掛けると、いらついた声が帰ってくる。けど、この緊急事 態ではそんなことを圭子が気にする間はないようだ。 「私は属性不明だし、志保さんは風でしょ?」 「……ええ、そうよ」 「じゃあ、別に水の攻撃を怖がることないんじゃないですか?」 「……」 「それによく考えると、雅史さんがいくらスナイパーでも、所詮は水鉄砲ですよね?」 「…………」  言われた志保はしばらく考えていたが……やおら立ち上がると雅史に向かって駆け出し た! 「しほちゅわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん…………」  その声を聞いた圭子も、青くなって後を追い出す! 「し、志保さん! 確かにスナイパーはあまりよくないですけど、だからって……!!」 「キイイイイィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ック!!!!」  ばきい!! 「……あ、あれ?」 「あれじゃないわよこのキック・○フの片割れが半端に二流ホラーみたく人格変えてこの 可憐でビユ〜ティ〜な志保ちゃんを水浸しにするなんざあいー度胸じゃないのよ!!!」  どがげしばきぼこぶほっ!!!!  ……まあ、簡単に言えば、雅史の意識は青ざめた圭子を見ながら水鉄砲を握った直後、 いきなり水浸しの志保に蹴飛ばされまくっているというワケで。  何が何だか解らないまま、また意識を失った。 「志保さん……水浸しにされたのは自業自得でしょ」  あまりに雅史イジメに夢中になる余り、隣から圭子の銃撃を受けても気にもとめない志 保に向かって、彼女はポツリと呟いた。  余談:  この一部始終を影から見ていたある人がいた。 「そーよこれよこれこそアタシが探し求めてたエンターテイメントよ!! このエンテー タイメントのハイパーパワーをビユーティフォーラブリーハイパーハンタースナイパーエ ンジェルのコリンちゃんが性悪ユンナにキッチリと教え込んで上げるわ……ふっふっふっ ふっふ…………」  相変わらず横文字好きの(しかも間違いの多い)彼女だった。 --------------------------------------------------------------------------------  後書き  ラルヴァ達、ごめんなさい……m(_ _)m  特別手当を支給いたしますのでご勘弁を(爆)  そう言えば、私が書くSSって大抵ラルヴァが不幸になっている気が(連爆)  また、半端にコリンで伏線なんぞ張っていますが、私はナイトライター未プレイのため 書くことはできません(じゃあ書くな!)  まあ、ふとQoHをやりながら「コリンもウォーターサバイバルやりそうな気がする」 と思って付記しただけですし(三連爆)  駄文お読み頂き、ありがとうございました。  では、失礼いたします。                               2001 / 1 / 24                                 竜山
 ☆ コメント ☆ セリオ:「ま、雅史さんって怖いですねぇ」(;^_^A 圭子 :「そんなことないよ。普段はとっても優しいんだから」 セリオ:「まあ、普段の雅史さんが優しいのは百も承知ですけど」(;^_^A 圭子 :「ほんっと〜に優しいんだよ。      デートの時は手を繋いでくれて、ちょっと寒くなると肩を抱いてくれて……」(*^^*) セリオ:「は、はあ」(;^_^A 圭子 :「それからね。アレの時もわたしが怖がらないようにギュッて抱き締めてくれて……」(〃∇〃) セリオ:「…………」(;^_^A 圭子 :「それからねそれからね」(〃∇〃) セリオ:「…………あうあう。完璧に惚気モードに入ってしまいました。      わ、わたしは一体どうすればいいのでしょう?」(;^_^A 圭子 :「それからねそれからね」(〃∇〃) セリオ:「…………誰か助けて下さい」(;^_^A  ・  ・  ・  ・  ・ 雅史 :「あはは。なんか照れちゃうね」(^^) 浩之 :「他人事みたいに笑ってねぇで圭子ちゃんを止めろよな」(−−;



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