『作文』
藤田沙夜香の場合


 うっわ〜。懐かしい〜。

 机の引き出しを整理していたら、小学一年生の時に書いた作文が出てきた。
 タイトルは『あたしのパパ』。

 ふむふむ、小学低学年の作文としては定番の内容ね。

 約10年前のあたしがどんな事を思っていたのか。ちょっと興味が惹かれたあたしは、整頓を中断してその作文を読み始めた。

 えっと……なになに……


『あたしのパパ
               いちねんにくみ ふじたさやか


 あたしはパパがだいすきです。あいしています』


 ガタッ!

 派手な音を立ててずっこけてしまった。

 あたた。し、しょっぱなからこれかい。まったく、なにを考えてるんだか、昔のあたしは。
 いくら言葉の意味をよく分かっていない子供の頃の事だからって、これはぶっ飛びすぎだってば。


『あたしのパパは、あやかママとせりかママとともこママとセリオママといっしょに、くるすがわグループという会社ではたらいています。
 そして、エクレアクリームっていうかくとうぎのせんしゅもしています』


 エクストリームよ!
 我ながらとんでもないボケをかましてるわね。……セリママの影響かな。


『パパはとってもつよくて、かくとうぎのたいかいでゆうしょうしたりします。パパがかつととてもうれしいです』


 子供の時はルールとか全然分かってなかったけど、取り敢えずパパが勝つとすっごく嬉しかったっけ。
 その代わり、負けちゃった時は悲しくて悔しくてワンワン泣いちゃったっけなぁ。
 尤も、パパってばこの頃から既にトップレベルだったから負ける事なんて殆ど無かったけどね。


『ママたちは、パパのことをせいよくまじんっていってます』


 ぶーーーーーーっ!

 い、い、い、いきなりなんて事を書いてるのよっ! つい、思いっ切り吹き出しちゃったじゃない。
 てか、展開に脈絡がないし!

 ……まあ、小学一年生の書く作文なんて、どれもそんなものかもしれないけど。


『よくわからなかったので、ママたちに、せいよくまじんってなにってきいたら』


 訊くな、んなもん。


『パパみたいにとてもつよい人のことだよっておしえてくれました』


 ママたちってば、子供が相手だと思っていい加減なことを……。
 まったく。強いは強いでも何に強いんだか。


『それをきいて、あたしは、パパってすごいとおもいました。そんけいしちゃいました』


 騙されてる。あたしってば騙されてるよ〜。


『おとなになったら、あたしもパパみたいなせいよくまじんとけっこんしたいです』


 それだけはやめなさいって、マジで。絶対に苦労するから。


『あたしは、パパのことがだいだいだーいすきです』


 大好き、か。作文というよりはラブレターみたいな締めね。
 これを読んだ当時の担任がどんな顔をしたのか見てみたかった気がするわ。


 読み終えたあたしは、綺麗に作文をたたむと、引き出しの中にそっと入れる。

 ――が、すぐに再び取り出すと、最後に一文を書き加えた。

 数年後に見たら、また苦笑する事になるんだろうな。

 なんて思いながら。





『あたし、パパの娘で本当に良かった。今も大好きだよ(16歳の沙夜香より)』





 そして、あたしは今度こそ引き出しの中に作文を仕舞った。

 宝物を扱うかの様に丁寧に。

 子供の頃からの想い。それが今後も変わらないであろう事を確信しながら……

 そっと、そっと仕舞った。





< おわり >





 ☆ あとがき ☆

 子供の頃に書いた作文って、大人になってから読むと恥ずかしいでしょうね(^ ^;

 いや、それ以上に、子供の持つ純粋さ・ストレートさを羨ましく感じるかな?

 ま、それはともかく。

 子供っぽい作文って書くの難しいです、異様に。

 今回のSSでは、小学一年生の語彙を想像しながら書きました。

 上手くいってればいいなぁ(;^_^A

 それにしても……平仮名ばかりというのは凄く読み辛いなぁと深く実感したりして( ̄▽ ̄;





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