『雨だけど』



 
「雨ですぅ〜」
「雨……ですねぇ」

 窓から外を見て、残念そうにつぶやくマルチとセリオ。

「せっかくの七夕なのに……」
「あ〜ぁ、がっかりだね」

 琴音ちゃんと葵ちゃんも、恨めしそうに空を見上げている。

「姉さんの魔法で、どうにかできない?」
「……………………」
「え? 『さすがに無理です』? そっか……それじゃあ……しょうがないわね」
「ごめんなさい」

「なにも、こんな日に降らんでもええのに……」
「まったくヨ!!」
「ホントだよねぇ。笹も短冊も用意したのに……」

 さらに、綾香も芹香も委員長もレミィも理緒ちゃんも、みんなががっくりしていた。

 何というか……何というか……

「だーーーっ!! 暗い!! 暗いぞ、みんな!!」
「だってぇ〜」
「『だってぇ〜』じゃない!! ただでさえ鬱陶しい天気なのに、俺たちまで鬱々としてどうする!?」
「でもぉ〜。七夕なのに……七夕なのにぃ〜」

 なんだよ? なんで、そんなにこだわるんだ?
 そりゃ〜、俺だって残念には思ってるけどさ。だけど、みんなの落ち込みようは普通じゃないぞ。
 あかりとマルチなんか、半泣きになってるし。

「おいおい。なにも泣かなくてもいいだろうが?」
「だって……可哀想じゃない」
「はい?」

 可哀想って……何が?

「織姫と彦星は1年に1回しか……今日しか逢えないんだよ。
 それなのに……それなのに……雨なんて……」
「ううっ、可哀想ですぅ〜」

 …………そういうことか。なるほどね。理由はよーく分かった。

 しっかしなぁ、だからって泣くほどの事かぁ?
 ったく、純粋と言うか……子供と言うか……。
 
 ホントに……しょーがねーなー。

「あのなぁ。雨が降ったからって、織姫と彦星が逢えなくなるわけじゃねーだろうが」
「ほえ?」
「どういうこと? 浩之ちゃん」
「2人がいるのはどこだ? 雲のはるか上だろ?」

 正確には、はるか上どころじゃないけどな。
 織姫こと『ベガ』が25光年,彦星こと『アルタイル』が16光年も離れているし……。
 ま、これは余談と言うか、どうでもいいことだけど。

「だからさ。地上で雨が降っていようが槍が降っていようが、2人にとっては全然問題がないんだよ。
 それどころか……」
「それどころか?」
「今の雨は、天候を司る神様の粋な計らいかもしれないぜ」
「計らい……ですかぁ?」

 キョトンとした顔で訊いてくるマルチ。

「そういうこと。考えてもみろよ。織姫と彦星は1年振りの逢瀬なんだぜ」
「うん。そうだね」
「そんな時はさ、やっぱ、誰にも邪魔されたくねーし、覗かれたくもねーよな」
「……そりゃーまあ」

 何を想像したのか、多少顔を赤らめながら肯定するあかり。

「つまり、分厚い雨雲がカーテンの代わりをしてるってわけだ。地上からの無粋な視線を遮る為の、な」
「でしたら、雲の上では……」

 それは聞くだけ野暮ってもんだろ。そんなの決まってるじゃねーか。

「2人でいちゃいちゃしまくってると思うぜ。
 他人の目を気にする必要がねーから、それこそ思いっ切り」
「そっか。そうだよね」
「良かったですぅ〜」

 心底安心したような顔をするあかりとマルチ。
 俺たちの会話を周りで黙って聞いていた芹香たちも、皆一様に嬉しそうな表情を浮かべていた。
 綾香なんかは、「それもそうよねぇ」なんて言いながら、
 「うんうん」と大きくうなずいたりしている。

 …………ったく、しょーがねーなー。
 架空の人物の逢瀬の為に、本気で一喜一憂しやがって。
 まあ……それがこいつらの良いところでもあるんだけどな。

 いつもの笑顔を取り戻した面々を、俺は苦笑を浮かべながら眺めていた。

 大切な大切な娘たちの優しさ・純粋さに、溢れんばかりの愛おしさを感じながら……見つめていた。

「織姫さんと彦星さん……今頃、楽しんでいらっしゃるでしょうか?」
「だと思うわよ。すっごく盛り上がってるんじゃない?」
「えへへ、そうだね」
「確かにな。う〜ん、これは俺たちも負けてられねーかな?」
「むふふぅ〜。なーに対抗心を燃やしてるのよ、浩之ぃ」
「うるせ。どんなことでも、負けるのは嫌いなんだよ。お前だってそうだろ?」
「まぁねぇ」
「だからさ、絶対にあいつら以上に楽しんで盛り上がってやろうぜ!!
 なあ、みんな!!」

『おーーーっ!!(おー)』

「てなわけで…………今夜はオールナイトだ!!」


『おーーーっ!!(おー)


「よっしゃ!! あかり、酒だ酒だ!!」
「うん、分かった………………って…………お酒は20歳になってからだよぉ〜」

「……神岸先輩の抵抗がいつまで保つと思う?」
「10分が限度だと思うよ。藤田さんには本当に甘いから……くすくす」

「セリオさん、今のうちにグラスを用意しておきましょう」
「そうですね。そうしましょう。あかりさんの負けは確定事項ですから」

「綾香、飲み過ぎちゃダメよ」
「飲むな……とは言わないわけね」
「もう……あきらめたから……」

「呑み比べや、宮内さん!! 今日こそ決着つけたる!!」
「OK!! かかってきなさい!!」
「お、お願いだから……『今回こそ』わたしを巻き込まないでね」

「あかりぃ〜。酒だ〜〜〜っ!!」
「うぅ〜〜〜っ」







 その夜、藤田邸から笑い声が途絶えることは無かった。





 それは……優しくて穏やかな……雨の日の一幕であった。









 ☆ あとがき ☆  七夕記念!!  なんか、競馬のレース名みたいですが(^ ^;  しかも、1日遅れ(^ ^;;;;;  ま、いっか(おい  えっと、今回のSSですが、本当は……  「わたしたちと浩之ちゃんが1年に1回しか逢えないとしたらどうする?」  「浩之ちゃんが彦星で、わたしたちが織姫だったらどうする?」  といった内容になるはずだったのですが、  他のサイトさんに先に書かれてしまいましたので断念しました(^ ^;  (ね? STE○ENさん(笑))  しかし、作中では単なる雨ですが、現実世界では台風。  なんつーか……天候を司る神様、粋な計らいにしても限度を考えて下さいね。  いや、マジで(^ ^;  それにしても……浩之ってば、まだ酒に懲りてなかったんですねぇ(^ ^;  けっこう、酷い目に遭ってるのになぁ(^ ^;;;;;  それではでは〜、また次の作品でお会いしましょう\(>w<)/



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