2000TYPE−MOON 『月姫』

「月姫蒼香がやってきた(中編)
  秋葉ちゃんの社会実習 番外編


 

「は、はじめまして、月姫蒼香です」

「はじめまして、秋葉の兄、遠野志貴です」

緊張のかけらもない笑顔で挨拶をする志貴と、緊張しまくりの蒼香
秋葉はそんな2人を次にリアクションを待っているが・・・

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・?」

緊張を通り越しほとんど固まっている蒼香に、笑顔から困った表情に変わってきた志貴
蒼香のフォローをしようと秋葉は志貴に話し掛けようとするが・・・

「にい・・・」

「にー」

志貴の足元に一匹の黒猫が鳴き、秋葉の言葉をさえぎった・・・
志貴の愛猫レンである

「・・・兄さん」

「・・・はい」

レンに言葉をさえぎられた事より、連れて来ていた事に不機嫌になる秋葉に、
志貴はすぐに敬語で返事をした
普段はよっぽど秋葉が怒っているか、ある2人の暴走に巻き込まれた時だけなのだが・・・
(ようするに命が危険と判断した時)

「私は確か翡翠に、『お1人』と言ったはずですが?」

「それは、聞いたけど・・・」

「なら、その猫はどういう事ですか?」

「だって、レンだって寂しいだろうし・・・」

「兄さん、あの約束を覚えていますよね?」

「は、はい」

約束とは、『余計なトラブルを起こさない』の事だ

「納得していただいたのなら、この猫をどうかしてください」

「で、でも・・・」

「なんですか?」(ギロリ)

「なんでもありません」

相変わらずと言えば相変わらずの兄妹の会話に、
蒼香は緊張が解けて可笑しさがこみ上げてきた

「ふふっ」

「蒼香?」

「すまない。2人の会話があまりにも面白かったからつい・・・」

「少しは楽になったかな?」

「はい」

「兄さん・・・、まさか!?」

「考えてる通りだよ」

「〜〜〜〜〜っ!!」

志貴は蒼香が緊張しているのがわかると、わざと秋葉を怒らせて自分を情けなくしたのだ
大抵は妹に敬語を使いシュンとしていたら、緊張も取れるというより呆れるだろう
最もレンを連れて来たのは言った通りなのだが・・・

(でも、どうして緊張なんかしていたんだろう?
友人の兄だからかな・・・)

と、相変わらず志貴は鈍感だったが・・・

「それじゃ、緊張も解けた事だし改めて自己紹介していいかな?」

「はい、秋葉の友人の月姫蒼香です」

「秋葉の兄の遠野志貴です。
それと、別に敬語を使わなくても普段の口調でいいよ」

「・・・いいんですか?」

「もちろん」

「・・・わかった、そうさせてもらおう」

「それじゃあ・・・」

右手を差し出し握手を求める志貴に、蒼香は一瞬不思議そうな顔をすると、再度笑い始めた

「ははは」

「?」

「蒼香!!」

「す、すまない」

何とか笑いを押さえ握手を交わした

「どうしたの蒼香? いきなり笑うなんて・・・
兄さんったら頭の上に?が出ているわよ」

「いや、今まで敬語から普段の口調に戻すと、相手は苦笑いを浮かべるか、ハトが豆鉄砲をくらった顔になる」

握手を交わしたまま、秋葉というより志貴に向かって答える

「それを自然と受け止め、まして笑顔で握手を求められるとは思ってもみなかったんだよ」

「・・・兄さん、どうしてですか?」

蒼香に言われ、秋葉は志貴に理由を訊ねたが、随分トゲのある口調だった

(もしかしたら兄さんの挨拶は、握手が普通ですか?
なら、どうして私の場合は握手をしてくれなかったのですか・・・)

そんな考えがある秋葉に気付かず、志貴は手を離して、困ったような照れているような複雑な顔で答えた

「何でって言われてもなぁ・・・
君にとって今の口調が一番自然だったというか・・・
だからって、女の子の喋り方が似合わないと言う事じゃなくて・・・
さっきの口調に違和感・・・というより無理しているように感じて・・・
そうするに・・・何ていうか・・・」

「・・・何が言いたいのですか?」

「どう言えばいいのかなぁ・・・」

志貴の説明では、何が言いたいのかわからない秋葉はつっこむが・・・

「・・・わかった」

「「えぇ!!」」

蒼香が納得したことに、秋葉のみならず志貴まで驚いた

「私にとって、今の口調が一番自然だったから違和感なく受け入れたのだろう。
だが、この口調を一番と言えば、一応女である私が気を悪くしてしまうと思ったのだろう」

「・・・うん」

「すまない、何度も気を使わせて・・・
逆に、今に口調が受けいられた事で私は十分だ。
それ以上気を使わないでくれ」

「そうですよ、兄さん。
蒼香は、そんな事を気にする人じゃありません」

「わかった。じゃ、よろしく」

ようやく緊張も抜け、自然体で志貴に接する蒼香だったが、内心胸の鼓動が高まっていた

(落ち着け! 緊張は解けたはずなのに、こんなに鼓動が高まるのだ!?
・・・それにしても、志貴は話を聞いて想像していたより、ずっと優しい・・・
これでは秋葉が志貴しか見なくて、ブラコンになる事も納得できる・・・
やはり、私は・・・)

自分の中で志貴に対する気持ちに自問自答をする蒼香だったが、
次の志貴の言葉に現実に戻ってきた

「そろそろ、食堂に行こうか? 秋葉、蒼香ちゃん」

「「蒼香ちゃん!?」」

「?」

「に、兄さん、・・・っく、そ、蒼香ちゃん、・・・ふふ、って」

「笑うな!!」

笑いを必死に堪える秋葉に、蒼香は真っ赤な顔で怒鳴った

「頼むから、ちゃん付けはやめてくれ。
私も志貴と呼ばせてもらうから、呼び捨てにしてくれ」

「そう?」

「頼む!!」

「・・・わかった。 ・・・蒼香」

「それでいい」

「兄さん、別にちゃん付けでも結構ですよ」

「秋葉!!」

「ふふ、冗談ですよ」

少し残念そうな志貴にほっとした蒼香
まだ可笑しいのか冗談を言う秋葉

「レン、おいで」

レンは先程(秋葉に注意された頃)からいたのだが、約束の事もあり大人しくしていた
その気持ちを感じていた志貴は、レンを自分の頭の上に乗せた

「にーー(志貴さまぁ)」

「もう、兄さんッたら」

「まぁ、いいじゃないか。
それより、だいぶ時間が経っているから行こう、秋葉、蒼香、レン」

「はい」

「ああ」

「にゃ」

それぞれの返事を返し、一行は食堂に向かった
その先に待ち構えている戦場(冷戦?)があるとは知らず・・・

 

 

「ほう、ずいぶん美味しいな」

「琥珀さんの料理はいつでも美味しいよ」

「ありがとうございますー」

琥珀が作った料理の上手さに驚く蒼香に志貴も同意する

 

食堂に着いた一行は、蒼香にアルクェイドとシエルを紹介した
紹介自体は簡潔だったが、それはお互いに気を使うような性格ではなかった為、
すぐに馴染んだのだ
そして、食事(秋葉と蒼香のみ)をしようとし、それぞれがイスに着いた
まず、翡翠と琥珀は食事の世話の為、立ったまま
中央に志貴が座り、その向かい側に蒼香
秋葉は志貴の横に座りたがったが、結局、蒼香の横に座った
問題はアルクェイドとシエルだが、初め2人とも志貴の横と主張したが、秋葉の却下により
アルクェイドが志貴の隣となり、シエルがアルクェイドの向かい側に座った
レンは志貴の足元(いつもは人型で志貴の膝の上)

 

「そういえば、学校での秋葉はどうなんだろう?」

普段、秋葉は学校での生活は話さないので、ここぞとばかり蒼香に質問した

「それは・・・」

「兄さん、どのような理由でそのような質問をなさるのですか?」

蒼香が答える前に秋葉からストップを掛ける

「だって、俺と蒼香が共通している話題となると秋葉の事だろ?
まぁ、実際に興味もあったし・・・
皆も知りたいだろ」

「わたし、知りたいー」

「確かに興味がありますね」

「・・・はい」

「もちろんですー」

「にゃあ」

全員の賛成(数の暴力)により、次々に暴露される秋葉の学校生活・・・
授業態度から始まり、生徒会役員に続き、後輩の晶を可愛がっている(いじめている?)など、
知られたくない事まで続いた・・・
もしかしたら、蒼香が秋葉が言った『ちゃん付け』の冗談の仕返しかもしれない・・・

 

話が進む中、2人は食事も終わったが、そのままお茶会になり、今はメインである志貴の話題になっている

「そんなに志貴の寝起きは悪いのか?」

「ええ、翡翠が毎朝起こしに行かせているのですが・・・
ねぇ、翡翠」

「はい、志貴さまに声をお掛けしますが、すぐに起きた事はありません」

ちなみに、最初の5分間は志貴の寝顔を堪能している事は、秋葉には内緒である

「翡翠には迷惑を掛けてるよ」

「そう思うのでしたら、行動で示してください」

「努力はしているけどなぁ」

「まぁ、人それぞれだろう。
逆に得意な事は何だ?」

蒼香が志貴のフォローのつもりで話題を変えた

(うーーん、何だろ?
さすがに「なんでも殺せるこの眼です」とは言えないし・・・)

案外、自分の事となるとわからない事が多い
志貴も見事にその無限ループに入りかけたが・・・

「志貴って、確か料理が上手だよね」

先にアルクェイドが答えた
志貴のフォローではなく、本当にそう思ったからである

ピク

その言葉に料理が出来ない2人(秋葉&翡翠)が反応する

「そうですね。
確かに遠野君にカレーを作ってもらった事がありますが、充分合格点でしたね」

「私も志貴さんの料理食べてみたいですー」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

他に料理ができる2人(シエル&琥珀)は会話に参加するが、
出来ない2人は何となく会話に入れなかった

「そうなのか?」

「うん。
前に世話になった家や友人の所で、飯を作ってからある程度はできるよ」

志貴が料理を得意とは以外だったので、蒼香は驚いた
ちなみに友人とは有彦の事である

「そうだ! 遠野君が卒業したら、一緒にパン屋かカレー屋を開きませんか?
そうなれば、きっとお客さんもいっぱい来ますよー」

深読みすば、プロポーズな言葉を言うシエル
もちろん、待ったを掛ける者もいる・・・

「ちょっと、シエル・・・
今、何か言った?」

もちろん、シエルにとって因縁の敵(ライバル)、アルクェイドだ

「ええ、言いましたよ。
とうとう耳も遠くなってしまったようですね、アルクェイド」

「ふぅん、貴方もとうとうボケが出てきたようね」

「いえいえ、そちらにはかないませんよ」

「そう・・・
でも、そんなセリフが出る時点で充分よ」

「「ふふふ・・・」」

言葉は普段通りだが、声は地獄の底から出てくるような低い声だ
お互いに睨み合い火花が散っている
さすがに、まずいと志貴が止め様とするが・・・

「2人とも、大人しく・・・」

「「志貴(遠野君)は黙ってて」」

「・・・はい」

今度の志貴の引っ込みはわざとではなく、本当に命の危険を感じたのだ
だが、さらにヒートアップする人外兵器達を止める者がいた

「はいはい、アルクェイドさんもシエルさんも大人しくしていましょうねー。
このままでしたら、約束を破っちゃいますよ」

「「!!」」

『約束』を思い出した2人は、怒りを押さえ始めた

「秋葉、先程から気になっていたのだが、『約束』とは何だ?」

「そ、蒼香が気にする事ではありませんわ」

「そうです。
蒼香さま、お茶のおかわりはいかがですか?」

蒼香が『約束』の事を訊ねたが、秋葉と翡翠は誤魔化した
原因の2人は怒りが収まりきれず、お互いの足を踏み合いという、
隠れての攻防を繰り返していた
この時、レンは下にいたのでその攻防が目に付いたが興味はないようだ

「蒼香、そろそろ入浴にしましょうか?」

これ以上蒼香がここに居てはまずいと判断した秋葉は、食堂を出る事にした

「志貴が先ではないのか」

「お客が先に入るのは当たり前だよ。
先に入ってきなよ」

「・・・わかった」

「翡翠、琥珀、後は任せたわね」

「はい」

「ごゆっくりー」

秋葉は2人に声を掛けると、蒼香を連れてバスルームに向かった

 

「翡翠、もう一杯お茶を貰えるかな」

ドガ・・・バキ・・・

「どうぞ、志貴さま」

ガシャン・・・パリン・・・

「志貴さん、困っちゃいましたね」

グシャ・・・ドカン・・・

「琥珀さん、顔が全く困っていませんよ」

ザシュ・・・ガキン・・・

「にー」

ダン・・・ギリギリ・・・

「レン、こっちにおいで」

秋葉と蒼香が去ると、アルクェイドとシエルは戦闘準備をし、
2人が離れて音が聞こえない位置まで離れれると、即座に戦闘開始
志貴は諦めの入った顔でちょっと現実逃避
翡翠はそんな主人を労わっている
琥珀は面白そうな顔で現状を眺め、レンはようやく志貴の膝の上で甘えだした

「そうだ、翡翠と琥珀さんに頼み事があるんだ」

「なんでも言ってください」

「志貴さんなら、どんな事でもOKですよー」

突然の志貴の頼み事に返事をする双子のメイド
琥珀の返答は、かなり際どいが志貴は全く気付く事はなかった

「それはね・・・」

頼み事の内容を話す志貴に2人はもちろん了承
レンはそのまま眠ってしまった
争いはまだ続いているが、秋葉達が戻ってくると奇麗になっていた事だけは知らせておこう

「世の中には知らない方がいい事もあるんですよー」

 

 

入浴を済ませた秋葉と蒼香は、一度居間に行ったが志貴が入浴の為、
秋葉の自室に戻った

「さすがに、いい風呂だったな」

「そうですか?」

「ああ・・・と言っても、普段があれなら気付かないだろう」

「それより・・・実際に兄さんに会ってみてどうでしたか?」

ついに秋葉はずっと気になっている事に触れた

「・・・・・・」

「・・・どうでしたか?」

蒼香は黙るが、秋葉は先を求める

「まず、志貴の第一印象は秋葉が言っていた通りだったな。
性格は思っていた以上に落ち着いているな。
それに、やはり優しい・・・」

「・・・・・・」

「だが、その優しさは性格の一部から出ているのではなく、
何か苦しい思いをした者が持てる優しさのような気がする」

「!!」

秋葉は驚きを隠せなかった
それは、秋葉自身感じていた事だからだ

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・蒼香」

「・・・何だ?」

「貴方は・・・兄さんの事をどう思っているのですか?」

「っ!!」

今度は蒼香が驚く番だった

「正直に答えてください」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・わからない」

その一言は蒼香とは思えないくらい声が小さく、弱々しかった

「わからない?」

「ああ、確かに志貴の事は気になっているのは確かだ」

「・・・」

「しかし、それが・・・その・・・好意を持っているのかどうかはわからない・・・」

「・・・・・・」

「それを確かめる為に、志貴に会ってみたかった」

「・・・・・・」

「今でもその気持ちはわからない・・・」

蒼香は今の気持ちを正直に答えた
それから2人はしばらく黙っていたが・・・

「・・・蒼香」

「・・・・・・」

「もし、兄さんが好きになっても、気持ちを押さえないで」

「・・・・・・」

「それが、一番辛い事は私が一番知っているのだから・・・」

「・・・・・・」

「それに・・・」

「・・・・・・?」

「蒼香となら、正々堂々と勝負しましょう」

「・・・ああ」

しばらく、2人はそのままだったがそのまま床に着いた・・・

 

 

(眠れない・・・)

電気を消した秋葉の部屋で、蒼香は眠れなかった
理由はわかっている
志貴が気になっているのだ
眠りたいのに眠れないジレンマに苦しかった

(喉が渇いたな・・・)

ふと、隣に眠る秋葉を見るが完全に熟睡している

(1人で行くか・・・。 道は覚えているし)

蒼香は起き上がり、静かに秋葉の部屋を出た

 

 

(確か、このまままっすぐに行くと階段があって・・・)

記憶を頼りに食堂を目指し、
記憶通りに階段を見つける

(この階段を下りると・・・)

一階に下りると食堂に向かうが・・・

(・・・ん?)

目的地の食堂が見えてるが、中の電気が付いている事に気が付いた
そして話し声も聞こえてきた

(何だ? こんな時間に・・・)

せっかくここまで来たのだから、引き返すのも癪だったので、
水だけもらおうと思って中を覗き込むが・・・

(志貴・・・)

そこにはテーブルの前のイスに座っている志貴を見つけた
思わず、気付かれないように隠れて様子をうかがう

(何している?)

よく見ると志貴の他にメイドの2人もいることに気が付いた

(テーブルの上には・・・、料理?
でも、ただ食べているにしては様子が変だ・・・)

蒼香は3人の行動の様子を見ることにした

 

「違います、志貴さま。
まず、フォークは左手です」

「・・・はい」

「志貴さん、スープを飲む時は音を立ててはいけませんよー」

「・・・難しいっす」

「それにしても・・・」

「琥珀さん?」

「突然、テーブルマナーを教えてくれと言われた時はびっくりしちゃいましたよー」

「そう?」

「はい。
だって今まで、秋葉さまに言われても全く聞こうとしなかった志貴さんが・・・」

「・・・・・・」

「ねぇ、翡翠ちゃんもそう思うよね?」

「えっ・・・あ、その・・・」

「ほらー」

「琥珀さん・・・
そんなに俺を苛めて楽しいですか?」

「はい、とっても」

「・・・そこは否定してください」

「でも、志貴さん」

「はい?」

「秋葉さまを大切にしているんですねー」

「うん?」

「だって、朝食の時に志貴さんのマナーが悪かったら、
友人の前なので、秋葉さまの立場がないと思ったんじゃないですか?」

「ええ、さすがに今まで言われ続けて、いざって言う時に何も出来なかったら・・・」

「でも、それなら内緒にする必要はありませんよ」

「それは・・・」

「志貴さま・・・
こういう事は、内密などせずにわたし達を頼ってください」

「そうですよ。
いつもいつも、わたし達に教えてくれなくて、一人で解決しようとするんですから」

「でも、それは・・・、心配掛けたくないから・・・」

「志貴さまは自己犠牲が強すぎます」

「志貴さんったら、そんなにわたし達は信用ないのですか?」

「ううん、そんな事はないよ」

「なら・・・」

「わかった。
とりあえず、マナーを覚えよう。
信用してるよ」

「「はい!!」」

 

志貴達のやり取りを見ながら、自分が言った言葉を思い出していた

『おそらくお前達に何か危険があれば自分を犠牲にしても、
時にはその大切な人達にも恨まれる事があっても、 気付かれないように解決しようとするだろう 』

危険というわけではないが、今回も秋葉に迷惑を掛けないように、
解決しようとしている・・・

(志貴・・・)

蒼香は、そんな志貴をずっと見続けた
その眼は尊敬のまなざしだったが、その中に想いがこもっている事には、
蒼香自身、気づいていなかった・・・
だから、無意識に身を乗り出している事に気が付かなかった

「あっ」

(っ!!)

志貴と眼が合ってしまったのだ

「蒼香?」

「・・・ああ」

「・・・・・・」

「あらー」

それぞれの反応を示すが、10秒間そのままだったが
気付かれては仕方がないので気まずい中、食堂の中に入る蒼香

「どうしたの、こんな時間に1人で?
秋葉は、寝てるの?」

「い、いや・・・そ、その・・・」

気まずい中、蒼香は下を向き言葉を濁すだけだった
無意識に志貴に嫌われた時の恐怖感がそうさせていた

「怒ってないから」

その言葉を聞いて、やっと答えだした

「実は、眠れなくて・・・
喉が渇いたから水をもらおうと思ったのだが、
秋葉を起こすのも可愛そうだと思って、
1人で降りてきたんだ」

「そう・・・
翡翠、蒼香に水を渡してあげて」

「どうぞ、蒼香さま」

「す、すまない」

水を持った時に、喉が渇いていた事を思い出し、
そのまま一気に飲んだ

「それにしても、蒼香に見られるなんて」

それはそうだろう
志貴がマナーを知らない事を、蒼香に知られれば意味がないのだが・・・

「別にいいじゃないですかー」

「えっ?」

「姉さん?」

「琥珀さん?」

「ようは、志貴さんがマナーが上手になっている事を、
秋葉さまにお見せしたらいいのですから。
まぁ、蒼香さんも知らない振りをしてもらいますけどねー」

「でも、琥珀さん・・・」

「ちょっと、蒼香さんに質問いいですか?」

「あ、ああ」

「志貴さんがテーブルマナーを知らないからって、志貴さんや秋葉さまを
ご嫌いになりますか?」

「いや! そんな事はない!!」

蒼香自身も驚くような大声で否定する

「まら、問題ないじゃないですかー」

「そうかな・・・」

「志貴さま、姉さんの言う通りです。
秋葉さまが納得して頂いたらよろしいのですから。
それとも、蒼香さまに知られてはいけないのですか?」

「できたら、知られたくなかったな・・・」

「「「えっ?」」」

翡翠はフォローのつもりでそう言ったのだが、予想外の答えが返ってきた
3人にしたら、志貴が蒼香の気を引こうとしているように聞こえたからだ

「だって、年上なのにマナーも知らないなんて・・・」

「「へっ?」」

「ははは」

最もな志貴の理由を聞いて、笑い出す蒼香に不思議そうな顔をする翡翠と琥珀

「どうしたの、みんな?」

「あの、志貴さま・・・」

「なに?」

「志貴さんが蒼香さんに知られたくない理由って、それだけですか?」

「そうだけど・・・、他に何かあるの?」

「い、いいえ、なんでもありません」

「志貴、そんなセリフは簡単に言うものではないぞ」

「?」

志貴の鈍感ぶりに振り回せられる2人の為に、忠告をする蒼香
だが、気まずい空気は消えてしまった

「な、なあ、志貴?」

「どうしたの?」

「眠れないから、ちょっと気分転換をしたいのだが・・・」

「そうだね・・・、
それならちょっと庭で外の空気を吸ってきたら・・・
と言っても、蒼香は庭に何があるか知らないし、一人じゃ危ないし・・・」

蒼香の質問に答える志貴だが、穴だらけの提案に考え込んだ・・・
蒼香は志貴と一緒に来てほしかったのだが、そこまで言う勇気がなかった
そんな考えを見抜いた1人が変わりに答えた

「それなら、志貴さんが一緒に行って上げたらいいじゃないですか?
マナーの勉強も十分ですし、お客さまの案内をお願いしますねー」

「それもそうだね・・・
蒼香、俺と一緒でいいかな?」

「あ、ああ!
こちらから頼む!!」

「じゃあ、行こうか?」

「ああ」

「翡翠、琥珀さん、悪いけどお先に」

「お休みなさいませ、志貴さま、蒼香さま」

「おやすみなさいー」

志貴は蒼香を連れて庭に出て行った
食堂を出る前に蒼香は、志貴に気付かれないように琥珀に頭を下げた
琥珀もそれに気付き、小さく手を振った

 

「姉さん・・・」

「なに、翡翠ちゃん?」

「蒼香さんが志貴さまと一緒に行きたい事を知っていて、
助け舟を出しましたね」

「さすが、翡翠ちゃんですね。
お見通しでしたか」

「わかりますよ・・・
蒼香さん、ずっと志貴さまを見ていたんですから」

「そうですねー。
たぶん、蒼香さん本人は志貴さんが好きな事に気が付いていないようですしね。
志貴さんと2人っきりになれば、気付くかもしれないですね」

「姉さん、なら・・・」

「翡翠ちゃん」

翡翠の言葉をさえぎり、明るい声で続ける琥珀

「ライバルって、多いほど燃えませんか?」

 

 

「中庭と言うより、林だな」

「そうだね・・・
そう思うよ」

2人は中庭を進んで、離れの近くまで歩いてきた

「どうかな、気分転換になるかな?」

「ああ、十分だ」

歩くのをやめて、空を見上げる蒼香

「・・・そういえば、アルクェイドとシエルはどうした?
入浴に行ってから姿を見ないが・・・?」

「あ、あの2人ならちょっと用事が出来て、出て行ってるよ!」

「そ、そうか」

蒼香は、志貴の力説に驚きながら返事を返す
だが・・・

(言えない・・・
『2人とも怒りを通り越して、遠くで殺しあってます』
なんて、言えるはずがない)

と、心の中で涙する志貴

「・・・志貴」

「ん?」

「なぜ、志貴はそんなに優しい?」

「えっ?」

志貴は思わず蒼香を見るが、真剣な顔で見つめられている事に気付き、
何も言えなかった

「志貴の優しさは元々という事もあるが、何かつらい事・苦しかった事に遭遇して、
それを乗り切った優しさがある」

「・・・・・・」

「もちろん、何があった事は言わなくていい。
その優しさを持っているのが志貴なんだろう」

「俺はそんな立派な人間じゃないよ」

「そんな事はない!!」

「っ!」

「すまない、大声を出して・・・
でも、その優しさは誰に向いているのだ?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

蒼香は黙って、志貴に答えを待っているが、内心震えていた

(なぜ、震えている?
何かを恐れているのか?
志貴がその答える事に・・・
名前が出てくる事に・・・
私はそんなに弱かったのか?)

「俺は・・・」

「・・・・・・」

(頼む! 答えないでくれ!!)

蒼香は恐怖していた
志貴が名前を出す事に・・・
それで気付いた・・・
蒼香もはっきりと志貴が好きなのだと・・・

「今は、誰か一人と選んでいない」

「・・・そうか」

志貴の答えを聞いた蒼香は、それだけの言葉で精一杯だった
体中の力が抜けて立つのがやっとだった

「なら、私も加わっても構わないよな」

「えっ? もう一回言ってくれないかな?」

「な、なんでもない!!」

両手を目の前に持ってきて、手のひらは左右に振る蒼香

「すまない、いきなりこんな質問をして・・・」

「いいよ、別に。
確かに、俺の周りは女性ばかりだからね。
興味はあるだろう」

志貴は答えながら、腰を降ろして木にもたれ掛かった
蒼香も確かに興味はあったが、志貴の言っている意味は違うだろう

「でも、そろそろ選ばないと修羅場になるぞ」

蒼香も志貴の横に座りながら忠告した
志貴の言葉で楽になったのだろう・・・
心にもないことを口にだした

「それは分かっているけど・・・」

どうやら、遠くで殺し合いをしている2人を思い出したのだろう・・・
志貴の頭には冷や汗が流れた

「ふふふ」

蒼香は無意識に女性らしい笑い、そっと志貴にもたれ掛かった

「蒼香!?」

「しばらく、このままで・・・」

志貴の肩にもたれ掛かりながら、蒼香は考えていた

(私もやはり志貴のことが好きだ・・・
この気持ちは、たとえ秋葉にも負けない・・・
秋葉言った通り、気付いた以上押さえるつもりはない
勝負だな・・・)

「すー・・・」

蒼香はそのまま、眠ってしまった
その寝顔はとても安心した表情で、ただ1人にしか見せない女性の微笑だった・・・

 

 

「続く」

 

 

(おまけ)

遠野の屋敷から随分離れた場所に、争いの音が聞こえていた
いや、それだけではなく・・・

「このっ、あーぱー吸血鬼!!
これ以上、遠野君に近づかせません!!」

「何よ、このでか尻!!
あなたこそ、志貴に近づかないでよ!!」

「きーーーー!!
そんな事を言うのはこの口ですか!!?」

「あらー、図星だった様ね。
少しはダイエットした方がいいんじゃない?」

「そのセリフ、そっちに返します!!」

今まで以上に暴れる人外兵器達・・・
よっぽど、怒っていたのだろう

結局、この争いは朝方まで続いた・・・

蒼香の冗談で言った『修羅場』は案外近いうちに来るかもしれない・・・

 

続く



 

あとがき

どうも、おひさしぶりです。
siroです。
やっと続きが出せました。
随分長くなってすみません。
今度こそ早く出します。
後、1話ご付き合いください。
では次回で・・・



 ☆ コメント ☆ 綾香 :「し、志貴さんって……」(^ ^; セリオ:「さりげな〜く女性を口説いてますよね」(;^_^A 綾香 :「しかも、本人にその気がないから尚更タチが悪いわ」(^ ^; セリオ:「まったくですね」(;^_^A 綾香 :「その所為で、ついに蒼香さんまで……」(^ ^; セリオ:「最終的には、いったい何人の女性を陥落させてしまうのでしょう」(;^_^A 綾香 :「さあ? 想像もできないわ」(^ ^; セリオ:「ところで、志貴さんは最後には誰を選ぶつもりなのでしょうね」 綾香 :「うーん。誰だろ?      タイトルからすると秋葉さんっぽいけど」 セリオ:「わたしは……レンさんが有利に思えるのですが」(^^) 綾香 :「レンちゃん?」 セリオ:「はい。意外と美味しいポジションにいるみたいですから」(^^) 綾香 :「……そう言われれば」(^ ^; セリオ:「何気に……有彦さんを選んだ、なんてオチだったら凄いですけどね。      意表突かれまくりで」(−o−) 綾香 :「それは……確かに凄いけどさぁ」(−−; セリオ:「そんなことはないと分かってはいるのですが……ちょっとだけドキドキ」(^^) 綾香 :「…………」(−−;





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